ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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甲種計画  一人よりも二人、二人よりも三人、三人よりもたくさんが良く

――――――現状、私が抱えている世界の命運を左右する重大任務はいくつもある。

 

その第一を“甲種計画”と題し、それはなんてことはない、私が肉体を譲り受けた“斎藤 展望”がやり残したことである()()()()()()()()()()()()()()()()()()を果たすことである。

 

つまり、ヒトとウマ娘が共生する異世界に生を受けた一人の人間として真っ当な人生を送ることであり、まずは一人の社会人として自立することが何よりも優先である。

 

一人の社会人としての生き方を確立することで人生の基礎が出来上がるわけであり、生業を疎かにして非合法なやり方で生きるのは“斎藤 展望”や遺されたその家族や友人知人に対して申し訳ない。

 

それがトレセン学園に配属されてすぐに悪名を残して 学外でウマ娘に撥ねられて この肉体からいなくなってしまった“斎藤 展望”に対する供養だと思ってやっていることである。

 

そこから23世紀の宇宙船エンジニアの私自身の夢である『宇宙船を創って星の海を渡る』というロマンに生きることが許されるわけであり、

 

もちろん、私自身は 異世界の固有文化として関心を持つだけで そこまでウマ娘レースに魅力を感じているわけではないので、“皇帝”陛下の勅命を果たしたら本格的に宇宙開発の道に進むつもりだ。

 

ただ、私は宇宙移民として未知なるものを求めて宇宙を流離う人生を選んだわけであり、ヒトとウマ娘が共生する惑星の神秘を探る上でも この異世界の象徴とも言える トレセン学園のトレーナーになれたことは幸いであった。

 

だからこそ、数々の厄介事に巻き込まれながらも『剣と惑星もの(Sword and Planet)』の冒険の日々を送れていることに心が踊っており、半ば進んで厄介事を引き受けているところもあった。

 

 

――――――数々の命の危険や恐怖でさえも やがては高揚感に変えられる 私は根っからの冒険者であったのだ。

 

 

さて、国民的スポーツ・エンターテインメントの夢の舞台である日本ウマ娘トレーニングセンター学園(中央トレセン学園)の所属トレーナーとしての基本方針は単純明快である。

 

担当ウマ娘:アグネスタキオン(高等部1年生)の在学理由である『トゥインクル・シリーズ』でウマ娘の可能性の“果て”を実現させることである。

 

具体的には“覇王”テイエムオペラオーや“皇帝”シンボリルドルフを超え、“異次元の逃亡者”サイレンススズカを超越する大記録の達成である。

 

当然、“ただの三冠バ”ナリタブライアンや“無念の二冠バ”トウカイテイオーではなく、“無敗の三冠バ”ミホノブルボンを超える存在になることである。

 

私はその過程で得られる賞金を宇宙開発の準備資金として山分けしながら、それ以上にアグネスタキオンの担当トレーナーやトレセン学園のトレーナーであることで得られるコネを最大の報酬として受け取る契約を結んでいた。

 

しかし、無名の新人トレーナーである“斎藤 展望”は本質的には“門外漢”であるので、ウマ娘レースに懸ける熱意がそもそもなく、トレーナーとしての手腕には到底期待できない。

 

そして、現在もトレセン学園のトレーナーの籍を置き続けているものの、トレーナー業なんてやっている場合じゃないぐらいに厄介事の数々を抱えているため、トレーナーとしてまともな指導なんてできそうにない。

 

そうなのだ。いくら私にも目覚めて半年ばかりの名門トレーナー:桐生院 葵のサブトレーナーとしての経験とノウハウがあるにしても所詮は素人の付け焼き刃であり、

 

本来の“斎藤 展望”本人の記憶が完全に抜け落ちているので、このトレーナーバッジを身に着けるに相応しい基礎知識が欠落しているのだからどうしようもない。

 

なので、去年の真のトウカイテイオーの復活劇である『有馬記念』の時に、担当ウマ娘:アグネスタキオンと契約する際につけた条件があるのだ。

 

 

――――――レース全般に関してはトウカイテイオーの岡田Tの指導を受けてもらう。

 

 

そう、去年の私にはトレーナーをやっている以上に世界の命運を左右するWUMA討伐作戦が後に控えていたこともあり、万が一に私が帰らぬ人になった場合には岡田Tに全てを託すことを告げていた。

 

つまり、私は名ばかりの担当トレーナー;言うなれば馬主(Owner)で、岡田Tが私が雇われた調教師(Trainer)という関係性になったわけなのだ。

 

そして、去年のWUMA討伐作戦の成功によってWUMAの先遣隊の本拠地である奥多摩の川苔山の百尋ノ滝の地下の秘密基地をそっくりいただいたことにより、

 

岡田Tの記憶とスーペリアクラス:アグネスタキオン’(スターディオン)の協力で日本各地の競バ場を再現した私の担当ウマ娘だけが使える練習場を獲得するに至った。

 

更に、瞬間物質移送器でトレセン学園と百尋ノ滝の秘密基地を結んだことで、休日のほとんどをアグネスタキオンは秘密の練習場と研究所で過ごすことになっていた。

 

そう、私の担当ウマ娘:アグネスタキオンは世界中の誰もが羨むような誰にも邪魔されない唯一無二のトレーニング環境を与えられることになり、具体的な戦略や戦術に関しては歴戦の猛者である岡田Tの指導を受けられるのだ。

 

なので、アグネスタキオン自身が4年にも渡って退学処分が下されるギリギリまで待つことを選択したことで得られた肉体改造強壮剤によって仕上がった肉体も相まって普通に考えたら負けようがない陣容が整っていた。

 

肉体改造強壮剤によって意図的に“本格化”を遅らせた上でデビュー前で全盛期のトウカイテイオーに一歩及ばない程度の破格の身体能力を得ているのだから、

 

これだけ時間いっぱいいっぱいに力を蓄えてからデビューする以上はそんな私の担当ウマ娘と同世代になってしまったウマ娘がかわいそうになるぐらい実力差は圧倒的である。

 

