ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。


第二次決戦Ⅷ ああ、あれこそが 輝かしい うまぴょい伝説 -終結-

 

――――――目標:3月12日の卒業式から3月19日の修業式までの1週間の時間の牢獄を突破せよ!

 

 

そして、『URAファイナルズ』決勝トーナメントは無事に終了し、優駿たちの頂点が決まった。

 

全てが終わった頃、私は浜松市の遊園地から通じていた浜名湖底に存在するナチス残党の闇組織『アンシュルス』の秘密基地を爆破した後、日本支部最高幹部が逃げ延びた中田島砂丘まで追跡して、そこで討ち取ることに成功した。

 

もはや、相手がどれだけ人間離れした姿や能力を持っていようが関係ない。こっちには四次元能力が使える並行宇宙の支配種族“フウイヌム”から進化したスーペリアクラスがいて、それを起点に私も四次元能力が使えるのだ。文字通り次元が違うのだ。

 

そうなったら一気に懐に入り込んでC4爆弾でまとめて爆殺するなり、プラズマジェットブレードで一瞬で細切れにするなり、相手が状況を把握する前に一気に畳み掛けることなど いとも容易かった。いくら逃げても無駄である。

 

その戦いぶりは特撮番組の変身ヒーローみたいな最後には正義が勝つ勧善懲悪のプロレスなどではなく、ただの一方的な虐殺であり、敵を倒す効率性のみが追求された改造人間たちに対する屠殺業といってもいい。

 

しかし、相手が裏世界の妖怪と大差がないほどに見るも悍ましい改造人間たちとは言え、WUMAと同様に意思疎通可能な知的生命体を殺害して回る私はただの大量殺人鬼でしかなく、手に血がつかなくても心にこびり着いた断末魔の叫びが剣と惑星(Sword and Planet)の誉れを永遠に取り上げた。

 

なので、東京/府中のトレセン学園から遠く離れた静岡県浜松市の海岸でスーペリアクラスの純白の翼に包まれながらバケモノの膝の上で星空を空虚にずっと眺め続けることしかできなくなっていた。

 

それでも、『私がやるしかなかった』と自分自身に言い聞かせて頬から涙が伝い落ちた時、大きな流れ星が見えた。

 

 

浜名湖畔の遊園地を通じて浜名湖底に秘密基地を構えるナチス残党の闇組織『アンシュルス』の名の由来はかつてナチス・ドイツがオーストリアを併合した出来事を指す『接続』や『連結』を意味する普通名詞だったものが固有名詞化したものであり、

 

本来のナチス残党の闇組織も世界各地でそれぞれの組織名を名乗っていたところ、近年になってナチス残党の闇組織同士で世界規模の連携をとることに成功したことで、いずれは世界を1つにするという目的意識から『世界統一(アンシュルス)』という組織名になっていったらしい。

 

なぜその秘密基地が浜名湖にあるのかと言えば、かつて大戦中の遣日潜水艦作戦で日本に秘密裏に到着したUボートが日本の東西の中心となる浜名湖に意図的に自沈し、後年になってUボートに保管されたナチス・ドイツの禁忌の研究資料を回収することで極東の地でナチス復活の準備に取り掛かっていたという。

 

事実、浜松市の高度技術集積都市(テクノポリス)の開発には浜名湖に沈めたUボートの研究資料を回収するために集まったナチス残党の工作員の技術供与が多分にあったとされ、

 

ナチス残党の最大の逃亡先であった南米;とりわけ在留ブラジル人総数が全市町村の中で最も多く、在浜松ブラジル総領事館が置かれているぐらいであり、ナチス残党との繋がりは考えてみれば濃厚であった。*1

 

 

まあ、とにかく、そんな感じの話だった。夢の舞台:トレセン学園には何の関係もない話なのだし、私の功績など誰にも讃えられることもないのだから、必要以上に語ることもないだろう。

 

私は去年のWUMA殲滅作戦/奥多摩攻略戦ではエレベータートラップで使う機会がなかった誘導棒に擬態させた使い切りの超強力パワーセルによるプラズマジェットブレードを惜しみなく投入し、製作が比較的簡単な多種多様な擲弾(グレネード)に加えて、暴徒鎮圧銃(ライオットガン)を乱射して改造人間相手に先手必勝で制圧していった。

 

だが、相手はウマ娘の身体能力をヒトの肉体に再現しようとして禁忌の改造手術に手を出していった結果、ウマ娘の再現のみならず、生物や機械と融合させた奇怪な改造人間を次々と生み出しており、初見でそれらの冒涜的とも言える超常的存在から繰り出される不意打ちに対応しきれるわけがなく、間一髪となった瞬間だった。

 

 

間一髪で私の命を救ってくれたのはまたもやNINJA:斬馬 剣禅であり、奥多摩攻略戦の時といい、本当に絶体絶命の時に窮地を救ってくれるのだから、私にとって最高のボディガードとなっていた。

 

 

やはり、世界が認める世界最強の諜報員:NINJAは格がちがい、浜名湖底の秘密基地を爆破して命からがら地上に這い出た時も、我先にと逃げ出した日本支部最高幹部の追跡を私たちに任せて、まだ遊園地に詰めていた改造人間たちにたった一人で敢然と立ち向かっていったのだ。

 

それから、全ての後始末をつけたのか、NINJAも後から浜松市の海岸にやってきて、有翼一角獣(アリコーン)の怪人:ウマ女が正体のバケモノの膝に頭を乗せる私の隣に寝そべって星空を見上げた。

 

やはり、多勢に無勢で、単身で地上の改造人間たちを始末してきたとは言え、所々に服装の乱れが生じていたのだが、まったく血痕がついていないどころか深く抉れた傷痕が木材の破片のように非生物的に見えたのは星明かりの薄暗さのせいなどではなかった。

 

そして、新設レース『URAファイナルズ』限定仕様のまったく同じ構造の複数の特設ライブ会場による【短距離】【マイル】【中距離】【長距離】【ダート】の5部門同時ウイニングライブがURA史上最高の視聴率と再生数を叩き出したという速報が流れ、“皇帝”シンボリルドルフの悲願が完遂されたことに達成感を覚えて眠りに就いた。

 

そういえば、都内のホテルで開催された『URAファイナルズ』決勝トーナメント観戦プログラムの前座となった『皇帝G1七番勝負』の結果はどうなったのだろうか――――――。

 

『URAファイナルズ』の成功もそうだが、新生徒会役員がシンボリルドルフの時代から独り立ちしていくための通過儀礼『皇帝G1七番勝負』で全員が“最強の七冠バ”シンボリルドルフに勝ってもらわないと、安心してシンボリルドルフが卒業していけないのだが――――――。

 

 


 

 

●4周目:3月17日 ……『URAファイナルズ』決勝トーナメント翌日

 

――――――トレセン学園/元 岡田Tのトレーナー室

 

アグネスタキオン「ほら、いつまで寝ているんだ。起きたまえ。そして、私に紅茶を淹れてくれよ」

 

斎藤T「う、うぅん……?」

 

斎藤T「ここはトレーナー室……?」

 

マンハッタンカフェ「あ、目が覚めましたか」

 

マンハッタンカフェ「どうぞ、コーヒーミルクです」コトッ

 

斎藤T「ああ、ありがとう……」ゴクッ

 

アグネスタキオン「こら! きみは私のトレーナーだろう! なら、私の嫌いなコーヒーなんか飲むんじゃない!」

 

