ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XY年02月15日の航星日誌- GAUMA SAIOH
ようやく2月11日の建国記念の日の祝日を押しての中等部のトレセン学園の入試期間が終了する。
来週からは高等部の入試期間――――――、そして、『URAファイナルズ』準決勝トーナメントである。
その前日、私は夢の舞台の門を潜ることができずに失意の内に去っていきながら、残念で無念な妄念の後片付けをさせられることになり、この時ほど冠婚葬祭を執り行える祭司長の資格を取っていたことを後悔させられたことはない。
しかし、私の苦悶、受験生たちの絶望とは裏腹に、世間では女性がアプローチしたい意中の男性に愛情の告白として本命チョコを贈る習慣があるバレンタインデーでもあった。
事実、『URAファイナルズ』準決勝トーナメントや2月の重賞レースに出走する陣営であったとしても、トレセン学園はまだ見ぬスターウマ娘たちの超高倍率の入試期間によって授業を行うどころではないため、実質的な休業期間にもなっていた。
それで得られる毎年2月の余暇に2月14日:バレンタインデーが重なっているため、進級や卒業を懸けた期末試験を終えて3月からの激戦の幕開けに備えて英気を養う合間に生徒たちは日頃の感謝や応援の気持ちを表すためにこぞってチョコを贈り合うのであった。
それが顕著なのは、自分こそが未来のスターウマ娘なのだと真剣な表情でトレセン学園の正門を潜る受験生たちが集まる校舎側ではなく、生徒以外立入禁止の巨大な住宅団地となっている学生寮側であり、
私自身は生徒ではないので未だに学生寮の中を見て回ることはできずにいるのだが、少なからずバレンタインデー当日のSNSでの投稿によってその活況を窺い知ることができていた。
そして、トレセン学園の華であるスターウマ娘ともなれば万単位のファンがいるわけであり、学園に通っている我が子や友人を通じて日本各地から手作りチョコが山のように送りつけられ、その圧倒的物量が近所迷惑になることもあり、
学生寮という巨大な居住区の1つの中心となっている公会堂にて、有志が一角を借りて そこに気持ちのこもった手作りチョコを集めて整理するようになっていたようである。
やがて、それが一種の人気投票企画にもなったようで、それによって自分たちが応援しているスターウマ娘の人気度が一目瞭然になることもあり、手作りチョコの山が競うように無秩序に大きくなっていくのであった。
そのため、トレセン学園学生寮の自治を司る自治会の長である歴代寮長はこの状況に規制をかけるようになり、常識的に考えて一個人が持ち帰って食べ切れる量ではなくなったチョコの山の処理の負担を減らすように配慮を生徒会に具申してファンクラブの規則に改定をもたらした。
また、無秩序に積み重なったチョコの山が倒壊した時の危険性や、隣のチョコの山にのしかかった時に余所行きのチョコが混同する被害も考えて、
ホールケーキが入るぐらいの四角いブロックの中にチョコを入れて積み重ねていけるように規格化されるようにもなり、
無秩序に積み重なったチョコの山から一変してチョコが入ったブロックで構成されたお菓子の城が公会堂の中に立つようになり、これがトレセン学園学生寮における季節の風物詩になっていたのだ。
やがて、この自治会考案の積み重ね可能な四角いブロックの名称は西洋料理で用いる食べ物の温かさや鮮度を保つために皿にかぶせる金属製の覆いに擬えて“クロッシュ”と呼ばれることになった。
一方で、スターウマ娘を擁する名トレーナーも総生徒数2000名弱に対して1割程度しか居ないこともあって、トレーナーからのスカウトを受けないことには夢の舞台を走ることができないウマ娘からの熱い感情がぶつけられる日でもあった。
URAの職員であってトレセン学園の教職員ではないトレーナーは必ずしもトレーナー寮を利用する必要はないし、大人の世界においてはそれが贈収賄になる可能性があるのでチョコの山がトレーナー寮に築かれることはないのだが、
