ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第12話   火蓋切られる青春の弥生月

 

-西暦20XY年03月02日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

さあ、『URAファイナルズ』準決勝トーナメントも各部門の決勝進出者(ファイナリスト)18名が出揃い、一般的な小中高校の卒業式や修了式の後に決勝戦が行われるわけなのだが、

 

すでに“最初の3年”というトレーナー契約の基本単位を走り終えたスーパーシニア級の古豪たちの物語から、これから生まれる新たなスターウマ娘の誕生を見届けるために、

 

3月初週の土日からクラシック級の新世代のウマ娘たちの頂点を決めるトリプルクラウンとトリプルティアラのトライアル競走となる『チューリップ賞』『弥生賞』が今日と明日で連続する。

 

そのため、入試期間と準備期間が重なった『URAファイナルズ』準決勝トーナメントがようやく終わって地獄のような2月が終わったかと思えば、実際は3月から全ての階級のウマ娘レースの1年が本格始動するので、

 

トレセン学園は3月初週の『チューリップ賞』『弥生賞』に参戦する新進気鋭の未来のスターウマ娘のトレーニング環境の調整までしなくてはならないので目が回る日々はまだまだ終わらない。

 

もちろん、受験期間の前に行われていた進級・卒業を懸けた期末テストで落第した生徒や事情により期末テストを受けられなかった生徒に追試する期間も必要なため、

 

3月になれば中旬までに追試期間からの修了式・卒業式が執り行なわれ、それで授業がなくなるので、そこまで一気に駆け抜けなくてはならないのが2月からのトレセン学園教職員の絶叫の日々であった。

 

もちろん、新年度から入学してくる新入生たちの受け入れや授業計画のカリキュラムを作らなくてはならないので、教職員に暇な時期などない。

 

その点で言えば、担当ウマ娘をレースで勝たせることだけに時間や労力を注げるトレーナー業の気楽さよ。

 

もちろん、ウマ娘レースで担当ウマ娘を勝たせて高額な賞金を得られることで許されているものがあり、勝たせられない弱小トレーナーの扱いは露骨に悪くもなる。

 

そのため、こう言ってはなんだが、やはり重賞レースを勝てるウマ娘の才能を見抜いて勝たせるのが一番の栄達の早道というわけであり、子供の才能に全力で乗っかるしかないトレーナーの必死さと悲惨な末路を見ていると、学校法人としてやって当然の仕事程度でヒーコラ言っているだけの先生の辛さなどトレーナーなど意に介する余裕などないわけなのだ。

 

そう、元からトレーナーと教職員とでは優先すべきものや課せられたものがそもそもちがうことから常にすれ違いが起こっているわけで、学校法人の雇われ人と公営競技の請負人とでは求められる能力や素行のちがいもあり、今回の『URAファイナルズ』準決勝トーナメントまでの対応でとてつもない禍根を残すことにもなった。

 

 

その処理に生徒であるウマ娘たちの代表機関であるトレセン学園生徒会がトレーナー側の要求と教職員側の要求の間で葛藤させられることになり、新生徒会長:エアグルーヴの前にいきなり難題が突きつけられることになっていたのである。

 

 

いや、何を言っているのか、自分で言っていて理解できない。そういう事態に華やかなる『トゥインクル・シリーズ』の新しい世代と時代とレースが始まろうとしている裏で何をやっているのだ、本当に。

 

いやいや、教職員の主張とトレーナー陣の主張のどちらに従うべきかと言われたら、学校法人であるトレセン学園の部外者に過ぎない外部コーチのトレーナーの側が引き下がるべきであって、勝つか負けるかの真剣勝負の世界に『十分なトレーニングができなかったせいで負けました』と言い訳ができるのかという話だ。

 

そういう意味では担当ウマ娘を勝たせる大義名分のために社会常識を犠牲にして夢の舞台という小さな世界で殿様になっているトレーナー連中に世間の冷たい風を浴びせたい気分になった。

 

そもそも、双方が生徒会に陳情を申し立てたのも建前上は『どちらがウマ娘のためになっているかを審議してもらいたい』と綺麗な言葉で言い直せるが、新生徒会長:エアグルーヴがなぜ教職員とトレーナー陣の間に立って仲裁しなければならないのかが私には理解できない。

 

こんなのは審議するまでもないし、高い学費を払って在籍している生徒たちに便宜を図る側のトレセン学園教職員が子供の賛成・反対を聞かないと場を収められない辺り、ひどく未熟な大人ばかりに思えた。

 

