ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第二次決戦Ⅱ アグネスオタカルの憂鬱 -八冠の女王の世界-

 

――――――目標:3月12日の卒業式から3月19日の修業式までの1週間の時間の牢獄を突破せよ!

 

 

卒業式の日、卒業生代表答辞を境に世界は突如“最強の七冠バ”シンボリルドルフではなく“無敵の八冠バ”アグネスオタカルが君臨した別世界に変わってしまった。

 

いや、正確には斎藤T、ピースベルT、和田Tの3名がこのアグネスオタカルの世界(仮称)に異世界転移してしまったのかもしれない。

 

というのも、元の世界と比べてトレセン学園の総生徒数が1500名弱ということで、明らかにシンボリルドルフとアグネスオタカルの間で何かがちがっていたことは明白であった。

 

アグネスオタカルの世界の生徒会メンバーは全員知らないウマ娘であり、元の世界の生徒会メンバーは生徒会役員ではなく まったくちがった学生時代を送ることになっていたことに、私たちは少しの掛け違いで何もかもが変わってしまう世界の微妙なバランスというものを体感することになった。

 

そう、それはあり得たかもしれない可能性の数々であり、いきなりは理解できなくても 順を追って考えれば いずれは納得してしまうような もしもの世界でもあった。

 

 

たとえば、BNWとの戦いを制して史上初の“無敗の三冠バ”になれたシンボリルドルフが存在しなかったら――――――?

 

 

もしもビワハヤヒデとナリタブライアンの姉妹対決が果たせなかったら――――――?

 

 

あるいは、和田Tがメジロマックイーンをスカウトできずに底辺チームに居続けたら――――――?

 

 

もしくは、ビワハヤヒデが最初の3年間を支えた相手の存在を思い出にして、最後のシーズンを支えてくれた相手に想いを寄せるようになっていたら――――――?

 

 

トレセン学園やウマ娘レース全体が時代の最先端から取り残されることになったら――――――?

 

 

そういったちがいが結果として国民的スポーツ・エンターテインメント『トゥインクル・シリーズ』の夢の舞台であるトレセン学園の総生徒数や入試倍率にもろに響いていたわけなのだ。ついでに黄金期の繁栄の記念碑となる附属高層施設:エクリプス・フロントも建てられていない。

 

そして、この世界でトレセン学園の顔役になっていた“八冠の女王”アグネスオタカルは独自路線の追求が特徴的なアグネス家のウマ娘であったことが災いして先進的な改革案の数々が旧態依然とした組織に歓迎されることがなかったため、最年少で就任してたった1年で生徒会長職を辞したことがトレセン学園や業界に対する世間の不信感をますます高めることになった。

 

そう、言ってみれば“八冠の女王”アグネスオタカルは改革ではなく革命の担い手であり、現在でも自由で開放的であるが故に奔放な生徒たちに手を焼くような“永遠なる皇帝”シンボリルドルフが導いた黄金期よりも更なる自由化を推し進める過激さが問題となっていたのだ。

 

つまり、“皇帝”シンボリルドルフぐらいの歩みの改革路線でなければ黄金期を迎えることができなかったことの一種の証明となっており、“女王”アグネスオタカルの時代の最先端を走り過ぎた革命路線は結果としてトレセン学園の衰退を招くことになった。

 

一応は総生徒数が1000人を割っていた暗黒期よりは成長してはいるが、普通に考えて単純なG1勝利数は“皇帝”を超える“女王”が治める時代だと言うのに、総生徒数1500名弱なのはあり得ないことである。

 

いや、人気は間違いなく“皇帝”よりも“女王”の方があった。それは公式ファン数で明確に順位付けられていた。

 

しかし、問題となるのはそれは()()()()()()()()()()()()()()()()であって、()()()()()()()()()()()()()()()()()ではないことだ。

 

むしろ、現在のトレセン学園や業界全体の人気を支えているのがアグネスオタカル個人の人気というのが実態であり、統計資料で見たファン数の割合がアグネスオタカルに一極集中している状態はアグネスオタカル卒業後のトレセン学園や業界全体の雲行きが一気に不安になるほどであった。

 

また、予言書『プリティーダービー』に書かれていたスターウマ娘に舞い降りる災難の多くが現実のものになっており、

 

ライスシャワーはミホノブルボンやメジロマックイーンに勝ったことで悪役(ヒール)になるわ、ビワハヤヒデとナリタブライアンの姉妹対決は実現しなかったことで“クラシック三冠バ”ナリタブライアンのその後が荒むわで、とんでもない災難に見舞われ続けていた。

 

それに対する大人の対応が悪かったことが生徒たちの代表機関である生徒会役員として1年は精力的に働いてみせたアグネスオタカルの失望であり、同時にそれはアグネスオタカルを支持してきた生徒たちの怒りや嘆きでもあった。

 

その後、アグネスオタカルは『URAファイナルズ』開催を受けて競走ウマ娘としては引退ではなく無期限活動休止とする間、ユーチューバー活動に専念してトレセン学園や業界全体を盛り上げようとアグネス家公認の個人活動を繰り出すようになった。

 