それでも、スターウマ娘と同じぐらいに想いを伝えたい名トレーナーにはトレーナー室に自分の担当ほどではない小ぢんまりとしたチョコの山が築かれることにはなった。
あるいは、自治会で規格化されたブロック“クロッシュ”に本格派スイーツなどを入れる生徒もいるわけであり、
トレセン学園においては自治会で規格化されたブロック“クロッシュ”のレンタルサービス事業が展開されており、それが自治会の主な収入になっていた。
規格化されて様々なカラーリングが用意されている“クロッシュ”は包装してプレゼント箱にすることも許可されており、QRコードを読み取れば誰が誰宛にどういうメッセージを持って送り出したものなのかがはっきりわかるようにもなっていた。
そして、重要なのは消費期限の表示であり、元々が全国各地から学生寮宛に送りつけられるチョコの置き場所の安全と品質の管理のために規格化された“クロッシュ”であるので、内容物の消費期限に関しては極めて厳しい規定が施されていた。
更に、最新式の“クロッシュ”になると、やや重いが 電子錠によって送り主が設定したパスワードを入力しないと開かない仕掛けになっているので、これによって内容物とプライバシーの保護が強固となっていた。
――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室
アグネスタキオン「おお、この“クロッシュ”はハヤヒデくんとブライアンくんからだね。律儀なものだ」
アグネスタキオン「中身は――――――」
斎藤T「こっちは“皇帝”シンボリルドルフからか……」
アグネスタキオン「おやおや、全てのウマ娘にとって憧れの存在である“最強の七冠ウマ娘”からチョコを貰えるとはねぇ」クククッ
斎藤T「まあ、トウカイテイオーやメジロマックイーンの名義で岡田Tと和田Tからも感謝の印をもらっているけどね」
アグネスタキオン「ライスシャワー、ミホノブルボン、ハッピーミークといったスターウマ娘からももらっただろう、昨日 手渡しで」
アグネスタキオン「きみ、世間の人間から見たら羨ましいを通り越して嫉妬のあまりに刺し殺されるかもねぇ?」
斎藤T「うん、正確にはライスシャワーが代表してだけど、その場で口にした桐生院先輩とハッピーミークが作ったフルーツパウンドケーキは美味かったな」
アグネスタキオン「う、ううん……? これはまさかの“女帝”エアグルーヴからの“クロッシュ”じゃないか、トレーナーくん?」
斎藤T「え、どれどれ?」
斎藤T「――――――」ジー
アグネスタキオン「わざわざバレンタインデーに“クロッシュ”を送ってきてくれたんだ。メッセージには何て書いてあったんだい?」
斎藤T「ああ、アグネスタキオンのメイクデビューを祝う言葉と担当トレーナーとしてその手綱をしっかりと締めて各方面に迷惑を掛けないようにと」
斎藤T「それと、『先代のように甘くはないから、そのつもりでいろ』という有り難い忠告だな」
アグネスタキオン「そうか。わざわざ“クロッシュ”のレンタル代に手作りチョコを添えて、こんな形で忠告してくる辺り、彼女も律儀なものだねぇ」
斎藤T「そうだな。偉大なる指導者であった“皇帝”の後を継ぐ“女帝”としては何から何まで比較されて本当に辛い1年間になるだろうからな」
斎藤T「せめて、来年度の『URAファイナルズ』で有終の美を飾れるようには支えてやる義理はあるかな」
アグネスタキオン「そうだね。それが私からの“皇帝”シンボリルドルフへの義理立てでもあるねぇ」
斎藤T「おや、まさか、そんな殊勝な心掛けがアグネスタキオンにできたとはな」
アグネスタキオン「きみ、私のことを血も涙もない冷血動物だと勘違いしていないかい? さすがにそこまで冷酷非道ではないぞ?」
斎藤T「だったら、チョコレートの体臭にする手作りチョコを渡してきたことへの釈明は?」
アグネスタキオン「いや~、いいモルモットだよ、きみは!」
斎藤T「たしかに疲れた身体には優しいミルクチョコレートで、おそらくは疲労回復効果のあるスパイスも混ぜてくれていたんだろう? 掛け値なしに美味かったよ!」
