ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第11話   黒と影と闇のURAファイナルズ

-西暦20XY年02月24日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

この日は『URAファイナルズ』準決勝トーナメント2日目、決勝戦がフルゲート:18人となるように準決勝のレース数は18レース(1着のみ勝ち上がり)となり、通常の一日12レースまでの開催を踏まえて9レースずつの開催となる。

 

予選トーナメントの時は『URAファイナルズ』に参加できる資格を持つ現役のスーパーシニア級のウマ娘が少なかったことで1着じゃなくても勝ち上がることができたため、どれだけ実力差があったとしても賞金獲得と準決勝進出で歓喜に湧き上がる声が響き渡ったが、

 

準決勝トーナメントは完全にG1ウマ娘の独壇場となっており、順当に実力者が決勝戦進出を果たすこととなり、それこそが最強のスーパーシニア級を決める『URAファイナルズ』の趣旨としてわかりきった展開のため、私はそれをつまらないものに感じていた。

 

 

さて、準決勝トーナメントのレースも残り半分となり、これで来月3月の卒業シーズンに開催される決勝トーナメントに出走する強豪18人の顔ぶれが決まるわけである。

 

ただ、3月からは春の訪れと共に実質的なウマ娘レースの開幕戦が始まる頃でもあるので、世間の関心は『弥生賞』『チューリップ賞』『高松宮記念』へと向いていき、『URAファイナルズ』から離れていくことが予想された。

 

もちろん、『URAファイナルズ』決勝トーナメントでトレセン学園を卒業する子たちにとっては4月からの新生活のことも考えなくてはならないわけで、その辺りのトレセン学園卒業や新生活準備に配慮した日取りが求められた。

 

もっとも、『URAファイナルズ』決勝トーナメントは異例のトーナメント制であることから1レースしか開催されないため、そのためだけに他の重賞レースの開催に割り込ませて共催とするのは既存のレース体系を混乱させることになるため、

 

『URAファイナルズ』決勝トーナメントは3月に開催される重賞レースの日程とどうしても重なってしまうものの、開催を主導した秋川理事長としては 他の重賞レースの開催を妨害しないように たった1レースだけの決勝トーナメントの日程調整には随分と骨を折ったようである。

 

 

『第68条:競走の数は、1日につき12以内とし、日出から日没までの間に行う』

 

 

その結果、決勝トーナメントは重賞レースが開催されている競バ場以外の場所で開催し、それでいて1レースだけの開催としながら異例の13レース目に相当する時間帯を指定し、日本全国で同時中継できるように各方面に掛け合ったそうなのだ。

 

これによって、最終的な『URAファイナルズ』決勝トーナメントの日取りは都内の学校の卒業式が終わった直後の3月16日に設定されることになり、G3レース『フラワーC』『ファルコンS』が終わった後に満を持しての開催となるとのこと。

 

 

そんな内容の説明が『URAファイナルズ』準決勝トーナメントのレースの合間に流れる特別番組でなされた後、私は昨日に引き続き『URAファイナルズ』準決勝トーナメント観戦プログラムの場で、積極的に担当ウマ娘:アグネスタキオンの売り込みを行っていた。

 

これは“最強の七冠バ”シンボリルドルフに続く“無敗の三冠バ”ミホノブルボンが新バ戦(メイクデビュー)前から相当数のファン数を獲得して人気投票で出走権が得られる『宝塚記念』『有馬記念』への布石を打っていたことにならった地道な営業活動でもあった。

 

しかし、これがなかなかに効果覿面で、この観戦プログラムにやってくるのは自分こそがターフの上で栄光を掴むと意気込んでいる未来のスターウマ娘たち以上に、テレビ画面からウマ娘レースを見ていることが多い一般人ばかりなのだ。

 

要は、実際に競バ場まで行って自分たちの推しを応援するファンや関係者とはちがって、ここに集まっているのはどちらかというと過去のウマ娘レースで名を残した往年の名バたちに会えることを楽しみにしているような古参ファンやよくわからないけど有名人が来ているなら会ってみようとやってきたミーハーが多いのだ。

 

そのことは何ら悪いことはない。自分たちがウマ娘レースに熱狂していた頃の名バに会える機会を古参ファンに提供することで観戦プログラムに来てもらって、子供たちと世代を超えて『URAファイナルズ』という新たなレースを心に刻ませるのが目的でやっていることなのだから。

 

つまり、夢の舞台の実情をよく知らない人たちだらけというわけで、こうした層はトレセン学園のファン感謝祭に足を運ぶことも稀であるため、ここで学園で悪名高い担当ウマ娘“触れるべからずのタキオン(アンタッチャブル・タキオン)”への第一印象を最高のものにしておけば、あらかじめファン数を稼いだ状態で新バ戦(メイクデビュー)に挑むことができるようになるのだ。

