ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-シークレットファイル 20XX/08/31- GAUMA SAIOH
半月前に初めて存在が確認された パーティーグッズの馬マスクを被って全身白タイツを着込んだような ふざけた格好の怪人:ウマ女の魔の手が迫ってきている。
やつらは完全な擬態能力を有しており、ヒトだけじゃなくウマ娘にもおそらく化けることができ、正体である2m近い巨体よりも遥かに小柄な擬態も可能で、まさに変幻自在。
しかも、記憶や思考も完全にコピーした人間のものを再現しているため、怪人:ウマ女の元々の体格や特徴を推測することは不可能となっている。
少なくとも、8月15日に遭遇した1体目と8月31日に遭遇した2体目の情報から、怪人:ウマ女には3種類の状態が存在すると考えられる。
1,擬態状態:ヒトやおそらくウマ娘にも変幻自在に化けることが可能で、外見から見破ることはほぼ不可能。記憶や思考も完全にコピーしていると思われる。
2,怪人状態:本来の姿と思われる全身白タイツの馬マスクを被った 一目でメスだとわかる豊かな胸の膨らみと丸みを帯びた巨体が特徴。トモの造りも理想的。
3,高速状態:身体の一部をこの地球には存在しない生き物:馬のものに変えることで目にも留まらぬ動きでもって対象を抹殺する。ウマ娘の身体能力でも反応不可能。
そのため、外見から怪人:ウマ女が擬態した偽物であるかを見抜くことができないので、どうあっても後手に回ってから対処するしかないのだから始末が悪い。
仮に正体を見破ったとしても、私からするとふざけた格好をしたヘンタイにしか見えないが、ウマ属が存在しない別な進化と歴史を辿った地球においては、
ウマ娘にとっては本能的に恐怖と絶望を抱くほどの身体能力と恐ろしい外見をしているらしく、
もちろん、2m近い巨体の異様な風采は鈍感なヒトであっても圧倒されるものがある。
事実、二度も遭遇した怪人:ウマ女を倒すことができたのは本当にただの偶然でしかなかった。偶然をものにした才覚を持っているものと信じたい。
しかし、これ以上の偶然は続くことはない――――――。
石膏像みたいな色をしているからC4爆弾なんかで爆砕することも有効だろうが、そんな爆発物を日常での遭遇戦で気軽に使用できるわけがない。
となれば、完全に擬態していることによって記憶や思考も再現していることを逆に利用して、
恐怖の怪人:ウマ女が正体を現す前に再現しきった人間の弱さを付け入る他ないのかもしれない。
ともかく、相手は強大でも一応は生物の範疇ではあるらしいので、感電トラップによる電気ショックは有効であることは確認はとれているが、
それでもC4爆弾を使うのと同じぐらいに大掛かりな準備や配慮が必要となってくるので、現状で怪人:ウマ女に遭遇してしまった場合は待ち受けるのは確実な死しかない。
こうしている間にも、今もどこかで私たちの親兄弟友人知人親戚縁者が得体の知れない怪人に全てを奪われて入れ替わっているかもしれない――――――。
第八種接近遭遇。宇宙人の侵略はすでに始まっているのだ。
――――――生徒会室
コンコンコン・・・
シンボリルドルフ「うん? こんな時間に珍しい――――――」
シンボリルドルフ「入りたまえ」
斎藤T「会長、報告があります」ガチャ・・
シンボリルドルフ「む。まさかのきみか……。で、『報告』――――――?」
斎藤T「現在、ERTが学生寮に突入して10分以上が経過しております。その情報は届いてますか?」
シンボリルドルフ「――――――!」
シンボリルドルフ「いや、どういうことかな、それは?」
斎藤T「発見者のビワハヤヒデが言うにはライスシャワーのトレーナーが無断侵入を試み、それを阻止しようとしたところ 暴行を受け、そのまま学生寮に押し入ったそうです!」
斎藤T「ERTの通報は私が行い、現在 ナリタブライアン副会長が現場の確認のために向かっています」
斎藤T「証言の代わりにビワハヤヒデのケータイを預けてくれました。充電させてください。ビワハヤヒデには私のケータイを預けているので、それで現場の様子を報告させます」
シンボリルドルフ「わかった。報告に感謝する」
斎藤T「それと、ERTが突入して未だに動きがないところを見るに、学生寮に侵入したトレーナーの所在が掴めていないのかもしれません」
斎藤T「ですので、ライスシャワーのトレーナーのケータイを鳴らして微力ながらERTの援護を行うことを提案します」
シンボリルドルフ「飯守Tがそんな大それたことをするようには思えないが、わかった。こちらから掛けてみよう」
シンボリルドルフ「ああ、そうだった。充電器はここにあるぞ」
斎藤T「はい、使わせてもらいます」スチャ
シンボリルドルフ「よし、飯守Tのケータイ番号はこれだな。鳴らしっぱなしにしておけばのいいか」prrrr...
