ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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丙種計画  未来からの福音と不協和音の多重奏

 

 

――――――現状、私が抱えている世界の命運を左右する重大任務はいくつもある。

 

 

その第三を“丙種計画”と題し、実に荒唐無稽な話ではあるのだが、今から(昨年20XX年から数えて)1()0()()()()()()に並行宇宙の地球から侵略してくる通称:WUMAによる怪人災害の対策の話である。

 

すでに何度も述べたとおりだが、WUMAとはWorldwide Unidentified Miscreant Alien(世界的な未確認侵略生物)の略称であり、初めて遭遇した私が怪人:ウマ女と評したことを覚えていた妹:ヒノオマシが警察にそう供述したのが始まりである。

 

やつら自身は“フウイヌム”を名乗り、馬のマスクを被った全身白タイツのふざけた格好をしたような女性だけの単一種族が()()()()()()()の支配種族として君臨し、

 

同じ21世紀の地球でも文明レベルや科学力は“フウイヌム”が支配する()()()()()()()()の方が段違いに発達しているため、昨年のクリスマスで奥多摩の川苔山の本拠地を潰しておかなかったら いったいどうなっていたことやら――――――。

 

そのため、去年の8月末のグランプリウマ娘:ライスシャワーの担当トレーナーである飯守Tに擬態したWUMAがトレセン学園の学生寮に不法侵入した事件を皮切りに警察関係者の極一部にその名が知られることになり、

 

密かに東京都が管轄の警視庁において怪人災害の対策チームが設置される運びとなり、警視庁警備部災害対策課の藤原さんがその主任となり、警視庁警備部警備第一課のSATとの協力も実現した。

 

しかしながら、ここで足枷になったのが『警視庁』におけるキャリア組の出世レースやメンツの問題であり、それによってWUMAを取り逃したこともあるため、私としては非常に信頼できない連中という評価になっていた。

 

また、裏切り者:ケイローンの討伐を主目的として更なる並行宇宙の侵略のために遣わされた先遣隊の戦力は最上位となる4体のエルダークラス:ヒッポカンポス、ヒッポネイピア、ヒッポリュテー、ヒッポクラテアが無力化されたために命令系統が麻痺した上に、

 

川苔山の百尋ノ滝地下の秘密基地を守るヒッポカンポスの軍団はC4爆弾ではびくともしない耐久性の超科学を逆手に取ったC4爆弾のエレベータートラップで一掃、

 

エルダークラス:ヒッポリュテーを失った混乱に乗じて あるシニアクラスが反乱を起こして他のシニアクラスを始末して百尋ノ滝を占拠しようときたところを突如現れたNINJAと協力して撃破、

 

船橋トレセン学園に巣食っていたヒッポクラテアの軍団はエルダークラスを超えるスーペリアクラスに進化したアグネスタキオン’(スターディオン)に屈服している。

 

唯一、真っ先にエルダークラスを失ったことで組織的活動が続けられなくなってはいるが、その構成員の所在が掴めない多摩地域に割拠するヒッポネイピアの軍団が野放しになっていることが最大の懸念点となっている。

 

そう、やつらの侵略の要である 並行宇宙への空間跳躍を可能とするやつらの超科学の結晶である 潜航艇を賢者ケイローンが身を挺して亜空間に遺棄したことで今の時代における侵略活動に歯止めがかかったわけだが、

 

今は服従させることに成功したが船橋トレセン学園の重鎮たちに擬態したことで処分を躊躇わせているヒッポクラテアの軍団と、広大な多摩地域のどこで潜入工作をしているかが手掛かりがまったくないヒッポネイピアの軍団の処理に未だに頭を悩ませることになった。

 

 

しかし、それ以上に今回のWUMA襲来は1()0()()()()()()()()()から賢者ケイローンが逃亡してきたことがきっかけであるため、10年後にWUMAが侵略してくる因果が強く結ばれたことが一番の問題であった。

 

 

それどころか、1()0()()()()()()()()()より更なる未来となるWUMAの支配から解放されたはずの世界から人造人間が刺客として送り込まれるという事態にまで発展したため、未来を変えなければ気が休まることはない。

 

わかりやすく言えば、認識の世界においては認識されているものが優先され、認識されていないものは効力を発揮しないという、何をそんな当たり前のような そうじゃないような そんな話だと思って欲しい。

 

CMなんかを思い浮かべればわかるはずだ。知らない店よりもCMで知ってる店の方が親しみがあるし、そっちの方を利用する客が必然と多い。それ以外に選択肢がない場合や冒険したい性分でもなければ全国チェーン店に安心と信頼を置くはずだ。

 

そんなふうに一度繋がってしまった世界とそうでない未知の世界のどちらが結びつきが強いと言ったら、当然ながら一度でも繋がってしまった世界の方が結びつきが強いわけで、

 

並行宇宙に空間跳躍して結ばれる他所の世界とWUMAが支配する並行宇宙が結ばれる可能性を強くする因果関係の根拠となるものがすでに提示されてしまったわけであり、

 

賢者ケイローンが1()0()()()()()()から来た時点で、世界の命運は自然とその1()0()()()()()()に近づくように軌道修正させられたのだ。

 

 

――――――だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

具体的に『未来を変える』とはどういうことなのかと言うと、端的に言えば賢者ケイローンが見てきた1()0()()()()()()と掛け離れた世界を創造することであり、賢者ケイローンが逃亡する際にWUMAが支配する並行宇宙と結ばれた条件に当てはまらない世界に変えていくことなのだ。

 

