ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第二次決戦Ⅴ ハッピーミークが考えるのをやめた学園 -心の海から遣わされた大深淵の使者の世界-

 

――――――目標:3月12日の卒業式から3月19日の修業式までの1週間の時間の牢獄を突破せよ!

 

 

物事には常に陰と陽の局面が存在する。それは言い換えれば長所と短所でもあり、誰かにとっては有り難いものであったり、誰かにとっては迷惑なものであったりするものだ。

 

だからこそ、互いにとってWin-Winの取引になるように探りを入れていくのがコミュニケーションであり、一方的な要求を突きつけることを23世紀の宇宙移民は良しとしない。

 

限られた生活空間で遥か彼方の星の海を流離う中で、互いに譲り合いながら譲れない一線をどうにか理解してもらう努力を放棄した瞬間、あらゆる次元で崩壊(カタストロフ)が始まるのだから。

 

そのため、宇宙移民たちは地球での常識の最たるものである『同じことが当たり前』という観念がむしろこの広大な宇宙においては非常識であることを刷り込まれており、

 

宇宙での常識では『ちがうことが当たり前』だからこそ、地球と同じように居住できる惑星を求めて星の海を渡ることがいかに尊いことなのかを何度も自分たちに言い聞かせるのだ。

 

だから、自分の考えとちがう相手がいて、どうしてそう考えるのかを思考や背景を共有してちがう状態から同じ状態になれたことを喜び合う精神文化が生まれている。

 

 

だが、この広い宇宙には知るべきではない悍ましいものが喜びの数と同じぐらいに存在していることを私は真に理解することなく、誰も知らない未知の惑星に独り――――――。

 

 

そこで自分が宇宙の真理だと信じていた宇宙移民の在り方も所詮は銀河系の中心から大きく離れた太陽系第三惑星で独自に発達したコミュニケーションだと打ちのめされることになるとは思いもしなかった。

 

当然だ。私たちはどこまで行ってもホモ・サピエンスという種であり、ホモ・サピエンスという種に進化してきた環境や重ねてきた歴史、備わった能力によって認識できた範囲でしか万象を語ることができないのだ。

 

となれば、言葉を通じて同じ価値観や感情を共有し合えることを喜んだ異種族との目に見えない致命的な価値観のズレに気づいたところで今更遅い話なのだ。

 

昨日までの常識が、隣人が、家族が愛すべき世界に牙を剥いた時、何のために、誰のために私は生き足掻けばいいのだろうか。

 

 

――――――私は何度もリドリー・スコットのSFホラー映画のことを思い出す。

 

 

宇宙貨物船:ノストロモ号の乗組員が船内に解き放たれた攻撃的で致命的な地球外生命体である“エイリアン(外なる存在)”に遭遇した時に起こる惨劇のことをいつもいつもシミュレーションしていた。

 

更には、「宇宙船が未知の惑星に降り立ち、謎の生命体を発見、乗組員がそれに寄生され、やがて体内から怪物が誕生する」という原案も踏まえて、いかなる危機的状況でも対応するための想像力を働かせることを宇宙移民としての命題としていた。

 

しかし、23世紀の宇宙科学の最新テクノロジーと人類の叡智の結晶である未来予測を可能とする電子頭脳をもってしても、私の身に起きた不可思議な出来事は予測ができなかったのだ。

 

だからこそ、限りある身で無限の可能性に挑むことの無意味さと無力さを噛み締めながらも、予想がつかない展開の数々に追い立てられる日々に慟哭し続ける。

 

けれども、決してわかってもらえないだろう。逆にそのことが当たり前であるということをどうして忘れていたのだろう。

 

地球の常識を持ち出して宇宙の真理を語ることの無知さと無謀さは、しばしば我々の発する声が相手に届くためには媒質を通じて伝わる必要があるという物理学の常識を意識的か無意識的に無視することで成り立っているのだから。

 

一体全体この宇宙で音波の媒質となる物質が1%以上も存在していると本気で思っている人間はいるだろうか。

 

結局は森羅万象、この広大な宇宙と同じなのだ。広大であるだけじゃないのが宇宙であり、その暗黒空間には何もないが、誰にも聞くことができないエネルギーが激しい音を立てて渦巻いていることをもっと知るべきなのだ。

 

 

――――――In space, no one can hear you scream(宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない).

 

 


 

 

●3周目:3月12日/トレセン学園卒業式

 

和田T「ああ、最悪。本当にひどい異世界探訪だった……」ズーーーン・・・

 

飯守T「まったくですよ。“将星”トウショウサザンクロスめ……!」ググッ!

 

和田T「俺たち、無事に卒業式の早朝(セーブポイント)に戻ってこれたけど、あと1回は俺の“目覚まし時計”が使えるんだよな……」

 

アグネスタキオン「ふぅン。それが確かなら、あと1回はまたまた楽しい楽しい異世界探訪ができるじゃないか」

 

和田T「か、勘弁してくださいよ、それぇ」

 

和田T「俺がマックイーンと恋人になれたこの世界がどれだけ尊い奇跡なのかをわからされましたから!」

 

飯守T「俺だって! トウショウサザンクロスの世界でも俺はそれなりに頑張れたけど、俺はこの世界の俺であって、()()()()()()()()ではない、ライスシャワーと一緒に頑張ってきたのが俺なんだ!」

 

ピースベルT「そうねぇ……。聞いている分にはそういう未来もあったんだと楽しめるものだけど、実際にそれを目のあたりにすることになった当事者としては笑えないものがあって、本当に辛かったわねぇ……」ハハッ・・・

 

斎藤T「ともかく、あんなものを続け様に見せられては対策も何もあったものじゃないけど、用心してし過ぎることはないはずです……」

 

マンハッタンカフェ「しかし、最初の“女王”アグネスオタカルの世界に、私たちも実際に目にしてきた“将星”トウショウサザンクロスの世界の次に来るのはいったい何になるのでしょうか?」

 

和田T「最初の推測通り、我らが“皇帝”陛下が憂える事態が現実になった可能性の世界だとするなら『最悪の現実から“皇帝”陛下が希望の未来を信じられるように導くのが解決の流れ』でしたね」

 

飯守T「となると、もし次も異世界転移が起きたとするなら『もっと別な角度から視たトレセン学園や業界が抱えている問題が顕在化した世界に引き込まれる』わけですか?」

 

アグネスタキオン「そこのところはどうなんだい、トレーナーくん?」

 

 

斎藤T「細かい点を挙げたらきりがないわけですけど、これまでの流れからある程度の予想はついてます」

 

 

ピースベルT「それなら聞かせて欲しいな~♪」ニコニコ

 

斎藤T「要は、“皇帝”シンボリルドルフを導くことで元の世界に帰ることができたように、別世界の現実に苦しんでいるシンボリルドルフの同一存在を導くことが誰の同意もない無理矢理の異世界転移の主目的となっているわけですが、」

 

斎藤T「よくよく考えてみると、“女王”アグネスオタカルの世界の学園は夢の舞台で傷つき去っていく者たちへの弱者救済が果たされないことで、中央こと府中の()日本トレセン学園と根岸の()日本トレセン学園に分裂する危機を迎えたわけです」

 

斎藤T「この世界でも、同じ根岸競バ場を買い取った中央出身のトレーナーたちが横浜トレセン予備校“根岸校”を開き、わずか数年でG2格の団体にまで昇りつめているという、極めて近い事象が確認できるわけです」

 

マンハッタンカフェ「じゃあ、“将星”トウショウサザンクロスの世界も私たちの世界で起きている出来事が世界の中心になったものだとするなら――――――?」

 

 

斎藤T「それについては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を満たしていないので内容を公表することはできないです」

 

 

マンハッタンカフェ「……なんですか、それ?」

 

アグネスタキオン「――――――『セキュリティ・クリアランス』?」

 

アグネスタキオン「ふぅン」

 

アグネスタキオン「ああ、なるほど。トウショウサザンクロスの軍団にトレセン学園学生寮が不法占拠された事象はこの世界だと『丙種計画』でのアレになるわけだね」

 

斎藤T「そういうことだ」

 

和田T「どういうことだよ?」

 

アグネスタキオン「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということさ」

 

和田T「え、嘘だろう?! これ以上のものがそんなにあるんですか!?」

 

飯守T「……そうかもしれませんね

 

飯守T「でも、俺はいつでも斎藤Tの力になりたいと思っているから、今回はいきなり別世界なんてものに巻き込まれたけど、裏世界のこと以外でも俺が必要になったらいつでも言って欲しい」

 

斎藤T「ありがとうございます」

 

 

ピースベルT「――――――そういうことじゃないよね♪」

 

 

斎藤T「さすがはピースベルT。そのとおりです」

 

ピースベルT「たぶんー♪ 学園の実態がどうのこうのよりもルドルフちゃんの心を救うことが別世界での用事なんだから、ルドルフちゃんの心配事が形作った世界が“女王”や“将星”の世界なんだと思うな、私は♪」フフッ

 

ピースベルT「だからー♪ 単純に“女王”の世界だと『トレセン学園に入学していなかったら黄金期は到来しなかった』って冷静な判断と客観的な分析から生まれた世界なんだと思うなー♪」ルンルン!

 

ピースベルT「そしてー♪ “将星”の世界だと、『自分が築き上げた黄金期をちゃんと継いでくれる人がいなかったらどうしよう?』って将来への不安が作った世界だと思うの♪ いわゆるマリッジ(結婚)・ブルーならぬグラデュエーション(卒業)・ブルーってやつ?」ニコニコ

 

和田T「ああ、そう考えるとわかりやすい気がする」

 

飯守T「たしかに、暗黒期を切り拓いて黄金期をもたらした当事者からすると、学園がますます発展していけるかどうかが気になりますよね。それもそうですよね」

 

マンハッタンカフェ「では、鐘撞Tが考えるに、次の世界はどんなものになりますか?」

 

 

ピースベルT「――――――ルドルフちゃんの心配事を最悪な方向に導いた悪辣なものになるのは覚悟しておいてね♪」ゴゴゴゴゴ・・・

 

 

マンハッタンカフェ「…………!」

 

和田T「ええ!? じゃあ、この“目覚まし時計”って本当は人間が頼っちゃいけない正真正銘の悪魔のアイテムなのか!?」

 

斎藤T「それはどうでしょうかね? 災厄から身を守ってくれるものを災厄と結びつけて忌避するには尚早だと思いますけどね」

 

和田T「だとしても、俺はこの“目覚まし時計”のせいで何度も『天皇賞(秋)』をやり直すことになったんだよ!?」

 

ピースベルT「まずは“皇帝”シンボリルドルフがトレセン学園で何を目指していたかが重要よ♪」ンフッ

 

アグネスタキオン「――――――“ヒトとウマ娘の統合の象徴”というやつだろう?」

 

ピースベルT「そうよ♪ 正解♪ 花丸あげちゃうね♪」ニッコリ

 

斎藤T「だから、過去の自分の選択を悔いるほどにトレセン学園が発展しなかったのがアグネスオタカルの世界、トレセン学園の未来がろくでもないことをわかっていながらどうしようもできなかったのがトウショウサザンクロスの世界――――――」

 

マンハッタンカフェ「すると、次は過去でも未来でもなく“皇帝”シンボリルドルフが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですか!?」

 

ピースベルT「そうよ♪ そうなるんじゃないかってね♪ そこのところ、同じ結論になるってことは斎藤Tも立派なルドルフちゃんの理解者ね♪」アハッ

 

和田T「何それ!? 今までのは間接的にシンボリルドルフの影響が大きく出ていたものだったのに、今度は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になっちゃうってぇ!?」

 

飯守T「見たいような、見たくないような――――――、いや、全てのウマ娘の幸福を願うシンボリルドルフにとって一番に傷つく世界だろうから、そんな世界の可能性なんて知りたくもない!」