自分の担当ウマ娘が何よりも優先されるとして、所属する団体であるトレセン学園の方針に逆らって是が非でもトレーニング設備を使わせて欲しいと訴えて学園側と言い争いになるのはトレーナーとして、大人として、一人の社会人として正しい姿と言えるのだろうか。

 

だったら、自分の担当ウマ娘を連れて自分の思いどおりになる場所を求めてトレセン学園を去ればいいだけの話だ。他の団体から出走登録もできるわけだし。

 

あるいは、トレーニング器具ぐらい子供の才能から儲けて得た賞金で自前で用意すればいいのだ。そうすれば、突発的なトレーニング制限に悩まされなくてすむ。

 

少なくとも、去年の年の暮れから異例のトーナメント戦『URAファイナルズ』が毎月連続で行われることは告知されていたのだから、その従来とは異なるローテーションで勝たせるように全力を尽くすのがトレーナーの役目だろうに、中央のトレーナーはそのエリート意識の高さから視野が狭いと見える。

 

こうなってくると、本格的に教職員とトレーナーを切り離したトレセン予備校が持て囃されるようになるのも納得かもしれない。

 

むしろ、幼年期から小学生まで、果ては大人まで参加しているレースクラブの年齢制限版と考えるなら、トレセン予備校の方がとっつきやすいようにも思える。

 

思春期に“本格化”を迎えるウマ娘をウマ娘レースで効率よく勝たせるために全寮制の中高一貫校にしたはいいが、組織の新陳代謝として必要不可欠な受験期間でトレーニング制限が課せられることに対応できない愚かなトレーナーが当然の権利のように学園側に無理を通そうだなんて、宇宙移民の私からすれば絶対に乗船させてはいけない自分勝手なトラブルメーカーとして船から降りさせたいぐらいだ。

 

それよりも、双方がウマ娘ファーストを標榜しているのなら、くだらん諍いを起こして生徒たちの代表機関である生徒会に問題の解決を丸投げしたことを反省して、自ら腹をくくるべきではないかとすら思ってしまう。

 

それぐらい問題が噴出することになった異例のトーナメント戦『URAファイナルズ』はついに3月で終わりを迎え、敗れ去ったウマ娘たちも3月を迎えて開幕となったクラシック戦線の開幕戦の熱狂を背に心新たにして歩み出すことになる。

 

そして、卒業まで2週間もない残り少ない我が学び舎での日々を高等部3年生たちは1日1日懐かしみ味わい尽くすかのように『チューリップ賞』『弥生賞』の現場に揃って足を運ぶのであった。

 

 


 

――――――G2レース『チューリップ賞』阪神競バ場・芝・1600m

 

アグネスタキオン「ふぅン、アグネスパレードとやらが『チューリップ賞』初代優勝バねぇ」

 

斎藤T「ああ。わりとティアラ路線で広く成績を残しているのがアグネス家の傾向みたいだな」

 

アグネスタキオン「その代わり、クラウン路線での成績はパッとしないか」

 

斎藤T「そういう意味では史上初“トリプルティアラ”のメジロラモーヌや現在でも最強と名高い“無敗の三冠バ”シンボリルドルフを輩出したメジロ家とシンボリ家には一歩劣るな。その分だけ独自性は強いけど」

 

アグネスタキオン「まあ、家の名誉や誇りのために走るウマ娘なんてアグネス家にはいないさ」

 

アグネスタキオン「そういう意味では、何にも縛られることなく自由に走ることを謳歌しているウマ娘らしいウマ娘の在り方だとは思わないかい?」

 

斎藤T「他には、アグネスワールドが日本のウマ娘では初めて日本国外の2か国のG1制覇を達成し、近代ウマ娘レース発祥のイギリスの重賞を制した初の日本ウマ娘でもあるみたいだ」

 

アグネスタキオン「なるほどねぇ。私の身内は本当に独自路線で道を切り拓いてきた変わり者が多いみたいだねぇ」

 

アグネスタキオン「なら、私たちが進むべき道は正統派路線じゃないのは元から決まりきっていたことだねぇ!」

 

斎藤T「ああ!」

 

 

藤原さん「おーい! こっちだ、テン坊!」

 

 

斎藤T「藤原さん!」

 

藤原さん「よう、しばらくぶりだな」

 

斎藤T「藤原さんも阪神競バ場までよく来れましたね」

 

藤原さん「まあ、受験期間と重なって準備期間がドタバタ騒ぎになったっていう『URAファイナルズ』準決勝トーナメントが終わったと思ったら、毎年恒例の“トリプルティアラ”と“トリプルクラウン”の実質的な開幕戦になるトライアル競走『チューリップ賞』と『弥生賞』だ」

 

