ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第1話秘録 先頭の景色は譲らない -傷だらけの天使になんてなりたいとは思わない-

-シークレットファイル 20XY/04/07- GAUMA SAIOH

 

前日の『サンタアニタダービー』は日米(西海岸)の16時間の時差によって重賞レース『桜花賞』の日にトレセン学園では『春のファン大感謝祭』が行われていたわけだが、

 

全ては学園一不気味なウマ娘:マンハッタンカフェの言う“お友だち”に導かれて観戦することが最初に決まって、そこから『春のファン大感謝祭』に便乗してエクリプス・フロントの宣伝に利用し、アメリカに渡ったばかりのシンボリルドルフとも早くに再会するという一石何鳥もの効果を私たちにもたらした。

 

そして、サンタアニタパーク競バ場の現地観戦組とホテルの一室を貸し切ったスタジオで府中と交信する同時視聴組にわかれ、その現地観戦組がトレセン学園の競走ウマ娘たちであり、今回の『サンタアニタダービー』は想像以上の収穫があったようである。

 

 

曰く、現実における『サンタアニタダービー』にオーバーラップして“お友だち”が非現実の『サンタアニタダービー』を走って2着と大差(10バ身差)となる11バ身差(27.5m)*1をつけて大差勝ちする幻覚を現地観戦組の全員が視たというのだ。

 

 

また、“お友だち”の姿はまさにマンハッタンカフェに瓜二つではあったものの、学園一不気味なウマ娘とは異なり、美少女の因子を強く発現するウマ娘にあって血色の悪さや痛々しい切り傷や痣もあって非常に醜いと評される風貌だったという。

 

それでも、その走りは自身が走る幻覚の『サンタアニタダービー』を走って2着とウマ娘レース史上最大の着差となる11バ身差で圧倒的勝利を飾っており、現実の『サンタアニタダービー』の観戦の興奮など完全に吹き飛び、全員で幻覚のウマ娘レースについてああでもないこうでもないと言い合うことになったのだ。

 

結局、過去の『サンタアニタダービー』の記録をいくら探ってみてもマンハッタンカフェに瓜二つの醜い容貌のウマ娘が11バ身差で優勝したという記録はないというわけで、

 

それならば“お友だち”の姿を視ることができて やりとりができる私に話が行くわけであり、シンボリ家が用意した宿泊先で現地観戦組と同時視聴組が合流した際に、特別ゲストの存在に誰も気づかなかったぐらいに しきりにどういうことだったのかを訊かれることになった。

 

なので、マンハッタンカフェが“お友だち”と呼ぶ“守護天使”に向かって『サンタアニタダービー』で何を視せたのかを訊ねてみたのだ。

 

すでに最初に“守護天使”と対話した時に『マンハッタンカフェのご先祖様』『アメリカの出身』『1986生まれで2002年にお亡くなりになった』『G1:6勝のエクリプス賞バ』という情報は出揃っているので、おそらくは生前のG1レースの光景を視せたということなのだろう。

 

すると――――――。

 

 

――――――あれこそが()()の我が子らに()()で超えるべき導きである。

 

 

たった一言。私は“守護天使”が言ったことを文字起こしするのに集中して読み返した時にマンハッタンカフェに瓜二つのまったく傷だらけじゃない“守護天使”のことを二度見した。

 

私が呆気にとられている様子に痺れを切らして内容をひったくるアグネスタキオンと、いったい何が書かれているのかを食い入るように見るマンハッタンカフェや興味津々のソラシンボリ――――――。

 

しかし、“守護天使”からのたった一言の意味を理解できたウマ娘は誰もいなかった。もちろん、今回の『サンタアニタダービー』観戦に同行していたトレーナーにも訊ねたがまったくもって理解ができなかったようである。

 

実は、これがとんでもない世界の理を“守護天使”が明かしているわけであり、“特異点”である私にしか絶対に理解できない異次元のお告げであったため、理解できたがために逆に何を喋ればいいのかがわからなくなってしまったのだ。