概念的にもっとわかりやすく言うなら、WUMAの支配する並行宇宙と接続するオスコネクタに合わないメスコネクタの形や規格にこの世界の歴史を作り変えるという意味であり、

 

その1つのアプローチとなるのが、23世紀の宇宙科学によって21世紀の異なる進化と歴史を歩んだ地球で技術革新を起こして10年以内に100年ぐらい先の未来を地上に写し出すことである。

 

 

――――――これを一言で表現すれば“タイムパラドックス”である。

 

 

つまり、この時代にやってきたWUMAの残党狩りは別問題として、この丙種計画の達成には『宇宙船を創って星の海を渡る』というロマンを追究する乙種計画の達成が不可欠というわけであり、乙種計画の推進を後押しさせる要素に丙種計画がなっていたのだ。

 

そういう意味では、私にとっては当たり前の23世紀の宇宙科学を広めるだけで確実に21世紀の異なる歴史と進化を歩んだ地球の情勢を押し進めることができるのだから、私以上に成し得る人物はいないと言える。

 

ただ、ムーアの法則で知られるように21世紀の科学力は年を追うごとに加速度的にハイテク化が進み、更には地球圏統一国家の成立によって軍備撤廃の末に浮いた軍事費が教育費や研究費に回されることで、その流れは現在とは比較にならないほどに怒涛の勢いとなる。

 

そのため、23世紀の宇宙科学と21世紀の地球科学の間にある200年の技術力の差は凄まじく、私にとっては100年前となる22世紀からの技術なら辛うじて網羅しているが、

 

23世紀において人類有数の頭脳を持つ波動エンジンの開発エンジニアである世紀の天才である私でさえも、それ以上に旧い21世紀の技術体系を完全に理解することはかえって難しいぐらいだ。

 

 

21世紀から23世紀に向かうまでの加速度的な進化によって様々な分野でミッシングリンクが生じているのだ。

 

 

これが技術的理解を目指す上で一番に困る話で、技術者として自分の専門分野についての歴史の流れは知っていて当然であり、先人たちの功績を辿って歴代の名作や名品に肖ることはあっても、精々が本当に黎明期の傑作だとか転換点となる革新的なものぐらいしか触れることがないのだ。

 

半導体が“産業の米”と喩えられているのに倣えば、今の私は稲作(半導体技術)最初(黎明期)後半の部分(22世紀から23世紀まで)の技術はかなり詳しいつもりだが、前半部分(21世紀から22世紀まで)がわからないせいで、実際に21世紀に23世紀の宇宙科学をもたらそうとして大きな壁にぶつかっているわけなのだ。

 

なので、私が知っている稲作(半導体技術)後半部分(22世紀から23世紀まで)における最初の部分の技術を21世紀に伝播させて周囲の反応を窺いながらミッシングリンクを埋めて21世紀と23世紀を結ぶ他ない。

 

ただ、地球圏統一国家が成立していない未開惑星の住人に技術を渡しすぎると野蛮人に悪用される恐れが大いにあるため、未開惑星に対する過度な干渉を避けるという宇宙移民のポリシーの間でギリギリを攻めていくことになるだろう。そういった配慮が求められるぐらいには決して楽な道ではない。

 

私は宇宙船エンジニアなんだぞ。いろいろと技術的なことで不平不満はたくさんあるが、21世紀の半導体のパワー不足はどうしようもなく、私が投資を呼ぶために某企業に渡した22世紀で一般的だった宇宙船の設計図はこの時点で『時代を先取りした天才的な設計である』という評価ですらあった。

 

裏返せば、時代を先取りしすぎて実際には造ることが絵空事のように思われたわけであり、宇宙移民船の開発設計でお世話になった23世紀にも健在の老舗ですらこうなのだから、これは本当に先が思いやられる。

 

 

しかし、その過程で私は人間であることを止めさせられて制作指揮(プロデューサー)に扱き使われる現場監督(ディレクター)とならざるを得なくなった。

 

 

去年、私は配属されて早々に強引な手口から学園一の嫌われ者になった新人トレーナー“斎藤 展望”として三ヶ月間の昏睡から目覚めて、

 

馬のマスクを被ったような全身タイツのふざけた格好の並行宇宙の地球の支配種族である怪人:ウマ女を撃退するために、人知を超えた能力や道具を得ることになった。

 

その最大の収穫物となるのが、怪人:ウマ女の地球侵略の本拠地となった奥多摩の川苔山/百尋ノ滝の地下秘密基地であり、これが甲種計画や乙種計画を遂行する上で大きな力となることだろう。

 

その他にも、“特異点”として時間跳躍ができるようにもなったわけで、それでWUMAが空間跳躍を行使した瞬間にカウンター発動で返り討ちにすることができ、

 

あるいは、時間跳躍できる“特異点”の体質が招いたのか、世にも不思議な時間を巻き戻す“目覚まし時計”の存在に触れたことをきっかけに要所要所で目的を達成するまでタイムリープすることにもなり、1日24時間の定義が常人離れすることになった。

 

その恩恵で、繰り返される時間を有効に使って思索や試行を重ねることができた一方で、思索や試行を繰り返すぐらいしか代わり映えしない繰り返される時間の中で時計を前に進めるために藻掻き続ける必要があり、単調な反復練習ほど人生でつまらないものはないと思い知らされることになった。

 

 

一方で、WUMAで初めて時間跳躍を体得した賢者ケイローンは過去の時代に跳躍する過程で情報の波に肉体を洗い流され、魂だけ辿り着いて野に放たれていたコーカサスオオカブト(キロンオオカブト)の肉体に宿ることになってしまった。

 

