ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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完了報告  虹の彼方に消ゆ -可能性の獣への退化- ✓

 

トレセン学園の卒業式の1週間後に修業式があり、そこから中高一貫校としてのトレセン学園は春休みに入るわけだが、

 

その間にシンボリルドルフと秋川理事長が主導した黄金期の総決算となる新設レース『URAファイナルズ』決勝トーナメントがあって、

 

それが大成功に終わったことを記念して、修業式の後に開催成功記念パーティーが執り行われることになっていた。

 

そのため、黄金期の象徴たる“皇帝”シンボリルドルフが参加しないわけにもいかず、卒業式の前日に『飛ぶ鳥 跡を濁さず』で卒業生への送別会が設けられているように、

 

私には修業式とその後の『URAファイナルズ』開催成功記念パーティーの前日にシンボリルドルフの安否を確認する必要があった。

 

結局、最優先で安否確認をするべきだった“皇帝”シンボリルドルフの捜索は突然の異世界探訪で切羽詰まることになって後回しになってしまったわけなのだが、

 

可能性の世界の数々をめぐって時間と空間を超越した存在と繋がりを認識することで、かえってシンボリルドルフ卒業後のトレセン学園の将来を明るくすることに繋がり、安心してシンボリルドルフに報告しに行けるようになっていたのだ。

 

 

そして、卒業式の後は学生寮を出て修業式までホテル住まいになっていた“皇帝”シンボリルドルフの許にあっさりと辿り着くことができた。

 

 

その際、終わらない悪夢に終止符を打つために屋久島の千尋の滝から拾い上げた特大の手土産を持参したことにより、ようやく永い眠りから解放されたかのようにシンボリルドルフは一人の少女の姿を取り戻すことができたのだ。

 

私の信念としては人生とはなんであっても一度きりのものであり、『殺されたから死ぬ』のではなく、『寿命が尽きるから死ぬ』のが自然の摂理であると因果律の観点から理解しているため、

 

はたして、一度は人間としての死を迎えた人造人間を修理(レストア)して復活させることは自然の摂理に反するのか、私には確固たる答えを導き出すことができなかった。

 

もしかすると、今の私が“斎藤 展望”になるために三ヶ月間の意識不明の重体から蘇生したように、人造人間の復活は仮死状態からの蘇生という解釈になるので『寿命が尽きたわけではない』と見なすのが適切なのだろうか。

 

そう解釈すると、人造人間はバックアップや修理パーツが完全に枯渇するまで半永久的に寿命を永らえる種族と見なすことができるため、私がシンボリルドルフの元担当トレーナーを生き返らせることは自然の摂理に反する行いではなくなる。

 

しかし、そうなると電脳世界に仮初の肉体(アバター)と第2の人生を用意する仮想現実(VR)とは異なる、物質世界に代替ボディ(アバター)と第2の人生を用意する拡張現実(AR)での公平性と倫理性の問題に突き当たることになってしまう。

 

仮想現実(VR)だろうが、拡張現実(AR)だろうが、行き過ぎれば自然に生まれ持った肉体や生の現実を蔑ろにして人心が退廃することが明らかとなるため、どうしても人造人間の復活に二の足を踏んでしまう。

 

 

なので、私はシンボリルドルフに愛する人の復活に対する残酷な選択肢を突きつけることになった。

 

 

1つ目は、一度は人間としての死を迎えた人造人間の復活を認めないこと。最愛の人がはっきりと死んだことを受け容れることだ。それが限り在る寿命の有機生命体(Organic Life)が須らく背負うべき公平性と倫理性だからだ。

 

2つ目は、人造人間の復活を人造生命体(Artificial Life)が仮死状態から蘇生したと見做して完全復旧させること。こうすれば最愛の人が自分の許に帰ってきたことになるが、種族間の寿命の差によっていずれは死に別れるのを先延ばしにするだけじゃなく、拡張現実(AR)での公平性と倫理性の問題を提起することになる。

 

3つ目は、先の2つの中間案として、電脳世界に回収できたメモリーから誕生させた疑似人格(AI)仮初の肉体(アバター)を与えて電子生命体(Electrical Life)として転生させることである。これも一種の不死性を体現するため、仮想現実(VR)における公平性と倫理性の問題に突き当たるが、私の直感としてはこれが一番無難に感じられた。

 

つまり、シンボリルドルフにとって最愛の人とは有機生命体(Organic Life)なのか、人造生命体(Artificial Life)なのか、電子生命体(Electrical Life)なのかという解釈次第で、トレセン学園卒業後のシンボリルドルフの生涯に大きな変化をもたらす運命の分岐点となるのだ。

 

それをシンボリルドルフにとっていろいろとあきらめも覚悟もついた最後の登校日となる修業式前日に、こんな究極の3択を突きつけてくる私はとんでもなく魅惑的な選択を突きつけてくる悪魔に思えているはずだ。

 

なので、トレセン学園卒業後は完全に重圧から解放されたことで自身の空虚さから目を背けることができなくなって悪夢に魘され続けて少し見ない間に窶れ切ったシンボリルドルフは突如として与えられた途方もない選択肢の重さに大いに狼狽えた。

 

その時、明らかにホテルの備品とは思えないほどに高級そうな天体時計搭載のガラス張りの金色に照り輝く“置き時計”の存在に気づいた。

 

そして、“皇帝”シンボリルドルフ卒業と『URAファイナルズ』成功を懸けた最後の1週間の激闘の裏に潜む全ての元凶の正体を知った時こそ――――――。

 

 

――――――あなたはそれを悪だからと裁くことができますか?

 

 


 

 

●20XY年03月18日:トレセン学園修業式前日

 

斎藤T「さあ、どうします? 第4の選択肢として『今は回答を保留する』のもアリだと思いますが?」

 

シンボリルドルフ「わ、私は…………」

 

斎藤T「焦ることはないじゃないですか。これからも私はあなたと生涯の友としてお付き合いしますし、あなたは私のことを必要とし、私もあなたのことを必要としていますので」

 

斎藤T「それに、海外留学先はアメリカとのことですが、実は4月のサンタアニタ・ダート・9ハロン『サンタアニタダービー』の観戦に行きますので、そこでまた会えますよ」

 

シンボリルドルフ「そ、そうだったのか……」

 

シンボリルドルフ「でも、いよいよアグネスタキオンのメイクデビューのためにトレーナー業が本格化するのに『サンタアニタダービー』の観戦だなんて それはどうして――――――、いや、きみのやることだ。きっと、それは素晴らしいことなんだろうな。予定に入れておこう」

 

斎藤T「だから、まずは海外留学してみてから、あなたの最愛の人との理想的な付き合い方を選んでみてもいいのではないでしょうか? 少なくとも、気持ちに余裕が出てきますよ?」

 

シンボリルドルフ「…………本当にきみには助けられてばかりだな」

 

斎藤T「それはあなたが“ヒトとウマ娘の統合の象徴”として頑張り通したことをウマ娘の皇祖皇霊たる三女神が祝福しているからに他なりません」

 

シンボリルドルフ「…………本当に?」

 

斎藤T「……疑うのなら、今すぐに三女神像の前に行きましょうか? それで白黒つくと思いますよ?」

 

シンボリルドルフ「………………」

 

シンボリルドルフ「……なあ、斎藤T? きみは天皇家に代々仕えてきた皇宮護衛官の家系の出身だから“ヒトとウマ娘の統合の象徴”たらんとした私のようなウマ娘に 誠心誠意 仕えてくれたのだろう?」

 

シンボリルドルフ「そして、それが皇祖皇霊の加護を得て、トレセン学園に数々の救いの奇跡をもたらしてきた」

 

シンボリルドルフ「きっと、間違いなく きみがなしてきたことは天神地祇の御心をこの地に反映するための代行者の行いであるのだから、完全な善行なのだと思う」

 

斎藤T「実態としては私の意志に関係なく無理やり働かされるので、いつも死ぬような思いをしてひーこら言いながら、今回もこの瞬間に立ち会うことになっていますけどね」

 

 

シンボリルドルフ「……なら、私が史上初の“無敗の三冠バ”になるために過去改変を幾度となく行ってきたことは正しいことなのか?」

 

 

斎藤T「……なに?」

 

シンボリルドルフ「思い出したんだ。私がどうして“皇帝”と呼ばれるほどに完璧な生徒会の運営やレースの勝利を収めることができていたのか――――――」

 

シンボリルドルフ「本当はね、私は“三冠バ”ですらなかったんだ。私の世代で三冠を分け合ったのは実は“BNW”ことビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウイニングチケットの3人だったんだ」

 

斎藤T「それはつまり、ライバルと見なされていた有馬一族の御曹司:鐘撞Tが見出した3人が世代の中心だったという――――――」

 

シンボリルドルフ「ああ。有馬一族の御曹司は間違いなく超一流の新人トレーナーだったよ。開催状況そのものを意のままに操作してレースをいかようにも盛り上げてしまう手腕は驚異の天才:才羽Tですらなし得なかったものだ」

 

シンボリルドルフ「そんな中、クラシック戦線で鐘撞Tに敗れた私は良くて“グランプリ”三連覇の実績でもって生徒会長になれたわけなんだけれど……」

 

斎藤T「いや、それも十分に凄いんじゃないんですか!? 三連覇ってことはクラシック級『有馬記念』、シニア級『宝塚記念』、シニア級『有馬記念』を優勝して、“三冠バ”ナリタブライアンにも堂々と勝っているってことですよね!?」

 

シンボリルドルフ「そうだったな。そういう意味では“クラシック三冠バ”と“グランプリウマ娘”は同格として体裁を保つことはできていたのかもしれない……」

 

シンボリルドルフ「けれど、私はそれで最初の3年間を終えることができなかったんだ……」

 

斎藤T「まさか――――――」

 

 

シンボリルドルフ「ああ、私は最愛の人であるあの人との日々を絶対に手放したくなかったんだ……」

 

 

シンボリルドルフ「だから、私は許されざる契約を悪魔と交わしてしまったんだ……」

 

シンボリルドルフ「そして、私は()()()()()()()()史上初の“無敗の三冠バ”という絶対者として学園に君臨することができたんだ……」

 

斎藤T「なに、『3回』!? それはまさか――――――!?」

 

シンボリルドルフ「私が史上初の“無敗の三冠バ”になれた理由なんて、そんなのは簡単な理由だった」

 

 

シンボリルドルフ「――――――何度も時間を繰り返してきたから」

 

 