斎藤T「だったら、自分で紅茶を淹れればいいじゃないか……」

 

アグネスタキオン「あのねぇ! いくらメイクデビュー前で全盛期のトウカイテイオー並みの能力があるにしても『皐月賞』のシンボリルドルフを相手に死力を尽くしてきた私に対して労る心はないのかい!」

 

斎藤T「……そんなことを言って、お前は初戦の『皐月賞』でも、マンハッタンカフェは最後の『宝塚記念』のシンボリルドルフと対決したわけなんだが」

 

マンハッタンカフェ「まあまあ、斎藤Tも『URAファイナルズ』決勝トーナメントの一日を私たちとはちがう場所で人知れず人類の平和と自由のために戦ってお疲れなんですから、たまにはタキオンさんの方から労ってあげたらどうですか?」

 

アグネスタキオン「だ、だって! こういう時でもないと、忙しさにかまけて私の言うことを聞いてくれないじゃないかい! 私のトレーナーなのにぃ!」

 

アグネスタキオン「ほら、もっと私にかまえぇ! 労れぇ!」

 

斎藤T「わかったわかった。本当にいろんなことがあったもんなぁ……」

 

アグネスタキオン「そうだ。きみは担当ウマ娘のことをほったらかしにし過ぎだ」

 

アグネスタキオン「だから、部活棟の実験室で3人で()()()()()()と楽しくやっていた時のようにさ」

 

 

――――――ここで髪を洗えとは言わないから、せめて髪を梳いてくれよ。

 

 

マンハッタンカフェ「あの、“お友だち”から何があったのかは聞きました。本当におつかれさまでした」

 

斎藤T「そう言ってくれる人がいるだけで心が軽くなるな」

 

アグネスタキオン「おい、手を止めるな。もっとぉ……」ナデナデ

 

マンハッタンカフェ「その様子だと昨日の『URAファイナルズ』の結果はまだですよね」

 

マンハッタンカフェ「どうぞ。今日のスポーツ新聞に『URAファイナルズ』全レースの結果が載っています」

 

マンハッタンカフェ「すでに学内の掲示板に貼られていて、売り切れ続出になってましたけど、“お友だち”がそうなる前に買うように言ってくれたおかげで、ここに」

 

斎藤T「ああ、ありがとう……」バサッ

 

アグネスタキオン「こら~!」

 

斎藤T「ああ、やっぱり、【長距離部門】はミホノブルボンが優勝か。準優勝:ライスシャワー、準々優勝:ハッピーミークか……」

 

アグネスタキオン「もう!」プクゥ!

 

アグネスタキオン「いいさ! きみの状況把握が済んだら、いっぱいかまってもらうから!」フン!

 

マンハッタンカフェ「本当に凄い世代です。【短距離部門】のサクラバクシンオーの優勝もそうですが、」

 

マンハッタンカフェ「同じ“無敗の三冠バ”シンボリルドルフよりも長く走り続けて、その“皇帝”が主導した『URAファイナルズ』の初代チャンピオンにまで昇りつめたことで、史上最強の称号は“サイボーグ”ミホノブルボンのものになったと話題が持ちきりです」

 

アグネスタキオン「ああ、一部では“サイボーグ”から進化して“皇帝”の地位を継承して“機皇帝”と呼ばれているのだとか」

 

マンハッタンカフェ「――――――『これでシンボリルドルフの時代は終わり、次なる時代がやってきた』のだと、世間では言われています」

 

斎藤T「そうなんだ」

 

アグネスタキオン「で、【マイル部門】で“幻の三冠バ”フジキセキが見事優勝ということで、栗東寮では朝から祝杯の騒ぎだよ。こっちとしてはいい迷惑だよ」

 

斎藤T「それで、【中距離部門】はビワハヤヒデ優勝。準優勝:ナリタブライアン。準々優勝:ヒシアマゾンか……」

 

アグネスタキオン「こっちもこっちで美浦寮も祝杯で、寮で対抗して見せつけるように派手な祝勝会を開いている始末でねぇ」

 

マンハッタンカフェ「でも、ハヤヒデさんとブライアンさんの最強姉妹対決は名勝負として語り継がれる大接戦でしたよ」

 

アグネスタキオン「その勝敗を分けたのが元担当トレーナーからの声援っていうのもなかなかに感動的じゃないか」

 

斎藤T「お」

 

斎藤T「これって、ピースベルT――――――」

 

アグネスタキオン「感極まったハヤヒデくんがね、今まで影も形もなかった芦毛で長身の謎のスレンダー美人に抱きつく姿が全国放送されて、その正体についてネットでは大論争が夜を徹して続けられているみたいだねぇ」

 

アグネスタキオン「まさか、ハヤヒデくんの元担当トレーナーにして黄金期を支えた三巨頭:有馬一族の御曹司がナチス残党の闇組織にウマ娘化の改造手術を受けた姿とは夢にも思うまい」

 

マンハッタンカフェ「でも、ハヤヒデさんと鐘撞Tの抱擁をブライアンさんとヒシアマゾンさんが温かい祝福を送っている画になっていますし、そこまで詮索されることはないかと思います」

 

斎藤T「たしかに、記事だと無難な表現で【中距離部門】初代チャンピオンになったビワハヤヒデの歓喜のシーンとして掲載されているな」

 

斎藤T「そうか。よかった。『URAファイナルズ』は大成功に終わったんだな……」

 

マンハッタンカフェ「はい。明後日:週明けの修業式の後に『URAファイナルズ』開催成功記念パーティーが行われます」

 

マンハッタンカフェ「斎藤T、あなたは『URAファイナルズ』開催を陰ながら支え続けた最大の功労者です」

 

 

マンハッタンカフェ「ですので、『あなたの隠れた功績を讃えたい』とミホノブルボンの才羽T、ライスシャワーの飯守T、ハッピーミークの桐生院Tの連名で理事長に訴え、あとは斎藤T本人の参加の意思表示によって感謝状の授与式が行われることになるのですが、出席なさいますか?」

 

 

斎藤T「いや、気持ちだけで十分だ。今の私はその舞台には相応しくない」

 

斎藤T「どれだけ必要なことだとしても下水処理場やゴミ処理場で働く人間を公の場に呼び出して市長に顕彰されるのは眩しすぎるというか、日光で貧血症になるような感じがしてダメなんですね……」

 

斎藤T「ましてや、私は『URAファイナルズ』と時同じくして たくさんたくさん 殺したよ。断末魔の叫びを浴びてきたよ」

 

斎藤T「だから、今は気持ちだけでいっぱいいっぱい。興味本位で関わってこようとする人間が増えることがこちらとしては迷惑だから、しばらくは戦場の高揚感と罪悪感が収まるまでのんびりしていたい」

 

斎藤T「これでも冠婚葬祭の一切を執り行える祭司長の資格を持っていますから。自分が犯した罪穢れを祓うまでは私自身が穢れの塊なので、人前に出るのは大変よろしくない」

 

マンハッタンカフェ「……そうですか」

 

アグネスタキオン「……ああ」

 

 

斎藤T「ただ、私のことをよく理解してくれている協力者の方々だけとなら、一緒に新しい時代を迎えることができたことを盛大に祝えるから」

 

 

マンハッタンカフェ「……わかりました。トレセン学園の『URAファイナルズ』開催成功記念パーティーの出席は欠席ということでお伝えしておきますね」

 

斎藤T「ありがとう。そして、ごちそうさま」

 

