ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第二次決戦Ⅶ ドリームランドの支配者 -皇帝G1七番勝負-

 

 

――――――目標:3月12日の卒業式から3月19日の修業式までの1週間の時間の牢獄を突破せよ!

 

 

第1の別世界:アグネスオタカルの世界、第2の別世界:トウショウサザンクロスの世界、第3の別世界:ダークトレーナーの世界への異世界探訪は世にも不思議な時間を巻き戻す“目覚まし時計”によって一度は全てがなかったことになる。

 

しかし、“特異点”である私と一緒に異世界を見て回ることになった面々の記憶や体験はそのまま元の世界に身につけていたPDAの電子データと共に引き継がれることになった。

 

なので、私たちだけはこの世界の他にいくつもの別世界が存在し、そこにはいろんな可能性が実在していたことを鮮明な体験と共に記録に残すことができたのだ。

 

これが元の世界:シンボリルドルフの世界で 将来 必要になるものだと前向きに信じるなら、私たちが受けた肉体的・精神的苦痛など未来を救うための些細な犠牲でしかない。

 

 

そう、この私が元の世界で“斎藤 展望”として目指すのはWUMA襲来の破滅の未来を回避するためのタイムパラドックスであり、少し先の未来のことさえ知ることができない人間が挑む不可能への挑戦なのだ。

 

 

そして、WUMA殲滅作戦の時のように誘い込んでC4爆弾で効率良く敵を一掃するような力押しで解決できるような問題じゃないからこそ、白黒つけることができないことも受け容れるしかない。

 

そもそも、『魔王を倒せば世界は救われる』のはそう語り継がれるエンディングが用意されているゲームの世界だけで、

 

人生とは どれだけ善行を重ねていようが 親兄弟家族友人知人親類縁者との死別が必ずあるわけで、哀しみは世界からなくなることはないのだ。

 

だからこそ、哀しみに呑まれた結果、進むべき道を踏み誤らないように豊かな心を育てていくことが大切なことであると私は理解している。

 

また、裏世界で生霊や悪霊になって妖怪に成り果てるのも、それも自然な感情であると共に懸命に生きてきたからなのを考えると、そこまで怒る気にはなれなかった。それが生物の性なのだから。

 

 

だが、魔界に属する半人半霊(エンティティ)である魔界の住人(ダークストーカー)の存在だけは許すわけにはいかなかった。

 

 

半人半霊(エンティティ)とは裏世界の生物である生霊や死霊とはまったく別の存在で、別世界に意識を傾けて異なる肉体(アバター)を得ている存在のことであり、

 

半人半霊(エンティティ)と書くように、元の世界に元の肉体(オリジン)があって別世界に異なる肉体(アバター)で活動していることが定義であるため、肉体から完全に離れてしまった霊体とはちがうのが特徴である。

 

半人半霊(エンティティ)として生者と非生者の性質をどちらも併せ持つため、生者の世界:現実世界と非生者の世界:裏世界のどちらにも出没することが可能。

 

しかし、得てして半人半霊(エンティティ)になる人間というのは現実世界がうまくいっていないからこそ別世界で成功する自分を夢見ているのが大半で、ろくでもない妄想に取り憑かれているからこそ、一念三千でついには別世界の何者かに憑依して妄念妄想のままに生きようとするのだ。

 

別に、それで善行に励むのなら、そこまで悪く言われることはないのだ。手段そのものが悪ではない。その動機や目的でもたらす結果から悪が生まれるのだから。

 

現代風にわかりやすく言うと、フルダイブ型VRMMORPGで多くの実績によって称賛と声望を一身に集める裏で現実世界ではアルバイト生活と行ったり来たりで寝たきりになっている生身のプレイヤーを想像してもらえるとわかりやすいはずだ。

 

そして、ゲームの世界では現実世界に縛られないロールプレイングが許容されているとは言え、モラル違反を問われる悪質なプレイヤーが絶えないことが魔界に属する半人半霊(エンティティ)である魔界の住人(ダークストーカー)を容認できないことのたとえに適しているのではないだろうか。

 

23世紀の星の海を渡る宇宙移民船では極めて限られた居住空間で娯楽や教養を求める目的もあってVR世界での市民生活を複数持って同時並行で文化活動や研究活動に勤しむ多層現実が当たり前となっており、

 

現実世界で宇宙移民船のクルーとしての自分以外にVR世界で獲得している全く異なるパーソナリティの自分がいるので、その宇宙移民である私はよく理解できることなのだが、

 

“ネット弁慶”と言われるように 匿名性の高い状態を確保している時は居丈高な調子を見せるが 実生活ではおとなしい小心者ものほど半人半霊(エンティティ)になりやすいのだ。

 

人間とは 遺伝的多様性を求めて 生理的にいい匂いがする相手に惹かれるものだと考えれば、現実世界の自分にはないものを『隣の芝生は青く見える』として羨ましがって現実世界の他人に自分の足りないものを求めるのと同じように、

 

同一人物になっても他の世界で異なる人生を辿ってきた同一存在にはならない他人:仮想世界の自分に足りないものを求める心理に通じるのも理解できなくはないはずだ。

 

つまり、太古からある現実逃避の手法なのだ。現実世界に生まれてきた使命を果たさずに別世界の何者かに成り代わって第2の人生を謳歌しようとしていることが大きな罪なのだ。

 

大抵は自分の劣等感を他者に倍返しにする妄想や自身を不当に扱ってきた連中への仕返しを妄想している人間が同一人物になっても同一存在にはならない他人:別世界の自分に成り代わってやることなので、“ネット弁慶”に近いイキリが横行するのだ。

 

その点では現実世界に執着しているからこそ裏世界にその思念がこびりついた悪霊たちの方が罪は小さいが、それだけに別世界にやってきて妄念妄想を果たそうとする半人半霊(エンティティ)の方が意志力が強いので裏世界の悪霊たちが体よく利用される傾向にある。

 

 

ここまで見ればわかるだろうが、結局は意志の力なのだ。

 

 

意志の力が強いものが時間や空間を遥かに超えた別世界で裏世界の悪霊さえも利用して己の妄想を遂げてしまうのだ。

 

金持ちが基本的にケチで意地汚い人間が多いのは、常日頃から金に対する執着心があり、金を得るためにどうするかの算段にかけた時間と想念の絶対量が絶対的な金運を呼び寄せているものだ。

 

金持ちが『金持ちでありたい』と思うのも立派な夢の形であり、夢は信じていれば必ず叶うのだから、煩悩まみれだとしても その強欲さに対して それ相応に人一倍の努力をしてきていることには変わらないのだから、貧者は自分が貧しいことを嘆くよりも金持ちの思考に染まる努力をするべきなのだ。

 

もちろん、そうしたハングリー精神の深淵にある身に迫った必要性というのが世界を変える意志の力の根源になるわけなのだが、

 

善行が伴わないのなら、肉体は現実世界にあって精神は魔界に堕ちている魔界の住人(ダークストーカー)に成り下がっているので、肉体を失った後は容赦なく霊魂が魔界に叩き落されるわけなのだが。

 

生きている時は肉体があるからこそ 現実世界にある様々な善きもの悪しきものに触れて 高みを目指すこともできるが、肉体を失った後はよほどの改心がない限りは 次に肉体を得るまでずっと心の高貴さに相応の場所に縛り付けられることを忘れてはならない。

 

だから、イエス・キリストは『悔い改めよ』と言い、お釈迦様は『悟りを開きなさい』と言うのだ。日本でも『お天道様が見ている』と言い聞かせるわけなのだ。

 

全ては生前の行いによって死後の世界での安寧を得るためであり、天国への永住資格を得るための長期に渡る実績作りのために口と行いと誠の三密加持である。

 

天国の住人に相応しい人間がいかなる時であろうと別世界だからといって羽目を外して悪逆無道に生きるはずがないし、別世界だから罪に問われないという治外法権は死後の世界では一切通用しないのだ。

 

誰もが肉体を失った霊体となって閻魔大王の前に立たされ、そこでの裁きに出される証拠となるものは他ならぬその人自身の魂に刻まれた記憶なのだから。

 

 

――――――だから、勝負の世界に全てを捧げて惨めに朽ち果てていく者が後を絶たないトレセン学園に対して私は憐憫の情が絶えないのだ。

 

 


 

 

●ダークトレーナーの世界:3月14日/学園裏世界/エクリプス・フロント

 

 

斎藤T「ほら、出てこい! 人の心の中に巣食う魔界の住人(ダークストーカー)が!」ガシッ

 

才羽T?「うおおおおおおおおおお!?」ドサッ

 

飯守T「え、えええ?! モニターから人を引き摺り出したあああああああ!?」

 

和田T「な、何がどうなって――――――!?」

 

岡田T「ハッ」

 

岡田T「まさか、これは()じゃない――――――!?」

 

斎藤T「そのとおり。悪霊の集合体である妖怪とはまったく別の存在;魔界に属する半人半霊(エンティティ)だ」

 

飯守T「――――――『半人半霊(エンティティ)』?」

 

斎藤T「簡単に言えば、心霊主義(スピリチュアリズム)交信者(チャネラー)で、高次の霊的存在:神・宇宙人・死者などの非現実世界の存在との交信を図った者の成れの果てだ」

 