それによって、本来の肉体を失った挙げ句にコーカサスオオカブトの寿命の分しか生きられなくなっていたが故に、クリスマスの決戦において死にゆく体に鞭打って最期に亜空間で自壊させた潜航艇と運命を共にすることになった。

 

もっと長生きできる生物に宿ってくれてさえいれば、今頃は丙種計画の遂行をケイローンに託して進捗も抜群に良く、負担も大幅に軽減されていたのだろうが、それはもうどうしようもないことだった。

 

しかし、亜空間に二度目の生を散らせた後でも 因子継承を果たしてスーペリアクラスに進化したアグネスタキオン’(スターディオン)の存在を通じてか 声が届けられることがあり、

 

それぐらい賢者ケイローンとその仮初めの肉体であったコーカサスオオカブトとの縁に愛着が湧いたこともあり、ついでに妹:ヒノオマシが飼育日記をつけていたこともあって、

 

寿命で死にかけのコーカサスオオカブトの体でも操作ができるように即席で造った制御盤を個人的な趣向で設計し直して、それからコーカサスオオカブトの模型を載せたものを数少ない趣味品としてトレーナー室に置いていた。

 

 

なぜ私がこうして賢者ケイローンとめぐりあうことになったのかと言えば、私が23世紀の宇宙移民船のワープ航法中の波動エンジンの暴走事故に巻き込まれて、賢者ケイローンと同じように本来の肉体を失って過去の地球で新たな生を受けた“特異点”だったからなのだろう。

 

 

そのため、私が“斎藤 展望”として盆休みに母方の実家に帰省した夜の隕石が降ってきた日に、ブーンブーンと大きな羽音を立てるコーカサスオオカブトと出会ったのも、私の存在が未来世界のオスコネクタと過去世界のメスコネクタを一致させるハブになってしまったせいなのだ。

 

そして、本来はWUMAの侵略に対抗できるように手土産になるものを持ってきていたのだが、肉体を失ってコーカサスオオカブトという不自由な体に縛られたせいで、そのことを伝えることがずっとできずにいたのだが、

 

私が奥多摩攻略戦を命からがら完遂して年末年始に再び母方の実家に帰省していた時、皮肉なことに肉体を再び失った上にWUMAの侵略が防がれて全てが終わってから、隕石が落ちた日と同じく時間跳躍で地面に埋まっていた賢者ケイローンの手土産をようやく回収することに成功したのであった。

 

その賢者ケイローンの手土産こそが未来を変えるための重要な手掛かりの1つとなっており、そこに()()()()()()()が加わることで甲種計画と乙種計画の究極の方向性が決まったのである。

 

 


 

 

――――――目標Ω:重賞レース『アグネスタキオン記念』を創設せよ!

 

 

斎藤T「これが丙種計画を踏まえた上での甲種計画の最終目標だ」

 

斎藤T「現在、『トゥインクル・シリーズ』にはG2レース『朝日杯セントライト記念(菊花賞トライアル)』とG3レース『「日刊スポーツ賞 シンザン記念』という初代と二代目のクラシック三冠バを記念した重賞レースが設けられている」

 

斎藤T「そして、賢者ケイローンの手土産となる『未来世界のデータベース』と、“皇帝”シンボリルドルフから託された予言書『ウマ娘 プリティーダービー』の内容を重ね合わせると、だ」

 

斎藤T「未来世界にも予言書にも『アグネスタキオン記念』なる重賞レースが記録されていない点から、アグネスタキオンというウマ娘が目指すウマ娘の可能性の“果て”が少なくとも人々の心に残るものではなかったことが窺える」

 

斎藤T「そもそも、予言書によればアグネスタキオンは『弥生賞』『皐月賞』を圧勝して誰もが“三冠バ”になることを確信させたその走りを鮮烈に記憶させた矢先に引退してしまう運命のようだから、『トゥインクル・シリーズ』を走りきれるかどうかも大きな分岐点になるだろう」

 

斎藤T「つまり、WUMA襲来の未来を回避する1つの方策として、この世界における国民的スポーツ・エンターテインメント『トゥインクル・シリーズ』の重賞レースの歴史と構成を変えることが非常にわかりやすいちがいとなるはずだ」

 

斎藤T「となると、重賞レース『アグネスタキオン記念』が創設されるほどの偉業を果たさなければ、WUMA襲来によって世界が絶望の淵に叩き込まれるわけだが、いったいどれほどの活躍をすれば認めてもらえるかを現時点で見定めなければならないな」

 

斎藤T「更に現役時代に『アグネスタキオン記念』が創設されるわけがないから、少なくともWUMA襲来に至るXデーまでの10年近くの歳月の中での実現を目指す必要があり、こればかりは一個人の力だけでどうにかなるわけがない」

 

斎藤T「つまりは、『アグネスタキオン記念』創設のために長年に渡ってロビー活動を行ってくれる支持母体も必要不可欠だ」

 

斎藤T「まあ、その辺の政治的な話に関しては、幸い ソラシンボリを預かる代わりにアグネスタキオンを 最大限 シンボリ家が支援してくれる約束を利用して、まずは『シンボリルドルフ記念』創設で前例を創った方が話が通しやすいはずだ」

 

斎藤T「さて、『セントライト記念』『シンザン記念』『シンボリルドルフ記念』に続く『アグネスタキオン記念』を創設するためには、いったいどれほどの偉業を果たさなければならないのだろうな?」

 

斎藤T「他の歴代三冠バの名を冠した『ミスターシービー記念』『ナリタブライアン記念』『ミホノブルボン記念』を超える魅力を持たせなければ『アグネスタキオン記念』など到底実現しないことだろう」

 

