ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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乙種計画  未だ来たらぬ世界に願いを込めて

 

――――――現状、私が抱えている世界の命運を左右する重大任務はいくつもある。

 

その第二を“乙種計画”と題し、それは23世紀の宇宙移民船の心臓たる波動エンジンの開発エンジニアだった私が21世紀の地球で『宇宙船を創って星の海を渡る』というロマンを叶える願いである。

 

乙種計画は甲種計画を主として従たるもので、まずは甲種計画を完遂して“斎藤 展望”を一人の社会人として確立させるところから始まるわけで、ロマンに全力で生きるには今は忍耐の時期であった。

 

しかし、実際には 一番の得意分野は生化学ではあるが 様々なアプローチで同じくウマ娘の究極“その果て”とやらを目指す担当ウマ娘:アグネスタキオンと利害が一致したことで、私からすれば200年前の地球圏統一国家が樹立していない未開惑星に宇宙科学をもたらして巨万の富を得るきっかけを掴むことができた。

 

 

まず、国民的スポーツ・エンターテインメントの夢の舞台である日本ウマ娘トレーニングセンター学園(中央トレセン学園)は世界最先端のトレーニング設備や環境を提供することで中央の格というものが保たれているわけだが、

 

当然ながら、最高級のものを追究して それを提供し 維持するためには莫大な資金が必要になるわけで、それを賄うために私立ということもあって入学金や授業料はバカ高いものとなっている。

 

そのため、生徒たちは入学前に基本的には以下の3つの層に分類されることになっている。

 


 

富裕層……奨学金なしで年間の学費を納めることができる生徒が該当。その上で多額の寄付金を納めることができるとワンランク上の扱いを受けることができるが、その分だけ恵まれた環境で育っている反動でプレッシャーに負けて大成しないことも珍しくない。

 

一般層……奨学金制度を利用しながら中央で学園生活を送っていける生徒が該当。重賞レースで賞金を学費の返済に充てられる実力派はともかく、大半は夢破れて学園の運営資金の養分となって搾り滓となって中途退学して去っていくのが普通であった。

 

貧困層……奨学金の他にもバイトをする必要があるぐらいに金銭に不自由している生徒が該当。重賞レースに出走できなくとも、高い学費を払ってでも天下の中央トレセン学園の卒業生になることに価値を置いて在籍しているため、割合的に意外と中途退学者が少ない傾向にある。

 


 

この中央トレセン学園の生徒の貧富の格差は建前上はレースの世界では実力が全てと嘯いて黙認されているところがあるが、

 

門外漢の私から言わせれば、『“実力が全て”じゃなくて“結果が全て”の間違いだろう』としか言えないぐらいに厳然たる格差社会があったのが実態だ。

 

それは思春期の一定段階になると体が急成長するウマ娘の神秘の1つである“本格化”を前提に、トレセン学園の学制と近代ウマ娘レースの階級が擦り合わされているわけであり、

 

URAをはじめとする運営側の言い分としては、この“本格化”によって大きく化ける可能性があるわけなので、建前上は貧富の格差はレースの結果に影響を及ぼさないとしているが、

 

いやいや、待て待て。そんな欺瞞に騙されるほど23世紀の宇宙移民である私は未開の地の野蛮人ではないぞ。

 

それぞれ個人差があるウマ娘の“本格化”のブレに合わせて中央トレセン学園が中高一貫校の学制を採っているのは理解できるが、それ以前に“本格化”を迎える前の入学試験の結果の意味をどう受け止めているのだろうか。

 

そう、なぜ地方ウマ娘レース『ローカル・シリーズ』よりも中央ウマ娘レース『トゥインクル・シリーズ』の方がランクが上だという扱いを受けているのかと言えば、端的に言えば、地方ウマ娘レースでは資金難であるから芝のコースにできないから。だから、日本の地方ウマ娘レースはダート、中央ウマ娘レースは芝と綺麗に色分けされているのだ。

 

それは当然ながら国民それぞれの家計にも同じことが言えるわけで、我が子を夢の舞台である中央トレセン学園に入学させられるほどの実力を幼少期から養成できるほどのノウハウや資金力がそもそもあるかどうかによって、その時点で篩い落とされていることに気づいていないはずがない。

 

そのため、ネットスラングで それを“親ガチャ”と言っているわけで、地方ウマ娘レースの奇跡であるオグリキャップのように中学時代に実力を示して中央に転入して栄光を掴める可能性が示されたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことの不公平さを教育現場の人間は噛み締めなければならない。

 

ウマ娘レースという公営競技(ギャンブル)のプロスポーツのためのスポーツ校だと理解されてはいても、同時に健全な青少年の育成を義務付けられている中高一貫校なのだから、これまで引退即退学が当然と見なされ、その大半の生徒が奨学金という名の借金返済の負担を軽くするために早々に夢の舞台に見切りをつけた結果だというのは、それが異世界の風習だとしても欠陥制度としか思えないものがある。

 

特に、レースで勝ちまくって得た賞金で学費を払うことでバラ色の学園生活を送れると楽観視してきた生徒たちからすれば、重賞レースで上位入賞できない現実を払いきれない学費という形でその認識の甘さを償う羽目となり、夢の舞台から去ることになるのだ。

 

だいたいにして、年間に開催される重賞レースは100程度なのを考えると、中央トレセン学園だけで生徒数2000名で、その他にも参加団体があるのだから、明らかに枠が足りていない。

 

なので、そもそもが公営競技という青少年の育成に不健全なものを運営の柱にしている時点で、トレセン学園が子供たちの夢や才能を食い物にして懐を潤しているようにも見えるため、力だけはヒトを凌駕しているだけのウマ娘がヒト社会に隷従している悲哀を垣間見ることになった。

 