シンボリルドルフ「だから、本当は私は“三冠バ”の器などではなかったんだ! 何が『“そのウマ娘”には絶対がある』だ! ただの卑怯者だ、私など……」

 

斎藤T「…………それでも、時間は繰り返された」

 

シンボリルドルフ「私は! 本当はトレセン学園やウマ娘レースの未来なんてどうでもよかったんだ!」

 

シンボリルドルフ「わかるだろう!? 日本における近代ウマ娘レースの歴史はたかだか100年程度なのに、すでに競走ウマ娘という種の限界に直面しているんだ!」

 

シンボリルドルフ「平均寿命が80歳を超える時代に十代の中高一貫校のたった6年間を人生で最高に輝いた青春だと懐かしむだけの種族の人生の何が素晴らしいんだ!?」

 

シンボリルドルフ「ヒト社会においては社会人になってからが人生の本番だというのに、競走ウマ娘という種族は“本格化”による身体能力の向上が著しい時期を全盛期として、いつまでもその栄光に満たされた過去の思い出に浸るのが競走ウマ娘の正しい生き方とでも言うのか?!」

 

シンボリルドルフ「実社会に出てみれば、ヒトよりも優れた身体能力を発揮できる場面はいくらでも出てくるだろうが、結局はヒトよりも特段優れているわけでもない頭脳が求められることはなく、むしろウマ娘の生まれ持った闘争本能やヒトを超越した身体能力が社会進出の足枷にすらなっているんだぞ!?」

 

シンボリルドルフ「斎藤Tも技術者ならウマ娘の身体構造や身体能力に合わせた安全基準やデザイン設計に相当に悩まされているんじゃないか?」

 

斎藤T「たしかに。ヒトにはないウマ耳と尻尾のことを考慮しないと この世界ではユニバーサルデザインが完成しないのが物凄く手間です。ヒトとウマ娘の身体能力差から安全基準を両立させようとすると無駄が非常に大きくて困りますね」

 

斎藤T「だから、ヒトとウマ娘の両方の安全基準を考慮した時、一番安上がりになるのがウマ娘の方に拘束具をつけて身体能力差をなくすように不便を強いる方向になってしまいがちです」

 

シンボリルドルフ「そうだろう! ヒト社会において1割に満たない異物であるウマ娘の存在に対して積極的格差是正措置(アファーマティブ・アクション)が過剰なまでに執り行われることで、日本ではそうでなくても世界的にはウマ娘に対する憎悪犯罪(ヘイトクライム)は増加傾向にあるぐらいだ!」

 

シンボリルドルフ「私はもううんざりなんだ! 信じたくなかったんだ! 親から押し付けられた理想なんて!」

 

 

――――――そうとも! みんな、本当はわかっているだろう! 『全てのウマ娘が幸せになれる世界』だなんて 一生 来るわけがない!!

 

 

それが“皇帝”シンボリルドルフの罪の告白であり、これまで胸の奥に封印されてきた ありのままの感情の吐露でもあった。

 

これはたしかに“特異点”として時間を何度も巻き戻してヒトとウマ娘が共存する世界のために人知れず奔走してきた私でないと対応しきれない案件であり、

 

まさか、シンボリルドルフ自身が何らかの超常的存在との悪魔的契約でタイムリープを繰り返して“最強の七冠バ”の誕生という奇跡を演出してきたという真相に辿り着けるものなどいるはずがない。

 

そう、私がトレセン学園の新しい時代のために『皇帝G1七番勝負』で過去のシンボリルドルフのG1レースをVRシミュレーターで再現して十分な対策を施して新生徒会役員たちの躍進のための踏み台にしたことは、実は“最強の七冠バ”シンボリルドルフ誕生という繰り返されるタイムリープで誕生した虚偽の産物に対する因果応報でもあったのだ。

 

だから、三女神は『皇帝G1七番勝負』でタイムリープというズルで塗り固められた“皇帝”の偶像を打ち砕くために、別世界のトレセン学園の中心的人物となっていた最強クラスのウマ娘である“女王”アグネスオタカルと“将星”トウショウサザンクロスとの接点を私に与えたのだ。

 

そう確信できたのも、もう一人のアグネスタキオンとなった並行宇宙からやってきたバケモノに対して因子継承を行わせた結果、バケモノとしての業と悲哀を認識させてスーペリアクラスに強制的に進化させた三女神の厳しい裁きを目の当たりにしていたからだ。

 

そう考えると、エルダークラス:ヒッポリュテーの擬態対象にシンボリルドルフが選ばれた理由も本人は記憶になくてもタイムリープのチート行為によって“皇帝”の座を得たことへの因果応報なのだと理解できるようになってしまった。

 

そして、何故にウマ娘レースの公平性と倫理性の問題を頻繁に取り上げるようになっていたのも、誰よりもウマ娘の理想世界のために働いてきた人物こそが理想を叶えるために一番ズルをして不当に地位を得たことに対して三女神が警鐘を鳴らすためでもあったようなのだ。

 

 

――――――そう、だから、“皇帝”シンボリルドルフはここまで過酷な運命に苦しめられてきたのだ。

 

 

その過酷な運命の因果の糸を紡いでいたのが、現実の結果を受け容れられずに現実逃避してタイムリープに走ってしまったシンボリルドルフ自身であり、本人に自覚がなくとも三女神はそれをしっかりと見て 徹底的な裁きを与えていたのだ。

 

その(カルマ)がタイムリープする毎に向上していく競走ウマ娘としての栄光と反比例するかのような自身の空虚さを際立たせることになり、唯一自分の意志で掴み取ったものである愛する人との別離を強いる因果を紡ぎ出していたのだ。

 

その業の深さが第3の別世界で自身の栄光の記念碑たるエクリプス・フロントに巨大娘になって磔にされるという事象にも繋がっていることを考えると、本人の意志はどうであれ、一生に一度しか挑戦できない『トゥインクル・シリーズ』に出走したウマ娘たちの人生を侮辱した行いへの報いとして磔刑に処されるのも無理はないと思ってしまった。

 

そう、口では『ウマ娘の幸せな世界を築く』という理想のためと言いつつ、実際は自身の利益の最大化のためにタイムリープを悪用していた業が跳ね返った結果なのだ、全ては。

 

 

――――――天網恢々疎にして漏らさず。全ては自らが蒔いた種だったのだ。

 

 

シンボリルドルフ「………………」ゼエゼエ

 

斎藤T「……まあ、そうですね。トレセン学園の狭き門を潜ってきた時点で、相当数のウマ娘たちを夢の舞台から追い払っていますからね」

 

斎藤T「しかし、ようやく本音を見せてくれましたね」

 

シンボリルドルフ「え」

 

斎藤T「いや、“皇帝”シンボリルドルフがいったい何に腹を立てているのか、怒りの矛先はどこに向けられているのかを深く追求することができなかったので、根本的な不安の解消に取り組めなかったわけですけど――――――」

 

 

斎藤T「結局、親のエゴに反抗できない子供の不満が暴発しそうになっていたわけですよね、それって」

 

 

シンボリルドルフ「え」

 

斎藤T「これも異種族共生社会における異種族間の生態の違いから来る生活様式や文化のちがいが招いた悲劇なんでしょうね」

 

斎藤T「たしかに、あなたのご両親は“世界を良くすべく己の身をも投げ打つ者で厳格な人物”として大変評判の方々でしたが、実の子供でさえも理想を叶えるための道具にしている時点で矛盾を感じ取ってしまったのは、幼くして聡明であれと詰め込まれた帝王学のせいというのは皮肉ですね」

 

シンボリルドルフ「……そうだとも。ウマ娘にとっては“本格化”を迎える十代が全盛期で、その時でしか一生に一度の『トゥインクル・シリーズ』への挑戦が認められないからこそ、両親にとって分身(アバター)でしかない私を使うしかなかったんだ」

 

 

シンボリルドルフ「――――――自分()にできもしないことを他人()に押し付けて!」

 

 

斎藤T「……なら、自分たちがウマ娘の改造手術や若返りの手術でも受けてターフの上での理想を叶えるべきでしたね」

 

シンボリルドルフ「ああ。ようやく自分の中で封印されていたものが解き放たれてスッキリすることができた。ありがとう、本当に……」

 

シンボリルドルフ「これでも、両親には感謝もしている。尊敬もしている」

 

シンボリルドルフ「けれど、私に対して両親が期待を寄せてくれていたのは、ウマ娘としての自由を掴み取るためにターフの上で走れる脚じゃなく、親が敷いたレールの上を走ってくれる脚だったんだろうなって」

 

斎藤T「それがウマ娘レースで幅を利かせるウマ娘の『名家』の価値基準なのだから、しかたがないのではありませんか?」

 

斎藤T「まあ、そういう意味では自分たちの権益を守るために個人の自由;特に自己実現の自由(Freedom)を損なっているのは、制度の奴隷になっていて時代錯誤している価値観だとは思いますよ」

 

シンボリルドルフ「ああ、そうか。だから、“グランプリ”を三連覇しようが、史上初の“無敗の三冠バ”や“最強の七冠バ”になろうが、私とあの人の関係を頑なに認めようとしなかったわけだ……」

 

シンボリルドルフ「あの人が生身の人間じゃないにしたって、そんなに私の子が欲しいのなら、私のDNAから私の複製人間(クローン)でも作れば済む話じゃないか!」

 

シンボリルドルフ「どうせ、身元不確かな才能ある子にシンボリ家の冠名を与えて家門に加えるのなら、いっそのこと、過去のスターウマ娘の複製人間(クローン)を生産すれば安泰だろうに!」

 

斎藤T「ウマ娘が幸せになれる理想を追い求めるばかりにウマ娘に理想を強いて苦しめるという本末転倒な展開か……」

 

シンボリルドルフ「うん。この世が善因善果・悪因悪果・因果応報なら、きっとシンボリ家は自らの理想によって非道を強いてきたことへの報いを受けるはずだ……」

 

 

かつて“トレーナーの トレーナーによる トレーナーのためのウマ娘レース”に支配されて暗黒期と呼ばれた八百長試合が横行した時代があった。

 

そして、その暗黒期を打破して“ウマ娘の ウマ娘による ウマ娘のためのウマ娘レース”を目指して総生徒数2000名弱まで規模を拡大させることに成功した黄金期が到来することになった。

 

これによって、暗黒期の首魁となっていたトレーナー組合の黒幕であったトレーナーの『名門』の権勢は衰え、逆に生徒会の背後につくウマ娘の『名家』が権勢を振るい始めたわけなのだが、