斎藤T「なので、申し訳ないが、岡田T。先に提出してもらった三冠バになるためのローテーションだが、三冠バを超える名声を博すローテーションに机上の空論でもいいから作り直して提出して欲しい」

 

斎藤T「そして、アグネスタキオン。お前もだ。私が去年のシーズン後半を人知れずWUMA退治に明け暮れて世界を救ったのだから、お前も1年でウマ娘界の神話になる道を探せ。そうすれば世界は救われる――――――」

 

 

――――――喜べ、ウマ娘。お前の願いが叶えば、私の願いも叶う。

 

 

これが夢の世界で法隆寺夢殿にアングロアラブ八極拳の稽古のために御百度参りする羽目になった2月7日のシンボリ家との密約を経た後に私が告げた競走ウマ娘:アグネスタキオンに課せられた目標であった。

 

もちろん、必ずしもアグネスタキオンである必要はない。賢者ケイローンの手土産である『未来世界のデータベース』と“皇帝”シンボリルドルフから下賜された予言書『プリティーダービー』に載っていない出来事を起こし続けて世界の命運の軌道修正(タイムパラドックス)を掛け続ける必要があり、『アグネスタキオン記念』創設はあくまでも軌道修正のプロセスの1つに過ぎない。

 

つまり、『アグネスタキオン記念』は甲種計画における究極の目標の1つであって、予言書においてもその実力がお墨付きのアグネスタキオンが普通に“クラシック三冠”達成を果たしても、世界の命運に作用する波紋の1つとなってくれるだろう。

 

ただ、肉体改造強壮剤によって“本格化”を抑えながら 退学処分を受けそうになりながらも4年間の雌伏の時を経て ようやくお披露目となるその実力は、すでに全盛期のトウカイテイオーに一歩劣る程度に仕上がっているため、トウカイテイオーの担当トレーナーである岡田Tをして『これで負けたら天地がひっくり返る』ほどなのだそうだ。

 

それだけに“三冠”達成が確実視されているぐらいなのだから、そこを突き詰めて前人未到の偉業を成し遂げてウマ娘レース界隈の神話を目指すのは決して高望みではないはずだ。

 

むしろ、私が去年の9月24日の深夜のトレセン学園の部活棟に忍び込むよう、賢者ケイローンは言った。

 

 

――――――部活棟に向かうんだ。そこで“きみの運命”と出会える。

 

 

つまり、WUMAの脅威からこの世界を救う大役を背負わされた学園一の嫌われ者である“斎藤 展望”がめぐりあうことができた担当ウマ娘はアグネスタキオン以外にありえない。そう自惚れてもいいんじゃないかと。

 

そう、このヒトとウマ娘が共生する異世界において大きな影響力を持つ国民的スポーツ・エンターテインメントとなっている『トゥインクル・シリーズ』で“三冠”達成が目指せるだけでも奇跡の存在だと言うのに、それ以上の偉業を成し得る要素が私の許には揃っているのだ。

 

つまりは、未来の情報や予言書にも載っていない歴史的事件を起こし続けることでWUMA襲来による()()()()()とのタイムパラドックスを『トゥインクル・シリーズ』において果たせるなら本当は誰だってよかったのだが、

 

だからこそ、それを果たせる可能性がもっとも高い私の担当ウマ娘:アグネスタキオンに甲種計画の遂行を託すことにしたのである。

 

そして、4年間の雌伏の時を費やして“ただの三冠ウマ娘”になるぐらいだったら、そんなことをしなくても“三冠”達成してきた先人たちに申し訳がないので、それ以上の戦績を要求するのは驕りでも何でもない。それがウマ娘の可能性の“果て”というやつだろう。

 

当時、トウカイテイオーやメジロマックイーン以上に『選抜レース』で圧倒的な走りで誰もが“三冠ウマ娘”になると熱狂させた“アグネス家の最高傑作”としての本懐を遂げなければ、私はもうウマ娘の可能性の“果て”など一緒に見る気はない。

 

これが改めて『トゥインクル・シリーズ』に参戦することになった私の担当ウマ娘:アグネスタキオンに対する波動エンジンの開発エンジニアである私からの第一声である。

 

 

――――――お前なんてアグネス()()()()()()だよ。どんなに加速しても光速を超えることなんてない。

 

 

 

アグネスタキオン「ふぅン、黄金期に入って“三冠ウマ娘”のバーゲンセールにもなると、“ただの三冠ウマ娘”を目指す価値はないときたか」

 

アグネスタキオン’「おやおや、優駿たちの頂点を決めるG1レースに勝つだけでも名バと呼ばれる資格があるのに、人間というやつはそれ以上を求めだして度し難いものだねぇ」

 

斎藤T「で、“クラシック三冠バ”を超えるものを打ち立てることはできそうか、1年で?」

 

アグネスタキオン「そこのところはどうなんだい、コーチ?」

 

岡田T「……正直に言って、“皇帝”シンボリルドルフに並ぶG1:7勝の“覇王”テイエムオペラオーの年間無敗記録を2年目:クラシック級で実現できたら、それはもう伝説を超えた神話にもなるだろうよ」

 

岡田T「そう考えると、“皇帝”シンボリルドルフのように“無敗の三冠ウマ娘”であることが最低条件になるし、“覇王”テイエムオペラオーが味わったように完全な包囲網を敷かれることにもなる――――――」

 

岡田T「これは正々堂々なんて期待しない方がいいかもしれない。出走回避によってレースが開催されるだけで御の字になる可能性すらある……」

 

斎藤T「無理ですか」

 