シンボリルドルフ「さて、どうしてきみとハヤヒデが一緒にいたのか状況は呑み込めていないが、事件解決の協力に感謝する」
斎藤T「礼はいいです。まだ何も終わってない」
シンボリルドルフ「そうだな」
斎藤T「えと、指紋登録じゃなくて助かった。よし、ロック解除、すぐに通話だ」ピポパ・・・
シンボリルドルフ「………………」
シンボリルドルフ「そうか。まだ見つからないか……」ピッ
斎藤T「会長……」
シンボリルドルフ「ERTも相当に苦戦しているようだ……」
シンボリルドルフ「栗東寮と美浦寮の二つに大別されているとは言え、在籍する生徒2000人弱を住まわせることができる巨大な住宅団地だ」
シンボリルドルフ「そんなところに1人だけ入り込んだ侵入者を見つけ出すのは容易なことではない」
シンボリルドルフ「こんなところで生徒以外の立入禁止としたことのツケを払わされることになるとはな……」
シンボリルドルフ「今一度 確認するが、侵入者はライスシャワーの担当トレーナー:飯守Tで間違いないのだな?」
シンボリルドルフ「これだけ 長い時間 鳴らし続けても反応がない。飯守Tがケータイを身に着けていないのは明白だ」prrr...
斎藤T「それはわかりません。明らかに普通の様子ではありませんでした」
斎藤T「地下道を通じて学園と繋がっている学生寮に道路を跨いで乗り込もうとし、それを引き止めた時、ヒトとは思えないような膂力で投げ飛ばしたのです」
斎藤T「ビワハヤヒデですら抑え込むのがやっとというほどの怪力を発揮していたぐらいです」
斎藤T「あれが同じヒトだとは思いたくはないです」
シンボリルドルフ「…………そうか」
シンボリルドルフ「少なくとも、学生寮;住宅団地に入るためには緊急用の非常口の他には一旦は地下通路に入ってセキュリティゲートを通らなくてはならない――――――」
シンボリルドルフ「きみたちの証言通り、地上部分から無理やり侵入した形跡があることは確認済みだから、ERTの出動は正解ではあるが…………」
シンボリルドルフ「………………」
斎藤T「この事態が『名門』の差し金とでも?」
シンボリルドルフ「ああ。その可能性を疑っている」
シンボリルドルフ「……その話はハヤヒデから聞いたのか?」
斎藤T「はい」
シンボリルドルフ「すまなかった。私はきみに不当な評価を下して辱めを受けさせてしまった」
斎藤T「気にしないでください。金が欲しかったの事実で、これからも自分の夢の実現のために稼がせてもらうつもりですので」
シンボリルドルフ「そうか。きみはあくまでも――――――、本当にすまない」
斎藤T「………………」
シンボリルドルフ「正直に答えて欲しい」
シンボリルドルフ「きみにとってウマ娘は金儲けの道具なのか?」
斎藤T「いえ、ちがいますけど」
斎藤T「私にもウマ娘の妹がいますし、長期的に見て八百長は一人勝ちしてボロ儲けできないので旨味がないです」
斎藤T「私だったら、八百長レースを仕掛けるやつらから毟り取ってトンズラしますけどね」
斎藤T「あいつらが欲しいのは『名門』としての箔付けなんでしょう?」
斎藤T「じゃあ、人類の未来のための偉大なる発明への投資として、そのあぶく銭を有効活用してもらいたいですね」
シンボリルドルフ「なるほど。たしかにきみは『名門』には歓迎されない門外漢だな」フフッ
シンボリルドルフ「その物言いからすると、本当にトレセン学園には資金集めのためだけに来た感じだな」
斎藤T「ええ。妹の志望が両親と同じく皇宮警察なので、そのための一流の指導を受けるための各方面への多額の謝礼金が必要でして」
斎藤T「ただ、やり方を変えて別のアプローチで資金集めをしたら、あっという間に妹の養育費が集まったので、今は気楽にやらせてもらってます」
シンボリルドルフ「そうか。それはよかったな」
斎藤T「ありがとうございます」
シンボリルドルフ「…………皇宮警察か」
シンボリルドルフ「“皇帝”などと謳われてはいるが、皇宮護衛官を侍らすほどの器ではないな、私など」
斎藤T「でも、あなたはこれから何十年の人生、ずっと“ヒトとウマ娘の統合の象徴”で在り続けるのでしょう?」
シンボリルドルフ「…………!」
シンボリルドルフ「ああ」
