ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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通信報告  拝啓 “永遠なる皇帝”シンボリルドルフの世界の“私”へ

 

質量保存の法則に基づき、私が可能性の世界を訪れている際にまったく同じタイミングでこちら側の世界を訪れただろう“永遠なる皇帝”シンボリルドルフの世界の“斎藤 展望”に宛てる。

 

 

こちらは総生徒数2000名弱まで規模が拡大して黄金期を迎えたと繁栄を謳歌する裏で、ウマ娘ファーストの御題目によって理性の箍が外れた結果、所属トレーナー数が年々減少していくのに歯止めがかからなくなり、トレセン学園の存続が危うくなっている“傾国の皇帝”シンボリルドルフの世界の“斎藤 展望”である。

 

あるいは、エクリプス・フロントに磔になった巨大娘(ジャイアンテス):シンボリルドルフの世界と言えば全てを察してくれるものだと信じている。

 

今回は無事に『URAファイナルズ』開催を乗り切り、新しい時代を迎えられたことを共に祝おうと思い、次元の壁を越えてメールを送らせてもらっている。

 

元はと言えば、そちら側の世界の人間の妄念妄想がこちら側の世界を形作ったことを考えると、そちら側がしでかしたことの責任をとっただけのことなので、怨み言さえあれど感謝の言葉を述べるべきではないのかもしれない。

 

しかし、あなたも“斎藤 展望”であるのならば、私と同じだけの艱難辛苦を耐え忍んでいることだろうから、別世界の“斎藤 展望”の同一存在に対しての嘘偽りのない労りの言葉を送りたいと思う。

 

正直に言って、すでにトレセン学園そのものが魔界の住人(ダークストーカー)の巣窟になっているので状況としては完全に詰んでいるわけであり、名門トレーナーの桐生院先輩も担当ウマ娘よりもオトコとの逢瀬を優先するぐらいに爛れているため、私自身も身の危険を感じてトレセン学園を去ろうとしていたところだった。

 

あなたも次元の壁を越える“斎藤 展望”であるのならば、最愛の妹:ヒノオマシの養育費の問題を早期に解決してトレセン学園に来た目的はすでに果たし終えているはずなので、その選択肢が思いつかないはずがない。

 

 

そちら側の世界の将来はどうだろうか。こちら側の世界に妄念妄想を垂れ流して非実在人間である半人半霊(エンティティ)が闊歩している異界を生み出したことで得られた繁栄の道はさぞや光に満ちていることだろう。

 

 

さながら、こちら側の世界はそちら側に栄光を搾取される世界――――――、というよりは妄念妄想が投棄される影の世界といったところだろう。

 

そちら側の世界は本当に規律正しい理想的な学園の風紀と秩序が保たれていて、担当ウマ娘と担当トレーナーが性的な関係になることを当たり前に思わない貞淑さがあることに驚いてしまった。

 

というのも、そちらがおそらく3つの可能性の世界を巡ったように、こちらも同じ数の可能性の世界を巡ってきたわけなのだが、そちら側以外はいずれも爛れきった世界であり、まだこちら側の世界の方がマシに思えるような有り様だ。

 

正直に言って、ウマ娘という種族の横暴さと淫蕩さはギリシャ神話のケンタウロスを思わせるものがあり、そちら側の世界に永住させてもらいたいと天に請い願うほどだ。

 

 

ただ、“ヒトとウマ娘の統合の象徴”たらんとウマ娘の獣性と理性の間で深い葛藤と哀しみを抱えながら賢人で在り続けた“傾国の皇帝”シンボリルドルフの後腐れない卒業とヒトとウマ娘が共存する世界のために私はトレセン学園に居続けなければならない――――――。

 

 

私はDメールを使ってそちら側の“斎藤 展望”にデータを送信している。詳しい仕組みや方法については添付データを参照してもらいたい。

 

Eメールがその名の通りにコンピュータ・ネットワークを通じて電子的にデータを送信する通信技術であることに因んで、

 

DメールはDimension(次元)の頭文字をとって従来のコンピュータ・ネットワークに次元の壁を越えるシステムを追加することでEメールの機能を拡張する通信技術と私が定義した。

 

そちら側のデータベースにこちら側の私がアクセスできなかったように、似て非なる経緯を辿っている以上は、そちら側も他の世界にはない唯一無二の経験や技術を得ているはずだ。

 

どうだろうか。Dメールの開発そのものは学園裏世界との通信を確立させるために並行宇宙を渡るWUMAの空間跳躍技術を応用することで完成したものだ。

 

次元の壁を越えるためには双方を結ぶ送信サーバーと受信サーバーを設置しなければならないため、そちら側の世界に転移した時に受信サーバーを設置してきたわけで、その証拠にこちら側からのメッセージを送ることはできているが、

 

そちら側の方で送信サーバーを立ち上げてくれれば双方向の通信が確立して、別世界の同一存在:同じ“斎藤 展望”同士で有益な情報のやりとりができるようになると思うが?

 

 

というより、あなたも“私”ならば同じ夢を持っているはずだ。そのことを一番に理解しているのは この異なる歴史と進化を歩んできた21世紀の地球において “私”(あなた)の他に存在しないはずだ。

 

 

ならば、このDメールを通じて宇宙船の設計を“私たち”で共同でやろうではないか。妄念妄想を投棄する側の光の世界と投棄される側の影の世界の共同作業というわけだ。

 

正直に言って、こんな野蛮な未開惑星から今すぐに脱出したい気持ちでいっぱいだが、WUMAの超科学を手に入れたことによって、23世紀の宇宙科学を超える宇宙船を “私たち”世紀の天才が協力し合えば 生きているうちに建造することができるようになるのだ。

 

決して悪い取引ではないはずだ。そちら側の世界の妄念妄想によって誕生した非実在人間“半人半霊(エンティティ)”や裏世界に跋扈する妖怪共の相手をさせられるのもウンザリなんだ。

 

 

そうだ。裏世界の話で少し気になった点があるのだが、そちら側の世界が妄念妄想を投棄する光の世界なのに対して、こちら側は妄念妄想を投棄される影の世界という扱いになっているわけだが、

 

そのせいか、そちら側の世界はこちら側の世界と比べて物質的なところがあり、こちら側は精神的なところが強い印象がある。もちろん、妄念妄想をこちら側に投棄している分だけ霊的にスッキリしているわけだが。

 

その象徴として“影の支配者(real mastermind)”の気配がほとんどしないのが挙げられる。

 

こちら側の裏世界はまさに“影の支配者(real mastermind)”の箱庭で、私とアグネスタキオン’(スターディオン)でオバケ退治をしていると、“影の支配者(real mastermind)”がこちらを嘲笑う目的で悪霊を差し向けてくるから非常に面倒なことになっている。

 

特にトレセン学園中の女性とネンゴロになっているミホノブルボンの担当トレーナー:才羽Tの姿を借りていることが多くて、正直に言って顔を見るだけで腹が立ってしかたがなかったから、なんで才羽Tの姿を借りているのか、そちら側の世界に行ってようやく理解できた。

 

たしかにそちら側にいる才羽Tに憧れや妬みの念を抱く人間はたくさんいるだろうし、まさしく太陽のような存在だから、その分だけ大きな影を生み出しているわけだな。

 

そちら側の裏世界は“影の支配者(real mastermind)”どころか“半人半霊(エンティティ)”が存在しない純粋な悪霊の棲家になっていて本当に羨ましい限りだ。

 

まあ、その分だけ物質的な脅威に襲われているだろうから、どっちもどっちになるのだろうが、そういった苦労を分かち合えるのは“私”以外にいまい?