和田T「よくわからないぞ、斎藤T!」

 

斎藤T「半人半霊(エンティティ)の中でも魔界の住人(ダークストーカー)は欲心から霊的なことに興味を持って魔界に飲み込まれた人間のことを指す」

 

岡田T「……つまり、こいつの存在がこの世界にとてつもない悪影響を出していると?」

 

斎藤T「今、完全に理解した! どうして卒業式の朝から時の牢獄が発動して別世界を見て回ることになったのか!」

 

 

斎藤T「こいつの正体! 元の世界で才羽Tに憧れて別世界で才羽Tの皮を被って好き放題やっていた三流トレーナーだよ!」

 

 

才羽T?「なっ!?」ビクッ

 

斎藤T「そうだろう! シンボリルドルフに続く“無敗の三冠バ”ミホノブルボンの担当トレーナー:才羽Tのようになりたくて、自分が才羽Tになっている世界で、()()()()()()()()()()()()()()()という欲望を現実のものにしてきたわけなんだよな!?」

 

飯守T「そうか、道理でな! いくら別世界でも才羽Tなら絶対にやらないことをしていると直感的に思っていたよ、この偽物野郎!」

 

岡田T「そういうことなら、何となくだが、俺でも理解できてきたな~!」

 

和田T「こいつ、ふざけるな! 天才トレーナーの姿になってやっていることが女遊びか! 桐生院Tだけじゃなく、他にも手を出しておいて――――――!」

 

斎藤T「なるほど、そういう世界だったのか、ここは」

 

 

――――――ダークストーカーならぬダークトレーナーの世界だったんだ。

 

 

才羽T?「フフフフフ! ハハハハハ! フハハハハハハハ!」

 

和田T「な、何だ!?」ビクッ

 

斎藤T「………………」

 

才羽T?「さすがは“特異点”といったところだな、“斎藤 展望”」クククッ

 

岡田T「こいつ、さっきまでと雰囲気が――――――!?」

 

飯守T「でも、明らかに人間のものとは思えない顔つきだ!? なんて邪悪な!?」

 

才羽T?「おっと、すまない。先程まで()()()()()だったものでね、身形を整えさせてもらうよ」ニヤニヤ

 

和田T「い、一瞬で服を着て――――――!?」

 

飯守T「お、お前はいったい誰だ!? 才羽Tでも、三流トレーナーでもないな!?」

 

 

才羽T?「どんな姿でも呼び名でもかまわないぞ。私はお前たち()()()()()()なのだからな」

 

 

岡田T「――――――『人間そのもの』だと?」

 

才羽T?「まあ、私に聞くよりも“特異点”に聞いた方が早いのではないかな?」クククッ

 

飯守T「………………!」

 

 

斎藤T「あえて言うなら、こいつは人類が共有する普遍的無意識のネガティブな領域を司る存在にして、その領域そのものの擬人化である“影の支配者(real mastermind)”だ」

 

 

岡田T「――――――『影の支配者』!?」

 

和田T「――――――『リアル・マスターマインド』!?」

 

飯守T「――――――『本当の黒幕』?」

 

才羽T?「そうだ。人間社会での出来事の全てが神などという不確かな存在によるものではないとしたら、全ての嘆きも哀しみも不幸も全てはお前たち()()()()()()が招いた破滅:自業自得というわけだ」クククッ

 

飯守T「だったら、こいつを倒せば――――――!」

 

和田T「そうだ! こいつが裏でいろんな悲劇を引き起こしていた妖怪だか半人半霊(エンティティ)だか何だか知らないが――――――!」

 

才羽T?「待ちたまえよ。私はお前たち()()()()()()。光があるからこそ影が生まれる――――――」

 

才羽T?「私を否定するということはお前たち自身を否定することになるぞ?」ニヤニヤ

 

岡田T「な、なに!?」

 

 

才羽T?「わかるぞ、わかるぞ。お前たちの心の奥底にある欲望が」

 

 

才羽T?「和田T。お前はここまでの異世界探訪で数々の別世界を見てきた結果、自分の人生は全てメジロマックイーンによって救われたものであるからこそ、それ以外の女に靡かないように一心同体となって愛を刻みつけるイメージトレーニングを膨らませているな?」

 

和田T「!!?!」

 

才羽T?「なるほど。へそか。へそはいいぞ~」

 

和田T「や、やめろおおおおおおお!?」ブン!

 

才羽T?「恥ずかしがることはない。私はお前たち()()()()()()。全ての人間の欲望を司る存在。お前たちのことは手にとるようにわかる」クククッ

 

和田T「あ、あらぁ……!?」ズコー!

 

岡田T「――――――すり抜けた!? 実体がない!?」

 

才羽T?「へそフェチはナーベルビューティーとして“おなかまわりが健康的で美しい人”を審査するコンテストが開かれているぐらいには市民権を得ているものだ」

 

才羽T?「そこをお前はねちっこく攻め立てたいと思っているわけだ。お前もここに晒されているヘンタイたちと同類だな」

 

和田T「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」ガクッ

 

飯守T「和田T!?」

 

才羽T?「次に岡田T」

 

岡田T「!!!!」ビクッ

 

岡田T「……お、俺は何もないぞ! そもそも、不純な思いなんて抱いていないからな!」

 

才羽T?「無駄だ。隠そうと思えば思うほどその部分は影に染まり、欲望の影に沈む」

 

才羽T?「ほう、お前の場合は脚か。テイオーの美脚に劣情を催しているな」

 

岡田T「う、嘘だ!? デタラメだ!? お、俺は俺のせいで何度も故障することになったテイオーの脚を純粋に気遣っているだけで――――――!」

 

才羽T?「きっかけはどうであれ、シンボリルドルフの絶対領域とは趣きが異なる勝負服の生脚だからこそ、“俺だけのシンボリルドルフ”の証として“皇帝”とは異なる“帝王”の生脚を見る度に内心では胸が高鳴っていたな」

 

才羽T?「だから、シンボリルドルフが用意した赤い新勝負服はあまり好きじゃないから、お前は元の勝負服姿の写真を今でも眺め回している」

 

才羽T?「愛し合う時は半着衣プレイで思う存分に生脚を舐め回したいと思っているな。シンボリルドルフへの憧れや他のウマ娘へのエチケットから胸に意識を向けないように劣情をこじらせてきただけにとんだヘンタイだな」

 

岡田T「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」ガクッ

 

飯守T「岡田T! 岡田T! 岡田T!?」

 

飯守T「き、貴様あああああああ!」

 

才羽T?「これで私がお前たち()()()()()()であることがよく理解できただろう」

 

飯守T「何が目的だ!? いったい何のつもりでこんなことを!?」

 

才羽T?「私の目的はお前たち人間の存在価値の否定;己の手で未来を掴み取ることも理想を叶えることもできない未熟で蒙昧で愚鈍で狭量で傲慢な存在が自ら破滅していく様を見て愉しんでいるに過ぎない」

 

 

斎藤T「そう、だから、元の世界と同じく“皇帝”シンボリルドルフが君臨することで総生徒数2000名弱にまで成長したトレセン学園の黄金期の裏で、ウマ娘ファーストの結果としてトレーナー数の減少に歯止めが掛からない状況を誘引して、遠からずしてトレーナー不足でトレセン学園が成り立たなくなる未来へと誘導しようとしている!」

 

 

斎藤T「そこから連鎖的に国民的スポーツ・エンターテインメント『トゥインクル・シリーズ』に破滅がもたらされて混沌に陥ることさえも夢想してな!」

 

飯守T「――――――()()()()()()()()! そうか、そういうことか!」

 

才羽T?「将来的にトレセン学園がウマ娘からの求愛によってトレーナー不足で破滅していくことの何が悪い? それがお前たちが語り継いできたウマ娘ファースト、ウマ娘とトレーナーの理想の関係性というやつだろう?」

 

才羽T?「全てはお前たち人間が自分たちの意志でやってきたことの積み重ねだ。私に罪を着せるのは冤罪であろう」

 

才羽T?「成功すれば己の手柄とし、失敗すれば何かのせいにするとはまさに卑劣の極み。『困った時の神頼み』とはよく言うが、『困った時は悪魔のせい』というのもまさしく人間の愚かさの象徴だな」

 

飯守T「くっ」

 

 

斎藤T「だが、逆に言えば、お前が()()()()()()であるからこそ、お前をどうにかすることができればお前とつながっている全ての人間の心を動かして状況を一変させることもできるわけだ!」

 

 

飯守T「!!」

 

才羽T?「はたしてできるかな、“特異点”?」

 

斎藤T「やれるとも。そうでなくては“トレセン学園の敵”になる覚悟なんてしていない。私は常に世界を相手にしているのだから、今更なんだという話だ」

 

斎藤T「お前の本質も『興味があることの対義語である無関心ではない』からな。お前自身も私の力になってくれるさ。それを前提にしてこれからの戦略を立てているのだから」

 

才羽T?「普通は『好きの反対は無関心』というところではないかな?」クククッ

 

斎藤T「もうね、『好きだからやりたい』とか『嫌いだからやりたくない』とか、そんなことを言ってられる自由は私にはないの!」

 

 

――――――だから、才羽Tの皮を被った“影の支配者”を通じて全ての人たちの心に訴えかけているんでしょうが!