シンボリルドルフ「『名門』に対する『名家』にも過激派はいる」
シンボリルドルフ「だが、これまでの歴史と同じくヒトとウマ娘は互いになくてはならないパートナーとして歴史を刻んでいくべきだと思っている」
シンボリルドルフ「むしろ、なくなるべきなのは『名門』や『名家』と言った旧弊とも思っているよ、私自身は」
シンボリルドルフ「そういった右か左かのヒトとウマ娘の絆をなくす垣根はトレセン学園には不要だ」
シンボリルドルフ「オグリキャップがそうであったように、無名のトレーナーと無名のウマ娘による王道を私は求めてやまない――――――」
斎藤T「なら、ここはあなたの皇宮です。あなたがヒトであるかウマ娘であるかは関係ないです」
シンボリルドルフ「!!!!」
シンボリルドルフ「……その言葉に偽りはないな?」
斎藤T「――――――『誰がしたのか』ではなく『何をしたのか』で評価される時代になるといいですね」
シンボリルドルフ「本当にそのとおりだよ、斎藤T」
――――――股肱の臣とはこういう存在のことを言うのかもしれないな。
――――――学生寮側の校門
斎藤T「戻ったぞ。ほら、充電はしたから。パスワードは変更しておいてくれよ」スッ
ビワハヤヒデ「ああ。感謝するよ、斎藤T」パシッ
ナリタブライアン「………………」
斎藤T「さて、不審者が侵入した以上は安心して寮で寛げないだろうから、仮眠室をはじめ教室などに寝具を持ち込んで寝泊まりするように会長が手配してくださった」
斎藤T「あるいは、ホテルの宿泊費も認めると言ってくださった」
斎藤T「他にも、購買も24時間営業にさせて生活用品を揃えさせることになっている」
斎藤T「あとは夜間見回りで私が監視するから、2人はもう上がってくれ。ショッピングモールに買い出しに行くなら急げよ」
ビワハヤヒデ「わかった」
斎藤T「そうだ、肘打ちが入ったけど、もう大丈夫なのか? ボディーブローのように徐々に効いてくる可能性もあるから、そこが心配だ」
ビワハヤヒデ「大丈夫だ。そこまでヤワな鍛え方はしていないから、これ以上の心配は無用だ、斎藤T」
斎藤T「それなら よかった」
ナリタブライアン「……おい、あんた」
斎藤T「?」
ナリタブライアン「その、感謝している……」
ナリタブライアン「姉貴のことをいろいろと気遣ってくれたし、今回の件でも逸早く動いてくれたな……」
ナリタブライアン「それに、頭に血が上った私のことを引き止めるために姉貴をここに残して、あんたは会長の許に報告しに行ったんだよな……」
ナリタブライアン「あんたの評判を決定づけた相手に会いに行かせる羽目になったんだ。気まずかっただろう。詫びを入れさせてくれ」
斎藤T「気にしないでください。私がトレセン学園を踏み台に考えているのは事実ですし、あの頃は余裕がなくて多方面に迷惑を掛けましたから」
斎藤T「それよりも、私のような同類がこれ以上増えて会長の目指す“ヒトとウマ娘の統合の象徴”たるトレセン学園が荒らされるのは忍びないですから」
斎藤T「さあさあ、行った行った」
ナリタブライアン「この礼は必ずする」
ナリタブライアン「それに、曲がりなりにも私も生徒会の一員だ。この事態の解決に全力を出させてもらう」
斎藤T「わかりました。会長とうまく連携して、不安に怯える夜を送ることになる生徒たちを安心させてやってください」
ナリタブライアン「なっ! そういうことがしたいんじゃなくて――――――」
ビワハヤヒデ「ブライアン……」
ナリタブライアン「あ、姉貴……」
ビワハヤヒデ「今は指示に従うのが最善だ。それから部署変更を願い出るのも遅くない。このまま準備不足のまま夜回りに参加するのはかえって足手まといになる」
ナリタブライアン「……わかった。たしかにそうだったな」
ナリタブライアン「借りは必ず返すから、あんたも無茶はするな」
斎藤T「ありがとうございます、副会長」
スタスタスタ・・・
斎藤T「さて、どうやってあの不審者を釣り出すか……」
斎藤T「本当にあれが飯守Tなのか、同じヒトとして怪しいところだけど、担当のライスシャワーに異様なまでの執着心を見せていた……」
斎藤T「――――――そのライスシャワーはいったいどこにいるんだ?」