斎藤T「けどな! そのせいで『風に乗って受験生たちの集中を乱す』ということで駿川秘書に外出禁止にさせられているんだぞ、今!」
アグネスタキオン「まあまあ、退屈になったのなら ここから百尋ノ滝に行けばいいのだし、昨日は満足に確認できなかった“クロッシュ”を見る時間がとれたのだし、何も損などしていないだろう?」
斎藤T「あ、わかった! 疲労回復効果のあるスパイスが混ざったドリンクって臭いがアレだから、それが鼻につかないようにチョコレートの臭いを強烈に強化した結果がアレなんだろう!? どうもありがとなッ!?」
アグネスタキオン「おやおや、さすがだね、モルモットくん」
アグネスタキオン「実は、そうなんだよ。自然な臭いにするためにスパイスの臭いを打ち消すようにチョコレートの臭いを強めた結果、体臭をチョコレートに変える大発見をしてしまってだねぇ」
斎藤T「……うーむ、一時的に体臭を変化させられる薬か。内分泌によって香水よりも長く効果を得られるわけだが使い所を選ぶな、これは」
斎藤T「けど、魔除けや虫除けの香を体臭にすることができれば、かなり作業性が上がるだろうな」
アグネスタキオン「すぐに実用性を見出すとはさすがだね。そうでないと」
アグネスタキオン「ということは、今度は除虫菊に含まれる殺虫成分:ピレトリンの体臭を発するチョコレートを作ればいいのかな?」
斎藤T「……いや、その前に石鹸だとかハーブの香りがする無難なものから安定した発現性と時間設定のものを作ろう。これだと臭いがキツすぎるし、長すぎるのも問題だ」
アグネスタキオン「そうか。それもそうだね。今後の参考にさせてもらうよ」
アグネスタキオン「ああ、やっぱりいい! やっぱりいいよ、モルモットくん! きみは最高のモルモットだよ!」
斎藤T「どうした、急に?」
アグネスタキオン「いや、改めてきみという“門外漢”とこうしてトレーナー契約を結んで、ギリギリまで待つことを選んだメイクデビューの最後のチャンスを掴めたことに、思うところがあってね」
アグネスタキオン「それに、私はウマ娘の神秘を追究する研究者で、自分の興味の赴くままに没頭する私の研究成果に実用的価値を次々と与えてくれたのはきみなんだ」
アグネスタキオン「だから、私としてはきみを手放す気は毛頭ないのさ」
――――――さもないと、他の誰かにきみを奪られてしまうからね。
斎藤T「まあ、当然だな」
アグネスタキオン「言い切ったね」
斎藤T「そりゃそうだ。人の上に立つということは下々を掌握するために最低限の知識と理解を持って一定の万能性を有さなくてはならないからな」
斎藤T「組織という不特定多数の法人に注がれていた能力を特定の個人にだけ使い切ることになったら、そりゃあ何をしたって一角の人物になれるさ。コツさえ掴めば何にだって成功体験は応用できる」
斎藤T「能力を磨くというのは責任の重圧に耐えていくうちに本当の実力が身につくわけで、地球の重力から解放された筋肉や骨がすぐに衰えてしまうことを考えれば、成長のためには圧力は不可欠だ。それが自然の法則だ」
斎藤T「逆に言えば、本物になりたいのなら安住を捨てて自らを窮地に追い込む他ない」
斎藤T「そうした宇宙の真理を説いているのが老子の教えだ」
学を為せば日々に増し、道を為せば日々に損ず
これを損じて又損じ以って無為に至る
無為にして為さざる無し
斎藤T「まあ、『商人は損していつか倉が建つ』『商人は損をして得を取れ』と言い換えれば、俗的な理解に繋がるか」
斎藤T「私が思うに、ウマ娘:アグネスタキオンは所謂“エリートウマ娘”の道を捨てて、退学処分の瀬戸際を歩きながらも4年間ジッと忍耐を重ね続けてきたわけだから、それも無為にして為した結果と言えるのだろうな」
斎藤T「そういう意味でも、私が選ぶならアグネスタキオンだっただろうな」
アグネスタキオン「そうかい」
斎藤T「もっとも、それはアグネスタキオンのことを十分に知っていることが前提だ」
斎藤T「部活棟の化学実験室に引き籠もっていたお前の許に向かう偶然がなかったら、お前はそのまま退学処分になっていた」