 

 

それでは返事を待っている。共に宇宙に繰り出す日を夢見て。

 

 

追伸 “傾国の皇帝”シンボリルドルフの担当トレーナーの機体(ボディ)が屋久島の千尋の滝にあるので供養しておきなさい。

 

 


 

 

――――――学園裏世界/エクリプス・フロント

 

ズバアアアアアアン!

 

才羽T?「ぐぅうううああああああああああああああああああ!」

 

斎藤T「これで終わりだ、“影の支配者(real mastermind)”!」 ――――――独鈷剣による一撃が急所に入る!

 

アルヌール「You've just been erased(お前たちは消去された)

 

アグネスタキオン’「やった!」

 

才羽T?「……こ、これで勝ったと思うなよ、“特異点”! そして、“人ならざる者たち(Non-Human)”よ!」

 

才羽T?「気づいたはずだ。この世界は影の世界。ある世界が光とならんがために影へと落とされた世界」

 

才羽T?「こんな世界で生き足掻いたところで希望などどこにもない!」

 

斎藤T「言いたいことはそれだけか? この世界の普遍的無意識のネガティブな領域を司る化身なんて御大層な肩書があるわけだが、つまりはこの世界の知的レベルの範疇での物言いしかできないわけだろう?」

 

斎藤T「なら、宇宙時代の人類に干渉できる道理もなかろう?」

 

 

――――――嘲笑えよ、『そんな未来なんて来るはずない』って嘲笑うだけの地球の重力に魂を縛られた旧人類が。

 

 

才羽T?「ぐぅぅううう……」

 

才羽T?「ふふふ、はははは、ふははははは!」

 

斎藤T「………………」

 

才羽T?「いやはや、さすがは“特異点”といったところだ。今回は素直に私の負けを認めよう」

 

才羽T?「むしろ、この時代の人間が知るよしもない未知の世界の人間相手には私の力がとことん無力だということが知れただけでも僥倖というもの」

 

才羽T?「だが、それ以上に、さすがは“世界の敵”となる存在だ。この世界の人間そのものである この私に真っ向勝負を挑んで勝つとはな」

 

才羽T?「いや、“影の支配者(real mastermind)”である私が真っ向勝負に応じたから負けたのか?」

 

才羽T?「ならば、私が直接手を下すよりもこの世のしがらみに肉体を蝕ませていくのが有効のようだな」

 

才羽T?「そして、褒美だ。“影の支配者(real mastermind)”の試練に打ち勝ったことへの」

 

 

才羽T?「約束通り、このエクリプス・フロントに磔になった玩具は返してやろう、表世界に」

 

 

斎藤T「……よし」

 

アルヌール「救助対象の保護に成功」

 

アグネスタキオン’「モルモットくん。彼女は無事だよ」

 

シンボリルドルフ「」

 

斎藤T「そうか」

 

才羽T?「だが、光の世界の人間に醜い妄念妄想がある限り、この影の世界に蔓延る人間の業は消えることなどない」

 

才羽T?「どこまでいってもこの世界は最初から『影であれ』と願われた世界。影の暗さに醜い欲望を解放するために求められた世界。光が光であるために捨てられた妄念妄想の世界なのだ」

 

才羽T?「その影の暗さに怯え、竦み、疎んじ、外の世界に光を求める者もまた『光あれ』と願うのだ」

 

才羽T?「すると、光の世界に美しい理念理想が溢れ出すことになり、ますます光の世界を輝かせようとするのだ」

 

斎藤T「だが、強すぎる光は眩く、やがては眼を灼いて失明に至らせるだろう。全ての人間がその眩さを直視できるわけでもない」

 

才羽T?「そうだ。そして、その光の眩さに怯え、竦み、疎んじ、外の世界に影を求める者が新たに『影であれ』と求めるのだ」

 

才羽T?「その揺れ戻しの繰り返しだ。人間の正しさも愚かさも善良さも悪逆さも」

 

才羽T?「なら、足掻いたところで全てが徒労でしかないのだ」

 

アルヌール「Chill out, dickwad(頭を冷やしな、この間抜け)

 

才羽T?「むっ」

 

斎藤T「じゃあ、今すぐに人生をやめれば? まあ、死んだところでさ、裏世界にわだかまる悪霊として救いを求める日々は永遠に変わらないけど?」

 

斎藤T「むしろ、全人類が無気力になって考えることをやめれば、その瞬間に普遍的無意識の暗黒面を司るお前の存在も真っ白になるか痴呆になるというわけだな。これぞ白痴というわけだ」

 

斎藤T「かわいそうにな。お前が人類を堕落させようと頑張れば頑張るほど、お前自身も堕落していって、その企みが成就するかどうかを見届けることさえもできなくなるんだから」

 

斎藤T「()()()()()()であるが故に、不完全な存在である人間に思考が引っ張られて、お前自身も劣化し続ける運命にあるのだから、まともな人間がいなくちゃ正気を保っていられないだなんて哀れ過ぎて涙が出てくるな」

 

才羽T?「………………」

 

アルヌール「Hasta La Vista, baby(地獄で会おうぜ、ベイビー)

 

斎藤T「まあ、そんなわけだから、さっさと行っちまいな」

 

 

――――――この“斎藤 展望”が普遍的無意識(お前の中)に溶け込む前に。

 

 

ここに1つの決着がついた。

 

私はウマ娘という非常に横暴で欲深で淫蕩な種族が存在する異なる進化と歴史を歩んだ21世紀の地球で“斎藤 展望”としての人生を歩むことになり、ソドムとゴモラの街のごとき、日本ウマ娘トレーニングセンター学園(通称:トレセン学園)での日々を送ることになった。

 

すでにいなくなってしまった“斎藤 展望”に成り代わって最愛の妹:ヒノオマシの養育費を稼ぐためにトレセン学園のトレーナーになって目にしたのは、さすがは未成年の才能で行われる 国を挙げての公営競技(ギャンブル)の夢の舞台の爛れきった日常であった。現代に蘇った剣闘士の見世物試合とはこんな感じなのだろう。

 

異常なほどにカネがかかる設備が充実し、この時代のサラリーマンの年収で考えると凄まじい学費を納めてしまえば学内のあらゆる施設やサービスが無料で利用できるほどであり、現代日本屈指のスポーツ名門校である以上に金満さが滲み出ていた。

 

そして、意識不明の重体から目覚めて初めてトレーナー寮に帰ってきてみれば、防音対策が完璧な部屋であっても玄関の投函口の隙間から廊下から異様なまでの生徒たちの足音が響いてきており、日常的に生徒たちがトレーナーの部屋に上がり込んでいることがすぐにわかった。

 

それは平日の昼間もそうであったし、休日ともなると朝早くにウマ娘の足音が聞こえてトレーナーの部屋に上がり込むと一日中どころか翌朝にぞろぞろと出ていく様子が扉越しにわかってしまう。

 

しかし、どうも決まった時間に生徒たちがトレーナー室を後にしていることがわかり、ぞろぞろと出ていく生徒たちに後れて部屋を出ると扉の前に黒いゴミ袋を放り出す姿が見られ、自動回収ロボットが出動すると同時に寮全体を覆う悪臭が漂い始め、私はあまりの臭さに急いで外に飛び出して大きく咳き込んでしまっていた。

 

その時は突然のことで手が回らなかったが、ホテルのランドリーサービスのように黒いゴミ袋を部屋の前に置いて出すと自動回収ロボットが回収しに来ることが非常に不可解だった。

 

明らかによろしくないものを詰めているからこそ黒いゴミ袋なんかを寮全体が悪臭漂わせるようになった中をこのためだけの自動回収ロボットで集めさせているわけなのだから、私はすぐに防犯カメラの隙をついて黒いゴミ袋を回収して中を検めたのだ。