 

そう、“守護天使”はこの世界を『穢土』に対する『浄土』と呼び、つまりは仏の世界ということで ある種 救いが約束された世界だと明かしてきたのだ。

 

 

心 清浄なるが故に 世界 清浄なり、心 雑穢なるが故に 世界 雑穢なり。

 

 

これが仏説における穢土と浄土の概念であり、真実の浄土は仏の住居する処であり、成仏せんがために精進する菩薩の国土である。故に浄土とは仏土であり、穢土とは悟りを開いていない凡夫が生きる俗世間を指す。

 

たしかに、ウマ娘の純真さはヒトがウマ化した亜人ということで野生の本能が強いことから心はヒトよりも無垢とは思うが、闘争本能の強さから勝負事に熱くなりやすい性質はむしろ修羅道に支配されているような気がしてならず、心の清浄とは程遠い――――――。

 

いや、仏説においてはも阿弥陀如来の西方極楽浄土、阿閦如来の東方妙喜世界、薬師如来の東方浄瑠璃世界、釈迦牟尼仏の無勝荘厳国、毘盧遮那仏の蓮華蔵世界、大日如来の密厳浄土、弥勒菩薩の兜率天など知られているわけであり、浄土はあくまでも仏土のことなので仏の数だけ浄土は存在し、阿弥陀信仰の浄土宗の発明ではないのだ。

 

そして、勘違いしやすいことだが、浄土とは成仏せんがために精進する菩薩の国土であるので、一神教で語られる永遠の楽園である天国とは異なり、そこが仏教における終着点である涅槃寂静ではないのだ。

 

言うなれば、国民的スポーツ・エンターテイメント『トゥインクル・シリーズ』の夢の舞台である 国内最高峰のトレーニング環境が提供されている中央トレセン学園のようなものであり、優駿たちの頂点を決めるG1レースの勝利を目指してトレーニングに死ぬ気で励むのが相応するだろうか。

 

つまり、まずは浄土に入れるだけの素質を備える必要があり、それから浄土での懸命な修行の末に、覚者として成仏を果たして涅槃寂静に至るための場所が浄土というわけであり、こう考えるとたしかに中央トレセン学園の在り方は浄土と相応するかもしれない。

 

基本的に中央トレセン学園に入学するだけの素質を持ったウマ娘を国内でも有数のエリートである中央のライセンスを持つトレーナー陣が導いてくれるわけであり、成仏せんがために精進する菩薩の国土である浄土にも果てない叡智を持つ和尚がビシバシと不出来な弟子に対して愛情を持って修行をつけてくれているはずである。

 

ただ、浄土:仏の世界に対する解釈も様々であり、阿弥陀信仰に代表されるような死んだら浄土に行けるという来世浄土、穢土:現実世界を浄土化する理想への生き方を説く浄仏国土、仏の悟りである真理そのものが具現している世界である常寂光土があり、これらの浄土説はいずれを真説とするかで対立と論争を繰り返してきた。

 

だが、そんな多義的な言葉の解釈なんてどうだっていい。何のために両部曼荼羅があって大日如来が一切の諸仏菩薩の本地として時間と空間を超越してありとあらゆる如来菩薩に化身する必要があるかなど、全ては衆生済度の発願から様々な角度から救済を果たすためであり、ひとりひとりが悟りを開いて涅槃寂静に至ってもらいたいという尊い慈悲からである。

 

 

――――――だとすると、『穢土の我が子らとは何なのか?』であり、『なぜ呼ばれたのがアグネスタキオンとマンハッタンカフェなのか?』である。

 

 

ソラシンボリはシンボリ家との密約でシンボリ家のウマ娘ということでスカウトされないように私が守る必要があって連れてきたわけで、“守護天使”に『サンタアニタダービー』に来て欲しいウマ娘には指名されていない。

 

おそらく“特異点”である私だからこそ実感として理解できる真相がそこにあり、“守護天使”が実在した世界での出来事が“穢土の我が子ら”であるアグネスタキオンとマンハッタンカフェに大きく繋がっているのだと推測できる。