 

 

そして、第3の別世界:ダークストーカーの世界の象徴として、魔界に属する半人半霊(エンティティ)である魔界の住人(ダークストーカー)の究極とも言える集合意識“影の支配者(real mastermind)”の登場である。

 

今回はこの世界の才羽Tの濡れ場が映し出されている青少年の健全な成長にとって極めて有害な過去の映像から私が時間と空間を超越して引き摺り出したから才羽Tの姿を借りているわけなのだが、本来は“影の支配者(real mastermind)”自身が語るように()()()()()()であるために一定の姿を持たないのだ。

 

()()()()()()であるために“影の支配者(real mastermind)”とは誰かであって誰でもないわけであり、半人半霊(エンティティ)の性質である『状況に応じて内包している誰かの要素を使い分けている』というわけなのだ。

 

その最大公約数となる存在が()()()()()()である“影の支配者(real mastermind)”であり、あらゆる人間の要素が詰まっているから何者でもなれるわけであるが、

 

逆に言えば、一定の姿を持つ何者かになってしまうと それ以外の要素を切り捨てて その姿形に縛られてしまうわけであり、内包する全ての人間の要素を一度に表出させることは()()()()()()でありながら人間という存在では不可能であることを示唆している。

 

つまり、人間という存在が神に等しい万能性を示すためには状況に応じて内包している何者かの要素を発揮できる存在に都度変化していく必要があるわけであり、適切なものを適切な状況で適切な量だけ利用できれば神に等しい万能性に少しでも近づいていけるわけである。

 

人間が持つ無限の可能性とはそういう意味であり、人間ひとりひとりの中に内包されている要素を適切なものを適切な状況で適切な量だけ利用できるように発揮できるように導けた時が人間の可能性が目覚めたことになるのだ。

 

そして、わざわざ人間の世界に神に等しい存在が関わってきているということは、人間に対して()()()()()()である“影の支配者(real mastermind)”が求めているものがあるということなのだ。

 

だから、()()()()()()である“影の支配者(real mastermind)”相手に未知の恐怖を抱くことはないので私は恐れずに踏み込めるのだ。

 

相手がいかに()()()()()()であるために強大な存在に思えても、支配する民のいない王など滑稽であるように、()()()()()()であるために自身が存在するためには自ら嘲笑う人間の愚かさに依存するしかないのだから。

 

それがわかっていれば、どれだけ悪辣さが極まる存在であろうとも、少なくとも現実世界と表裏一体の裏世界においては負けることはない。というより、人生において真の意味で勝ち負けなどないことが悟れる。

 

これはそういう手合であり、宇宙移民であるなら徹底的に『人間とは何か?』という物事の本質を捉える哲学的思考を身に着ける訓練も相まって、私の方が()()()()()()であるために21世紀の人間の後進性の象徴となる“影の支配者(real mastermind)”のことを嘲笑えるのだから、気後れすることなど決してないのだ。

 

そもそも、ヒトとウマ娘が共存する異なる進化と歴史を歩んだ21世紀の地球の現状に対して常に批判的で、やろうと思えば23世紀の宇宙科学と並行宇宙の地球を支配するWUMAの超科学を使って世界を変えることだって可能なのが“私”なのだ。

 

そのことを考えれば、現実的な脅威として“世界の敵”に成り得るのは()()()()()()である“影の支配者(real mastermind)”よりも圧倒的にこの“斎藤 展望”であるし、

 

“特異点”である私は“影の支配者(real mastermind)”が内包する()()()()()()には含まれていないこともあり、まさしく地球外生命体(Alien)としての思考と論理で動くのだから、“影の支配者(real mastermind)”が私になろうとした瞬間に()()()()()()ではなくなるという存在消失に陥るのだ。

 

なので、私は()()()()()()であるために全ての人間とつながっている“影の支配者(real mastermind)”に対して状況打開のために取引を持ちかけるのだ。

 

それはこの第3の別世界:ダークストーカーの世界が元の世界と普遍的無意識という心の海でもっとも密接につながっているからこそできた不可能への挑戦であり、2つの世界を同時に救うための起死回生の策であった。

 

 

――――――そして、時は巻き戻る。

 

 

●4周目:3月13日/トレセン学園トレーナー寮

 

斎藤T「それで、“女帝”エアグルーヴの担当トレーナーはどんな方なんですか?」

 

ピースベルT「エアグルーヴちゃんと同じON/OFFの切り替えが激しい性格だよ♪ エアグルーヴちゃんと一緒に今は後進の育成を頑張っていて、物凄く評判のいい理想の王子様(トレーナー)なの♪」ウフッ

 

ピースベルT「そうそう、鐘撞Tはね、トレーナー人気ランキングで殿堂入りを果たすほどの超人気者だったんだけど、鐘撞Tとは世間からライバル扱いを受けていた鈴音Tはシンボリルドルフの担当トレーナーということで猛烈な嫉妬で超不人気だったのは想像できるよね♪」フフッ

 

斎藤T「ええ。基本的にウマ娘の才能に見合った貫禄のあるトレーナーじゃないと不釣り合いだと言われるような業界ですからね」

 

ピースベルT「そして、ルドルフちゃんの次に“クラシック三冠バ”になったブライアンちゃんの担当トレーナー:三ケ木Tも超嫌われていたけど、鈴音Tほどじゃなかったのよね♪」フフッ

 

斎藤T「とすると、“女帝”エアグルーヴの担当トレーナー:吾妻Tはそうじゃなかったと?」

 

ピースベルT「そうよ~♪ まさにウマ娘の格とトレーナーの格が釣り合った理想の関係性として、毎年のトレーナー人気ランキングの上位入賞の常連になっているぐらいなんだから♪」アハッ

 

斎藤T「そうだったんですか。シンボリルドルフやナリタブライアンを通じて生徒会に深く関わることになって、私もエアグルーヴとは顔を合わせることがあるのですが、吾妻Tとはこれまで顔を合わせたことがないですよ」

 

ピースベルT「ああ、その辺はね、基本的に互いのやりたいことに関しては不干渉でいる契約を交わしているから♪」フフッ

 

ピースベルT「だから、担当ウマ娘は生徒会活動で全体のために、担当トレーナーは現場で生徒たちの一人一人のために今も頑張っているわけなの♪」ニッコリ

 

斎藤T「なるほど、たしかに“女帝”と言われるだけの貫禄と支持があるわけですね。その担当トレーナーも理想の関係と言われるほどに立派な方で、“女帝の宝杖”と讃えられるだけのことはあります」

 

ピースベルT「そうそう♪ だけどね、楽しいことが大好きな私がね、そんな品行方正で お行儀が良くて 人当たりも良い まったく隙のない完璧超人のことを好きになるわけないじゃない♪」アハッ

 

ピースベルT「むしろ、エアグルーヴちゃんが心惹かれるようになったのは“女帝の宝杖”と讃えられる理想のトレーナーの()()()()()()()()()()を補うことで自身が理想のウマ娘になれる充実感からなんだから♪」ウフッ

 

斎藤T「ほう?」

 

ピースベルT「それじゃあ、お邪魔しましょうか。これからのトレセン学園の明るい未来のために」コンコン!

 

 

――――――聞こえているか、吾妻T? 某のことを憶えているのなら、少しお話しようじゃないか?

 

 

ピースベルT「………………」

 

斎藤T「………………」

 

ピースベルT「………………」

 

斎藤T「………………」

 

ピースベルT「………………」

 

斎藤T「………………」

 

 

ガチャ・・・

 

 

吾妻T「おはようございまぁーふ」トローン・・・

 

吾妻T「あんれぇ? 知らない人しかいないなぁ……?」

 

ピースベルT「相変わらず元気そうだね。某の絶世の美声を忘れていないかい?」

 

吾妻T「あ!? え!? もしかして、あなた、鐘撞Tですかぁ!? これはこれはどうもぉ……」

 

ピースベルT「とりあえず、美味しいお菓子を持ってきたから茶を出してください」

 

吾妻T「わかりましたぁ……」フワァ・・・

 

斎藤T「………………」

 

ピースベルT「それじゃあ、お邪魔しまーす♪」ニコッ

 

斎藤T「――――――『ON/OFFが激しい性格』とはこのことですか」

 

ピースベルT「うん♪ 世の中にはいるでしょう♪ 外では仕事を完璧にこなす憧れの人だけど、家では壊滅的に生活がダメな人って♪」アハッ

 

 

それが“女帝”エアグルーヴの担当トレーナー:吾妻Tとの初めての顔合わせだった。

 

3番目の別世界:ダークトレーナーの世界で、平日の昼間から担当ウマ娘と濃厚な()()()()()()()のプレイを楽しんでいたとは思えないほどにトレーナー室は汚かった。

 

汚いというよりは物が捨てられない性分なのか、おそらくはトレーナー人気ランキングで上位入賞の常連としてファンレターをもらっていることもあって、思い出の品を捨てられない人情家といった感じがしていた。

 

しかし、部屋に一歩足を踏み入れた瞬間に微かながら確実な違和感が生じた。

 

どうやらダークトレーナーの世界での出来事は完全に魔界の住人(ダークストーカー)が吾妻Tの皮を被ってやっていたこととは言い難い動かぬ証拠がデカデカと飾り付けてあったのだ。