 

斎藤T「そして、えげつないほどに悪辣なものとなっている――――――」

 

飯守T「つまり、自分が目指してきた理想が木端微塵になるぐらいにショックを受けるってことですよね?!」

 

和田T「いや、そういうのって自分が信じてきたものに裏切られることじゃないか!?」

 

アグネスタキオン「もっと具体的に言いたまえ、きみたち」

 

和田T「言えるかよ、そんなの!? 言ったら本当になりそうじゃないか!?」

 

アグネスタキオン「じゃあ、トレーナーくん。その数ある可能性の中身を公表したまえ」

 

和田T「やめてえええ! 聞いたら可能性が増えちゃうぅううう!」

 

アグネスタキオン「何を弱気になっているんだい。可能性を恐れて足踏みするより、可能性の先の希望を信じて対策をとるのがトレーナーってもんだろうが」

 

アグネスタキオン「メジロ家の令嬢の心を射止めたきみの勇気と度胸はどこにいったんだい?」

 

和田T「うっ」

 

飯守T「そうだよな。俺だって同期に名門トレーナーや天才トレーナーがいて、そいつらに勝てるかどうかわからないけど、その背中を 遮二無二 追い続けてライスを“グランプリウマ娘”にすることができたんだ」

 

飯守T「可能性を恐れてばかりで動かなかったら、その先にある希望は絶対に掴めない!」

 

和田T「ああ……」

 

マンハッタンカフェ「そうですね。私も3年の契約を延長してもらってましたし、『URAファイナルズ』で完全に引退すると思っていたわけで、史上初の“春シニア三冠”をこうして目指そうだなんて夢にも思わなかったですよ」

 

ピースベルT「じゃあじゃあ、場が盛り上がったところで、斎藤T♪」フフッ

 

斎藤T「私がこの悪趣味な別世界の創造主なら、トレセン学園や業界にとってもっと根幹になるものを揺さぶろうとしますね」

 

斎藤T「そして、それは“皇帝”シンボリルドルフが身近に問題視していることが世界の中心に据えられることになって、アグネスオタカルの世界とトウショウサザンクロスの世界が観測されることになりました」

 

斎藤T「となると、そこから導き出される最大の答えはたった1つです」

 

斎藤T「トレーナーにとっては基礎中の基礎ですよね」

 

 

――――――一部においてはヒトの完全上位互換と持ち上げられるウマ娘ではあるが、それではなぜトレセン学園があって、どうしてウマ娘がトレーナーを求めるのか。

 

 

 

●????:3月12日/トレセン学園卒業式

 

斎藤T「…………何だろう、おかしくないですか?」

 

飯守T「――――――今度は『謎の卒業生代表や在校生代表の登場もなく何事もなく無事に卒業式が終わったこと』が?」

 

斎藤T「ちがう。ちがいます。トレセン学園に所属するのが総生徒数2000名弱なのは問題なかった」

 

アグネスタキオン「シンボリルドルフやナリタブライアンの戦績にも何の違いはなかったのは確認したじゃないか」

 

飯守T「そうそう。今度はちゃんと才羽Tもいたし、ビワハヤヒデとナリタブライアンの姉妹対決だってできているし、何もちがいなんてないように思いますよ」

 

マンハッタンカフェ「でも、たしかに卒業式を無事に終えたのに私も何か違和感を覚えました」

 

ピースベルT「差分となっているのはアグネスオタカルの卒業生代表答辞とトウショウサザンクロスの在校生代表送辞だけね♪」フフッ

 

 

斎藤T「でも、何かが明らかに変わった気配がするんだ。学園の空気がガラリと変わった気がする」

 

 

ピースベルT「それって何かしらね♪」ウフッ

 

斎藤T「ちょっと、これまでの卒業式の映像を見直すから、今日のところはこれで解散にしましょう」

 

アグネスタキオン「そうかい。まあ、きみの感覚器(センサー)が何かを感知しているのだから、各々用心して明日以降もまた集合しようじゃないか」

 

和田T「そうですね。『URAファイナルズ』決勝トーナメントが無事に終わるまでは気が抜けないですからね」

 

飯守T「なら、あまりバラバラになって行動するのは良くない気がするから、俺は和田Tと一緒に行動しますね」

 

アグネスタキオン「それなら私はトレーナーくんと一緒にいようか」

 

斎藤T「おい、マンハッタンカフェをどうやって帰らせるつもりだ?」

 

マンハッタンカフェ「あ、大丈夫です。私には“お友だち”がいますので」

 

ピースベルT「私は斎藤Tに送ってもらいたいな~♪」チラチラッ

 

斎藤T「ええ。安全なところで寝泊まりしてもらいますよ」

 

斎藤T「それじゃ、安否確認システムのエマージェンシーコールを忘れずに」

 

 

 

――――――百尋ノ滝の秘密基地

 

アグネスタキオン’「…………これが“皇帝”シンボリルドルフの卒業式か。壮観だね」

 

岡田T「他2つはよくできたコラ映像だって笑い飛ばさないといけないぐらいに、俺にとっての永遠の憧れを侮辱された気分になりましたけどね」ニコー

 

斎藤T「何か気づくこととかありませんでしたか?」

 

アグネスタキオン’「――――――気づいたことか」

 

岡田T「斎藤Tの話だと、すでに何かが変わってしまった別世界になっているわけですよね?」

 

岡田T「でも、アグネスオタカルやトウショウサザンクロスの登場のように明確なちがいが演出されているわけじゃないから、こうして3つの世界の卒業式の映像を同時に視ても、あまり――――――」

 

 

アグネスタキオン’「なあ、よくわからないが、赤ん坊連れの父兄が多くないかい?」

 

 

斎藤T「え?」

 

岡田T「え、どこ!? 何のシーン!?」

 

アグネスタキオン’「いや、ほら。アグネスオタカルの卒業式やトウショウサザンクロスの卒業式と見比べると、“この世界の”と言っていいのかわからないが、」

 

アグネスタキオン’「今回の卒業式の卒業パレードを見送る父兄が赤ん坊を抱いたりベビーカーを引いたりしているだろう? ざっと7割の家庭が赤ん坊を抱っこしたりベビーカーを引いたりして卒業パレードの観客にいるのは普通なのかい?」

 

斎藤T「!!!?」

 

斎藤T「……気づかなかった。卒業パレードの観客にまで眼が向かなかった」

 

斎藤T「岡田T、どうなんだ!? 6年もトレセン学園にいれば卒業パレードは見慣れているはず!」

 

岡田T「え、いや、去年の卒業式なんかは引き籠もっていたから見たことないけど、」

 

岡田T「少なくとも、俺が地方から上がってきてシンボリルドルフが入学してきた年の卒業パレードは俺も観客の側にいたから、その経験を踏まえると、たしかにベビーカーが異様に多くないか?」

 

斎藤T「まさか――――――!?」

 

アグネスタキオン’「ふぅン。どうやら思い当たるものがあったみたいだねぇ、モルモットくん」

 

斎藤T「いや、そんなまさか――――――

 

斎藤T「………………

 

 

斎藤T「ちょっと調べてくるから、用があったら呼んで欲しい」スタスタスタ・・・

 

 

岡田T「あ、はい……」

 

アグネスタキオン’「どう思うね、岡田T?」

 

岡田T「どうもこうも、みんなが卒業式に何度も体験した別世界というものを体験していない俺からすれば何とも言えない話だよ」

 

岡田T「もっとも、川苔山の地下でありながら同時に奥多摩町の上空にあるという亜空間に暮らしている俺が言うのも変な話だけどさ」

 

岡田T「ただ、いきなり何の前触れもなく違和感なく卒業証書を受け取ったシンボリルドルフを最初からいなかったものとしてアグネスオタカルというウマ娘が出てきたり、シンボリルドルフの時代が終わったことを嬉々として語るトウショウサザンクロスというウマ娘が出てきたんだ」

 

岡田T「あれだ、いきなり俺やテイオーの偽物が『ジャパンカップ』に出走していることに驚くのと似たようなもんだと思うよ」

 

アグネスタキオン’「そうだね! 私のようなバケモノに日常が壊される経験はまるで別世界に迷い込んでしまったようなものか! それもそうだね!」クククッ

 

岡田T「笑い事じゃないよ」

 

岡田T「鐘撞Tは別世界の愛しのウマ娘から完全に忘れ去られた扱いを受けて傷ついているんだから。この世界では感動の再会を果たしているってだけにますます」

 

アグネスタキオン’「そうだろうそうだろう。ますますW()U()M()A()()()()()()()ことじゃないか」

 

岡田T「――――――『同じ』?」

 

アグネスタキオン’「ちがうのかい?」

 

岡田T「いや、ちがうわない……」

 

岡田T「でも、これって()()()()()()じゃないのか、もしかして?」

 

アグネスタキオン’「なんだい? 何かおもしろい発見でもあったのかい?」

 

岡田T「俺も少し考えてみる」

 

アグネスタキオン’「そうかい。まあ、考えるといいさ」

 

アグネスタキオン’「どのみち、和田Tに託した“目覚まし時計”はあと1回は使えるわけだからね」

 

アグネスタキオン’「でも、『URAファイナルズ』決勝トーナメントを迎える前に卒業式だけで“目覚まし時計”を使い切って大丈夫なのかねぇ?」

 

アグネスタキオン’「当初 想定していた脅威はまったく来なかったとは言え、それなら『URAファイナルズ』や修業式なんかが次の狙い目だろうに」

 

アグネスタキオン’「まあ、なんであれ、いつもいつもモルモットくんの想定を上回ることばかりが起きて、飽きさせないものだねぇ、人生ってものは」

 

アグネスタキオン’「いざという時は私が時間跳躍すればいいのだろうしね」

 

アグネスタキオン’「こういう可能性の世界の探究に並行宇宙を侵略してきたWUMAのノウハウを引き出せないのがもどかしいねぇ。さすがにそういったところは先遣隊(使い走り)のエルダークラスも預かり知らないか……」

 

アグネスタキオン’「いいさ。本当に必要になったらモルモットくんに遠慮なく扱き使われるのだろうし、私は私でその時が来るまでやりたいことをやって過ごしているさ。いつも通りにね」

 

 

 

●????:3月13日 朝の登校前

 

和田T「今までの傾向からすると、卒業式の翌日に斎藤Tが別世界を救うキーパーソンと出会って方策を授けて元の世界に帰れているんだし、今日この日に何かあるんじゃないんですか?」

 

和田T「それはそれとして、カフェの“春シニア三冠”のためのトレーニングや対策はやっておきますけどね」

 

和田T「何だかんだ、いろんな世界でのウマ娘レースを知ったおかげで今までになくインスピレーションが湧いて湧いてしかたがないんですよ」

 

斎藤T「今回はもっと嫌な予感がしてならないんですがねぇ……」

 

斎藤T「それで昨夜の学生寮で何か気づいたことはありませんでしたか? 卒業式の後だと卒業生たちの引っ越しでてんやわんやですけど」

 

マンハッタンカフェ「それが、ですね……」

 

和田T「ど、どうしたの? 卒業生が一斉に学生寮から引っ越しするってわけだから、何か気味の悪いものでも捨てられてた?」

 

 

マンハッタンカフェ「は、はい。それが生徒以外立ち入り禁止のはずの学生寮なんですが、ゴミ捨て場にこんなのが落ちていたんですよ……」ウゥ・・・ ――――――チャック袋に封をして回収された証拠品!