斎藤T「まあ、いなければいないで やりようはある」
斎藤T「勝負はERTの手で負えなくなったことで警察が大挙して学生寮に乗り込む時まで――――――」
斎藤T「聖域とまで謳われたウマ娘たちの居住区に進入するための法的手続きとか編成なんかで準備が遅れているから、どうにかしてやらないとな」
斎藤T「たしか、飯守Tの寮室はここだったな――――――」ピピッ
――――――2時間後、
斎藤T「さて、やつを誘い出す準備は整ったぞ」
斎藤T「ヒトの姿をしているならスタンガンは効くはずだ」
斎藤T「そして、装置の周りには感電トラップを仕掛けておいた。のこのこと誘い出された時に踏み抜いてバンッだ」
斎藤T「…………しかし、どういうことだ?」
斎藤T「飯守Tの部屋にケータイが充電されたままだったのはいい――――――」
斎藤T「けど、今日のカレンダーやスケジュール帳には『ライスシャワーと買い物に行く』とあったぞ……」
斎藤T「ライスシャワーが寮に帰っていない理由はまさしくそれしか考えられない……」
斎藤T「じゃあ、私とビワハヤヒデが遭遇したあの飯守Tはいったい――――――?」
斎藤T「…………考えていてもしかたないか」
斎藤T「やるだけのことはやらせてもらいますよ、“皇帝”シンボリルドルフ!」
斎藤T「勝負!」カチッ
――――――お兄さま! お兄さま! お兄さま! お兄さま! お兄さま!
私が全ての準備を終えてスイッチを入れると、飯守Tの部屋のPCに入っていた担当ウマ娘の写真や動画のデータを取り込んだ立体ホログラム装置が起動する。
そして、学園内の学生寮に向いた放送塔のスピーカーからライスシャワーの『お兄さま』の音声が流れるようにしたのだ。
これが仮定に次ぐ仮定、推測に重ねた推測で立てた即席の精一杯の苦肉の策であり、作戦自体は至って簡単。
学生寮側の校門の電力を利用して、立体ホログラム装置に写したライスシャワーであの不審者を誘い出して、感電トラップを踏ませて逮捕するというものであった。
本当は立体ホログラム装置のごくごく初歩的な試作品を表に出すつもりはなかったのだが、トレセン学園の平和と秩序を乱す不逞の輩を捕まえるためには已む無しである。
果たして――――――、作戦の大前提は無事に成就することになった。
――――――お兄さま! お兄さま! お兄さま! お兄さま! お兄さま!
斎藤T「!!」
斎藤T「来たか! 自分をお兄さまだと名乗る不審者め!」
飯守T?「アアアアアアアアアア! ライス! ライス! ライスゥウウウウウ!」 ――――――連続して2m近く跳躍して学生寮の方から飛び出してきた!
斎藤T「バケモノじみた運動能力だ……。あれじゃ、ERTのウマ娘の隊員でも追いつけないわけだ……」
斎藤T「けど、これで終わりだ! 感電トラップ、発動!」ピッ
飯守T?「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」バリバリバリ・・・!
斎藤T「終わったな」
斎藤T「今のでERTも気づいただろうし、後はチェーンで縛り上げるだけだ」ジャラジャラ・・・
斎藤T「学園にあったものをありったけ使わせてもらったけど、理事長も許してくれるだろう」
飯守T?「アアアアアアア………………」ピクピク・・・
斎藤T「……うっ、やむを得ないとは言え、電気ショックはやりすぎたか?」
斎藤T「辛うじて飯守Tであることがわかるが、こんなショッキングなものは理事長にはキツすぎるかもな……」
斎藤T「あ、まだピリピリする。チェーンで縛り上げるのは危ないな……」ピリピリ・・・
斎藤T「なら、さっさと来てくれ、ERT! 警察も!」prrrr...
斎藤T「会長、不審者を感電トラップを仕掛けて動けなくすることに成功しました」
斎藤T「ただ、感電トラップの残電圧で感電する恐れがあるので、チェーンで縛り上げることができません」
斎藤T「――――――はい。間違いなく飯守Tです。電気ショックで血塗れにはなっていますが」
斎藤T「――――――では、ERTか警察が不審者を確保するまで状況の維持に務めます」
斎藤T「……これで終わってくれよ、ホントに」ピッ
ビワハヤヒデ「おーい! 斎藤T――――――!」ダッダッダッダ!