 

そう、絶対に物を置いて寝られなくならないようにする工夫なのか、場違いなほどに非常にエレガントな作りの室内テントが()()()()()()()()()()に被せてあり、簡易的な天蓋ベッドになっていたわけなのだが、そこから生徒会室に出入りしていた私が嗅いだことのある臭いがしてくるのだ。

 

 

そして、()()()()()()()()()()()()が天蓋ベッドの側に担当ウマ娘の写真と共に置いてあった――――――。

 

 

ちがう、そうじゃない。あからさまに目につくゴミ屋敷の部屋にオンナを連れ込んでいることに匂わせるのはまさしく燻製ニシンの虚偽だ。

 

そもそも、この違和感は自分の足で部屋に入った時の爪先の微かな感触からだ。

 

つまり、多少はグレードや部屋割りで内装が異なっていても、私もトレーナー寮に住んでいたのだから、明らかに通常の仕様とは異なるものを“斎藤 展望”が鋭く繊細に肌で感じ取っていたのだ。優れた危険予知能力が発揮されている。

 

それを確信したのは、空間の響き方だった。いつもの人と話す時の声量での響き方にちがいが微かに感じられ、これは通常の仕様よりも明らかに質の良い防音材が張り巡らされていたのだと予測できてしまった。

 

また、どうもこの部屋の空気は普通ではないものが漂っており、いつまでもこの部屋にいると頭の中がグチャグチャにされそうな強烈な意識が支配しているかのようだった。

 

なので、鼻面に悪臭対策の消臭ジェルを鐘撞Tにも塗って爽やかな呼吸を確保すると、私は葉巻に擬装した香木をオイルライターでこれ見よがしに吹かし、用意した葉巻用の携帯灰皿も置いて他人の生活空間に自分たちの支配域を作り出したのだった。

 

当然、かつて同期だった鐘撞Tの突然の来訪に差し出された高級品のお茶請けを取り出して それ相応の高級茶を淹れて再び姿を見せた時に吾妻Tの人畜無害そうな表情が一瞬だけ怒気を放っていた。

 

しかし、そのことをおくびにも出さないで鐘撞Tにのんびりとしながらヘコヘコと謙る様子を見るに、同期と言っても明確な上下関係があったことがうかがえた。

 

それから、卒業式を迎えたことで名実共にトレセン学園の顔役になった新生徒会長である“女帝”エアグルーヴについてアレコレ聞き出すことになった。

 

この外面だけは完璧の若手トレーナーは意外にも鐘撞Tと鈴音Tと同期であり、二人が新人トレーナーとしていきなり“万能”ビワハヤヒデや“皇帝”シンボリルドルフを世に送り出したのとは異なり、意外にもこのトレーナーはプライベートではかなりのんびりとした性格の持ち主だったようなのだ。

 

ただ、先輩チームのサブトレーナーを1年やり続けた後は新人トレーナーの初心者マークを取り上げられて自分の担当ウマ娘をスカウトして『トゥインクル・シリーズ』に挑まなければクビになるため、自分なりのペースで担当ウマ娘を探していた。

 

同じ頃、“女帝”エアグルーヴは新入生ながら自らの理想に基づいて自身のトレーニングと生徒会活動への積極的な協力、将来のライバルになるだろう同期のウマ娘の悩みを聞くなど、3足の草鞋を履くほどに精力的に活動していた。

 

そして、競走ウマ娘としての能力も理想を叶えるための武器として突出しており、最初の『選抜レース』の時点でスカウトを勝ち取るほどに順調な学園生活をスタートさせていたように思えていたのだが、

 

しかし、そのトレーナーが生徒会活動への参加やライバルへの指導を無駄なことと断じ、ちょうどよくエアグルーヴにトレーニングの相談をしに来た生徒を手酷く追い払ったのが決定的となり、エアグルーヴの方から専属契約を破棄することになってしまったのだ。

 

もちろん、ウマ娘の出走権を握っているトレーナーは『後悔することになるぞ!』と吐き捨てることになり、相手に非があるとは言え 一方的に契約を切るのはどう考えても印象が悪いということで新しいトレーナーをどうやって探そうかとエアグルーヴが思い悩んでいたところ、

 

たまたま、その場面を目撃していたのが吾妻Tというわけであり、互いの利害が一致した結果、『トレーニングのみに気を配れ。それ以外への行動への口出しは厳禁』という条件で契約をその場で交わすことになったのだ。

 

しかし、この時 エアグルーヴがその場で吾妻Tと契約を交わしたのも切羽詰まってトレーナーなら誰でも良かったというわけではなかった。

 

吾妻Tはそのプライベートではのんびりとした性格からパブリックでは極めて冷静沈着な態度に見られることになり、勝利の栄光を求めて才能あるウマ娘を求めるトレーナーにあるまじき慎重さが異質に見える存在であった。

 

そのため、同期の有馬一族の御曹司:鐘撞Tの興味を引いてパシリにされており、シンボリルドルフと最高の勝負をしてくれる気骨があるウマ娘を探し求めて学内のウマ娘たちのほとんどと話をするように命令されていたのだ。

 

そのおかげで、ルドルフ世代で強烈な輝きを放つ“天上人”鐘撞Tの存在の裏で、ウマ娘の才能を見極めようと誰にでも気さくに話を聞いてくれる 勝負事に向いていなさそうな のんびりとした性格から しっかりとウマ娘たちの話を聞く吾妻Tの存在もまた浸透していくことになったのだ。

 

そのため、シンボリルドルフ打倒のための候補として“BNW”を見出して鐘撞Tが最高に盛り上がる勝負に打って出た後も命令を遵守して、それからもシンボリルドルフ打倒を果たせるウマ娘がいないかをずっと求め続けたのだ。

 

なので、次のシーズンが来てブライアン・エアグルーヴ世代が入学してくれば、早速 新入生たちともじっくりと話し込む姿が見られるようになり、吾妻Tの存在は地味ながらも確実に学園内に広く知られることになった。

 

そして、エアグルーヴとは生徒会活動の手伝いや同期のトレーニングの相談でたまたま居合わせて力添えしたことがあるので、まったく知らない仲ではなかったというのも大きかった。

 

むしろ、吾妻Tのようにのんびり屋に見えてしっかりとウマ娘の性質を見極めようとする大らかさが冷静沈着さとして見られるのは他のトレーナーにはない特質だったことを契約破棄でエアグルーヴが学んだ後だと、これ以上に自身に適任なトレーナーはいないと胸を張れるものがあった。

 

そして、吾妻Tがシンボリルドルフの鈴音Tと仲良しの鐘撞Tのパシリであった縁から、エアグルーヴはシンボリルドルフと早期から接点を持つことにも成功しており、“皇帝”シンボリルドルフの掲げる理想に大いに賛同し、その後を継ぐ“女帝”として同志となるのだった。

 

ただ、シンボリルドルフ打倒を掲げる鐘撞Tからすると、シンボリルドルフに心酔したエアグルーヴはつまらないウマ娘という扱いになったため、エアグルーヴの同期:ナリタブライアンの噂通りの“怪物”ぶりに期待して三ケ木Tのハチャメチャぶりを応援することになった。

 

 

なので、結局のところ、トレセン学園生徒会の黄金期メンバーは 全員 鐘撞Tがいて初めて結集したところがあるので、いかに“天上人”鐘撞Tの存在が黄金期を支えてきたのかがわかるだろう。

 

 

そう、のんびり屋の吾妻Tは基本的にウマ娘の自主性を重んじて責任を全て負うというドッシリと構えた胆力の持ち主であり、何よりもシンボリルドルフ打倒を手段として“手に汗握る熱いレース(一所懸命)”を目的にしていた鐘撞Tのパシリということでその戦略性や盛り上げ上手なところを具に見てきたこともあり、

 

トレーナー不足が知れ渡っているトレセン学園だと引く手数多で多忙を極めるトレーナーに全てを求めることができないことが自明の理であることも相まって、自分の好きなように走らせてくれる吾妻Tは今では仏様のように慕われているのだとか。

 

そして、今ではトレセン学園の上位に位置するチーム<デネブ>のチーフトレーナーとして、『URAファイナルズ』開催もあって引退ではなく活動停止で第一線を退いたエアグルーヴと共に後進の指導もこなしており、育成実績は“万能”ビワハヤヒデの鐘撞Tや“皇帝”シンボリルドルフの鈴音Tを遥かに上回る成果を上げていた。

 

 

ピースベルT「で? あのダブルサイズの天蓋ベッドは何かな、吾妻T? 某に聞かせて?」

 

吾妻T「僕とエアグルーヴの寝床だけど? シングルだと2人が横になるには狭いからねぇ……」フワァ・・・

 

斎藤T「……それ、言っちゃっていいんですか? あからさまに生徒と関係を持っていることを匂わせるものを堂々と置いているのはマズくないですか?」

 

吾妻T「別に。訊かれなかっただけで、そこから訊かれたことを言うか言わないかは僕の判断だよね」

 

吾妻T「それに、僕とエアグルーヴの関係を言おうものなら、困るのは僕よりもトレセン学園の利権に群がる連中だし、僕としてはトレセン学園に居続ける理由はもうないからね」フフッ

 

斎藤T「……どうして?」

 

 