それによって、姉妹対決が実現できずに荒れ果てた“クラシック三冠バ”ナリタブライアンと比較して圧倒的評価の高さの“トリプルティアラ”アグネスオタカルの支持層は爆発的に増加したものの、その人気は肝心のトレセン学園や業界全体に還元されることはなかったのだ。

 

むしろ、ますますトレセン学園や業界全体への不支持が高まっていくことになり、そもそもアグネスオタカルがアグネス家公認の個人チャンネルで活動していること自体がトレセン学園の非協力的な態度の現れであると有識者たちは言うのだ。

 

そう、アグネスオタカルがトレセン学園や業界全体を盛り上げようと必死にアグネス家公認のユーチューバー活動をして、そこで見せつけた人間性や先進性がかえって旧態依然のままのトレセン学園に世間の怒りの矛先が向けられてしまうという悪循環に陥ってしまっていたのだ。

 

高尚さを保ち続けた“永遠なる皇帝”シンボリルドルフとは正反対の低俗さを極めた“八冠の女王”アグネスオタカルはそれ故に個人としては圧倒的にシンボリルドルフをしのぐ実績と支持を集めたものの、業界全体の人気を上向きにすることは決してできなかったのである。

 

 

つまり、個人の才覚は独自路線を貫くアグネス家の“女王”アグネスオタカルが上であっても、指導者としての器量は格式と伝統を守り抜くシンボリ家の“皇帝”シンボリルドルフには遠く及ばなかったのだ。

 

 

そのことを考えると、“皇帝”シンボリルドルフが幼くして背負わされた道というのはなんと退屈極まりないものであろうか。個人の自由はなく 組織の柱となるべく その全てを背負うことだけが存在意義であると教え込まれたウマ娘――――――。

 

一方で、“女王”アグネスオタカルは誰よりもウマ娘のために単なる改革を超えた革命路線を突っ切ろうとして猛烈な反発を受けて頓挫することになり、結果として自身の存在がトレセン学園や業界全体に悪影響を及ぼすことになっていることに愕然としていた。

 

つまり、どちらのやり方が正しかったのかはさておき、どちらのやり方が結果を出しているのかを考えれば、“皇帝”シンボリルドルフを玉座に戴いた黄金期を迎えられたウマ娘たちの方が圧倒的に幸せであると言えるだろう。

 

その点で、私たちは極めて近く限りなく遠い世界の洗礼を受けた衝撃を忘れるべく酒場をハシゴして一眠りした後に元の世界への帰還を急ぎたかった。

 

正直に言って この世界におけるトレセン学園を取り巻く状況も最悪だが、それ以上に人間関係の問題で受け容れられないことが大量発生したため、現実逃避するかのように酒を飲み干さずにはいられなかったのだ。

 

しかし、さすがに酔いが回ってきて寝落ちしても大丈夫なように、最後はカラオケで思いっきり泣き叫んでストレス発散しようとしていた時である。

 

 

――――――これからトレセン学園の歴史に終止符を打つのよ!

 

 


 

 

●アグネスオタカルの世界:3月13日

 

斎藤T「――――――起きてください」ユサユサ

 

和田T「う、ううん……」ウトウト・・・

 

ピースベルT「あらぁ? ここはどこかしらぁん?」トローン・・・

 

斎藤T「とりあえず、酔い醒ましの水でも」

 

和田T「あ、ありがとう。さすがに飲み過ぎて頭が痛いなぁ……」

 

ピースベルT「これってリムジンの中ぁ……?」

 

斎藤T「それじゃ、外の空気でも吸いましょうか」

 

和田T「う、うん……」

 

 

ガチャ

 

 

和田T「おお、空気がうまい!」

 

ピースベルT「のどかな朝ねぇ」

 

斎藤T「ここは――――――」

 

 

アグネスオタカル「あら、ようやくお目覚めかしら?」

 

 

和田T「あれ、誰だっけ、この人? シンボリルドルフよりもすごい実績のトリプルティアラの人だっけ?」

 

ピースベルT「たしか、アグネスオスカルじゃなかった?」

 

アグネスオタカル「ちがうから! アグネスオタカル! オタク・カルチャーの略! ちがうけど!」

 

和田T「あれ? じゃあ、なんで俺たち、リムジンで一晩過ごしたんだっけ? というか、ここはどこ?」

 

アグネスオタカル「よく聞いて、和田T。それと――――――、あなたは?」

 

ピースベルT「あ、私はピースベルT♪ 気軽にピーちゃんやベルちゃんって呼んで♪」ウフッ

 

アグネスオタカル「こんな芦毛の高身長のスレンダー美人のトレーナーなんていたかしらね? 来年配属の方かしら?」

 

アグネスオタカル「でも、存在感はあるし、なかなかの逸材だと思うわ!」

 

ピースベルT「ありがとう♪」

 

和田T「それで、ここは――――――?」

 

 

斎藤T「――――――根岸競バ場」

 

 

和田T「…………『根岸』? 東京・ダート・1400m『根岸ステークス』の?」

 

ピースベルT「それって戦前まで存在していた横浜競バ場のこと?」

 

アグネスオタカル「なんだ、知ってたんだ。驚かせようと思ったのに」

 