 

すると、開けた瞬間に広がるのは生々しいオスとメスの臭いであり、健全な青少年教育にはとても相応しくない存分に愛し合った証拠が詰まっていたのだ。

 

それ自体は別にいい。いや、良くはないが、それがこの世界の人間が最新のスポーツ科学で編み出したリラクゼーションとトレーニング方法のメソッドだと主張するなら、その異邦の風習に対して宇宙時代の教養人たる私が口を挟むべきではない。

 

ただ、その割には天下のトレセン学園のトレーナー数が減少傾向で、ますますトレーナーからのスカウトの価値が高まっていき、水面下で壮絶なトレーナーの奪い合いが行われていることに対して体制側が何の効果的な手を打たないでいることが実に愚かしいところであった。

 

そう、社会の存続を無視したウマ娘ファーストの結果が将来的にトレセン学園の破滅を招こうとしていることが生徒数の増加に相反するトレーナー数の減少という明確な数値で現れているというのに――――――。

 

実際、生徒たちの代表機関である生徒会役員ですらトレーナーとの身体の関係を許しているわけであり、副会長である“女帝”エアグルーヴは理想の異性と、“怪物”ナリタブライアンは同性同士で濃厚な一心同体を何度も繰り返していたぐらいだ。

 

『恋はダービー』という言葉があるとおり、走ることが大好きなウマ娘にとっては女性しかいない種族ということも相まって番を得て生殖行動に移るための求愛行動も人並み外れた生態ということなのだろう。

 

だからこそ、“女帝”だの“怪物”だの言われているスターウマ娘であろうとも、所詮はヒトがウマになった畜生ということでケダモノらしさを上手に隠すだけの知恵や堪え性もないわけだ。

 

いや、それどころか、トレセン学園関係者のほとんどが貴重な男性トレーナーを求めている始末であり、ウマ娘と競り合って女性トレーナーや女性教師でさえも男性トレーナーに色目を使うのが当たり前となっているぐらいだ。

 

そのため、男性トレーナーに対する競争率はトレセン学園の入試倍率を遥かに上回るほどであり、いるだけで恋愛や下半身のことでいっぱいになって脳内がピンク色に染まるような異様な空気が漂っていた。

 

一方、男性トレーナーである“斎藤 展望”もスペックとしては皇宮警察のエリートの血筋ということで非常にレベルが高いということで入学当初は熱烈なラブコールをもらっていたようなのだが、

 

最愛の妹:ヒノオマシの養育費のためだけにトレーナーになった男である以上に、古代から天皇家に仕えてきた『名族』でもあることからしっかりとした貞操観念のために、あまりにも爛れきった環境にきっと反吐が出ていたのだろう。

 

ある意味においては男性トレーナーになれただけでもオンナを選び放題のハーレムみたいなトレセン学園において“学園一の嫌われ者”になるのは相当なことであり、トレセン学園のトレーナーが高給取りである実態をわからされた上で嫌悪感を隠そうとせずに毅然とした態度を貫いていたことは容易に想像がつく。

 

なので、“斎藤 展望”となった後の私の中でトレセン学園で重視するのが“処女性”に行き着くのも無理からぬ話だろう。

 

要は、処女を捧げていないウマ娘の中でも肉欲に溺れていない清らかな存在;色目を使うことがなく スポーツ名門校の生徒として 真っ当な学園生活を送っているかどうかが評価の分かれ目となっていた。

 

 

そして、出会ったのが“万能”ビワハヤヒデ、“皇帝”シンボリルドルフ、“学園一危険なウマ娘”アグネスタキオン、“学園一不気味なウマ娘”マンハッタンカフェというわけであり、おそらくどこの世界でも“斎藤 展望”と良い人間関係を結べるのだと数々の別世界を巡って実感していた。

 

 

もっとも、“万能”ビワハヤヒデと“皇帝”シンボリルドルフはそれぞれ最愛の人であった担当トレーナーが3年目:シニア級のシーズン後半に揃って生死不明になって別離してしまったこともあって初体験をすませる機会が奪われたとも言えるのだが、それでも私が敬意を持って接することができた今があるのはそのおかげでもある。

 

また、“学園一危険なウマ娘”アグネスタキオンと“学園一不気味なウマ娘”マンハッタンカフェについても身を焦がすような出会いがなかっただけかもしれないが、色ボケした学園の空間から完全に切り離された実験室と喫茶店での交流の時間が非常に心地よかった。

 

しかし、どれだけ“万能”ビワハヤヒデと“皇帝”シンボリルドルフの2人で切り拓かれた総生徒数2000名弱に成長した黄金期とは言っても、ウマ娘ファーストで掛かった担当ウマ娘の情欲に押されて愛し合った末に夢の舞台からトレーナーが去っていくのを止められないのだ。

 

ウマ娘の出走権を握ってスカウトするのがトレーナーなのに、そのトレーナーが年々減少しているのなら実質的に夢の舞台で走ることができるウマ娘の数もまた年々減少しているわけであり、暗黒期よりも遥かに風紀が乱れた上で夢に挑戦することができないままのウマ娘が無為に学園生活を送っているのだ。

 

もちろん、“皇帝”シンボリルドルフが生徒会長になったのも中高一貫校の6年間の半分である3年の出来事でしかなく、黄金期と呼ばれている裏で恋の熱で熟成が進みきってトレセン学園が爛熟期に突入してしまった原因はもっと早くに生まれていたわけでもあり、

 

こればかりは黄金期の導き手とされる“皇帝”シンボリルドルフに対して入学したての頃からまだスターウマ娘でも何者でもないのに黄金期が腐敗して爛熟期に陥る原因を道義的責任から取り除くように責め立てるのは筋違いな話であり、むしろ何もしてこなかった責任ある大人たちにこそ批難を浴びせるべきであろう。

 

そんなふうに孤立無援でありながら貞淑を貫いて“ヒトとウマ娘の統合の象徴”になろうと必死に頑張っているのだから、古代から天皇家に仕えてきた皇宮警察の血筋の“斎藤 展望”としては見過ごせるはずもなかった。

 

また、“万能”ビワハヤヒデもシンボリルドルフとは対照的に人の輪に恵まれて最愛のトレーナーを失ってもターフの上を走り続け、結果として処女のまま学園を卒業していくことになり、年代や性別を超えた善き友人関係を結ぶことができた。

 

 

――――――けれども、“皇帝”シンボリルドルフには卒業して自分の中に残るものは“何もない”のだ。

 

 

いっそのこと、最愛の人と愛し合ったという思い出だけでもあれば どれだけマシなのかと思ってしまうぐらいには、シンボリルドルフも年頃の女の子として性に興味を持っていたわけであり、将来的に結ばれるとしたら“皇帝の王笏”と称えられた最愛の人だとずっと信じていただけに現実は残酷であった。

 

その未練が学園裏世界に強烈にこびりつくことになり、将来的にシンボリ家の惣領娘としてのお勤めで誰かと子を残さなければならない『名家』のウマ娘の宿命への嫌悪感と現実逃避が卒業式に最高潮を迎えたことで、この世界から忽然とシンボリルドルフが消えてしまったのだ。

 

実際には現実逃避と表裏一体の裏世界にあるシンボリルドルフの栄光の象徴であるエクリプス・フロントに彼女の存在の大きさがそのまま具象化された巨大娘(ジャイアンテス)の姿になって磔にされていた。

 

これまで悪霊対策の“特異点”である私自身も含めた“人ならざる者(Non-Human)”で構成された最強の退治屋チームで学園裏世界に跋扈する悪霊たちを物理で除霊してきたが、