藤原さん「警察としても中央官庁の協力があって新設された『URAファイナルズ』を成功させなくちゃならない面目もあって全国の警察は大忙しだったさ」

 

藤原さん「これからは『URAファイナルズ』が毎年恒例になるわけだから、警備の強化も常態化するってことで本当に大変だぜ、これから」

 

アグネスタキオン「ふぅン、新しいことを始めて定着させることがどれだけ大変なのかがよくわかるねぇ」

 

斎藤T「そうだな。はたして、せっかく新設された“春シニア三冠”を制覇するウマ娘は現れて、それに続くウマ娘も出てくるか――――――」

 

藤原さん「ああ、そうだな。『大阪杯』『天皇賞(春)』『宝塚記念』の三連覇は骨が折れるぞ。“クラシック三冠”よりも期間が短いし、“秋シニア三冠”よりも勝つ旨味が少ないともなればな」

 

藤原さん「で、わざわざ阪神競バ場(仁川)に来たってことは誰かの応援に来たってわけだろう?」

 

 

――――――ウオッカとダイワスカーレットのどっちが勝つと思う?

 

 

アグネスタキオン「そうだねぇ。どちらもデビューから連対(2着以内)し続けていることだし、適性は【マイルウマ娘(マイラー)】寄りだから、ティアラ路線で対決し合うことになると思うけどねぇ」

 

斎藤T「寮室も相部屋の同期にして同世代のライバル対決というわけか」

 

藤原さん「ああ。ただ、ウオッカの場合はジュニア級の時点でG1レース『阪神ジュベナイルフィリーズ』を制している時点で戦績としては 断然 上だぜ。しかも、その時と同じ阪神・芝・1600mだから地の利もある」

 

斎藤T「それを言うなら、“トリプルティアラ”本戦となる『桜花賞』も阪神・芝・1600mになりますから、ここで負けた方が有利になりません?」

 

藤原さん「ほう、言うようになったな、テン坊も。トレーナーらしい戦略もいっちょ前に考えるようにもなったか」

 

藤原さん「つまり、ここで負けた方が次の『桜花賞』で勝つって予想だな?」

 

斎藤T「ええ。その方が『桜花賞』で注目の的になって対策を取られなくなるじゃないですか。ここで実を取るなら連対(2着以内)記録を伸ばすように負けますけどね」

 

藤原さん「まあ、たしかに勝ち続けると包囲されるのはテイエムオペラオーやミホノブルボンが辿った道でもあるからな。それが勝ちウマに対する正攻法でもあるな」

 

藤原さん「ただ、ウオッカは明らかに実力と人気があるウマ娘だ。同じ連対(2着以内)記録を持つライバル:ダイワスカーレットがどこまで走りきれるか――――――」

 

藤原さん「ちなみに、連対(2着以内)記録のランキングではシンザンの19連対、ビワハヤヒデの15連対ってところだな」

 

斎藤T「うわ、出た、戦後初の二代目“クラシック三冠バ”にして“五冠バ”シンザン! 重賞レース『シンザン記念』に名を残す“神メ”だ!」

 

アグネスタキオン「ほう、今年で卒業のハヤヒデくんもあのシンザンに次ぐ大記録を達成していたというわけかい。大したものだねぇ」

 

斎藤T「――――――『連対(2着以内)記録』。そういうのもあるのか」

 

藤原さん「ああ。“皇帝”シンボリルドルフに次ぐ“クラシック三冠バ”ナリタブライアンの実の姉として、彼女はシンザンに次ぐ大記録を達成していたわけだから、まさしく“最強姉妹”というわけだ」

 

藤原さん「お前さん、そう言えば陽那ちゃんから聞いたが、今年のバレンタインデーで生徒会メンバー全員からチョコを貰ったんだって? やるじゃねえか、色男!」

 

斎藤T「他にも、ミホノブルボン、ライスシャワー、ハッピーミーク、トウカイテイオー、メジロマックイーンからももらいましたよ」

 

藤原さん「おいおい、“学園一の嫌われ者”から一転して“学園一の切れ者”になったってことかい、そいつは?」

 

斎藤T「まあ、これも全て“斎藤 展望”が必死に遺してくれたもののおかげです」

 

藤原さん「……そうか。そいつは寂しいな。テン坊が立派になったというよりは人が変わった結果だもんな」

 

アグネスタキオン「………………」

 

藤原さん「けど、まあ、お前さんがそう思ってくれているのなら、“斎藤 展望”も幸せだろうよ、テン坊」

 

斎藤T「……ありがとうございます」

 

 

藤原さん「俺はお前さんがずっと“斎藤 展望”で在り続けることに賭けているからよ」

 