マンハッタンカフェ「いえいえ。私も感謝していますから」

 

マンハッタンカフェ「それでは、また後ほど。斎藤T」

 

 

ガチャン・・・

 

 

斎藤T「………………」

 

アグネスタキオン「……ほら、早く」

 

斎藤T「うん?」

 

アグネスタキオン「今から髪を洗いに行く~!」

 

斎藤T「……そうだな。私も昨日からこの格好だし、百尋ノ滝に行くか」

 

アグネスタキオン「……まったく、また無茶ばっかりして」

 

アグネスタキオン「……きみは私のトレーナーなんだぞ。メイクデビューだってまだ先なのに、どうして私を置いてけぼりにするんだ」

 

アグネスタキオン「……きみが私を日の差さない実験室の外に連れ出しんたんだからな。それで『一緒に星の海を渡ろう』って誘ってさ」

 

アグネスタキオン「……もう本当に必死だったんだからな、『皇帝G1七番勝負』!」

 

アグネスタキオン「……()()()()()()からの情報やトウカイテイオーの全盛期並みの能力があるから『皐月賞』の時のシンボリルドルフぐらい軽く蹴散らせると思っていたら、想像以上に苦戦することになってさ!」

 

アグネスタキオン「……おかげで、一番勝負『皐月賞』の時点で敗けることになったら、もうね!」

 

アグネスタキオン「……だから、生まれて初めてと思うぐらいに久しぶりに死力を尽くして走ったよ」

 

アグネスタキオン「……それこそ、VRシミュレーターじゃなかったら、完全に脚が使い物にならなくなるぐらいの大接戦で、最後の写真判定で勝ちを拾った時はもう全身の力が抜けて立ってられないぐらいにね」

 

アグネスタキオン「まあ! そのおかげで、デビュー前の時点でシンボリルドルフ相手にVR上で勝利を収めるだけの実力があることを競バ場に詰めかけるほどではない家族連れにアピールすることができたんだ! これでグランプリ出走のためのファン数を事前に大いに稼げたがね!」

 

アグネスタキオン「それで、写真判定で勝った瞬間の大歓声と拍手が本当に凄くてね……」

 

斎藤T「そうか。よくがんばったな」

 

アグネスタキオン「でも、そこにはきみはいなかったんだ……」

 

アグネスタキオン「そうだとも、きみは()()()()()()を連れて吾妻Tの体内に埋め込まれていた監視装置から逆探知して闇組織を壊滅させに行っていたんだ。それを止めることなんて私にはできなかった……」

 

 

アグネスタキオン「だから、きみが帰ってくるのをクリスマスの時と同じようにこうして待つことになったんだぞ

 

 

斎藤T「………………」

 

アグネスタキオン「……安心したまえよ。『皇帝G1七番勝負』は我々の完全勝利だよ。全員が“最強の七冠バ”シンボリルドルフに打ち勝つことができたんだ」

 

アグネスタキオン「だから、きみが想像するような未来はもうやってこない」

 

アグネスタキオン「エアグルーヴも『有馬記念』のシンボリルドルフとの対決に全身全霊で勝ちに行って“皇帝”の後を継いで新しい理想の時代を築き上げる“女帝”としての決意を見せつけてくれた」

 

アグネスタキオン「もちろん、()()()()()()からの何千通りのシミュレーション結果と出走したウマ娘全員の思考分析から編み出された必勝法が提示されていたからなんとかなったところもあるわけだが……」

 

アグネスタキオン「何というのか、写真判定の大接戦の末に一番手の私が勝ったことに勇気づけられた二番手のテイオーくんが『日本ダービー』で全盛期の肉体と全盛期を超えた精神で2バ身差でシンボリルドルフに勝ったことで流れが完全にこちらに来てね……」

 

アグネスタキオン「まさしく“帝王”の走りだったよ。岡田Tが天まで届くんじゃないかと思うぐらいの大絶叫を上げたのに釣られて、新生徒会が中心の『皇帝G1七番勝負』という前座は『URAファイナルズ』を前にして会場全体が最高の熱狂に包まれていた……」

 

アグネスタキオン「だから、新生徒会の実力と威厳というやつはしっかりと見せつけられたんじゃないかと思う。それが大きな自信に繋がったことを大観衆の大歓声の中で確かめることができたからねぇ」

 

斎藤T「それが聞けてやっと安心した」

 

アグネスタキオン「ああ。だから、安心して私のことを存分に労っておくれよ」

 

斎藤T「わかった」

 

 

ズドドドドドドド! ガチャ!

 

 

斎藤T「!」

 

アグネスタキオン「む!」

 

ゴールドシップ「ゴルシちゃん運送で~す! 配達する荷物はこちらですね! それでは、遠慮なくお運びしま~す!」バサッ

 

斎藤T「おわっ!?」ズボッ ――――――麻袋に入れられる!

 

アグネスタキオン「な、何をするんだい、きみはああああ!?」

 

ゴールドシップ「おっと、文句は依頼人に言いな」ヒョイ!

 

ゴールドシップ「じゃ、またな~!」ヒュン!

 

アグネスタキオン「ま、まてええええ! 私のトレーナーくんをどこに連れて行く!? まだ髪を洗ってもらってないんだからあああ!」ガバッ!

 

 

ズドドドドドドドドドドド・・・!

 

 

――――――トレセン学園/生徒会室

 

ゴールドシップ「待たせたな! 主役のご登場だ~い!」ドサッ

 

斎藤T「……帰ってきたばかりなんだから身形を整える時間ぐらいくれよ」

 

アグネスタキオン「まったくだよ! せっかくトレーナーくんに髪を洗ってもらえるはずだったのに……!」

 

 

エアグルーヴ「それはすまなかった。だが、今日ぐらいしか予定が空いてなかったものでな……」

 

 

斎藤T「こ、ここは生徒会室……?」

 

エアグルーヴ「ああ、ささやかながら生徒会で『皇帝G1七番勝負』の祝勝会をやろうと思ってな」

 

エアグルーヴ「意識不明の重体から目覚めたあなたが誰よりも先代のことを陰ながら支え続けていたことに感謝の意を示したいのだ」

 

アグネスタキオン「ああ、カフェだね? 言質を取ったということで私たちが外出する前にゴールドシップくんを使って無理やり連れてきたというわけか」

 

マンハッタンカフェ「まあ、そういうことです。なので、軽くお腹を満たすコーヒーミルクだけ出しました」

 

ゴールドシップ「にしても、昨日はどこで何やっていたんだ~? ステルスゲームのスニーキングスーツみたいじゃんかよ、それ?」

 

トウカイテイオー「かっこいいよね~!」

 

メジロマックイーン「そうですわね。『URAファイナルズ』決勝トーナメント観戦プログラムの前座として用意していただいたVRシミュレーターの完成度と言い、VR上で全盛期の肉体を取り戻した時の感動と言い、本当に規格外の御方ですわね」

 

ゴールドシップ「というか、いろんな臭いが混じっているんだけど? 潮の香りもするし、普通の人間じゃ絶対に嗅ぎなれないようなアブナイ臭いもいろいろしてくるぜ?」

 

斎藤T「なら、一旦仕切り直しとして着替えてきましょう。これは刺激的でしょうから」

 

エアグルーヴ「そうだな。何の臭いかはわからないが、さすがにこれは鼻につくな……」

 

 