斎藤T「ビワハヤヒデ!? どうして走ってきた!?」
ビワハヤヒデ「た、大変なんだ、斎藤T!」ゼエゼエ
斎藤T「おい、まさかショッピングモールから全速力で走ってきたのか!? アスファルトの上で無茶をするな!」
ビワハヤヒデ「だ、だが、きみの無事を真っ先に確かめたくて…………よかった」ゼエゼエ
ビワハヤヒデ「ハッ」
ビワハヤヒデ「そこに横たわっているのは――――――」
斎藤T「ああ。感電トラップに引っかかって全身の血管が破裂した飯守Tだ。死んではいないけど、どうせ これから死んだも同然になる身柄だ」
ビワハヤヒデ「…………やっぱりだ」
斎藤T「?」
ビワハヤヒデ「斎藤T、落ち着いて聞いてくれ。実はありえないことが起きているんだ」
――――――
斎藤T「え」
ビワハヤヒデ「そこに倒れているのは偽物なんだ! 本物の飯守Tは担当のライスシャワーと一緒にショッピングモールにずっといたんだ!」
斎藤T「な、なんだって?!」
ビワハヤヒデ「だから、そいつは飯守Tに化けた
斎藤T「そんな、まさか――――――」
飯守T「おーーーーーーーーーーい!」 ――――――おんぶ状態!
ナリタブライアン「――――――」 ――――――飯守Tをおんぶ!
ライスシャワー「――――――」
斎藤T「あれが本物の飯守T………………駆けつけるためにナリタブライアンに背負われてきたか」
斎藤T「え、じゃあ、こいつはいったい何なんだ?」
飯守T?「ライスゥ………………」ピクッ
飯守T?「ライスゥウウウウウ!」ガバッ
斎藤T「なっ!?」
ビワハヤヒデ「そんな!? 起き上がれるような身体ではなかったはず――――――!?」
飯守T?「ドケエエエエエエエエ!!! オレハオニイサマダゾオオオオオオオオオ!!!」
ビワハヤヒデ「しまった――――――」
斎藤T「ビワハヤヒデ!」
ビワハヤヒデ「ハッ」パシッ
斎藤T「このスタンガンを持って走れええええええ!」
ビワハヤヒデ「わかった!」グッ!
ナリタブライアン「!!!!」
飯守T「あれ? なんかこっちに飛び跳ねてきてない?」
ナリタブライアン「降りろ! 邪魔だ!」ポイッ
飯守T「あいたっ!」ドサッ
ナリタブライアン「逃げろ! ライスシャワー! やつの狙いはお前だ!」
ライスシャワー「え」
ライスシャワー「あ」
飯守T?「ライスゥウウウウウ! ライスゥウウウウウ! ライスゥウウウウウ!」 ――――――全身血塗れの形相で奇怪に飛び跳ねながらライスシャワーに迫る!
ライスシャワー「お、お兄さまと同じ顔――――――!」
ライスシャワー「で、でも、血、血、血ぃいいいいい!?」
ライスシャワー「い、いやあああああああああ!」ガクガクガク・・・
飯守T「逃げろ! ライス! 俺にかまわず行くんだ!」
ライスシャワー「きゃああああああああああああ!」
飯守T「……ふざけやがって! 俺と同じ顔になればライスのお兄ちゃんになれるとでも思っていたのかよ、このヘンタイ野郎が!」
ナリタブライアン「姉貴の腹に1発入れたそうじゃないか! なら、姉貴の代わりにお返しに蹴りを入れてやる!」
飯守T「待て! ブライアン、俺を投げろおおおおおおおお!」
ナリタブライアン「言ったな! 今の私は苛立っているんだ! どうなっても知らないからな!」ガシッ
ナリタブライアン「うおおおおおおおおおお!」ブン!
飯守T「うおりゃあああああああああああああああああああああ!」 ――――――怒りの人間砲弾!
飯守T?「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」ゴツーーン!
飯守T「いてててて……」ドサッ
飯守T?「ウゴゴゴゴゴゴゴゴ…………」
飯守T「ハッ」
飯守T「どうだ、思い知ったか、この野郎! よくもライスを怖がらせたな、こいつ!」ゲシゲシ! ――――――何度も何度も踏みつける!
ナリタブライアン「これまで好き勝手にやってくれた相応の報いを受けてもらうぞ!」グリグリ・・・ ――――――背中をグリグリと抉る!