 

業界への話題性は元より十分だろう。前代未聞の高等部2年生からのメイクデビューであり、過去に何度も退学勧告を受けてきた超問題児“アグネス家の最高傑作”がいよいよ歴史の表舞台に姿を現すのだから。

 

私が担当ウマ娘に求めているのは未来の歴史に存在しないタイムパラドックスであり、神話として語り継がれるほどの偉業の達成であり、そのためにはアグネスタキオンというウマ娘に触れたそれぞれが生き証人となって神話を語り継いでくれる語り部になってもらわなければ困る。

 

そのため、現地に足を運んで観戦している熱心なファンには申し訳ないが、私が求めるのはアグネスタキオンという存在に心を奪われてウマ娘レースに関心を寄せるようになる新規ファン層の開拓であり、にわかファンにアグネスタキオン最強説を吹聴してもらいたいのだ。

 

そして、このOB会が主催する観戦プログラムもまた『URAファイナルズ』を毎年盛り上げるために恒例化させることが決まったため、現地で観戦するよりも超大物ゲストとして呼ばれることになる歴代の名バたちとここで繋がりを持った方がイメージ戦略としては大変有効なのだ。

 

実際、この第1回となる最初の『URAファイナルズ』観戦プログラムだけで、オグリキャップ、タマモクロス、スーパークリーク、マルゼンスキー、シリウスシンボリといった暗黒期に活躍した名バたち、黄金期の象徴である“皇帝”シンボリルドルフとの集合写真に私の担当ウマ娘が堂々と入っているというだけで宣伝効果は抜群である。

 

また、トレセン学園が世界最先端のハイテク校を目指していることもあって、そういった最先端テクノロジーの紹介コーナーでは私と私の担当ウマ娘の独壇場となるため、ウマ娘レースにそこまで興味を持っていなかった層や昔ながらの古参ファンからはアグネスタキオンこそが次世代を象徴するウマ娘であると印象付けることに成功した。

 

意外なのは、そのアグネスタキオンが特にファンという程の関心を持っているわけでもない子供たちの相手に真摯に向き合っていたことだった。

 

私もそのアグネスタキオンの担当トレーナーとして場にいるわけで、古参ファンに昔のウマ娘レースの何が素晴らしかったのかなどを積極的に聞き込みをして歓談をしながら交流を深めていったのだが、第3の性としてヒト社会に溶け込んでいるウマ娘の存在はやはり全体的に見れば希少な存在なのだと口々に語られることになった。

 

というのも、かつてハイセイコーによって第一次競バブームが到来した際、日本ではヒトとウマ娘との結婚が盛んになり、ウマ娘;とりわけ競走ウマ娘の年間出生数が世界第3位に食い込んでいた時期があったのだ。

 

それでも、その時の競走ウマ娘の年間出生数はたったの1万人超であり、日本でのヒトの出生数が年間100万人前後なのを考えたら、やはり第3の性であるウマ娘はヒト社会においては圧倒的少数派であった。

 

ところが、段々とヒトを超越した身体能力と闘争本能を持つウマ娘と結婚することがどういうことなのかが知れ渡っていくに連れ、ウマ娘との結婚を控える流れが生まれ、現在では競走ウマ娘の年間出生数のランキングでは第5位:7000人程度にまで激減している。

 

そのため、世界的に見てウマ娘大国に数えられる日本においても、実際にウマ娘と間近に触れ合える機会は少なく、ヒーローショーでしか会えないマスコットキャラクターのような感覚があるのだとか。

 

もちろん、この時代だと女性の社会進出もようやく本格化していたが、圧倒的少数派の第3の性であるウマ娘はオフィス街で見かけることは確率的にかなり低いこともあって、黄金期を迎えて人気絶頂とされるウマ娘レースとは裏腹にヒト社会におけるウマ娘の社会進出もまた問題を抱えていることを知ることになった。

 

なので、子供の好奇心に興味津々なアグネスタキオンの科学者としての振る舞いは意外にもウマ娘レースとは縁遠い一般家庭の子供にとっては親しみやすいものがあるらしく、見ていて安心するものがあるらしい。

 

正直なところ、私も思うのだが、国民的スポーツ・エンターテインメントである『トゥインクル・シリーズ』に興味がない世事に疎い例外的な層からすれば、ウマ娘レースの何が持て囃されているのかがわからないところがある。なんで走った後に踊るのかという初歩的な疑問を抱いている層も多いことだろう。

 

そして、そのためにウマ娘のクラスメイトがいない子供時代を送っている小学生ほど、第3の性であるウマ娘がテレビで存在が語られる半ばファンタジーの存在だと捉えており、外国人を見るような眼で見ているのだとか。

 