シンボリルドルフと秋川理事長が導いた黄金期の総決算となる新設レース『URAファイナルズ』決勝トーナメントの翌日、私は気づくとトレセン学園のトレーナー室でバスタオルの上に寝かされていた。

 

たしか、浜松市の海岸でNINJAと一緒に星を眺めていたはずなのだが、あの後 アグネスタキオン’(スターディオン)が時間跳躍でここまで運んでくれたと見るのが妥当か。

 

なので、ナチス残党の闇組織『アンシュルス』の秘密基地に特攻を仕掛けるためのコンバットスーツを着たままの状態であり、改造人間たちを容赦なく一網打尽にするための装備品や一方的な大量殺戮でこびり着いた異臭をまとっているため、その嗅ぎ慣れない異臭にエアグルーヴが顔を顰めていたので一旦戻って着替えてくることになった。

 

しかし、新生徒会長:エアグルーヴの表情は一目見ただけでも別人に見えるぐらいに晴れやかで自信に満ちたものとなっており、こうしてささやかながらも生徒会室で祝勝会を開いてくれるぐらいには心の余裕が持てたようだ。

 

同時に、中央競バ『トゥインクル・シリーズ』を卒業している副会長:ナリタブライアンを除く新生徒会役員の結束が固くなったことも実感でき、先代から引き継いだ仕事に対する意欲も非常に高まっていた。

 

もはや、そこには偉大なる“皇帝”シンボリルドルフの姿を求める不安な雰囲気はどこにもなく、自分たちもまた“皇帝”シンボリルドルフと同じように、新しい時代の先頭に立って力を合わせて道を切り拓いていく決意がみなぎっており、生徒会室には新時代への希望が満ちていた。

 

 

斎藤T「おまたせしました」サッパリ!

 

エアグルーヴ「うん」

 

エアグルーヴ「では、あらためて『皇帝G1七番勝負』の祝勝会を始めるとしよう」

 

エアグルーヴ「乾杯!」

 

ゴールドシップ「いえええええええええええええい!」

 

トウカイテイオー「ぃやっほーーーーー!」

 

メジロマックイーン「パクパクですわー!」

 

アグネスタキオン「いやはや、生徒会役員じゃない私たちが生徒会室に当たり前のようにいるようになるとは、世の中 わからないものだねぇ」

 

マンハッタンカフェ「そうですね。でも、不快なことじゃないです」

 

エアグルーヴ「そこ、2人は先代が特に気にかけていたウマ娘だからこそ、私も気にかけているわけだが、あまり面倒事を起こすなよ」

 

エアグルーヴ「斎藤Tもな。私は先代ほどは甘くはないからな」

 

斎藤T「はい」

 

 

エアグルーヴ「ただ、先代のことも含めて本当に感謝しています」

 

 

エアグルーヴ「このまま ただの生徒会長として最後の1年を終わるのかとあきらめていた時、理想を追い求める“女帝”の在るべき姿を思い出すことができました」

 

エアグルーヴ「ですので、後進の育成も、生徒会長職も、ウマ娘レースも、全てやりこなす“女帝”として最後の1年をやりつくそうと思います」

 

ゴールドシップ「そいつはまるで“皇帝”シンボリルドルフと“万能”ビワハヤヒデの在り方を足して2で割ったみたいな感じだな」

 

エアグルーヴ「言われてみると、そうかもしれないな」

 

 

エアグルーヴ「私はトレセン学園の生徒として、そして、ウマ娘らしく最後は『URAファイナルズ』で有終の美を飾ってみせる!」

 

 

エアグルーヴ「だから、すまないが、先代と比べてろくに生徒会活動ができないかもしれないが――――――」

 

トウカイテイオー「そんなの、別にいいよ、会長! ボクだって、“皇帝”シンボリルドルフのようにみんなから憧れるウマ娘になるために、“皇帝”がしてきたことを精一杯にがんばっていくから!」

 

メジロマックイーン「ええ。まだ“女帝”は健在なのですから、最後まで走り抜いて、トレセン学園の新たな時代の先頭に立ってくださいませ」

 

 

エアグルーヴ「ありがとう、テイオー、マックイーン。私は幸せ者だな」

 

 

斎藤T「……これなら大丈夫そうだな。よかった」ホッ

 

トウカイテイオー「ねえねえ、斎藤T! またあのシミュレーターを使わせてもらえる? やっぱり、全盛期のあんなにも動ける身体の感覚はたまらないんだよね!」

 

ゴールドシップ「なあなあ、いいだろう? ゴルシちゃんにも遊ばせてよ~!」

 

斎藤T「それは無理な相談」

 

メジロマックイーン「それはどうしてですの? 何か技術的な問題があるのでしたら、メジロ家が最大限の支援をいたしますわよ?」

 

斎藤T「公平性と倫理性の2つの問題を抱えているから、学外の非公式イベントで使うぐらいならいいです」

 

ゴールドシップ「――――――『公平性と倫理性』ってのは?」

 

アグネスタキオン「つまりはね、いくら『レースでは結果が全て』とは言っても、実戦に限りなく近いシミュレーターを利用できたら圧倒的に有利に立てるわけだろう? 過去の名バとの模擬レースすらセッティングできるわけだしね」

 

アグネスタキオン「そうなると、世界最先端のトレーニング環境が与えられている上で勝利へのアプローチの仕方は個々人の自主性に委ねているトレセン学園であっても、さすがに今回のVRシミュレーターなんてものが導入されたら利用者が殺到するようになるのは容易に想像がつくだろう?」

 

エアグルーヴ「ああ。全盛期の自分を取り戻せた感覚はウマ娘として歓喜に満ちた瞬間でもあったし、過去の名レースの設定をイジって天候や枠順をランダムにしてゲートインできるシステムもシミュレーターとしてはなかなかの完成度だった――――――」

 

アグネスタキオン「そして、負けた者は口々に『シミュレーターを利用できなかったから負けた』と言うようになるだろう。勝敗を分かつ条件がシミュレーターだと、誰も実力差や時の運によるものだと言わなくなることが問題になるんだ」

 

エアグルーヴ「……そうか。たしかに総生徒数2000名弱のウマ娘たちが利用できるだけのシミュレーターを用意できるわけもないし、誰だってあのシミュレーターを一番に使いたいと言うだろうから、それはそれで現実での結果を疎かにしてしまうだろうな」

 

斎藤T「そうです。VRの便利さに慣れて現実世界を軽視するようになったら、何のために身体を鍛えて雨の中の重バ場で泥まみれになりながらも懸命にゴール板を一番に目指すのかがわからなくなります」

 

斎藤T「要するに、仮想現実(VR)が本物の現実に取って代わり、究極のウマ娘レースシミュレーターが利用者のほとんどをVR依存症に陥れる危険性があるわけです」

 

メジロマックイーン「――――――『依存症』ですか。たしかにそれは由々しき問題ですわね」

 

ゴールドシップ「たしかになぁ。レースのご褒美で食べても太らないスイーツなんてVRでもらえたら、マックイーンが現実世界に帰ってこれなくなるもんなぁ」

 

メジロマックイーン「ど、どういうことですの!?」

 

アグネスタキオン「そうだねぇ、VRでならば現実世界で飲食をしているわけではないから、いくらでもVRで食べる体験ができるわけだけど、」

 

アグネスタキオン「その実感(リアリティ)はそのまま仮想現実と現実を結びつけている脳に持ち越されてしまうから、場合によっては摂食中枢と満腹中枢のバランスが破壊されて過食症や拒食症になる危険性があるよ」