岡田T「そうですね。陣営同士の出走の読み合いになると言いますか、こちらとしては『レースになれば絶対に勝つ』という前提で行動しているのを悟らせないようにレース開催に漕ぎ着ける立ち回りが必要になりますね」

 

斎藤T「つまり、各陣営の最終的な出走権を握る担当トレーナーに勝負に打って出させる(ベットさせる)ように煽る必要があるんですね」

 

斎藤T「要は、功名心やプライドを煽って相手に勝てない勝負に繰り出させればいいんですね?」

 

岡田T「……残念ながら、そういったことに関しては俺は力になれません」

 

斎藤T「ふーむ」

 

アグネスタキオン’「ふぅン、正攻法でシンボリルドルフやテイエムオペラオー以上の戦績を築くことは絶対にできないのは確実ってところか」

 

アグネスタキオン’「なら、いっそのこと、『有馬記念』と対になる春グランプリの『宝塚記念』も勝って、“クラシックグランプリウマ娘”になるとかはどうだい? 全盛期のトウカイテイオーに準じる能力が()にはあるのだろう?」

 

斎藤T「それは可能ですか?」

 

岡田T「いや、たしかに『宝塚記念』は開催時期も繰り下げられて『日本ダービー』『オークス』で活躍したウマ娘の参戦にも前向きなところはあるが、」

 

岡田T「それがいないんだよ、クラシック級で『宝塚記念』を優勝したウマ娘は。『有馬記念』ならシンボリルドルフをはじめとしていっぱいいるんだけど」

 

アグネスタキオン’「じゃあ、“クラシックグランプリウマ娘”という史上初の称号を目指そうじゃないか。なあ、()?」

 

アグネスタキオン「そうだね。史上初の称号を得たとなれば、これで神話に一歩近づくねぇ」

 

岡田T「簡単に言ってくれるな。テイオーの時でさえも『日本ダービー』を勝って憧れのシンボリルドルフよりも強い走りを見せられて天国の気分だったのに、そこから地獄に真っ逆さまに落とされた気分が蘇ってきそうだ……」

 

アグネスタキオン’「あ、そういえばメジロ家の『天皇賞』に懸ける情熱は凄かったけど、アグネス家でも何か()が勝つことで記念になるような記録とかはないのかい?」

 

アグネスタキオン「さて、どうだったかねぇ……」

 

岡田T「たしかに。メジロアサマ・メジロティターン・メジロマックイーンと続くメジロ家三代による『天皇賞』制覇は大きな話題にもなったし、アグネス家にも実績がたくさんあるはずだ」

 

斎藤T「どれどれ、祖母:アグネスレディーが『オークス』、母:アグネスフローラが『桜花賞』を獲っているみたいだな」

 

斎藤T「他にもアグネステスコが『エリザベス女王杯』を勝っているようだし、それなら『秋華賞』をお前が獲って“アグネス家三代によるトリプルティアラ制覇”の名誉をもたらせるんじゃないか?」

 

アグネスタキオン「ふぅン、『秋華賞』か。京都競バ場・芝・2000m。悪くないんじゃないかい」

 

斎藤T「おお! じゃあ、『秋華賞』を獲ってアグネス家に“トリプルティアラ制覇”の名誉をもたらそう!」

 

岡田T「いやいやいや、待て待て待て! “トリプルティアラ”は基本的に“トリプルクラウン”の前の週に開催されるんだぞ!」

 

岡田T「“クラシック三冠ウマ娘”を目指すのに、“三冠”達成の最難関となる最後の壁『菊花賞』の前週に『秋華賞』だぞ! ただでさえ“三冠”達成を前にして周りがそれを阻もうと必死な強敵だらけの長距離なのに、中距離から間を置かずにすぐに長距離を走れるわけがないだろう!」

 

岡田T「それとも、“トリプルティアラ”に路線変更するかい? そうしたら自然と『エリザベス女王杯』にも参加することになって、G1:4勝も手堅いかな?」

 

岡田T「それでも、アグネスタキオンの距離適性が【中距離】だからこそ、“トリプルクラウン”、“クラシック三冠”を目指していたんじゃないのか? マイルウマ娘(マイラー)の適性も高くはないだろう?」

 

岡田T「一応、マイルウマ娘(マイラー)のトリプルティアラ路線の理論値を挙げていくとこうなるかな」

 


 

●クラシック級・マイルウマ娘(マイラー)・トリプルティアラ路線

 

3月:G2レース 阪神・芝・1600m『チューリップ賞』

4月:G1レース 阪神・芝・1600m『桜花賞』

5月:G1レース 東京・芝・2400m『オークス』

6月:G1レース 東京・芝・1600m『安田記念』

6月:G1レース 阪神・芝・2200m『宝塚記念』

 

10月:G1レース 京都・芝・2000m『秋華賞』

11月:G1レース 阪神・芝・2200m『エリザベス女王杯』

12月:G1レース 中山・芝・2500m『有馬記念』

 


 

斎藤T「早速、“クラシックグランプリウマ娘”の要素を入れてきてますね」

 

岡田T「まあ、あくまでも理論値ですけど、“トリプルクラウン”が朝飯前に思えるアグネスタキオンの実力を考えたら、マイルウマ娘(マイラー)にするにはもったいないぐらいですけどね」

 

斎藤T「でも、こうして見ると“トリプルティアラ”は『桜花賞』以外は【中距離】なんですね」

 

アグネスタキオン’「そうだねぇ。最初の『桜花賞』を何とかできれば普通に“トリプルティアラ”達成は簡単じゃないかい?」

 

岡田T「いやいやいや! ですから、“トリプルティアラ”のレースの翌週に“トリプルクラウン”のレースが開催されることが最大のネックなんですってば!?」

 