吾妻T「だってぇ、そもそも、僕はトレセン学園を潰すために送り込まれたスパイだから。願ったり叶ったりなんだよねぇ」

 

 

斎藤T「!?!!」

 

ピースベルT「おお、ようやく本当のことを言ってくれたか。担当ウマ娘:エアグルーヴがトレセン学園の顔役になったことでそろそろ何かする頃合いだと思ってたよ」

 

吾妻T「やっぱり、鐘撞Tはスゴイよ。一目で僕がよからぬ思いでトレセン学園のトレーナーになったことを見抜いて、あえてシンボリルドルフ打倒に使えるウマ娘を僕に探させるんだもん」

 

吾妻T「おかげで、僕の存在感を極限まで薄くして()()()()がやりづらくなったじゃないですか~」

 

 

吾妻T「でも、凄いですね。()()()()()()()()()はうまくいったみたいじゃないですか、鐘撞T」

 

 

斎藤T「!!!!」

 

ピースベルT「やっぱりか。やっぱり、某がいなくなった後のトレセン学園で一番に出世をした吾妻Tが黒幕だというのは推理としては捻りがない答えだったか」

 

ピースベルT「見てみなよ、斎藤T。あのチーム<デネブ>のエンブレム。ちょっと普通とちがうところがある」

 

 

――――――はくちょう座:北十字星に擬態した鉤十字(ハーケンクロイツ)になっているから。

 

 

吾妻T「ああ……、これはやってしまいましたねぇ……」アハハ・・・

 

斎藤T「……いや、わざとだろう? 何が狙いだ?」

 

吾妻T「――――――『狙い』? まあ、鐘撞Tの言うところの“一所懸命”ってやつですかね?」

 

斎藤T「将来的にトレセン学園を乗っ取るために“天上人”鐘撞Tを排除しつつ“女帝”エアグルーヴと理想の関係を築き上げたわけだが、そこから先はどうするつもりなんだ?」

 

斎藤T「お前たちの理想のためにエアグルーヴを利用して偽りの理想を幻出させたところで、エアグルーヴを捨ててお前たちの理想が叶うのか?」

 

吾妻T「……そこが悩みどころでしたねぇ」

 

吾妻T「あまりにも理想通りに事が運びすぎて、理想の関係を築き上げてしまったわけですから、これ以上の理想的な展開が思いつかないぐらいですよ」

 

吾妻T「本当は平和ボケした国の夢の舞台だとバカにすベきところですが、ここまで来ると手放すのが惜しくなってきまして」

 

 

吾妻T「――――――これも『理想』『理想』とバカみたいに言い続けて 偽りの理想に塗り固められた僕なんかに抱かれてきた 理想の女に絆された弱みなんでしょうか」

 

 

斎藤T「御託はいい! こっちは“女帝”エアグルーヴがシンボリルドルフ卒業後のトレセン学園の未来のために是が非でもやってもらいたことがあって来たんだ!」

 

吾妻T「へえ? それはどういった御要件で?」

 

ピースベルT「協力してくれるなら、某も寝泊まりしている絶対に誰にも見つからない秘密基地での快適な毎日を提供してやってもいいぞ?」

 

吾妻T「わお」

 

吾妻T「鐘撞Tのご命令ならお安い御用で。パシリにされるのには慣れてますから」

 

吾妻T「でも、そのおかげで、僕はトレセン学園という夢の舞台で大きな夢を見ることができましたから、これでも感謝しているですよ、あなたとの出会いに」

 

吾妻T「それじゃあ、どうすればいいんですかね、斎藤T? “鐘撞Tの再来”として再びトレセン学園に嵐を呼ぶ噂の新人トレーナーとしては?」

 

斎藤T「なら、場所を変える前に概要ぐらいは話しておく」

 

 

――――――皇帝G1七番勝負!

 

 

結局のところ、これからトレセン学園が直面する あらゆる問題が黄金期と共に始まっていたわけであり、それを解決するキーパーソンが“天上人”鐘撞Tだったわけであり、ピースベルTこと鐘撞Tの帰還が大きな歴史の分岐点になっていたようだ。

 

そして、鐘撞Tをウマ娘へと改造手術を施したナチス残党の闇組織と繋がっていたのが、まさかの鐘撞Tのパシリだった“女帝”エアグルーヴの理想のトレーナー:吾妻Tという驚愕の事実に私は驚きを禁じ得なかった。犯人はヤス。

 

でも、そうじゃなければ水天宮での啓示にあったようにトレセン学園を乗っ取れるだけの下地が作れないわけであり、かつてサポートスタッフコースの生徒を手籠にして暗黒期までウマ娘レースを牛耳っていた“悪魔の権化”が存在していたぐらいなのだ。あり得なくない。

 

つまり、鉤十字(ハーケンクロイツ)に由来するチーム<デネブ>や吾妻Tに親しい子たちがトレセン学園の未来を闇に閉ざす悪の手先になることを考えると、たしかに吾妻Tの担当ウマ娘:エアグルーヴはトレセン学園の失墜の象徴になるに相応しい存在になっていた。

 

そう、アグネスオタカルの世界で同じティアラ路線の偉大なる“無敵の八冠バ”アグネスオタカルを手本にして“エアギャルーブ”になっていることを考えると、良くも悪くもエアグルーヴというウマ娘は理想に染まりやすいために、知らぬ間にナチスへの忠誠心を刷り込まれていてもおかしくないという笑えない話が現実味を帯びていたのだ。

 

ただ、ナチス残党の闇組織の手先であった吾妻Tはウマ娘天国であるトレセン学園での日々を送っていく中で本当の理想とは何なのかを考え直すようになり、自分の手で築き上げてしまったトレセン学園の理想を打ち壊していくことを惜しむようになってしまったのだ。

 

それどころか、ナチス残党の闇組織が唱える理想世界など現代日本の真の豊かさに劣るところしかないとも考えるようになり、シンボリルドルフがいよいよ卒業してエアグルーヴが新生徒会長の新時代が来る瀬戸際で私たちが間に合ったというわけである。

 

そして、聞けば吾妻Tの出自はまさしく第二次世界大戦において東京空襲の後に一部の通信班を残して河口湖畔の富士ビューホテルに疎開していたドイツ大使館の人間と現地人との間に生まれたハーフの末裔であり、その縁からナチス残党の闇組織に属するようになっていたそうなのだ。

 

なので、完全にナチス残党との関係に見切りをつけさせるためにナチスドイツの蛮行によって誕生したある一人のウマ娘が入学してくる件を伝えて説得にかかった。

 

 

――――――百尋ノ滝の秘密基地

 

吾妻T「あの……、いいかげんに目隠しを外してもらえないでしょうかねぇ……」 ――――――実験台に縛り付け!

 

吾妻T「それとさっき、何を飲ませたんです?」

 

アグネスタキオン’「悪いねぇ。ナチス残党の闇組織のスパイである以上は体内にもスパイ道具が隠してある可能性があるから、徹底的に身体を調べさせてもらっているよ」クククッ

 

アグネスタキオン’「しかし、さすがはナチス残党の闇組織のスパイ。薬物に対してここまで耐性を示すとはねぇ。麻酔薬が効かないのには驚いた」

 

アグネスタキオン’「いやはや、トレーナーくんと一緒にいるとここまで良質な被験体(モルモット)が集まってくるとは夢にも思わなかったよ」

 

アグネスタキオン’「正直に言って、ナチス残党の闇組織っていうのも“最後の大隊(ラストバタリオン)”並みに眉唾ものの都市伝説だと笑える話だったのに、きみの存在がそれを証明してしまったわけだからねぇ……」

 

吾妻T「どうすれば信用してもらえますかねぇ?」

 

吾妻T「僕としてもこのままトレセン学園のトレーナーとして楽しくやっていく日々を続けていく方がいいんですけど」

 

吾妻T「それに、“生命の泉協会(レーベンスボルン)”の末裔のアクアビットって子の話を聞いたら、ますますナチスと縁を切りたいと思ったわけなんですが」

 

アグネスタキオン’「その条件はすでに提示されているだろう」

 

 

――――――皇帝G1七番勝負!