 

斎藤T「…………!」

 

アグネスタキオン「ん?」

 

斎藤T「ああ、どうして怪人災害対策の第一人者がこうして全国の競バ場を見て回っているのかと言えば――――――」

 

藤原さん「まあ、そういうことだ」

 

斎藤T「……私も“斎藤 展望”で在り続けたいですね」

 

藤原さん「ああ。そうあってくれ。テン坊はずっとテン坊だってことがわかれば、俺も無い知恵を絞ってバケモノと闘える」

 

斎藤T「はい」

 

藤原さん「おっと、ゲートインの時間だな。じゃあ、答え合わせの時間と行こうじゃないか」

 

 

――――――ウオッカとダイワスカーレットのどっちが勝つと思う?

 

 

入学してトレーナーから早速スカウトを受けてメイクデビューを果たせたウマ娘は所謂“エリートウマ娘”と呼ばれていた。

 

ウマ娘特有の“本格化”の機会を最大限にまで活かすためにトレセン学園では中高一貫校の学制を採用しているため、原則としては中高一貫校の6年間にメイクデビューのチャンスが与えられているが、

 

日本各地から地方では天才と呼ばれているような駿メたちが入学試験で篩いにかけられて総生徒数2000名弱にまで絞られ、更にトレーナーからのスカウトを受けなければメイクデビューを果たせないとなれば、早い段階でトレーナーのスカウトを受けてメイクデビューできるに越したことはないという考えが優勢であった。

 

というのも、日本最高峰にして世界最先端のトレーニング環境を提供しているのだから、その維持費となる学費も馬鹿にならないわけで、そのバカ高い学費を優駿たちの頂点を決めるG1レースでの優勝賞金で賄えることを夢見る子が多いともなれば、一向にスカウトが来ない日々の中で自分は何のために夢の舞台の門を潜れなかったライバルを蹴落としてまで門の中に入ってきたのかを自問自答する時間が自然と増えもする。

 

なので、学園の教職員に数えられる教官による画一的な集団指導よりも、専属トレーナーによる充実した個人指導でメキメキと実力をつけさせてもらえることを生徒であるウマ娘たちは願わずにはいられないのだ。

 

そのため、入学して早々にトレーナーからスカウトを受けて華々しいメイクデビューをして、そのまま一生に一度しかない2年目:クラシック級のG1レースで勝つことを夢見て、その多くがそんなことが夢物語であるとわからされてきたからこそ、尚更“エリートウマ娘”であることの価値は上がっていくのだ。

 

そう、だからこそ、それが“皇帝”シンボリルドルフから始まる黄金期におけるスターウマ娘の最低条件にもなっているとも言え、その輝きが大きな影を作ることにもなっていた。

 

 

――――――エリートに非ずんばウマ娘に非ず。

 

 

当たり前に思えたことが当たり前であるために、当たり前(エリート)ではない存在を異端視する考えが自然と蔓延することにもなっていたのだ。

 

つまり、新入生:中等部1年生でメイクデビューできないウマ娘の評価は低く、たとえ中等部2年生からメイクデビューを果たしたとしても、たったそれだけで不当に価値が擦り減らされていたのだ。

 

そうなったのも、暗黒期と比べて黄金期においてはシンボリルドルフ、ナリタブライアン、トウカイテイオー、ミホノブルボンといったスターウマ娘たちが『世代の中心』=『年代の中心』と同一視されるほどに階級と学年が一致し続けていたからであり、そこに善も悪もない。

 

そう、『そういうものになっている』という変化が次第に『そういうものなんだ』という常識に変わり、新たな弊害を生み出すようになったという新たな時代の幕開けであった。

 

そのため、現在のトレセン学園においては『エリートであるか否か』で同じウマ娘でも公然と差がつけられるわけであり、それが暗黒期とはちがった黄金期特有の競争意識を激化させていた。

 

だから、“アグネス家の最高傑作”と評され、実際に当時の『選抜レース』においてはトウカイテイオーやメジロマックイーンの存在を霞ませるほどの圧倒的な走りでスカウトが引く手数多だったにも関わらず、自らのこだわりから全て拒絶して以降、メイクデビューもせずに好き勝手に学園生活を送ってきたアグネスタキオンというウマ娘に向けられる評判はすこぶる悪い。

 

しかも、そんな学園一危険なウマ娘を“皇帝”シンボリルドルフが全力で庇い立てするのだから、お高く留まっているどころではない。何から何まで気に食わないだろう、『選抜レース』で成績も残せず、トレーナーからのスカウトを死ぬほど待ちわびている、才能も実績もないようなウマ娘たちからしてみれば。