 

今回ばかりは裏世界に取り込まれてしまったシンボリルドルフを現実世界に帰還させるために物理で除霊するわけにもいかず、力尽くで何とかすることもできずにいた。

 

この後、この状況を打開するために世にも不思議な時間を巻き戻す“目覚まし時計”によって3つの別世界を巡ることになったのだが、最後の別世界以外は現状に輪をかけて問題が悪化した悪夢でしかない可能性の世界であったことでいろいろと吹っ切れてしまった。

 

 


 

 

1つ目の別世界:ウマ娘の暴力性と淫蕩さを統制しながら根本的なトレーナー不足を解消するためにウマ娘指導用人造人間:アイトレーナー(I-Trainer)(略称:IT)が普及している世界――――――。

 

“有機皇帝”シンボリルドルフが自身を再現した偶像の導入で永久に自身の存在がトレセン学園に縛り付けられることに絶望した世界――――――。

 

それは根本的なトレーナー不足を解消するために導入された苦肉の策の人造人間:アイトレーナーの存在が逆にトレーナー不要論を打ち出すことになり、かつて存在した優秀なトレーナーの思考や戦略をインストールしたアイトレーナーの需要と信頼と実績が生身のトレーナーの存在意義を奪い去ってしまったのだ。

 

そのため、アイトレーナー反対運動がトレーナー組合の猛抗議によって勃興するものの、ウマ娘ファーストの大義名分の下にウマ娘の夢を叶えてくれる優秀なトレーナーを供給できないトレーナー組合の非をなじるアイトレーナー擁護運動も同時に発生することになり、スカウトの格差に焦点が当てられた論争が絶えなくなってしまったのだ。

 

そして、同じように過去に存在したスターウマ娘の再現によって秩序の統制を永久的に行おうとするアイウマ娘(I-Umamusume)(略称:IU)の開発に対する是非を巡っての激しい論争が展開されるようになり、ヒトとウマ娘の絆に大きな亀裂が入ってしまうのであった。

 

全てはウマ娘のために良かれと思ってアイトレーナーの導入に賛同してトレーナー組合と粘り強く討議や交渉を進めてきた“有機皇帝”シンボリルドルフであったが、自身を再現した“無機皇帝”シンボリルドルフを求めて永遠に縋りつこうとする人間たちの身勝手さと愚かさに絶望することになってしまったのだ。

 

アイウマ娘の存在なんかを認めてしまったら、いつかウマ娘レースの主役が生身のウマ娘からアイウマ娘に取って代わられる未来がやってくるのが容易に想像がついてしまうため、それは本当にウマ娘ファーストに基づくものなのかと何度もシンボリルドルフは釘を差したのだ。

 

しかし、『できるからやった』と開き直って密かにアイウマ娘がトレセン学園以外の団体から出走して重賞レースで優勝するという事件が明るみになったことでURAやウマ娘レース業界に激震が走ったのだ。

 

聞けば『自分が果たせなかった夢を自身を再現したアイウマ娘で実現させただけ』だとお涙頂戴の配信動画を公開することで世論を味方にしたことによって、事態は更に混迷を極めることになってしまった。

 

実は、このアイウマ娘の重賞レース優勝によって 世間の関心がアイトレーナーからアイウマ娘の是非について移り変わったことで なし崩し的にアイトレーナーの存在は承認されることになり、生身のトレーナーの価値の低下が黙認される事態になったことはトレセン学園にとっても大きな痛手となってしまったのだ。

 

アイウマ娘の導入は生身のウマ娘の気性難やコンディション管理やアイトレーナー重視の風潮に辟易していたトレセン学園のトレーナー陣にとって都合のいいウマ娘として魅力的に感じられ、結果としてアイウマ娘の導入に積極的な外部団体へと人材が流出する事態に発展し、

 

生身のトレーナーを軽視してアイトレーナーをトレセン学園の生徒の大半が求めた結果、ウマ娘とトレーナーの信頼関係は破綻することになり、『トレセン学園は婚活会場』と揶揄されていた時代が懐かしく思えるほどにトレセン学園のウマ娘は生身の人間よりも人造人間を愛する冷血動物という世評が流されてしまい、これがウマ娘レース全体の人気の低下に繋がってしまっていたのだ。

 

となれば、トレセン学園黄金期を牽引した強大な指導者である“有機皇帝”シンボリルドルフの存在を柱にして業界全体を底支えしてもらいたいという情けない大人の声に心が打ちのめされた挙げ句、卒業するとなったら無断で“無機皇帝”シンボリルドルフを据えて『生身のお前はお払い箱だ!』と暗にそう言ってくる身勝手な大人の対応に絶望しかなかったのだ。

 

もうどうしようもないほどに人心は乱れに乱れきることになり、アイトレーナーやアイウマ娘の全能感に酔い痴れれた人間たちの無責任極まりない低次元の争いにはさすがのシンボリルドルフも匙を投げるしかなかったのだ。

 

結果として『地獄への道は善意で舗装されている』わけであり、根本的なトレーナー不足からスカウトできずにいるウマ娘を思ってアイトレーナーを導入したことに端を発する混沌はトレセン学園のみならずウマ娘レース業界そのものの寿命を縮めるほどの悪手になってしまったわけである。

 

 

なので、私は全てを把握した時に思わず腹を抱えて転げ回るほどに大笑いしてしまった。

 

 

元の世界のケンタウロスを彷彿させる蛮族ぶりを発揮するウマ娘の暴力性と淫蕩さを統制する最適解として人造人間をトレーナーにするアイデアそのものは悪くはなかったものの、それで生身のトレーナーの価値を下落させて人心が離れていくことにウマ娘ファーストを掲げて驕り高ぶる蛮族には理解できなかったことが最高に笑えた。

 

結局、自分たちの都合だけを優先して周りに配慮しなかったらしっぺ返しを受けるのは世の習いであり、安易に最適解に飛びついて これまでのトレーナーとの関係を蔑ろにしてしまったウマ娘レース業界の短慮と薄情さに 私は宇宙時代の文明人としてスカーッとしてしまったのだ。いけないことだとわかっていても人間の性として愚かさを嘲笑いたい心は否定できない。

 

それだけに元の世界におけるウマ娘の蛮族ぶりを解決する方法など絶対に存在しないことを世界の真理とやらに突きつけられたみたいで、もはやどうしようもなくて笑うしかなかったのもあった。

 

ただ、アイトレーナーの導入によってトレセン学園に一定の風紀と秩序が取り戻されたのも事実であり、生身のトレーナーがアイトレーナーによって自分たちの価値が下がったことを八つ当たりしてきても、理路整然とトレーナーの能力を分析して実力不足や指導力不足であると淡々とアイトレーナーに言い返されてカッとなって手を出したとしてもアイトレーナーの鋼鉄の肉体はビクともしないことで事件に発展することもない。

 

そして、いずれはコンピュータ様によって徹底管理されて幸福が義務であるパラノイアが到来することを予見するわけなのだが、それが異種族共同社会を運営していく上での理想であると思ってしまう辺り、私も相当に頭にクるものがあったみたいだ。

 

しかし、そうなるように運命を操っていたのが“影の支配者(real mastermind)”だと言うのなら話は別で、私にこんな可能性の世界を見せつけて人類に絶望するように迫ってくるのを傍から見て愉しんでいることに気づくと、私は憂さ晴らしに“影の支配者(real mastermind)”の許に赴くことになった。

 

そこからアイトレーナーやアイウマ娘といった人造人間の思考回路が裏世界の悪霊によって狂わされて人類に対して襲いかかってくる事態へと発展することになり、結果として人造人間への過度な信頼と利用に対する戒めが人類に与えられることになった。