 

 

吾妻T「そこでトレセン学園の未来のために“最強の七冠バ”シンボリルドルフの伝説を超えていくために力を貸して欲しいと言われましたけど……」

 

アグネスタキオン’「ああ。ここにあるシミュレーターで“皇帝”シンボリルドルフのG1レースを完全再現したから、それに打ち勝つことが“皇帝”シンボリルドルフの真の卒業式になるというわけなのだよ」

 

吾妻T「何度聞いても意味がわからないですけど、たしかに“皇帝”シンボリルドルフの後を継ぐことになる“女帝”エアグルーヴには自信を持ってもらわないといけないと感じていましたから、挑戦すること自体には反対はしません」

 

吾妻T「けど、それってつまりは『“皇帝”シンボリルドルフの全盛期と真っ向勝負しろ』という話ですよね?」

 

アグネスタキオン’「ああ。『皐月賞』『日本ダービー』『菊花賞』『ジャパンカップ』『有馬記念』『天皇賞(春)』『宝塚記念』のどれか好きなレースを選びたまえ」

 

アグネスタキオン’「実際にシミュレーションで競走してみてわかった当時のシンボリルドルフの戦略やコンディションの情報も惜しみなく与えるから、トレーナーの誇りに賭けて絶対に愛バを勝たせたまえよ」

 

吾妻T「ティアラ路線のエアグルーヴで戦えそうなのが『ジャパンカップ』と『有馬記念』しかないじゃないですか~。やだ~」

 

アグネスタキオン’「ちなみに、『日本ダービー』はトウカイテイオー、『天皇賞(春)』はメジロマックイーンが出走することになっているねぇ」

 

吾妻T「う、ううん? 活動停止どころか、すでに引退している2人が出走――――――?」

 

吾妻T「あ、そうか。『シミュレーターで再現された全盛期のシンボリルドルフに戦って勝て』という無理難題もこっちも全盛期の担当ウマ娘のデータを使って戦わせるわけですか。そういうわけですね」

 

吾妻T「そういうことなら、やりようはあるかもしれない」

 

アグネスタキオン’「そして、『宝塚記念』がマンハッタンカフェ、『皐月賞』がアグネスタキオンで行くつもりだから、『菊花賞』『ジャパンカップ』『有馬記念』のうち、エアグルーヴが選ばなかった残り2つをどうするか……」

 

吾妻T「それならナリタブライアンとビワハヤヒデの最強姉妹を出走させれば――――――」

 

アグネスタキオン’「まあ、これからきみは検査を受けている時間でVRシミュレーターで当時のシンボリルドルフの走りを体感してもらうわけだから、勝利のために全身全霊で挑みたまえ」

 

アグネスタキオン’「それじゃあ、世界最先端の超ウルトラハイパーデラックスなVRシミュレーターを起動させるよ。思う存分に感動してくれたまえ」

 

吾妻T「お、おおおおおおお!? これ、目隠しじゃなくてVRゴーグルだったのか!? この臨場感、本物の競バ場そのものじゃないか――――――!」

 

アグネスタキオン’「さてさて、あと2人をどうにかして見つけてこないとだけど、どうしたものかねぇ?」

 

 


 

レジェンドレース:皇帝G1七番勝負

 

『皐月賞』    シンボリルドルフ VS.アグネスタキオン

 

『日本ダービー』 シンボリルドルフ VS.トウカイテイオー

 

『菊花賞』    シンボリルドルフ VS.――――――

 

『ジャパンカップ』シンボリルドルフ VS.――――――

 

『有馬記念』   シンボリルドルフ VS.エアグルーヴ

 

『天皇賞(春)』 シンボリルドルフ VS.メジロマックイーン

 

『宝塚記念』   シンボリルドルフ VS.マンハッタンカフェ

 

 


 

 

――――――

才羽T?「さて、どうだい? 『URAファイナルズ』決勝トーナメントと同時に開催される『皇帝G1七番勝負』で7人のシンボリルドルフに対抗できるウマ娘は見つかったかい?」ニヤニヤ

――――――

 

アグネスタキオン’「全盛期の理想の肉体を持った上で、こちらはシンボリルドルフの記憶と感覚を持ち合わせている私からの生の情報とシミュレーターによる優位性を与えられているわけだけど、」

 

アグネスタキオン’「『URAファイナルズ』決勝トーナメントに出走するナリタブライアンとビワハヤヒデの最強姉妹は使えないから、ホトホト困ったよ」

 

アグネスタキオン’「モルモットくんが持てる人脈を最大限に活かしても、あと2人のトレーナーとスターウマ娘が見つからない……」

 

――――――

才羽T?「これも全ては“斎藤 展望(モルモットくん)”が言い出したことだろう?」

 

才羽T?「私が()()()()()()であるのならば、私の化身を使ってシンボリルドルフのG1レースを完全再現させて、そこにトレセン学園の在学生を参加させて、その全てに勝ったら巨大娘:シンボリルドルフを解放する無理難題への挑戦だ」

 

才羽T?「それをもって“永遠なる皇帝”が迎えるべき真の卒業式とするところが実におもしろい」

 

才羽T?「在学生が“最強の七冠バ”の伝説を打ち破ることで“皇帝”など無用の存在だと突きつけることが優しさに繋がるのだから、人間というのはつくづく矛盾した生き物だよ」

――――――

 

アグネスタキオン’「だから、『日本ダービー』で“皇帝”をも超える走りを見せられたのでトウカイテイオーが担当となり、『天皇賞』制覇がメジロ家の最強の証明としてメジロマックイーンが担当になるわけだね。間違いなく勝率が高い組み合わせだよ」

 

――――――

才羽T?「しかし、アグネスタキオン本人が『皐月賞』担当というのも随分と弱気なものじゃないか? “幻のクラシック八冠バ”になるんじゃなかったのか?」

 

才羽T?「マンハッタンカフェは“春シニア三冠”を獲るなら『宝塚記念』で“皇帝”を打ち破るという意気込みを見せたのに?」

――――――

 

アグネスタキオン’「しかたがないじゃないか。今まで3月は“クラシック三冠”を目指すつもりで『皐月賞』に向けての調整を一人でやってきて、その年の結果と比較することを繰り返してきたから『皐月賞』向けの調整が手っ取り早かったんだし」

 

アグネスタキオン’「まあ、負ける気はしないがね。元からトウカイテイオーの全盛期に一歩劣る程度の実力は4年間の肉体改造強壮剤で得られたことだし、そのトウカイテイオーの全盛期が『日本ダービー』なら『皐月賞』は余裕だね」

 

アグネスタキオン’「そもそもの話、単純な勝ち負けの話じゃないんだがね」

 

アグネスタキオン’「シンボリルドルフが安心して卒業していけるようにするためにやることであって、勝てなくても負けなければいいだけの話だよ」

 

アグネスタキオン’「でも、負けないための最適解なんて勝つことだから、“皇帝”シンボリルドルフの後を継いでいく新生徒会役員がこれからの時代の荒波に負けない気概をみなぎらせるためにも、是非ともウマ娘らしく全戦全勝でいってもらいたいねぇ。ここまで手厚く有利な条件をつけてあるんだからさ」

 

アグネスタキオン’「しかし、人類が共有する普遍的無意識のネガティブな領域を司る存在にして、その領域そのものの擬人化である“影の支配者(real mastermind)”ねぇ?」

 

アグネスタキオン’「その中にWUMA(バケモノ)は含まれているのかい?」

 

――――――

才羽T?「…………含まれていない」

 

才羽T?「きみのような存在は初めてだよ。まさに未知との遭遇というわけだが、きみそのものにはなれなくても擬態対象の組成を割り出せば表面上は限りなくきみを再現することはできなくもない」

 

才羽T?「ただ、間違いなく 私はきみとはつながっていない。だから、本能的に怖いと感じてしまうな」

――――――

 

アグネスタキオン’「そうかい。バケモノとしての本質は決して変わらないわけか。ついに“影の支配者(real mastermind)”からも太鼓判を押されたか……」

 

アグネスタキオン’「にしては、今回の『皇帝G1七番勝負』もきみがモルモットくんの提案した無理難題に嬉々として賛成して舞台を用意してくれたから実現したことだけど、きみも 大概 実験が大好きな私の同類なんだねぇ」

 

アグネスタキオン’「やっぱり、人間には根絶不可能な存在であったとしてもキャリアとなる人間がいなければ根絶してしまうようなウイルスみたいなやつだよ、きみは」

 

――――――

才羽T?「そう、人間の中の影の部分は本来はウイルスのように目に見えないながらも対策可能な脅威でしかない」

 

才羽T?「ワクチンを打って免疫力を高めたり、手洗いうがいマスクを徹底したり、補助金を出してワクチン接種を奨励したり、身近にできることから対策できることがたくさんあるはずだ」

 

才羽T?「けれども、それがわかっていながら、それでも毎年のようにインフルエンザに感染して命を落とす者が後を絶たない――――――」

 

才羽T?「それと同じことだ。正義と悪の戦いなどというものは」

 

才羽T?「自分たちの正しさを他者に押し付けるくせに、自身はその正しい在り方を実践できずにいるのだから、人間とは元から他者の存在によって自己を成り立たせていることに全員が気づくべきなのだ」

 

才羽T?「一人で生きていけると強がる者も、それなら文明との繋がりを完全に断って離島や山奥で暮らしてみればいいのだ。原始人のような暮らしを現代人が今更やれるはずもないことにすぐに気づくことだろう」

 

才羽T?「少し考えてみればわかる本質を見ようとしないのがホモ・サピエンスを自称する宇宙の中心で轟く白痴の塊(アザトース)の正体なのだ」

――――――

 

アグネスタキオン’「ところで、アーサー・C・クラークが著した長篇SF小説『宇宙のランデヴー』は未知の存在へのセンス・オブ・ワンダーを見事に描いた傑作として評価されているわけだが、」

 

アグネスタキオン’「きみも私も人間でありながら人間ではないことのセンス・オブ・ワンダーに感応しているわけだね」

 

アグネスタキオン’「不思議だね。そして、実に興味深いね」

 

――――――

才羽T?「たしかに興味深いことではある」

 

才羽T?「だが、この私が()()()()()()()()()()()()()の運命を握っているということは、ドリームランドの支配者である私の領域に()()()()()()()()()()()()()が自ら入ってきたということに他ならない」

 