 

結局、暗黒期の黒幕として粛清されたトレーナーの『名門』はともかく、暗黒期で権力争いをしていつまでも黄金期の到来を果たすことができなかったウマ娘の『名家』も新しい時代に生きる者たちにとってはそれもまた害悪でしかなかったのだろう。

 

実際、ウマ娘の『名家』が暗黒期のアンチテーゼとしてウマ娘の自由を標榜しておきながら、その理想の旗手となるウマ娘(我が子)には理想の実現(大人のエゴ)のために無理強いをするというのだから、直向きにターフの上で走ることに情熱を燃やす中高生から反感を買うのも当然ではないか。

 

だから、理想のための道具にされてきた当人が恨み言を漏らしたように、ウマ娘の『名家』もまたウマ娘を苦しめてきた報いを受けることになるのだろう。

 

 

なので、ウマ娘の『名家』が善玉だとか、トレーナーの『名門』が悪玉だとか、そんな単純な二元論に囚われずにひとりひとりの心に向き合うことがいかに大切なのかを再認識することとなった。

 

 

というより、本当にこのままシンボリルドルフを独りにしてトレセン学園から巣立たせたら、世界にとって決して良くないことが起きそうな予感がしてならないのだ。

 

そもそも、自由で開放的な学園の雰囲気作りに注力してきたからこそ、海外留学したら絶対に日本に帰らないことも視野に入れているぐらいには、本当はシンボリ家の両親が唱える理想の暗黒面に触れすぎているのだ。

 

これもまた親の業を子が受け継ぐことになる天地の法則の通りであり、シンボリ家の惣領娘として生まれてしまったことの不幸を呪うしかあるまい。それが家代々の罪が業となって御家断絶の自業自得に繋がるわけなのだ。

 

けれども、本当はそのことを呪うことも因果応報の結果でしかないことを私は弁えているが、今こうして苦しみ藻掻いている心に寄り添わずして何をもって慈悲と称するのかを考えると、因果の法則を説くのは今ではなかった。

 

今はただ、一人の少女のこれからの方向性についてしっかりとした指針を与えて、元気にトレセン学園を巣立っていくように助力するだけである。

 

 

シンボリルドルフ「………………」

 

斎藤T「………………」

 

シンボリルドルフ「ありがとう、斎藤T。さっきの流れで私が出すべき答えがようやく見つかったよ」

 

斎藤T「そうですか」

 

シンボリルドルフ「斎藤T。私はあの人のことをただの人造生命体(Artificial Life)だなんて思いたくない」

 

シンボリルドルフ「自分自身の有機生命体(Organic Life)の人生を捨ててまで、未来世界から私のことを愛するために時空を越えてやってきてくれたんだ」

 

シンボリルドルフ「血が通っているからと言って無条件に愛を得られるということでもないことを私は知った」

 

シンボリルドルフ「血が通ってなくても気持ちを分かち合い、互いに心を求め合って、私はあの人と肌を重ねて愛し合うことができた」

 

斎藤T「………………」

 

 

シンボリルドルフ「だから、もう放っておいて欲しいんだ」

 

 

シンボリルドルフ「私たちはずっと運命に弄ばれてきた。世間から 散々 見世物にされてきたんだ。親からも理想を叶えるための道具にもされてきた」

 

シンボリルドルフ「それがトレセン学園を卒業してからもかつてのスターウマ娘のその後の人生を詮索されるのは本当に鬱陶しくてしかたがない」

 

シンボリルドルフ「そう、全部 私の本心から生まれたものじゃないんだ! 全部 嘘! 走っている時の私だけはウマ娘としての欲求が満たされた本当であっても、それ以外は 全部 親が敷いたレールの上を走ってきた上辺だけのものだ!」

 

シンボリルドルフ「私が自分の意志で掴み取れたものなんて“あの人との思い出”しかないんだ……」

 

シンボリルドルフ「だから、私はあの人の死を受け容れて、競走ウマ娘:シンボリルドルフとしても卒業する――――――」

 

 

シンボリックリンク”「おやおや、お客様? まさか、『トレセン学園を卒業する』だなんて言わないですよね?」スゥー・・・

 

 

シンボリルドルフ「ひっ」ゾクッ

 

斎藤T「何者だ!?」ガタッ ――――――シンボリルドルフの盾となるように立ち塞がる。

 

シンボリックリンク”「お初にお目にかかります。私はシンボリックリンク”と申し上げます。お客様とは最初の3年間の終わりごろに 初めて契約を交わして以来 9年の付き合いになります」

 

斎藤T「――――――現実世界に干渉する非実在人間“半人半霊(エンティティ)”だな?」

 

シンボリックリンク”「おやおや、『非実在人間』だなんておっしゃいますが、私はしっかりと存在しているのに、何を以って非実在性を証明なさるのですか?」

 

斎藤T「簡単なことだ。シンボリルドルフに最初の3年間を上書きするように動いたのが、最初の3年間で愛する人と離れ離れにさせられた恨みから生まれたシンボリルドルフの影――――――、更にその影から生まれた光がお前の正体だろう?」

 

シンボリルドルフ「え」

 

シンボリックリンク”「…………!」

 

斎藤T「影の世界の“斎藤 展望”が教えてくれたよ。この世界は影に対する光の世界であり、“影の支配者(real mastermind)”が存在しない世界なんだって」

 

斎藤T「しかし、光と影は表裏一体である以上は“影の支配者(real mastermind)”と対になる存在が支配的でないと宇宙全体の調和がとれないわけで、」

 

斎藤T「何が原因である1つの世界が光の世界と影の世界に分裂することになったのかがわかった以上――――――」

 

 

斎藤T「つまり、お前こそが人間の普遍的無意識の中でポジティブな領域の擬人化である“虹の彼方の者(rainbow chaser)”なのだろう?」

 

 

シンボリックリンク”「…………っ!」

 

シンボリルドルフ「さっきから何を言っているんだ? 何の話をしている?」

 

斎藤T「確認しますが、この世界はあなた自身が記憶しているように3周目の世界で、あと1回は時間を巻き戻すことができるという認識で間違っていないですか?」

 

シンボリルドルフ「あ、ああ。間違いがなければ、1周目は“BNW”に敗北しながら“グランプリ”三連覇をして生徒会長の座を何とか掴み取って、2周目は『菊花賞』でビワハヤヒデに敗れて“無敗の二冠バ”止まりで、3周目でようやく“無敗の三冠バ”にして“最強の七冠バ”になれたはずだ……」

 

 

斎藤T「じゃあ、この人、1周目のあなた“グランプリ三冠バ”シンボリルドルフの成れの果てですよ」

 

 

シンボリルドルフ「ええ?!」

 

シンボリックリンク”「――――――ッ!」

 

シンボリルドルフ「いや、待ってくれ! 私は本当の意味(1周目)での最初の3年間の記憶を持っている――――――!」

 

斎藤T「でも、今まで時間を巻き戻していた事実を忘れていたんですよね?」

 

シンボリルドルフ「それは、そうだが……」

 

斎藤T「どうやら記憶を持ち越すことはできなくても、世界の成因となる因果は持ち越されているわけで、1周目と2周目の積み重ねによって3周目の世界で“最強の七冠バ”シンボリルドルフが誕生しているわけなので、これは“なかったこと”になった1周目の世界の残滓です」

 

斎藤T「けれど、本当に世界がタイムリープによって改変されているのなら、いったいどこの記憶域に1周目の記憶が保管されているのかと言えば、こういうことです」

 

 

――――――ここに四次元能力を説明する際によく使われる35ミリフィルムがある。

 

 

1周目までのシーンのコマからある時点の過去までタイムリープで遡った時、35ミリフィルムを折り重ねた状態がタイムリープで記憶を保持できる原理であり、他の時間軸に切り替わったわけではないのだ。

 

1周目の出来事はこのように折り重なった2周目の分のコマに覆い隠されているだけで、1周目のコマそのものは依然としてひとつなぎの35ミリフィルムに存在し続けているわけである。

 

それと同じようにタイムリープの記憶と共に因果も地続きで継承されているわけであり、3周目で“最強の七冠バ”になるまでに“なかったこと”にされたシンボリルドルフのライバルたちの努力を踏み躙る行いは最愛の人との別離という罰によって報いを受けることになったのだ。

 

 

では、1周目の“グランプリ三冠バ”シンボリルドルフに四次元能力:タイムリープという超常の力を与えた存在とは何者なのか――――――?

 

 

それは私にもその根源となるものはわからない。四次元能力の起源など三次元世界の住人には決して解明できない領域のものなのだから、究明のしようがない。

 

ただ、あの爛れきった第3の別世界が光に対する影の世界であったように、この世界が影に対する光の世界に分類されていたことで存在していたのが“虹の彼方の者(rainbow chaser)”なのだ。

 

この“虹の彼方の者(rainbow chaser)”は人間の普遍的無意識のポジティブな領域の擬人化であるのだが、厄介なことにこれが暗黒面に対する光明面と言い切れるようなものではないのが事態の混乱に拍車を掛けていた。

 

そう、少なくともシンボリックリンク”の姿で現れた“虹の彼方の者(rainbow chaser)”がおそらく良かれと思ってシンボリルドルフに与えたタイムリープは、結果として競走ウマ娘としての頂点に立つ栄光をもたらしたが、同時に三女神から罰を受けて最愛の人との別れによる虚無を与えられることになった。

 

そのため、三女神と“虹の彼方の者(rainbow chaser)”は同一の存在などではなく、天地の法則に基づいて信賞必罰を貫く 人間の中でもっとも高貴な領域の存在である 皇祖皇霊と“影の支配者(real mastermind)”とは別の意味で()()()()()()である“虹の彼方の者(rainbow chaser)”はまったくちがうものなのだ。

 

乱暴な物言いになるが、人間の中でもっとも高貴な領域を司る皇祖皇霊と比較すると、人間の普遍的無意識のポジティブな領域を司る“虹の彼方の者(rainbow chaser)”もネガティブな領域を司る“影の支配者(real mastermind)”も等しく低俗な領域の存在でしかない。

 

なぜなら、人間の普遍的無意識のポジティブな領域を司る“虹の彼方の者(rainbow chaser)”はひたすら人間のポジティブな面を追求しようと行動し、ネガティブな領域を司る“影の支配者(real mastermind)”も同じく人間のネガティブな面を見て嘲笑おうと画策しているからだ。

 