斎藤T「アグネスオタカル。『トレセン学園の歴史に終止符を打つ』というのは根岸競バ場をホームグラウンドにした“第2の日本トレセン学園”を発足させることなのか」

 

アグネスオタカル「さすがね、斎藤T。相変わらず察しがいいこと」

 

アグネスオタカル「まあ、一言で言えば そういうこと」

 

アグネスオタカル「ねえ、目黒から移転した府中のトレセン学園が“中央”と呼ばれるのはなぜだと思う?」

 

和田T「そんなの、世界最先端のトレーニング環境と日本最高峰のトレーナー陣でしょ?」

 

アグネスオタカル「なら、それが揃っているのなら全寮制の学園である必要もないでしょう?」

 

 

アグネスオタカル「だから、私は横浜競バ場を復活させて、日本の近代ウマ娘レースの原点である居留地競バの発祥地:根岸に第2の日本トレセン学園を築き上げるの!」

 

 

斎藤T「改革ではなく革命に行き着く“八冠の女王”らしい発想だ。内側から変えることができないなら、外側に新しいものを打ち立てるという――――――」

 

アグネスオタカル「もうね、URA上層部の改革派も第2の日本トレセン学園を承認して、私が生徒会長を辞めた時からこの極秘計画はスタートして、私の卒業と同時に発表されるってわけ」

 

斎藤T「――――――『URAファイナルズ』に対するあてつけか」

 

アグネスオタカル「そうなったら府中の()トレセン学園は終わりよ。旧態依然とした府中のやり方に不満を持ったトレーナーたちの引き抜きも完了しているしね」

 

斎藤T「そんな簡単にうまくいくのか?」

 

斎藤T「慣れないトレーニング環境への適応;勝手の違いになれるまで本調子を出せるようには思えないが」

 

アグネスオタカル「その辺も抜かりないわ。私を支持する子たちを使って去年から新しい合宿場のレビュアーになってもらってたから」

 

アグネスオタカル「それに日頃の私の行いが良かったから、基本的に()トレセン学園と同じ業者と契約できているし、運営の方もそんな勝手はちがわないから」

 

アグネスオタカル「まあ、とりあえず、ここでいつまでも立ち話をするのもなんだし、崎陽軒のシウマイ弁当でもどう?」

 

和田T「シウマイ弁当か。横浜名物だけど、たまに東京でも見かけるし、美味いよな」

 

ピースベルT「お腹もペコペコだし、ごちそうになります♪」テヘッ

 

斎藤T「………………」

 

 

元々、中央トレセン学園と呼ばれている府中市の日本トレセン学園は目黒競バ場に併設されていたものが移設され、全寮制の住宅団地を抱えるほどの独自の規模をもったものである。

 

しかし、最高のトレーニング環境を多くの才能あるウマ娘に与えようとして住宅団地になるほどの学生寮を抱えたことで寮費が高騰してバカ高い学費に膨れ上がっており、それが多くの生徒たちが引退即退学につながる要因にもなっていた。

 

また、住宅団地になるほどの生徒以外立入禁止の学生寮は巨大過ぎる閉鎖空間となって学生寮自治会が必要となり、ベッドタウンの市長とシティセンターの市長の対立に喩えられる長年に渡る生徒会との対立の根深い温床にもなってきた。

 

一方で、元の世界の横浜トレセン予備校“根岸校”のように通常の教育機関の機能を完全に排除するわけではなく、既存の中央トレセン学園が抱える問題をスリム化によって解決しようとしたのがアグネスオタカルの考える“第2の日本トレセン学園構想”であった。

 

というよりは、東京都心から離れた多摩地域にある府中市の立地が選手生命を燃やして一世一代の大勝負に打って出たウマ娘たちの心を癒やすのには風情がなさすぎるということで、東京の近場に療養地に使えそうな横浜競バ場があったことで思いついた計画なのだと言う。

 

元より横浜トレセン予備校ができあがるぐらいには横浜とウマ娘レースの繋がりは歴史的に深いものがあり、府中市にはない海に面した風光明媚な立地が療養地として最適ではないかと、一度はトレセン学園の理事会にオンライン分校にすることを意見具申していたのである。

 

そう、当初は府中の日本トレセン学園から独立した第2の日本トレセン学園としてではなく、静養を必要としているウマ娘たちの療養所(サナトリウム)としてオンライン授業が受けられるように希望したものが土台となっており、あくまでも中高一貫校である日本トレセン学園のノウハウを継承していた。

 

なので、第2の日本トレセン学園は広大な住宅団地が必要な学生寮の存在を否定し、()日本トレセン学園を中心にした学園都市を形成して、地方自治体に治安を委ねることにしていた。

 

事実、民間警備会社のウマ娘で構成されたERT(緊急時対応部隊)だけで住宅団地の規模の学生寮を警備するのは無理があるのは去年の事件で明らかになっているだけに、

 

私としても警備の観点から『住宅団地にまで膨れ上がった学生寮は解体して地方自治体に組み込むべき』だと現実的解決策としてシンボリルドルフに提案したことがあるので、これには完全に同意だった。

 

それに飯守Tの体験談にあったように、学生寮に引きこもってしまった生徒を外に連れ出して心の安定を図る療養所(サナトリウム)のアイデアは悪くないものなので、そのアイデアはこの場でありがたくちょうだいすることにした。