 

 

和田T「うおおおおおおおおおおおおおお!? こ、これってぇええええええ!?」

 

斎藤T「――――――男性用のコンドーム!? しかも、使用済みぃいい!?」

 

マンハッタンカフェ「あ、あの、そういうことに興味を持っている子がいてもおかしくないのはわかっているつもりでしたけど、学生寮のゴミ捨て場から()()()()が見つかるのは変ですよね?」ハラハラ・・・

 

 

斎藤T「最悪だぁ。最悪の予想が中たってしまったぁ……」

 

 

和田T「どういうことです、『予想が中たった』って!?」

 

マンハッタンカフェ「どういうことなんですか?! トウショウサザンクロスの世界ではこんなことにはなっていなかったですよ!?」

 

斎藤T「最悪のステップアップだよ!」

 

斎藤T「最初の“女王”アグネスオタカルの世界では横浜競バ場跡地に焦点が置かれ、次の“将星”トウショウサザンクロスの世界ではトレセン学園学生寮が問題の中心になっていたね!」

 

和田T「う、うん」

 

斎藤T「だから、気になってこの世界の横浜競バ場跡地がどんな風に利用されているのか、トレセン学園学生寮の問題がどうなっているのかも昨日のうちに調べておいたんだ」

 

斎藤T「するとね、“女王”アグネスオタカルの世界では実現していなかった横浜競バ場跡地を療養所(サナトリウム)とした横浜分校がこの世界では成立していたんだ」

 

斎藤T「しかも、“女王”アグネスオタカルが提案していたオンライン分校が完成されていて、ここ:府中の教室もオンライン授業に対応できるように中継機材や電子ボードが完備されていた!」

 

和田T「え!? いいことじゃないですか!? 凄いじゃないですか!」

 

マンハッタンカフェ「でも、それがどうして学生寮のゴミ捨て場から使用済みコンドームが……!?」

 

 

斎藤T「そこだよ。“女王”アグネスオタカルという“皇帝”すらも上回る実績と絶大な支持を持つウマ娘が必要性を訴えても実現しなかったことを()()()()()()()がこの世界ではあったということだよ!」

 

 

和田T「!!?!」

 

マンハッタンカフェ「それはいったい……!?」

 

斎藤T「そうするとさ、横浜分校の構想はアグネスオタカルから聞いていたから、療養のために横浜分校に移った生徒やトレーナーが出てくるわけじゃないですか」

 

斎藤T「だから、横浜分校に府中からどれだけ移っていったのかを確認してみたら、異様にトレーナーの数が少なくなっていたんだ、これが!」

 

和田T「え」

 

マンハッタンカフェ「――――――『トレーナーの数が少ない』!?」

 

斎藤T「そう、ただでさえ、全生徒数2000名弱をスカウトしきれないぐらいにトレーナーという存在が貴重だからこそスカウトの重みがあるわけだけど、この世界だとトレーナーの数が輪をかけて少なくなっているんだ!」

 

和田T「おかしくないですか、それ!? 一見すると元の世界と同じく“皇帝”シンボリルドルフの下で黄金期を迎えて暗黒期の倍以上の生徒数になったのにトレーナーの数が少ないって矛盾してますよねぇ!?」

 

和田T「それでどうやって元の世界と同じ戦績になるんですか!?」

 

斎藤T「いや、そう見えていたのは学園の中心となるスターウマ娘だけで、私たちと関わりがないウマ娘の重賞レースの結果はかなり変わってた!」

 

和田T「……言われてみると、俺も学園の顔役になる生徒会役員になるスターウマ娘の担当トレーナーだったなぁ。斎藤Tなんて俺以上に生徒会役員とガッツリ絡んでいるし」

 

マンハッタンカフェ「それで、つまり、どういうことになるんです?」

 

 

斎藤T「その答えは『どうしてトレセン学園所属のトレーナーが少なくなるのか』という問いでわかる」

 

 

斎藤T「ちなみに、年齢別に見た中央所属のトレーナーの推移や担当したウマ娘の数に離職率をまとめた資料がこれだ」ピッ

 

和田T「え!? 最初の3年間を担当ウマ娘と走り抜いた新人トレーナーの離職率がずば抜けて高くなってませんか!?」

 

マンハッタンカフェ「そうですね。年齢別に見ても若手トレーナーが異様に長続きしていないですね……」

 

斎藤T「そして、これが府中における避妊具や大人の玩具、結婚情報誌の売上の推移だ。ついでに中央所属のトレーナーの婚姻状況や出産状況の推移も添えておく」ピッ

 

和田T「いやいやいやいや! もう答えが出ているようなもんじゃないですか、これで!?」

 

マンハッタンカフェ「えぇ…………」

 

 

斎藤T「もうおわかりですね! この世界で黄金期を迎えたトレセン学園はフランスの絶対王政の爛熟期のヴェルサイユ宮殿なんですよ!」

 

 

和田T「――――――『爛熟期』!」

 

斎藤T「まだ実感が湧かないですけど、トレセン学園から始まるベビーブームの真っ只中みたいですよ、この世界!」

 

マンハッタンカフェ「それじゃあ、横浜分校は――――――」

 

斎藤T「これを見てください。明らかに4年目以降のスーパーシニア級のウマ娘が元の世界よりも少なくなっている上に、横浜分校に担当トレーナー共々移って、それからずっと府中本校に戻ってきてませんよねぇ?」

 

マンハッタンカフェ「で、でも、横浜分校はそうでも学生寮で男性用のコンドームが見つかるのは変ですよ!?」

 

斎藤T「……よく考えてくれ」

 

斎藤T「あれだけ広大な住宅団地となっている生徒以外立ち入り禁止の場所を民間警備会社のERTが網羅しきれていないし、監視カメラが設置できないプライベート空間がどれほどある?」

 

斎藤T「そして、トレセン学園は莫大な寄付金によって運営費を賄われているわけで、当然ながら寄付金を納めてくれる相手に返礼として忖度するのは当然のことじゃないですか?」

 

マンハッタンカフェ「――――――ッ!」

 

マンハッタンカフェ「そ、そんな!? 生徒以外立ち入り禁止の学生寮に部外者が出入りして半ば公然と不純異性交遊が行われているということですか!?」

 

和田T「いや、可能性はなくはないよな。マンホールや地下室を通じて侵入できるはずだ……」

 

マンハッタンカフェ「でも、たしかに雰囲気というか何かがちがっていたのは間違いありません……」

 

斎藤T「おそらく、アグネスオタカルでも実現させられなかった横浜分校の設立を後押ししたのはそうした不都合な真実を隠したい連中なのだろう」

 

 

斎藤T「ともかく、()()()()()()()()()()()()()に会わなくては! 知らないはずがない!」

 

 

和田T「それなら昨日のうちに会っておけばよかったですね。こんな世界だったなんて、完全に油断してましたよ……」

 

斎藤T「そういうわけだから、シンボリルドルフの居場所がわかったら連絡をお願いします」

 

和田T「わかりました。とにかく、斎藤Tが我らが“皇帝”陛下に会って話をしなくては始まらないので、こちらはトレーニングがてら校舎を見て回ります」

 

マンハッタンカフェ「あの、これ、どうすれば……?」オズオズ・・・ ――――――使用済みの男性用コンドーム!

 

斎藤T「責任を持ってこれは私が処分しておきます」パシッ

 

マンハッタンカフェ「あ、ありがとうございます……」ホッ

 

 

斎藤T「さてさて、困った時の神頼みってね!」パカッ ――――――“黄金の羅針盤(クリノメーター)”が進むべき方角を指し示す!

 

 

斎藤T「ううん? こっちの方角にシンボリルドルフがいるのだろうか?」

 

斎藤T「一番確実なのは卒業式の直後にシンボリルドルフと接触することだが、そのためにアグネスタキオン’(スターディオン)の時間跳躍を使うのはどうなんだろうな?」

 

斎藤T「それはそれとして、和田Tに預けた“目覚まし時計”による時間の巻き戻しも残り1回となると――――――」

 

斎藤T「いいや、ここは信じるしかないし、所詮は可能性の世界での出来事だ。最後まで面倒を見る必要もない」

 

斎藤T「よし、行ってみよう!」

 

 

こうして卒業式を境に突如として転移することになった3つ目の可能性の世界で助けを求めているだろう別世界のシンボリルドルフの捜索が始まった。

 

この通り、困った時は“黄金の羅針盤(クリノメーター)”が指し示す方角を目指せば間違いないのだが、それが果たして誰の眼から見て正しい方角なのかが判然としないため、全幅の信頼を寄せるわけにもいかなかった。

 

ただ、この別世界で何をすればシンボリルドルフを救うことになるのかの手掛かりがまったくない状態であるため、ここぞという時の人探しにおいては抜群の的中率を誇っているだけに これに頼る他ないというのが いつもの流れであった。

 

事前に協力者たちには昨夜のうちに掴んだ別世界の特色を知らせて更なる情報収集を任せており、そうして“黄金の羅針盤(クリノメーター)”が指し示す方角を目指して府中市を歩き回ることになった。

 

もうなかったことになっているが、WUMA殲滅作戦:奥多摩攻略作戦の下準備として川苔山/百尋ノ滝までの行程時間を6時間と見間違いをしたことで背嚢を背負って市内を6時間は歩き回ったことがあり、そこでの体験が全て活かされて奥多摩攻略作戦が完遂できたことを思い出す。

 

あの時は『東京大賞典』『有馬記念』に続くクリスマスであり、府中市のウマ娘専用レーンの道路標示から『ウマ娘レースで得られる自由とは束縛からの自由(リバティー)であり、表現の自由(フリーダム)ではない』という重大な結論を得られたものだ。

 

あれから卒業の季節を迎えた府中市は彩りを変えており、卒業式の翌日ということもあって引越し業者のトラックが絶え間なく市内の道路を所狭しと走っているのが見える。

 

ただ、卒業生は昨日に卒業式を迎えたことでトレセン学園から退去することが求められるわけだが、在学生に関しては来週の火曜日の修業式を迎えてから春休みになるわけなので、卒業式の後の平日は普通に学園では授業である。

 

そのため、在学生たちが平日の朝方から市内を彷徨いているはずもなく、となれば『URAファイナルズ』決勝トーナメントを最後のレースとして街中で走り込みをしている卒業生の姿はチラホラ見られた。

 

しかし、その卒業生を追尾するように“黄金の羅針盤(クリノメーター)”が動いていることにふと気づかされることになり、ウマ娘専用レーンで猛スピードを出しているウマ娘をヒトの身で追いかけなければならないという不可解な展開になってしまうのであった。

 

 

斎藤T「や、やっと、追いついたぁ……」ゼエゼエ・・・

 

レオダーリング「……もしかしてずっと追いかけていたんですか?」

 

斎藤T「……この時期のこの時間帯に街中で走り込みをしているということは、トレセン学園の卒業生で『URAファイナルズ』の決勝進出者(ファイナリスト)で間違いないか?」ゼエゼエ・・・

 

レオダーリング「そうですけど、それで何の用なんですか? 見ての通り、『URAファイナルズ』優勝に向けてトレーニング中なんですけど」

 

斎藤T「……もしかして中等部? 中等部の卒業生か?」ゼエゼエ・・・

 

レオダーリング「……そうですけど? 悪いですか、中等部で卒業するのって?」

 

斎藤T「いや、『URAファイナルズ』の決勝進出者(ファイナリスト)になるってことは準決勝を1着で通過したわけだから高等部にも負けずに大したものだよ」ゼエゼエ・・・

 

斎藤T「しかも、出走資格の4年目:スーパーシニア級ってことは“エリートウマ娘”だったわけだし」ゼエゼエ・・・

 

レオダーリング「……あ、ありがとう。こんな朝っぱらから追いかけてまで褒めてくれた人はあなたが初めてです」

 

斎藤T「思い出したよ。レオダーリング、【長距離部門】だったかな」フゥ・・・

 

斎藤T「となると相手は同期にして同世代のミホノブルボンに、ライスシャワー、ハッピーミークといった強豪揃いだが、健闘を祈るよ」

 