 

メジロマックイーン「そ、そうなんですのぉ!? VRでも食事制限がつくわけなんですかぁ!?」

 

アグネスタキオン「我々が何かを感じるということはそういった機能の脳内物質が分泌されているわけで、VRであってもそれは絶対に変わらないわけだから、気をつけたまえよ」

 

トウカイテイオー「あ、そっか。VRでそこまで再現できたら、怪我をして走れない子なんか特に現実世界に帰りたくなくなるよね。VR依存症にもなるわけだよ」

 

斎藤T「ですから、いずれはVRが日常生活に普及していくつもの人生を同時進行していく多層現実が実現すると仮定して、怪我で引退したウマ娘たちもVRシミュレーターによって五体満足で出走できるようなeスポーツとして開催すべきだと私は考えます」

 

マンハッタンカフェ「VRシミュレーターによるウマ娘レースはオリンピック競技とパラリンピック競技みたいな明確な分類が必要というわけですね」

 

エアグルーヴ「でないと、公平性や倫理性の問題が出てくるというわけか。これまた難しい問題だな」

 

斎藤T「参考までに、この現実世界をVR0:ユニバースと数えて、そこから仮想現実を条件や世界観に応じてナンバリングしてVR1、VR2、VR3……と数えていき、それぞれの仮想現実の規格に応じたキャラメイクのアバターを使い分けることで多層現実社会は運営されていくんですよね」

 

斎藤T「なので、今回のVRシミュレーターを使ったウマ娘レースはVR1の規格のキャラメイクのアバターのみが出走可能で、現実世界はVR0:ユニバースの規格のキャラメイクのアバターのみが出走可能という考え方ができるわけなんですよ」

 

斎藤T「そして、使い慣れたアバターを他のVR世界に持ち込む際はコンバートすることで、最小限の労力で他のVR世界の規格に沿ったキャラメイクができるわけです」

 

斎藤T「今回の『皇帝G1七番勝負』もまた、現実世界であるVR0:ユニバースで作成されたアバターをVR7にコンバートしたものと考えれば、一時的に中央競バ『トゥインクル・シリーズ』から移籍して仮想現実のレースに出走した感じに捉えるはずです」

 

エアグルーヴ「なるほど。現実世界をVR0:ユニバースと数えることで、現実世界と仮想現実のレースの出走資格を明快に比較できるようになるわけなのか」

 

斎藤T「でも、こちらとしてもより完成度を高めるための利用データは欲しいのでESPRITの目玉企画として定期的に実地試験は開催するつもりです」

 

 

――――――そう、名付けるなら『レジェンドレース』として過去のスターウマ娘の名レースに挑戦するものにしましょうか。

 

 

ゴールドシップ「――――――『レジェンドレース』か。イカしてるな、それ」

 

トウカイテイオー「つまり、ボクたちが挑むことになった『皇帝G1七番勝負』が雛形だね」

 

アグネスタキオン「なるほど。過去のレース動画を読み込んで立体的に再現するだけでもかなりの調整がいることだし、そういう名目なら腕試しとしてVRシミュレーターの利用に対して公平性と倫理性が保たれるわけだね」

 

斎藤T「こっちとしては一方的に利用データが得られるということで一切損がないわけです」

 

斎藤T「で、その際のVRシミュレーターの優先出走権は故障者に配ろうかと思います」

 

メジロマックイーン「それはいいアイデアだと思いますわ」

 

トウカイテイオー「そうだね。故障でレースに出走できなくなった子や活動休止から復帰する子のリハビリとしてはうってつけだもん」

 

斎藤T「このように、ESPRITの活動はトレセン学園の特徴である世界最先端のトレーニング環境を提供するという趣旨に則って学園が抱えている問題を解決するソリューションを提供するわけなんです」

 

斎藤T「私はESPRITの実質的な創設者ですが、公平な機会の提供のために女代先生を顧問にして誰の味方でもない立ち位置にいないといけませんので、」

 

斎藤T「生徒会の皆さんは生徒たちの代表機関として、ESPRITが提供するソリューションが本当にトレセン学園の問題解決に繋がるものなのかを生徒たちの側に立って審議して欲しいのです」

 

斎藤T「ソリューションを実際に採用するかどうかは決裁権を持つ理事会の判断なので、利用者としての率直な意見や請願を積極的に理事会に上げて採用の後押しをしてください」

 

斎藤T「ここにいるアグネスタキオンとマンハッタンカフェが部員ですので、生徒会とのパイプとしてご活用ください」

 

アグネスタキオン「まあ、そういうことだから」

 

マンハッタンカフェ「これからよろしくお願いします」

 

エアグルーヴ「ああ、よろしく頼む」

 

 

ゴールドシップ「おっしゃあああ! こんな面白そうな部活があるなら、ゴルシちゃんも入部させろ! そうしたら生徒会室からマックイーンを連れてESPRITに毎日遊びに行けるぜ!」

 

 

斎藤T「なに!?」

 

メジロマックイーン「ゴールドシップさん!?」

 

トウカイテイオー「ちょっと! 遊び呆けるのはやめてよね!」

 

エアグルーヴ「……おい、一気に不安になってきたぞ」

 

 

――――――だが、先代が卒業することで私が生徒会長としてやっていけるのか不安に苛まれていたのとはちがった将来に対する期待があるな、この不安は。

 

 

 

 

 

ゴールドシップ「いや~、新生徒会の打ち上げパーティーは楽しかったな!」

 

ゴールドシップ「この後は大人だけの打ち上げパーティーもやるんだろう? アタシも仲間に入れてくれよ~!」

 

斎藤T「………………」

 

ゴールドシップ「……それで、斎藤T? アタシに何か話があるんだろう?」

 

斎藤T「単刀直入に言う」

 

斎藤T「あなたは半人半霊(エンティティ)なのか?」

 

ゴールドシップ「――――――『エンティティ』? 何だ、そりゃあ?」

 

斎藤T「先程の仮想現実で言えば、ゴールドシップ、あなたはこの世界であるVR0:ユニバースで生まれ育った存在ではないな?」

 

斎藤T「おそらくは、VR564辺りの別世界からVR0:ユニバースにアバターを飛ばしてきているのではないか?」

 

ゴールドシップ「……どうしてそう思った?」

 

斎藤T「仮想現実というわけではないが、私は卒業式の後にここではない可能性の世界をいくつも巡ることになった」

 

斎藤T「その中で、極めてこの世界に近い別世界が存在していて、同じように黄金期の主導してきた“皇帝”シンボリルドルフの精神世界に存在した『一度 顔を見たら忘れない』という特技が反映された6年間の在学生名簿と退学者名簿の中に、ゴールドシップ、あなたの写真は1つもなかった」

 

斎藤T「そもそも、元からあなたの存在感には違和感を覚えていた」

 

斎藤T「あなたはトレセン学園の生徒でありながら学年不詳で実績や個人情報が完全に秘匿され、そのことに対して誰も疑問に思わないことが、自身の存在感を自在に薄めたり濃くしたりして世界全体に及ぼす強力な認識阻害ができる半人半霊(エンティティ)であることの何よりの証拠だ」

 

ゴールドシップ「へえ」

 

ゴールドシップ「そっか。ついにバレちゃったか」

 

ゴールドシップ「そりゃあ、そうだな。アンタは三ヶ月の意識不明の重体の後に人が変わっちまったことだしな」

 

斎藤T「………………!」

 

 