 

すなわち、異世界の英雄の魂が宿ることで生まれてくるとされるウマ娘の起源となるウマソウルが生まれた世界での関係性から“守護天使”と“穢土の我が子ら”の繋がりがあるのではないだろうか。

 

よくよく考えなくても、異世界の英雄の魂が宿った存在であるウマ娘は無自覚なだけで全員が私と同じ異世界転生者であった。

 

そう、例外なく名前だけは明確に覚えているという記憶喪失つきの異世界転生がごく普通に行われる世界ということは()()()()()()で間違いないのだろう。

 

そのため、ヒトとウマ娘が共存する異なる進化と歴史を歩んだ21世紀の地球と“私”の出身である23世紀の宇宙時代の地球との繋がりは唯物論では決して語れないものであることが“守護天使”のたった一言のお告げで理解させられたわけである。

 

ああ、ウマ娘レースに勝つことに全身全霊で生きているトレセン学園のウマ娘やトレーナーたちには申し訳ないが、いかにしてウマ娘の皇祖皇霊たる三女神に選ばれてしまった存在に“斎藤 展望”がなっていたかをたった一言だけで――――――。

 

そうだった。『全部 私のため』であり、それが『三女神の意志』であるとも“守護天使”は最初に言っていたのだから――――――。

 

しかし、同時に『あれこそが超えるべき導き』とも言っているわけで、2着に対して大差勝ちする11バ身差を超える圧倒的な走りを求められているわけであった。

 

そして、“皇帝”シンボリルドルフの紹介で今回の『サンタアニタダービー』同時視聴プログラムに駆けつけてくれた、奇しくも『金鯱賞』で2着に11バ身差で優勝したことがある、歴代最強ウマ娘議論で必ず名が挙がる特別ゲストを指して、“守護天使”は恐るべき真相を口にしたのだ。

 

 

――――――彼の者もまた“穢土の我が子”であり、『沈黙の日曜日』にて死せる魂なり。

 

 


 

 

――――――可能性だ! この脚は! この身体は! 最高に可能性に満ち満ちている!

 

 

アグネスタキオン「さすがは引退しても“皇帝”……! まったく、『皇帝G1七番勝負』で打ち破った『皐月賞』のシミュラントと遜色がないだなんて、“本格化”を過ぎてもまったく衰えを感じさせない完成された走りだよ、シンボリルドルフ……!」

 

アグネスタキオン「カフェ……! 私が同世代の誰よりも期待した“お友だち”譲りの才能はここにいる面々と肩を並べるものだったな……!」

 

アグネスタキオン「そして、私が憧れてきた世界に一番に近かったであろう“異次元の逃亡者”サイレンススズカ……!」

 

アグネスタキオン「最高だ! 最高だよ! 私は 今 最高に充実した時間を過ごしている! 私が認めた最高のウマ娘に挑戦する模擬レースだなんて、人生で最高に贅沢な実験の一時じゃないか!」

 

 

特殊相対性理論に矛盾することなく、光速度より速く動く仮想粒子の存在は、いまだかつて否定されていない。

 

定説ではウマ娘の最高速度はおよそ70km/hとされているが、それ以上に到達しうる可能性を否定する根拠は見つかっていない。

 

そして、私はウマ娘の存在をも超越する数々の事象を目の当たりにし、ウマ娘に劣るヒトの身でありながらスピードの極限である光の速さを超越して時間を巻き戻して世界を救う奇跡を起こし続ける存在と共にある。

 

それこそが私というウマ娘の名に込められた“超光速の粒子”の存在証明であり、私の中のウマ娘の可能性を最大限に肯定する根拠である。そう信じてしまいたくなる何かが私にみなぎっているのだ。

 

 

アグネスタキオン「もっと速く! もっと速く!! もっと速く!!!」

 

マンハッタンカフェ「…………!」

 

シンボリルドルフ「…………抜かれた!」

 