アグネスタキオン’「つまり、たった1週間で距離や疲労の問題を解決できれば、連続出走しても問題ないんじゃないかい?」

 

岡田T「……つまり、“トリプルティアラ”と“トリプルクラウン”で連闘!? 本気で!?」

 

斎藤T「――――――『連闘』?」

 

岡田T「2週連続してレースに出走させることです」

 

岡田T「基本的に世代最強の座を賭けて強豪たちが鎬を削るクラシック戦線では、怪我のリスクやスタミナ回復などを考えたら、とてもじゃないですけど連闘はありえない話です」

 

岡田T「たとえば、新バ戦や未勝利戦、1勝クラスなら中央でも地方でもよくありますけど、そういうのは『数撃ちゃ当たる』で期待されていない競走ウマ娘が運試しにやる程度のもので、G1ウマ娘がやることじゃないです!」

 

岡田T「だいたいにして、クラシック級のG1レースで連闘になるような組み合わせは本当に“トリプルティアラ”と“トリプルクラウン”ぐらいなもので、いまだかつて誰もやったことがないことなんですよ!?」

 

斎藤T「じゃあ、それを目標にしようか」

 

岡田T「ええっ!?!?!?」

 

アグネスタキオン’「ふぅン、そうだねぇ。『菊花賞』と『秋華賞』はさすがに1000mの差があるから厳しい戦いになりそうだけど、同じ2400mの『日本ダービー』と『オークス』が狙い目じゃないかい、()?」

 

岡田T「はあぁああ!!?!!!」

 

アグネスタキオン「いや、『桜花賞』と『皐月賞』は確実に獲るべきだね。シーズン序盤に【マイル】の調整をしておけば余裕で勝てるさ」

 

岡田T「うええええええええええええ!!!???」

 

斎藤T「なら、それで行こう。これぞ前人未到の挑戦というわけだな」

 

岡田T「あれ、おかしいな? こんなの、ただの素人の思いつきで無謀でしかないはずなのに、なんだか『桜花賞』と『皐月賞』を連闘で獲るのはできて当然みたいな感覚に俺自身がなっている……?」

 

アグネスタキオン’「ふぅン、これで“トリプルクラウン”と“トリプルティアラ”と“春秋グランプリウマ娘”を独占したら、それだけでG1:8勝で“七冠ウマ娘”シンボリルドルフを超えるね」

 

岡田T「うげえええええええええええええええ!?」

 

斎藤T「だ、大丈夫ですか、岡田T!?」

 

岡田T「い、いえ、言っていることが無茶苦茶で、完全に素人の思いつきなのか、天才の発想なのかで、少し頭痛がしまして……」

 

 

斎藤T「まあ、気楽にしてくださいよ。アグネスタキオンが実現しようとしているウマ娘の可能性の“果て”とやらに、たかが世界の命運が懸かっているだけじゃないですか」

 

 

岡田T「ほげえええええええええええ!??!!!」

 

岡田T「な、なんで!? なんでなんですか!? なんでそんな簡単に『ウマ娘の可能性』だとか『世界の命運』だなんてことが言えるんですか!?」

 

斎藤T「あくまでも甲種計画は丙種計画のアプローチの1つとして是非とも勝って欲しいだけであって、負けたら負けたで他に歴史的事件を起こしてWUMA襲来に繋がらないようにタイムパラドックスを狙うだけだから、私としてはそこまで賭けてないので、気楽にやって欲しいですね、岡田T」

 

アグネスタキオン「まあ、私としてもコーチから全盛期のトウカイテイオーに準じる能力があると太鼓判を押されたのに負けることになったのなら、それはそれで私のプランAが不完全だったということでプランBに移行するだけのことだから、私の勝ち負け自体には大した意味なんてないのさ」

 

岡田T「おお…………」

 

 

アグネスタキオン’「そういうことだから、“クラシック八冠ウマ娘”という永遠の神話を是非とも打ち立ててみようではないか、コーチ?」

 

 

岡田T「ああ…………」

 

岡田T「うう…………」

 

アグネスタキオン’「なあ、岡田T? きみは一度は担当ウマ娘を見捨てて首を括ろうとしたんだろう? そんなきみに 今更 何の未練や恥なんてものがあるんだい?」

 

アグネスタキオン’「きみも気楽に『シンボリルドルフに憧れた』なんて言っていたけど、きみの覚悟なんてそんな程度のものだったのかい?」

 

岡田T「!!!!」

 

岡田T「………………」

 

岡田T「……もうどうなっても知りませんよ?」

 

岡田T「出れば勝って当然で、一切の怪我のリスクを考えなくていいのなら、まさに机上の空論でしかないローテーションで勝負に出ましょう」

 

岡田T「それでいいんでしょう、ボス?」

 

斎藤T「それでいいですよ。“三冠”達成を果たしてきたトレーナーはみんな新人トレーナーだったわけだし、そんな素人たちが今までになかったトレセン学園の黄金期を盛り上げてきたのだから、私もそれに倣うだけです」

 

岡田T「でも、戦う相手がいなくちゃ公営競技の興行は成り立たないんですからね。どうにかして全戦全勝の最強のウマ娘を相手に果敢に挑もうとする勇者たちを集めてレース開催に漕ぎ着けないとですよ」

 

斎藤T「そこはまあ、()()()()()()()()に肖ろうと思います」

 

斎藤T「そのためには、今年 入学してくる有望な競走ウマ娘たちには何が何でも頑張ってもらわないと」

 

斎藤T「そして、使えるものは何だって使わせてもらうことにしましょう」

 