レオダーリング「こっちも思い出しましたよ。誰かと思えば、そのハッピーミークのサブトレーナーの 学園一の嫌われ者の 奇跡の復活者の斎藤Tじゃないですか」

 

斎藤T「――――――『奇跡の復活者』?」

 

レオダーリング「だって、そうじゃないですか」

 

レオダーリング「ウマ娘に撥ねられて意識不明の重体になった後に名門トレーナー:桐生院 葵のサブトレーナーの座に収まって、“クラシック三冠バ”ナリタブライアンとの模擬レースでハッピーミークを勝たせて、その勢いで『天皇賞(秋)』でG1勝利ですよ?」

 

レオダーリング「それどころか、その学園一の嫌われ者が生徒会役員どころか世代の中心となったスターウマ娘たちからバレンタインチョコをもらっていることでも有名でしたからね」

 

レオダーリング「そして、極めつけは『選抜レース』でトウカイテイオー以上の才能を示しておきながら実験室に籠もりきっていた学園一危険なウマ娘:アグネスタキオンの担当トレーナーになったってことが一番に驚きでした」

 

レオダーリング「そんな方が卒業式の翌日に追いかけて来てまで私に声を掛けてくれるのは縁起が良いことなんでしょうかね?」

 

斎藤T「私は誰の味方でもないぞ。妹の養育費を賄うためにトレーナーになって、もう養育費に困ってないから、あとは惰性でトレーナーをやっているだけだ」

 

レオダーリング「へえ、やっぱり最悪の人ですね、あなたは。一生に一度しか無い夢の舞台に持てる全てを出し切ろうと頑張っているウマ娘にとっては腹立たしい存在ですよ」

 

レオダーリング「でも、勝ちにこだわりすぎてウマ娘を自身の栄達の道具にしてくるようなトレーナーなんかよりはあなたは万倍マシではありますね。本心を包み隠さない点ではいっそ清々しいです」

 

レオダーリング「そういうところが並みのトレーナーでは果たせなかった関係性を築き上げられたんでしょうね……」

 

レオダーリング「それに引き換え、レオダーリング(しし座の恋人)なんて名前なのに、私はどうして――――――」ハハハ・・・

 

レオダーリング「うっ」ヨロッ

 

斎藤T「お、おい!」ガシッ

 

レオダーリング「うぅ…………」

 

斎藤T「大丈夫か――――――、ん? んん? この()()()()()()は――――――?」

 

レオダーリング「触らないで!」ブン!

 

斎藤T「うおっと!?」ヒョイ!

 

レオダーリング「うぅ……、どうして? 日数計算は間違えていないはずなのに……?!」ヨロヨロ・・・

 

レオダーリング「あ、ああ……、うぅう…………」ウップ・・・

 

斎藤T「大丈夫か!? 吐き気だな!? エチケット袋になりそうなものはないから――――――!」キョロキョロ

 

斎藤T「しかたがない! これに吐き出せ!」バサッ!

 

レオダーリング「え、でも、これってあなたの上着――――――!」

 

斎藤T「いいから! おねしょした布団やクソ塗れのパンツを洗うよりはマシだろう!?」

 

レオダーリング「もう最低ぇええ…………」オロロロロロ・・・!

 

斎藤T「………………」サスサス・・・

 

 

まったくもって、とんでもない場面に遭遇してしまった。

 

中等部卒業の『URAファイナルズ』決勝進出者(ファイナリスト)の名誉を守るために吐瀉物の処理をしなくてはならなくなったわけなのだが、エチケット袋になりそうなものがなかったことで私の上着を風呂敷代わりにして処理しなくてはならなくなった。

 

大丈夫さ。私は数え切れないほどのWUMAの灰化していく死体を浴びてきた殺戮者だ。尊厳のある命だったものを服から綺麗に払い除けることと比べたら、生きている証のものを浴びた服を綺麗にするのは気持ちがいくらか軽いものさ。非常時に使い捨てることを前提にした大量発注品だから捨てるけど。

 

しかし、その時、朝方にマンハッタンカフェから別世界の特色となる()()()()()()が内ポケットに入れたままだったのを吐瀉物に塗れた上着を見て思い出したことで、嫌でもレオダーリングのお腹の膨らみと吐き気の原因を結びつけてしまう。

 

いや、最初にふらついたレオダーリングの身体を受け止めた時に不意に触れてしまったお腹の膨らみだけで 十中八九 そうであるという予想はついてしまっていたのだ。

 

ただ、()()()()()()()()()()()()()()()がいかに非人間性の極致であるかを信奉している23世紀の宇宙移民としては受け入れ難い現実でもあった。

 

それでも、受け入れ難い現実であると理解するよりも先に苦しんでいる人を助けるために適切な現場処置に動ける辺り、宇宙移民としての状況判断力は錆びついていないようであった。

 

とにかく、いろいろと問い詰めてこの世界のあらましについて情報収集したい欲求に駆られてしまうが、今の不安定な状態から更に精神的に追い詰めるわけにもいかないので救急車を呼ばずに安静できる場所にレオダーリングを連れて行く他なかった。

 

 

 

――――――百尋ノ滝の秘密基地

 

アグネスタキオン’「ふぅン、妊娠2ヶ月目といったところだね」

 

アグネスタキオン’「資料によると、早い人で4週目くらいから“つわり”が始まるみたいだね。逆に2ヶ月目でも何もない人もいるわけで」

 

レオダーリング「……そうですか」

 

アグネスタキオン’「そんな身体で『URAファイナルズ』決勝トーナメントを走り抜こうとするのは無謀極まりないねぇ」

 

レオダーリング「……そんなのはわかっています」

 

アグネスタキオン’「言うまでもなく中絶した方がいい。今なら初期中絶の段階で、人工流産をミフェプリストンとミソプロストールで簡単に行える」

 

レオダーリング「――――――ッ!」

 

アグネスタキオン’「子供でしかないきみの人生にはまだ自分の子供なんてものは必要ないし、第一 子供の身で真っ当な働き口なんて そう見つかるわけもあるまい?」

 

アグネスタキオン’「それに誰との子なのかもはっきりさせないとだねぇ。シングルマザーになるなら はっきりさせる必要はないが」

 

レオダーリング「それは…………」

 

アグネスタキオン’「まったく、『URAファイナルズ』に出走するなら妊娠のリスクぐらい考えてローテーションを組みたまえよ」

 

アグネスタキオン’「まあ、妊娠カレンダーだと最後の生理が始まった日を妊娠0週0日として妊娠週数を数えるから、排卵日は妊娠2週目のことになるわけだ」

 

アグネスタキオン’「となると――――――、ふむふむ、なるほど? “ひめはじめ”というやつかい?」

 

レオダーリング「…………うぅ」

 

アグネスタキオン’「ふぅン、建前としてはファン投票によって選ばれたスターウマ娘が勢揃いの『URAファイナルズ』なのに、妊娠のために出走できないだなんて、『ファンを蔑ろにしたバチが当たった』というやつかな?」

 

 

――――――そうさ、これは『URAファイナルズ』を主導した秋川理事長とシンボリルドルフにとって最終最後最大の汚点となるだろうねぇ。

 

 

レオダーリング「いやぁ! そんなことは! そんなことだけはッ!」

 

レオダーリング「お願いします! このことは誰にも言わないでおいてください! 私一人のために会長の栄光を汚すことはあってはならないことです!」

 

アグネスタキオン’「……そうは言っても、『URAファイナルズ』を運良くやり過ごせたところで、全寮制の学校を出る以上は 家族の許に帰るわけだし 誤魔化しは利かないだろう?」

 

アグネスタキオン’「まあ、一応は警告はしたし、きみ自身の人生だ。きみが進んで苦難の道を歩むのを止める義務なんてないけど、恨まれても困るから ある程度までは話を聞いてやろうじゃないか」

 

レオダーリング「あ、ありがとうございます!」

 

アグネスタキオン’「で?」

 

 

――――――さあ、教えたまえよ。きみとしてはどういった出産計画を立てているんだい。

 

 

アグネスタキオン’「ふぅン」

 

斎藤T「……どうだった?」

 

アグネスタキオン’「相変わらずだよね、きみってやつは」

 

アグネスタキオン’「こうして3つ目の別世界でも卒業式の翌日に世界を救う鍵を握るキーパーソンになる人物と運良く遭遇するわけなんだから」

 

斎藤T「それじゃあ――――――」

 

アグネスタキオン’「ああ、卒業後は病弱を装って進学先の高校には登校せずにオンライン授業で済ませて出産するってさ」

 

アグネスタキオン’「その判断を後押しするかのように、どうやらオンライン授業が元の世界よりも普及していることもあって、『額面上の不登校生の数は改善傾向にある』ってニュースに出てたね」

 

斎藤T「……何だよ、それ? そんなのが認められるのか? 子が子なら親も親か? 信じられない!」

 

アグネスタキオン’「まあまあ、そもそもがトレセン学園に入学できる時点で引退即退学の原因の高騰し続ける授業料を払い切れる良家の娘なんだから、そういったワガママも通るもんさ」

 

アグネスタキオン’「だいたい、トレセン学園のウマ娘なら誰しも自分をスカウトして重賞レースで華々しく勝利を飾らせてくれるトレーナーと恋愛することに憧れているものだし、親御さんも一生に一度しかない夢の舞台で娘さんを輝かせてくれた相手を婿に迎えたいと考えるものさ。メジロ家なんて特にそうだろう」

 

斎藤T「……だから、レオダーリングのようなエリートウマ娘が新人トレーナーに過ぎない私のことなんかも知っていたわけか」

 

 

――――――これがこの世界の異常さ! 生徒の誰もが自分と添い遂げるトレーナーを求めて喜んで処女を捧げる夢物語の世界!

 

 

本当にもう、私の方が所構わずに吐いてしまいたいぐらいに嫌悪感がみなぎってくる最悪の世界だった。

 

だが、そもそもとしてウマ娘は女性しかいない種族であるが故に、種の保存本能に従って集落を襲ってヒトの男子から精を奪い取る“鬼”として忌み嫌われてきた歴史があり、先祖返りしたことでその本性が顕になった世界だと考えれば納得がいくかもしれない。

 

正直に言って、ヒトなど敵うべくもない圧倒的な身体能力と闘争本能を持つウマ娘に襲われたらどうしようもないため、ウマ娘のトレーナーが高収入になる一因としてその手の多額の危険手当が含まれているぐらいなのだ。

 

そう、今でこそヒト社会において第3の性として溶け込んでいるウマ娘ではあったが、実際には身近に存在してしまっている人の手に負えない超常の存在であり、いつの間にか忘れ去ってしまった災厄をもたらす存在でもあったのだ。

 

そうなのだ。アグネスタキオン’(スターディオン)が唯一気づいて指摘した卒業パレードで異様なほどのベビーカーが多かった理由も、トレセン学園所属のトレーナーの総数がとんでもなく減っているのも、全てはちょっとばかりウマ娘の理性の箍が外れた世界だったからに他ならない。

 

良識あるトレーナーほど掛かってしまったウマ娘に抵抗ができずに関係を持ってしまったことの責任を取ってしまうものだから、最初に手を出したウマ娘の早い者勝ちとなっているところがあり、少しでも『これは!』と思った相手がいたら狡猾に狙いを定めるのだ。

 

もちろん、公然と襲いかかれば ただの暴行罪なので、ここからウマ娘が美しい女性しか生まれない媚態能力の全てを総動員して相手を誘惑しにかかるわけで、第二次性徴期に合わせて身体能力が急成長を果たす“本格化”の本来の目的はこの点にあるのではないかという邪推すら浮かび上がる。

 