そう、あくまでも普遍的無意識の擬人化である“虹の彼方の者(rainbow chaser)”と“影の支配者(real mastermind)”は()()()()()()でありながら()()()()()()ではないため、ひとりひとりの人間性や人生になど興味はないのだ。

 

つまり、“虹の彼方の者(rainbow chaser)”は人間讃歌や人間の素晴らしさを称える感動的なシーンが見たいのであって、本当の意味でひとりひとりの心を見つめようとはしていないのだ。

 

それを都合の良い言葉で表現するなら、夢や希望、可能性といったものを貪欲に追求する存在であり、シンボリルドルフに付き纏うポジティブの化身(シンボリックリンク”)の正体は誰よりもシンボリルドルフの可能性に夢や希望を託していた存在が根源になっているのではないか――――――。

 

 

斎藤T「――――――愛しているのなら!」

 

斎藤T「――――――子供の可能性を誰よりも信じていたのなら!」

 

斎藤T「――――――そう言ってあげればよかったじゃないですか!」

 

シンボリックリンク”「!!?!」

 

シンボリルドルフ「え!?」

 

斎藤T「……シンボリックリンク”。お前の正体は“虹の彼方の者(rainbow chaser)”の化身となったことで非常に複雑で複合的なものになっているが、その根源になるものははっきり見えたぞ」

 

斎藤T「お前の正体は光の世界の妄念妄想が不法投棄されて爛れきった影の世界で最愛の人と愛し合って処女を捨てられなかった“傾国の皇帝”シンボリルドルフの報われぬ想いが被さって、この世界の“永遠なる皇帝”シンボリルドルフにまた時間を巻き戻させようと画策しているみたいだが、そうはさせんぞ」

 

斎藤T「もっとも、その影の世界の“傾国の皇帝”シンボリルドルフもまた、この世界の“永遠なる皇帝”シンボリルドルフが生徒たちの規範として振る舞っておきながら影で担当トレーナーと愛し合っていたことを恥じて生まれ落ちた存在だから、どっちもどっちだけどな!」

 

シンボリルドルフ「うっ」

 

 

斎藤T「けど、世界が光と影に分裂する前の本当の意味での最初の3年間(1周目の世界)でシンボリ家の惣領娘となる最愛の娘に嫌われたことに絶望して、こんな歪んだ奇跡をもたらす魔界の住人(ダークストーカー)に成り下がるとは!」

 

 

斎藤T「もう十分だろう! “最強の七冠バ”にまでなったのに これ以上 何を求める!? これ以上のタイムリープはとんでもない代償をこの子に払わせることになるんだぞ! 『仏の顔も三度まで』っていうだろう?」

 

斎藤T「お前にとって我が子はシンボリ家の栄光のためだけに存在するのか!? 最高のウマ娘である我が子の可能性をどこまでも見たいという親のエゴのために、お前は我が子を永遠にトレセン学園に縛り付けるつもりか!?」

 

斎藤T「そんなのはウマ娘の未来を想ってのことなんかじゃない! ウマ娘を我が子に持った父親はみんな親バカになるのは知っているんだぞ!」

 

シンボリックリンク”「――――――ッ!」

 

シンボリルドルフ「え、もしかして、あなたは私の――――――?」

 

 

シンボリックリンク”「それの何がいけない!? 我が子に最高の栄誉を与えるチャンスを見逃す親などいるか!」ドン!

 

 

シンボリルドルフ「お、お父様……?」

 

斎藤T「……よし!」ニヤリ

 

シンボリックリンク”「言わせておけば、小僧!」

 

斎藤T「そんなに悔しかったか!? 『名家』の出身でもない“BNW”にシンボリ家の最高傑作がクラシック戦線で敗れたのが!? その“BNW”をぶつけてきた名門中の名門トレーナー:鐘撞Tの存在が!?」

 

斎藤T「その時間さえ巻き戻すあきらめない精神はまさにポジティブの極みだが、3度目の挑戦で“BNW”に完全勝利して“最強の七冠バ”にまでなったというのに!」

 

斎藤T「――――――次はない! それ以上は三女神の怒りに触れるぞ!」

 

シンボリックリンク”「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁー!」

 

シンボリルドルフ「…………!」

 

 

シンボリックリンク”「――――――“皇帝”シンボリルドルフこそが最強なんだ! そうであるべきなんだ!」

 

 

シンボリックリンク”「三女神もなぜこれ以上の恩寵を与えようとなさらぬのだ!? それが全てのウマ娘のためであると――――――!」

 

シンボリルドルフ「……お父様」

 

斎藤T「ん、んんん!?」

 

斎藤T「いや、待て。明らかにさっきまでの家族に対する証言と矛盾する感情――――――」

 

斎藤T「あ、なるほど、そういうことか! しまった! ちょっとちがったな!」

 

斎藤T「シンボリルドルフ、あなたの父上は本当の愛情深い人物であったようですね」

 

シンボリルドルフ「急に何を?」

 

斎藤T「だからこそ、トレセン学園やウマ娘レース業界よりももっと大きな視点でもって、これからますます異種族共生社会が混沌としていくことを予見していたからこそ、あえて突き放した態度で厳しい教育を施していたようです」

 

 

斎藤T「本当は『トゥインクル・シリーズ』でどういう結果になろうとも、レースでの実績ではなく、人間としてのあるべき振る舞いによって異種族共生社会においてウマ娘たちを正しく導けるように帝王学を自ら教えていたのが真相です」

 

 

斎藤T「だから、レースの結果になんてこだわってなんかいなかったんだよ、あなたのご両親は……」

 

斎藤T「本当の意味でウマ娘のために正しいと思えることを自分で考えて実践してもらえるように、独り立ちを最初から促していたんだ……」

 

斎藤T「生徒会長になるように強制してきたのは、将来的に政治的指導者になるための下積みであって、この辺は元から理想が高かった両親のごく自然な要求ではあったかな……」

 

シンボリルドルフ「そ、そんな……」

 

シンボリルドルフ「ま、待ってくれ! じゃあ、()()は誰なんだ!? お父様に似ているようで実はちがった――――――」

 

 

斎藤T「誰って、父方の叔父さんでしょ? それも悪魔の契約を交わして悪魔の眷属になった悪魔憑きで、最初の世界でもうこの世にはいない存在になった――――――」

 

 

シンボリルドルフ「え」

 

シンボリックリンク”「なっ!?」

 

斎藤T「そうか。なるほど、兄弟揃って中央のトレーナーとして活躍して、実の兄が恋敵だったわけですか」

 

斎藤T「だから、最愛の人の子であるシンボリルドルフにそこまで執着したわけですね。横恋慕とは末恐ろしいものですね」

 

 

――――――ここでまさかの驚愕の事実!

 

 

実は、“虹の彼方の者(rainbow chaser)”の化身:シンボリックリンク”というウマ娘の正体は、片思いの相手だったシンボリルドルフの母親の相当に美化した皮を被った 父親と同じ中央のトレーナーだった シンボリルドルフの叔父さんだった。

 

なので、シンボリルドルフの父親の実の弟なのだから、雰囲気が極めて似ているだけに直接会ったことのない私は早合点してしまったのだ。実際、朧気ながら幼いシンボリルドルフの記憶にある ずっと優しくしてくれた叔父さんの存在もそのように誤認されていた。

 

しかし、これまでのシンボリルドルフの対話から理想のためなら我が子を理想の道具にすることも厭わない冷酷非情のイメージがあったのに、その真相を見つめているとシンボリックリンク”の感情の奥底にはシンボリルドルフとの家族愛を自己主張しており、それが極めて不自然に思えたのだ。本当に父親なら自分が父親である歴然とした事実を殊更に主張するわけがない。

 

だから、“虹の彼方の者(rainbow chaser)”の化身:シンボリックリンク”に対して挑発的な言動で揺さぶりをかけてみたわけなのだが、すると明らかにシンボリルドルフの父親らしからぬ執着の仕方を見せており、なぜかシンボリルドルフを通して母親の方に感情が向いているのが見えたのだ。

 

結果、シンボリルドルフにとって親から受け売りだった理想の真相も浮き彫りになり、私の中で評価が二転三転しながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の妄念妄想の正体をついに突き止めることができたのだ。

 

いや、正体というよりは起点となる核になった“半人半霊(エンティティ)”がシンボリルドルフの叔父さんであり、どうやら悪魔と契約して眷属になることでシンボリルドルフの母親:スイートルナと結ばれなかった未練を愛した人の子である姪:シンボリルドルフに愛を注ぐ代替行為で己の欲を満たそうとしていた気持ちの悪いストーカーであったのだ。

 

まさしく、魔界に属する非実在人間である“魔界の住人(ダークストーカー)”の在り方であり、こんなのが人間の普遍的無意識のポジティブの擬人化たる“虹の彼方の者(rainbow chaser)”の化身になれる辺り、人間のポジティブな面というのが必ずしも善ではないことを物語っている。

 

要は、シンボリルドルフは母親に片想いをしていた叔父さんという悪魔の眷属にずっと取り憑かれていたわけであり、己の愛が恋敵であった実の兄よりも優れていることを証明するために愛する人の子である可愛い姪っ子に異様なまで入れ込んでいたわけなのだ。

 

愛ゆえに我が子を厳しく育てた恋敵である兄とは異なり、己の欲のために姪っ子を可愛がっていたのが真相である以上、これは悪霊祓いの技能を持つ私が容赦をするわけにはいかなかった。

 

 

シンボリックリンク”「み、見破られたあああああああ!?」

 

斎藤T「破邪顕正」シュッ ――――――十字に印を切る!

 

シンボリックリンク”「うわああああ!? 身体が熱いぃいいい!? お、俺はただルナさんのためを想ってえええええええ!?」

 

シンボリルドルフ「お、叔父さん……」

 

斎藤T「縛!」 ――――――印を結ぶ!