しかし、近代ウマ娘レース自体がヨーロッパの宮廷で踊り子のウマ娘たちが主人から寵愛を得るためにセンターの座を競走で決めるために庭で走ったのが起源なのだから、その伝統の精神は何も変わっていないのかもしれない。

 

 

そういう意味で、私は近代ウマ娘レースの本質を表現の自由(フリーダム)ではなく、束縛からの自由(リバティー)なのだと嫌悪感を抱いていた。現代に蘇った剣闘士の見世物試合とも言う。

 

 

ただ、力に物を言わせてウマ娘たちがヒト社会に対して反乱を起こすことなく、国民的スポーツ・エンターテイメントとして平和な勝負の世界をずっと夢見続けている現状はベストではないがベターではあるため、宇宙移民の未開惑星への不干渉の原則もあって曖昧な対応しかできない。

 

だからと言ってはなんだが、夢破れて夢の舞台から去っていくのが当たり前と見做されている現状を変えてやろうという慈愛の念が極まった怒りが湧き上がってくるが、そこからは政治の世界の話だ。

 

そして、政治の世界を動かすのは理念以上に現実性というものが必要であり、要はその理念を現実のものにすることのメリットを提示しなければ、全ては絵空事に過ぎない。

 

 

なにも、中央トレセン学園の学費の高さは国民的スポーツ・エンターテイメントの舞台という甘い餌に釣られてきた子供たちからカネを巻き上げるために不当に設定されているわけではないのだ。

 

本当に拝金主義なら、生徒数2000名弱のマンモス校であることに飽き足らず、どんどん入学を許可して拡大路線を突っ走ればいいのだから。

 

そうではない。全ては中央でターフの上で走るという国民的スポーツ・エンターテイメントの格を維持するために必要な投資を回収するためのギブ・アンド・テイクであり、

 

むしろ、肥大化することによって中央の格が下がることを恐れずにより多くのウマ娘たちにチャンスを与えるために入学枠を増やしてきたのだから、相関関係と因果関係の混同は非常に頭の悪い発想である。

 

というより、学費自体は年々下がってはいるのだ。なぜなら、中央トレセン学園に入学する生徒が増えたことによって最新のトレーニング設備に掛かる一人当たりの費用が安くなっているからだ。

 

それが実感しづらいのは、トレーニング設備の高性能化による値段の上昇でそこまで学費が安くならないのもあるが、一番は生徒の増加に対して最新のトレーニング設備が圧倒的に足りず、それを利用できない不満が解消されないことにある。

 

そう、より多くの“本格化”を控えている才能あるウマ娘たちに夢の舞台に入れるようにした結果、一人当たりの学費はたしかに安くはなったが、それが逆に中央の売りである日本最高峰のトレーニング設備を利用できる機会さえも減少させることに繋がっていたのだ。

 

つまり、バカ高い学費に対する見返りが得られないのが夢の舞台である中央トレセン学園で中途退学者が続出する引退即退学の心理であり、これは中高一貫校の教育現場としては非常に問題である。

 

むしろ、学費自体は年々下がってはいるのは事実が、それでもバカ高いものであるという庶民の認識は変わっていないのだから、結果としては元から資金力に問題ない富裕層にとってはありがたい学費の節約になっただけで、それ以外の層にとっては体感的に得した気分にならないスタグフレーションになってすらいる。

 

そうなるのも、バカ高い学費の大部分を占める中央トレセン学園の売りである最新のトレーニング設備や環境自体が年々高性能化して価格上昇をしているのを入学者数の増加によって頭割りしていることで学費が下げられているのであって、物価上昇に対して景気停滞による生活苦が広まるのはスタグフレーションの典型である。

 

 

つまり、現状の中央トレセン学園の国内最高峰にして世界最先端の最高のトレーニング環境へのこだわりは経済的にも経営的にも非常に危うい状態と言えるのだ。

 

 

先程も述べたように、本来ならば年々トレーニング設備の高性能化によって価格上昇しているのを頭割りして学費の上昇を抑えているのだから、ある時を境に頭割りできる人数がガクッと減ったら その皺寄せが一気に押し寄せてくるわけなのだ。

 

つまり、国民的スポーツ・エンターテイメントの夢の舞台としての中央トレセン学園の人気が失われた瞬間に学費が跳ね上がるという爆弾を抱えているわけで、自らが課した国内最高峰にして世界最先端の誇りによって入学生を集めている限りは 一流のスポーツ校足らしめて肥大化し続けている学園の誇りによって 不人気になった瞬間に破産に追いやられる運命なのだ。

 

だから、現在の中央トレセン学園の理事長は一見すると散財や博打にも思えるような奇想天外な企画を次から次へと打ち立てて、世間の注目を集めてウマ娘レースの人気と関心が途切れないように宣伝のために投資しまくっているわけなのだ。

 

そういう意味で、あのちびっ子理事長は自らをウマ娘レース界を支える人柱になる覚悟を決めているわけであり、それを悟られないようにして私財を擲つ姿勢に敬意を払いたい。

 

そう、21世紀の異なる歴史と進化を歩んできた地球はまさに不完全な経済システムによって血を吐きながら続ける悲しいマラソンの真っ只中であり、非常に愚かなことで、この辺りが実に地球圏統一国家に至らない未開惑星の野蛮さが滲み出ていた。

 

 

とは言え、中央ウマ娘レース『トゥインクル・シリーズ』の出走権を与えてくれる団体は中央トレセン学園以外にも存在しており、他にも選択肢はあるわけなので不満ならば他の団体から出走を目指せばいいだけのことだ。

 

それでも、中央トレセン学園にこうして今年も受験生が溢れんばかりに殺到するのも、日本最高峰と評されるほどの伝統と信頼がある夢の舞台で、自分こそが重賞レースで勝利をつかむ未来のスターウマ娘になれると誰もが夢を見続けているからだ。

 