だから、もしも競バ場によく足を運ぶウマ娘レースのファンがこの観戦プログラムの方に数多く足を運んでいたのなら、超豪華ゲスト陣の人気に便乗した私の担当ウマ娘の人気取りはそこまで成功しなかったかもしれない。普通にウマ娘レースのファンはウマ娘レースで活躍した過去の名バたちにファンが群がるからだ。

 

しかし、あらためてウマ娘が身近ではない人たちにウマ娘のことを語らせるとなったら、理知的で情熱的に語ることができるアグネスタキオン以外に適任者はいないことだろう。

 

他にも、トレセン学園卒業生を代表するOB会が暗黒期で活躍したオグリキャップやシリウスシンボリらを中心に動いていることもあって、その世代からバトンを渡された“皇帝”シンボリルドルフが後事を託した相手である私への信頼、アグネスタキオンのメイクデビューを全力で応援することを密約で交わしたシリウスシンボリの意向もあって、明らかにアグネスタキオンに注目が集まるように会場が誘導されていた。

 

つまり、この時点でアグネスタキオンの後援者には“ウマ娘のウマ娘によるウマ娘のためのウマ娘レース”を標榜する『名家』や暗黒期を打ち破ったウマ娘レースの人気再燃の立役者たちが勢揃いしているわけであり、この星の未来を変えてしまうような神話の誕生に向けた準備は着々と整いつつあったのだ。

 

ウマ娘レースで歴史に残る活躍をしてきたトレセン学園卒業生のオグリキャップやシンボリルドルフがアグネスタキオンの肩を持つようになったら、誰がアグネスタキオンの在り方を否定できようか――――――。

 

こうして退屈に思えていた『URAファイナルズ』準決勝トーナメントだったが、結果としては競バ場に足を運ぶほどそこまでウマ娘レースに熱心ではない層への理解と私の担当ウマ娘の知名度を観戦プログラムで得ることができたため、得るものが大漁で大成功と言えた日になったのだ。

 

 


 

――――――都内の子供たちを集めた『URAファイナルズ』準決勝トーナメント観戦プログラム2日目

 

 

アグネスタキオン「見た目はヒトと同じ。しかし、その筋力はその数倍」

 

アグネスタキオン「この驚異の肉体が、どこまで行けるのか――――――」

 

アグネスタキオン「幼心に、このロマンを追究しないだなんて嘘だなんて思っていた」

 

アグネスタキオン「更に言えば、私には走る才能がある。それが客観的な事実だ」

 

アグネスタキオン「だからこそ、自分の目で、その脚で到達したい」

 

アグネスタキオン「それがヒトを凌駕する身体能力と闘争本能を持ったウマ娘の性なら、尚更 その奥にあるものをこの手に掴みたいと、そう願って私は“待つことを選んだ”というわけなのさ」

 

アグネスタキオン「まあ、結果として4年間も待つことにはなったが、今の私は最高の気分でメイクデビューを迎えられそうだよ」

 

アグネスタキオン「にしても、神秘とも評されているウマ娘、それに並ぶ脚力を得たいと言うきみの憧れは実に無謀!」

 

アグネスタキオン「しかし、だからこそ、おもしろい!」ハッハッハッハ!

 

アグネスタキオン「ただ、実際にヒトがウマ娘と同等の能力を得たいのなら、それはウマ娘そのものになるしかないわけだから、少し見方を変えようじゃないか」

 

アグネスタキオン「要は、きみ自身の目的を叶える手段としてウマ娘のようなスピードが欲しいと本当に思っているかを見極めることだ」

 

アグネスタキオン「きみはウマ娘ではなくヒトの子なのだから、ヒトの子が走るレースを懸命に走った結果1位を獲って嬉しいかどうかを考えたまえよ」

 

アグネスタキオン「その上で、ヒトの限界を超えてウマ娘の脚力が欲しいのなら、研究あるのみ」

 

 

――――――未来のきみの成果に期待しているよ、私は。

 

 

シリウスシンボリ「何だかんだで、学園一危険なウマ娘と評されているアグネスタキオンも子供には優しいんだな」

 

斎藤T「目指しているものが家の名誉のためでもなく、レースの勝利でもなく、ただウマ娘の可能性を追究したいという純粋な興味ですからね。不可能や限界、未知への挑戦といったものには強く心惹かれるものです」

 

斎藤T「男として生まれたからには誰でも一生の内一度は夢見る“地上最強の男”――――――。それに憧れるようなものです」

 

シリウスシンボリ「まあ、あんたのウマ娘が目指すのは“クラシック八冠ウマ娘”とかいう“皇帝”も“覇王”も裸足で逃げる前代未聞の記録への挑戦だからな」

 