 

 

――――――世界を救うタイムパラドックスを引き起こすためにも。

 

 

 

斎藤T「岡田T。おそらく思い出したくもないと思いますが、番記者のリストアップをしてもらえませんか。名刺などもありましたら、全てください」

 

岡田T「なに?」

 

斎藤T「どれだけ階級制度や身分差別を憎んでいても、大衆というのはいつだって王子様やお姫様が大好きですから」

 

斎藤T「見た目で人を判断してはいけないと言いつつ、物語の悪役はいつもいかにも怖いって感じの大人だって、そう童話で読み聞かされているものです」

 

斎藤T「とりあえず、フリーライターを用意しておきますか。『ペンは剣よりも強し』ってね」

 

岡田T「ま、まさか――――――」

 

斎藤T「私は書いても投稿はしませんよ。あくまでも書き方を教えるだけであって、()()()()()()()()()()()()()()()()()ことですし」

 

岡田T「へ」

 

斎藤T「偉大なる英雄の偉大さは乗り越えてきた試練、立ちはだかった壁、打倒してきた悪の強大さに比例する――――――」

 

 


 

●クラシック級・トリプルクラウン・トリプルティアラ・グランプリ路線

 

4月:G1レース 阪神・芝・1600m『桜花賞』

4月:G1レース 中山・芝・2000m『皐月賞』

5月:G1レース 東京・芝・2400m『オークス』

5月:G1レース 東京・芝・2400m『日本ダービー』

6月:G1レース 阪神・芝・2200m『宝塚記念』

 

10月:G1レース 京都・芝・2000m『秋華賞』

10月:G1レース 京都・芝・3000m『菊花賞』

12月:G1レース 中山・芝・2500m『有馬記念』

 


 

 

―――――都内のとある高級ホテルのスイートルーム

 

 

斎藤T「――――――というわけですので、“クラシック八冠ウマ娘”を目指しますので、約束通りにシンボリ家の総力を挙げてご協力ください」

 

水鏡I「はあああああ!?」

 

シリウスシンボリ「おい、気が狂ってるのか!? 何なんだ、このふざけたローテーションは!?」

 

斎藤T「でも、これぐらいは目指さないと重賞レース『アグネスタキオン記念』創設なんて夢のまた夢じゃないですか」

 

斎藤T「とりあえず、まずは重賞レース『シンボリルドルフ記念』創設を目指してロビー活動をお願いします。その流れで『アグネスタキオン記念』に繋げたいので」

 

水鏡I「……言っていることはわかる。WUMA襲来の未来を回避するためにタイムパラドックスを引き起こす必要があるのはよく理解した」

 

水鏡I「そこで、『未来世界のデータベース』と予言書『プリティーダービー』に載っていない歴史的事件を国民的スポーツ・エンターテインメント『トゥインクル・シリーズ』で実現させることができれば未来を変えられる可能性が高い――――――」

 

水鏡I「だが、予言書にすら黄金期の象徴だったシンボリルドルフの名を冠した重賞レースがなかったとなると、相当 骨が折れるぞ」

 

斎藤T「なら、何度も骨折しても不死鳥にように『有馬記念』を走りきったトウカイテイオーのように粘り強く活動してください。WUMA襲来の未来が回避されるまで」

 

水鏡I「むぅ……」

 

シリウスシンボリ「意味がわからないぐらいに無茶を言ってくれるな、アンタ?」

 

シリウスシンボリ「けど、たしかに予言書『プリティーダービー』や『データベース』に載っていない新記録が達成できれば、間違いなくそれからの『トゥインクル・シリーズ』の流れは変わり、世間の動きも変わってくるだろうな」

 

シリウスシンボリ「それに、ここまで素人の考え丸出しの無謀な挑戦をしようだなんて、かえっておもしろいじゃないか! 気に入ったぜ! それで“アグネス家の最高傑作”がどこまでやれるか見せてもらおうじゃないか!」

 

水鏡I「まあ、最初の連闘になる『桜花賞』と『皐月賞』だけでも勝つことができれば、それはそれで真の意味で“変則三冠バ”クリフジを超えたウマ娘と評されることになるだろうな」

 

水鏡I「それにクリフジの頃の八大競走の時代だと『オークス』は10月に開催されて、それで『菊花賞』にも出走したのだから、今で言うと『秋華賞』と『菊花賞』を優勝したようなものだから決して前例がないわけではないしな」

 

斎藤T「――――――“変則三冠バ”、そういうのもあるのですね」

 

水鏡I「いや、“トリプルクラウン”と“トリプルティアラ”に連闘する怖いもの知らずが今までいなかったわけじゃないんだ」

 

水鏡I「実際、日本の『トゥインクル・シリーズ』は基本的には近代ウマ娘レース発祥のイギリスウマ娘レースに倣ったもので、それが成立する背景や思想までは受け継いでいないこともあって、」

 

水鏡I「特にこだわりがなければ、担当ウマ娘の距離適性を鑑みて、ひたすら中距離路線を貫いて『皐月賞』『日本ダービー』『秋華賞』のような組合せの“変則三冠ウマ娘”を目指す自由は最初から認められている」

 

水鏡I「ただ、今まで誰もそれを達成してこなかったのはそういった“トリプルクラウン”と“トリプルティアラ”混合の自由な組合せでの“変則三冠バ”達成の褒賞金が出ないせいでもあるわけだ」

 

 

斎藤T「わかりました。では、“変則三冠バ”達成の褒賞金が出るようにロビー活動をお願いします」

 

 