アグネスタキオン「でも、きみは来てくれただろう? そうして今、トレーナー室に私ときみは一緒にいる」
斎藤T「賢者ケイローンは言った」
――――――部活棟に向かうんだ。そこで“きみの運命”と出会える。
アグネスタキオン「そして、私という“運命”に出会えた」
斎藤T「アグネスタキオンという“約束された三冠バ”を口説き落とせない 口ばかりのベテラントレーナーたちはこれを機に己を磨くことだな」
斎藤T「コモディティ化した白物家電業界は少しでも顧客に注目してもらえるように懸命に差別化を図って独自の進化を遂げているんだ」
斎藤T「いや、日本の優れた精密工業を支えている下請け業者だって、他の業者に仕事を取られないように日々の研究で改良を重ねてきているんだ」
斎藤T「同じように、ウマ娘を育てるだけのトレーナー業界もまた、大きな個性を光らせて差別化ができるようにならないとな」
アグネスタキオン「そのために、きみは
斎藤T「いかにも。黒船来航以来の幕末の激動から世界に冠たる明治維新の原動力になったのは外圧だ。危機感だ。
斎藤T「私は黄金期によって絶頂を迎えた中央トレセン学園を絶望に叩き落として脱皮を促すつもりだ。失敗すれば、脱皮不全になって そのまま滅びるだけだ」
斎藤T「まあ、これしかないんだ。“帝王”トウカイテイオーの全盛期に準じる能力を4年間で蓄えた最強のウマ娘:アグネスタキオンとの勝負から逃げ出さないようにするためには、敵の存在を通じて中央のプライドを煽るしかない」
斎藤T「私はそのための有用なコネクションを 昨日 手に入れることができた」
アグネスタキオン「――――――横浜トレセン予備校“根岸校”か」
アグネスタキオン「まあ、知らないわけじゃない。私もいつまでもトレセン学園にいられると思っていたわけじゃないから、国の内外問わず いろんな団体の情報を集めていたからね」
アグネスタキオン「しかし、そうか。きみは横浜に興味を持ったわけか」
アグネスタキオン「元が中央から独立したトレーナーたちが中心になっているだけに、設立して10年足らずでG3ウマを数多く輩出してきた新進気鋭で、中央に入れなかった子たちの勧誘に熱心だったし、G2レースで好走を果たした子たちも多く見られるようになってきたからね」
アグネスタキオン「たしかに、東京に対抗するなら横浜は申し分ないだろう。近隣の川崎トレセン学園とも提携することも容易で、歴史的にも『横浜競バ場』の復活を心待ちにしていたファンも多いからね」
斎藤T「そうだ。これでお前が主役のレース開催は確実なものとなった。トレセン予備校という団体を利用することでね」
アグネスタキオン「つまり、私の実力を恐れて中央のウマ娘たちが出走回避するようになったら、G1格への昇格を狙う横浜トレセン予備校のウマ娘たちを出走させてレース開催に持ち込むという駆け引きができるようになったというわけだね」
斎藤T「そういうことだ。天下の中央トレセン学園に所属していることに胡座をかいていると、かつての暗黒期のように地方競バ出身のオグリキャップに中央競バの人気回復を託すような事態を再び招くことになる――――――」
コンコン・・・!
アグネスタキオン「おや?」
斎藤T「……まだお昼時には早いし、今日で最後になる中等部の入試も始まったばかりの時間だぞ?」チラッ
アグネスタキオン「――――――」コクリ
斎藤T「どうぞ」ガチャ
ソラシンボリ「ハッピーバレンタイン! 斎藤T!」
斎藤T「ソラシンボリ!?」
ソラシンボリ「はい、ソラシンボリです! 斎藤T!」
斎藤T「このイタズラ者め。一度来たことがあるからって、関係者以外立入禁止の場所になっているだろう、ここは」
ソラシンボリ「だって、これからお世話になるのに、昨日は入試だったから――――――」エヘヘ・・・
ソラシンボリ「…………物凄くチョコレートの甘い臭いがしますね、斎藤Tって」
ソラシンボリ「チョコレートの食べ過ぎですか?」
斎藤T「いや――――――」
アグネスタキオン「ほほう! いい筋肉だ!」ガバッ!