 

シンボリックリンク”「う、動きがああ!? は、放せええええ! あ、熱いいいいい!」ギチギチ

 

シンボリックリンク”「る、ルナちゃん! 今すぐに“置き時計”を使って! そうすれば、また何度でもやり直せるから!」

 

斎藤T「――――――“置き時計”!?」

 

シンボリルドルフ「叔父さん」

 

シンボリックリンク”「ルナちゃん!」

 

斎藤T「だ、ダメだ! これ以上のタイムリープは確実に――――――!」

 

 

シンボリルドルフ「ごめんなさい……」

 

 

シンボリックリンク”「え」

 

斎藤T「………………!」

 

シンボリルドルフ「ずっと忘れていました、叔父さんのこと」

 

シンボリルドルフ「斎藤Tに叔父さんのことを言ってもらえるまで、ずっと叔父さんが厳しい父上に代わって優しくしてくれたことを忘れていた、恩知らずでした……!」

 

シンボリルドルフ「それどころか、叔父さんのことをお父様と間違えて記憶していて――――――」

 

シンボリックリンク”「い、いいんだよ、そんなこと! 俺はルナちゃんの笑顔さえ見られれば、それで――――――」

 

 

シンボリルドルフ「でも、私は明日が欲しいんです! ずっと変わらない世界は嫌なんです!」

 

 

シンボリックリンク”「だったら! 今度こそ、叔父さんがルナちゃんの大切な人を守ってあげるから――――――!」

 

斎藤T「それは無理だ! 自分の欲望のために過去改変することはそれ以外の人たちの懸命な努力や成功を全てなかったことにする行いだからこそ、奪い取った明るい未来の分だけ虚無になるように愛する人と離れ離れになる天罰が下ったんだ!」

 

斎藤T「だから、人間讃歌や感動の場面を見たがる“虹の彼方の者(rainbow chaser)”の化身としてのお前の役目はこれで終わりだよ」

 

シンボリックリンク”「そ、そんな――――――」

 

斎藤T「ただ、史上初の“無敗の三冠バ”に“最強の七冠バ”になった“皇帝”シンボリルドルフの存在を天が許したということは、きっと、これからの未来に絶対に必要なことだったんだ」

 

斎藤T「お前がその高みまでシンボリルドルフを導いたことは、内心は欲望塗れだったかもしれないけれども、全ては必要なこととして許されていたことなんだ」

 

斎藤T「だから、安心して天に帰れ! ここまで優しくしてくれた叔父さんのことを愛情をたっぷり注いだ姪っ子は一生忘れないだろうから!」

 

シンボリックリンク”「あ……」

 

シンボリルドルフ「叔父さん……」

 

シンボリルドルフ「今までありがとう……」

 

 

叔父さん”「……『ありがとう』。そうか、ルナちゃんが大丈夫なら、俺も大丈夫だから」 ――――――シンボリックリンク”の化けの皮が剥がれて穏やかな表情のヒトが現れる!

 

 

シンボリルドルフ「あ、本当にお父様にそっくり……」

 

叔父さん”「そういうルナちゃんもお母さん(ルナさん)にそっくりだよ……」

 

叔父さん”「本当はずっとルナちゃんのことを守ってあげたかったけど、子供が独り立ちするのを大人が邪魔するのは良くないよね……」

 

叔父さん”「達者でね、ルナちゃん。悪魔の力を借りた俺はトレセン学園でしか力を振るえなかったから、外の世界までついていって守れそうにないけど、これでお別れだ」

 

シンボリルドルフ「はい! 絶対に叔父さんのことは忘れませんから!」

 

斎藤T「あ、そうだ! 悪魔の契約はどうやって結んだ――――――?!」

 

斎藤T「あ、待て……」

 

 

スゥー・・・

 

 

シンボリルドルフ「逝ってしまった……」

 

斎藤T「くそっ! 重大な情報を聞きそびれた……!」

 

シンボリルドルフ「あぅ……」ヨロッ

 

斎藤T「大丈夫ですか!?」ガシッ

 

シンボリルドルフ「だ、大丈夫。ただ、卒業式の後に何度も最初の3年間を繰り返してきたことを思い出して、ずっとその罪深さに打ちひしがれていたから、安心したら全身の力が抜けて……」

 

シンボリルドルフ「ああ、この罪悪感から救われたことが本当に嬉しくて……」

 

斎藤T「今日は外に出ましょう。ずっとホテルの一室に閉じこもって身体が鈍っていたでしょうから」

 

シンボリルドルフ「うん。じゃあ、エスコートをお願いしようか、斎藤T」

 

斎藤T「わかりました。我が“皇帝”陛下」

 

 

これがトレセン学園の修業式前日のホテルの一室での出来事であった。

 

ホテルの一室が異界化するほどの負の霊的磁場に包まれ、ポケットラジオの振動が止まらないほどの重圧に包まれていたのが嘘みたいに晴れ、少女の身体にこれまで重くのしかかっていたものがゴソッと抜け落ちて身体が軽くなっていたのがわかった。

 

これで本当の意味で“皇帝”シンボリルドルフはトレセン学園を巣立っていくことができるようになったのだ。

 

しかし、本当に人間の心は内的宇宙と言われるように広大にして迷宮のようなものであり、姪っ子を可愛がってきた叔父さんがその母親への横恋慕によって悪魔の眷属になって、片想いの相手だった人の愛娘が『トゥインクル・シリーズ』で歴史に残る名バになるように後押ししていたとは最初は想像もしていなかった。

 

これまでシンボリルドルフの理想に対する疑念や実の両親に対する不信感は別世界のシンボリルドルフから聞かされていたことだったが、その真相に至るまでに必要な情報が可能性の世界への異世界探訪でしか得られなかった辺り、本当に今回の問題は一筋縄ではいかないものだった。

 

実際、ウマ娘の『名家』シンボリ家の複雑な人間模様とウマ娘レース業界に対する厳しい見方が根底にあり、あらためて状況を整理して正解に辿り着けるかどうかを問われたら完全にお手上げの状況であった。

 

それでも、何だかんだで真相に辿り着いて一人の少女の運命を救うことができたのは、まさに天の配剤として必要ものを必要な時に必要なだけ用意してくれたウマ娘の皇祖皇霊たる三女神の加護があってのものだと納得せざるを得なかった。

 

 

――――――トレセン学園附属高層施設:エクリプス・フロント(地上10階・地下1階建て)

 

シンボリルドルフ「――――――本当に久しぶりだった。こうして府中市のあちこちを見て回るのは」

 

斎藤T「私は何度も府中市のあちこちを走り回ることになりましたけどね」

 

シンボリルドルフ「明日の修業式の後の『URAファイナルズ』開催成功記念パーティーでいよいよ私も府中市を後にするわけか……」

 

シンボリルドルフ「自分で決めた進路とは言え、府中市を後にしてすぐにアメリカに留学するのがこんなにも嫌になったのは初めてかもしれない……」

 

斎藤T「今までシンボリ家のしがらみから解放されるために自由への逃避行として海外留学を目指していたわけですからね」

 

シンボリルドルフ「ええ。けど、本当はどれだけ家族から愛されていたのかを知ってしまうと、家族から逃げようとして海外留学を選んだことを今更ながら後悔しそうになっている自分がいる……」

 

斎藤T「アメリカへの渡航経験はあるのですか?」

 

シンボリルドルフ「はい。母方の祖父がアメリカやフランスへの渡航経験があって、私も幼い頃にそれについていったことがあります」

 

シンボリルドルフ「だから、向こうにはちゃんとシンボリ家に縁のある人たちがいて、その人たちのお世話になりながら秋川理事長と同じく経営学を学ぶつもりです」

 

斎藤T「秋川理事長は本当に大した御仁です。幼くして大学に飛び級で卒業して中央トレセン学園の理事長を 6年間 勤め上げてトレセン学園の黄金期を導いたわけですからね」

 

シンボリルドルフ「ええ。理事長の為人を知れば知るほど頭が上がらないです。私などでは到底比べ物にならないほどの知恵と勇気と愛情の持ち主です」

 

シンボリルドルフ「私の目標は秋川理事長のような若くして人々を正しく導けるような経営者になることです」

 

 

シンボリルドルフ「そして、斎藤T。あなたです」

 

 

斎藤T「そうですか」

 

シンボリルドルフ「6年間に渡る私のトレセン学園の日々を導いてくださった無名の新人トレーナーの最後となる3人目として全てを締めくくってくださった」

 

シンボリルドルフ「そして、あの人との愛を取り戻してくださった。本当の家族の愛を知らせてくれた」

 

シンボリルドルフ「だから、秋川理事長や斎藤Tのように人々を正しく導ける人間でありたいです。これでも日本ウマ娘レースで“皇帝”と言われた身です。やれないことはないはずですから」

 

斎藤T「あなたがアメリカの大学を卒業するまで私がトレセン学園のトレーナーで居続ける保証はないわけですが、」

 

斎藤T「それならば トレーナーとウマ娘の関係を通り越した 生まれも育ちもちがう世代を超えた友人ということで、これからも末永いお付き合いをいたしましょう」

 

シンボリルドルフ「はい!」

 

シンボリルドルフ「あ、斎藤T! 見てください!」

 

 

――――――トレセン学園の上に大きな虹が!

 

 

虹の彼方の者(rainbow chaser)”の化身となった悪魔の眷属の叔父さんを昇天させた後、ホテルからトレセン学園を卒業したばかりの一人の少女を連れ出して雨上がりの月曜日の平日の府中市を一緒に練り歩いた。

 

私にとっては 光に対する影の世界となる第3の別世界でレオダーリングという中等部卒業で無謀にも『URAファイナルズ』に出走しようとした妊婦と遭遇した衝撃が記憶に新しいので また何か変なのと遭遇するのではないかとヒヤヒヤしていたが、

 

さすがに『URAファイナルズ』も終了した後の月曜日には街中を走る卒業生の姿はなく、振り返ってみると いろんな形で府中市の街中を時の牢獄の中で巡ることになった思い出がたくさん蘇ってきた。

 

そして、卒業後はホテルの一室に閉じこもりきりで落ち込んでいたシンボリルドルフの体力を取り戻すために、アメリカに旅立ったら もう食べることができない 府中市の思い出の味を堪能するということで、気の赴くままに食べ歩きを興じることになった。

 

さすがに卒業したとは言え、日本ウマ娘レースの歴史にその名を刻む“最強の七冠バ”の存在は府中市では知らぬ者がいない大の有名人であるため、こうして簡単な変装をしていても、それでも熱心なファンにはお見通しで行く先々でサインを強請られることになった。

 

それにまったく嫌な顔をすることなく、丁寧な対応をして回るシンボリルドルフの気さくさは両親からの愛の施しである帝王学の賜物でもあるわけなのだが、今まではそのことに感謝はしても反感を抱いていたところがあったわけで、今回のことでいろんなことから解放されたことで見せた笑顔は今までにない自然な輝きを放っていた。

 

そこから幼い頃の自分を可愛がってくれた叔父さんの優しさとその裏にあった自分の母親に対する横恋慕のことを思い返すことになり、ある意味においては両親と叔父さんの三角関係がシンボリルドルフという一人の人間の基礎になる部分を作ってくれたのだと複雑な思いに駆られることになった。