シリウスシンボリ「たしかに、ヒト最速記録が45km/h。しかも、それはヒトの短距離走での記録であって、70km/hをkm単位で出せるウマ娘の脚力に敵うわけもない」

 

斎藤T「そもそも、最速記録保持者が成人男性のオリンピック選手と、未成年の“本格化”の時期が最盛期のウマ娘とではまず比較の対象としても不適格に思いますが」

 

シンボリルドルフ「しかし、その歴然たる事実を誰よりも理解して突きつける立場になったとしても、それであきらめさせないところが彼女の良さでもあります」

 

シンボリルドルフ「実際、彼女はトレセン学園の競走ウマ娘としては非常に困難な“待つこと”をやり抜いたのです。実を結ぶまでの苦労や喜びを誰よりも理解しています」

 

斎藤T「ところで、もしもあの子が研究の末にウマ娘並みの脚力を実現させたら、トレセン学園としては受け容れる用意はあるのですか?」

 

シンボリグレイス「……理屈の上では可能ではありますね。トレセン学園の入学資格はハロン走で指定されたタイムをクリアすることですから、試験レースの順位はあまり重要ではないです」

 

シンボリグレイス「ただ、ウマ娘用のトレーニング器具を使いこなせるかの試験も入っていますので、脚力だけウマ娘並みになれたとしても、そこで落とされる可能性が非常に高いですね」

 

斎藤T「あ、そっかぁ」

 

シンボリグレイス「しかし、ウマ娘にヒトが勝てないのは歴然とした事実でもあります」

 

斎藤T「でも、サーベルタイガーが滅んだのはその象徴となる牙故だと言いますよ」

 

シンボリグレイス「……それも真実ですね」

 

シンボリグレイス「私もこうして一人の社会人として生きてきて、いかにウマ娘がヒト社会において不便を強いられているかが身に沁みて理解できます」

 

シリウスシンボリ「まあ、ヒトを軽く超える身体能力と闘争本能を抱えたウマ娘がヒト社会でうまくやっていくのは相当な苦労があるもんな。カッとなった時なんて取り返しがつかないぐらいに致命的だしな」

 

斎藤T「だから、ウマ娘のセカンドキャリアは昔ながらの力仕事の単純作業か、容姿を活かした広報や受付などに限られてくるわけですね」

 

 

――――――それがウマ娘という第3の性の性役割(ジェンダーロール)だと言わんばかりに。

 

 

斎藤T「そして、希少な第3の性であるウマ娘への肯定的措置(アファーマティブ・アクション)によって、とにかく会社で優遇されることに不満を抱かれていると」

 

斎藤T「まあ、そもそもの個体数が少ないからこその保護政策ですからね」

 

斎藤T「ウマ娘はどこまでいってもヒトの女性ではなく第3の性:ウマ娘ですから、同性の仲間を固めておかないと気が休まらないですからね」

 

斎藤T「とは言っても、闘争本能が強いウマ娘ですから、会社内で替えが利かない同性の仲間同士で張り合うことも多いわけですから、会社としてはウマ娘を雇うことに相当なリスクを感じているそうです」

 

シンボリルドルフ「……そうか。やはり前途多難だな」

 

斎藤T「それでも、日本はウマ娘大国としてよくやっている方だと思いますよ」

 

斎藤T「ご存知かと思いますが、世界の競走ウマ娘の年間出生数は10万人を切ることになったのに対し、日本では最盛期の1万超えしていた頃と比較するとさすがに落ち込んだままですが、年間7000人前後を維持しながら近年だと回復傾向にありますから」

 

斎藤T「これもみなさんが黄金期でもたらした繁栄の証の1つでしょう」

 

シンボリルドルフ「なるほど。そういってもらえると助かります」

 

シリウスシンボリ「けど、世界全体でウマ娘の赤ん坊が生まれた数が減っているってのは、あまり穏やかじゃない話だな」

 

シンボリグレイス「世界普遍化(グローバリゼーション)が進んだ結果、地域主義(ローカリズム)国家主義(ナショナリズム)が台頭して強い反発が起きたのと同じことが、ヒトとウマ娘の融和においても起きているのでしょう」

 

シンボリルドルフ「ウマ娘への肯定的措置(アファーマティブ・アクション)の反動がいずれ――――――、いや、すでに世界中で起きているというわけなのか」

 

斎藤T「どうなのでしょうね」

 

斎藤T「調べてみると、広大な土地を持つアメリカとオーストラリアの競走ウマ娘の年間出生数が不動のツートップになっているわけですが、それでも万単位ですよ。アメリカの人口が3億に対して2万強、オーストラリアが2500万人に対して1万3千程度だとすると少なすぎるぐらいです」

 

斎藤T「そして、ハイセイコーの時代に日本が第3位になっていた時は1万超えして、今では第3位はアイルランドの1万弱、第4位がアルゼンチンの7000強で第5位の日本に追い抜かれそうな予感」