 

つまり、私から見ても“八冠の女王”アグネスオタカルの中央トレセン学園の改革案は非常にいい線を行っているのだ。

 

正直に言って、“皇帝”よりも“女王”の方が支持(ファン数)を集めるのは当然だと思えるぐらいにアグネスオタカルのアイデアと企画力はアスリート養成校の一生徒であることを抜きにしても卓越していた。

 

しかし、それ故に組織の裁量や都合を無視した急進的なものでもあり、トレセン学園の理事会の裁量や都合だけでどうこうできるような話でもないことを推し量れないところが改革を志す政治家から過激な展開に繋がる革命家たる所以なのだろう。

 

ウマ娘のためなら私財を擲って何だってする秋川理事長でも本気でウマ娘たちのことを考えてやれた精一杯が新設レース『URAファイナルズ』開催なのを考えると、いかに現実離れした提案なのかが理解できるだろう。

 

その現実離れの部分がいろんな前提を無視しているからこそ出てくる天才の発想であると同時に相互理解の欠如の現れでもあることを個人活動で絶大な支持を集めることに成功した“八冠の女王”アグネスオタカルには理解できないことだろう。

 

そして、URA上層部の改革派が秘密裏に計画を進行していき、発起人である“八冠の女王”アグネスオタカルは3年間の現役時代に築き上げた名声と1年間の生徒会長として得られた知見を資本にした2年間のユーチューバー活動を通じて、水面下で府中からの独立を画策していたのであった。

 

一応は母校の名誉のために卒業するまでは発表を待ってあげてはいるが、これは明らかな秋川理事長の献身に対する裏切り行為であり、長期的に見て業界全体を後退させる自殺行為にしかならないように感じられた。

 

そう、『秋川理事長以上にウマ娘を愛して私財を擲ってドンと構えられる胆力を持つ経営者が現れるのか』というのが“第2の日本トレセン学園構想”の目的が果たされないだろう原因と私は見ている。

 

 

そして、横浜トレセン予備校のパンフレットとは異なる建て替えがなされた()日本トレセン学園のゲストハウスで朝食のシウマイ弁当を平らげた後、横浜の第2の日本トレセン学園の案内を“女王”陛下自ら行った。

 

総生徒数2000名弱を誇った“皇帝”シンボリルドルフが治めた府中の中央トレセン学園と比べれば、総生徒数1500名弱の“女王”アグネスオタカルの治めたトレセン学園はその分だけ規模が縮小していたというより、1000名を割っていた暗黒期からここまで膨れ上がったのだから それ以上の規模の拡大がなされなかったのが正解だろう。

 

一方、この根岸校は当初は療養所(サナトリウム)を目指していたこともあって、規模としては500人程度の分校を想定しており、府中と根岸を合わせることで総生徒数2000名を超える規模拡大を当初は目論んでいたようなのだ。

 

いや、総生徒数2000名弱というのはアスリートコースとサポートスタッフコースの生徒を合わせた数であるのでトレセン学園の生徒の全員がターフの上を走るわけではないし、

 

一応は関西遠征のための拠点となる京都分校などがあるので、療養所(サナトリウム)となる根岸分校の設立も問題があるようには思えない。

 

それならウマ娘レース業界を支えているアグネスオタカルの提案に全力で乗っかっておけば安泰だろうに、それに対してウマ娘ファーストの第一人者の秋川理事長が乗らなかったことの意味を考えなければならない。

 

それから私は可能な限りの情報を集めた上で結論を叩きつけた。我らが“皇帝”陛下が別世界の“女王”陛下に勝っているところを言わねばならない。

 

 

斎藤T「――――――『世界は何も変わらない』と思います」

 

アグネスオタカル「は」

 

斎藤T「たしかに、療養所(サナトリウム)のアイデアは是非とも採り入れたいぐらいに素晴らしいものですが、はたして秋川理事長を目の敵にしてまでやるようなことだとは到底思えません」

 

アグネスオタカル「は?」

 

アグネスオタカル「何かの冗談だよね?」

 

アグネスオタカル「きみ! 今更になって引けない状況なのに何を言っているわけ?」

 

斎藤T「なら、助言はしておきますよ」

 

斎藤T「生徒会長職を辞職した後にユーチューバーとしての個人活動でウマ娘レース業界の人気を牽引することになった“女王”陛下には実感が湧かないことでしょうが、」

 

斎藤T「ウマ娘レースがウマ娘一人一人のマンパワーによって成り立っているように、トレセン学園という組織もまた経営陣一人一人のマンパワーによって成り立っているのです」

 

斎藤T「そのことを何よりも軽視して競走ウマ娘と担当トレーナーだけの楽園を築き上げようとしたところで、そこは下水処理場のない汚物の掃き溜めになるのが定めですよ」

 

斎藤T「それこそ、清貧を謳ってユダヤ人の金貸しに縋るキリスト教徒みたいなものじゃないですか」

 

斎藤T「あるいは、泥中の根があるからこそ水面に美しい花を咲かせる蓮の教えを知らない仏教徒みたいなものですね」

 

アグネスオタカル「………………!」

 