それだけに元の世界よりも恋に恋しているような恋愛脳のウマ娘が多く、私のような学園一の嫌われ者の新人トレーナーのことも入学1年目でトレーナーのスカウトを受けてメイクデビューを果たしたエリートウマ娘が把握しているぐらいには学園中がトレーナーの存在に常に目を光らせているというわけなのである。

 

ただ、トレーナーの数が少なくなればなるほどトレーナー1人当たりにマークするウマ娘の数も増えていくわけで、早い者勝ちであっても互いに牽制し合って容易に手が出せなくなる集団心理に陥る一方で、

 

走ることも大好きなウマ娘だからこそ、正々堂々と『選抜レース』で結果を出すことでトレーナーからのスカウトを勝ち取って『トゥインクル・シリーズ』を二人三脚で駆け抜けた末に一心同体になることを直向きに目指すことができていたのだ。

 

そういう意味では非常に危ういバランスの上でトレーナーとウマ娘の関係が保たれているわけであり、私の場合は()()()()()()()()()()()()()()()()()()に何度も襲われているので、決して元の世界のシンボリルドルフ本人とそういう関係になりそうになったことはなくても、第3の性にして愛すべき隣人であるはずの異種族:ウマ娘の本質的な恐ろしさをわからされることになった。

 

 

――――――なるほど、これは別な意味でヒト社会で制約を課されてきたウマ娘たちが本能に従って束縛からの自由(リバティー)を求めた結果かもしれない。

 

 

そう、考えてみれば、ウマ娘はヒトを超越した身体能力を最大限に発揮できる場所がバ場しかないために『トゥインクル・シリーズ』がウマ娘にとって憧れの舞台になっている面もあったわけなのだが、

 

古来からヒトの精子を求めて集落を襲ってきた鬼の本能を抑えることもヒト社会では求められていたため、何かの拍子でヒト社会で躾けられてきた理性の箍が外れて種の保存本能に身を任せてしまう危険性も消え去っていないのだ。

 

だから、『恋はダービー』なんて言うわけで、ウマ娘が害獣として人類の歴史から駆除されなかったのは種の保存本能を上回るほどに走ることが何よりも大好きな闘争本能のおかげでもあったわけなのだ。

 

つまり、何よりも走ることが大好きなウマ娘の闘争本能が萎えた場合に表出してくるのが、人類史に“鬼”として存在を刻まれてきたウマ娘の種の保存本能ということになり、冷静に考えるととんでもなく厄介な異種族の性であると言えた。

 

そして、異種族の生態に由来する人生観と価値観が“皇帝”シンボリルドルフと“天上人”鐘撞Tが目指した“ヒトとウマ娘の統合の象徴”を夢物語の偶像にしていたのだ。

 

 

――――――そうか。これが異種族共生社会の現実で、決して相容れない文化の相違というやつなのか。

 

 

 

――――――トレセン学園

 

斎藤T「――――――『不倫は文化』だなんて言われたら、黙るしかないのが基本的人権の尊重に基づく多文化主義の真の文明人のつらいところだな」

 

斎藤T「こういう世界なのだと、こういう価値観なのだと、こういう文化なのだと言われたら、未開惑星人のために私からできることは何もない」

 

斎藤T「この広大な宇宙では()()()()()()()()()()だってわかっていたつもりだったけれども、この世界ではそれが少しばかり早かっただけで、ヒトとウマ娘の共生社会はいつかは破綻するのが定めだったのか――――――」

 

 

ナリタブライアン「おい、しっかりと歩けよ」

 

三ケ木T「だ、だって、ブライアンが激しくするから……」プルプル・・・

 

 

斎藤T「だ、大丈夫ですか?」

 

ナリタブライアン「あ、斎藤Tか」

 

三ケ木T「き、奇遇ですねぇ……」

 

三ケ木T「だ、大丈夫です。少しばかり腰を痛めただけでして」アハハ・・・

 

斎藤T「それにしては肩を貸してもらわないと立っていられないほどに脚が震えているのは下半身を強く打ったからでは? 本当に大丈夫ですか?」

 

ナリタブライアン「まあ、そうだな」

 

三ケ木T「え、ええ……」アハハ・・・

 

斎藤T「――――――何か雰囲気が変わった?」

 

三ケ木T「!!!!」ビクッ

 

ナリタブライアン「ああ。『元の鞘に収まった』というやつだ」

 

斎藤T「それはつまり、三ケ木Tも優駿競バ『ドリーム・シリーズ』に移籍するということですか?」

 

三ケ木T「は、はい。は、恥ずかしながら……」

 

斎藤T「おめでとうございます。よくご決心なされました」

 

斎藤T「まあ、担当トレーナーの名義はずっと三ケ木Tのままでしたから、何の問題はありませんね」

 

斎藤T「更なる戦いの舞台で栄光を掴むことを期待します」

 

三ケ木T「う、うん。私にとって最初で最高のウマ娘だもん。やっぱり、ブライアンが一番だったから……」

 

ナリタブライアン「まあ、当然の話だな。こいつが私のことを戦いに駆り立てたんだからな。その責任は取ってもらったぞ」

 

斎藤T「――――――?」

 

三ケ木T「ど、どうしましたか、斎藤T?」

 

 

斎藤T「そういえば、三ケ木Tが上位リーグに移籍するとなると、今の担当ウマ娘との契約はどうなるわけなんです? 異なるリーグに所属する者同士の関係は?」

 

 

三ケ木T「そ、それは――――――」

 

ナリタブライアン「ふん。わかりきっていることだろう」

 

ナリタブライアン「こいつは今の担当ウマ娘よりも最初の担当ウマ娘を選んだ。今の担当ウマ娘との契約もそこで打ち切りだ。当然の話だ」

 

三ケ木T「――――――ぶ、ブライアン!?」

 

斎藤T「……ああ、やっぱり、そうなりますか」

 

 

三ケ木T「や、やめてよ! やめてよ、ブライアン!」

 

 

斎藤T「!」

 

三ケ木T「私だってブライアンのことが一番だって思っているけど、タイムのことだって大事なの!」

 

三ケ木T「そりゃあ、ブライアンみたいに重賞レースを勝つだなんてことはまったくできなかったけど、精一杯やって重賞レースを好走できただけでも嬉しかった思い出はいっぱいあるもん!」

 

ナリタブライアン「ふざけるな! 最初からトレーナーバッジを捨てる覚悟で私の担当トレーナーになった女が惨めたらしく敗北の思い出を語るな! 女々しい!」

 

ナリタブライアン「いいか! あんたが私に火をつけたんだ! そのためにあんたは常にトレーナーバッジを捨てる覚悟で私を“クラシック三冠バ”にまで導いたんだ!」

 

ナリタブライアン「今更、怖じ気付いたところで手遅れなんだ! あんたには私しかいないし、私もあんたしかいないんだ!」

 

三ケ木T「でも! でもぉ……!」

 

 

ナリタブライアン「――――――懲りないやつだ! また()()()()()()()()()()必要があるみたいだな!」

 

 

斎藤T「なに!?」

 

三ケ木T「ちょっとやめて、ブライアン! 斎藤Tが見ているから!」

 

ナリタブライアン「それがいいんだろう!」

 

ナリタブライアン「斎藤T! あんたが見届人だ! こいつは私のものだからな! しっかり見ておけ!」ギラッ

 

斎藤T「――――――何というプレッシャー!?」ゾクッ

 

三ケ木T「いや! やめて! いつもの優しいブライアンに戻って! 私が、私が悪かったから!」

 

ナリタブライアン「無理だ! あんただって全身で私を欲しがっているんだ! いいかげんにそのことを認めろ!」

 

ナリタブライアン「あんたは私のものだ! 誰のものでもない! 私のものだ!」

 

 

ズキュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

 

 

――――――あまりに壮絶な光景にもう頭がはち切れそうになっていた。

 

“皇帝”シンボリルドルフが自分が卒業した後の学園の顔役として選んだ“クラシック三冠バ”ナリタブライアンはその存在の重要性ゆえに、別世界ではいろんな可能性の姿を見せることになるわけなのだが、

 

これはもう生徒会役員にならなかったアグネスオタカルの世界や悪役のレッテルを貼られたトウショウサザンクロスの世界よりも最悪の度合いが群を抜いていた。

 

妊娠2ヶ月目で『URAファイナルズ』決勝トーナメントに出走しようとしていたレオダーリングをアグネスタキオン’(スターディオン)の許に預けて、再び“黄金の羅針盤(クリノメーター)”の指し示す方角に向かって府中市を歩き回ると、あの時と同じようにトレセン学園に帰り着いてしまった。

 

昼飯時にはまだ早かったので教室で授業中の在学生たちを他所に、『URAファイナルズ』決勝トーナメントに向けて卒業式を迎えて自由な時間を得られた卒業生たちが最後のトレーニングに懸命に励んでいるのを眺めていると、

 

人気のない場所の物陰から生徒会副会長:ナリタブライアンとその元担当トレーナー:三ケ木Tが出てくるのに鉢合わせすることになってしまった。

 

一応、授業があるとは言っても来週の火曜日には修業式を迎えるので大した内容があるわけではないのだが、在学生たちが教室でまじめに授業を受けている時間に、人気のない場所に屯しているのはあまり感心できることではなかった。

 

しかし、生まれたての子鹿のように脚がプルプルと震えている三ケ木Tと肩を貸すナリタブライアンの2人はトレーニング直後のように全身から汗の臭いに混ざる蜜の匂いを漂わせて身体を火照らせた様子であり、もうこの時点で嫌な予感しかしていなかった。

 

努めて冷静に これまでの経験上 別世界の事情を知るためのバロメーターとなっているナリタブライアンから情報を引き出そうとすると、私の目の前でとんでもない修羅場が催されることになってしまった。

 

いや、元の世界でも上位リーグ『ドリーム・シリーズ』移籍をめぐって担当ウマ娘と担当トレーナーの進路が衝突することがあるのはわかってはいたし、特にこの2人の場合は最初の担当ウマ娘にして“クラシック三冠バ”を達成したことが問題を深刻化させていたのだが、

 

多くのウマ娘の理性の箍が外れた世界においては、身体の関係で担当トレーナーを寝取る悪質な行為が繰り広げられており、“怪物”ナリタブライアンがそれを行っていることに私は彼女の友人の一人として衝撃を受けてしまった。

 

 

――――――種の保存本能からヒトの精子を求めて集落を襲ってヒトの身体を貪ってきた歴史を持つ“鬼”が目の前にいるのだ!