 

しかし、そんなふうに“エリートウマ娘”であることが絶対であるとして 一刻も早いメイクデビューのために時間に追われるようになった先輩同輩後輩は尽く時代の荒波によって存在を掻き消されていった。

 

その結果、念願のメイクデビューを果たして早々に引退即退学で学園を去るのと、スカウトを受けられず未出走であっても学園に居続けるべきか、どちらがマシなのかを少し考える世代が後に続くようにもなったようだ。

 

何しろ、“エリートウマ娘”になることを自ら拒絶した ある意味においては留年生とも言える 学園の常識で言えば愚かなアグネスタキオンが実験動物(モルモット)を求めて学園内を堂々と徘徊しているのだから。

 

しかも、あの学園一危険なウマ娘が生徒会長:シンボリルドルフから一目置かれていることを知れば、自然と関わらない方向に周りが動くようにもなる。

 

そのため、アグネスタキオンは無視されるようになった。敬遠されるようになった。畏怖されるようになった。孤独になった。当然の流れである。

 

否、元々そうだった。誰からも理解されないからこそ、シンボリルドルフの庇護下に置かれていたのだ。何も変わってなどいない。

 

 

――――――ただ、“世界の全てが敵になる”ということは決してなかったのである。

 

 

振り返ってみれば、アグネスタキオンの孤独に思えた学園生活にも愉快な記憶がいくつも刻まれていた。

 

それは自分とは全くちがった方向性でウマ娘の可能性を追究する同志とも言える後輩たちと激論を交わした時の思い出であり、

 

もちろん、その実力を高く評価して最大限まで自身の在り方を尊重して便宜を図ってくれたシンボリルドルフ、あらゆる可能性を追究するために偏見なく接してくれたビワハヤヒデという偉大な先輩がいた。

 

あるいは、当時のことを知らないからこそ、無邪気に自分のことを慕ってくれる ある意味においては風変わりだが とても素直で可愛い後輩たち――――――。

 

それがアグネスタキオンにとってのウオッカとダイワスカーレットという存在であった。

 

だから、こうして彼女は観に来たのだった。

 

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 

 

藤原さん「結果はクビ差で外のウオッカが制したか」

 

アグネスタキオン「う~ん、まあ、惜しかったね、スカーレットくん。連対記録は維持したままか」

 

斎藤T「三番以下を大きく突き放してのクビ差ですから、両者の実力は互角で、今日は阪神競バ場に慣れているウオッカに軍配が上がりましたね」

 

藤原さん「ティアラ路線では断トツであの2人が世代の中心になっていくのは間違いないだろう。“女帝”エアグルーヴと“女傑”ヒシアマゾンの再来だな」

 

藤原さん「明日はクラウン路線で世代の中心になっていく未来のスターウマ娘の存在が明らかになるはずだ」

 

斎藤T「そして、未来の生徒会メンバーとしても」

 

アグネスタキオン「そうだね。トレセン学園としてはそこだろうね」

 

藤原さん「……うん? 何の話だ?」

 

斎藤T「あれですよ、“皇帝”シンボリルドルフが卒業することで自由な校風で全国各地から集まってきたジャジャウマ娘たちの統制が利かなくなると同時に、シンボリ家のコネで学園の不祥事を揉み消しにできていたのがなくなるから――――――」

 

藤原さん「ああ……、そういうことか……」

 

藤原さん「生徒たちの代表機関の長である生徒会長には自由な校風の中で秩序を保つために威厳がなくちゃいけないから、ウマ娘レースで成績を残してきた名バであることが最低条件であると同時に、外向けにも発信できる能力が求められてくるわけか」

 

アグネスタキオン「正直に言って、それは生徒会の問題なのかい?」

 

斎藤T「いいや、受験期間と重なってトレーニングが十分にできなかったと喚かれた『URAファイナルズ』準決勝トーナメントの学園側とトレーナー陣の紛糾と同じで、学園の治安は生徒会の問題のはずがないだろう」

 

斎藤T「いくら生徒たちの代表機関であると言っても、実権を握っているのは学園の運営であり 理事会なのだから、全寮制の中高一貫校で保護者となる大人がやんちゃな子供たちに躾けをするのは当然だろう」

 

藤原さん「まあ、そうは言うが、総生徒数2000名弱に対して教職員とトレーナーを合わせてもその半分にもならないからなぁ……」

 

斎藤T「わかっていながら、長年に渡って問題を放置とは、やるもんですねぇ」

 

斎藤T「これなら学園の機能とトレーニングセンターの機能を分離させた予備校方式が今の時代には合うのではありませんか?」

 