ソラシンボリ「きゃっ」
アグネスタキオン「きみが噂のソラシンボリくんかい! 歓迎しようじゃないか! ようこそ、私のラボへ! 私がアグネスタキオンだ!」
ソラシンボリ「あ、はい。はじめまして、アグネスタキオンさん」
斎藤T「……えらく上機嫌だな」
アグネスタキオン「いや~、なんだか 一目見た瞬間 他人のようなそうでないような気がしてねぇ」
アグネスタキオン「なんというか、スカーレットくんに近いものを強く感じるよ、きみからは」
ソラシンボリ「ダイワスカーレットさんのことですか?」
アグネスタキオン「うん、そうそう。スカーレットくんは間違いなく“女帝”の後を継ぐ存在になるだろうから、きみも将来有望だねぇ!」
ソラシンボリ「ありがとうございます!」
斎藤T「きみ、昨日が入試だったんだろう? 家に帰らなくていいのかい? 親御さんは?」
ソラシンボリ「あ、大丈夫ですよ。タキオンさんのライバルになるだろう“エリートウマ娘”の候補を見定めるためにシリウスさんが連れてきてくれましたから」
斎藤T「……ここまでシンボリ家の形振り構わない姿勢を見ていると『名家』も『名門』も本当に同じ穴の狢だな」
斎藤T「まあ、とりあえず 保護者同伴なら、ここで預かることにはするけど……」
アグネスタキオン「ああ。さあさあ、こっちの席だよ、ソラシンボリくん」
ソラシンボリ「はい」
ソラシンボリ「――――――」キョロキョロ
ソラシンボリ「あ」
斎藤T「ああ、これはトレセン学園名物のバレンタインデーの贈り物で、トレセン学園学生寮自治会考案の“クロッシュ”という規格のプレゼント箱だよ」
斎藤T「こんなふうにトレセン学園内では“クロッシュ”という社内便のようなもので運送する配達サービスとレンタルサービスが事業化されているんだ」
斎藤T「たとえば、この“クロッシュ”のQRコードを読み込んでみて」
ソラシンボリ「はい」スチャ
ソラシンボリ「あ、これって――――――」
斎藤T「うん。“最強の七冠バ”シンボリルドルフからのバレンタインデーの贈り物だ」
ソラシンボリ「凄いです! “皇帝”シンボリルドルフから直々にチョコが貰えるなんて!」キラキラ
ソラシンボリ「じゃあ、こっちは!?」ワクワク
斎藤T「どうぞ」
ソラシンボリ「わあー! この箱は“最強姉妹”ビワハヤヒデとナリタブライアン! こっちは“女帝”エアグルーヴ! “最強の
アグネスタキオン「そして、この箱が――――――」
ソラシンボリ「――――――“不滅の帝王”トウカイテイオー!」キラキラ
ソラシンボリ「凄いです! 斎藤Tは今を時めくスターウマ娘からこんなにもバレンタインデーの贈り物を貰っているんですね!」ドキドキ
アグネスタキオン「それだけじゃなく、ライスシャワー、ミホノブルボン、ハッピーミークの分からも手渡しで貰っていたね、昨日」
ソラシンボリ「わあー!」ウキウキ
斎藤T「せっかくだから、食べていかない? “皇帝”シンボリルドルフからのバレンタインデーチョコなんて今年で最後なんだから」
アグネスタキオン「おやおや、いいのかい? きみに宛てたものじゃないのかい?」
斎藤T「――――――『
アグネスタキオン「そうだね。『ソラシンボリなんて子はここにはいない』、そういうことだね」
斎藤T「それに消費期限も気になるところだし、早いところ食べちゃわないと、そっちの方が失礼に当たるからな」
アグネスタキオン「じゃあ、食器を並べてくれ、トレーナーくん。私は紅茶を用意しよう」
斎藤T「わかった」