だてに、国民的スポーツ・エンターテイメントとして21世紀の異なる進化と歴史を歩んだ地球が誇る文化ではないのだ。日本最高峰であると同時に世界でも指折りの中央トレセン学園という夢の舞台がウマ娘の異世界のシンボルで在り続けた誇りのためにも。

 

そのことを否定する権利は私にはないが、『だったら、この現状をどう変えていくのか』という1つの解答として、私は己のロマンを追究する“乙種計画”と一人の社会人として成果を残す“甲種計画”の一挙両得を果たす方法を編み出したのである。

 

 

――――――それこそがトレセン学園においては重視されていないクラブ活動の活性化であった。

 

 


 

 

 

――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室

 

 

ジャー、ジャー、ジャー・・・

 

 

斎藤T「――――――というわけなのです」

 

シンボリルドルフ「いかがでしょうか、女代先生? これからの中央トレセン学園の新しい時代にはセカンドキャリア支援を押し出した在り方が必要になります。この部活はその第一歩になります」

 

女代先生「……そうねぇ。“皇帝”陛下に直々にお声を掛けていただいたのは大変光栄で、“皇帝”陛下の後を託される大事なお役目に選ばれたことも嬉しい限りなのだけれど、」

 

女代先生「私のようなメジロ家の遠戚というだけの40を超えて早アラフィフのオバサンに任せるのは時代に合わないんじゃないのかしらねぇ?」

 

斎藤T「他にも紹介のあった候補はいました」

 

斎藤T「ですが、私は女代先生がこのクラブの顧問に相応しいと見込んで、こうしてお願いしているのです」

 

女代先生「そう?」

 

斎藤T「そうです。女代先生はスポーツ校ではあまり熱心に勉強する生徒が少ないだろう理科の先生ですが、それで何十年も中央トレセン学園に行ったり来たりしているので、トレセン学園の進化の歴史を具に見てきたはずです」

 

女代先生「ええ~? それって、つまり一番は私が こうして寿退社のチャンスを逃した いつまでも独り身のおさみしいアラフィフだからってこと~?」

 

斎藤T「亀の甲より年の功ですよ、女代先生。ちがいがわかる人間になるためには何よりも経験が必要ですが、それ相応の年季と知識がなければ積み重ねてきたデータを活かすことはできません」

 

斎藤T「別に、理科の先生に難しいことはやらせるつもりはありません。私がクラブの顧問に欲しいのはその良さをわかって宣伝ができて簡単な保守メンテとデータまとめができる理系の頭をした方ですので」

 

斎藤T「専門的な知識や技能は不要です。そういったものは私の開発室のスタッフに任せてください」

 

女代先生「ぶっちゃけるわね~」

 

 

斎藤T「そして、その若々しさですよ」

 

 

女代先生「へ」

 

斎藤T「正確に言えば、いつまでも衰えることのない知性と愛嬌ですね」

 

斎藤T「女代先生はこれから中央トレセン学園の新たな象徴となるクラブの顧問として、私の代わりにメディア露出することになりますからね。それは得難いものですよ」

 

女代先生「へ、へ~? うれしいこと、言ってくれるじゃないの、新人トレーナーくん?」

 

斎藤T「聞けば定年退職だって引き上げられて年金暮らしも遠退いているそうじゃないですか、昨今だと」

 

斎藤T「なら、いつまでも若々しく自分らしく働ける場所を探しておくのは、これからのセカンドライフを考える上で有用だとは思いませんか?」

 

女代先生「つまり、私が今の仕事(Teacher)を退職したら、あなたが面倒を見てくれるってことかしら?」

 

斎藤T「いいですよ。私の夢につきあってくださるのなら」

 

女代先生「ねえねえ! どうしよう、ルドちゃん!? 私、今からこの人のところに永久就職しちゃおうかしら!?」

 

シンボリルドルフ「それは、気が早いのではないですか……?」ハハ・・・

 

女代先生「まあね! でも、いいじゃない! ここまで熱心に口説かれたら、年甲斐もなく心が踊るじゃない!」

 

シンボリルドルフ「では?」

 

女代先生「うん! ルドちゃんの紹介だし、新人トレーナーくんにスカウトされちゃったし、私、顧問になっちゃおうかな!」

 

斎藤T「ありがとうございます」

 

シンボリルドルフ「やったな、斎藤T」

 

斎藤T「ええ」

 

 

ナリタブライアン「おい、上がったぞ、斎藤T。今日の夕飯は何だ?」サッパリ ――――――ユニットシャワールームのモニターに協力!

 

 

女代先生「まあ、ブライアンちゃん! こんなところに居たんだ!」

 

ナリタブライアン「うっ! まさか、女代先生か!?」

 

女代先生「屋上でお昼寝する娘はこれまで何人も見てきたけど、トレーナー室でシャワーを浴びる娘は初めて見たわねぇ」

 

女代先生「それに、『今日の夕飯』って言った? 湯上がりで?」

 

ナリタブライアン「……別に、何の問題もないだろう。しっかりと仕切りをしてユニットシャワールームの中で着替えもできているんだし」

 

女代先生「そうねぇ。私もブライアンちゃんが使う前に中を見せてもらったし、これからそういう便利グッズを紹介しまくって、学園の運営を助けるお役目を任せられたことだし、生徒会副会長に自分から立候補するようになったブライアンちゃんが協力してくれるなら安心ね」

 

ナリタブライアン「おい、斎藤T? よりにもよって、女代先生が顧問なのか?」

 

斎藤T「それは顧問に推薦してくれた“皇帝”陛下の人選に問題があったと?」

 

ナリタブライアン「あ、いや、そういうつもりじゃ――――――」

 

シンボリルドルフ「まあまあ、ブライアン。私が卒業してからの新体制を支える協力者は多い方がいいし、ブライアンも女代先生のような寛大で人望のある先生が顧問になってくれた方が話がしやすいだろう」