斎藤T「よせ、二人共! 下手に刺激するな――――――!」
飯守T?「ライスゥウウウウウ!」
飯守T「ぐわっ!」ドサッ
ナリタブライアン「うおっ!?」スッ
飯守T?「グウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ナリタブライアン「な、何だ!? 何なんだ、いったいこいつは……!?」
ついに飯守Tに化けていたバッタのように飛び跳ねる偽物を本物の飯守Tの怒りの人間砲弾でナリタブライアンが撃ち落として、
今回の一件で身内を危機に晒された飯守Tとナリタブライアンが恨み辛みの感情に任せて追い打ちをかけたものの、
その刺激がマッサージ代わりになってしまったのか、ナリタブライアンが押さえつけていたにも関わらず、飯守Tに化けていたバケモノがすぐに起き上がってしまった。
まさに圧倒的パワー。飯守Tは背中から打ち付けられ、ナリタブライアンは考えるよりも先に咄嗟に身を引いたものの、そのことがナリタブライアンに動揺を与え始めた。
そして、ついにその化けの皮が剥がれた時、“怪物”ナリタブライアンでさえもあまりの異様に立ち尽くしてしまうほどであった。
まるでウマ娘の天敵であるかのように、その異形は天与の才能に恵まれたナリタブライアンに未だかつてなかったものを与えるのであった。
ヒヒヒーーーーーーーーン!
怪人:ウマ女 ← 飯守T?「――――――」
ナリタブライアン「な、何なんだ、このバケモノは!?」
怪人:ウマ女「――――――!」
飯守T「危ないッ!」ガバッ
ナリタブライアン「なっ」
飯守T「ぐあああああ!」ズバッ! ――――――間一髪、怪人:ウマ女の蹄の手に背中の皮膚を抉られる!
ナリタブライアン「くっ……飯守T!」ドサッ
ナリタブライアン「どうしてだ? どうして、さっき身体が動かなかった? どうして飯守Tに庇われた?」
ナリタブライアン「な、何だ これは? 涙? なんで私は泣いて……? 指先も震えて……?」
この時、ナリタブライアンは生まれて初めて心の底から震え上がった――――――。
未知なる恐怖の存在を前にした時、彼女のウマ娘としての卓越した闘争本能をも上回る生存本能が全身で悲鳴を上げたのである。
否、それはかつての自分が自分以外のウマ娘に見せ続けていた絶望そのものであり、
『勝てるはずがない!』と今まで他者を絶望に陥れてきた“怪物”が今度は自分が自分を遥かに超える怪人から絶望を味わう番となっていたのだ。
今まで怖いもの知らずで通していた不敵の彼女だったが、恐ろしさと絶望に涙を流したのも初めてのことだった。
自分の中での希望の灯がフッと息を吹きかけられたかのように無残にも消え行くのを感じてしまった。
恐怖と絶望――――――、ナリタブライアンにとっては初めてとなる感情のうねりに翻弄されて身動きが取れなくなってしまった。
それだけ この世界には存在しない馬という生き物のマスクを被って全身白タイツを履いている感じに見えるふざけた格好の怪人:ウマ女の2mはある異形はさることながら、
その身体能力が“怪物”ナリタブライアンですら勝ち目がないことを本能で理解させるレベルのものに達していたのである。
しかし、初めての恐怖と絶望で身動きが取れなくなってしまったナリタブライアンを間一髪で助けたのはウマ娘に劣る身体能力のヒトである飯守Tであった。
彼は先程も人間砲弾になることを自ら志願して 担当ウマ娘を怖がらせた明らかにヤバイ挙動と形相をして迫ってくる得体の知れない偽物に敢然に立ち向かっていった。
そして、正体を現した怪人の蹄の拳の鋭い一撃によって内臓を貫かれる危険を知ってか知らずか、自分よりも他者を守るために身を挺したのだ。
だが、プライドの高いナリタブライアンにとっては普段は意識しなくとも圧倒的弱者に思えていたヒトに助けられたことに言い知れぬ悔しさを与えてしまっていたのだった。
だから、涙がこぼれてしまう。自分は本当はこんなにも非力な存在だったのかと、“怪物”と恐れられた圧倒的強者のプライドが圧倒的暴威の前に叩き壊されてしまったのだ。
怪人:ウマ女「――――――!」 ――――――今度こそとどめと言わんばかりん右手を蹄に変えて迫る!
ナリタブライアン「く、くそっ! どうしてだ!? どうして身体が言うことを聞かないんだ!?」
ナリタブライアン「や、やめろ! 来るな! 来るなああああああああああああああ!」
怪人:ウマ女「――――――!」
ビワハヤヒデ「どけ! 私はナリタブライアンの姉:ビワハヤヒデだぞ!」ドン! ――――――背後から全力でタックル!