ソラシンボリ「へえ……」ドキドキ
ソラシンボリ「美味しかったです!」ニッコリ
斎藤T「ああ、本当に美味しかったな、これ」
アグネスタキオン「さすがは“皇帝”シンボリルドルフといったところだね。オリジナルのトリュフチョコとはねぇ」
斎藤T「じゃあ、次は“女帝”エアグルーヴからの贈り物:薔薇のチョコブーケをいただくとしようか」
アグネスタキオン「こっちも手が込んでいるねぇ」
ソラシンボリ「はい!」
斎藤T「む、ビターな味わいだな。厳格な“女帝”らしい味わいでもあるかな」フムッ
アグネスタキオン「これはホイップクリームの甘さがちょうどいいぐらいだね」ペロッ
ソラシンボリ「糖分控えめの味ですね」パクッ
斎藤T「しかし、こうして中等部の入試試験の最終日に優雅にスターウマ娘のバレンタインデーチョコの試食会をやっているだなんて、とんだ贅沢だな。あ、紅茶が美味い」ゴクッ
ソラシンボリ「そうですね。私も昨日は真剣な態度で入試を受けていましたから、昨日の緊張感と今日の幸福感で頭がどうにかなりそうです」
アグネスタキオン「シンボリ家で英才教育を受けたきみから見て強そうだと思ったウマ娘はいたかい?」
ソラシンボリ「そうですね。試験レース自体は私の圧勝で、それで途中退場しちゃった子が何人もいましたけど、」
ソラシンボリ「ボクの次の組で走ったキタサンブラックっていうボクと同じぐらいにバ体の大きい子が鬼気迫る勢いで圧勝していましたね」
斎藤T「――――――『キタサンブラック』? どこかで聴いた名前だな」
アグネスタキオン「他には?」スッ ――――――メモを取って それをトレーナーに渡している。
ソラシンボリ「あと、リトルココンって子が凄かった」
ソラシンボリ「1ハロン走を全力疾走して少しも息を切らしていなかったから、スタミナと肺活量に優れた
斎藤T「なるほど、『リトルココン』か。これは将来有望ってところかな」カタカタ ――――――受験者名簿を確認中。
ソラシンボリ「それぐらいかな、昨日のバレンタインデーの時の凄かったの」
ソラシンボリ「でも、建国記念の日の受験初日で話題に上がったサトノダイヤモンドも要注目って言ってた、シリウスさん」
斎藤T「――――――『サトノダイヤモンド』? こっちも聴いたことがある名前だな」
アグネスタキオン「ああ、サトノグループの令嬢だろう。URAへの運営協力や慈善事業といったレース文化の発展に貢献している
アグネスタキオン「私もサトノ家のウマ娘とは会ったことはあるし、実験の協力を依頼したこともある」
斎藤T「そうなのか?」
アグネスタキオン「まあ、アグネス家のやり口を知っているから、色の良い返事はしてもらえなかったけどね」
アグネスタキオン「でも、そうか。あそこは新興ということもあって、未だにG1ウマ娘を輩出していないから、いよいよ本腰を入れてG1制覇のために動き出したか」
ソラシンボリ「そうみたいですね。たしか、来年度に竣工するエクリプス・フロント建設のために多額の資金提供をしたのもサトノグループだって聞いてます」
アグネスタキオン「だろうね。おそらく、エクリプス・フロント建設の背景にはサトノ家の姫であるサトノダイヤモンドの入学が大いに関係しているはずだよ」
斎藤T「秋川理事長とシンボリルドルフが築き上げた黄金期の遺産であるエクリプス・フロントをサトノ家の栄光の象徴にするためか。大した野心だ」
――――――だが、そうでなくちゃ! こいつはおもしろいことになったな、競走バ:アグネスタキオン!