ゴールドシップ「そう、このゴールドシップ様が実はゴルゴル星からやってきた女神ゴルーシアだって驚愕の真実にな!」

 

 

斎藤T「――――――『ゴルゴル星』! ――――――『女神ゴルーシア』!?」

 

斎藤T「……競走ウマ娘の皇祖皇霊たる三女神とは別系統の女神か!?」

 

斎藤T「それで何が目的だ? 次元の壁を越えて別世界に仮初の肉体(アバター)をもって干渉しだす半人半霊(エンティティ)になるのは大抵は元の世界にないものを求めて現実逃避している輩が多いわけだが?」

 

ゴールドシップ「なるほど、それがアンタの半人半霊(エンティティ)の定義ってやつか」

 

ゴールドシップ「なら、そいつは半分正解で、半分ハズレだぜ、斎藤T?」

 

斎藤T「……なら、“ゴルゴル星の女神”ゴルーシアの化身:ゴールドシップとして明確な目的をもって地上に顕現していると?」

 

ゴールドシップ「そういうことだぜ、旦那」

 

 

ゴールドシップ「というより、アンタもアタシと()()()()じゃないのか?」

 

 

斎藤T「………………」

 

ゴールドシップ「アンタも実はアタシと同じ神様の位を持っているような偉い存在が“斎藤 展望”に乗り移っているんじゃないのか?」

 

ゴールドシップ「でなけりゃ、去年のシーズン後半に目覚めてからの超人的な活躍の数々への説明がつかねえもんな。学園一の嫌われ者が一転して生徒会から一番信頼されて学園に大きな影響を与えつつある第三者(フィクサー)になっているもんな」

 

ゴールドシップ「まあ、おかげでアタシはアンタの存在によって良い方向に変わり始めるトレセン学園の様子を間近に見て楽しめるわけなんだけどさ」

 

ゴールドシップ「何より、マックイーンやテイオーを救ってくれたことにアタシは感謝感激なんだからよー!」

 

斎藤T「……女神の化身なのに救ってやらないのか?」

 

ゴールドシップ「……いろいろとあるんだよ、ゴルゴル星にもな」

 

斎藤T「……そうか」

 

ゴールドシップ「そんじゃな~。今日はしっかりと休んで、修業式にちゃんと間に合わせろよ~」

 

斎藤T「もちろん、そのつもりだ」

 

斎藤T「けど、いつかは力を貸してくれるよな、“ゴルゴル星の女神”ゴルーシア?」

 

ゴールドシップ「ああ。その時が来たらな」

 

 

――――――それでさ、斎藤T? 思うんだけどさ、英雄譚や建国記で一番に面白いところってのは英雄になるまでの過程や建国を果たすまでの過程の波乱万丈じゃね?

 

 

 

 

――――――百尋ノ滝の秘密基地

 

ピースベルT「それじゃあ♪ 『URAファイナルズ』の大成功と『皇帝G1七番勝負』の完全勝利を祝して♪」アハッ

 

ピースベルT「乾杯♪」ニッコリ

 

一同「乾杯!」

 

和田T「うわ! なにこれ!? メチャクチャ美味しいんですけど!? いいの、こんなに高そうなワインを飲ませてもらっても!?」

 

ピースベルT「いいのいいの♪ 人生で最高に幸せな気分だから♪ みんなもそうでしょう♪」フフッ

 

斎藤T「ロマネ・コンティ。世界一高値で取引されるフランスワインであり、飲むよりも語られる事の方が多いワインか」

 

岡田T「いや~、何もかも無事に終わってホッとしましたな!」

 

和田T「そうそう! 『URAファイナルズ』決勝トーナメントの前座に持ってきた『皇帝G1七番勝負』が失敗に終わったらどうしようと思って最後までハラハラさせられっぱなしで!」

 

吾妻T「過去の記録映像から起こした全盛期の生体データとの追体験(シンクロ)とそれぞれのG1レースでの“皇帝”の走りや状況から編み出された必勝法が提示されていなかったら、取っ掛かりがなくて完全にお手上げでしたからね~」

 

斎藤T「そうですね。それだけ有利な条件を整えても初戦『皐月賞』でいきなり企画が終了するかもしれなかったわけですからね。対策ができても辛勝な辺り、さすがは“皇帝”と褒めるべきですかね」

 

アグネスタキオン「結果としては勝ったんだから、そのことはもういいだろう!?」

 

吾妻T「でも、写真判定に縺れ込むほどの大接戦が後続の方々の慢心を戒めて闘志を燃え上がらせたわけですから、先鋒としての立ち回りは満点でしたよ~」

 

岡田T「いや、しかし! やっぱり俺のテイオーは最強だったんだ! 『日本ダービー』での走りが完全に“皇帝”を超えていたということがあらためて証明されたことが最高に嬉しい!」

 

和田T「何を言っているんだ! 『天皇賞』を制することが使命のメジロ家のウマ娘こそが最強なんだよ! テイオーよりも差をつけて“皇帝”に圧勝だったんだぞ!」

 

吾妻T「いやいや~、“女帝”も負けてないよ~? ティアラ路線のウマ娘がクラウン路線に劣るだなんて誰が決めたことなんだい~?」

 

ピースベルT「まあ♪ 近いうちに新生徒会役員で最強を決めるレースが起きそうね♪」フフッ

 

ピースベルT「けど、数合わせのために入れられた本物の副会長:ビワハヤヒデが横から全てを掻っ攫うけどね~♪」アハッ

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

斎藤T「みんな、自分の担当ウマ娘が一番だって自慢し合っていますねぇ」

 

マンハッタンカフェ「はい。みなさん、担当ウマ娘との二人三脚が久しぶりだったからこそ、それぞれの大勝負で最高の相手と競り合って勝てたことが本当に嬉しいわけですから」

 

アグネスタキオン「今回は本当にいいデータがとれたよ。あらためて生徒会役員の実力の高さを再認識すると同時に、いろんな箇所でプランの修正が必要になったけどねぇ」

 

アグネスタキオン「やはり、どれだけシミュレーションが正確であっても確率通りに事が運ぶとは限らないことを思い知らされたよ」

 

斎藤T「まあ、負けられない勝負で写真判定に縺れ込んで生きた心地がしないという貴重な体験を現実でしなくてよかったじゃないか。慢心はこれで戒められたな」

 

アグネスタキオン「まったくだよ」

 

マンハッタンカフェ「しかし、『七番勝負』で枠が埋まらなかった『菊花賞』『ジャパンカップ』でまさかの助っ人が来るだなんて本当に驚きましたよ」

 

アグネスタキオン「うん。テイオーくんとマックイーンくんの連闘に近い形で『菊花賞』『ジャパンカップ』にも勝ってもらおうとしたわけだけど、実績としては“皇帝”以上の強力な助っ人が来たのにはきみが用意した特大の仕掛けかと思ったよ」

 

斎藤T「私は何もしてないぞ。正直に言って『あとはなるようになる』としか思ってなかった。完全に運に任せていた」

 

斎藤T「だいたい、過去のレースを再現したシミュレーターでただシンボリルドルフに勝つことが目的じゃないんだ、『皇帝G1七番勝負』は」

 

斎藤T「偉大なる先代が卒業した後の新しい時代のトレセン学園の顔役となる新生徒会がみんなを導くという使命感と意志が備わればいいのであって、先代の偉業に劣るとも勝らない流れを作る手っ取り早い方法が『シミュレーターでシンボリルドルフに勝って自信をつけること』なだけ」