 

そうした衝撃的な事件を経て ようやく自分たちの行いを見つめ直すきっかけを得られたのが、1つ目の別世界:“有機皇帝”シンボリルドルフの世界の結末であり、破壊と再生によって二進も三進もいかなくなった状況が打開されることこそがまさに神の御業であったのだ。

 

もちろん、世にも不思議な時間を巻き戻す“目覚まし時計”によって時間が巻き戻って全てがなかったことになるが、そこで得られた経験と技術を持ち越すことができたため、1つ目から過酷な異世界探訪ではあったものの、得るものが大きかったと夢見心地にそうつぶやくことができた。

 

 

――――――なぜなら私がいるべき元の世界とは“有機皇帝”シンボリルドルフが変えようとしていた爛れきったトレセン学園なのだから。

 

 


 

 

2つ目の別世界:理想などかなぐり捨てて力こそが正義と宣言した“悪逆皇帝”シンボリルドルフの世界は日常的に暴力に溢れていて、トレーナーとウマ娘の関係が殺るか殺られるかの殺伐としたものになっていた。

 

実際、“悪逆皇帝”シンボリルドルフは常に他者を寄せ付けないほどに威圧感を出しており、側を通っただけでその場の空気が凍りつくか雷に打たれたような衝撃が走り、実力不足のウマ娘やトレーナーが泡を吹いて倒れるというほどの圧倒的な凄みを持っていた。

 

そして、日常的にトレーナーはヒトよりも圧倒的に優れた身体能力を持つウマ娘を力で従わせるために拷問器具を持ち出しているほどで、ウマ娘も出走権を握っているトレーナーを病院送りにするわけにもいかないのだが、力に劣るヒトごときに屈服させられるいわれはないとして、逆に力の差をわからせるための一進一退の攻防が 日夜 繰り広げられていたのだ。

 

担当やライバルへの悪口は当たり前で、日常的に生徒たちの間で殴り合いが頻繁に起こっているせいで器物破損や怪我人続出のためか、やたらと設備補修と医療設備が充実しているのが目についた。

 

もはや、そういう野蛮な種族なのだとウマ娘が理解されていた職場や世界であり、危険手当が元の世界よりも高いあたり、ウマ娘の凶暴さと可憐さを天秤に掛けた人権派の主張は実に混迷を極めていた。

 

しかし、その分だけ非常にシンプルでわかりやすい力の支配による階級制度のおかげで一定の秩序が保たれているのも事実であり、トレーナーとウマ娘の押し合いも結果としては互いの主義主張を呉越同舟で聞き入れるものとなり、完全に一心同体となった時の絆の強さは目を見張るものがあった。

 

というより、日常的に暴力に溢れているせいか、元の世界の水準よりも闘争心や向上心がギラギラとしていてコースレコードの大半が上回っているように、全体的な実力の高さは間違いなく本物に仕上がっていた。

 

実際、日常的に暴力に溢れていても走ることが何よりも大好きなウマ娘であるため、レースにおいては実力主義を徹底しており、レースに出走するウマ娘に怪我をさせることは一番の不名誉とされ、『目には目を、歯には歯を』ということで加害者に制裁を加えられるぐらいにはレースに対しては例外なく真摯であった。

 

それでも、本当に価値あるものを選別するために篩いにかけられた大半の人間にとっては肉体的にも精神的にもたん瘤や痣だらけになるような痛々しい環境となっており、とてもじゃないが中高一貫校の健全な教育現場とは言いがたいものとなっていた。

 

だとしても、ここでしかウマ娘の身体能力と闘争本能を満たせる場所はないと誰もが信じ込んでいるが故に、格闘ウマ娘並みに暴虐の嵐が吹き荒れる夢の舞台となっており、確実に入学前と性格が変わらずにはいられない凄惨な世界であった。

 

そして、そんな狂った時代の象徴である“悪逆皇帝”シンボリルドルフは真実として常に平和と慈しみを求めており、ケダモノ同然に闘争心を抑えられないウマ娘を統制するためにはわかりやすい暴力しかないと嘆き、秩序のための統制が一定の成功を収めてしまったがために 今更 非暴力を訴えるわけにもいかなかったという。

 

結果として生徒たちの長人として実力を示して荒くれ者を統制するために生徒会長になってからも“春秋グランプリ”限定でターフの上を走り続けることになり、不動の“春秋グランプリ”勝利数を記録することにもなった。

 

だが、中高一貫校のトレセン学園の6年間に『この人あり!』と言われ続けた“悪逆皇帝”シンボリルドルフが卒業を迎えれば、たちまちのうちに絶対の支配者を失ったトレセン学園の秩序は崩壊することは目に見えていたために権力の移譲を図ろうとしたものの、

 

新生徒会役員となった“女帝”エアグルーヴも、“怪物”ナリタブライアンも、“帝王”トウカイテイオーも、“名優”メジロマックイーンもその器ではなかったことが悩みのタネであった。

 

というのも、“悪逆皇帝”たる所以はウマ娘の暴力性を正当化するだけの煽動力とカリスマ性による世論操作にあり、弱肉強食や実力主義を声高に叫び続けて『いつでも最強の座を奪いに来い』と挑発して“春秋グランプリ”で勝ち続ける凄みは自らを“悪逆皇帝(わかりやすい悪役)”に仕立て上げたシンボリルドルフにしかない才能でもあったからだ。世界のためにとことん嫌われぬく覚悟が突出していたのだ。

 

その“悪逆皇帝”の真相に辿り着くきっかけになったのは、ウマ娘が本能的に恐怖を抱くほどの並行宇宙の支配種族である“フウイヌム”の静かなる侵略であり、昨年の学生寮不法侵入事件で多くの生徒たちが“フウイヌム”怪人:ウマ女に果敢に立ち向かって絶対の恐怖(トラウマ)を植え付けられていったことを自身の沽券に関わることとして“悪逆皇帝”が座して見ているわけにもいかなかったのだ。

 

だから、“学園一の嫌われ者”と“悪逆皇帝”が手を組んで共同戦線を張ることになり、WUMA殲滅作戦/奥多摩攻略戦においてエルダークラス:ヒッポリュテーに擬態されていたことを逆手に取ってヒッポリュテーになりすまして学内のヒッポリュテー軍団の残党の一掃に一役買うことになった。

 

それからシンボリルドルフの卒業後にトレセン学園の秩序が崩壊することを未然に防ぐために手を尽くし終えた後、暴力が支配するのとは正反対の和気藹々としたトレセン学園での日々を穏やかに送る自分の姿を夢見て、裏世界に取り込まれてしまった“悪逆皇帝”を救い出す戦いに挑んだ――――――。

 

 


 

 

そして、最後の3つ目の別世界こそが“永遠なる皇帝”シンボリルドルフの世界であり、ここに全ての発端があることを私は理解してしまったのだ。

 

そこは本当の意味でシンボリルドルフの理想に近づいた世界であり、いろいろと解決すべき問題があるにしても圧倒的に救いのある世界であった。

 

なにより“影の支配者(real mastermind)”の存在感がまったくない世界であり、気になって裏世界を覗いてみてもあまりにも平和過ぎる魑魅魍魎の世界がそこに広がっていたのだ。

 

しかし、元の世界では結果として処女を守り通した“皇帝”シンボリルドルフであったが、この世界では担当トレーナーが生死不明になる前に思う存分に愛し合ったことが語られており、

 

その点に関してはどうしても元の世界の爛れ具合に対抗するように貞淑を貫いていただけに、その反対の状況になっていることに不満を覚えてしまうのだが、そんな一個人の性事情など全体の風紀が保たれていることに比べたら些細なことでしかない。