アグネスオタカル「……ガッカリだよ。私はビワハヤヒデとナリタブライアンの姉妹の心を取り戻してくれたきみにこそ来て欲しいと願っていたのに」

 

斎藤T「理想が間違っているわけじゃない。実践が伴っていないだけだ」

 

アグネスオタカル「同じことじゃないか!」

 

斎藤T「それなら別に、本質的にはウマ娘レースになど関心がない“斎藤 展望”にこだわる必要はないのではありませんか?」

 

アグネスオタカル「――――――ッ!」

 

アグネスオタカル「き、きみってやつは人の厚意をなんだと思って――――――」

 

斎藤T「それより、ひどい矛盾だとは思いませんか?」

 

アグネスオタカル「何が!?」

 

斎藤T「どちらにしろ、秋川理事長はあなたの入学から数えて就任6年目、そろそろ理事長の座から下りる時期にもなっています」

 

斎藤T「だから、今回の独立騒ぎで責任を問われて失脚するにしても、すでに理事会は次を見据えているので秋川理事長の進退は大した痛手にはならないでしょう」

 

斎藤T「どちらかと言えば、秋川理事長以上の理事長は今後現れないことを踏まえて、次に就任する理事長の失策を世間の衆目に晒してから府中からの独立を果たすべきだったと思いますがね」

 

アグネスオタカル「え」

 

斎藤T「少しだけあなたの個人チャンネルのアーカイブを見返したんですけど、これまで様々な業界の垣根を超えた交流活動をしてきたのなら、オフレコとして世間に公表しなかった秘密をいくつも話し合ってきたわけなのでしょう?」

 

 

――――――どうして秋川理事長と話し合わなかったのですか?

 

 

アグネスオタカル「…………!」

 

斎藤T「アグネスオタカルがトレセン学園を卒業した今だからこそ、秋川理事長と腹を割って現実のことを話し合うべきなんです!」

 

斎藤T「それさえできれば、あなたにはシンボリルドルフを超える才能と声望があるのですから! 現実的な困難を超克して秋川理事長は絶対に力になって理想は大きな一歩を遂げるはずですよ!」

 

アグネスオタカル「――――――し、『シンボリルドルフ』?」

 

アグネスオタカル「そ、そうなのか?」

 

斎藤T「そうですよ!」

 

 

要するに、“皇帝”シンボリルドルフが“女王”アグネスオタカルに政治力で勝る点は、関係各位への根回しと歩調を合わせることができることに他ならなかった。

 

トレセン学園の旧態依然とした態度に痺れを切らして精力的な個人活動で絶大な支持を集めることができたアグネスオタカルのカリスマ性とフットワークの軽さはシンボリルドルフを完全に超えているが、それだけに誰もついていくことができないのは指導者としては致命的なものがあった。

 

才羽Tの作った鯖の味噌煮が大好きな飯守Tではないが、()()()()のは時と場合によっては非常に困る時があるというわけなのだ。

 

というより、“女王”アグネスオタカルの天才的な発想は“皇帝”シンボリルドルフにはあった運営側の視点や事情を一切考慮しない顧客側の無茶振りなので、現実的なことを踏まえなければならない理事会としては史上最強のスターウマ娘というただでさえ世間への影響力が強い存在なだけに頭を抱えたことだろう。

 

むしろ、ほぼ人気を一極集中するほどの絶対的存在に対して流されることなく毅然と対応していた秋川理事長の肝の据わり具合がまた浮かび上がってくるぐらいだ。

 

となれば、“女王”アグネスオタカルの存在感と幼くして誰よりも肝っ玉を練り上げている秋川理事長が手を組めば、今までのウマ娘レース業界の人気低迷を覆すほどの新秩序が築き上げられるのだ。

 

第2の日本トレセン学園を標榜する根岸校の存在は中央を分断するものではなく、これまでウマ娘レースで全身全霊を込めて戦い抜いた子たちを癒やすための療養所(サナトリウム)としての性格を強めていけば、横浜トレセン予備校としても成立していた立地なのだから共存していくことはできるはずだ。

 

それが アグネス家のウマ娘が頂点に君臨していた この世界におけるトレセン学園が辿るべき未来だと確信できた。

 

そう、“女王”アグネスオタカルの強みは“皇帝”シンボリルドルフとはちがって卒業後の進路は海外留学ということはなく、東京の大学に通いながら引き続きユーチューバー活動をしながらウマ娘レース業界全体が盛り上がるように頑張ろうとしている点だ。

 

つまり、トレセン学園の生徒の立場から解放された今後は、自身の知名度と影響力をフルに活用して縦横無尽に活躍することができるようになるはずだ。

 

今までそれを生徒の立場で精一杯にやれてきたのだ。となれば、いつまでも人々の側に親身に寄り添って未来の進むべき方向性を正していける生粋のウマ好きなのだ。

 

そういう意味では“無敵の八冠バ”アグネスオタカルは真の意味で無敵の人であり、現実的な面を調整してくれる最大の後援者さえいれば、思ったよりもこの世界の展望は明るく思えた。

 