しかし、実際にはそれだけの能力差があると、かつてのマルゼンスキーのように他のウマ娘たちが次々と勝てない勝負を出走回避して興行が成り立たなくなることでURAから圧力を受ける可能性もあるらしく、単なる力押しは絶対に許されないのが公営競技であるとも岡田Tから教わった。

 

つまり、新人トレーナー以下の指導力しか持たない私がああだこうだ言えることは何もないのだから、あとは未出走バが持ち合わせない実戦経験から勝負所がわかっているベテラントレーナーの作戦指揮だけだった。

 

そのため、私と担当ウマ娘の関係はトレセン学園ではよく言われている二人三脚ではなく、宇宙移民である私のやり方である徹底的なチームプレイ(one for all, all for one)であり、

 

主役である担当ウマ娘:アグネスタキオンの要求を ベテラントレーナーである岡田Tが調整して その上で必要になるものを用意するのがチームマネージャーとなる私の役目というわけである。

 

すでに競走ウマ娘としての能力がデビュー前から完成されているアグネスタキオンに基礎トレーニングについて口出しするのは釈迦に説法というものなので、

 

私の権限と責任において担当ウマ娘の好きなようにやらせており、私と担当ウマ娘では足りないものを用意させた1つの結果が調教師(Trainer)の岡田Tなのだ。

 

そして、岡田Tも自分の担当ウマ娘ではないために過度に入れ込むことはしないので、自分のペースを大事にするアグネスタキオンにとっても不快にならない距離感で指導を受けることができていた。

 

授業免除を受けて平日は時間を持て余しているアグネスタキオンはその岡田Tのトレーナー室だった場所で執務をする私とずっといるわけであり、私と担当ウマ娘の距離感が遠ざかることは決してない。

 

そうして明らかとなるのが、さすがは3度の復活を遂げた“帝王”トウカイテイオーの担当トレーナーの指導力と勝負師の業であり、本当はトウカイテイオーの後に続く多くのウマ娘の育成に役立ててもらいたかったのだが――――――。

 

しかし、私は本来の競馬がどういったものなのかをまったく知らない23世紀の宇宙移民なので偉そうなことを言えないのかもしれないが、

 

岡田Tのように自分の夢となる担当ウマ娘に入れ込んでしまった熱意と才能あるトレーナーがどれだけ自分の夢と一緒に玉砕してトレセン学園を失意のうちに去っているのかを考えると、

 

そういった非情な勝負の世界を容認しておきながら慢性的なトレーナー不足にトレセン学園が喘ぐ現状なんてのはまったくの自業自得で非常に馬鹿らしく思っているのも事実だった。

 

 

つまり、私がこうして馬主(Owner)となって岡田Tを調教師(Trainer)として雇って、担当トレーナーと担当ウマ娘の1対1の二人三脚ではなく 多人数の陣営として参戦しようとしているのも ウマ娘レースの悪しき現状への対抗策としての一面もあったのだ。

 

 

夢と一緒に潰された才能と熱意を蘇らせて夢破れたトレーナーを再利用する機構を用意するというのが私なりの回答であり、

 

いずれは財団法人を立ち上げて夢の舞台から去ってしまったトレーナーたちにその才能と熱意に見合った仕事を斡旋する救済事業を展開するつもりである。

 

もちろん、それは私の夢である『宇宙船を創って星の海を渡る』ために必要な人材を集めるための口実でもあり、国民的スポーツ・エンターテインメントであるウマ娘レースの関係者のコネと知名度を利用するためのものでもあった。

 

 

――――――そもそも、私は『二人三脚』という言葉はあまり好きではない。

 

 

たしかに、『ひとりよりもふたりが良い。共に労苦すれば、その報いは良い』というのが聖書にあるのだから、一人で生きるよりもは二人で生きる方がいいのだ。

 

実際、バディシステムやダブルチェックのように見回りや点検においてはヒューマンエラー防止のために必ず2人(four eyes)以上で確認をするようのが常識になっているし、一人では分担作業ができない面から見ても2人の方が何をするにしても有用なのだ。

 

しかし、それならば一人よりも二人、二人よりも三人、三人よりもたくさんの人がいた方が単純に考えて良いことになるのではないだろうか。

 

その一般法則を無視した呪いの言葉に21世紀の人間が踊らされているのが、23世紀の宇宙移民としては非常に嘆かわしい。

 

そのふたりの関係を絶対のものだと勘違いさせる呪いこそが21世紀で罷り通っている結婚の誓いの言葉であり、

 

私自身が冠婚葬祭の一切を執り行える祭司長だから、たまたまホテルのチャペルでインフルエンザで来れなくなった結婚式の神父の代役を急遽やることになったのだが――――――、

 

 

神父「新郎□□、あなたは○○を妻とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 

神父「新婦○○、あなたは□□を夫とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 

 

と新郎新婦に結婚式の誓いを促す立場になったのだが、これがそもそもの大間違いで、あまりにも結婚に対する価値観のちがいと浅はかさが如実に現れていたことに内心では憤激していた。

 

常識的に考えて病める時に頼るのは医者だし、ふたりの愛の結晶である赤ん坊が生まれる時には助産師に頼らざるを得ないのだから、なぜ不特定多数の人々が同じ地域で暮らしている()()()()()であることに言及しないのだろうか。

 

これはあれか。新郎新婦のふたりだけの世界に最高に浸れる瞬間こそが結婚式であるのだから、その趣旨に従ってふたりだけの世界を最高に盛り上げる催しをお代をもらってやっているからには客商売として相応の饗しをするということか。

 

あるいは、()()()()()であることに反する行いをした不義のふたりの駆け落ち婚も配慮して当たり障りのないものを追究していくうちに ふたりだけの世界を強調したものしか言えなくなってしまっているのか。

 

だとするなら、こんな社会の現実と多様性から掛け離れた結婚の誓いに浮かれて『はい』と答えてしまう21世紀の新郎新婦の軽率さには呆れて物が言えなくなってしまう。

 