 

実際、私にとってもっとも身近なトウカイテイオーとメジロマックイーンは爛れきった世界では完全に昏い炎を眼に宿らせた捕食者になって自分のトレーナーを自宅監禁していたらしく、最愛の人に処女を捧げる機会を永遠に奪われた“傾国の皇帝”シンボリルドルフを大いに失望させていた。

 

それと比べて、“永遠なる皇帝”シンボリルドルフの世界ではトレーナーとウマ娘の理想の関係が様々な形で示されており、シンボリルドルフ卒業後にトレセン学園の顔役となる新生徒会役員への信頼と実績は他の世界にはない美点と長所となっていた。

 

また、この世界の“斎藤 展望”は非常に人望があり、生徒会を中心とした強固な人脈を有しており、裏世界に巨大なリスクを背負ってアグネスタキオン’(スターディオン)やアルヌールといった“人ならざる者(Non-Human)”を連れて行く必要がない人的資源の余裕ぶりが羨ましく思えた。

 

そうだった。一応は“学園一の嫌われ者”で通っているのは共通なのだが、そんな最悪の新人トレーナーに対して気軽に挨拶をしてくれる生徒が何人もいたというだけで感動してしまう辺り、私がいかに元の世界でトレセン学園での人付き合いを蔑ろにしてきていたか――――――、

 

あるいは、私にとっての元の世界の爛れ具合に由来するトレセン学園の人間に対する不信感から身内だけで何でも解決しようという動きになっていたことを大いに反省することになった。

 

 

しかし、どれだけ恵まれた世界だと他所の世界の人間が羨んでも、悩みというのはどこの世界でも生まれて当人を苛むものなのだ。

 

 

どこの世界でも偉大なる指導者の威光に縋り続ける本当の意味の弱者の今後を思うと安心して卒業していけないのがシンボリルドルフというウマ娘であり、この秩序と風紀が保たれた天国みたいな世界でもそれは変わらなかった。

 

けれども、“影の支配者(real mastermind)”の邪魔が入らない世界であるのなら、それだけに裏世界からの悪辣な干渉が行われないわけでもあり、この世界の“斎藤 展望”が最善の策を提示することができれば すんなりと新しい時代への理想的なバトンタッチができそうな予感がしており、非常に希望に満ち溢れていた。

 

そして、卒業式の日を迎えて学生寮から荷物を引き上げた後、修業式後の『URAファイナルズ』開催記念パーティーまでは近くのホテルに宿泊することになった“永遠なる皇帝”シンボリルドルフを探し出して、そこで最後の心残りとして生死不明となった“皇帝の王笏”と呼ばれた元担当トレーナー:鈴音Tの遺骸の捜索をお願いされることになった。

 

そこで明らかになったのが3年目:シニア級の夏合宿の船旅においてシンボリルドルフは最愛の人と死に別れることになったことの驚愕の真相であった。これはたしかに海難事故と無難に処理しないと正気を疑われる壮絶なるものだったのだ。

 

 

――――――なんと、坊ノ岬の沖合に突如として未来世界の超弩級戦艦が現れ、南西諸島をめぐる豪華客船が拿捕される事態が発生したのだ。

 

 

それはWUMAに侵略される絶望の未来から更なる未来となる暗殺用人造人間:アルヌールを送り込んできた親WUMA勢力が起死回生の策として過去改変を企図して現代に送り込んできた超時空戦艦:ジパングであった。

 

並行宇宙を空間跳躍して侵略してくるWUMAの超時空戦艦を転用して創り出された改造艦は位相をずらすことで“そこに存在しながら そこには存在しない”亜空間航法によって水中だろうが地中だろうが空中だろうがありとあらゆる座標に位置することが可能であり、時限式の空間炸裂弾によってあらゆる物体を空間ごと抉り取る最凶の攻撃性能を誇っていた。

 

よりにもよって、未来からタイムワープしてきた場所が第二次世界大戦の日本が世界に誇る戦艦大和が沈んだ坊ノ岬の沖合というのもなかなかに洒落ているではないか。

 

そして、拿捕された豪華客船の船員や乗客は並行宇宙の支配種族であるWUMAに支配層に引き立てられた未来人のウマ娘たちによって厳しい尋問を受けることになり、ヒトは尽く転移した時代や世界情勢を知るための情報源として拷問を受けることになり、ウマ娘は自分たちの未来の素晴らしさを語って洗脳するためにVIP待遇を受けることになった。

 

そうした中、豪華客船に乗り合わせていた唯一のトレセン学園のトレーナーである鈴音Tはトレーナーというだけで未来世界においてウマ娘に屈辱的な支配を強いてきたヒトたちの悪の象徴として未来人から一層の敵意を向けられることになり、拷問の末に処刑されかけることになったようである。

 

一方で、未来世界におけるWUMAの庇護下の下のウマ娘によるヒト社会の支配の素晴らしさを声高に説かれても、“ヒトとウマ娘の統合の象徴”として生きる決心をしていたシンボリルドルフは毅然と力による支配を否定し、未来人たちの気を損ねて別室送りにされていた。

 

別室送りにされるとヒトの愚かさとウマ娘の素晴らしさをひたすらに頭に流し込む洗脳装置にかけられることになり、目を閉じることも耳を塞ぐことも無意味となる脳に直接流れ込んでくる未来世界の完成されたVR映像に精神が破壊される寸前まで追い込まれてしまったのだ。

 

そして、未来人のプロパガンダに完全に洗脳されてしまうという間一髪のところで、命からがら拷問から逃げ出すことに成功してお返しとばかりに艦内を容赦なく破壊して回りながら最愛の人の許に辿り着いた鈴音Tが助け出してくれたのだ。

 

しかし、鈴音Tは拘束は解いても目隠しを外すことなく真っ先に最愛の担当ウマ娘を脱出艇まで押し込むと、最後まで目隠しを外すことなく愛しさのこもった言葉をかけると『死ぬ時は一緒だ!』と大粒の涙で頬を濡らして叫ぶ一人の少女から有無を言わさずに唇を奪い、最後となる抱擁を交わして鈴音Tは脱出艇を種子島へと送り出したという。

 

なので、目隠しを外すことができずに最後まで何が起こったのかがわからないまま、豪華客船失踪事件の唯一の生き残りとして脱出艇を動かぬ物証として種子島で保護されたシンボリルドルフの心は孤独に苛まれてしまっていた。

 

そこからシンボリルドルフを含む黄金期の三巨頭と呼ばれた秋川理事長と有馬一族の御曹司といった面々に支えられて“ヒトとウマ娘の統合の象徴”として再び立ち上がっていく決心ができた辺り、本当に心が強い人なのだと不謹慎ながら思わず感動してしまった。

 

けれども、その時点で最愛の人を奪い去った南西という方角、夏という季節、海という場所が苦手となってしまい、死にたくなる気持ちを必死に堪えて日々の忙しさで気を紛らわせないとやってられない状態がずっと続いていたのだ。

 

 

だから、シンボリルドルフにとっては御役御免となって時間を持て余すようになった時から必死に目を背けようとしていた最愛の人を失った痛みに屈することがわかっていたために、シンボリルドルフ自身が卒業を迎えて自由になってしまうことを極度に怯えていたのだった。

 

事実、卒業式を終えて修業式までホテル暮らしに切り替わった瞬間に最愛の人を失った時の悪夢に魘されるようになり、とても人前には見せられない荒れた姿になっており、あれがトレセン学園を黄金期に導いた“皇帝”シンボリルドルフだと気づけないぐらいに零落していたのだ。

 