才羽T?「つまり、魔界に属する半人半霊(エンティティ)である魔界の住人(ダークストーカー)になるべく向こう側の現実から完全に目を背けた結果が、こちら側の世界からやってきた魔界の住人(ダークストーカー)に捕らえられて裏世界で自身の記念碑たるエクリプス・フロントに磔になるという自業自得だ」

 

才羽T?「だから、こちら側の欲望の捌け口に向こう側がなってしまったツケをこちら側のシンボリルドルフにも払ってもらう。それが因果応報・信賞必罰・盛者必衰の理だ。何者も逆らうことはできない」

――――――

 

アグネスタキオン’「なら、モニター越しに見ていたまえよ」

 

アグネスタキオン’「全てが運命であるなら、全ての出会いが必然であり、予言された物語は必ず成就するとね」

 

アグネスタキオン’「きみはたしかに()()()()()()であるが故に全ての人間と繋がっているが、一方で現実世界で時間や空間を超越する四次元能力を行使することができないのだろう?」

 

アグネスタキオン’「だが、私と私のパートナーがそれができて、今きみと対峙している」

 

 

――――――運命を超える力がいかなるものかをこの実験で確かめてみようではないか。

 

 

斎藤T「よし、一切入力確認。出力確認も誤差なし。これで人数分の“一人用のポッド(クレイドル)”をシミュレーターに接続できた……」カチッ

 

斎藤T「あとはシミュレーターで検証した映像データと最新の生体データがリンクして、バーチャル上で全盛期の能力を追体験(シンクロ)できるように調整しなくては……」ピピピ・・・

 

アグネスタキオン’「精が出ているねぇ、モルモットくん」

 

斎藤T「吾妻Tの精密検査が始まったわけか」カチカチッ

 

アグネスタキオン’「ああ。薬物耐性があるおかげで自白剤が効かないねぇ」

 

アグネスタキオン’「けど、心臓の隣にペースメーカー代わりの監視装置がついていたから外しておいた。これで逆探知ができるよ」ニヤリ

 

斎藤T「動かぬ証拠が出てきたな」ニヤリ

 

アグネスタキオン’「そっちの調整も順調そうだねぇ」

 

斎藤T「まあ、吾妻Tが利用している試作品の1個ができれば、人数分を並列に繋いで同時処理できるように調整するだけだから、あとはパーソナルデータの同期でうまく全盛期の追体験(シンクロ)が実現するかだ……」

 

アグネスタキオン’「その辺りに関しては未知数だねぇ。エアシャカール御手製の超高性能物理演算コンピュータプログラム『Parcae』を転用して、日常業務をサポートするAIを生み出したきみにしかできない領域だよ、そこは」

 

斎藤T「まあ、『皇帝G1七番勝負』なんてものをやれるのも、WUMA用の全自動万能生命維持装置である“一人用のポッド(クレイドル)”が4個軍団分用意されていたことで段階的な技術検証ができたおかげだな」

 

斎藤T「去年のWUMA殲滅作戦/奥多摩攻略戦はまさに実現不可能な夢の対決を実現するために必要な過程だったのかもしれない……」

 

斎藤T「それから、今回の追体験(シンクロ)の土台となるのがアグネスタキオンが開発していたヒト用ウマ娘なりきりVRシミュレーターなわけで、これがなかったら絶対に間に合わなかっただろうな……」

 

斎藤T「――――――これも天の配剤というやつか」

 

アグネスタキオン’「そうだねぇ。全てが歯車のように嚙み合わさっているかのように運命が動き出しているみたいだ」

 

 

――――――一番の問題は意識の壁を破れるかどうかだねぇ。

 

 

斎藤T「ああ、“最強の七冠バ”シンボリルドルフを後発の優位性を活かして完全に上回ることを示さなければ、シンボリルドルフに代わってトレセン学園を率いることになる新生徒会の影響力が著しく見劣りするものになり、いつまでも偉大なる“皇帝”の遺影に縋り付くだけの旧弊が生まれてしまう」

 

アグネスタキオン’「だからこそ、今一度 現役時代の頃の競走ウマ娘としての気概を取り戻して新しい時代を雄々しく乗り越えてもらう意志力を備えてもらうわけだね」

 

斎藤T「そう、“女帝”エアグルーヴ一人では決して“皇帝”シンボリルドルフに並ぶことはできない」

 

斎藤T「だから、“怪物”ナリタブライアンとの“共同皇帝”になって次の者に求められるハードルを下げるように前もって“皇帝”シンボリルドルフは配慮していたわけだが、」

 

斎藤T「逆に言えば、“女帝”エアグルーヴと“怪物”ナリタブライアンの2人だけで“皇帝”シンボリルドルフの後任に足るのなら、それ以上に共同者を増やせば“皇帝”を超えられるのではないか――――――?」

 

アグネスタキオン’「そんな単純な足し算ではないけれども、たしかに全員が“皇帝”シンボリルドルフの後を継がんと一丸となれば、トウカイテイオーとメジロマックイーンの支えも加わって より盤石になるのは間違いないことだね」

 

 

――――――それ故の『皇帝G1七番勝負』だ。

 

 

斎藤T「不思議な感覚だ。水天宮に参拝したのは卒業式の前日なのに、時間を巻き戻してきたせいで物凄く昔のことに感じられる」

 

斎藤T「水天宮の神様が言っていたんだ」

 

斎藤T「『URAファイナルズ』が引退即退学となる風潮を変えるための卒業レースならば、卒業生ではない4年目以上:スーパーシニア級や高等部からメイクデビューする年配のウマ娘に希望を与えるのがマンハッタンカフェとアグネスタキオンの役目なのだと」

 

 

斎藤T「そして、“女帝”エアグルーヴこそが真の理想の体現者として最後の1年を走り切る天命にあるのだと」

 

 

斎藤T「私はその新たな時代の最初の1年をやり遂げるために間配られた御魂なのだと」

 

斎藤T「言われた当時は黒・赤・金のオーケストラが強烈に印象に残って、“女帝”エアグルーヴとその担当トレーナーのことをよく知らなかったから過小評価していたところもあったから聞き流していたけど、」

 

斎藤T「そのまさかだよ。神託にあったナチス残党の闇組織のスパイが“女帝”エアグルーヴの担当トレーナーだったとはねぇ……」

 

アグネスタキオン’「ふぅン」

 

斎藤T「だから、実質的に“女帝”エアグルーヴは上位リーグに昇格した“怪物”ナリタブライアンと並ぶトレセン学園の二枚看板としてこれから激動の1年をやり遂げなくちゃならない」

 

アグネスタキオン’「つまり、来年度の『URAファイナルズ』だけじゃなく、生徒会長でありながら競走ウマ娘として活動再開もすると?」

 

 

斎藤T「だから、すでに引退しているトウカイテイオーとメジロマックイーンの支えがこれ以上になく必要になってくるんだ」

 

 

アグネスタキオン’「なるほどねぇ」

 

斎藤T「実質的に新生徒会役員4人による共同皇帝(テトラルキア)の時代がやってくるのが来年度のトレセン学園なんだ」

 

斎藤T「その新生徒会の一致団結が雛形となって“皇帝”シンボリルドルフが切り開いた黄金期を遥かに超える繁栄の時代がやってくるかどうかの分岐点が今なんだって」

 

斎藤T「だから、卒業の日を迎えてやってくる『URAファイナルズ』決勝トーナメントの日に『皇帝G1七番勝負』で新生徒会の団結力を見せつけなければならない」

 

斎藤T「そして、これまでの人類の時代というのは生きるために階級社会に誰もが縛られてきた人類皆奴隷の時代、近代革命によって基本的人権の尊重によって権利と義務が保障された人類皆貴族の時代、その次に来るものが誰もが自己実現の自由を果たして秩序と調和に基づいて生成化育 進歩発展 万民和楽の理想社会が築かれる人類皆王様の時代なんだ」

 

 

――――――つまり、偉大なる皇帝の慈悲による弱者救済が果たされた先にあるのは万民団結による共同皇帝の時代の幕開けなのだ。

 

 

――――――トレセン学園/生徒会室

 

ガチャ

 

岡田T「テイオー……」

 

和田T「マックイーン……」

 

トウカイテイオー「あれ、トレーナー? ここに来るだなんて久々だよね?」

 

メジロマックイーン「そうですわ。私のトレーナーもそうですし、何よりも岡田Tも――――――」

 

エアグルーヴ「どうした? 今、卒業生の学生寮の退去状況の整理や、在学生や新入生の部屋割りについての学生寮自治会とのリモート会議中なのだが?」

 

岡田T「和田T……」

 

和田T「ああ、やるぜ、岡田T……」

 

 

岡田T「頼む、テイオー! “皇帝”シンボリルドルフが安心して卒業していけるように、最新鋭の超高性能シミュレーターで『皇帝G1七番勝負』に出てくれ!」

 

和田T「マックイーンもだ! すまないが、『URAファイナルズ』決勝トーナメントに合わせてやるから、今すぐにでも出走の準備に取り掛かって欲しい!」

 

 

トウカイテイオー「え」

 

メジロマックイーン「な、何ですの、『皇帝G1七番勝負』というのは?」

 

エアグルーヴ「……何だ? もしかして来年度に創部のESPRITの目玉企画の宣伝か?」

 

エアグルーヴ「……先代には悪いが、今はそんな余興につきあっている余裕はないんだ。後にしてくれないか」

 

岡田T「なら、これだ!」スッ ――――――退職願い!