 

ナリタブライアン「それは、そうですが……」

 

女代先生「まあまあ、ブライアンちゃんを探す口実で、私もブライアンちゃんと一緒にお昼寝を楽しむことができたわけだし、知らない仲じゃないんだしさ、そんなに嫌がらないでよ」

 

ナリタブライアン「うぅ、だから、苦手なんだ……」

 

女代先生「いい思い出じゃない。先生と一緒に生徒会の仕事をサボって屋上でお昼寝っていうのも」

 

ナリタブライアン「なあ、どう思う、斎藤T!?」

 

斎藤T「うん、最高の教師だと思うよ。頭ごなしに目下を従わせるよりも、親身に寄り添ってくれる先生は貴重だ」

 

ナリタブライアン「ぐおおおおおおおお!?」

 

シンボリルドルフ「まあ、そのおかげで、きみも生徒会役員としての自覚を持つようになったのだし、女代先生には本当に感謝だな」

 

ナリタブライアン「か、会長……」

 

シンボリルドルフ「おっと、私はもう会長じゃないぞ。私はもうただのシンボリルドルフだ」

 

シンボリルドルフ「ともかく、これで顧問は見つかって、場所も新年度に合わせて竣工されるエクリプス・フロントを使わせてもらうことになったし、必要生徒数:5人もすでに達成しているから創部の条件は揃ったわけだ」

 

女代先生「うんうん。エクリプス・フロントなんてビルが建つ時期にちょうどよくブースが空いていて本当に良かったわねぇ」

 

ナリタブライアン「まったくだ。これも皇宮警察の家系の斎藤Tが招き寄せた皇室の神々の御加護とでも言うべきものなのかな」

 

 

――――――トレセン学園の新たなシンボルとなる附属高層施設:エクリプス・フロント。地上10階・地下1階建て。

 

 

府中市を学園都市たらしめているトレセン学園を一望できる展望台と歴史博物館を担う施設であり、同じ府中市にある東京競バ場にも博物館や様々な施設があるわけだが、同時に生徒数2000名弱のマンモス校となった中央トレセン学園の機能の一部を移す目的で開設されている。

 

もっとも、単純計算で1階当たりの高さが3mだとしても、超高層建築物の条件である高さ:60mには満たないし、府中駅周辺によくある100mになるだろう超高層ビルと比べたら慎ましい大きさである。

 

例えるなら、大阪城ホールの場所(トレセン学園の外側)に建てられた大阪城天守閣(展望台と歴史博物館)といった“皇帝”シンボリルドルフに象徴されるトレセン学園黄金期を記憶する遺産であり、

 

トレセン学園が所有する 文明開化と共に輸入されてきた日本における近代ウマ娘レースの歴史と栄冠を物語る貴重な資料や展示物を一般公開して 新たな収入源を得ようというトレセン学園理事会の苦肉の策でもあった(トレセン学園生徒は見学無料)。

 

一応はトレセン学園の附属施設という認識でも間違ってはいないが、正確に言えばURA傘下の管理会社のものであるから展望台と歴史博物館での営業を行えるわけで、直接的にエクリプス・フロントの営業利益がトレセン学園に入るわけではない。

 

また、民間警備会社のERT(緊急時初動対応部隊)の新たな詰め所としても機能することになり、トレセン学園や学生寮での緊急事態発生に即応できるように充実した装備の保管や車両の発進にも便利な立地となっていた。

 

他にも、トレセン学園のデータセンターもここに移設されることになり、トレセン学園の倉庫にしまわれていたものも大部分はここに移すことになったので管理がしっかり行き届くようになり、学内のレイアウト変更もしやすくなった。

 

ついでに、新たな図書館の設置によって生徒たちの勉強スペースも増えることになるだけじゃなく、

 

府中市をそこそこ高い場所から見下ろせる展望台は新たな憩いの場となることが予想され、スカイレストランではトレセン学園で実際に提供されているメニューを体験することもできる。

 

シアタールームにも使える会議室も多数用意され、将来的にはIT化の推進に伴う校舎の建て直しに備えた手堅い内装となっていた。

 

そんなトレセン学園附属の最新施設の一角に存在する多目的ホールをこうして新たに創部されるクラブのために提供してもらえるよう、元生徒会長:シンボリルドルフが 早速だが 目敏く取り付けてきたのだ。

 

これは新年度に竣工されるエクリプス・フロントをこれから積極的に生徒たちに利用してもらうためのデモンストレーションとして、同時期開催の4月前半の『春のファン大感謝祭』で客引きに使えるアイデアを募集していたことで実現したものであった。

 

つまり、非常にタイミングが良かったというわけであり、こうして意外なほどにすんなりと希望したことが実現したのにもしっかりとした背景があったわけなのだ。

 

 

 

さて、そんな黄金期の遺産となる高層施設:エクリプス・フロントの完成を生徒たちに広く知ってもらうために真新しさと先進性を打ち出した私が黒幕の新たなクラブ活動の顧問となってくださったのは、競走ウマ娘の『名家』である ご存知 メジロ家の出身であるアラフィフの女代先生だった。

 

私立の中高一貫校のトレセン学園においては理科を担当しており、中学理科・高校理科のどちらもこなせるため、6年間 理科はずっと女代先生だったという学年も見受けられた。

 

女子しか存在しないウマ娘だけのスポーツ校という性質上、あまり理系に進む子がトレセン学園では少ないわけなので、女代先生のような理系の不人気教科の先生は文系教科の先生より負担が少ないことも理由の一つだった。

 

しかし、私がクラブ活動の顧問として“皇帝”シンボリルドルフに探してもらったのは新しい時代を牽引していけるだけの知性と活力のある人であり、その意味では女代先生は非常に条件に合致した逸材であった。

 