サイレンススズカ「――――――!」

 

アグネスタキオン「ウマ娘に眠る可能性の“果て”は!」

 

アグネスタキオン「この身体で到達しうる限界速度は!」

 

アグネスタキオン「いまだ影すら見えなかった遥か彼方にあると思えたものに手が届く瞬間が 今 目の前にあるのだから!」

 

 

岡田T「――――――サイレンススズカの大逃げにあと1バ身!?」

 

和田T「届くのか!? 届くのか!? 逃げウマ娘は追いつかれたら一巻の終わりだぞ!? まさか、メイクデビューもしていないウマ娘がこの時点で日本ウマ娘レース界の最速伝説を超えるのか!?」

 

斎藤T「…………いや、これはダメだ」

 

 

 

――――――先頭の景色は譲らない!

 

 

 

アグネスタキオン「…………ハア」

 

アグネスタキオン「…………ああ」フラッ

 

斎藤T「ほら、全身の力を抜いて。楽にして」ヒョイ

 

アグネスタキオン「…………あ、トレーナーくん。うん」 ――――――お姫様抱っこ!

 

斎藤T「……見事にボロ負けしたな」

 

斎藤T「アメリカの芝に慣れている向こうの方が地の利を得ているにしても、向こうは“本格化”を過ぎて身体能力が衰えているし、こちらと同じ条件のスーパーシニア級のマンハッタンカフェにも追い抜かされたのだから、言い訳のしようがない」

 

斎藤T「新バ戦(メイクデビュー)じゃなくてよかったな」

 

アグネスタキオン「……ああ。清々しいほどの負けっぷりさ」

 

アグネスタキオン「けど、これまで漠然と目指してきたものがようやく見えてきたことの喜びの方が勝る結果だよ……」

 

アグネスタキオン「だから、本当にきみでよかった。きみと出会うためにずっと一人で実験室で待ち続けた日々がようやく実を結んだことを実感できたよ」

 

斎藤T「――――――『桃栗三年 柿八年』といったところか?」

 

斎藤T「だが、ようやく実を結んでも収穫されて味わってもらわなければ実がなった意味はないぞ? 観賞用じゃないだろう、その脚は?」

 

 

アグネスタキオン「わかっている。でも、嬉しいんだ。こんなにも嬉しいって思ったことはないってくらいに」

 

 

斎藤T「そうか」

 

アグネスタキオン「なあ、帰ったら全身マッサージで頼むよ。もちろん、あの全身マッサージ機と称した“一人用のポッド(クレイドル)”に放り込まれるのは絶対に嫌だ」

 

アグネスタキオン「トレーナーくんが揉んでおくれよ~、あの全身全霊マッサージぃ! ボディタッチセラピー!」

 

アグネスタキオン「それで、文字通り 担当ウマ娘に元気を分けておくれよぉ。私の担当トレーナーだろう?」

 

斎藤T「私の元気が吸い取られるからヤダ」

 

アグネスタキオン「だったら、()()()()()()()から元気をもらえばいいだろう――――――!?」

 

 

岡田T「おつかれさまです、シンボリルドルフ」

 

シンボリルドルフ「ありがとう、岡田T。きみからタオルを渡される日が来るとはな」

 

岡田T「俺もですよ。模擬レースであなたの走りをまたこの眼で見ることができた」

 

シンボリルドルフ「……きみの担当ウマ娘はトウカイテイオーだろう?」

 

岡田T「それでも、地方から上がってきたばかりの俺にとっては中央のターフの上で走るシンボリルドルフの姿は唯一無二のものだった……」

 

岡田T「人生、何があるかわからないものですな」

 

シンボリルドルフ「同感だな……」

 

シンボリルドルフ「私もシンボリ家のウマ娘として日本のウマ娘の存在を知らしめるために海外遠征をしないわけにはいかなかったし、」

 

シンボリルドルフ「正直に言って、史上初の“無敗の三冠バ”や“最強の七冠バ”なんて称号や記録を欲しいと思ったことは一度もなかったんだ。私自身も含めて、それが当時の日本のウマ娘レースの常識であり限界だったのだから」