 

斎藤T「だから、結果として新しい時代を引っ張っていく使命感に新生徒会が向かうようになったのなら、勝敗はどうでもよかったところがあるから」

 

斎藤T「そういうわけで、重要なのは勝敗の結果じゃない。勝敗の結果で今後に活かせるものを得られたかだ」

 

アグネスタキオン「まあ、そうだろうね。きみ自身は徹夜で『七番勝負』の設定を完璧に仕上げた後、()()()()()()と一緒に闇組織を壊滅させるために東京を離れていたわけだし」

 

マンハッタンカフェ「ですが、どのような可能性の世界であっても“斎藤 展望”ならやってくれると信じてましたから」

 

 


 

 

レジェンドレース:皇帝G1七番勝負

 

『皐月賞』    シンボリルドルフ VS.アグネスタキオン

 

『日本ダービー』 シンボリルドルフ VS.トウカイテイオー

 

『菊花賞』    シンボリルドルフ VS.トウショウサザンクロス

 

『ジャパンカップ』シンボリルドルフ VS.アグネスオタカル

 

『有馬記念』   シンボリルドルフ VS.エアグルーヴ

 

『天皇賞(春)』 シンボリルドルフ VS.メジロマックイーン

 

『宝塚記念』   シンボリルドルフ VS.マンハッタンカフェ

 

 


 

 

斎藤T「まだ“八冠の女王”アグネスオタカルが協力してくれるのはわかるけど、“将星”トウショウサザンクロスまで力を貸してくれることになったのは、いったいどういう経緯なんだ?」

 

アグネスタキオン「それについては、()()()()()()が突如として別世界のボスウマ娘を引き連れて会場に現れたから、私たちとしても驚くばかりだったよ」

 

斎藤T「え? ――――――『()()()()()が来ていた』? 私は確実に世界に存在していたのに、質量保存の法則を無視して、そんなことがあるのか!?」

 

マンハッタンカフェ「たしか、世界全体を閉鎖系とする質量保存の法則に従って並行宇宙に存在する同一存在同士は同時に存在することができず、同時に存在してしまった場合はどちらの世界にも存在しなかったように対消滅することで均されるんでしたか?」

 

斎藤T「そう。だから、絶対に()()()()()()()()と出会うことは最初からできないはずなんだ。質量保存の法則が遵守されるように、別の世界に行ったのと同時に同一存在がこちらの世界に来て、2つの世界の質量が釣り合わされるわけだから――――――」

 

斎藤T「ハッ」

 

アグネスタキオン「どうしたんだい?」

 

斎藤T「わかった」

 

斎藤T「質問だが、“八冠の女王”アグネスオタカルや“将星”トウショウサザンクロスの存在を会場にいた誰もが違和感なく受け容れていたか? どこの誰とも知れないはずの存在がすっと出てきてシンボリルドルフに勝ったのに、すっと去っていったのを誰も追求しなかったんじゃないのか?」

 

マンハッタンカフェ「言われてみると、たしかにそこにいるのがなぜか当たり前のように感じられましたね。そして、終わったら最初からいなかったかのように――――――」

 

マンハッタンカフェ「そうでした! 別世界のことをまったく知らないはずのエアグルーヴさんがとても尊敬した様子でオタカルさんが助っ人に来てくれたことを喜んでいました!」

 

アグネスタキオン「トウショウサザンクロスについても、オーストラリア出身の外国バだなんて普通は想像がつかないはずなのに、『メルボルンカップ』を優勝した経歴から『菊花賞』をまかせられたのも満場一致だったことだしねぇ」

 

斎藤T「やっぱり!」

 

 

――――――()()()()()()()半人半霊(エンティティ)になって助けに来てくれていたということか。

 

 

斎藤T「あんまり褒められたやり方じゃないが、これも異世界探訪でそれぞれの世界のシンボリルドルフやトレセン学園の将来に関わるキーパーソンに救いの手を差し伸べたことへの返礼ということか」

 

アグネスタキオン「きみがそう言うのなら、そういうことなんだろうねぇ」

 

マンハッタンカフェ「そうですね。トレセン学園にとって最悪の存在だった“将星”トウショウサザンクロスも表情の険しさがなくなって穏やかな表情で私たちに接してくれていましたし、あちら側の世界が救われたから こうして時間と空間を越えて駆けつけてくれたんだと思います」

 

アグネスタキオン「さすがは“皇帝”シンボリルドルフと同格の可能性の世界の象徴となるボスウマ娘なだけあって、『皇帝G1七番勝負』で断トツの強さを見せつけてくれたよ、“女王”と“将星”は」

 

アグネスタキオン「ティアラ路線の“クラシック6冠バ”を果たした“女王”アグネスオタカルの全盛期の走りは サイレンススズカともちがう もう1つの私の理想の走りに思えた」

 

マンハッタンカフェ「元々 オーストラリア“ジュニア三冠バ”でありながら フレミントン・芝・3200m『メルボルンカップ』も制した 驚異の距離適性を誇る“将星”トウショウサザンクロスの走りも天空に舞う翼のような異次元のものに思えました」

 

マンハッタンカフェ「なので、“最強の七冠バ”シンボリルドルフ以外にもウマ娘にはこれだけの可能性があることを誰もが実体験することになって、5戦目『有馬記念』において『URAファイナルズ』出走を見送った“女帝”エアグルーヴがまた1つ先のステージに進めたと吾妻Tも大いに感動していました」

 

斎藤T「なるほど。想像していたよりも物凄く良い結果になっていたみたいだ」

 

マンハッタンカフェ「それだけ斎藤Tが頑張ってきたということですね」

 

アグネスタキオン「ああ。善因善果・悪因悪果・因果応報ならば、トレセン学園のみならず 世界の危機を救ってきたきみの頑張りは報われなくては、真実などこの世のどこにもありはしまい」

 

斎藤T「………………」

 

 

岡田T「斎藤T! 是非とも見せたいものがあるんです!」

 

 

斎藤T「おや?」

 

岡田T「きっと、斎藤Tは俺たちトレーナーとウマ娘の絆の後押しするために、『URAファイナルズ』の裏でまた孤独な戦いに身を投じていくだろうと思っていましたから」

 

岡田T「なので、俺も『皇帝G1七番勝負』『URAファイナルズ』が終わった興奮も冷めないうちに、今回の祝勝会の余興として間に合わせたものがあるんです」

 

岡田T「さあ、こちらの席にお掛けください」

 

和田T「どうぞどうぞ!」

 

吾妻T「まだ『URAファイナルズ』の5部門同時ウイニングライブも見ていないのですよね?」

 

ピースベルT「これから近代ウマ娘レースの起源となった王侯貴族の道楽を楽しんでもらいま~す♪」ウフッ

 

斎藤T「おお!?」

 

岡田T「さあ、ご覧になってください!」

 

 

――――――私たちだけが見ることを許された()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そうして百尋ノ滝の秘密基地で超豪華特別仕様のVRシミュレーターのホログラムを投影した『URAファイナルズ』特設ウイニングライブステージで代わる代わる『URAファイナルズ』5部門優勝バたちが華麗なライブパフォーマンスを繰り出していく。

 

これ自体はテレビ放送もされた5部門同時ウイニングライブの映像を繋ぎ合わせたものに過ぎず、映像さえ確保できれば徹夜で作るほどの代物でもなかった。

 