良くも悪くも“女王”アグネスオタカルに影響力が一極集中していることがこれからの人類の未来を左右している点で非常に不健全と言えるものの、この世界の日本ウマ娘レース界を前向きに支えていえる存在だと心から思えた。

 

 

――――――アグネスオタカル。この方は自分の立場から逃げようとせずに真っ向から道を切り拓いていける強い心の持ち主でした。

 

 

和田T「へえ、そんな壮絶な話し合いがあったわけなんですか。おつかれさまです」

 

斎藤T「ええ。人気が一極集中しているからこそ、トレセン学園を卒業して自由を得たアグネスオタカルの影響力を秋川理事長の後援の下でフルに発揮していけるようになれば、みんなが“女王”陛下に従ってくれるはずですよ」

 

ピースベルT「ユーチューバー活動での垣根を超えた様々な企画がますますファン数を増やしているから、卒業した後なら もっと活躍できるというのも頷けるわねぇ♪」ウフッ

 

ピースベルT「そういう意味だと、アグネスオタカルには理想と現実の折り合いをつける政治家としての能力はなくても、理想家である自身を支えてくれる後援者がいれば、どこまでも突き進める一途さが魅力の子なのね♪」ニッコリ

 

ピースベルT「これはたしかに“皇帝”シンボリルドルフに勝るとも劣らぬ偉大なスターウマ娘だったわ♪」ウンウン!

 

和田T「ですね。我らが“皇帝”陛下が秋川理事長と二人三脚で黄金期を導いてきたのとはちがった成功の道が示されているだけに、療養所(サナトリウム)としての根岸校の成功を祈るばかりです」

 

 

和田T「で、いつまで俺たちはこの別世界にいなくちゃならないんですか?」

 

 

和田T「ここで見て聞いて学んできたものを俺たちは持ち帰らなくちゃならないわけなんですよね?」

 

和田T「おかげで、元の世界がどれだけ恵まれたものなのかを再確認することができましたけど……」

 

ピースベルT「まあ、あまり長居はしたくないわねぇ。ただでさえ、いろいろと思い出しちゃうから……」

 

斎藤T「別世界とは言え、“目覚まし時計”の効力で時間が巻き戻って()()()()()()になるはずだけどね……」

 

和田T「でも、横浜/根岸は東京/府中とはちがった魅力にあふれた場所ですね」

 

斎藤T「元の世界だと横浜トレセン予備校“根岸校”になっているわけで、元からこれだけのポテンシャルを秘めていたわけですからね」

 

ピースベルT「どういう形であれ、理想のためにみんなが切磋琢磨して前を向いて歩いていけることは素敵なことよ♪」フフッ

 

和田T「けど、気になるのはやっぱり根本から変わっているのは6年前;シンボリルドルフが入学した年から中央トレセン学園の歴史の流れが変わっていることですね」

 

斎藤T「元からアグネスオタカルなんて最強のトリプルティアラのウマ娘はいなかったから『6年前が歴史の分岐点になっている』と言うのは厳密にはちがうのだけれど――――――」

 

斎藤T「!!!!」ガタッ

 

和田T「……どうしました?」スッ

 

ピースベルT「……あれ、この臭い、憶えがあるわ?」クンクン

 

和田T「え?」

 

斎藤T「いや、あれ――――――」スッ

 

和田T「……あれは鹿毛のウマ娘?」

 

斎藤T「――――――」ダダッ!

 

和田T「あ! 斎藤T……!」

 

ピースベルT「……ようやくわかった♪」フフッ

 

和田T「え」

 

ピースベルT「三女神は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を試していたみたい♪」テヘッ

 

 

ダッダッダッダッダッダ・・・!

 

 

斎藤T「あ、すまない。そこの人……」ハアハア

 

女学生「え、あ、はい……」 ――――――深々とした帽子を被った車いすの女学生。

 

斎藤T「私は中央トレセン学園のトレーナーなんだ。名を“斎藤 展望”という」

 

女学生「――――――『中央トレセン学園』」ムッ

 

女学生「そうですか。府中からわざわざ根岸までいらしたわけなんですね」

 

 

斎藤T「――――――それで今の人生に満足ですか、“新堀 ルナ”?」

 

 

女学生「………………!?」

 

女学生「……突然 何を?」

 

斎藤T「ウマ娘という生き物は自身の能力を把握した上で闘争本能に適度に身を委ねなければ正気を保っていられないと聞く」

 

斎藤T「どれだけ自分を偽ろうとも隠しきれるものじゃない」

 

斎藤T「それこそ、生まれながらにして『名家』の惣領娘と見込まれるほどに将来を約束されていたウマ娘だったなら」

 

女学生「……………はい」ポタポタ・・・

 

斎藤T「……辛かったね。全てから逃げ出そうとして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に見合ったものはあったのかな」

 

女学生「それは、わからないです……」

 

斎藤T「そうだね。どっちの道も苦しみに満ちているのなら、比べることさえも無意味だとわかっているのに、どうしようもないよね」

 

 

――――――ようやく私はこの世界の真相を理解することができた。

 

 

これで“八冠の女王”アグネスオタカルの世界の攻略に成功し、元の世界である“永遠なる皇帝”シンボリルドルフの世界に戻ってこれたわけなのだが、

 