藤原さん「――――――トレセン予備校かぁ。横浜のやつが物凄く評判がいいって話だが」

 

斎藤T「ともかく、生徒会やスターウマ娘の能力やカリスマ性に学園側は甘えすぎですよ。大人の役割を果たしてください。公営競技の儲け以外でも子供に頼り切りだなんてみっともない」

 

斎藤T「あ、そもそも、多額の寄付金や裏口入学がなくちゃやっていけないのがトレセン学園でしたね! まあ、ただの新人トレーナーの私にはそんな懐事情なんて関係ないことですけどね!」

 

藤原さん「おいおい……」

 

斎藤T「それよりも、“学園一の嫌われ者”として名高いこの私の次に世代となるトレーナーはどういった人たちが来るんでしょうね?」

 

藤原さん「トレセン学園としては配属されるトレーナーの質も大切な要素だしな」

 

アグネスタキオン「安心したまえ。きみを超える逸材など補充されるわけがないだろう」

 

アグネスタキオン「そもそも、きみは最愛の妹の養育費のために何が何でも大金を得たいという一心でトレーナーになっただけでウマ娘レースに何の興味もない“門外漢”だったのだからねぇ」

 

アグネスタキオン「今は別の方法で妹の養育費を賄えてしまったから本当はトレセン学園のトレーナーで在り続ける理由もなく、気負うことなく、自由気ままにトレセン学園での日々を送っているというわけで」

 

斎藤T「そうそう。それでも、トレセン学園はいろんなアプローチでスターウマ娘を目指す人材の宝庫だから、私の夢のために使えそうな人材がいたら引き抜こうとしているわけでして」

 

斎藤T「――――――セカンドキャリア支援という名目でね!」

 

藤原さん「商魂たくましいな」

 

斎藤T「いえいえ、宇宙を目指すことは一人では決してできないことですから。国を一から造るようなものです」

 

藤原さん「おいおい、律令制の国司にでもなるつもりか? ――――――皇宮警察なだけに」

 

 

 

コツコツコツ・・・・・・

 

 

 

アグネスタキオン「ふぅン、今日はウオッカくんとスカーレットくんのいい勝負が見られたねぇ」

 

斎藤T「ああ、『宝塚記念』『有馬記念』でも戦うことになるだろうからな、あの2人なら」

 

藤原さん「おお、そうか。今年からメイクデビューなんだもんな、お前さんの担当ウマ娘は」

 

藤原さん「いやはや、中等部から入学して4年待って高等部2年生からのメイクデビューとなると、いろいろと話題になるだろうな」

 

斎藤T「ルール違反はしていませんよ。それに高等部2年生からメイクデビューした生徒なんて重賞レースではあまり見かけないだけで、オープン競走にだっているじゃないですか」

 

藤原さん「それはそうだろうが、高等部2年生からのメイクデビューは留年覚悟の編入生がやるものであって、中等部から入学してデビューもせずに居座り続ける度胸が普通じゃねえよ」

 

 

斎藤T「――――――ウマ娘レースで言う“普通”って何ですか?」

 

 

藤原さん「あん?」

 

斎藤T「勝負の世界は結果が全てなんでしょう? なら、実績を持たない者は実績を持つ者に従うのが筋でしょう? 勝つためには実績のある者のノウハウを学ぶしかないのでしょう?」

 

藤原さん「それは極論というやつだぜ」

 

藤原さん「まあ、だが、言わんとしたいことはわかる」

 

藤原さん「元から規範的な生徒を求める学校法人:トレセン学園としての要求と、公営競技を盛り上げていくスターウマ娘を求める特殊法人:URAの要求は、水と油の関係だからな」

 

斎藤T「そう、水と油が混じり合うために水と油が均一に混ざり合った状態となる乳化(Emulsion)が必要となるわけですよ」

 

斎藤T「まあ、軒を貸しているのはトレセン学園の方ですから、トレーナー組合が母屋を乗っ取るようなことがあってはならないのですけれど」

 

藤原さん「そりゃそうだな。あくまでもトレーナーはトレセン学園にとっては課外活動の外部コーチの扱いで、学校関係者には厳密には含まれていないからな」

 

藤原さん「トレーナーだけじゃねえ。民間警備会社のERT(緊急時対応部隊)だって常駐はしているが、トレーナー寮で寝泊まりしているトレーナーと同じ外部の人間って扱いだからな」

 

藤原さん「まあ、何にせよ、久々に会えてよかったよ、テン坊」

 

斎藤T「はい」

 