 

まず、間違いなく両親からの愛情として叩き込まれた帝王学はシンボリルドルフの能力や人格の形成に大いに役立つことになったものの、それが逆に両親に対する複雑な感情を作り出し、その聡明さ故に幼くして競走ウマ娘として生まれてきてしまったことに絶望してしまうことにもなってしまった。

 

しかし、競走ウマ娘としての成功を予言して一生懸命に励ましてくれた“魔王”スーパークリークの担当トレーナー:ムラクモTと出会うまでの普通の人間らしい情緒を育んでくれたのが叔父さんだったわけであり、最終的に悪魔の眷属にまでなった気持ちの悪いストーカーに成り果てていたものの、叔父さんの献身がシンボリルドルフの人生を支えていたことは紛れもない事実であった。

 

そのため、タイムリープの代償によって悪魔の眷属となって存在が消滅してしまった整合性をとるために記憶から消えてしまった叔父さんが幼い頃の自分にしてくれたように他人に優しくしてやれているかをシンボリルドルフは意識するようになっていた。

 

だからなのか、叔父さんが自分の母親に片想いをずっとし続けていたからこそ、片想いの相手の娘である自分に優しくしてくれていたことを嫌だと思うことはなかった。

 

むしろ、叔父さんは人ならざる存在であったあの人と結ばれるように次も頑張ろうとしてくれていたわけであり、互いに報われなかった恋愛の苦い経験を持っているからこそ、両親とはちがって肯定的であってくれたことが非常に嬉しくもあったのだ。

 

 

なので、本当に何が正しいことで、何が幸せなことで、何が良いことなのかが一挙にわからなくなってしまったという――――――。

 

 

叔父さんは同じトレーナーとして最大のライバルでもあった実の兄が兄弟揃って想いを寄せていたシンボリ家の令嬢と結ばれたことで恋のダービーに敗れ、シンボリ家の親戚にしかなれなかったものの、二人の間に生まれた娘のことを大層可愛がっていた。

 

そこから両親と叔父さんの正反対の愛の形のどちらがシンボリルドルフにとって益するものだったのか、私と食べ歩きをしながらシンボリルドルフは何度もホテルの一室での衝撃的な出来事のことでひたすら反芻していた。

 

だから、ただの運命論や結果論に思えるかもしれないが、『全ては必要なことだった』と前向きに信じていればいいことを私は告げた。どちらも偏りがあるからこそ、足りないものを補うためにどちらも必要になっていたのだと。

 

 

その回答に満足した“新堀 ルナ”という一人の少女の表情は途端に朗らかになっていた。

 

 

それから互いに貴重なタイムリープ経験者ということで、決して他人には明かせないような様々な周回で遭遇した奇想天外な事態を語り尽くすことになり、

 

今回の超時空の大決戦において私が渡り歩くことになった数々の可能性の世界で見聞きしたことも包み隠さず話すことにした。

 

さすがに第3の別世界:ダークトレーナーの世界の話はあまりにもセンシティブかつ内的宇宙の話だったので言うに言えないことも多いのだが、別世界の自分が辿ることになった数々の運命に対してシンボリルドルフは静かに耳を澄ましていた。

 

トレセン学園入学から逃げ出して車いす生活を送るようになった話や、自分が必死になって築き上げた黄金期の遺産を無法者に乗っ取られて生徒会と学生寮自治会が対立関係に陥ったことで精神崩壊してしまった話ウマ娘の理性の箍が外れた世界で貞淑で在り続けて やっぱり愛する人と身も心も1つになりたかったと後悔することになった話――――――。

 

それで間違いなく、いろんなことがありすぎたのだけれど、自身が存在する今のこの世界こそが一番に恵まれた世界であることを認識すると、ようやく自分がトレセン学園を本当に卒業していくことに対して安心できたようだった。

 

府中市の街歩きの最後に自身が築き上げたトレセン学園の栄光の記念碑となるエクリプス・フロントに足を運び、屋上からトレセン学園を見下ろしている時に見えた虹がシンボリルドルフの卒業とこれからのトレセン学園の将来を祝福してくれているように思えた。

 

しかし、この私がわざわざトレセン学園を見下ろせる絶好のロケーションのエクリプス・フロントの屋上にまでシンボリルドルフを連れてきたのに、何もないわけがないではないか。

 

なので、全てが終わったことで府中市の街歩きをしている最中にこっそりとトレセン学園に私は電話を掛けていたのだ。

 

そして、時が来て――――――。

 

 

シンボリルドルフ「な、何だ!? トレセン学園で何か起こった?! もしかして何か催し物が? こんな時間から――――――?」

 

斎藤T「さて、何でしょうね?」

 

斎藤T「ただ、実の両親から不器用な愛情を注がれて、一番優しくしてくれた叔父さんの存在も忘れ去っていた“新堀 ルナ”という人間は他人からの好意に鈍感なところがあったものですから、こういう形で愛を表現されたら さすがにわかってもらえることでしょう」

 

シンボリルドルフ「きみが指示したことなのか?」

 

斎藤T「いえ。私はただGPSをONにしてエクリプス・フロントの屋上にいることを知らせただけなんですがね」

 

斎藤T「でも、御天道様が見ているからと言って虹の架け橋だけでこれまでの苦労と功績が称えられるのは味気ないわけですから」

 

斎藤T「どうですか? こうしてトレセン学園のみんなから精一杯の感謝を捧げられる気分は?」

 

シンボリルドルフ「ああ」

 

 

――――――もう最高だよ。これが罪を背負いながらも私がたくさんの人たちの手を借りて築き上げることができた黄金期の遺産となるわけなんだな。

 

 

トレセン学園に掛かった虹の架け橋がいつの間にか消えた後に、眼下に見下ろすトレセン学園の校舎から一斉に生徒たちが飛び出してきたかと思うと、ひとりひとりが大きめの写真パネルを持ってガヤガヤと整列しているのが見えた。

 

そして、生徒会長:エアグルーヴの号令によって整列した生徒たちが一斉に写真パネルを掲げると、それはエクリプス・フロントに向けられた見事なシンボリルドルフのバストアップの巨大モザイクアートになっていたのだ。

 

そこから再びエアグルーヴの号令で写真パネルを一斉にひっくり返すと、“皇帝”シンボリルドルフの勝負服に取り付けられた7つの勲章とトレセン学園のモットーである『Eclipse first, the rest nowhere.(唯一抜きん出て並ぶ者なし)』のメッセージが描かれた巨大モザイクアートに早変わりである。

 

それを何度も裏返して見せつけることで“最強の七冠バ”シンボリルドルフの栄光の象徴であるエクリプス・フロントの屋上から見下ろしている本人に思いを精一杯に伝えようとしていたのだ。

 

いつそんなものを準備する余裕があったのか まったくわからなかったが、見下ろすばかりで決して互いの声が届くことのない距離から伝わってくる トレセン学園のみんなの精一杯の気持ちがとにかく嬉しくて、シンボリルドルフは棒立ちのまま大粒の涙を流し続けていた。

 

私はシンボリルドルフの気持ちを代弁して信号灯のブラインドを開閉させて感謝の言葉を伝えるモールス信号を眼下のトレセン学園に向けて送り続けた。

 

後で聞いた話だが、これは私がトレセン学園に電話をして生徒会長:エアグルーヴが午前中に企画を通して午後には明日の修業式まで学園に居座っていた卒業生たちをも総動員して突貫工事で完成したサプライズイベントであり、とにかく猫の手も借りたい状況だったので秋川理事長も喜んで巨大モザイクアートの作成に協力していたそうである。

 

その際、生徒会長:エアグルーヴが真っ先にESPRITの部員であるアグネスタキオンとマンハッタンカフェにこの企画を間に合わせることができるかを訊いてきて、アグネスタキオンは自信満々に『できる』と答えて、百尋ノ滝の秘密基地で悠々自適に過ごしていたもう一人のアグネスタキオン(スターディオン)に巨大モザイクアートの設計と写真パネルの用意を丸投げしていた。

 

なので、こんな感動的なサプライズイベントを絶対に後世に残すべく、私の方でESPRITの広報活動のために購入していたカメラ機材によって、いつの間にか配置についていたアグネスタキオン’(スターディオン)が私たちの側でカメラを回してくれていたのだ。

 

そのアグネスタキオン’(スターディオン)もまた、エルダークラス:ヒッポリュテーを介して間接的に継承されていたシンボリルドルフの因子と共鳴していたのか、涙をこらえながらカメラを回していたのが印象深かった。

 

 

――――――こうして何度も最初の3年間を繰り返してきた“永遠なる皇帝”シンボリルドルフは これまで虚ろだった心が大きな愛に包まれて 新しい時代への第一歩として 心からのトレセン学園卒業を迎えられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●20XY年03月19日:トレセン学園修業式/『URAファイナルズ』開催成功記念パーティー

 

 

――――――見事ッ! “ファイナルズ・チャンピオン”、おめでとう!

 

 

秋川理事長「この度の『URAファイナルズ』の大成功を祝し、これからのウマ娘レースのますますの発展を祈念して!」

 

秋川理事長「乾杯ッ!」

 

一同「乾杯ッ!」

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

桐生院T「本当におめでとうございます、才羽T! 思わず見惚れる走りでした!」

 

桐生院T「ですが、次こそは負けませんよ! 必ず勝ちます、私たちが! 飯守Tにもです!」

 

才羽T「うん!」

 

飯守T「ああ! 俺たちはずっとライバルだぜ!」

 

ライスシャワー「これからもみんなで一緒にターフの上を走っていこうね!」

 

ミホノブルボン「はい。きっと、その先にマスターの夢見る世界が拡がっていると信じて!」

 

ハッピーミーク「……ずっと、ライバルです」

 

秋川理事長「清祥ッ! わたし特製にんじんハンバーグDXだ!」ワハハ!