アグネスタキオン「そうだね。これは退屈せずにすみそうだよ、トレーナーくん」クククッ
ソラシンボリ「?」
アグネスタキオン「なに、意地と誇りと美学を持ったウマ娘たちが相手なら、相手として不足はないというだけの話さ」ニヤリ
斎藤T「ああ。『名家』とまではいかない良家の姫君が出てくるんだったら、サトノ家に認められた担当トレーナーとしては引くに引けないよな?」ニヤリ
斎藤T「これは来週からの高等部の入試試験も大物が来そうだな。中高一貫校だから、中等部の枠より定員が少ないけど」
アグネスタキオン「まあ、『URAファイナルズ』準決勝トーナメントもあることだし、来週も大きな動きが見られそうだね」
――――――逃げないでおくれよ? ウマ娘の可能性の“果て”に辿り着くためには最高の舞台が必要なのだからね!
アグネスタキオン「ところで、きみ? 最愛の妹からチョコはもらっていないのかい?」
斎藤T「もらっているよ。超高級フルーツ大福の詰め合わせと宇治玉露」
斎藤T「ただ、ここでいただくつもりはない」
アグネスタキオン「どうしてだい?」
斎藤T「ヒノオマシは賢い子だからな。
斎藤T「だから、ヒノオマシからの贈り物は百尋ノ滝でゆっくり味わおう」
アグネスタキオン「そうか。きみの妹も律儀だねぇ」
斎藤T「そうだな。あっちも全寮制だから しばらく会っていないけど、近況を綴った筆ペンで書いた古風な手紙を読む限りだと、先生や友達に恵まれているようだ」
アグネスタキオン「……これからきみが私と一緒にやろうとしていることは何も知らずにね」
斎藤T「――――――これも広い意味で天皇家への奉公だ」
斎藤T「近代ウマ娘レースの日本での受容とウマ娘の社会進出は明治天皇陛下が国を思ってしたことなのだから、私は明治天皇陛下の御心に従って、少しばかり業界に圧力を掛けるだけだ」
アグネスタキオン「あるいは、江戸幕府の遺産である横浜競バ場との繋がりを考えると、もっと大きなものになりそうだけどね」
斎藤T「ああ、東京の全てを敵に回しても横浜の全てが味方になれば、無視はできないさ」
斎藤T「横浜トレセン予備校と近いうちに接触するつもりだから、準備はしておいてくれよ」
アグネスタキオン「やれやれ、トレセン学園の支配層であるシンボリ家との密約を交わしただけじゃなく、トレセン学園から独立した横浜の連中とも密約を交わすことになろうとはね」
アグネスタキオン「トレーニングやレース全般に関しては“無敗の二冠バ”トウカイテイオーの岡田Tに任せて、きみは私のための舞台を用意してくれるのだから、私もウカウカしていられないねぇ」
斎藤T「それじゃ、仕事に行ってくる」ゴロゴロ・・・ ――――――使い捨てカメラが満載のキャリーカート!
アグネスタキオン「ああ。存分にやってくれたまえ。学園に蟠る未練を払っておいてくれたまえ」
ゴロゴロ・・・
斎藤T「さて、中等部の入試は今日で終わりだ」
斎藤T「今日もまた、どれだけの生霊が大地にこびりついたのやら」
斎藤T「ん」
マンハッタンカフェ?「――――――」ジー
斎藤T「ああ、そうだった」ピポパ・・・
斎藤T「もしもし、和田Tですか? 渡したいものがあるんですけど、今 どこにいます? トレーナー寮にいないなら守衛室に預けておきますね」
斎藤T「――――――御守ですよ、御守」
斎藤T「ええ。効果覿面ですから、肌見放さず持っていてください。デザイン面に不満があったら、改良案に従ってカスタマイズしますから」
斎藤T「お代は、お気持ちでどうぞ」プツッ
マンハッタンカフェ?「――――――」ジー
斎藤T「これで満足か?」
斎藤T「いったい何なんだろうな、お前は?」
斎藤T「まあいい。邪魔をしないんだったら、それでいいさ」
――――――今日も今日とて、昨日も昨日とて、明日も明日とて、世のため、人のため、斎藤 展望が往く。