そう考えてしまうのは、私が宇宙船のクルーとして人口調整や婚姻統制を当たり前のものと受け容れ、いくつもの仮想世界で立場や身分を変えて結婚生活を送ることができているからなのだろうか。私自身は祭司長として見送る立場に徹したために未婚を貫いていたが。

 

しかし、ふたりだけの世界に浸れるのはその瞬間だけで、ふたりが愛し合った結果としてこの世に生まれ落ちる我が子に関する視点が抜け落ちている辺り、結婚の意義を見忘れた空虚な誓いの言葉にしか思えないのだ。

 

 

――――――結婚の意義は 一言で言うなら “親になる覚悟を決める”ことである。

 

 

決してふたりの性的関係を公然のものにするだけじゃなく、その先にある子の誕生と親権に関わることだからこそ、親としての視点を結婚の誓いに盛り込むべきなのだ。

 

それは生物として当たり前の種族保存本能を満たすための社会的様式であり、そのために未婚の男女が若気の至りで孕んだ場合には授かり婚を道義的責任のために結ばされる社会的制裁のことを考えても、

 

いずれ生まれくるふたりの子供の存在を抜きにした結婚の誓いは間違っているし、ふたりだけの世界で暮らしていけるだなんて妄想を掻き立てるのは自分たちの社会性の首を絞める行為に思えるのだ。

 

そもそも、子育てなんてものは女手一つでできると信じている人間が21世紀にはこんなにもいることが驚きであり、これこそ自分たちの先祖がサルだったことを完全に忘れた社会的生物の成れの果てだ。そういう意味ではWUMAと同じだな。

 

 

――――――子育てなんか一人でできるわけがないだろうに。そこがよくある結婚の誓いの言葉の欺瞞の最たるものだ。

 

 

生まれてきた赤ん坊は真夜中だろうが理由もなく理不尽に泣き喚いて母親を寝不足に追いやる元凶に早変わりするのだから、赤ん坊の相手を最初から最後まで1対1でこなせる母親がいたら正真正銘の超人に他ならない。

 

昔から子供一人育てるのに地域付き合いで代わる代わるに面倒を見てきた重労働なのだから、子供は地域で育てるものだという古来からの智慧が失われた結果が21世紀の()()()()()()()になっているわけなのだ。

 

それだから、本来の結婚の意義を忘れ たくさんの人の手を借りて自分が育てられてきた恩を忘れて 2人だけの世界に浸って 不幸な子供をひたすら生み出しているような今の21世紀の結婚観が嫌いだ。

 

そう言えば、私は23世紀の人間ではあるため、100年前の22世紀のことまではかなり知っていて、200年前の21世紀のことはそこまで知らなかったのだが、

 

22世紀では子守の機械化・自動化によって量産品のように我が子が育てられるのが当然という風潮をモラルハザードとして紛糾した頃があるそうなのだ。

 

限られた空間の中で長い時間を過ごすことになって人口調整や婚姻統制が当たり前の23世紀の宇宙移民の私としては何がそんなに問題なのかがさっぱり理解できなかったが、

 

少なくとも、子守が()()()()()()()()()()()()()()()()という正しい認識が行き渡った結果、真夜中に子供が泣き喚いても大丈夫なように年中無休で対応できるロボットのベビーシッターに子守を一任するようになるのも当然ではないか。

 

個人の充足や労働の対価を第一に考えるワークアンドライフバランスが普通にもなれば、愛するふたりの間に生まれることになる赤ん坊でさえも穀潰しの不良債権になる他人だと即物的に考えるようになるのだから、子守の機械化・自動化なんて当然の成り行きだ。自分こそが幸せであればいいのだから。

 

そして、保育園は完璧に機械化・自動化された子守・子育て代行機関となり、子供が自我を持つまではたまに親が顔を見に来る程度で、義務教育が終わるまでずっと保育園に預けっぱなしにすることもあったのだとか。

 

そういった 今から100年後となり 私からすれば100年前になる ひとでなしの極みとなる時代を知っているからこそ、そんな時代につながる21世紀の価値観に嫌悪感を抱かざるを得ないのだ。

 

23世紀の結婚の誓いの言葉はふたりだけの世界を強調した浅ましいものじゃないだけに、良き父や良き母となり、良き子を育て、家庭円満・子孫繁栄・社会発展のために不断の努力を誓わせないことが本当にありえなかった。

 

 

――――――だから、同じことなんだ。ウマ娘レースにおける1対1の担当トレーナーと担当ウマ娘の関係性も。

 

 

カネが絡む公営競技である以上は厳しい目でトレーナーやウマ娘を見る人間が出てくるのは当然のことだし、これがヒトとは異なる異種族の風習である以上は多文化主義に則って声を大にして言うことはないけれども、

 

子供の才能をカネ儲けの道具にしている ろくでなし共に支えられている勝負の世界はどれだけ華やかに着飾っていようと意地汚さが底に溜まった下水のような腐臭が漂い、やっぱり長居はしたくはないというのが正直なところである。

 

つまるところ、私は内心ではずっと怒っているわけだ。ウマ娘レース業界に関係するあらゆる全てに対して。

 

具体的には何に怒っているのかと言えば、去年の『有馬記念』での奇跡の逆転劇で再び国民的アイドルとしての人気を取り戻したトウカイテイオーではあったのが、実はその担当トレーナーである岡田Tに対する労いや謝罪の言葉が何もなかったことに私は怒りを覚えたのだ。

 

 

誰のおかげでトウカイテイオーが去年の『有馬記念』で三度目の復活を果たせたのだと思っているのだろうか――――――。

 

それはお前たちが自殺未遂に追い込むほどに無能だと貶めた岡田Tの存在あってのトウカイテイオーだということになぜ思い至れないのか――――――。

 

私が代理人になって岡田Tの名誉回復のために週刊誌やゴシップ誌、匿名サイトの誹謗中傷を行ったコメント投稿者たちを一人残らず訴えて慰謝料請求するつもりでいたのを取り下げてくれたのは他ならぬ岡田T――――――。