 

秋川理事長「さあさあ、才羽T! 会心の出来だぞ! 今度こそ花丸の採点をつけてもらうからな!」

 

秋川理事長「ほらほら、飯守Tも桐生院Tも遠慮せずに受け取ってくれ!」

 

才羽T「ほう」

 

駿川秘書「理事長、今朝からはりきって準備していらっしゃいましたからね」

 

秋川理事長「周到ッ! 材料の選定も含めるなら2ヶ月前からだ!」

 

ハッピーミーク「……こだわりが、すごい」

 

ライスシャワー「わあ! お兄さま! すごく美味しそうです!」

 

飯守T「そうだな、ライス」

 

飯守T「でも、さすがに、こんなには胃に入らないから、切り分けないとだな……」ハハハ・・・

 

駿川秘書「そ、そうですねぇ……」アハハ・・・

 

駿川秘書「あ、切り分けておきますね、飯守T」ドキドキ・・・

 

飯守T「あ、はい……」ドキドキ・・・

 

秋川理事長「さあさあ! どうだ、才羽T! これなら満足だろう!」

 

才羽T「む、これは……」

 

ミホノブルボン「マスター、これはとても美味しいです」

 

才羽T「ああ。美味しいね」

 

秋川理事長「本当か!?」

 

才羽T「そう思いますよね、桐生院T?」

 

桐生院T「はい! 何というのか、これだけ分厚くて肉汁たっぷりのハンバーグなんですけど、トマトソースの爽やかな酸味が脂っぽさを洗い流して、いくらでも食べられそうな不思議な軽さに仕上がっていることに驚きました!」

 

ハッピーミーク「……添え物の野菜も甘くて美味しいです」

 

秋川理事長「そうだろう そうだろう! 私が愛情たっぷりに育てた野菜だからな!」

 

才羽T「ですが、実はそれだけじゃないんです」

 

桐生院T「そうなんですか?」

 

ミホノブルボン「推測。次にマスターはこういうはずです」

 

 

――――――どんな調味料にも食材にも勝るものがある。それは料理を作る人の愛情だ。

 

 

ミホノブルボン「と」

 

才羽T「料理に込める愛情がますます深くなりましたね、理事長」

 

秋川理事長「そう言われると照れ臭いな!」ハハハ!

 

才羽T「だから、小柄な身体で調理台に立って手を脂まみれにしながらハンバーグを捏ね、これだけ大きなハンバーグにしっかりと火を通して形が崩れないようにひっくり返そうとフライパンを握る理事長の姿が浮かび上がってくるのです」

 

才羽T「理事長。あなたのその小さな手はこのハンバーグを1枚1枚捏ねて焼き上げるのにも一苦労なのに、こうしてたくさんの人たちにハンバーグを提供しました」

 

才羽T「だからこそ、僕はあなたのことを尊敬し、そんなあなたと一緒に料理を作る楽しみと喜びを分かち合えたことを誇りに思います」

 

秋川理事長「私もだよ、才羽T! 私もきみときみのウマ娘が無限の可能性に向かってターフの上を駆け抜けていく背中をいつも頼もしく思っていた!」

 

秋川理事長「これからも是非! ウマ娘たちを未来永劫輝かせるために尽力してくれ!」

 

秋川理事長「そして、目指すは――――――!」

 

 

――――――日本のウマ娘が世界に冠たるウマ娘として世界の人たちに希望を与える時代へと!

 

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオ! パチパチパチ・・・!

 

 

飯守T「おお!? 何だ何だ……?」

 

ライスシャワー「あ、見て、お兄さま! 生徒会役員のみんなだよ!」

 

桐生院T「それに――――――!」

 

ハッピーミーク「……シンボリルドルフ前会長!」

 

秋川理事長「ああ、そうだったな! 元々 私の世代を超えた同志であるシンボリルドルフの功績を称えるために開いた宴でもあったが、昨日の巨大モザイクアートもそうだったが、何やらいろいろと新生徒会の方で出し物を用意してくれていたな!」

 

駿川秘書「実質的に黄金期は秋川理事長とシンボリルドルフの二人三脚で築き上げられたものでしたから、歴代最高の生徒会長としてトレセン学園を導いた彼女がいよいよ卒業するとなると寂しくなりますね……」

 

秋川理事長「いいのだ、たづな! ウマ娘の可能性はこのトレセン学園だけじゃなく、もっとその先にも拡がっているはずなのだから、私は胸を張って最大の同志であったシンボリルドルフを送り出すぞ!」

 

ミホノブルボン「マスター」

 

才羽T「ああ。これで予言書に書かれた1つの時代が終わる――――――、か」

 

 

中高一貫校としてのトレセン学園の年度末となる修業式を迎え、その後に開かれた『URAファイナルズ』開催成功記念パーティーは、黄金期の主導した秋川理事長とシンボリルドルフが成功の喜びを一同とわかちあうことになり、大盛りあがりとなっていた。

 

そうした中、“皇帝”シンボリルドルフに代わって新しい時代の旗手となるべき新生徒会の存在感は抜群となっており、ここで新設レース『URAファイナルズ』開催までの3年間をダイジェスト(要約)にしたドキュメンタリーの短編が放映されることになった。

 

そして、トレセン学園に在籍してから6年間に渡って黄金期による新しい時代を築き上げてきた秋川理事長とシンボリルドルフへの感謝の言葉が捧げられることになり、

 

昨日に突発的に企画されたエクリプス・フロントから見下ろした巨大モザイクアートの映像も 早速 使われており、秋川理事長もシンボリルドルフも 涙こそ流さなかったものの 満ち足りた表情になっていた。

 

ドキュメンタリーが放映し終わると、今度は『URAファイナルズ』のハイライト(名場面集)が流され、5部門同時ウイニングライブに載せて各方面の反応や喜びの声も一部抜粋で伝えられることになった。

 

そのため、ハイライトだけでも手に汗握る興奮を蘇らせた『URAファイナルズ』開催成功の余韻に浸って場の空気がしんみりとしだしたところで、

 

場の空気を一転させるように、これからもウマ娘レースは続いていくし、先人たちが残した伝説を打ち破るべくトレセン学園も進化していくことを新生徒会が高らかに宣言し、

 

『URAファイナルズ』決勝トーナメントの前座として都内の観戦プログラムで実施されていたレジェンドレース『皇帝G1七番勝負』が上映され、ウマ娘レースに関わる者なら血湧き肉躍る催しに会場は再び大いに盛り上がったのであった。

 

そこから生徒会長:エアグルーヴが“女帝”として再びターフの上で走ることを宣言し、副会長:ナリタブライアンも“怪物”として優駿競バ『ドリームトロフィーリーグ』での勝利を宣言したのだった。

 

更には、『URAファイナルズ』前に開催された『弥生賞』『チューリップ賞』などの重賞レースの勝利バたちも続々と登場させ、日本競バ『トゥインクル・シリーズ』の夢はこれからも続いてくことを演出していったのだ。

 

そして、新生徒会長:エアグルーヴから前生徒会長:シンボリルドルフへ労いの言葉と感謝の気持ちを表し、先人たちが築き上げた黄金期の遺産を守り通して更なる発展と飛躍を宣誓することで、見事な生徒会の交代劇と新たな繁栄の時代の到来を約束するものになった。

 

それに合わせて、『URAファイナルズ』開催宣言の年にトレセン学園に在籍してメイクデビューを果たして『URAファイナルズ』で上位入賞を果たした世代の中心であるミホノブルボンの才羽T、ライスシャワーの飯守T、ハッピーミークの桐生院Tを登壇させて、

 

秋川理事長が先代理事長から譲り受けた扇子を授与し、これからのトレセン学園の新しい時代を託すに相応しい面々として新生徒会と並んで顕彰するのであった。

 

 

パチパチパチ・・・! パシャパシャパシャ・・・!

 

 

桐生院T「同期の3人が揃って顕彰されるだなんて、3年間いろいろなことがありましたけど、ここまで担当ウマ娘と二人三脚でがんばってきたことが誇らしくなりますね」

 

飯守T「本当にな。まさか、新人トレーナーで初めての担当ウマ娘でここまでやれるだなんてな」

 

才羽T「ただ、今日というこの日を迎えさせてくれた 最後の仕上げを担当した 一番の功労者がここにいないことがとても残念でなりません……」

 

桐生院T「はい……」

 

飯守T「まあ、しかたないよ。あいつにはここに来る以上に大切なことが山ほどあるんだしさ」

 

飯守T「それよりも、俺たちも4年目ってことだから、新しい担当ウマ娘を見つけないといけないわけだけど、どうする?」

 

桐生院T「そうですねぇ。ミークとの契約は続行ですから、自然とチームを組むことになると思いますが……」

 

才羽T「僕はこのままミホノブルボンと一緒に走り続けます」

 

飯守T「そっか。なら、俺もライスの夢をこれからも叶えられるように頑張るよ」

 

桐生院T「私も! ミークの中の可能性をもっと伸ばしてあげたいです!」

 

才羽T「……さあ、そんなわけで、これからはあなたの時代ですよ」

 

 

――――――期待しています、翼覆嫗煦“斎藤 展望”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――百尋ノ滝の秘密基地

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオ!

 

 

斎藤T「――――――」ビチャビチャビチャ ――――――岩場に座禅を組んで滝行の真っ最中!

 

 

アグネスタキオン「おーい! トレーナーくん! いつまで滝行なんてしているんだい!」

 

マンハッタンカフェ「そろそろお昼ですよー!」

 

アグネスタキオン「………………」

 

マンハッタンカフェ「……ダメですね。まったく聞こえてないみたいです」

 

アグネスタキオン「やれやれ、完全循環型ユニットシャワールームの原理を用いて百尋ノ滝の地下空間に百尋(181.8m)のエレベーターと隣り合う文字通り百尋(181.8m)の滝行用の瀑布を設けるだなんて大したやつだよ、きみは」

 

マンハッタンカフェ「ついでに、修行場として雰囲気が出るように岩場や雑木林も移植していますからね。百尋のエレベーターと同じ落差の瀑布は迫力満点です」

 

アグネスタキオン「あとは古井戸を入り口にした修行窟まで完備して……」

 

アグネスタキオン「よほど、浜名湖でナチス残党の闇組織『アンシュルス』の改造人間たちを大量虐殺したことが堪えたみたいだねぇ……」

 

マンハッタンカフェ「……そんなの、殺生なんかしない真っ当な人間の人生を歩みたかったに決まっています!」

 

 

斎藤T「――――――」ビチャビチャビチャ ――――――岩場に座禅を組んで滝行の真っ最中!