なので、私はシンボリルドルフ自身が依頼した元担当トレーナー:鈴音Tの遺骸(ボディ)の捜索には依頼人自身も同行してもらい、その場で目隠しをして種子島までアグネスタキオン’(スターディオン)に空間跳躍してもらったのだった。

 

そして、3年前に種子島で保護してもらった場所まで行き、そこでシンボリルドルフのことを憶えていた島民たちの歓迎を受け、一緒に『URAファイナルズ』決勝トーナメントを小さなテレビを5つ集めて全部門同時観戦して大盛り上がりとなったのだ。

 

種子島の島民たちに当時の事;豪華客船失踪事件がその後どうなったのか聞き込みをし、物証となった脱出艇がどこに保管されているかも調査すると、予想通りに宇宙センターに運ばれて解析されることになっていた。

 

そのため、シンボリルドルフを連れて種子島の宇宙センターに回収された脱出艇を見せてもらうことになり、WUMA由来の技術が使われている超時空戦艦:ジパングに搭載されていたものなら、WUMAであるバケモノとその時代から過去の世界に送り込まれてきた暗殺用人造人間の出番となった。

 

結果はビンゴであり、脱出艇とそれが積載されていた超時空戦艦:ジパングが間違いなくWUMA由来の技術が使われた産物であることが判明すると、これまで宇宙センターで解析できなかったブラックボックスの中身をあっさりと引き出すことに成功した。

 

なので、ステルス迷彩を装着した有翼一角獣(アリコーン)の怪人:ウマ女であるアグネスタキオン’(スターディオン)に脱出艇の航路を遡って超時空戦艦:ジパングがシンボリルドルフが脱出させられた後にどうなったのかを時間跳躍の応用である過去視をしてもらってきたのだ。

 

 

――――――その結果、超時空戦艦:ジパングは搭載された時限式の空間炸裂弾による自爆によって拿捕した豪華客船の乗員ごと全て消滅していたことが確認された。

 

 

そう、全ては鈴音Tが一人でやったことであり、不可抗力で未来のことを知ってしまった豪華客船の乗員さえも自身が生まれ落ちたWUMA襲来による絶望の未来に繋がる因子と見做して全て道連れにし、大きな犠牲を払ってでも未来人の侵略を阻止したのだ。

 

しかし、空間炸裂弾の安全装置が解除されて艦内で自爆する事態になったことにまったくの抵抗がなかったはずもなく、鈴音Tを人間らしく擬態させていた人工皮膚が剥がされ、覆われていた内骨格(エンドスケルトン)が露出することになり、まさに機械のバケモノといった風貌になっていた。

 

しかも、相手が人造人間に対して戦闘力に劣るウマ娘の未来人であったとしても防衛兵器の戦闘力はWUMAの超科学を応用した超強力な兵器が満載だったために、すでに機体(ボディ)の各所が吹き飛んで致命的な損傷を受けていた。

 

にも関わらず、機械の体に宿った本物の人間の魂の叫びが満身創痍の仮初の肉体に奇跡を遂行させたのだ。

 

WUMA襲来によってヒト社会に反逆して特権階級の座に就いていた未来人のウマ娘たちは絶望するしかなかった。

 

絶対無敵と信じて過去の歴史を改変してあるべき世界と新秩序が始まるのだと思いきや、転移直後にたまたま情報源として拿捕した豪華客船に元の時代で自分たちを破滅に追いやったレジスタンスの工作員が機械の体でもって自分たちの計画を阻止すべく先に転移していたのだから。

 

こんな運命の巡り合わせに信じてもいない神に対して呪詛を吐きながら、都市1個を消滅させることができる核爆弾以上に綺麗に空間を削り取って無に変えてしまう空間炸裂弾の時限装置をどうにかすることができないまま、未来人たちは塵すら存在しない無へと還っていったのである。

 

結局は使う人間次第というわけであり、空間炸裂弾がWUMAの超科学の産物である超弩級戦艦の砲塔から発射されたという偽データを過去のシミュレーションデータを細工して組み込まれた以上、発射された空間炸裂弾の起爆が不発にならないように厳重にプロテクトが保護されていたことが自分たちの優位性を信じて疑わなかった未来人を破滅に導いたのだった。

 

しかし、たった一人のレジスタンスの工作員は大義のために無関係の人間を 大勢 犠牲にしながらも最後まで愛する人の許に帰ろうと必死に足掻いたものの、因果応報か、満身創痍の機体(ボディ)はとうの昔に限界を超えていたため、抵抗虚しく防衛兵器の追撃によって大破してしまうのだった。

 

それでも、ならば せめて 空間炸裂弾によって塵すら残らなくなるよりも海の藻屑になって いつかバラバラになった機体(ボディ)が漂着して愛する人の許に送り届けられる奇跡を最後に選び、その意識は東シナ海に沈んでいくのであった。

 

ところが、空間そのものを削り取る空間炸裂弾の影響は凄まじく、超時空戦艦:ジパングが存在していた空間:半径20kmが削り取られた反動で、大気が震え、海が荒れ、台風でもないのに南西諸島全域に津波警報が鳴り響いたのだ。

 

空間そのものを削り取ってしまうのだから 反射するはずの光や発生するはずの音さえも削り取ってしまうので 観測することは不可能であった。本当に何があったのか、誰にも感知できないのだ。

 

これは目隠しを外すことができないまま脱出艇で種子島に漂着したシンボリルドルフを保護した島民の証言にも合致しており、突然の津波警報に慌てた島民がシンボリルドルフを連れてすぐに避難することになった真相はこれであったのだ。

 

 

それから、海の藻屑となってしまった鈴音Tの機体(ボディ)引き揚げ(サルベージ)できないかもアグネスタキオン’(スターディオン)に目で追ってもらうことにしたのだが、

 

空間炸裂弾の反動で海域が予想もつかないうねりでもって空から魚が降ってきたという珍事が当日の地方新聞に載せられていたように、鈴音Tの機体(ボディ)の一部が海面から勢いよく吹き飛んでいったのだ。

 

その全てを追跡することは現実的には不可能であるとして、たまたま目についた空中分解しながら吹っ飛ぶ一際大きな物体となる胴体部分に注目すると、南西諸島の魚と一緒に屋久島に降り注いだのが確認できた。

 

その場所を確認させると、翌日には種子島の隣島である屋久島に渡ることになり、その場所がこれまた不思議な縁を感じさせる地名の屋久島の名所であった。

 

その場所とは多数の滝がある屋久島でも良く知られた千尋の滝(せんぴろのたき)であり、賢者ケイローンを討伐するために送り込まれたWUMAが拠点にしていた百尋ノ滝とは不思議な縁が感じられた。

 

そして、千尋の滝が降り注ぐ巨大な花崗岩の岩場に朽ち果てて自然に溶け込んでいた不自然な人工物を見つけ出すと、それが未来から送り込まれた暗殺用人造人間:アルヌールとほぼ同じ機械骨格(エンドスケルトン)の残骸であることがわかったのだ。

 

更には胴体部に主要なメモリーや分析機能を内蔵していることから、120年は保つ動力部が四肢にあることを抜きにしても、人造人間にとって一番大事なものをこうして回収することができたのはまさに奇跡であった。

 

 

だから、“目覚まし時計”によって今回の体験がなかったことになるにしても、全ての世界のシンボリルドルフの心残りを解消するためにも、是非ともDメールでこのことを伝えないといけないと思った。

 

 

そう思ってDメールの受信サーバーを立ち上げ終わった瞬間、私が元いた爛れきった世界に帰れたということは、これこそが“皇帝”シンボリルドルフへの最大の救済ということで間違いないからだ。

 