 

シンボリルドルフ「せいぜい、日本のウマ娘としての誇りを背負って『ジャパンカップ』『有馬記念』で勝てれば十分だと思っていたのに、シンボリ家の次代を担う子たちには更なる重荷を背負わせてしまったな……」

 

岡田T「少なくとも、今年の新入生のソラシンボリはそんなのには屈しませんな」

 

岡田T「何よりも斎藤Tがついていますし、あなたの偉業の達成を敵味方の関係を超越して盛り上げてくれた黄金期の三巨頭の一人:鐘撞Tだって帰還したのですから」

 

シンボリルドルフ「ああ。これからの『トゥインクル・シリーズ』が本当に楽しみだ」

 

岡田T「俺もシンボリルドルフとこうして友人関係になれたことが嬉しいです」

 

シンボリルドルフ「……嫉妬されないようにな。テイオーは私によく似て嫉妬深いからな」

 

岡田T「そういうところも“俺のシンボリルドルフ”ですから」ヘヘッ

 

シンボリルドルフ「本人を前にしてよく言うよ、岡田T」フフッ

 

 

和田T「おかえり」

 

マンハッタンカフェ「ただいま」

 

和田T「あれが『宝塚記念』を制覇した最強のウマ娘:シンボリルドルフとサイレンススズカだったわけだけど、あれ以上の強敵なんていないはずだ!」

 

マンハッタンカフェ「はい、間違いなく『宝塚記念』も勝てます!」

 

和田T「なら、得意とする長距離の『天皇賞(春)』で足元を掬われないようにしないと」

 

和田T「今回の遠征は大成功だ! おめでとう、マンハッタンカフェ!」

 

マンハッタンカフェ「ありがとうございます、和田T」

 

マンハッタンカフェ「これで少しは“お友だち”に追いつけそうです。大きな前進です」

 

 

西崎T「いやはや、昔の評判通りの末恐ろしい脚だったな、“アグネス家の最高傑作”アグネスタキオン。それがいよいよメイクデビューか。長かったな……」パチパチ・・・

 

西崎T「勝つために 5年間 脚を溜めていた これからデビューの遅咲きの新バだとしても、“摩天楼の幻影”マンハッタンカフェ、“永遠なる皇帝”シンボリルドルフ、“異次元の逃亡者”サイレンススズカとの模擬レースで互角の勝負をするんだから、作戦も対策も何もあったもんじゃないな」

 

ソラシンボリ「うんうん。メイクデビュー前からシニア級G1ウマ娘の実力なんだから、勝負にならないよね」

 

スカーレットリボン「本当に今の時代のトレセン学園は素晴らしい才能に満ち溢れています」

 

西崎T「大丈夫か、スズカ。今日の模擬レースのために念入りに調整してきたけど、異常はないか?」

 

サイレンススズカ「大丈夫です。トレーナーさんが今も昔も支えてくれていますから」

 

サイレンススズカ「それに、久しぶりに『先頭の景色』を見ることができましたから。本当に夢みたいです」

 

西崎T「そうか。ようやくドクターストップも終わったことだし、リハビリを兼ねた模擬レースの相手を探していたら、ちょうどよくルドルフからの連絡があったのが上手い具合に噛み合ったな」

 

西崎T「それが、アメリカで日本の最強ウマ娘決定戦みたいなものになるとは思わなかったが……」

 

西崎T「うん。やっぱり、スズカは走っている姿が一番だな。また見ることができたから最高の一日だよ、今日は」ニッコリ

 

サイレンススズカ「……トレーナーさん」ポッ

 

ソラシンボリ「ねえ、やっぱり、この2人って()()()()()()だよね?」ヒソヒソ

 

スカーレットリボン「そうよ。担当ウマ娘のために中央のライセンスを捨ててまでアメリカについていっているんだもの。愛よ、愛」ヒソヒソ

 

 