シリウスシンボリ「ハハハハハ! こいつは本気でこれまでのレース体系を変えようとしてやがる、その場の思いつきで! もう笑うしかないな、こんなにも思い切りがいいとな!」

 

水鏡I「たしかに、世界中のウマ娘にとって最高の舞台と崇められている『凱旋門賞』のフランスでは当初は『プール・デッセ・デ・プーラン』『リュパン賞』『ジョッケクルブ賞』『ロワイヤルオーク賞』の四冠体制となっていたが、後に『プール・デッセ・デ・プーラン』『ジョッケクルブ賞』『ロワイヤルオーク賞』で“フランス三冠”とするようになった――――――」

 

水鏡I「ところが、『ロワイアルオーク賞』の後から創設された『凱旋門賞』に有力馬が参戦するようになり、『プール・デッセ・デ・プーラン』や『リュパン賞』で好走したフランスウマ娘がイギリスの本家本元『ダービーステークス』を目指すようになって“フランス三冠”は形骸化された歴史がある」

 

水鏡I「そうした状況からフランスウマ娘レース協会はレース体系の見直しを図り、『プール・デッセ・デ・プーラン』『ジョッケクルブ賞』『パリ大賞典』で“新フランス三冠”とし、」

 

水鏡I「開催時期をイギリス・アイルランドのものよりも早めて、人気の『凱旋門賞』に国内の有力バたちが参戦しやすいように腐心したわけだ」

 

水鏡I「しかし、結果は知っての通り、“フランス三冠”に数えられない『凱旋門賞』の人気ばかりが集中して、“新フランス三冠”の名が広く知れ渡ることはなかった――――――」

 

水鏡I「一方、そのフランスウマ娘たちを魅了する近代ウマ娘レース発祥の地である“イギリス三冠”は『2000ギニーステークス』『ダービーステークス』『セントレジャーステークス』。それぞれが日本の三冠における『皐月賞』『日本ダービー』『菊花賞』のモデルとなった由緒正しき伝統レースだ」

 

水鏡I「更に、“トリプルティアラ”は『1000ギニーステークス』『オークスステークス』『セントレジャーステークス』となっている――――――」

 

斎藤T「……あれ? 『セントレジャーステークス』が“トリプルクラウン”と“トリプルティアラ”で被ってませんか?」

 

水鏡I「そうだ。近代ウマ娘レース発祥の地:イギリスだと日本で言う『菊花賞』が“トリプルクラウン”と“トリプルティアラ”の最終戦となっているわけで、世界最古のクラシック競走とも呼ばれ、最高の権威を誇っている」

 

シリウスシンボリ「ウマ娘レースの代名詞となる『ダービー』や『オークス』も、元を辿れば この『セントレジャー』の成功から生まれたわけなのさ」

 

 

斎藤T「――――――世界最古のクラシック競走『セントレジャーステークス』か」

 

 

水鏡I「斎藤T、さっきの“変則三冠バ”への褒賞金制度はそこまで悪くないやり方もしれないぞ」

 

水鏡I「『凱旋門賞』で有名なフランスでさえ“クラシック三冠体系”が崩壊し、ヨーロッパ諸国でまともな参加率と体系を維持しているのは本家本元:イギリスぐらいなもので、むしろ愚直なまでに“クラシック三冠”を守り抜いている日本のレース体系の方が異常とも言えるぐらいだ」

 

水鏡I「となれば、これからの日本のウマ娘レース界隈を盛り上げるものとして“変則三冠ウマ娘”の認定と褒賞金制度は今までにないローテーションとレース展開を呼んで新しいものが生まれてくるかもしれないな」

 

水鏡I「むしろ、重賞レース『アグネスタキオン記念』創設よりも実現の可能性があるかもしれないな」

 

 

水鏡I「ともかく、斎藤Tがやろうとしている計画については理解した」

 

水鏡I「我らが女王陛下の異世界平和連合がこのウマ娘の異世界と友好的な接触を果たすためにも、恐るべき並行宇宙の侵略者であるWUMAの世界との接触は絶対に避けなければならない」

 

シリウスシンボリ「そのための手段として賢者ケイローンがもたらした『未来世界のデータベース』と女王陛下が自ら書き記した予言書『プリティーダービー』にはない新たな歴史を創ることでタイムパラドックスを引き起こそうというわけだな」

 

水鏡I「そういうことでしたら、我々と利害の一致が図れたということで、喜んで協力しましょう」

 

水鏡I「1年、時間をください。私もこれから異世界を渡って異世界平和連合の主宰であらせられる女王陛下の許で準備と調整を行ってから、あなたの担当ウマ娘のクラシック戦線に加勢します」

 

斎藤T「わかりました」

 

水鏡I「それと、1()0()()()()()()()()()に備えるなら、選択の幅を拡げるために、陣営の人間には10年分のパスポートを用意させておくといいかもしれません」

 

水鏡I「私自身も世界各地を練り歩いて各方面に顔が利きますから、報道の目から逃れるのにうってつけの隠れ家に案内できますよ」

 

斎藤T「なるほど。用意させておきます」

 

水鏡I「とにかく、これから成そうとするのは伝説などではなく神話だ。神話の世界はとかく奇想天外で圧倒的で理不尽なものだ。それを現代で成そうとするのだから、異端に対する排斥運動は過激となるはずだ」

 

水鏡I「それでもやり遂げる価値があると思わせたあなたの熱意に応えて “悪魔の権化”が契約に従い 参上しましょう」

 

 

――――――なに、とっくの昔にトレセン学園を去った“悪魔の権化”の存在に今もURAのお偉方が怯えているのですから、いざとなったらどうとでもなりますよ。

 

 

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