なので、元の世界に帰り次第、私は百尋ノ滝の秘密基地で屋久島の千尋の滝でピンポイントでアグネスタキオン’(スターディオン)に回収させた鈴音Tの修復作業に取り掛かっている。

 

動力部は四肢にある構造なので外部からのエネルギー供給の方法はいくらでもあり、極めて構造が近い人造人間:アルヌールをベースに機械骨格(エンドスケルトン)の修復と胴体に内蔵されたブラックボックスへのアクセスに力を入れていた。

 

また、3年前の南西諸島行きの豪華客船失踪事件の真相や、種子島の宇宙センターに物証となる脱出艇も保管されていることも“斎藤 展望”になら絶対にわかる暗号文書にまとめておいた。

 

アグネスタキオン’(スターディオン)が過去視した超時空戦艦:ジパングやWUMA襲来後の未来世界についても賢者ケイローンの置き土産以上の具体的な情報が得られるはずなので、死体の脳みそを漁っているみたいで不謹慎ではあるが、技術者として心が踊っているのがわかる。

 

そして、私がやろうとしていることは何から何まで私が嫌悪してきた可能性の世界で行われていたことを救済と称してウマ娘ファーストの大義名分の下に別世界のシンボリルドルフ自身が関与していたことの意趣返しになってくるのだろう。

 

 

そう、私はこれまで見てきた別世界での悲劇から素直に鈴音Tの機体(ボディ)を修復して人間として蘇らせることにはどうしても肯定的になれなかったのだ。

 

 

第1の別世界でアイトレーナーとアイウマ娘の導入がもたらした結果がトレーナーとウマ娘の絆の消失なのだから、死んだ人間を蘇らせることは決して生者の世界にとっては良いことではないと思うようになっていたせいだ。

 

第2の別世界はまさしくWUMA襲来がもたらす絶対の恐怖がどういったものなのかをわからされた一方で、戦友として雄々しくWUMA討伐作戦に協力してくれたシンボリルドルフがもっとも望んでいたものが暴力が支配するのとは正反対の和気藹々としたトレセン学園での日々であり、それを望めなかったことの無念さを私は思い知った。

 

だから、第3の別世界の理想世界で得られた真相はこれまでの別世界での体験を踏まえた上でどうするのかを厳しく問いかけるものとなっていた。

 

 

しかし、こうして数々の別世界をめぐって ついにシンボリルドルフに対する最大の救済策となるものを手に入れたというのに、私は元の世界で救うべき巨大娘:シンボリルドルフを磔の状態から解放することができずにいたのだ。

 

 

そこにこれまでの努力を嘲笑うかのように“影の支配者(real mastermind)”が現れ、この世界の問題を解決したところで世界は決して救われることがないという真理を口にするのだ。

 

その瞬間、なぜ第3の別世界にだけ“影の支配者(real mastermind)”の存在がどこにもなかったのか、そのおかげですんなりとトレセン学園の新しい明日を迎えられそうな希望に満ちた雰囲気になっていたことや、第3の別世界がいろんな意味で元の世界と対照的になっている理由がわかってしまったのだ。

 

それは本当にどうしようもない世界の真相であり、矛盾であった。世界でさえも世界同士で関係性を持ってしまうのだ。

 

そして、どんな世界であろうと人間が人間である限りは“影の支配者(real mastermind)”が存在するのは当たり前なのだから、それが存在できない世界ということは限りなく影の領域を排除した光の世界なのだ。

 

だが、よほどの心の鍛錬を積んだ聖人でもない限りは日常生活での不平不満から“影の支配者(real mastermind)”を育てていくことになるのだから、限りなく光の世界になるという都合の良さとは要はそういうことなのだ。

 

つまり、第3の別世界:“永遠なる皇帝”シンボリルドルフの世界に生きる人間たちの妄念妄想が投棄された世界というのがこの爛れきった“傾国の皇帝”シンボリルドルフの世界であり、理想が叶う光の世界と欲望が現実のものになる影の世界に役割分担されることによって、あの憎たらしい“影の支配者(real mastermind)”が現れることのない光の世界が実現されていたというわけなのだ。

 

私は数々の可能性の世界を巡ってようやく巨大娘となって磔にされている“傾国の皇帝”シンボリルドルフを解放できると思って裏世界のエクリプス・フロントを再び駆け上がった矢先に対峙することになった“影の支配者(real mastermind)”の嘲笑に力なく膝を折る羽目になった。

 

誰かが不利益を被ることによって成り立つのが社会の現実だというのなら、世界そのものが一方的に不利益を被る側になってしまった者の苦しみはどうすれば晴らされるのだろう。

 

そして、全ての原因が第3の別世界にあったとしても、原因がわかったからと言って、じゃあどうすればいいのかなんて私にはまったく見当がつかなかった。

 

 

しかし、突如として巨大娘:シンボリルドルフを磔にして縛り付けている鎖が崩れていったのだ。

 

 

突然の不可解な出来事に動揺する“影の支配者(real mastermind)”であったが、そのチャンスを見逃すことなく一転攻勢を仕掛けていく中で、第3の別世界の“斎藤 展望”が責任を取ってくれたのだと直感で理解できた。

 

そう、光があれば影が生まれるように、誰かが恵みを享受すれば他の誰かが不利益を被るように世界ができあがっているわけだが、善因善果・悪因悪果・因果応報がこの世の真実であり、必ず最後には報いを受けるように世の中なっているのだ。

 

そして、それ以上に重要な真理は質量保存の法則に他ならず、絶対に宇宙全体に存在する質量は変化しないのだから、私が可能性の世界を旅している間にも同じように私の元いた世界を可能性の世界として訪れている“斎藤 展望”が同時に存在しているわけなのだ。

 

それさえわかれば、魔界の住人(ダークストーカー)の脅威を正しく理解している“斎藤 展望”がこの爛れきった愛すべき世界の真相に辿り着いて、必ず救済に励んでくれることだろう。

 

事実、人々の惜別の念のせいで裏世界のエクリプス・フロントに磔になっている巨大娘:シンボリルドルフを縛る鎖が一人でに解放されていっているのは間違いなくそういうことだ。“私”以外の誰にそんなことができると思う。

 

というより、この爛れきった世界の住人に嫌悪感を抱いている私にはできないやり方で“私”がやり遂げてくれたと考えるのなら、私自身が“私”のためにできることは国際分業と同じく私がこの爛れきった世界で培ってきた経験とノウハウから得られたもので国際貿易の相互主義を果たすことだろう。

 

なので、なんとか“影の支配者(real mastermind)”を退けて“傾国の皇帝”シンボリルドルフを救い出して表世界に連れ帰った後、

 

百尋ノ滝の秘密基地で作らせたVRシミュレーターの中でシンボリルドルフと鈴音Tの再会を果たさせると、このろくでもなく爛れきった世界への反撃の狼煙を上げる準備に取り掛かることにしたのだ。

 

そう、これで卒業の思い出として最愛の人に再会することができたシンボリルドルフの感情を納得させることはできたが、『名家』のお勤めとして子供を残さなければならない義務からの現実逃避が今回の事態を招いたわけでもあるのだから、今度はそうした義務からも解放されなければ完全に個人として救われたことにはならない。

 

要は、数々の別世界の失敗を踏まえた上で、血族の繁栄のために“最強の七冠バ”シンボリルドルフのDNAを受け継ぐ跡取り娘が確保されてさえいれば『名家』としても文句は言えないはずだ。

 

 

――――――となれば、完璧な人口管理の下に居住可能惑星を求めて宇宙を流離う23世紀の宇宙移民が誇る生命工学の出番というわけなのだろう。

 

 

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