一番の武器はアラフィフだと自分でネタにしているように齢を重ねて得た知見の深さと愛嬌であり、教職員でさえも公営競技の熱に当てられてトレーナー組合との癒着や成果主義が横行している私立の中高一貫校の先生でいられただけの老獪さと剽軽さを併せ持っているのだ。

 

そう、この人は 少なくとも ここ30年近くのトレセン学園の長い歴史や時代の移り変わりを目の当たりにしているわけで、トレセン学園の暗黒期に失望して離れていくことなく、それ以前の時代の生徒たちとも付き合いがあるわけなのだ。

 

そういう意味では、トレセン学園の職員としては 未来のスターウマ娘に教職員の立場からお近づきになりたいと思って就職してくる人間が多い中、これまで極めて公平に一教職員であることに徹することができた人でもあった。

 

それでいて、こうして“皇帝”シンボリルドルフの時代が終わりを迎えた時でさえも依然として中央トレセン学園の教員(Teacher)でいるのだから、お茶目ながら抜け目なく物凄く世渡り上手なのが窺える。

 

そして、こうして“皇帝”シンボリルドルフが母校での最後の役目として私に紹介してきた人物であり、“怪物”ナリタブライアンでさえも頭が上がらない人物ともなれば、クラブの顔役として一発採用にもなる。

 

 

女代先生「まあ、私も他の職場に行っていた時期もありましたけど、かれこれ30年近くをトレセン学園の先生としてやってきました」

 

女代先生「いろんなことがあったように思いましたけど、いつの時代も勉強は素直な子が伸びるのは変わりません」

 

女代先生「けれど、ウマ娘レースは生徒として求められる勤勉さや社会性よりも、実力やスター性が求められているからねぇ……」

 

女代先生「だから、ここで教員として長くやっていくコツとしましては、自分の領分を絶対に食み出さない程度に時代に適合することしかないと思うのよ」

 

斎藤T「つまり、勉学ができるだけの生徒よりもトレセン学園の本分であるウマ娘レースで活躍しているスターウマ娘の在り方に寄り添う方がここでは長生きできるわけですね」

 

女代先生「そう。それに、若い子の流行を真似るようにしていると、身も心も若いままでいられるからね」

 

女代先生「おかげで、私、ゲームの世界だったら指2本でウマ娘に勝てちゃうからね」

 

シンボリルドルフ「どう思う、ブライアン?」

 

ナリタブライアン「……私にそれを訊くんですか?」

 

ナリタブライアン「両親と同じくらいの年齢で 年甲斐もなく 生徒と一緒になってはしゃぎまくる大人の姿は物凄く居た堪れないのですが……」

 

シンボリルドルフ「これが本当の反面教師。反面教師もまた教師というわけだな」

 

ナリタブライアン「両親と同じぐらいの年齢で 勝負服を自作して ウイニングライブの練習に混ざってくるのは拷問ですよ……」

 

シンボリルドルフ「……え」

 

ナリタブライアン「いえ、見た目は20代後半の若さを保っているから多少はマシですけど、両親と同じぐらいの年齢だと認識すると、何というのか拒絶感が……」

 

シンボリルドルフ「……そ、そうだったのか」

 

 

 

 

――――――トレセン学園附属高層施設:エクリプス・フロント(地上10階・地下1階建て)

 

 

シンボリルドルフ「ここが斎藤Tの開発室から提供される新製品の体験コーナーなどを取り扱うクラブの部室になる多目的ホールですね」

 

女代先生「へえ~、こんなにも広い場所を使っちゃっていいんですか?」

 

斎藤T「間取りや用力に問題はないようですし、これぐらいの広さならいろいろとできそうでいいですね」

 

斎藤T「サービスエンジニアのオフィスや倉庫も同じ階に用意できて大満足ですよ」

 

ナリタブライアン「まあ、トレーナー室なんて要らないとすら思っているあんたからすれば、こっちに拠点を構えることができた方が何かと便利なんだろうからな」

 

女代先生「1階のエントランスもURA直属のアンテナショップにたくさんの人が足を運びそうで、トレセン学園にもっとも近いトレセン学園のテーマパークとして新しい地域交流の場になりそうね」

 

斎藤T「実際、『トゥインクル・シリーズ』のサテライト会場として地域住民と一緒に各地の重賞レースを観戦することも視野に入れているみたいですからね」

 

斎藤T「最上階の展望台のスカイレストランや歴史博物館の収益だけで維持費を賄えるわけがないので、積極的にトレセン学園に関心や興味を持った人たちに来てもらうように、よく工夫されていますよ」

 

斎藤T「この設計思想は、まさに黄金期を“皇帝”シンボリルドルフと共に築き上げた秋川理事長らしいですよ」

 

シンボリルドルフ「ああ。一応は入場整理券などでトレセン学園に入る方法はいくらでもあるわけだが、基本的には学園関係者以外は立入禁止で、トレセン学園という夢の舞台の実態についてテレビの中でしか知らない人も多かったからな」

 

シンボリルドルフ「だから、こうやって近い立地でトレセン学園のことを身近に体験できる施設を建てることは1つの目標でもあったんだ」

 

シンボリルドルフ「それに、毎年盛況の『春と秋のファン大感謝祭』での混雑を緩和する狙いもあって、ある程度離れた場所から学園を見下ろせる新たな名所にすることも求められていたんだ」

 

斎藤T「スカイレストランでの観戦もできるわけですし、トレセン学園やその近くを訪れた記念に立ち寄るには遠すぎない距離なのもいいですね」

 

シンボリルドルフ「あとは、縁日での混雑を嫌って屋上のヘリポートから学園を訪れたいという支援者たちの要求にも応えた形にもなる」

 

 

エクリプス・フロントはURA傘下の管理会社が所有する施設であり、同じURA傘下の中央トレセン学園との連携を目的にした設計思想のため、将来的な学園内の整理や効率化も兼ねて歴史博物館や展望台、図書館や会議室、警備会社の詰め所、データセンターや倉庫などが置かれているが、