 

斎藤T「そこから後続が突き放されて、第6位のフランス:5000強、第7位のイギリス:5000弱――――――」

 

斎藤T「ドイツに至っては800、イタリアに至っては500、中国に至っては100、UAEに至っては1か0ですから!」

 

斎藤T「香港やドバイで世界ランキングに響く国際重賞レースが幅広く開催されている割には、薄情なものだと思いませんか?」

 

斎藤T「まあ、外国人嫌悪(ゼノフォビア)女性嫌悪(ミソジニー)以上の異種族嫌悪の対象になっているのかもしれませんが」

 

シンボリルドルフ「……ウマ娘がヒトに勝てたところで共存できなければ意味なんてないな」

 

 

斎藤T「そういう意味では、日本は出生数:0のUAEに続く 全レース賞金総額 不動の第2位のウマ娘大国を超越したウマ娘天国ですから」

 

 

斎藤T「聞きましたよ。どうして本場ヨーロッパではなく、日本のトレセン学園でデビューしようとする留学生が多いのかを」

 

斎藤T「それは中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の平均的な賞金額が他国の重賞レースの平均的な賞金額を軽く上回っていて、その上で日本で独自に発展したアイドル文化と組み合わさった綺羅びやかなステージでのウイニングライブに憧れて来ている子が多いのだとか」

 

斎藤T「世界中のウマ娘にとって『トゥインクル・シリーズ』が開催される日本はまさに別世界に存在する夢の国のようなものに感じられるそうです」

 

斎藤T「ですから、今回の『URAファイナルズ』に対する海外の反応はあなた方が想像している以上に驚きと感動があったように思えます」

 

 

――――――自信を持ってください。問題は山積みですが、『URAファイナルズ』の理念は必ずや世界さえも良い方向へと変えていくことでしょう。

 

 

それが私の中でようやく出すことができた『URAファイナルズ』への最終的な評価であった。

 

というよりは、世界の未来を変えないと並行宇宙からの侵略者であるWUMAに地球征服される()()()()()がやってきてしまうため、世界全体がより良い方向へと大きく変わるきっかけになる可能性に賭けたといったところだ。

 

そのためなら、『URAファイナルズ』開催によって起きるトレセン学園における諸問題など些末なものであり、少しばかり学園の問題に首を突っ込みすぎていたと反省していたところなのだ。

 

というのも、私がウマ娘という異種族とあまりに身近な生活を送っていたため、今回の観戦プログラムでウマ娘レースとは縁遠い一般人の方々と歓談を交わしていくうちに、第3の性としてヒト社会に馴染んでいると思われたウマ娘が実は世界的に見ればとんでもない少数種族だとわかってしまったからなのだ。

 

だって、おかしいもん。ウマ娘大国と理解されるパート1に分類されるドイツの競走ウマ娘の年間出生数がたったの800で、世界最高賞金額レースが開催されるドバイで有名なUAEに至っては0か1かのとんでもない数字が出てきてしまった。

 

そして、世界全体の年間出生数の桁数と年々減少傾向にあることを知ると、これはウマ娘が自分たちの種族の生存を賭けてヒト社会に対して反乱を起こす可能性すら浮かんできてしまったのだ。

 

いや、WUMAが()()()()()で地球征服を果たした時、元からヒト社会で不自由を強いられているウマ娘がWUMAの同胞として支配者層に迎え入れられてヒトを支配するようになる大本の原因はまさしくこれではないのかと――――――。

 

そう言えば、ウマ娘という異種族を見たことがない移民たちがウマ娘を悪魔の化身やらアニメのキャラと誤解して傷害事件を起こすカルチャーショックが起きたとかいう海外のニュースもチラホラ見受けられる。

 

そう、競走ウマ娘以外にも様々な職種に適応した遺伝子を持つウマ娘がいるわけで、警察バ、格闘バ、農耕バ、荷役バなどが多種多様にいるのだが、それでもヒトの男女と比べて圧倒的少数派の第3の性故に、ヒトだけの暮らしをしてきた田舎者がウマ娘の異形の姿に驚くのも無理はない。

 

そのことを思うと、はたして重賞レース『アグネスタキオン記念』なるものを創設したところで何かが変わるような気がしなかった。世界にとってどれほどの影響力があるというのか。

 

 

 

――――――そして、それは【長距離部門】の2日目11レースであった。訂正:11レース目の時間の8レース目であった。

 

 

 

アグネスタキオン「おや、カフェじゃないかい、あれは!」

 

シリウスシンボリ「そして、“グランプリウマ娘”ライスシャワーか」」

 

ソラシンボリ「どっちも黒を基調としてよく目立ちますね」

 