 

 

どう考えても担当トレーナーと担当ウマ娘に対する当たりの強さがアンバランスなのだ。それも、担当ウマ娘の輝きの陰に担当トレーナーが埋もれてしまう――――――。

 

もちろん、トレーナーは成年であり、ウマ娘は未成年であるという決定的な違いがあるにしても、世間はあまりにも担当トレーナーの存在を蔑ろにしすぎているような気がする。

 

言うなれば、夢の舞台に挑む上でのウマ娘の半身にもなる存在に対する誹謗中傷や侮辱がそのまま応援しているウマ娘の名誉を傷つけていることに気づかないのだろうか。

 

それが巡り巡って、中央トレセン学園に所属する情熱と才能のあるトレーナーが真っ先に夢と一緒に潰されて夢の舞台から人知れず去っていき、慢性的なトレーナー不足に学園が悩まされる原因の1つになっていることがわからないのだろうか。

 

そうしてトレーナー不足によって入学できてもスカウトが受けられずデビューできないでいるウマ娘が年々増加しているのだから、圧倒的に不足しているトレーナーの保護を率先して行わないURA上層部や学園理事会は無能の集まりなのか。

 

トレセン学園に入学できてもトレーナー不足のせいで実力はあってもスカウトされないのに無為にバカ高い学費を払い続けるだけの日々を送らされている大多数の生徒がいるのは立派な詐欺ではないのか。

 

 

なので、ウマ娘レース業界はそう遠くないうちに衰退が待ち受ける砂上の楼閣のように思えていた。

 

 

ウマ娘レース業界で幅を利かせるトレーナーの『名門』も、ウマ娘の『名家』も、URA上層部の人間が多く在籍する理事会も、業界の衰退を座して喚き散らすだけの雛壇芸人のようなものだな。

 

もっとも、私は宇宙移民としてのポリシーである地球圏統一国家が樹立していない未開惑星に対する過度な干渉を避ける建前でもって、ウマ娘レース業界への改革の旗手になるつもりは毛頭ない。

 

そもそも、中高一貫校の6年間だけの小さな世界の話と『宇宙船を創って星の海を渡る』という私の夢の壮大さと比べたら、どっちが人類全体にとっての優先事項であるかどうかは自ずとわかることである。

 

すでに数々の新発明の特許と売上から某重工から開発室を代理を立てて用意してもらい、トレセン学園に寄付金を用意できるほどの収入と投資をもらえているので、かつて“斎藤 展望”がトレセン学園のトレーナーを目指した理由であるカネには困っていないのだ。

 

それでも、トレセン学園のトレーナーで居続けているのも、最愛の妹の学資金を集めるためだけにトレーナーになった“斎藤 展望”の最低限の名誉のためであり、ある程度の実績を残しておかないと無能トレーナーのレッテルが生涯ついてまわることになる。

 

だが、決してトレセン学園での日々は 全てが全て 23世紀の宇宙移民である私の利にならないことばかりではない。

 

バカ高い学費の原因にもなっている最新のトレーニング施設への設備更新や削れない人件費のために、私がもたらす23世紀の宇宙科学のちょっとした応用である新発明や新製品の導入にはうってつけの環境でもあったのだ。

 

結果としては、私の担当ウマ娘がそうであったように、宇宙船エンジニアの私が夢を叶えるのに最適な環境が整っているわけでもあり、私自身の未知なる世界への知的好奇心と自分の夢を叶えるコネ作りにも使えた。

 

そして、目下最大の理由は“皇帝”シンボリルドルフの悲願と担当ウマ娘:アグネスタキオンの夢を叶えるためである。

 

 


 

 

――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室

 

ジャー、ジャー、ジャー・・・

 

斎藤T「――――――というわけなのです」

 

岡田T「なるほど。アグネスタキオンのメイクデビューをシンボリ家が支援する代わりに、次代のシンボリ家のウマ娘であるソラシンボリの体裁を保つ必要があるわけですか……」

 

岡田T「では、私はそのソラシンボリのトレーニングも担当すればいいのでしょうか?」

 

斎藤T「うん? したいんですか?」

 

岡田T「え? ちがうんですか?」

 

斎藤T「……?」

 

岡田T「……?」

 

斎藤T「ええと、つまり、この契約書を見ればわかるとおり、『ソラシンボリをアグネスタキオンと同世代にしたくない』というシンボリ家の要求が書いてあります」

 

岡田T「はい」

 

斎藤T「そして、『ソラシンボリに変な虫がつかないように私が 1年間 守らなくてはならない』ということが書かれています。裏返せば、私のことを監視したいわけですね」

 

岡田T「はい」

 

斎藤T「だから、別に岡田Tが来年以降にアグネスタキオンのトレーニング指導しながら ソラシンボリのメイクデビューをやりたいのなら 止めはしませんよ?」

 

岡田T「え? それはつまり、チームメンバーとしてスカウトするわけじゃないんですか?」

 

斎藤T「――――――『チーム』? チーム<シリウス>やチーム<アルフェッカ>のような?」

 

岡田T「????」

 

斎藤T「????」

 

斎藤T「……待ってください」

 

岡田T「いや、そちらこそ、待ってください」

 

岡田T「斎藤Tとしてはそのソラシンボリの関係をどういう形にしておきたいんですか?」

 

岡田T「大丈夫です。この身は斎藤Tに救われた命、ソラシンボリのトレーニングだって引き受けますよ」

 

斎藤T「そういうことじゃないんです」

 

斎藤T「たしかに、ソラシンボリという走る以外にも様々な才能を秘めているウマ娘をプロデュースしたいと私は思ってはいますが、一番に優先されるべきは私の担当ウマ娘ですから」

 

斎藤T「チームメンバーとしてスカウトするのも考えましたけど、それだとソラシンボリに 1年間 走る以外に好きなことをやらせて学園生活を送ってもらうことができません」

 