 

更なるトレセン学園とウマ娘レースのPRと収益のために、『トゥインクル・シリーズ』のサテライト会場やアンテナショップも営業することになり、シアタールームを兼ねた多数の会議室や最上階のスカイレストランなどを観戦席として提供する試みがなされていた。

 

また、府中市は総生徒数2000名弱の全寮制のトレセン学園の存在によって学園都市となっている他に、東京競バ場も存在する、まさにウマ娘レースの聖地となっているだけに、トレセン学園や東京競バ場における交通量の激化は昔から都市問題となっており、

 

前々からお偉方からの要望だった交通規制緩和のために屋上のヘリポートからエクリプス・フロントを経由して学園を訪れるルートもこうして実現することになった。

 

そのため、エントランスは地域住民との交流や生徒の利用がしやすい作りとなっており、学園とエクリプス・フロントを繋ぐ道は全寮制であるトレセン学園の通学路の1つとして色分けされることになり、更には民間警備会社のERTが巡回することになり、地域の治安維持の強化も積極的に行われることになった。

 

この学園とエクリプス・フロントを繋ぐ通学路というのもなかなかおもしろいもので、歩道・ウマ娘専用レーン・車道としてしっかりとガードレールで分離されて3分で着くようになっている他、必要ならばERTがバスを出して学園まで送ってくれるようにも取り付けているというのだ。

 

これは言うまでもなく去年の8月末の学生寮不法侵入事件で犯したERTと警視庁の大失態が原因であり、交番も新たに置かれることになり、警視庁の連中も汚名返上のために精勤してくれそうだ。

 

建築が進められていたのは知ってはいたエクリプス・フロントに関しては私はまったく関係していなかったわけなのだが、随所に私という存在が少なからず与えた影響を肌で感じることができた。

 

そして、これからもっと直接的に23世紀の宇宙科学をこの世界にもたらすことで私の影響力を強めていくことになるのだ。

 

 

ナリタブライアン「それで、例のユニットシャワールームを置くのか? ここに?」

 

斎藤T「さすがに公共の場で実機稼働させることはできないから、モニターに使ってもらった感想を寄せてもらうだけかな。それをユニットの隣で映像再生するだけでいい」

 

斎藤T「そこから夏合宿や海水浴場でサービス展開をして、トレセン学園から新製品の情報を発信させていくかな」

 

シンボリルドルフ「最終的には学園や学生寮のシャワールームを例のユニットシャワールームに準じた構造に置き換えることで水道費の大幅な削減を目指すことを目的にしている」

 

女代先生「そうねぇ。全寮制で2000名弱はいる生徒たちの学園での毎日の生活費を削るしかない以上は、効率化の効果は馬鹿にならないはずよね」

 

女代先生「たださ、新人くん? そんなよくある博覧会(EXPO)で終わらせるつもりは毛頭ないのよね?」

 

女代先生「クラブ活動の活性化によって重賞レースの栄冠を掴めない大多数の生徒(脇役)たちのセカンドキャリア支援が目的なんだから」

 

斎藤T「そうですよ。そして、その良さを知ってもらうためには実際に使ってもらう他ないじゃないですか」

 

女代先生「ほへ~? なるほど、斎藤屋、お主も悪よの~!」

 

ナリタブライアン「……どういうことです、女代先生?」

 

女代先生「どうもこうも、新人くんがこの新しいクラブにつけた名前の意味がね、なかなかに凝っていることに気づいてね」

 

ナリタブライアン「……クラブ名ですか?」

 

女代先生「そうそう。言ってみて、ブライアンちゃん」

 

ナリタブライアン「は、はあ」

 

 

 

――――――ESPRIT(エスプリ)ですが、何か?

 

 

 

シンボリルドルフ「英語の“Spirit”やドイツ語の“Geist”に相応する概念ですね。原義はラテン語の“spiritus”で『空気』『風の一吹き』『息吹き』などを意味して、転じて生命の根源となる霊魂や精神を意味するフランス語だな」

 

ナリタブライアン「それがどうして斎藤Tが監修する新技術の展覧会をする部活の名前になるのです?」

 

女代先生「それはね、このESPRITのロゴを見ればわかるんだけど、“ESPRIT”の文字の背景に青い地球があって、月と太陽が回っていることを地球の円周に沿った赤い矢印で表現しているじゃない」

 

ナリタブライアン「ええ」

 

女代先生「これね、矢印に沿って“ESPRIT”の“E”を最後に持ってくると“SPRITE"になるじゃない」

 

ナリタブライアン「お、スプライトか。私も好きだぞ。カフェインが入っていない炭酸飲料で、しかも海外のどこでも売っているらしいから、海外遠征してきた連中にとっては三ツ矢サイダーより馴染み深いらしいな」

 

斎藤T「なぜ『息』を意味するラテン語の“spiritus”が『霊魂』や『精神』を意味するようになったかと言えば、ギリシャ語聖書の“プネウマ”のラテン語訳に当てられたのがきっかけなんです。“プネウマ”自体も『息』を意味するギリシャ語ですから」

 

女代先生「そういえば、アグネススプライトなんて名前のダービーウマ娘がいたわね」

 

ナリタブライアン「おお! ここでまさかの担当ウマ娘との意外な繋がりが!」

 

斎藤T「ああ、いたんだ、スプライトの名前を冠したウマ娘なんて」

 

シンボリルドルフ「知らなかったのかい?」

 

斎藤T「ええ。私としては“E”は“The Earth(地球)”の略で、残された“SPRIT”が『帆船の船首から前方へ伸びている棒(バウスプリット)』ということで、転じて“宇宙船:地球号”をイメージしたロゴマークにしてますよ」

 