 

 

生物学上は同性の三ケ木Tに対して大胆にも容赦なく唇を奪い、立っていられないほどにトロトロに腰砕けにして、自分のものであることを示威するかのように私を睨みつける様は完全にヒトのものではなかった。

 

そう、正気を失って凶暴になった人外に何度も襲われながらも私は幸運にも危地を脱してきただけに、こうして抵抗虚しく弱者が強者に為す術なく蹂躙されて全てを略奪されていくさまを見るのは胸が張り裂けそうな思いに駆られてしまう。

 

本当は今すぐにでも警察に通報して現行犯逮捕に動くべきなのだろうが、ヒトを圧倒的に凌駕する身体能力を誇るウマ娘を警察が無傷で拘束できるはずもなく、そうしたウマ娘の性を受け容れないのは異種族差別であるという主張してくる人権団体の圧力のことを考えると、何も効果的な策が思い浮かばなかったのだ。

 

なので、私たち以外には誰もいない場所でか弱いはずの女子供である三ケ木Tとナリタブライアンが興じている極めて愛のある不潔な行為を私はただただ見ている他なく、

 

『距離感がバグる』と形容されるほどのウマ娘からの熱烈な求愛行為の果てに嫌がっていた三ケ木Tが徐々にオンナの顔になっていく様に私は涙せずにはいられなかった。

 

最初は必死に抵抗していたはずが、やがては力尽きてされるがままになったかと思いきや、相手を求めるかのように愛おしそうに艶めかしくいじらしく背中に手を回して舌と舌を激しく絡ませていくのだ。

 

そう、最初の担当ウマ娘にして最高のウマ娘だったのだから、元の鞘に収まる、三ケ木Tがナリタブライアンのことを嫌っているわけがないので強く求められれば受け容れてしまうのは当然のことではあるのに、どうしてこんなにも哀しみが溢れてくるのだろうか。

 

そして、涙で立ち尽くしている私の存在など完全に忘れ去って、勢いで担当トレーナーのスーツパンツをズリ落とそうとする担当ウマ娘に一瞬だけ我に返った担当トレーナーが制止したものの、それならばと担当ウマ娘は担当トレーナーをヒョイと抱えて物陰へと駆け込んでいった。

 

そこから、耳を澄ませば微かに聞こえてきたのが熱のこもった吐息にオンナの喘ぎ声、ネチャネチャとした水音と一定のテンポで弾む肉感のある音が反響してくる――――――。

 

私はもう何も見なかったし聞かなかったし感じなかったことにして、頭の中が真っ白になりながら、涙で肩を震わせながら ふらついた足取りでその場を後にするしかなかった。

 

これが卒業式の翌日のまだ在学生が授業中の平日の昼飯時にならない時間での出来事だったのだから、言葉にできない衝撃がガンガンと小槌で打ち付けるように脳に打撃を与え続けるのであった。

 

 

――――――冗談であっても、こんな別世界の知り合いの姿は見たくなかった。

 

 

そうして、味のしない学食を一人で口に運び続けていると、後からやってきたナリタブライアンが非常にしおらしい態度の三ケ木Tを肩まで抱き寄せて嫌いな野菜を無理やり押し込んでいるという微笑ましい光景に胃もたれを感じてしまった。

 

更に、その光景をジーっと恨みと妬みのこもった冷えた眼差しで覗き込んでいる三ケ木Tの担当ウマ娘:シルバークイーンタイムの姿もあり、私は逃げるように胃の中にものを押し込んで食堂を後にした。

 

今までどれだけ世界の危機に直面しても私はその緊張感や恐怖感を高揚感と達成感に変えて最後には未知の惑星の冒険の思い出に変えることができていたのだが、今回ばかりはひたすらに圧迫感と無力感と嫌悪感しか湧かず、気持ち悪さがまず胸にこみ上げていた。

 

その気持ち悪さが晴れないまま、あらためて ()()()()()()()()()()()()()を求めて“黄金の羅針盤(クリノメーター)”が指し示す方角に進んでいくと、

 

なぜかトレーナー寮からウマ娘たちがゾロゾロと出てくる光景に出くわすことになり、その中には新生徒会長:エアグルーヴの姿があった。もうね――――――。

 

いや、“女帝”エアグルーヴがストレス発散の手段として掃除が趣味なのは知る人ぞ知る話で、現役時代は担当ウマ娘のために自分の生活が疎かになっていた担当トレーナーの世話を甲斐甲斐しくしていたことでも有名でもあった。

 

そのため、今も担当トレーナーの部屋に出入りしているのはおかしな話ではないし、打ち合わせのために昼間に担当トレーナーの許を訪れる生徒が多いのも理屈としては変ではなかった。

 

 

――――――こんな世界でなければ! あんな光景を見せつけられた後でなければ! もうこの時点で嫌な予感しかしていない!

 

 

理屈としては変ではないことでも元の世界と比べて違和感を覚えるぐらいに昼間からトレーナー寮に出入りする生徒が多いのはこれはどういうことなのだろう。

 

去年のWUMA殲滅作戦:奥多摩攻略作戦によって百尋ノ滝の秘密基地を本拠地にして岡田Tのトレーナー室を貰い受けて以来、トレーナー寮の荷物のほとんどを引き上げて必要最低限のものしか置かなくなった私の寮室で寝泊まりすることは稀になっていた。

 

そのため、トレーナー寮に来るのは友人となるトレーナーたちを見送る次いでで、トレーナー寮に自分一人だけで来るのは随分と久しぶりな気分だった。

 

だからこそ、トレーナー寮に足を踏み入れた瞬間に五感の全てが反応して鳥肌が立つほどに爛れた空気に怖気が走ってしまったのだ。

 

 

斎藤T「う、ぅううううううううう!?」

 

斎藤T「な、何この臭い!? 鼻がもげそうだ!」

 

斎藤T「よく見たら、あっちこっちに消臭剤や観葉植物が置かれているけど、何をしたらトレーナー寮にこれほどまでの臭気が充満するんだよ!?」

 

斎藤T「こんなところにヒトよりも身体能力が高いウマ娘が何人もやってこれるはずが――――――」

 

 

ブオオオオオオオオオオオオオオン・・・・・・!

 

 

斎藤T「何だ? 巨大な換気扇か何かが動いているのか? 吸引器の音……?」

 

斎藤T「あ、あれほど強烈だった臭いがなくなった――――――? 何らかの臭気ガスを流していた感じなのか?」

 

斎藤T「お、何だ? 扉の前に黒いゴミ袋があちこちにあるぞ?」

 

斎藤T「……うん? 何だ、あのロボットは? 黒いゴミ袋を回収していくぞ? 倉庫ロボットの一種のゴミ収集ロボットなのか?」

 

斎藤T「……どういうことだ? この世界だとトレーナー寮ではホテルのランドリーサービスみたいに洗濯物を袋に入れて表に出しておけば回収してくれるようになっていた?」

 

 

斎藤T「――――――いや、自分に嘘をつくのはやめようか、もう」

 

 

斎藤T「まったく、しばらく帰ってきていないからと言って、他人の部屋の前にゴミ袋が捨てられているのはどうかと思うがな」

 

斎藤T「じゃあ、私がゴミ袋の中を見ても問題ないということだな。それが私が出したゴミ袋であるということを否定できる証拠を自ら提出しない限り――――――」

 

斎藤T「さてさて、わざわざ黒いゴミ袋にしてトレーナー寮の外に出さないようにゴミ収集ロボットで回収させている中身は何かな? 何かな~?」ガサッ

 

斎藤T「うぉおおおおおおえええええええええええええ!」

 

 

それはそれはフルーツの女王:ドリアンの香りと熟れた果汁を貪った跡がこんもりと詰まっていた()()()()()()()であった。

 

いやいや、目につく全てが()()()()()()()()()()とは限らないので トレーナー寮を稼働するゴミ収集ロボットの後をついていって その収集先を確かめてみると、それはそれは素晴らしい果樹園となっていた。

 

別世界の話であるとは言え、異なる進化と歴史を歩んだ地球にはそういった可能性が元から存在する以上、もう言い逃れができないほどにトレセン学園は爛れきっていたことを私は認めなくてはならなくなったのだ。

 

それは理想主義者の“女帝”エアグルーヴですら例外ではなかったのだから、ゴミ収集ロボットが投げ捨てた黒いゴミ袋が詰め込まれたコンテナでゴミ漁りをしている自分の惨めさと染み付いた爛れた臭いに意識が飛びそうになるのも致し方ないことだった。

 

 

――――――花はどうして咲くのか。花はどうして香るのか。花はどうして甘い蜜を出すのか。

 

 

一言で言えば、子孫繁栄のためである。生き物として子孫を残すための戦略である。

 

そのために、動物に対して動かざる物である植物は動物を利用して、受粉し、実を実らせ、種子を運んでもらうために、芳しい香りを出し、美しい花弁で魅了し、甘い蜜で誘うのだ。

 

花とはそういうものである。花を咲かせるのは実を実らせるため。芳しい香りを出すのは種を作るため。甘い蜜で誘ってくるのは種の繁栄のためである。

 

 

だから、花はその美しさも香りも甘い蜜も全てが艶めかしいものである。

 

 

そう、“女帝”エアグルーヴの趣味が掃除であることよりも一般的にはガーデニングで、学園では花卉園芸を行って生徒たちに手ずから育てた花卉を配っている姿が有名なぐらいなのだ。

 

そして、なんだかんだで私は生徒会役員とは多かれ少なかれ接点があり、手書きの書類もそれとなく目にしてきていたので、“皇帝”“女帝”“怪物”“万能”“帝王”“名優”の格式高い筆跡は見ればすぐにわかってしまう。

 

そのため、ゴミ袋を開けた時にアロマではない生花の臭いが広がり、よほどの花好きでなければわからないような珍しい花も入っていて、なおかつ日用品の買い出しに関する見覚えのある筆跡のメモ書きがたくさん入っていたら、その時点で私の中では()()()()()()()()()()なのかが手に取るようにわかってしまうのだ。

 

1週間前後で期限切れとなって捨てられても灰になる最後の瞬間まで鼻孔をくすぐる残り香を溜め込んでいた切り花と、花を咲かせた目的として互いに溜め込んでいたものが最高潮を迎えて交わりあったのが臭いでわかるほどの愛の証が、こうして同じ黒いゴミ袋に入れられてゴミ収集ロボットに回収されていることに私は花の美しさと醜さを狂騒の中で同時に感じてしまうのだ。

 

本当におかしな話だ。それが生き物として当然の習性であり、それをしなければ種族の繁栄にはならない自然な行いだというのに、愛の営みと花の受粉が同レベルに感じられてしまうのだ。

 

それ以上に、()()()()()()()()()()()()()()の証拠品が他にもゴミ漁りをしていて簡単に見つかるわけなのだが、私はこんなものが欲しくて、こんなものが見たくて、こんなものが知りたくてゴミ漁りをしているわけではないのだ、断じて。

 

だからこそ、何もかもが本当におかしくなっているのが感じられた。ゴミ漁りをしてまでプライバシーを侵害するようなことをする気になったのは、私の中で認識が変わっていたからだ。

 

最初は信じられないものを否定したくて行動していたのだが、段々と()()()()()()()()()()()()()を見ている気分になっていた。

 

だから、久しぶりの寮室で本日2度目になるシャワーを浴びて また着替えをすると、私は決して振り返ることもせず、そそくさとトレーナー寮を後にするしかなかったのだ。

 

 

 

マンハッタンカフェ『あ、あの、そういうことに興味を持っている子がいてもおかしくないのはわかっているつもりでしたけど、学生寮のゴミ捨て場から()()()()が見つかるのは変ですよね?』ハラハラ・・・

 

 

 

今朝方、マンハッタンカフェが信じられないものを見たという困惑した表情が頭から離れない――――――。

 

元の世界から一緒に来たウマ娘は他にもアグネスタキオンがいるが、しっかりと門限までには帰って学生寮で寝泊まりする まともな感性のウマ娘が協力者にいることの幸運に感謝しつつ、私は何も考えたくない頭で府中市をまた練り歩くしかなかった。

 

所詮はヒトもウマ娘も生き物なのだ。生き物である以上は種の保存本能に従って生殖行為に励むのが自然な生き物の営みであり、そのための第二次性徴期と恋愛感情と性的絶頂いう繁殖促進システムなのだ。

 

だから、風紀を乱すものであったとしても自由恋愛を法律で処罰することができないものであることはしかたがないとして、ウマ娘が性に奔放になるのも遺伝子で決められた性だとして黙認するしかなかった。

 

そう、元の世界でシンボリルドルフがトレセン学園で唯一得られた自分だけのものが“男女の愛”しかなかったことを知っているだけに、私は綱紀粛正のために自由恋愛を取り締まることに積極的に賛同することはできなくなっていた。

 

けれども、よくよくトレーナー寮の状態を思い返してみると、久しぶりのトレーナー寮は卒業シーズンを迎えていたにしても『空き部屋が異様に多かった』という問題の本質が包み隠さず顕になっていた。

 

 

――――――そう、今まさにこの世界のトレセン学園は大事な働き手であるトレーナーたちを種の保存本能のために奪いに来る“鬼”の略奪を受けて滅亡の危機に瀕していたのだ!