藤原さん「お前さんが命懸けでWUMAの侵略を防いでくれたおかげで、次のレース、次のシーズン、次の世代が始まっていったんだ」

 

藤原さん「たぶん、俺なんかじゃお前さんが描く未来なんか何一つ想像することもできないだろうが、たまにはこうして顔を合わせようぜ。お前さんの両親のことも忘れないうちに話してやりたいからよ」

 

斎藤T「楽しみにしてます」

 

藤原さん「まあ、気が済むまでトレーナー業を頑張ってくれや。お前さんが選んだアグネス家のお嬢さんのこと、しっかりと勝たせてやるんだぜ、トレーナーとしてな」

 

斎藤T「記憶喪失で基本知識が吹っ飛んだ素人の付け焼き刃の指導なんて不要ですよ、彼女には」

 

藤原さん「まあな。トレーナーなんてのは実質的には出走チケットだしな。重要なのは自分のウマ娘が勝つかどうかだけだもんな」

 

藤原さん「でも、専属契約を結んだということは互いに旨味があるからで、トレーナーに求められるもの以外を求められているのなら、お前さんだったらやれるさ」

 

 

――――――妹さんのために我が身を犠牲にして中央のトレーナーになったテン坊なら何だってな。

 

 

それから私たちは藤原さんの関西で行きつけの居酒屋でいろいろと話し合った後、藤原さんに東京行きの駅まで送ってもらえた。

 

私の担当ウマ娘であるアグネスタキオンは家族関係が希薄な環境に生まれ育っているので、大の大人が子供が入ってこれない大人の話をして飲み食いをするだけの退屈な時間のはずだろうに、

 

意外と藤原さんに対しては愛想の良い態度を見せており、藤原さんも年頃の娘がいるので扱いに慣れているのか、居酒屋で子供が楽しめるメニューを注文して飽きさせないように気遣いをしていた。

 

そのため、久々に予定が合ったので会うことになった藤原さんがこんなにも子供受けする家族愛に溢れた素晴らしい大人なんだということをヒシヒシと感じることになった。

 

それは両親を早くに喪った斎藤 展望とその妹にしても同じであり、藤原さんと顔を合わせると温かく包み込まれるようでどっしりと支えられるような安心感が蘇ってくるのだ。これが所帯持ちの包容力というやつなのだろうか。

 

 

コツコツコツ・・・

 

 

アグネスタキオン「藤原さんって いい人だねぇ」

 

斎藤T「どうした、急に?」

 

アグネスタキオン「いや、私の家庭が基本的に研究一筋で放任主義なのは知ってのとおりだが、きみが育った家庭というのは私のところとはまるで違ったことに毎回驚かされていてね」

 

アグネスタキオン「きみも世界最高峰の警察バの血統のハーフなのだから、もっとそのことを誇りに思いたまえよ。両親のことを何も憶えていないのはとても悲しいことじゃないか」

 

斎藤T「およそアグネスタキオンらしからぬことを言う」

 

アグネスタキオン「考えてもみたまえ。何のために人は生きて死んでいくのか――――――」

 

アグネスタキオン「結局は死ねば全てが無に戻るなら、どれだけ一生懸命に生きて頑張り抜いたところで意味はないだろう」

 

アグネスタキオン「それがわかっていながら、なぜ私たちはそれでも生きるのかと考えたら――――――、」

 

 

――――――その答えは『誰かに託すため』だろう。

 

 

アグネスタキオン「もっと正確に言えば、『誰かに託す』ことでもっとより良い幸せや生活、未来がやってくると信じているからだろう。残せたものが生きた証だ」

 

斎藤T「……そうだな」

 

アグネスタキオン「私はね、トレーナーくん。きみを通じて初めて広い世界を見据えることができた。研究室に一人閉じこもって、周りを省みることなく、ただひたすらに待つことを選んでいた――――――」

 

アグネスタキオン「そして、そんな自分も世界さえも変えてしまうような存在が 今 目の前にいるんだよ」

 

斎藤T「………………」

 

アグネスタキオン「でも、目を離した瞬間には最初からそこにはいなかったかのように消えてしまいそうな存在がきみでもあるんだ」

 

アグネスタキオン「きみは言っていたな」

 

アグネスタキオン「これから先の未来はWUMA襲来の()()()()()に繋がる因子が集まっているからこそ、それを打ち消すほどのタイムパラドックスで軌道修正の因子を集めて未来を変える必要があるのだと」

 

アグネスタキオン「つまり、私のいつもすぐ側にきみという存在を観測し続けるためには、きみという存在を誰よりも識っていればいい――――――。因子とはそういうことだろう?」

 

 