斎藤T「帆船の正面には航海の安全を祈った船首像(フィギュアヘッド)がついているので、地球という船首像を掲げたロゴマークということになりますかね」

 

斎藤T「まあ、英語だと“SPIRIT”が正しい表記ですが、古英語の“sprit”でも通用するので、“E”が前と後ろに入れ替わっても“SPRIT”の本質は何も変わらないことになりますね」

 

ナリタブライアン「ほほう。よく考えてできているんだな、“ESPRIT”のロゴマークというのは」

 

斎藤T「あとは、レッドスプライトのアナグラムですかね」

 

ナリタブライアン「……『レッドスプライト』?」

 

女代先生「あら、ブライアンちゃん、知らないの?」

 

女代先生「超高層紅色型雷放電。高度50〜80kmで発光し、鉛直方向の大きさは20km程度、水平方向の大きさは数km〜70km程度の超大型の発光現象で、小学生の自由研究なんかでキャロットスプライトの観測が人気じゃない」

 

女代先生「去年のクリスマスの夜にもキャロットスプライトが見られて、その手のマニアの間では話題になっていたのよ

 

ナリタブライアン「……ああ、小学生の頃の自由研究の課題か何かで聞いたことがあるような気はしますね」

 

シンボリルドルフ「ということは、この地球の円周に沿った赤い矢印はレッドスプライトの象意でもあったのか」

 

 

女代先生「そして、こんなアラフィフの私に地球(The Earth)そのものを船首像(フィギュアヘッド)にした宇宙船の紋所(ロゴマーク)を背負えというわけね」

 

 

ナリタブライアン「……あんたらしいな、斎藤T」

 

シンボリルドルフ「そうだな。一気に地球の未来を左右する重大な使命が課せられたのだからな」

 

斎藤T「そういうわけですので、ESPRITの部員には私の開発室の新製品のモニターとなってもらいますので、それを口実にいろいろと便利グッズを融通してあげますからね、先生?」

 

女代先生「そうね。その良さがわからないと宣伝することなんてできないからね」

 

女代先生「じゃあ、比較的時間に余裕がある不人気教科の先生の日々のデスクワークを快適にする夢のソリューションってある?」

 

斎藤T「ございますよ。まずはこのQRコードからESPRITの部員サイトに登録してください。そうしたらモニターとしての活動契約、レビューやオーダーの投稿、カタログの閲覧ができるようになりますから」

 

女代先生「まあ、本格的! 実質的にタダでいろんな便利グッズの試験運用という体裁で使い回せるんだったら、きっと毎日が面白可笑しくなりそう!」

 

斎藤T「とりあえず、部員サイトの登録は少々時間が掛かるので、先にカタログをお見せしましょうか」

 

ナリタブライアン「ほう、レンタルサービスの他にも商品紹介もなされているのか」

 

ナリタブライアン「お、これは私が斎藤Tのところでいつだったかごちそうしてもらった肉肉丼の具じゃないか。トレーナー室に大量に備蓄している非常食のレビューがここに載っているのか」

 

シンボリルドルフ「おや、すると、ここに載っている非常食のレビューの大半が食レポをさせられてきたアグネスタキオンと斎藤T本人のものということか」

 

斎藤T「こんなふうに既存の便利グッズの紹介をして生活の質を高めていくこともESPRITでは目的にしているわけです」

 

ナリタブライアン「いや、待て。これは『赤福餅』? それに『阿波牛』の名店のレビューまであるじゃないか! こんなのを食べているのか! ズルいぞ、斎藤T!」

 

女代先生「これは凄いわね! 日本全国の名店のレビューまで集めて! ねえ、こういった情報もカタログに入れることにどういったメリットがあるわけ?」

 

斎藤T「これは部員の胃袋をガッシリと掴むためにモニターの報酬となるものとして用意したカタログギフトですよ」

 

 

斎藤T「女代先生、頑張ってモニターしてレビューで売上が出たら、カタログギフトの中から報酬を出してあげますよ。中高一貫校のクラブ活動でやることですので直接的な金銭のやり取りはできませんから、これでね」

 

 

女代先生「ホント!? いぃいいいやったーーーー! モニターを頑張ったら、アレとかコレとか報酬として頼んでもいいのよね!?」

 

斎藤T「はい。頑張ったご褒美にトレーナーが担当ウマ娘に美味しいものを奢ってやるのと同じことですよ」

 

ナリタブライアン「おいいいいいいい! 斎藤T! 私もユニットシャワールームのモニターをしているんだから、徳島県の黒毛和牛ブランド:阿波牛をもらう権利があるだろう!?」

 

斎藤T「……自分で買ったらどうですか? その方が早いと思いますよ」

 

ナリタブライアン「な、なにぃいいいいいいい!? 私にタダ働きをさせるつもりか!」

 

シンボリルドルフ「まあまあ、落ち着け、ブライアン」

 

シンボリルドルフ「ESPRITはそもそもトレセン学園で活躍の場がない生徒たちのセカンドキャリア支援の一環で創部されているわけだから、賞金を稼いでいる勝利バにとっては買おうと思えばいくらでも買える粗品でしかないものをお礼に贈ろうとしているんだ」

 

シンボリルドルフ「それも、斎藤T自身がしっかりと確かめた良いものをより多くの生徒たちに触れてもらうためにやっていることだから、最初からESPRITの活動は持たざるものに施しを与える精神(esprit)の下に行われていることを忘れるなよ」

 

ナリタブライアン「そ、そうか……」

 

女代先生「そうよ! 担当ウマ娘が勝ったら賞金を山分けのトレーナーとちがって、教職員の給料なんてたかが知れているわけだし、こういう贅沢ができるのならモニターを喜んでやるわ!」

 

女代先生「レースで勝ちまくって賞金ガッポガッポのブライアンちゃんにとっての阿波牛の価値と、安月給のアラフィフの私にとっての阿波牛の価値は天と地ほどちがうんだから」