 

 

アグネスタキオン「……なあ、カフェ。今回の“斎藤 展望”の決戦はまさしく超時空の大決戦ということで、様々な時間や空間での出来事が錯綜していたじゃないか」

 

マンハッタンカフェ「そうですね。最初は3つの可能性の世界を通して元の世界で起きている問題やこれから起こり得る問題について直視することになりました」

 

マンハッタンカフェ「けれども、その後は斎藤Tは時間を巻き戻すことなく、日本の東西の中心に位置する浜名湖に潜んでいたナチス残党の闇組織『アンシュルス』を壊滅させ、」

 

マンハッタンカフェ「新生徒会役員が新しい時代の顔役としての自覚と使命感が得られるように『皇帝G1七番勝負』も完全勝利に導いてくれました」

 

アグネスタキオン「それどころかね、『URAファイナルズ』も『皇帝G1七番勝負』もトレーナーくんがWUMAの脅威からトレーナーとウマ娘を守り抜いたから実現したことなのを考えると、意識不明の重体から目覚めてからの去年のシーズン後半からの頑張りも無視するわけにはいかないねぇ?」

 

マンハッタンカフェ「そうですね」

 

マンハッタンカフェ「そうして段階を重ねていって、ようやく最後に“永遠なる皇帝”シンボリルドルフのタイムリープを阻止して、本当の意味でトレセン学園から卒業できるように導いたわけですよね」

 

アグネスタキオン「時間の巻き戻りがあるとは言え、カレンダー上では全て卒業式から1週間以内の修業式までの出来事なのが信じられないねぇ」

 

 

アグネスタキオン「で、その最後に対峙した“虹の彼方の者(rainbow chaser)”の化身がシンボリルドルフの叔父だったといういきなりの事実をどう思う?」

 

 

マンハッタンカフェ「たしか、本当の意味での最初の3年間だと、シンボリルドルフは“BNW”に“クラシック三冠”を阻まれながらも、“グランプリ三冠バ”の実績で最年少の生徒会長になれたという話でしたよね」

 

アグネスタキオン「シンボリルドルフの両親も最年少の生徒会長になるに相応しい実績を叩き出した時点で十分だと思っていたらしいが、カフェも“グランプリ三冠バ”になれたら当人としても周りとしても普通は満足だと思わないかい?」

 

マンハッタンカフェ「たしかに、重賞レースの最高峰であるG1レースを1勝するだけでも十分に名バと呼ばれるのに、ファンの人気投票で現役のスターウマ娘全員と真っ向勝負になる“春秋グランプリ”を三連覇ともなれば、それはそれで“クラシック三冠”に劣るとも勝らない実績になると思いますので、そこで普通は満足しちゃうはずです」

 

アグネスタキオン「ああ、そこなんだよな、私が変に思っていたのは」

 

マンハッタンカフェ「……どういうことです?」

 

アグネスタキオン「つまり、ウマ娘の『名家』であるシンボリ家ですら“グランプリ三冠バ”で最年少の生徒会長になれた娘の活躍を認めていたのに、叔父だけは頑なにそれ以上の可能性を求めて悪魔の眷属になってまでタイムリープさせてきた――――――」

 

 

アグネスタキオン「シンボリ家に婿入した兄と同じく中央のトレーナーだった叔父というわけだが、何がそこまでウマ娘:シンボリルドルフの可能性に執着させたのだろうな?」

 

 

マンハッタンカフェ「……シンボリルドルフが最強のウマ娘であることを誰よりも信じ抜いていた根拠ですか?」

 

アグネスタキオン「ああ。シンボリルドルフは史上初の“無敗の三冠バ”であると同時に史上初の“最強の七冠バ”でもあるわけで、これまでの常識を覆す存在だったんだ」

 

アグネスタキオン「実態としてはタイムリープという究極の不正行為(ズル)によって史上初の称号の数々を得てきたわけだけど、つまりはそれまで一人のウマ娘がそこまで勝ち続けることなんて夢物語に感じていたはずだろう、誰もが? それより前の過渡期のサイレンススズカやテイエムオペラオーの年間無敗の伝説はシニア級からの記録であるしね」

 

マンハッタンカフェ「……たしかに。黄金期になってG1連勝が当たり前のような雰囲気になっていたので、そこまで疑問に思わなくなっていたのが少し怖くなりますね」

 

アグネスタキオン「だから、シンボリルドルフを史上初の“最強の七冠バ”であるように導いた何者かの強い意志を私は感じるようになっていてだね……」

 

マンハッタンカフェ「それは三女神の意志ではないのですか?」

 

アグネスタキオン「いや、トレーナーくんが言うには神霊とは自らが定めた天地の法則に背くことを決してしないから法そのものであり、三女神は極めて公平に粛々と信賞必罰を下すわけだから、タイムリープによって他者の努力や人生を否定する人間には天罰を下すそうだ」

 

アグネスタキオン「実際、トレーナーくんはそうなることを知っているから、自分からタイムリープを使おうだなんて絶対にしないわけで、自分のためではなく 世界のためや誰かを救うためという善行の万が一の保険にしか使わないわけだね」

 

アグネスタキオン「そして、何者かの強い意志の介入が事実なら、三女神や悪魔以外の何者かがシンボリルドルフが最強のウマ娘であることを吹き込んでシンボリルドルフの叔父を悪魔の眷属にしてタイムリープの罪を重ねさせてきたことになるじゃないか」

 

アグネスタキオン「まあ、タイムリープという最大級の不正行為(ズル)によって築き上げられたシンボリルドルフ最強伝説がこうして“なかったこと”にならない辺り、それさえも人類史に必要なことだったとして許されているというのがトレーナーくんの見解だけど」

 

マンハッタンカフェ「……善悪で判断しきれない話ですね」

 

マンハッタンカフェ「普遍的集合意識のポジティブな領域を司る“虹の彼方の者(rainbow chaser)”の化身になれたように、誰よりもシンボリルドルフというウマ娘の可能性を信じていたからこそ、悪魔の眷属になってまで何度も時間を繰り返して可能性を追い求めることは、果たして罪なのか――――――」

 

マンハッタンカフェ「もし、それを罪と断じるなら、あらゆる手段で最強のウマ娘の可能性を追い求めるトレーナーの在り方もまた否定されなければなりませんよね?」

 

アグネスタキオン「だから、トレーナーくんは安易に新発明に世に広めることなく、公平性と倫理性の十分な議論を追求する姿勢を辞めないのだろうねぇ」

 

アグネスタキオン「カフェはもう見たかい、第3の別世界:ダークトレーナーの世界の“斎藤 展望”からのDメール?」

 

アグネスタキオン「どうやら、私たちが見てきた可能性の世界は他にも無数に存在していて、私たちが見てきた以上に過酷な世界が存在していたみたいだよ」

 

マンハッタンカフェ「そうなんですか。後で見せてもらいますね」

 

 

斎藤T「――――――」ビチャビチャビチャ 

 

斎藤T「――――――」スクッ

 

斎藤T「――――――」バチャバチャバチャ

 

 

アグネスタキオン「やあ、随分と待たせたものだねぇ」

 

マンハッタンカフェ「おつかれさまです」スッ  ――――――バスタオルを渡す。

 

斎藤T「ああ、ありがとう……」フキフキ・・・

 

アグネスタキオン「どうしたんだい? また厄介な幻覚でも視えたのかい?」

 

斎藤T「まあ、シンボリルドルフ卒業後の最初の1年で大体の方向性が決まるらしいから、これからも死ぬほど大変だから今後もよろしく」

 

マンハッタンカフェ「そうですか。それは何とも……」

 

アグネスタキオン「そうかい。まあ、これまでだって時間を巻き戻すほどの不可能に挑戦し続けてきたんだ。今度もまたなんとかなるだろうさ」

 

斎藤T「それと、すでにもうチームみたいなものだけど、正式なチームを結成することにした」

 

斎藤T「というより、これからはトレセン学園の生徒たちが 万遍なく競走ウマ娘としての価値を発揮できるように これまでとは異なる発展的なチーム制度を導入することになるそうだ」

 

斎藤T「だから、クラブ活動とは別の団体活動にも精を出してもらうことになる」

 

マンハッタンカフェ「すると、斎藤Tを中心に集まったトレーナー陣によるチームになるわけですか?」

 

アグネスタキオン「実績だけ見れば サブトレーナーだったきみの実績を含めて全員がG1勝利者の 最強のトレーナー陣だねぇ」

 

斎藤T「いや、吾妻Tがすでにチーム<デネブ>を率いているし、飯守Tに至っては4年目ということで新しい担当ウマ娘を決めないとだろうし、表向きはそれぞれ好きなトレーナーチームに所属して、トレーナーとして最善の仕事をこなしてもらいたい」

 

斎藤T「私が言いたいのは、これまでの数々の事件を対処してきた私たちの活動を学園非公認チームとして組織化させようと言うことで、正式にチーム名を決めたんだ」

 

アグネスタキオン「ほう? いよいよ、名もなきトレセン学園地球防衛組(仮)にも名がつけられるわけだね?」

 

マンハッタンカフェ「では、そのチーム名をお聞かせください」

 

斎藤T「うん。名前自体は前々から決まっていたけど、こんな感じ」

 

 

――――――かつてアンドロメダ座とペガスス座の両方にまたがって所属していた2.06等星に因んで、チーム名はチーム<アルフェラッツ()>だ。

 

 





怒涛の展開の数々で頭が混乱して恐縮だが、これが作者が思い描く独自のシチュエーションで起こり得ることへの思考実験として訊ねてみたいことがある。

シンボリ家の惣領娘として生を受け、競走ウマ娘として比類なき実績を打ち立てながら、自身は空っぽであると自嘲する“永遠なる皇帝”シンボリルドルフの孤独に対して、
その孤独を確実に埋められる唯一の答えである()()()()()()()について正直な考えをアンケートで答えてもらいたい。

現実にはありえないことをさも当然のようにやりこなせる自称:未来人の頭のおかしい新人トレーナーが何でも願いを叶えてくれるという絶対の信頼の下――――――、
愛する人が未来世界からやってきた人造人間であり、メモリを無事に回収できたのでボディを修復できれば復活できるかもしれないという希望が与えられたものと考えて欲しい。
人造人間は表層的な生物学的特徴は完全に再現できるため、男女で愛し合うことも絶頂を迎えることもできるぐらいなのだが、子を成すことができないものとする。
そして、血統を残すお勤めがあるウマ娘の名家の令嬢の卒業後の人生に、この人造人間は必要だろうか。不要だろうか。忘れ去るべきだろうか。

もしもシンボリルドルフに愛する人の復活に対する残酷な選択肢の助言をするなら、あなたはどうするか

  • 一人の人間としての死を受け容れさせる
  • 死んでいなかったとして蘇生を促す
  • 肉体を失ったアバターに転生させる
  • そんなことを決めることなんてできない……
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