怪人:ウマ女「!!?!」ドサッ
ビワハヤヒデ「無事か!」
ナリタブライアン「あ、姉貴……、私は…………」
ビワハヤヒデ「…………!」
ビワハヤヒデ「大丈夫、大丈夫だよ、ブライアン。また泣いたっていいんだ」
ビワハヤヒデ「でも、貼るとオバケにだって強くなれるムテキになるバンソーコーがついているじゃないか」
ビワハヤヒデ「お姉ちゃんを信じて、さあ、立ち上がって、ブライアン」
ナリタブライアン「あ……」
ナリタブライアン「ああ! 姉さん!」
ビワハヤヒデ「さあ、1人では立ち向かえなくても、私たちが力を合わせればバケモノだってなんとかできるさ!」
ナリタブライアン「ああ! 不思議と力が湧いてくる!」
――――――秒単位の逆転に次ぐ逆転。瞬きしている間に状況は刻々と変わり続ける。
学園の平穏を脅かし 最愛の妹:ナリタブライアンの存在をも脅かした憎き敵に対して盛大な意趣返しが炸裂し、
再び目前に迫った生命の危機は最愛の姉であるビワハヤヒデによって脱することができた。
いかに“怪物”ナリタブライアンが本能で恐怖と絶望を味わうことになったウマ娘の天敵と言えども、自動車と並走できるウマ娘の渾身の体当たりを2本脚で受けきれるものではなかった。
ついでに言えば、最初に食らった感電トラップのダメージが残っているらしく、最初に遭遇した個体と比べるとキレがない動きをしている。
そして、幼い頃の記憶にある涙をこぼす弱虫だった妹を思い出し、ビワハヤヒデは自然と妹に対して昔の頃のように振る舞っていた。
それは危機的状況に際して、彼女たち自身が知らぬ間に被り続けていた仮面が剥がれ落ちた瞬間でもあり、大きくなるに連れていつの間にかすれ違っていた姉妹の絆が蘇った瞬間でもあった。
妹:ナリタブライアンは姉:ビワハヤヒデのことをずっとずっと慕っていたのである。それは今でもずっとずっと変わらなかったのだ。
だが、それまでのすれ違っていた期間も決して無駄だったわけではないのだ。
そうして互いに切磋琢磨して互いに実力を高め合う好敵手としてリスペクトし合えるものを掴み取った姉妹の絆はますます断ち切れぬものになっていたのだから。
斎藤T「よし! ウマ娘が2人がかりなら、怪人:ウマ女でも身動きを取れなくできるはずだ!」
斎藤T「けど、単体ではウマ娘以上の脅威になる怪人:ウマ女を倒す手段がない!」
斎藤T「あの時のようにカウンターキックで飛節を打ち砕いて全身のカタストロフを引き起こすことなんて狙ってできることじゃない……」
斎藤T「どうすればいいんだ、こんなバケモノ! 警察やERTの手に負えるわけがない! C4爆弾で爆破処理するしかないのか!?」
斎藤T「ここから先をどうしたら――――――」
ブーンブーンブーン!
斎藤T「うん? この羽音は――――――」
斎藤T「うおっ」パシッ
斎藤T「え? こいつはコーカサスオオカブト? どうしてこんなところに?」
斎藤T「ヒノオマシが飼い始めたやつ――――――なわけないか。こんなコンクリートのジャングルまで飛んでこれるはずがない」
斎藤T「でも、この大きさ、完全に憶えが――――――」
――――――心の時計を走らせ 描いた明日に向かえ!
ドゴォ! ズサアアアアアアアアアアアア!