岡田T「…………?」

 

岡田T「え? それって、どういう――――――?」

 

岡田T「トレーナーとウマ娘の関係って――――――?」

 

斎藤T「いいですか? たしかに、私も岡田Tもトレーナーで、ソラシンボリは競走ウマ娘ですけど、それ以前に体裁上は中高一貫校の学生として入学してくるんですよ」

 

 

斎藤T「つまり、ソラシンボリに対しては 選手としてではなく 学生として接するつもりなんです」

 

 

岡田T「あ、ああ……?」

 

斎藤T「わかったような、わからないような感じですね。まあ、トレーナーの存在意義は競走ウマ娘をスカウトしてウマ娘レースで勝たせる以外にないですから、そうもなるでしょうけど」

 

斎藤T「これを見てください」ピッ

 

岡田T「これは――――――」

 

岡田T「ウイニングライブ部、社交部、電算部、料理部、吹奏楽部、放送部、化学部――――――」ジー

 

岡田T「これはトレセン学園のクラブの一覧ですか?」

 

岡田T「ハッ」

 

岡田T「つまり――――――!」

 

斎藤T「そういうことです」

 

 

シンボリルドルフ「……うん? これは我が校のクラブ活動の来年度の予算案の内部資料ではないか?」サッパリ ――――――ユニットシャワールームのモニターに協力!

 

 

岡田T「あ、おつかれさまです」

 

シンボリルドルフ「ああ、おつかれさま、岡田T」

 

斎藤T「どうぞ、梅昆布茶です」コトッ

 

シンボリルドルフ「ありがとう、斎藤T」

 

シンボリルドルフ「なあ、斎藤T。私も初めての『URAファイナルズ』と並行しながらの来年度の予算案のことで新生徒会に相談役として顔を出していたからわかるが、情報を盗むのは感心しないぞ」

 

斎藤T「そうは言いますけど、こうならざるを得なかったのはご実家のシンボリ家との密約のためですよ」

 

シンボリルドルフ「……つまり、斎藤Tはソラシンボリの専属トレーナーになる気はないということか?」

 

斎藤T「残念ながら、私がこのバッジを得るために会得したトレーナーの専門知識は昏睡状態の微睡みの中で溶けてなくなった上に、今の私の興味はターフの上ではなくお空の上ですから」

 

シンボリルドルフ「……そうか。自身の力量を弁えた上での判断ならば無理をさせるわけにはいかないな」

 

斎藤T「あ、競走ウマ娘としては指導できませんけど、私の夢を叶える同志としてならソラシンボリを迎え入れる準備はありますけどね」

 

シンボリルドルフ「だから、斎藤Tが顧問となるクラブ活動にソラシンボリを入れようとするわけか」

 

岡田T「そういうことなら、たしかにウマ娘レースに関してはアグネスタキオンにだけ集中できますね」

 

シンボリルドルフ「いや、待った。クラブ活動の創部には5人以上の本校生徒と顧問となる教員(Teacher)教官(Instructor)が必要で、厳密にはトレセン学園の部外者であるトレーナーでは創部できないぞ」

 

岡田T「ええ!?」

 

シンボリルドルフ「その代わりにトレーナーは自分がスカウトした生徒をチームに組み込むことができるわけで、そこが教官(Instructor)とのちがいというわけだな」

 

シンボリルドルフ「もちろん、チームの予算はトレーナー組合が持ち、クラブの予算はトレセン学園が持つようになっている」

 

シンボリルドルフ「ただ、この予算案を見ればわかるとおり、基本的にクラブの予算は生徒たちの学費の大半の使途である最新鋭のトレーニング器具への設備更新費と比べれば微々たるものであるし、」

 

シンボリルドルフ「予算の限度額はクラブに所属する人数に比例することになっているんだ。そこにクラブの重要度と査定結果でランク分けした係数の倍率によって機械的に予算が割り振られている」

 

岡田T「じゃあ、新設のクラブにそこまでの予算が割り振られることはないってことですか」

 

シンボリルドルフ「逆に言えば、頭数を増やせば最低限の予算は倍増していくし、その有用性を示すことができればランクを上昇させて予算の上昇も狙えるわけだが……」

 

シンボリルドルフ「まず、斎藤T。顧問になってくれる先生の当てはあるのか?」

 

斎藤T「ですから、元生徒会長に紹介してもらいたいと思っているのですよ」

 

岡田T「!!」

 

シンボリルドルフ「……そうするのは吝かではないが、まずどういったクラブを創部しようとしているのかを創部届けに書いてくれないか」

 

シンボリルドルフ「そうしたら私が添削した上で、クラブの趣旨に沿った顧問・部員・部室を可能な限り紹介しようと思う」

 

斎藤T「では、プレゼン資料はここにありますので、ご覧になってください」

 

シンボリルドルフ「なに、もうまとめてあるのか?」

 

岡田T「相変わらず すごいですね、斎藤T」

 

斎藤T「いえ、“皇帝”陛下も絶賛なさっている、そこのユニットシャワールームのようなものに広く触れてもらえる機会を提供したいと以前から思っておりましてね」

 

斎藤T「それが常に最新設備への更新を迫られているトレセン学園の需要に噛み合っていると思って、次世代技術の博覧会(EXPO)の常設展示場があると便利だと思って、それがクラブ活動として根を張ってもらいたいと思います」

 

斎藤T「そうしたら、削るに削れない人件費や更新費用に維持費の代わりに生徒たちがベストコンディションを保つために必要な生活費を抑えるための最新設備の導入がしやすくなると思いましてね」

 

シンボリルドルフ「なるほど! それは本当にありがたい申し出だ! ありがとう、斎藤T!」

 

斎藤T「もちろん、私としては私のところの新製品のモニターを広く集めるための口実ですから、こちらとしても旨味があるわけですよ」

 

斎藤T「ですので、部活棟よりも利用しやすい場所に部室を構えることができたら嬉しいですね」

 

斎藤T「たとえば、このトレーナー室の周りの空き教室を全て使わせてもらうとかね」

 