 

 

歴史は繰り返されると言うが、トレセン学園の次の世代を担う若手トレーナーたちが次々と鬼の許に嫁入りしている状況に為す術がない状況になっていることに気づいていないのだろうか。

 

本当に滑稽極まる話だ。ここまでウマ娘ファーストを優先した結果が組織の成長性や持続性を損なって新しい世代への新陳代謝までも犠牲にしているのだから、組織全体が性に溺れて腹上死する日はそう遠くないはずだ。壊死するのだ。

 

そして、“黄金の羅針盤(クリノメーター)”の針は延々と回り続け、進むべき道を指し示さなくなっていた。

 

だが、これは決して行き止まりに達したわけではない。時が満ちることで再び進むべき方角を指し示すことはこれまで幾度となくあったことなのだから。

 

だから、私はしばし歩みを止めて別世界のシンボリルドルフを救うために情報整理を行うことにして、授業に出ているマンハッタンカフェが戻ってくるのをトレーナー室で待つことにした。

 

すると――――――。

 

 

コン、コン、コン・・・、ガチャリ・・・

 

シルバークイーンタイム「………………」

 

斎藤T「ん?」

 

斎藤T「あなたはシルバークイーンタイム……」

 

斎藤T「ここは三ケ木Tのトレーナー室ではないのは重々承知ということですか?」

 

シルバークイーンタイム「お願いします、斎藤T……」バサッ

 

 

――――――私を抱いてください。

 

 

斎藤T「……三ケ木Tへの当てつけならご遠慮願いたいのだが?」

 

シルバークイーンタイム「トレーナーならウマ娘ファーストでしょう? ただのヒトがウマ娘からのお願いを無下にするだなんてできっこないから……!」ブルブル・・・

 

斎藤T「で? 好きでもない相手に自分から処女を捧げて、自分から腰を振って、自分から汚れて何が得られると言うんだい?」

 

シルバークイーンタイム「う、うるさい! みんなの憧れのスターウマ娘が勢揃いの生徒会役員とコネのあるあなたが私のものになれば、私だって――――――!」ブルブル・・・

 

斎藤T「まあまあ、私も生徒会役員のまさかの人が昼間から情事に耽っていたことにショックを受けていたことだし、互いに少し落ち着こうか」

 

シルバークイーンタイム「え!? だ、誰!? まさか、ブライアン――――――!?」

 

斎藤T「……まあ、スターウマ娘と言っても所詮は年頃の娘なんだし、性に興味があるのは健全な動植物なら当然のことじゃないか」

 

斎藤T「まさか、スターウマ娘として実績を残したのにその血統を残さないだなんて、人類の損失になるわけだし」

 

斎藤T「あなたも、あなたが無理でも子孫の誰かがそれを果たすかもしれないのだし」

 

シルバークイーンタイム「そ、それはたしかにそうだけど……!」

 

斎藤T「この部屋には大量の非常食や宇宙食に地元の銘品を取り揃えているから、じっくりと話を聞こうじゃないか」スッ

 

斎藤T「紅茶とコーヒーのどちらがいいかな? それとも、マテ茶やスポーツドリンクの方がいいか?」

 

斎藤T「あと、服は着な」スタスタ・・・

 

シルバークイーンタイム「…………紅茶でお願いします」

 

斎藤T「わかった」コポポポ・・・ ――――――流れる手付きで自白剤を混入!

 

斎藤T「はい、どうぞ。セイロン・キャンディ。気に入らなかったらルフナでもヌワラエリヤでも用意するから」コトッ

 

シルバークイーンタイム「い、いただきます……」ゴクッ

 

斎藤T「それじゃあ、いろいろと聞かせてもらおうか」ニヤリ

 

 

――――――知っていることの全てを。

 

 

マンハッタンカフェ「――――――それはいろいろと災難でしたね」

 

アグネスタキオン「……本当に大丈夫だったのかい、トレーナーくん?」

 

斎藤T「正直に言って、自衛のために殺傷するわけにはいかないから、毎回毎回が綱渡りの連続ですよ」

 

斎藤T「で、肝腎のシンボリルドルフの動向が掴めなかったですが、これが今のところの調査状況です」

 

和田T「うへぇ、トレーナー寮がこんなことになっていただなんて、昨夜は気づかなかったぞ!?」

 

マンハッタンカフェ「え、どんな感じですか!? 学生寮みたいに何かとんでもないことに――――――?」

 

アグネスタキオン「おい、トレーナーくん! 所々にモザイクやフィルタリングがかかっているのはどういうことだい!? これじゃ肝腎なところがわからないじゃないか!」

 

斎藤T「R18指定だから満18歳未満のお子様には見せることができませんし、別世界の話とは言え、プライバシー保護は必要ですから」

 

マンハッタンカフェ「……そういうことでしたか。わかりました。おつかれさまです」

 

アグネスタキオン「……そうかい」

 

アグネスタキオン「で、これからどうするんだい? レオダーリングの妊娠の件と言い、シルバークイーンタイムに誘惑された件と言い、ホントふざけた世界だよ!」イラッ

 

アグネスタキオン「そもそも、()()()()()()()()()()()()()はまだ見つからないのかい!?」

 

斎藤T「ああ。すぐにでも接触したいのは山々だが、手がかりがない以上はどうしようもないけど、いつまでもこんな爛れた世界にいたら気が狂いそうだ……」

 

和田T「うぅ……、俺に粉をかけてくる子がいないのは、俺がメジロ家の令嬢:メジロマックイーンの担当トレーナーだからなんだろうなぁ……」

 

和田T「そういう意味では俺はこの世界でもマックイーンにたくさん助けられているんだろうなぁ……」

 

斎藤T「ともかく、向こうで鐘撞Tがレオダーリングから引き出した追加情報と私がシルバークイーンタイムから聞き出した情報を整理すると、トレセン学園での性の乱れは歯止めが利かない状況なのは疑いようがないです」

 

斎藤T「いつからそうなったのかはトレーナー寮の改装工事やゴミ収集ロボットの導入からが本格化した時期と見て間違いないでしょう」

 

和田T「昼間っからトレーナー寮で いい大人が未成年相手にそんなことをするようになっているのが後押しされている世界だなんてさぁ……」

 

和田T「でも、あり得なくないんだよな。本当に可能性の世界ってやつはこれだから……」

 

斎藤T「マンハッタンカフェ、トレーナー寮では黒いゴミ袋に詰めて自室の前に置いておくことでゴミ収集ロボットが自動で回収してコンテナに投棄し、異臭を洗い流すために施設内にガスが充満する仕掛けになっていましたが、学生寮ではそんなような仕組みはありませんでしたか?」

 

マンハッタンカフェ「……どうなんでしょうか? ゴミ捨て場に行った時に違和感を覚えたのは斎藤Tに渡したアレぐらいなもので、卒業生たちが引っ越しする際に出たゴミがたくさん捨てられていたことにしか目が行きませんでした」

 

マンハッタンカフェ「……でも、これからどうすればいいんでしょうか、私は?」

 

マンハッタンカフェ「……生徒以外立ち入り禁止の学生寮に部外者が侵入して性行為が頻繁に行われているのだと知ったら、もう安心して寮で寝泊まりできないです」

 

和田T「ああ、不審者が近辺で彷徨いているわけだし、それはもっともな話だ」

 

 

アグネスタキオン「なら、カフェも真の意味で私たちの仲間入りを果たせばいいんじゃないかい?」

 

 

マンハッタンカフェ「え?」

 

アグネスタキオン「つまり、絶対に誰にも見つかることのない私たちだけの秘密基地で寝泊まりさせることもできるという話だよ」

 

和田T「そ、そんなものが――――――!?」

 

アグネスタキオン「ああ、鐘撞Tも普段はそこで寝泊まりしているし、岡田Tなんかはそこに常駐して私のトレーニングやローテーションを管理してくれているよ」

 

アグネスタキオン「私もね、休日はその秘密基地の快適な環境で研究やトレーニングに没頭できているけど、私一人だけだとトレーニング環境を持て余すことだし、そろそろカフェにも入場許可を出そうかと思っていてね」

 

アグネスタキオン「まあ、それだけに守秘義務を課せられるわけで、絶対に秘密基地の存在を明かさないという信用がね――――――」

 

 

和田T「お願いします、斎藤T! 俺も秘密基地に連れて行ってください! 神に誓って絶対に秘密を漏らしませんから!」ババッ!

 

 

マンハッタンカフェ「……和田T!」

 

和田T「というかね! 元の世界に戻っても、俺は トレセン学園にいる間 ライスシャワーに化けたオバケに襲われるようになっていたから、どこの世界でも絶対に安心できる場所がないんだよぉ!」

 

和田T「何だかんだで言って、別世界のことでいろいろと衝撃を受けることはあっても、命までは狙われていたわけじゃないから、別世界にいる間はオバケに襲われる気配がないことにずっと安心していてさ……」

 

 

和田T「だから、元の世界に帰るついでに俺のことも助けてください! 俺だけじゃなくマックイーンをはじめとする、たくさんの人たちのためにも!」

 

 

アグネスタキオン「――――――というわけだけど、トレーナーくん?」ニヤリ

 

斎藤T「わかりました。さすがに私もトレーナー室に乗り込んできて『抱いてッ!』と一生徒が迫ってくるような状況にもなると身の危険しか感じないので、一緒に避難しましょう」

 

アグネスタキオン「そういうわけで、カフェも来るかい? 今なら空き部屋がいっぱいで豪華な別荘として週末を快適に過ごせるようになるぞ~?」クククッ

 

マンハッタンカフェ「…………タキオンさん、秘密基地で研究を続けているんですよね?」

 

アグネスタキオン「ああ。久々にどうだい、カフェ。楽しい楽しい実験の時間が待っているぞ」

 

マンハッタンカフェ「遠慮しておきます」

 

マンハッタンカフェ「でも、今は背に腹は代えられないので、斎藤T。私もその秘密基地でお世話になっていいでしょうか」

 

斎藤T「どうぞ。あそこは間違いなく三次元世界からの干渉を遮断しているので極めて安全な場所ですから」

 

和田T「よし! じゃあ、あとは飯守Tも避難させよう!」

 

斎藤T「そうですね――――――」プルプルプル・・・

 

和田T「おっと、電話だ」

 

斎藤T「おや、これは珍しいな。ちょっと失礼」

 

ピッ

 

斎藤T「――――――どうしました、ライスシャワー?」

 

――――――

ライスシャワー「あ、斎藤T! あのね、ミークさんが昨日からずっとボーッとしていて大変なの!」

――――――

 

斎藤T「え?」

 

斎藤T「それって『URAファイナルズ』決勝トーナメントに向けて集中力を極限まで高めているとかじゃなくて?」

 

――――――

ライスシャワー「最初はそうだと思っていたんだけど、ブルボンさんも調子が悪いみたいだし、ライスも胸の中がモヤモヤしていて どうしたらいいのか……」

 

ライスシャワー「それで、その、斎藤Tに思わず電話を掛けちゃいました……」

 

ライスシャワー「ごめんなさい!」

――――――

 

斎藤T「あ、いや、困っていると聞けば、力になってあげるから、まずは落ち着いて」

 

斎藤T「私に相談が回ってきたということは、みんなの担当トレーナーは今どうしているの?」

 

――――――

ライスシャワー「あ、それが――――――」

――――――

 

斎藤T「え」

 

 

 

――――――府中市内

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

ハッピーミーク「………………」

 

斎藤T「……大丈夫ですか? 今の調子で週末の『URAファイナルズ』決勝トーナメントを走れますか?」

 

ハッピーミーク「…………わからない」

 

斎藤T「それがどうしてなのかがまだわからないわけですか?」

 