 

和田T「俺からもだ!」スッ ――――――退職願い!

 

トウカイテイオー「え、えええええええええええええええ!? と、トレーナー!?」

 

メジロマックイーン「ど、どういうことですの、あなた!?」

 

エアグルーヴ「な、何のつもりだ!?」

 

岡田T「どうもこうもない! お前たち、このままずっと“皇帝”シンボリルドルフ一人に並ぶことのない小粒の新生徒会のレッテルを貼られたままでいいのか!?」

 

和田T「シンボリルドルフ卒業後の新しい時代の最初の1年に対してそんな評価をくだされるのを黙って受け容れるつもりか!?」

 

エアグルーヴ「………………っ!」

 

エアグルーヴ「だとしても、今更 現役時代の評価を覆す手段など――――――!」

 

岡田T「これが『皇帝G1七番勝負』の企画書だ!」バサッ

 

和田T「高性能VRシミュレーターで完全された“皇帝”シンボリルドルフのG1レースに全盛期のデータとリンクさせたお前たちのアバターを走らせるという企画で、」

 

和田T「これを当日は1戦だけの『URAファイナルズ』決勝トーナメント観戦プログラムの前座に持ってくる!」

 

エアグルーヴ「こんなものが……」

 

トウカイテイオー「スゴイ! こんなものが本当に実現しているのなら、ボクと会長が同じターフの上で走ることも夢じゃなくなるんだね!」

 

メジロマックイーン「だとするなら、光栄なことですわね。もちろん、最強は『天皇賞』制覇のメジロ家であることを証明できますもの」

 

 

岡田T「――――――“女帝エアグルーヴ!」

 

 

エアグルーヴ「…………!」

 

岡田T「たしか、吾妻Tとは『レースのこと以外のことでは不干渉』というのが契約の条件という話だから、吾妻Tに代わって俺から言わせてもらう!」

 

岡田T「エアグルーヴ、お前の理想とはこのまま生徒会長の椅子に縋り付いて終わっていいものなのか!」

 

岡田T「お前の理想は! ウマ娘の理想は! 長い人生と比べたらたった6年間の中高一貫校でも貫けないようなものなのか!」

 

和田T「“女帝”様には“皇帝”陛下ほどの威厳も人気もないんだから! “皇帝”陛下よりも長く現役を続けて“女帝”の生き様を庶民の心に刻みつけてやれよ!」

 

和田T「もういいじゃん! 十分に後進の育成はやってきたんだから! 最後の1年はバァーっとウマ娘らしくギラギラとした眼で“女帝”の凄さを知らない連中や忘れた連中に刻みつけるんだよ!」

 

 

和田T「でないと! 安心してシンボリルドルフは卒業していけないからあああ!」

 

 

エアグルーヴ「………………!」

 

トウカイテイオー「トレーナー……」

 

メジロマックイーン「そこまで前会長のことを……」

 

エアグルーヴ「わ、私は……、私の理想は…………」

 

トウカイテイオー「迷うぐらいなら走るべきだよ、エアグルーヴ」

 

エアグルーヴ「テイオー……」

 

メジロマックイーン「そうですわね。まだ会長は全力で走ることができるのですから」

 

エアグルーヴ「マックイーン……」

 

トウカイテイオー「仕事の方は……、そうだね、ネイチャやイクノあたりに手伝ってもらおうよ」

 

メジロマックイーン「それはいいですわね。学生寮の話ですもの、そこまで機密性の高い案件でもないですし、来期の生徒会役員候補をこれで探すのも悪くないと思いますわ」

 

エアグルーヴ「い、いいのか? 私は先代の後を継いで生徒会長を任された身だというのに、そんなことで?」

 

岡田T「ああ、やっぱりな」

 

和田T「やっぱり、そうなるか」

 

エアグルーヴ「な、何だ?」

 

岡田T「いつだったか、『会長にはもっと自分たちを頼って欲しい』って言ったことがあるじゃないか、エアグルーヴ? なあ、そんな愚痴を言ってたよな、テイオー?」

 

トウカイテイオー「うん!」

 

和田T「どうだ、『もっと自分たちを頼って欲しい』って言われる側になった気分は? 生徒会長:シンボリルドルフが抱えてきた不安や責任というものがわかったんじゃないか?」

 

メジロマックイーン「そうですわね。私もメジロ家のウマ娘として相応しくあろうと空回りすることが幾度となくありましたし、」

 

メジロマックイーン「生徒会長として相応しくあろうとするのは立派なことですが、ここは初心に帰って自分がトレセン学園で目指していた理想を思い出してはいかがでしょうか?」

 

エアグルーヴ「……そんなに? そんなに今の私は自分を見失っていたのか?」

 

トウカイテイオー「うん。ずっと“皇帝”シンボリルドルフに憧れて真似してきたボクでさえもなれなかったのに、全然 似てないエアグルーヴが 今更 真似したって変なだけだよ」

 

エアグルーヴ「…………真似か」

 

エアグルーヴ「………………」

 

エアグルーヴ「…………そうか」

 

 

エアグルーヴ「…………ありがとう。どうやら、私はずっと先代に対して劣等感を抱いていたようだ。だから、知らないうちに無理をしていたのかもしれないな」

 

 

和田T「まあ、ティアラ路線はどうしてもクラシック路線と比べると不人気だから、“クラシック三冠バ”だったウマ娘の後任ともなると嫌でも比較されることにはなるけどさ!」

 

和田T「でも、そんな前任者の“皇帝”シンボリルドルフが理想の形として秋川理事長と一緒に開催を実現させたのが『URAファイナルズ』なんだ!」

 

和田T「これからは短距離路線やダート路線の王者が生徒会長になったっていい時代が来たっていいんだよ! その嚆矢となるべく後事を託されたんだから!」

 

 

――――――走ってくれ、“女帝”エアグルーヴ! 理想のために! ウマ娘のために! シンボリルドルフのために!

 

 

さあ、ここからが『URAファイナルズ』の前座にしてどちらが夢の舞台(ドリームランド):トレセン学園の支配者に相応しいかを決める超時空の大決戦『皇帝G1七番勝負』である。

 

夢の舞台は大きな夢を思い描いて入学してきたウマ娘たちの夢が集まってできた場所であるが、いつしか夢破れて散っていった夢のカケラが積もり、それが怨念となって負の霊的磁場を生み出して夢の舞台で繰り広げられる数々の悲劇の温床になっていた。

 

それが妄念妄想の“影の支配者(real mastermind)”を具現化させることになり、ウマ娘ファーストの大義名分の下にトレセン学園の持続可能性を奪い取り、シンボリルドルフ卒業後の緩やかな破滅に繋がっているのだ。

 

けれども、その流れを変える権限を持っているのは生徒でしかないウマ娘ではなく、社会的責任能力と発言力があるトレーナーの側にあったのだ。

 

そう、少なくとも“女帝”エアグルーヴが筆頭の新生徒会役員を動かせるのはルドルフ世代の新人トレーナーだった者なのだ。

 

つまり、“天上人”鐘撞Tを中心に時代を切り開いてきた者たちや、時代の変化を側から見続けてきた者が、シンボリルドルフ卒業後のトレセン学園で一番の財産だったのだ。

 

ウマ娘の夢をトレーナーの情熱が具体的な形に仕上げていくわけであり、結果としては新生徒会役員を突き動かす原動力になるのがまだまだ若手の新人トレーナーだった者なのが、まさしく新しい時代を生み出す若者の力が芽吹いた瞬間である。

 

 

だから、和田Tに返却した“目覚まし時計”はもう動かない。時間の巻き戻しはもはや必要ないのだろう。

 

 

ネジを回しても日めくりカレンダーが頭の中に浮かんでこない“目覚まし時計”をまた私が預かることになるものの、これ以上の使用はないはずだ。

 

実際、『URAファイナルズ』開催を成功に導く最後の詰めとして、WUMA討伐作戦/奥多摩攻略戦以降に年が明けてから次々と襲いかかってきたWUMAに替わる数々の脅威への対抗策はすでにできあがっていた。

 

なので、これからVRシミュレーターの調整が完了次第、トレセン学園の乗っ取りを企むナチス残党の闇組織を叩き潰して、更なる未来から暗殺用人造人間(アンドロイド)が送り込まれる因果を断ち切り、学園裏世界で蠢く悪霊たちを鎮め、この世界の欲望の捌け口になってエクリプス・フロントに磔になってしまった第3の別世界のシンボリルドルフを解放することで、この世界のトレセン学園とシンボリルドルフの明日を救う死の行軍(デスマーチ)を開始する。

 

まだ『皇帝G1七番勝負』で2枠埋まっていないし、本当に“最強の七冠バ”シンボリルドルフに全員が勝てるのか気にかかるところだが、新人トレーナーの私にできることは少ないし、当日までに何とかなるだろう――――――。

 

そう楽観的に捉えて私にしかできないことをアグネスタキオン’(スターディオン)と果たしにいくのだから、きっと未来は明るい――――――。

 

 

――――――『全てはこの瞬間のためにある』のだと盲信して猪突しなければやってられるものか、こんなこと!

 

 

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