今回の異世界探訪はチュートリアルということで すぐにまた別世界を彷徨うことになるとは思いもしなかった。

 

今回の異世界探訪の攻略条件は『()()()()()()()()()()()()を探し出すこと』に他ならず、たまたま()()()の女学生として開校前の根岸校を訪れていた()()()()()()()()()()()()()を見つけ出すことができたので意外にあっさりと元の世界:卒業式の朝(セーブポイント)への帰還を果たすことができた。

 

そう、最初はそんな印象ではあったが、自分たちを含めて様々な可能性が実現した別世界の洗礼を受けた身としては言うほど簡単な話ではないことを冷静に理解するに連れて、力だけではどうしようもない事態になっていることも合わせて言いしれぬ恐怖を感じることになった。

 

ともかく、“女王”アグネスオタカルの世界の大まかな成り立ちとしては、6年前にシンボリルドルフが『名家』シンボリ家の惣領娘であることを嫌って自由を手に入れようとした結果、走ることが大好きなウマ娘として致命的な障害を自ら負ったことに端を発していたのだ。

 

つまり、自身の宿命に逆らった結果が黄金期を迎えられなかったトレセン学園というわけであり、その窮状を解決することができるだけの才覚を持った“女王”陛下がいたことで何とか命脈を保つことができたというわけなのだ。

 

それだけに“皇帝”シンボリルドルフの存在がいかに世界にとって重要なのかを再確認することになり、元の世界でそのシンボリルドルフが卒業の日を迎えることがどれだけの意味を持つのかを考えると、卒業した後のトレセン学園の将来もまた危ういものに感じられた。

 

 

――――――いやいや、それってつまりはシンボリルドルフが在籍していようがいなかろうが問題だらけのウマ娘レース業界ということではないか!?

 

 

そして、なぜかトレセン学園が抱える問題を体当たりで解決していく何でも屋(トラブルシューター)に私が選ばれているわけであり、時間を巻き戻したり 別世界を見てきたり 裏世界を歩き回ったりするのは 終わってみればいろいろと楽しいものはあったものの、やっている最中としては地獄そのものなので本気で勘弁して欲しかった。

 

しかし、どれだけ『名家』シンボリ家の惣領娘としての身分や立場から逃げ出そうとしても、そうであった事実と自身の能力を冷静に分析できる英才教育の賜物によって、自分が何をすべきなのか、何ができるのか、何者であるのかを常に自問自答する日々が際限なく繰り返されることになり、

 

何者にもならなかった自分の生き方に後悔はないと強がってみせても あれだけ憧れていた普通の人生と強制されてきたターフの上の人生とで得られるものをどうしても比べてしまう自分がいることに悩み続けてきたのだ。

 

そう、本当は自分の能力や影響力を理解してターフの上で思う存分に走りたいとウマ娘らしい願望を抱いていたはずなのだ。

 

 

――――――いつからなのだろう。自分が走るのはターフの上ではなく、親が敷いたレールの上だと感じるようになってしまったのは。

 

 

国民的スポーツ・エンターテインメントの夢の舞台であるトレセン学園に入学することを義務付けられた人生に嫌気が差した小学校卒業のお受験生は土壇場で究極の選択を迫られることになり、結果として親が敷いたレールからの脱線事故を起こすことになった。

 

血相を変えて病院に駆けつけてくれた両親にどれだけ慰めの言葉をかけられても、すでに少女の心は固く閉ざされており、親が心配しているのは自分ではなく、親の敷いたレールの上を走るための脚なのだと失望の眼差しを向けていた。

 

事実、将来を期待されたウマ娘にとって命とも言える脚に障害を負ったことで心を閉ざしてしまったのだと周りの誰もが思い違いをして見舞いに来ることに、ますます少女の心は惨めさに苛まれることになってしまった。

 

そもそも、トレセン学園の入学に反発していたのは『ウマ娘レース業界そのものが将来的に危うい』という事実を英才教育を受けて幼くして分析できた聡明さが招いたものであり、その英才教育を施した側がその事実に見て見ぬ振りをし続けるという在り方に子供心に疑問を持っていたことが少女に究極の選択を迫ったのだ。

 

 

――――――車いすのシンボリルドルフはそこから何もかも孤独になった。

 

 

やはり、実の娘でさえも『名家』の権勢と命脈を保つための政略の道具程度しか考えていないから、すぐに自分の代わりになる才能あるウマ娘を養子にして シンボリの冠名を貸し与えて シンボリ家のウマ娘としてトレセン学園に送り出してG1レースに勝つことを義務付けるのだ。

 

もちろん、養子に引き取られた子たちは『名家』シンボリ家のウマ娘として走れることを無邪気に喜ぶことだろう。それだけの手厚い支援を受けられることを考えれば人生が一転するのを如実に感じられる。

 

では、その逆はどうなのだろう。シンボリ家のウマ娘として生を受けて 惣領娘としての英才教育まで施され そこから親の敷いたレールから脱線した我が子に対する仕打ちに親子の愛など感じられるだろうか。

 

そのため、車いすのシンボリルドルフはただの一人の人間“新堀 ルナ”として男女共学の普通校に通うことになるのだが、今まで当たり前に思えた境遇が普通じゃなかったことを肌で体験することになり、自分で究極の選択をして掴み取った自由の代償に打ちのめされることになった。