アグネスタキオン「だから、私はきみのことを識りたいと日に日に強く思うようになっているんだ」

 

 

アグネスタキオン「私が研究室に一人閉じこもって募らせていた不安の正体はそれだったんだ。何を待っているのか、何のためにトレセン学園に残り続けているのかもわからなかった――――――」

 

アグネスタキオン「そのことに気づかせてくれたきみの存在が締め切ったカーテンの隙間から差し込む朝日のように眩しくてね」スッ ――――――ダイヤモンドのネックレスが月明かりに照り返す。

 

アグネスタキオン「だから、漠然とプランAとプランBだけは考えついていたのかも」

 

斎藤T「……そうか。まあ、助けに行った時は深夜だったけどな」

 

アグネスタキオン「それも、怪人:ウマ女の魔の手から一人のウマ娘を助けるためにだろう?」

 

斎藤T「その後、お前に擬態して存在を乗っ取ろうとしていた怪人:ウマ女と一緒になって人体実験を楽しんでいたがな!」

 

アグネスタキオン「まあまあ! 今ではいい思い出じゃないか、トレーナーくん!」ハハハ!

 

斎藤T「自分で言うか!?」

 

 

――――――ホント、嫌になるぐらい()()()()()()()だよ、お前は。嫌いではないさ。

 

 

斎藤T「さてさて、明日は中山競バ場で『弥生賞』というわけですが、明日は誰が勝つと思いますか、アグネスタキオンさん?」 ――――――気分転換のインタビュー口調!

 

アグネスタキオン「それはもちろんエアシャカール。シャカールくんだろうねぇ」

 

斎藤T「ああ、電算部部長の。私も大変お世話になりましたよ、彼女には」 ※電算部のスーパーコンピュータを無断拝借していたという意味で

 

アグネスタキオン「同じ理論派のハヤヒデくんが“神メ”シンザンに続く連対記録達成者になったことだし、今度は狂信的な数字の信奉者であるシャカールくんが導き出したロジカルな理論が実証されることを願っているよ」

 

斎藤T「エアシャカールはすでにジュニア級でG1レース『ホープフルステークス』を勝利しているG1ウマ娘ですが、連対記録を持っているウオッカとダイワスカーレットと比べると安定感に欠ける印象があるみたいですよ?」

 

アグネスタキオン「まあ、シャカールくんはデータ至上主義者だからこそ不確定要素を排除したがる潔癖症でもあり、それで逆に神経質になって突発的なトラブルに弱い面を生んでもいるから、データに頼りすぎるのも考えものだねぇ」

 

斎藤T「そうですね。どんなに正確な計測機器や精密機械であろうとも誤差や故障は必ず生じるわけですから、不測の事態に対応できるように冗長性は持たせるべきだと私も思います」

 

斎藤T「数字も正しい勝利へのアプローチではあるけれど、徹底的に管理・シミュレートされた結果のとおりにならないからこそ、公営競技として成り立っている本質を忘れちゃいけないです。結果がわかっている賭けなど退屈なもので、公営競技として成り立たないんですよね」

 

アグネスタキオン「それこそ、未知なるものを求めて宇宙を目指すトレーナーくんからすると、シャカールくんは『誤差を許容できないために想像力が足りない』というわけだね」

 

斎藤T「自分が安心するためにデータに縋っているのに、現実としてそのデータとちがうことに振り回されているんじゃ、まだまだといったところですよ。データはあくまでも手段の1つです」

 

アグネスタキオン「まあ、結果がどうなるかは明日のお楽しみというやつだね」

 

斎藤T「お」ブルブル・・・ ――――――携帯電話が受信!

 

斎藤T「――――――はい、もしもし、中央トレセン学園所属の斎藤です」スチャ

 

斎藤T「――――――あ、そうですか。『契約は成立』。では、月末の『大阪杯』を楽しみにしていますよ」

 

斎藤T「――――――ええ。あなたがメジロマックイーンという“最強の長距離ウマ娘(ステイヤー)”のオマケではなかったことを存分に証明してください」チラッ

 

アグネスタキオン「おお! これは目が離せなくなってきたねぇ!」

 

斎藤T「でなければ、あなたは 一生 担当ウマ娘に頭が上がらない情けない男のままですよ」

 

斎藤T「愛バの卒業まで足掻いてください。セカンドキャリア支援は手厚く行いますので。なんなら、メジロ家も巻き込んで私の夢に参加してください」

 

斎藤T「では、お願いしますよ」

 

 

――――――史上初“春シニア三冠”達成という偉業を自らの手でメジロ家にもたらしてください! でなければ、今度こそ多摩川で死ね!

 

 

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