シンボリグレイス「成績としてはどちらも世代の中心となったトウカイテイオーやミホノブルボンの後塵を拝すことになりましたが、いずれのレースでも好走を記録している長距離ウマ娘(ステイヤー)ですね」

 

シリウスシンボリ「昨日の11レース目の時間:メインレースにミホノブルボンが選出されていた辺り、ライスシャワーが世代の二番手って立ち位置は確立されているみたいだな」

 

斎藤T「………………」

 

 

――――――嫌な組み合わせだな。

 

 

斎藤T「あ」

 

シンボリルドルフ「………………」

 

斎藤T「……どうかなさいましたか?」

 

シンボリルドルフ「少し思い出したことがあったんだ」

 

シンボリルドルフ「なあ、タキオン? きみは私にトウカイテイオーよりもマンハッタンカフェこそがウマ娘の頂点に立つ逸材だと大絶賛していたな?」

 

アグネスタキオン「ああ、そうだっただろう。世代の中心だったトウカイテイオーやメジロマックイーンがターフの上から去った今でもマンハッタンカフェは走り続けることができている――――――」

 

シンボリルドルフ「そうだな。きみの見立ては合っていたと思う」

 

シンボリルドルフ「もちろん、予言書の裏付けがあったとは言え、“シンボリルドルフ以来となった功績”を築き上げると予言された実力は本物だ」

 

アグネスタキオン「ただ、残念なことにトウカイテイオーとメジロマックイーンがいたことでそれは叶わなくなったがね」

 

シンボリルドルフ「ああ。でも、きみの言う通り 予言書を覆して“それでも走り続ける”ことができているんだ」

 

 

――――――いったい何がこの差をわけたのだろうな?

 

 

シンボリルドルフ「ほぼ予言書通りの苦難の道を歩んだトウカイテイオーとメジロマックイーンの栄光を褒め称えるのは容易い」

 

シンボリルドルフ「だが、『無事是名バ』というように、予言書の内容を覆してマンハッタンカフェが栄光は掴めなくても今もターフの上を走り続けることができていることを喜ぶべきなのかな?」

 

シンボリルドルフ「私はその答えを持ち合わせていないのだ」

 

シンボリルドルフ「ライスシャワーにしても、予言書の通りならミホノブルボンの“無敗の三冠バ”達成を阻止して勝ったのに“悪役(ヒール)”扱いとなり、翌年のメジロマックイーンの『天皇賞(春)』も奪い取って“悪役(ヒール)”の名を不動のものにしていたはずなんだ」

 

シンボリルドルフ「なのに、そこでミホノブルボンとメジロマックイーンに負けて好走になったからこそ、かえって悪名がつくことなく素直にウマ娘ファンの祝福を受けられるようになったことをどう受け止めたらいいのだ?」

 

アグネスタキオン「……さてねぇ。私もその予言書から外れて4年間も待ち続けたものだから、自分の選択が間違っていたなんて思いたくもないけど、待つことを選択しなかった場合の内容もあながち間違いじゃないからねぇ」

 

斎藤T「………………」

 

 

――――――人生万事塞翁が馬だな。

 

 

アグネスタキオン「え」

 

シンボリルドルフ「うん?」

 

斎藤T「いえ、気にしないでください」

 

斎藤T「ただ、予言書の内容にあったように、『シンボリルドルフとオグリキャップが同学年になってペアでフィギュアスケートをする可能性の世界』も存在するとあったぐらいです」

 

斎藤T「そんな荒唐無稽に思える可能性の世界が無数に広がるのが、私たちが常に希望の象徴として唱える“無限の可能性”なのですから、本当にいろんな可能性があるわけなのですよ」

 

斎藤T「でも、どれだけ可能性の輪が広がろうとも、ここにいる自分自身が望むことは変えようがないはずですよ」

 

斎藤T「なら、確実に言えることは顧客満足度(Customer Satisfaction)を少しでも上げる努力だけだと思いますけどね」

 

斎藤T「何のためにターフの上で走るかなんて人それぞれなんですから、それを満たしてあげてセカンドキャリアに送り出せれば、トレセン学園の社会的責任は十分に果たせたのではありませんか?」

 

 

――――――終わり良ければ全て良し。

 

 

斎藤T「そういうことじゃありませんか?」

 

シンボリルドルフ「……ありがとう。本当にありがとう」

 

斎藤T「どういたしまして」

 

アグネスタキオン「つまり、勝っても負けても望みが叶う人生が最高というわけだね」

 

斎藤T「ちがうぞ。どんな状況になっても 望みが叶わなくても そこに喜びややり甲斐を見いだせたら勝ちなんだ。なんでも興味を持って、なんでも楽しめたら、人生はバラ色ということだ」

 