 

女代先生「阿波牛なんてブランド物、一生に一度 食べられるかどうかなのよ。気軽に買えるぐらいなんだったら自分で買った方が絶対にいいわよ、ブライアンちゃん」

 

ナリタブライアン「………………考えたこともなかったな」

 

女代先生「この贅沢者! 生まれながらにして全てに恵まれていることに気づかないんだから!」

 

ナリタブライアン「………………」

 

斎藤T「それにしては、そんなにカネに不自由している感じはしませんが、女代先生?」

 

女代先生「まあ、それは財テクよ、財テク。私もウマ娘レースの予想で結構稼がせてもらっているし、ゲームアカウントを高値で売ることもやっているしね」

 

女代先生「それでも、1回のレースに勝つだけでサラリーマンの年収を軽々超える賞金を手にすることができるんだから、そういう意味でも『トゥインクル・シリーズ』は夢の舞台よね」

 

斎藤T「とは言っても、獲得賞金の大半が奨学金の基金として運用されて卒業後に分割払いされて返還されるようになってはいますけどね。健全な青少年教育という名目で泡銭で豪遊させないためにも」

 

女代先生「まあね。それを嫌って他の団体から出走するウマ娘もいるけれど、福利厚生やトレーニング環境のことを考えたら、中央トレセン学園が一番よ。一番には一番になるだけの信頼と実績があるわけだし」

 

女代先生「そんなわけだから、新人くん! これから先の長い人生を楽しんで生きていくためにも、ちょっとした贅沢品の数々、いっぱい用意しておいてちょうだいね!」

 

斎藤T「楽しみにしておいてください、先生」

 

ナリタブライアン「おい、私は?」

 

斎藤T「夕飯をご馳走しているじゃないですか」

 

ナリタブライアン「あ」

 

斎藤T「大丈夫です。ESPRITの部員というわけではありませんが、外部協力者としてカタログギフトは贈りますから、その気があるのでしたら今後もモニターをお願いしますよ」

 

ナリタブライアン「ああ。そうさせてもらうとしよう」

 

シンボリルドルフ「ブライアン。生徒会メンバーに頼れる後輩が入ってきたからと言って、エクリプス・フロントや斎藤Tの部屋に入り浸るのはほどほどにな。エアグルーヴ(生徒会長)のことを労ってくれよ」

 

ナリタブライアン「むぅ」

 

 

シンボリルドルフ「……なあ、ブライアン。これからが楽しみだな」

 

 

ナリタブライアン「え、ああ、はい。トレセン学園で過ごす最後の1年が楽しみですよ、心の底から」

 

シンボリルドルフ「……そうだろうな。それが私が秋川理事長と一緒に黄金期を切り拓いてきた意義なのだから、そうでなくては困る」

 

ナリタブライアン「……会長?」

 

シンボリルドルフ「……『会長』じゃないぞ、もう」

 

シンボリルドルフ「……ブライアン、在学中に『ドリーム・シリーズ』に移籍することになるが、決して悔いが残らないようにな」

 

ナリタブライアン「……どうしたんです、急に?」

 

シンボリルドルフ「……いや、このエクリプス・フロントの建築費用は暗黒期から黄金期になったことで『トゥインクル・シリーズ』の信頼と人気が復活して、その活況と建て替えの時期に合わせて建築が認可されたものだ」

 

シンボリルドルフ「……これを世間では“皇帝”シンボリルドルフの功績による遺産だと言われるようになるわけだが、私自身はエクリプス・フロントでの思い出を何一つ持つことなくトレセン学園を巣立っていくことの矛盾に羨望と嫉妬の念を覚えただけだよ」

 

ナリタブライアン「………………!」

 

シンボリルドルフ「だから、私の代わりに思いっきり私が卒業した後のトレセン学園の新しい日々を楽しんでもらいたいんだ」

 

シンボリルドルフ「ブライアン、きみが私の後に続く“三冠バ”になったことで私が切り拓いた黄金期の流れを定着させたわけなんだから」

 

 

――――――ウマ娘レースには絶対はない。だが、シンボリルドルフには絶対がある。

 

 

勝利よりもたった三度の敗北を語りたくなる名バとして“永遠なる皇帝”は近代ウマ娘レース界隈の歴史に名を刻んだ。

 

その後もウマ娘レースの『名家』であるシンボリ家の惣領娘として活躍の場を海外にも拡げることになり、トレセン学園卒業後は同志である秋川理事長と予てより計画していた海外留学をすることになっていたが、

 

その当時の心境は『燃え尽きていた』の一言であり、トレセン学園でなすべき使命を全て果たし終えた“皇帝”は卒業後はそんな称号など何の価値も持たない“ただのひとりの人間”へと還ることになっていた。

 

いや、本来ならばその隣には将来を誓った相手が寄り添うはずであったが、今はその隣はずっと空白となり続けていた。

 

その空白を埋める()()()()()()()()を最後の最後になって見つけることもできたものの、それがかえってますます 空白を埋めるべきものとのちがいと尊さを思い起こすことになり、心の中の淀みが重たくのしかかってさえいた。

 

自分は“皇帝”としてトレセン学園に全てを与え、“皇帝”としての任を成し遂げた栄光を掴むことができたが、はたして“皇帝”ではなくなる一人の少女の手元に残されたものはいったい何が残ったのだろうか?

 

その意味で誰よりもウマ娘レースの業である束縛からの自由(リバティー)に囚われて、自分で掴めた表現の自由(フリーダム)などあろうはずがない。

 

だからこそ、私は後に知ることになった。

 

 

――――――“永遠なる皇帝”シンボリルドルフこそが黄金期の次なる 彼女自身が待ち望んだ 新しい時代を切り拓くための最大の障害となることを。

 

 

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