 

それでも、英才教育の賜物で冷静な分析力と責任感の強さのために『親の敷いたレールの上を走り続けることに我慢さえしていれば こんな目に遭うこともなかった』のだと 自身の境遇を憎む以前に自罰意識が働いてしまうため、その間を行ったり来たりする発散されることのない感情に悶え苦しむ日々を送り続けることになった。

 

そして、車いすのシンボリルドルフ“新堀 ルナ”は ある時 学園と距離を置いたユーチューバー活動の一環でボランティア活動に参加していた“八冠の女王”アグネスオタカルと顔を合わせることになり、

 

その時にトレセン学園の門をくぐることができなかった『名家』シンボリ家の惣領娘の悲しい末路に激しい怒りを抱き、府中の連中に対する敵対心を燃やすきっかけになったのだ。

 

そう、“女王”アグネスオタカルの世界であっても場所や形を変えて“皇帝”シンボリルドルフの影響力は絶大であり、“女王”アグネスオタカルが府中からの独立を図る革命の道に突き進む原動力になっていたのだ。

 

だから、断ち切れない迷いのために車いすのシンボリルドルフ“新堀 ルナ”は自分の代わりにトレセン学園の絶対的支配者となって溜飲を下げてくれることを約束してくれた“女王”アグネスオタカルが設立した第2の日本トレセン学園となる根岸校に足を運ぶことになった。

 

しかし、実際に足を運んでみて感じられたのは満たされることのない虚ろな達成感であり、“女王”自らが車いすを押して案内してくれても、わずかばかりの温かみだけで心の傷が癒やされることはなかった。

 

それから、しばらくの間 一人になって 根岸の海から届く春風を受けながら 満たされることのなかった“本当に欲しかったもの”が何だったのかを考え込んでいたところに“斎藤 展望”が駆けつけたというわけである。

 

 

――――――その答えは車いすのシンボリルドルフ(本当の自分)“新堀 ルナ”を見つけてくれる誰かだったのだ。

 

 

 

●2周目:3月12日/トレセン学園卒業式

 

斎藤T「………………」ピッ ――――――“女王”アグネスオタカルの世界のウマ娘名鑑の電子書籍を眺め続ける!

 

和田T「ヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシ」ナデナデ ――――――一心不乱にメジロマックイーンのぱかプチを撫で回す!

 

ピースベルT「――――――」ジー ――――――2つの世界のビワハヤヒデのブロマイドの電子データを眺め続ける!

 

 

マンハッタンカフェ「……タキオンさん」

 

アグネスタキオン「……ああ、これは重症だね」

 

アグネスタキオン「しかし、“皇帝”シンボリルドルフが入学しなかったという別世界の話か。興味を唆られるものがあったよ」

 

マンハッタンカフェ「ティアラ路線のクラシックG1レース:6勝の“八冠の女王(エイト・クイーン)”アグネスオタカルの話ですね」

 

アグネスタキオン「ああ。アグネス家の傾向として独自路線の追求とティアラ路線での実績が豊富で、その集大成となる存在が別世界に実在していたのだから、私の“クラシック八冠バ”も不可能な話ではないという確信が得られたのは大きな収穫だね」

 

マンハッタンカフェ「他にも、ハヤヒデさんとブライアンさんの姉妹対決が実現しなかった可能性も実際にありえたわけですから、私も走れなくなった可能性が十二分にあったわけですよね」

 

アグネスタキオン「そうだね。予言書『プリティーダービー』により忠実な展開であったという話だが、私としても4戦4勝で引退だなんてことは絶対に嫌だからね」

 

アグネスタキオン「しかし、今まではトレーナーくんの記憶だけしか持ち越せなかったけど、」

 

アグネスタキオン「今回はトレーナーくんに同行した全員が記憶を持ち越せただけじゃなく、身につけていたPDAに収めた電子データも持って帰ることができたんだ」

 

アグネスタキオン「これは実に興味深い研究資料が集まったねぇ!」

 

マンハッタンカフェ「でも、そういった経験が豊富な斎藤Tはともかく、別世界での体験を和田Tや鐘撞Tが引き摺って…………」

 

アグネスタキオン「まあ、これはこれで新しい研究の題材にはなるだろうさ……」

 

マンハッタンカフェ「なら、もしもタキオンさんではない別世界のタキオンさんに斎藤Tが出会ってしまった場合の反応も見てみたいですか?」

 

アグネスタキオン「…………どうだろうね」ムッ

 

アグネスタキオン「私は少なくとも自分がもっとも研究が実現する可能性を選び取ったと自負しているから、それ以外のもっとうまくやれている可能性には目を向けたくないかもね」

 

アグネスタキオン「あるいは、その逆もね」

 

アグネスタキオン「だから、私という存在は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であると信じ抜くしかないさ」

 

アグネスタキオン「もっとも、どの世界でも“新堀 ルナ”という一人の少女が辿る道は2つに1つらしいからねぇ……」

 

 

――――――選ばれし者は宿命からは絶対に逃れられないというわけか。それはトレーナーくんにしても同じか。

 

 

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