斎藤T「逆のことを考えてご覧よ。愚痴愁嘆嫉妬癇癪不平不満ばかりの人生って何がおもしろいんだか」

 

斎藤T「だから、全ては成長の糧として次に繋がればいい。理想は高く求め、現実はほどほどにしてね」

 

斎藤T「現実なんてそんなもんだと思いながらも、それでも理想を追い求めることが素晴らしいのだから」

 

斎藤T「そういうわけだから、予言書とちがったことになっても、本人が納得しているのならそれでよし。報われなかったのなら、そのことを胸に秘めて ますます理想に邁進すればいいのさ」

 

斎藤T「その想いは必ずや報われる」

 

 

――――――情けは人の為ならず。

 

 

斎藤T「そのことを取り違えちゃいけない。自分の心を重たくするだけの情けは不要だ。時には自分の痛みをわかってもらうために訴えることも心の教育に繋がる」

 

斎藤T「言わなくちゃわからないのだから。そういうことを感じているのだと伝えなくちゃ、双方の善意も空回りするだけだから」

 

アグネスタキオン「………………」

 

シンボリルドルフ「………………」

 

斎藤T「まあ、古の教えも時を経れば その真意が裏返ってしまうこともあるのだから、そこが人間の度し難いところでもあるし、肉体に囚われているが故の苦しみでもあるわけですがね……」チラッ

 

 

マンハッタンカフェ?「――――――」

 

ライスシャワー?「――――――」

 

 

斎藤T「………………」カチッ ――――――こっそりポケットラジオの録音再生機能で悪霊祓いのBGMを小音量で流した。

 

ソラシンボリ「……さっきからどこを見ているんだろう、斎藤Tは?」ボソッ

 

アグネスタキオン「……なら、世界でたった一人 タイムリープによってあらゆる可能性を紡ぎ出せるきみの孤独はわかちあえるのかな?」ボソッ

 

シンボリルドルフ「……『肉体に囚われているが故の苦しみ』か。そこから解放されたら、私は もう一度 愛する人に会うことができるのだろうか?」ボソッ

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 

シンボリグレイス「さすがは“皇帝”シンボリルドルフの後継とも言われた “サイボーグ”ミホノブルボン――――――、そして、驚異の天才トレーナー」

 

シンボリグレイス「そんな2人に良きトレーナーに支えられながら立ち向かい続けた駿バです」

 

ソラシンボリ「ライスシャワーの勝ち!」

 

シリウスシンボリ「また勝ちきれなかったな、マンハッタンカフェのやつ」

 

シリウスシンボリ「ただ、結果はクビ差で後続を大差で突き放してライスシャワーに食らいついていたわけだから、実力としてはライスシャワーと互角どころか、“最強の長距離ウマ娘(ステイヤー)”メジロマックイーンにも引けを取らないかもしれないな」

 

シリウスシンボリ「ホント、運がないというか、長距離ウマ娘(ステイヤー)としては一級品なのに惜しいもんだな」

 

シリウスシンボリ「なあ、あんた。自分の担当ウマ娘を神話にしたいなら、『菊花賞』で戦うことになる長距離ウマ娘(ステイヤー)の対策は――――――」

 

シリウスシンボリ「うわっ!?」ビクッ

 

 

斎藤T「」ガクガク・・・ ――――――振り向くと顔面蒼白で足元には水溜りができていたぐらいだった!

 

 

シリウスシンボリ「おい!? 何だよ、これは!?」

 

アグネスタキオン「うわっ!? これはいったいどうしたんだい、トレーナーくん?! まさか、失禁したわけでもあるまい!?」

 

シンボリグレイス「え、えええええ?! さっきまでこんな水溜りなんてなかったじゃないですか!?」

 

シンボリルドルフ「大丈夫か、斎藤T!? 一瞬の間に何があったと言うのだ?!」

 

ソラシンボリ「誰かに水を引っ掛けられたの?! そうだよね!? ねえ!?」

 

斎藤T「」フゴフゴ・・・

 

アグネスタキオン「トレーナーくん!」

 

シリウスシンボリ「おい、何だって!? 何って言ってる!?」

 

シンボリグレイス「そんなことより、要救護者の安静が最優先ですよ、シリウス!」

 

ソラシンボリ「どいてくださーい! 要救護者を控室に運びますから!」

 

シンボリルドルフ「い、いったい、何が起きたと言うんだ……」

 

斎藤T「」フゴフゴ・・・

 

 

――――――頽バだ! 最強の妖怪:頽バが2人の前を走っていた!