シンボリルドルフ「……なるほど」

 

斎藤T「いえ、冗談です。ここは隠れた穴場として悩める人たちの憩いの場としたいので、興味本位で人が押しかけてくる騒々しい場所にはしたくないので、他の場所をお願いしますね」

 

斎藤T「ただ、私としてはそこまで部員の面倒を見るつもりはないです。本業はアグネスタキオンの担当トレーナーであるし、試験運用される新製品のデータ取りに徹したいですから」

 

斎藤T「部員に求めるのは 精々 簡単な保守点検やデータのまとめぐらいで、あとは最新設備の導入にあたっての現場の意見として積極的に理事会や生徒会に働きかけることぐらいでしょうか」

 

シンボリルドルフ「そして、その活動がトレセン学園の売りとなる最新鋭のハイテク設備の象徴となるように定着していくように持っていきたいわけなのだな」

 

斎藤T「そうです。私も長くトレセン学園にいるつもりはなく、『宇宙船を創って星の海を渡る』私自身の夢のために開発室での研究開発に邁進していきたいので、」

 

斎藤T「そういった伝統はトレセン学園に長く務めることになる教員たちにこそ受け継がれていって欲しいのです。ハイテクがトレセン学園の校風の1つであるならば」

 

岡田T「そのためにクラブ活動という媒体に目をつけたわけですか……」

 

岡田T「さすがだ、斎藤T。ただのトレーナーでしかない俺には全く思いつかなかった視点だ……」

 

岡田T「部活という枠組みを設けることでソラシンボリと無理のない接点を得ただけじゃなく、走る以外のソラシンボリの才能が開花される筋道を用意したってことなんですから」

 

岡田T「もう一石二鳥? いや、何鳥? 一挙何得?」

 

シンボリルドルフ「ああ! これはたしかに 今までにありそうでなかった 新しい時代に相応しいクラブ活動になるかもしれない!」

 

 

――――――では、斎藤T。この新しい時代の象徴となるクラブの名前を聞かせて欲しい。

 

 

これが私が出したシンボリルドルフの悲願とアグネスタキオンの夢を両立するために導き出した答えであった。

 

この度のシンボリ家との密約によってソラシンボリの監視と面倒がつくことは決断を後押しすることになった。

 

閃きはいつも突如としてフッと降りてくるものであり、何気なく思いついたそれの有効性を検証していくうちにこんな感じに非常にメリットの大きいアイデアが浮かび上がってくるわけなのだ。

 

実際、中高一貫校としてどうしても引退即退学という厳しい勝負の世界の現実を教育現場としてよろしくないとして緩和させるための卒業レース『URAファイナルズ』が恒例化した場合に起こるトレセン学園の人口爆発――――――、

 

中途退学者がいないことが普通なのに公営競技に直結した勝敗が全てのトレセン学園の非情さがなくなれば、重賞レースで入賞することも叶わない凡百のウマ娘がますます溢れ返ることになるため、

 

そんな主役になれないその他大勢になってしまうウマ娘たちの卒業後のセカンドキャリア支援のために、今こそトレセン学園におけるクラブ活動の価値を見直すべきではないかと企図したのだ。

 

また、私が23世紀の宇宙科学を広める売り場として最適なトレセン学園の需要に目をつけていたこともあり、私の発案となるクラブ活動はそうした最新技術の博覧会(EXPO)になるものにすれば、トレセン学園の将来にも大きく貢献すると閃いていた。

 

そのため、この提案に対して元生徒会長:シンボリルドルフはトレセン学園の生徒として最後の大仕事と意気込み、生徒会長職を退いてから消えかけていた覇気が再び漲ろうとしていた。

 

実際、自身を“ヒトとウマ娘の統合の象徴”として自分の人生をトレセン学園の黄金期に全てを捧げてきたために、その大任を見事に成し遂げてトレセン学園を卒業するともなれば、達成感以上に人生の柱となったものの喪失感が大きかったぐらいなのだ。

 

なので、2月のトレセン学園が一番忙しい時期に新しいクラブの立ち上げに“皇帝”シンボリルドルフを巻き込んだことは『自分によし、相手によし、世間によし』の三方良しの精神に適っているのだ。

 

 

 

――――――百尋ノ滝の秘密基地

 

岡田T「見てください! これで全てのURAの競バ場の再現が可能となりました!」

 

アグネスタキオン’「まあ、私が現地に行ってステルス迷彩で上空からキャプチャーしてきたのだけどね」

 

斎藤T「おお、これで練習場としては完璧になったわけか」

 

岡田T「はい。ただ走るだけなら、これだけでいいです」

 

岡田T「ですが、実際のレースはちがいます。優勝候補ともなればマークが厳しくなり、集団でブロックされる危険性もありますし、バ場の荒れ方によっても走路の選択が決まってきます」

 

岡田T「それを嫌って、全てのレースを圧倒的な能力差で【逃げ】を選択することも可能ではありますが、そうなると各陣営が勝てない勝負と判断して揃って出走回避となり、公営競技(ギャンブル)が成立しなくなるのです」

 

アグネスタキオン’「まあ、そこが近代ウマ娘レースと近代オリンピックの最大のちがいだろうね」

 

アグネスタキオン’「近代オリンピックならばベストを尽くした上で互いの健闘を称えるものだけど、近代ウマ娘レースは勝って賞金(ファイトマネー)を得るのが本質のプロフェッショナルスポーツだから」

 

アグネスタキオン’「そんなわけで、近代ウマ娘レースは現代に蘇った剣闘士(グラディエーター)の興行と揶揄されることもあるね」

 

 

岡田T「そこでアグネスタキオンには“変幻自在の脚質”で勝負させようと思います」

 

 

岡田T「まあ、これははっきり言って、俺の夢だったトウカイテイオーの全盛期に一歩届かない程度の能力をデビュー前から持っているアグネスタキオンだからこそできる力業でもありますけどね」

 

斎藤T「全バ場・全距離に対応した天下無双のウマ娘にヒントを得たものでしたね」

 

岡田T「ええ。驚異の天才が世に送り出した最強のウマ娘:ミホノブルボンがアグネスタキオンという最高のウマ娘を育成していくための大きなヒントになりました」

 

 

――――――全バ場・全距離に対応した最強のウマ娘:ミホノブルボンに対する、全距離・全脚質に対応した最高のウマ娘:アグネスタキオンのメイクデビューです!