そこに加わったのが、新生徒会役員3名:エアグルーヴ、トウカイテイオー、メジロマックイーンの組と、トレセン学園屈指の才能と信念を持った英才たち:シンボリルドルフ、アグネスタキオン、マンハッタンカフェの組であり、

 

こちらは『URAファイナルズ』決勝トーナメントに出走していないために元になるビデオ映像がないので、5部門同時ウイニングライブの映像記録を使って一からモーションを解析してトレースさせる必要があるため、たしかに作成が大変だったことが容易に想像がつく。

 

だからこそ、VRシミュレーターに十分なデータを落とし込んでいるからこそ実現できた、ここでしか見られない『皇帝G1七番勝負』のシークレットウイニングライブであった。

 

正直に言って、ウマ娘レースの目的となるウイニングライブ自体にはそこまで興味がいかなかったものの、こうして友人同士のホームパーティーで披露されたその手作り感に込められた気持ちが何よりも嬉しかった。

 

 

そして、私はこの段階になって担当ウマ娘:アグネスタキオンがG1レースに出走する際に着用が義務付けされている勝負服の姿になっていたことにようやく気づいた。

 

 

そもそも、メイクデビューを果たしていないのに勝負服の着用など許されるものではないので映像記録がまったくなく、急遽開催の『皇帝G1七番勝負』に出走する際に間に合わせで一からキャプチャーした結果が研究者としての正装である白衣の姿であった。

 

それ自体は物臭なアグネスタキオンらしい衣装と思って眺めており、シンボリルドルフ、アグネスタキオン、マンハッタンカフェの英才組のウイニングライブは 3人共 ボトムが黒の長靴下(ストッキング)であるのに対して白・緑・黒のトップスで差別化されており、それでいて腰まで掛かるトップスの丈で不思議な統一感があり、いろいろと見比べてみると面白いものがあった。

 

そう、白衣のアグネスタキオンと黒衣のマンハッタンカフェは好対照であり、その間に挟まるシンボリルドルフの緑が上手い具合に中間色として調和をもたらしていた。

 

だが、ハッとなったのはシンボリルドルフがウマ娘の豪脚で履き潰すことが前提の黒い革靴に対して、マンハッタンカフェがまるで小学生が履きそうな上履きっぽい靴であり、更に物臭なアグネスタキオンの即興の勝負服の靴は普段のイメージからすると意外と可愛らしい感じの白のショートブーツなのが目を引いた。

 

そこに何とも言えない女の子らしさや子供の愛らしさをふと感じてしまい、思わず笑みをこぼしてしまった。

 

その様子に満足気だったアグネスタキオンが何がお気に召したのかをウキウキしながら訊いてくると、私が思わず『あんなにも可愛らしい感じのショートブーツを即興で選んだ辺り、意外に女の子っぽい趣味があったんだな』と率直に答えたら、頬を膨らませたウマ娘にポカポカと叩かれて地味に痛かった。

 

そんなふうに私がウイニングライブを鑑賞しながら担当ウマ娘とじゃれ合っている一方、トウカイテイオーの岡田T、メジロマックイーンの和田T、エアグルーヴの吾妻T、ビワハヤヒデの鐘撞Tが自分たちで作ったホログラムのウイニングライブに大粒の涙を流して声を押し殺して啜り泣いていた。

 

マンハッタンカフェも“お友だち”と一緒に感慨深そうに自分のホログラムが混じった特設の7部門同時ウイニングライブを観ており、『皇帝G1七番勝負』の締めとしては これ以上ない感動で満たされることになった。

 

 

しかし、『URAファイナルズ』の5部門同時ウイニングライブに選曲された この『うまぴょい伝説』は近代ウマ娘レースの起原である王侯貴族のための舞踊曲とは随分と掛け離れた作詞・作曲・編曲であり、日本特有のアイドル文化と組み合わさった結果の自他共に認める電波ソングとなっていた。

 

 

なので、トレセン学園のトレーナーとして勝者の義務であるウイニングライブの指導も必須技能であるため、私この『うまぴょい伝説』の振り付けもできるわけなのだが、あらためてウイニングライブの大音量の臨場感で披露されると何を言っているのかがよくわからないのが正直なところであった。

 

歌詞の内容と振り付けの結びつきはミュージカルに近いがあり、順に追っていくと内容が理解できるが、最初に聞こえてくる『うまぴょい』『うまだっち』『すきだっち』の掛け声が意味不明であり、誰もその正確な意味を知らないのがちょっとした恐怖であった。

 

しかし、サビの部分からはレースに懸けるウマ娘とトレーナーの情熱と感動をはっきりと丁寧に歌い上げた内容に仕上がっており、はっきりと何を言っているのかがわかるようになった辺りで聞こえてくるものが非常に胸に響いてくるのだ。

 

そのため、硬軟織り交ぜた非常に独特で記憶に残る構成とウマ娘レースを愛する者たちの胸に響くメッセージ性から、シンボリルドルフと秋川理事長の時代の総決算となる新設レース『URAファイナルズ』のウイニングライブに選曲されたのだろうと私は理解した。

 

 

――――――だが、ホッとしたのも束の間、これで全てが終わったわけではない。『皇帝G1七番勝負』『URAファイナルズ』が終わっても、明日にはまた私がやるべきことを果たしに行く必要がある。

 

 

そう、これらはあくまでもシンボリルドルフ卒業後のトレセン学園の将来を占うものであって、私がタイムパラドックスを起こしてまで必死に変えようとしているWUMA襲来の絶望の未来を回避するにはまだ足りないのだ。

 

それどころか、私はまだ卒業式が終わってからこの世界のシンボリルドルフに会えていないのだ。別世界のシンボリルドルフに真っ先に救いの手を差し伸べる旅をしてきただけに随分と遠回りしてきたものだ。

 

そして、第3の別世界:ダークトレーナーの世界で遭遇することになった“影の支配者(real mastermind)”が実在する世界が存在するなら、それと対になる存在が支配的な世界が存在することにもなる――――――。

 

私の世界で半人半霊(エンティティ)がはっきりと存在している事実を突きつけられたのなら、不即不離である光と影の両方を同時に攻略しなければ、根本的な解決には結びつかないのだ。

 

 

さて、それでは人間のネガティブな領域の擬人化である“影の支配者(real mastermind)”と対になる人間のポジティブな領域の擬人化である存在のことをなんと呼べば良いのだろうか?

 

 

そのまま“光の支配者”と呼んでもいいのだが、()()()()()()である以上は決して完全な善とも悪とも言い切れないので、そういった極端なイメージをもたらす名称は相応しくない。

 

光が尊ばれるのはそれがなければ世界は闇に包まれるからであり、闇の世界を照らす御利益を光と呼んでいる以上、ただただ明るければ尊ばれるというものではない。

 

物事には過不足ない適切さが肝要であり、この地球に朝をもたらす生命の根源である太陽を 直接 見ようとしたら眼を灼かれて失明してしまうのだから、無闇矢鱈に明るいものをありがたがるのは阿呆のやることである。

 

となると、国民的スポーツ・エンターテイメント『トゥインクル・シリーズ』の夢の舞台:トレセン学園の黄金期の総決算となる『URAファイナルズ』のウイニングライブに選曲された『うまぴょい伝説』にちょうどいいフレーズがあったので、そこから拝借するとしよう。

 

 

――――――故に、これから私は挑むことになる。人間のポジティブな領域の擬人化である“虹の彼方の者(rainbow chaser)”に。

 

 

*1
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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