怪人:ウマ女「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ビワハヤヒデ「え!?」
ナリタブライアン「なっ!?」
斎藤T「え?」
――――――怪人:ウマ女 討伐完了。
そして、気づいた時には私は怪人:ウマ女の利き足の飛節にミドルキックをまた置いていた。半月前とまったく同じ方法で怪人:ウマ女を私は打倒したのだ。
勢いよく地面を滑った怪人:ウマ女はしばらくのたうち回った後はピクリとも動かなくなり、我に返って振り向いた時には粉々になっていく石膏像のように塵となっていった。
自分でも何が起きたのかわからない。それはウマ娘であるビワハヤヒデとナリタブライアンの姉妹も同様だった。
ただ、確実なのは買い替えた安全靴の鉄芯がまた砕けた感触と一緒に怪人:ウマ女の全身の細胞がカタストロフを引き起こした感覚だ。
つまり、私たちは命拾いをした。今はそれだけわかっていればいい――――――。
とりあえず、退治した証拠として怪人:ウマ女だったものの灰塵が風に飛ばされないように上着を脱ぎ捨てて覆い被せた。
前回はまともにとりあってもらえなかったが、今回は証人が多いので ヒトどころかウマ娘すら超越した身体能力を発揮した不審者の存在を警察も認めてくれることだろう。
その警察も 今頃になって ようやく到着したものの、反対車線だったので私たちの存在に気づかずにパトカーが何台か通り過ぎてしまったものの、
途中でライスシャワーを拾っていたパトカーがすぐにUターンして飯守Tに化けた自分をお兄さまだと思っている不審者を退治したことが理解されることになった。
もちろん、一部始終を近くで見ていたはずのビワハヤヒデとナリタブライアンによる状況説明と証言は支離滅裂となっており、
とにかく、不審者の正体が見たこともない恐ろしいバケモノであり、それを私が倒したらバケモノが灰になって死んだことだけは伝えることができ、
バケモノ退治の功労者となった私と、ビワハヤヒデと、ナリタブライアンと、一番の被害者の飯守Tはライスシャワーに付き添われて救急車で搬送されることになった。
半月前も救急車で搬送されたばかり――――――、そこも半月前の再現であり、そのことに不謹慎ながらもホッとした。
しかし、ナリタブライアンを庇って背中の皮膚を大きく引き裂かれた飯守Tを必死に涙をこらえながら見守るライスシャワーの姿に罪悪感を覚えてしまう。
今回は買い替えた安全靴の鉄芯が砕けただけですんだが、半月前は私の妹:ヒノオマシがこんな必死の表情になっていたのかと考えると、悔しくてしかたがない。
それはビワハヤヒデとナリタブライアンの姉妹も同じらしく、二人共 軽傷ですんだものの、 今回の一件で揃ってヒトに助けられているのだから。
一方で、姉妹がお互いの無事を確認し 互いの勇気を分け与えるかのように 強く手を握り合っている様子を私は微笑ましくも思っていた。
基本的に今回の件はどこまでいっても不祥事でしかないのだが、そうした事案の中にも人間として成長できるものがあることに、欠片ばかりの希望と元気をもらうことができていた。
しかし、私はヒトなのでどう足掻いてもウマ娘を追い越すことはできない。それは歴然とした事実である――――――。
だから、私はビワハヤヒデにスタンガンをもたせて先行させ、ビワハヤヒデは 見事 最愛の妹の危機を救った。スタンガンは役に立たなかったけど、そこまではいい。
なのに、いつの間にか 私は睦み合う姉妹を追い越して、なおかつ地に伏せていたはずの怪人:ウマ女は勢いよく地面を滑るぐらいの加速を得ていたのだ。
スピードに関しては他の追随を許さない競走バの強豪姉妹がヒトである私の接近や怪人:ウマ女の挙動にまったく気づかないはずがないのだ。
つまり、姉妹が目を離した一瞬の隙に ウマ娘に劣るヒトである私がウマ娘を恐怖に陥れる怪人:ウマ女に姉妹を追い越して反対側からカウンターキックを食らわせたという不可解な状況になるのだ。
ビワハヤヒデとナリタブライアンが目に光景とは、学生寮の方面にいたはずの斎藤 展望がショッピングモールの方面に立って怪人:ウマ女にミドルキックを食らわせた直後であった。
だから、何が起きたのかを理路整然と説明できるはずもない。私自身も何が起きたのかをまったく理解できていないぐらいなのだから。
安直な表現で言うなら、『ただのヒトである私がワープして先回りした』としか言えない――――――。
それはいい。いや、よくないが、そう仮定するとなると、今度はウマ娘に劣る身体能力のヒトである私が正確にカウンターキックを食らわせることができたことや、その反動をまったく受けていないことが謎なのだ。
けれども、私はビワハヤヒデとナリタブライアンの姉妹が睦み合った次の光景として思い描いたのは、まさに半月前の再現であり、現実にはそうなったのだ。
残念ながら、監視カメラの範囲外だったので決定的瞬間を捉えることができなかった。
ただ、23世紀の宇宙船エンジニアだった私には、机上の空論ではあるものの、ある1つの可能性が頭には浮かんでいた。
――――――それは 私の専門であった波動エンジンの動力である タキオン粒子による『時間跳躍』という机上の空論であった。