 

 

岡田T「そのために必要となるトレーニング内容をここにまとめてきましたが、こういったトレーニングは実現できそうですか?」

 

斎藤T「……なるほど、バ場の再現ができた次はより実戦に近づけるためにMOB(Mobile OBject)が必要になるわけか」

 

斎藤T「アグネスタキオン’(スターディオン)、競走ウマ娘を模した敵部隊(adversary)を用意できるか?」

 

アグネスタキオン’「できなくはないんじゃないかな」

 

アグネスタキオン’「たとえば、より本番に近づけるのなら、すぐに思いついたのはホログラム投影だね。それなら きみでも簡単にできるだろう」

 

斎藤T「そうだな。観客席の臨場感を再現するところから始めて、過去のウマ娘レースを再現したホログラムをバ場に投影するだけでも大いに参考になるはずだ」

 

アグネスタキオン’「そこから個々の競走ウマ娘の動きや思考を再現したシミュレーターを創るのは地道な作業になるだろうね」

 

斎藤T「そうだな。これは過去問を集めて期末試験の予想問題をAIに自動生成させるのよりも遥かに難しいナマの問題だ」

 

斎藤T「じゃあ、こうしましょう、岡田T」

 

斎藤T「まず、私がビデオ映像からバーチャル再現したホログラムをバ場に投影する機能を実装するから、研究対象や目標にする敵部隊(adversary)のビデオ映像を集めてきてください」

 

岡田T「わかりました! それならすぐにでもリストアップできます!」

 

アグネスタキオン’「まあ、ビデオ映像をバーチャル再現したホログラム投影なんて、この2月中には完成するさ」

 

斎藤T「それを可能にするWUMAの超科学文明の遺産のおかげだがな、全て」

 

アグネスタキオン’「そして、その超科学文明の遺産を接収して運用できる頭脳のおかげでもあるさ」

 

斎藤T「まあね」

 

斎藤T「ともかく、トレーニングや戦略に関してはトウカイテイオーの岡田Tに全て丸投げして、身軽になれたのは非常に大きい」

 

斎藤T「しかも、例年2月はトレーナーが暇になる時期なのもあって、こうして岡田Tと連絡を密にしてメイクデビューの対策と戦略を確固たるものにできた」

 

斎藤T「普通に考えたら、全盛期のトウカイテイオーに準じる初期能力でメイクデビューする私の担当ウマ娘に勝てる者はいない」

 

アグネスタキオン’「けど、強すぎることがかえってウマ娘レースをつまらなくするわけでもあるから、その辺りの興行に関してはきみが何とかしないとだよ」

 

斎藤T「わかってる。自殺寸前まで追い込まれた岡田Tを人前に立たせるわけにもいかないし、そういった政治の駆け引きや経済の流れについては宇宙移民である私の得意分野でもある」

 

アグネスタキオン’「まあ、その“宇宙移民”という単語がどこまで万能なのかは未知数だけれど、ともかく来週・再来週はトレセン学園の入試期間だから、この間にやれるだけのことはやっておこう」

 

斎藤T「ああ」

 

 

去年、一人だけの最終決戦であったWUMAの先遣隊との人知れぬ死闘の末、様々な偶然から勝ちを拾い続けて、ついにやつらの本拠地:百尋ノ滝の秘密基地を制圧した後、

 

元々 WUMA(バケモノ)の一個体だったアグネスタキオン’(スターディオン)の助力もあって、私は私の担当ウマ娘:アグネスタキオンの夢を実現するために必要な投資を続けていた。

 

その第一が、百尋ノ滝の秘密基地の機能の最大の特徴である やつらが誇る空間跳躍技術のちょっとした応用である空間設計であり、それによって日本各地のURAの競バ場を再現することに成功していた。

 

実際に走る競バ場を再現した場所でトレーニングした方が実際のレースに限りなく近い条件になるのは当然なので、この時点で私設レース場でトレーニングを行っているエリートウマ娘と大差をつけることになる。

 

そもそも、アグネスタキオンは当初からトウカイテイオーやメジロマックイーンを超えた才能を持った競走ウマ娘なので、

 

入学してすぐにトレーナーにスカウトされて華々しくメイクデビューを果たす所謂“エリートウマ娘”の地位を捨てて退学ギリギリまで待ち続けて実を取ることができた()()()()()()()()()()に勝てるわけがない。

 

同じ冠名を持つウマ娘が集まってできた寄合所帯である『名家』の出身であるメジロマックイーンや、借金や奨学金なしで多額の寄付金を用意できるぐらいのパパとママがいる旧家の出身でもあるトウカイテイオーがやらなかったことをやり遂げた意志力と忍耐力はすでに他を卓越している。

 

 

だから、アグネスタキオンが十全に走ることができるのなら、必ず勝利するだろうことは疑いない。その前提を支えるのが担当トレーナーたる“斎藤 展望”の務めなのだ。

 

 

まだメイクデビューの時期に至らず、完璧な準備段階の甲種計画ではあるが、少なくとも進捗としては順調であった。

 

しかし、“皇帝”シンボリルドルフから始まったトレセン学園の黄金期の次となる時代の魁となる()()()()()()()()()で終わらせるつもりは毛頭なく、

 

どういった方向性で黄金期の次の時代が進むべきかのヒントを随所に織り込ませるつもりであり、世論先導者(オピニオンリーダー)として多数の後継者(フォロワー)を世に送り出したいところである。

 

そうでなければ、近代ウマ娘レースの伝統はそう遠くない未来に潰えてしまうことが予測され、実際に黄金期の大きな輝きに比例する巨大な影が反動勢力を生み出しているのだから。

 

 

ダッダッダッダッダ!