 

 

意識の世界は空間を超越する――――――。

 

私は巨大なモニター越しに映し出された『URAファイナルズ』準決勝トーナメント2日目の大一番となる第8レース【長距離部門】で他の追随を許さない黒と影の長距離ウマ娘(ステイヤー)の一騎討ちを眺めていた。

 

どちらが勝つかは未知数であったが、さすがは“無敗の三冠バ”ミホノブルボンに次ぐ実力者と目された“グランプリウマ娘”ライスシャワーと、トウカイテイオーやメジロマックイーン以上の才覚の持ち主のアグネスタキオンが自ら推したマンハッタンカフェといったところで、後続集団を完全に突き放してのクビ差のゴールであった。

 

そこまでは普通だったのだが、その一瞬だけ時間が巻き起こったのである。

 

ゴール直前の写真判定の映像再生のようにゴール板を前にしたスローモーション映像が再生されると、そこには禍々しく2人の前を光る風を遮るスリップストリームを創り出す異形のウマ娘の姿が先にゴール板を通過していたのだ。

 

それを見せつけられた瞬間、視界がマンハッタンカフェとライスシャワーの後方に移ったのだが、眼の前から暗黒空間の風が迫り、包みこまれると身体が一瞬で氷漬けにされたのである。

 

これがゴール板を1着で通過するものが浴びることができる夢の舞台における栄光である光の風を受けることができなかった世界の冷たさであり、あの妖怪:頽バは目に見えない世界で2人よりも疾く駆けることでスリップストリームを創り出して2人が受けるはずだった光る風を遮ったのだ――――――。

 

そのことがいかなる意味を持つのかを身を以て体験させられた私は、魂の防衛機制の結果なのか、目に見えない次元の心胆を寒からしめる極寒を現実世界に異常な冷気として置き換えることで素早く平静を取り戻すことができたのだった。

 

風邪を引いた時に熱が出るのは風邪の原因となるウイルスに感染したのを免疫細胞がサイトカインという炎症物質を放出して自ら炎症を引き起こした結果であり、要は人体を害するウイルスを自らを燃やした熱で焼き殺しているのだ。

 

それと同じように、目に見えない次元で受けた害を目に見える世界での現象に置き換えることで災いを被害最小限に抑えたのが異常なまでの発汗による熱放散と脱水症状からくる倦怠感と凍える寒さの効能であったのだ。

 

実際には、任意で筋肉破壊を起こして超回復を自由自在に行うようにする肉体改造強壮剤によって私の身体機能が常人離れしていたせいでもあるのだろうが、

 

しかし、こうもライスシャワーとマンハッタンカフェの姿をした悪霊だけじゃなく、人霊がウマ娘の姿に化けた妖怪:頽バがその2人に対して災いをもたらそうとしていることが一層気になるようになってきた。

 

それは予言書『プリティーダービー』においても、栄光のままで終わることができず転げ落ちるように不幸や災難に見舞われるウマ娘であることが語られてもいたのだが、ウマ娘に不運をもたらす死神の正体が妖怪:頽バとなると話は一気に複雑化してくる。

 

今まで学園校舎で何度か交戦してきた妖怪:頽バであったが、初めてレース中に姿を現して具体的に悪事を働いている姿を見てしまうと、俄然 震える身体に沸々と沸き上がる怒りが身体の芯を燃やすかのように熱くさせる。突然 冷や水を浴びせられたら嫌でもカッとなるものがある。

 

どうやら、新年度を迎える前に これまで接触を避けてきた最強の妖怪:頽バと真正面からやりあう必要があるようだ。そして、完膚なきまでに叩きのめす必要があるときた。

 

そう、モニター越しでもそこにいるかのように感じ取れることができるのなら、これまで学園裏世界でしか入ることができなかった禁断の領域:トレセン学園学生寮にもいる頽バともカメラ越しに対峙することも可能になる。

 

問題は、現実世界のトレセン学園学生寮で学生寮の隅から隅まで探検して妖怪退治に協力してくれる戦場カメラマンとなる勇敢なウマ娘――――――、

 

しかも、ただのウマ娘ではない。悪想念の塊である妖怪たちの悪の波動に負けない強靭な精神力と耐性を持つ適正者じゃなければ、魂を持っていかれて みすみす妖怪の仲間入りをさせることになるのだ。

 

 

――――――そして、すでにその候補は見つけていた。見つけるための手段はすでに揃っていたのだ。

 

 

さあ、盛大に歓迎しようではないか。

 

旧正月を迎えて、新年度に向けて続々と新しい人との繋がりが結ばれていく中、私の担当ウマ娘のメイクデビューはまだまだ先だというのに、新たな戦いもまた激しさを増していこうとしている。

 

相手が肉体を持たぬ不自然なる存在ならば、こちらは生命ある自然の存在としての全力を尽くすのみだ。

 

 

――――――闇があるからこそ光に憧れ、光があるからこそ闇に魅せられるものだ。そこに善悪などないのだから。

 

 

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