ハッピーミーク「…………うん。こんなことは初めて」

 

斎藤T「ハッピーミーク、きみは本当に賢い子だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことにいろんなことを考えちゃっているんですよね?」

 

斎藤T「いろんな可能性が浮かび上がってしまうから、逆に考えがまとまらない状態になっているはずです」

 

斎藤T「――――――ちがいますか?」

 

ハッピーミーク「…………うん。斎藤Tの言う通り」

 

ハッピーミーク「…………斎藤Tなら、私のトレーナーがどこに行ったかわかりますか?」

 

斎藤T「――――――いや、ちがうか」

 

ハッピーミーク「え」

 

 

斎藤T「絶対に認めたくない可能性に思い至ってしまったからこそ、その結論を出さないようにしているというのが本当のところなんでしょう、ハッピーミーク?」

 

 

斎藤T「たぶん、ハッピーミークは桐生院先輩が昨日から『URAファイナルズ』優勝に向けたトレーニングに励んでいる中、ソワソワしていたことやトレーニングが終わったことでいつになく弾んでいる様子が気になっていたはずです」

 

斎藤T「そして、今日も同じ様子で、それが気になって先輩の部屋まで行ってみたら、先輩がランジェリー姿になっていたのを覗き見することになったのが頭から離れなくなっていましたよね?」

 

ハッピーミーク「…………あれ? そこまで話した?」

 

斎藤T「言いづらいことをいっぱい話してくれたじゃありませんか」フゥ

 

ハッピーミーク「…………そうかな? 斎藤Tになら、そうかも」

 

ハッピーミーク「………………」

 

 

斎藤T「ハッピーミークとしては、自分のトレーナーが大事な一戦を控えた時期に男に会いに行っていることをどう思っているのですか?」

 

 

ハッピーミーク「………………」

 

ハッピーミーク「………………」

 

ハッピーミーク「…………わからない」

 

斎藤T「………………」

 

ハッピーミーク「…………わからない」

 

ハッピーミーク「…………わからない」

 

ハッピーミーク「…………だって、私のトレーナーはダメなんかじゃない」

 

ハッピーミーク「…………トレーナーだって大人だから、ダメじゃない」

 

ハッピーミーク「…………私のためにずっと一生懸命だったトレーナー」

 

ハッピーミーク「…………だから、トレーナーにも素敵な出会いがあるのは、嬉しいこと」

 

ハッピーミーク「…………でも、レースで勝てなかった時と同じような悔しさみたいなのがある」

 

ハッピーミーク「…………おかしいですよね。嬉しいことのはずなのに悔しい気持ちもある」

 

斎藤T「……いえ、それがあなたの素直な気持ちですよ。よく言葉にしてくれました」

 

ハッピーミーク「…………そうなんだ。これが私の素直な気持ち」

 

斎藤T「……今日はもう帰りなさい。タクシー代はこれで。門限までに間に合うでしょう」

 

斎藤T「それじゃあ。これでも、あなたのサブトレーナーだったのですから、また頼ってくれていいですからね」

 

ハッピーミーク「…………うん、ありがとう、斎藤T」

 

ハッピーミーク「…………ごちそうさまでした。またよろしくお願いします」

 

 

バタン! ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

 

 

斎藤T「…………先輩」

 

斎藤T「まったく、あなたという人は相変わらず何をしているのやら」ハァ

 

斎藤T「いや、理性の箍が外れた世界におけるトレーナーの『名門』がいったいどんな対応をしているのか、その辺りも聞き出しておかないと」

 

斎藤T「ああ、これも“黄金の羅針盤(クリノメーター)”の導きだというのなら、今はそれに従うしかないのだろうけれど、」

 

斎藤T「――――――『嫌な予感しかしない』の繰り返しだな、今日はずっと!」

 

 

卒業式を終えて『URAファイナルズ』決勝トーナメントまで残りわずかな時に、ミホノブルボン、ライスシャワー、ハッピーミークの仲良し3人組が揃って不調を訴え、サブトレーナーだった私がハッピーミークの様子を見るために街中に連れ出してみたわけで、

 

『URAファイナルズ』決勝トーナメントに向けての景気付けとしてハッピーミークのごちそうの席で、何があったのかを奥の席でしっかりと聴き込むことに成功し、

 

ハッピーミーク本人がそうであるように私もハッピーミークの不調の原因がまたしても桐生院先輩にあることを爛れた世界であることを踏まえて認識することになった。

 

この理性の箍が外れた世界では、たとえ女性トレーナーであっても私の目の前で掛かったウマ娘に容赦なく(おか)されることになるのだから、

 

基本的にトレーナーという職種そのものがウマ娘の愛玩動物になるしかなくなる危険性と隣り合わせとなっており、それに対する危機感に相応の処世術がトレーナーの間で伝授されていると予想される中、

 

逆に 担当トレーナーと愛し合う関係になるのが自然なことだと信じて疑わないウマ娘にとって もっとも屈辱に感じることはライバルになる他のウマ娘に相手を寝取られることよりも、同じトレセン学園の競争相手ではない無関係に思えた相手と結ばれることなのだろうと感じていた。

 

とてもおおらかなハッピーミークでさえも思考停止に陥ってしまうぐらいなのだ。この世界の爛れた実情について多少なりとも知り得ているだろうことを差し引いても、対抗意識や嫉妬心が正常な思考を阻害することになっているのだからウマ娘にとってはよほどのことなのだろう。

 

ウマ娘たちもいくら種の保存本能に従おうとも誰にでも股を開くわけでもなく、自分が気に入った相手だからこそ強く求めてしまうのだと考えると、そう思える相手の存在は本当にウマ娘の中で大きな存在になっているものなのだ。

 

だから、既婚者や妻帯者に子持ちの年配のトレーナーよりも未婚の若手のトレーナーの方が好まれるのも自然なことであり、トレセン学園のウマ娘たちの恋愛観においては担当トレーナーと担当ウマ娘のラブロマンスこそが至高であり、トレーナー同士の職場恋愛は邪道なものでしかなかった。

 

だが、そんな職場だからこそ、ヒトは己の存在価値を賭してウマ娘に対して力ではなく狡猾さで恋のダービーレースを出し抜こうとするのだ。

 

 

そして、あれだけ手を尽くしてハッピーミークが不幸な目に遭わないようにしたというのに、私はハッピーミークが考えるのをやめる瞬間を目撃することになってしまうのだった――――――。

 

 

斎藤T「可能性の世界というのを考えるのはいろいろな空想が広がって本当に楽しいけれど、実際に見るとなると残酷なものだな」

 

斎藤T「それでいて腹立たしいことに、決してあり得なくないものがこうして現実のものになっていることを元の世界の現実と照らし合わせて祝福するべきなのか、否定すべきなのか――――――」

 

斎藤T「そう、結局は取捨選択の積み重ねで今が成り立っているのなら、全てがもしもの通りになった世界であろうとも、人はそこに不完全を見出して、次のもしもの世界を夢見ていくことだろう」

 

斎藤T「だから、これが運命か――――――」

 

 

 

ハッピーミーク「…………トレーナー」

 

 

 

桐生院T「トレーナーぁ……」

 

才羽T?「――――――」

 

 

 

ハッピーミーク「………………」

 

斎藤T「ハッピーミーク」

 

ハッピーミーク「………………」

 

斎藤T「ハッピーミーク!」

 

ハッピーミーク「………………」

 

斎藤T「もう門限は過ぎたし、今度は私もタクシーに乗るから」

 

ハッピーミーク「………………」

 

 

――――――もはや、掛ける言葉はなかった。帰らせる義務はあったが。

 

 

元の世界で最初の担当ウマ娘:ハッピーミークとの最初の3年間の総決算として『URAファイナルズ』優勝を目指し、サブトレーナーである私にお暇を出して、純粋な名門トレーナーと隠れた天才ウマ娘の二人三脚が大きな追い上げを見せようとしていたのと打って変わって、

 

同じオンナとしてウマ娘に負けない矜持と算段と大人気なさで恋のダービーにも全力で挑むのが実に不器用で真面目一筋の先輩らしいところであり、相手が元の世界で振られることになった憧れの人だったのも、黒いゴミ袋に捨てられた()()()()()()()()()()()()()を思い出させることになった。

 

しかし、タクシーでそのままトレセン学園に帰ったと思っていたハッピーミークがまさか自分のトレーナーの姿を追って、こんな夜遅くまで尾行していたとは、よくできた話じゃないか。

 

そうして目にしたものは『URAファイナルズ』で最強のライバルとなる“無敗の三冠バ”ミホノブルボンの驚異の天才トレーナー:才羽Tの指導を受ける深夜のウマ娘のコスチュームプレイ――――――。

 

府中市の夜の闇で、トレセン学園指定のブルマにしっぽをとりつけてウマ娘の耳までつけて桐生院先輩は担当ウマ娘に知られちゃいけない秘密のトレーニングに興じていたのだった。

 

先輩の特技がパルクールであることを考えると身のこなしに関しては“斎藤 展望”よりも上であるため、ウマ娘用のトレーニングメニューを自分で実践してみせることができるだけの身体能力を有していることもあり、

 

短距離ウマ娘(スプリンター)だったミホノブルボンを距離適性の壁を乗り越えて長距離ウマ娘(ステイヤー)へと成長させた驚異の天才:才羽Tの殺人的な指導に全力で応えて汗だくになることで、トレーニング終わりに掛けられたタオルケットで汗を拭ってもらいながら 艶のある声が弾むボディタッチでクールダウンすることなく ますます熱を帯びて夜のトレーニングは激しさを増していくのだ。

 

名門トレーナーとなるべく普通の女の子の青春を送れなかったことを思い返しながらトレセン学園生徒に扮する桐生院先輩のことを私はスコープ越しに遠巻きに監視していたわけであったが、

 

相手も0.1秒単位で目測できる全国大会出場経験ありの帰国子女のサッカー少年だった天才トレーナーであり、ヒトとして非常に高いレベルでの身体能力を発揮する桐生院先輩と組むと、

 

さながらペアスケーティングのように男女の息の合ったコンビネーションで流れるように非常に高度で立体的な愛撫がなされ、()()()()()()()()()()()()()はますます彩りをつけ、香りを強め、甘い蜜を垂らして乱れ咲いた。

 

それをハッピーミークは私よりも近い場所から両の眼で見ていたわけであり、さながら煽情的なバレエ芸術を延々と見続けることになった感動の衝撃は青少年の健全な育成には相応しくなかった。

 

そして、最高潮に達する前にその場にへたり込んだハッピーミークに気づかれないうちに、そっとハッピーミークを後ろから抱き抱えて、あらかじめ呼んでおいたタクシーでトレセン学園に連れ帰った。

 

ずっとハッピーミークの表情はいつもの無表情に見えていたが、ごくわずかに両目が見開れていたように思え、いったいどれほどの思考が脳内を駆け巡ったのかは想像に絶する。

 

特に、レースシューズからフランスパンを連想したり、水族館で先輩に似ているヒトデを見つけたりしているのがハッピーミークという隠れた天才ウマ娘の凄みだ。

 

逆にその類稀なる思考力がトレセン学園の生徒に扮して夜のトレーニングに興じる自分のトレーナーを見て何を感じて、何を想像して、何を考えてしまったのかを推測することなど私にはできそうもない。

 

しかし、私があまりに簡単に少女を抱えた時に小刻みに震えていたのだ、間違いなく。

 

その震えが自覚のあるものなのか、何の感情に因るものなのかも私にはわからないが、少なくとも強い感情を覚えていたのは間違いない。

 

 

――――――こうして歴史は繰り返され、これが戦いに取り憑かれた人と鬼が熾烈な競走をトレセン学園で繰り広げる恋はダービーな世界である。

 

 

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