 

アグネスタキオン「トレーナーくん! がんばれ! あともう少し!」

 

斎藤T「――――――!」ゼエゼエ・・・

 

アグネスタキオン「さあ!」

 

斎藤T「ご、ゴール……」ゼエゼエ・・・

 

斎藤T「ああっ……」ドタッ

 

アグネスタキオン「トレーナーくん!」ギュッ

 

岡田T「斎藤T!」

 

斎藤T「――――――タイムは?」ゼエゼエ

 

アグネスタキオン’「……ふぅン。新記録だよ、モルモットくん」ピッ

 

アグネスタキオン’「世界記録更新だよ。斤量:20kg・中山競バ場・芝・2500m・男子の部」

 

斎藤T「そりゃそうだろうよ。競走ウマ娘専用の競バ場で長距離走をするヒトなんていないんだしさ……」ゼエゼエ

 

斎藤T「いやはや、競バ場というのは不貞なやつだ! 相変わらず『平地競走』の定義が乱れた場所だ! 高低差:芝・5.3メートルとかふざけんな……!」ゼエゼエ

 

アグネスタキオン’「でも、『せっかくだから』背嚢を背負って自分の脚で走ることにしたきみがやりだしたことなんだから、この調子で全ての競バ場の全てのコースを走り切るんだよ」クククッ

 

岡田T「鬼か!? コースの上をオフロードバイクで走ってコースの感覚を掴むだけで十分じゃないか、スターディオンさん!?」

 

アグネスタキオン’「まあまあ、『ササバリィンクル・シリーズ』に出走する笹針強化人間ごときに私のモルモットくんが負けることがあってはならないのだし、」

 

アグネスタキオン’「モルモットくんはウマ娘以上の脅威と戦い続けなくてはならないのだから、ここでしっかりと調整をしておかないとだよ」

 

アグネスタキオン’「いくら最強無敵の時間跳躍能力が使えるとは言っても、それは私が側にいてこそだし、モルモットくんにはむざむざと死んでもらいたくはない」

 

斎藤T「ああ!」グッ

 

アグネスタキオン「トレーナーくん……」

 

斎藤T「心配するな。これも曲がりなりにもお前の担当トレーナーとしての勉強だから」ハアハア・・・

 

斎藤T「だいたい、背嚢を背負った状態で中山・芝・2500mの高低差の激しいコースを走り切れたんだ。これもお前の研究の成果だよ」フゥ・・・

 

アグネスタキオン「そうだね」

 

斎藤T「そうだとも」

 

アグネスタキオン「そうだったね」フフッ

 

斎藤T「よし! しっかりとデータを取ってくれ! 常にベストコンディションでお前の求めるウマ娘の可能性の“果て”を阻む災禍厄難を退けてやる!」

 

アグネスタキオン「なら、整理運動として一緒に軽いジョギングをしよう。もう立てるだろう」スッ

 

斎藤T「ああ」パシッ

 

アグネスタキオン「じゃあ、しばらくしたら戻るから、食事の支度を済ませておいてくれよ、もうひとりの私」

 

アグネスタキオン’「ああ。気が済むまで走ってくるといい、()

 

 

タッタッタッタッタ・・・!

 

 

アグネスタキオン’「それじゃ、岡田T。食事を用意してくれたまえ」

 

岡田T「……まあ、いつもどおりのことだし、雇われの身だから文句を言うつもりはないけど、スターディオンさん?」

 

アグネスタキオン’「なんだい?」

 

岡田T「一緒に走ってくればいいじゃないか」

 

アグネスタキオン’「……ああ、そんなことかい。バカバカしい」

 

アグネスタキオン’「私はウマ娘:アグネスタキオンの姿を借りた怪人:ウマ女。バケモノ。しかも、その頂点たるスーペリアクラスなんだぞ。普通に走るだなんてバカバカしいことさ」

 

アグネスタキオン’「実際に見ているだろう。空間跳躍を使えば瞬きする間もなくゴール板を越えることなんてさ」

 

アグネスタキオン’「だから、私はハロン棒になって間近でハロンタイムを測定してきたんだ」

 

岡田T「それはそうだけど、スターディオンさんだって“もうひとりのアグネスタキオン”だろうに……」

 

アグネスタキオン’「それが許されるのは()が目指す“果て”を見届けてから――――――」

 

アグネスタキオン’「まあ、()()()()なんて いつもどおりのことさ、“私”にとっては」

 

アグネスタキオン’「岡田Tもテイオー以外のウマ娘の担当にならなくてすんでホッとしているのだろう。これ以上は野暮というものさ」

 

岡田T「………………」

 

アグネスタキオン’「さて、甲種計画と乙種計画を同時並行で進められる妙案が出たことだし、その両方に深く関わっているきみにも手伝ってもらうからな、存分に」

 

岡田T「それは望むところだ」

 

岡田T「俺の命は斎藤Tに拾い上げてもらったもの。他にもたくさんの人がそう思っていることだし、きっと――――――」

 

 

――――――ここは21世紀のヒトとウマ娘が共生する異なる進化と歴史を歩んだ地球。

 

 

その世界に迷い込んでしまった23世紀の宇宙移民として、地球圏統一政府が未成立の未開惑星の歴史と文化を最大限に尊重するために、私は吹けば飛ぶような絶えず揺れ動く人々の心を相手にしてウマ娘の異世界の安寧を求めるのである。

 

そのことを繰り返し確認し続け、甲種計画を第一にして、それを土台として金字塔を積み上げていくことを肝に銘じるのだ。

 

そして、その他にも私が“斎藤 展望”としてやらなければならないことは山ほどあるのだ。

 

甲種計画に関しては実際にレースに挑む私の担当ウマ娘:アグネスタキオンに一任して、その他のやらなければならないことについて対策と戦略を練っていく。

 

 

それでは、次は順を追って乙種計画について確認していこう。

 

 

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