サイレンススズカ「でも、だからといって、初対面のウマ娘のトモをいきなり撫でさするのはダメですよ」

 

 

西崎T「ああ……、それは、その……」

 

スカーレットリボン「そうですよ! そういえば、ドサクサに紛れて うちのソラに何やってくれていたんですか、このヘンタイトレーナーは!? 一度 あの世を見てもらいましょうか!?」ギラッ

 

ソラシンボリ「まあまあ。あのシンボリルドルフも一目置いたチーム<スピカ>の敏腕トレーナーさんのやることだし、何事も経験だとボクは思うな」

 

西崎T「おお、ソラは物わかりがいい子だな」

 

 

ソラシンボリ「で? ボクのトモはスズカ大先生と比べてどうでしたか?」ニヤリ

 

 

西崎T「へっ」ゾクッ

 

スカーレットリボン「そうですよ? どうでしたか? ちょっと前までランドセルを背負っていた女子小学生の平均を上回る発育のいい身体と比べて?」パキポキ・・・

 

ソラシンボリ「最速の機能美を追求したボディと比べてボクの触り心地はどうだった? ねえねえ? スズカ大先生のも触ったことあるんでしょう、たんまり?」ニヤニヤ

 

西崎T「本当に申し訳ございませんでした!」orz

 

ソラシンボリ「なら、誠意を見せてよ」

 

ソラシンボリ「乙女の大切なところに触れたんだからさ、西崎Tにも恥ずかしい思いをしてもらわないと釣り合わないよね?」

 

西崎T「に、煮るなり焼くなり好きにしてくれぇ!」

 

ソラシンボリ「じゃあ、トレーナーさんの話を聴かせてよ」

 

西崎T「お、俺の?」

 

ソラシンボリ「うん。西崎Tのことは知らなかったけど、チーム<スピカ>のサイレンススズカならよく知っているし、いろいろと他じゃ聞けないあんなことやこんなことをさ」ニヤニヤ

 

スカーレットリボン「そうそう。教え子に対するトレーナーの思いの丈もね」ニッコリ

 

西崎T「あ、ああ……」

 

 

『サンタアニタダービー』同時視聴プログラムはメインゲストの“永遠なる皇帝”シンボリルドルフと特別ゲストの“異次元の逃亡者”サイレンススズカという最強ウマ娘の超豪華ゲストの対談が続くことになり、府中とサンタアニタの16時間の時差を超えてトレセン学園の新時代を担う新入生たちとの交流が行われることになった。

 

抽選によってサテライト会場の本会場に集められた新入生たちからのインタビューを新生徒会が司会進行となって円滑に進めることになり、私たちはあくまでも裏方に徹していた。

 

まさかの特別ゲストのサイレンススズカの登場には新入生たちは大いに盛り上がることになり、当然ながらサンタアニタに居合わせている“皇帝”と“逃亡者”のどちらが強いのかについての極めて純粋な質問も来たわけなのだが、

 

そこは冷静にシンボリルドルフがどういった条件で勝負するのかを質問者に訊き返し、そういった最強議論は適切な状況分析と状況判断で場合分けした積み重ねによって総合的に決まることをわかりやすく説明した。

 

たとえば、『URAファイナルズ』決勝トーナメントの5部門ごとにシンボリルドルフとサイレンススズカが競走することになったら それぞれの結果がどうなるのかを考えさせてみると、最強議論では得てして当人の中にある前提や条件を情報共有することなく話を持っていくのだから、これではいつまで経っても合意を得ることができないわけである。

 

まさか、シンボリルドルフとサイレンススズカにダートや短距離で走らせるだなんてことをこれまでの戦績からわざわざ考える必要はないわけだが、短距離最強ウマ娘と長距離最強ウマ娘の強さ比較もまた意味がないことにすぐに思い至ることだろう。距離によって求められる能力がまったくちがうのだから。

 

それと同じように、中距離が得意なウマ娘とマイルが得意なウマ娘が戦った場合の勝敗は常に最強議論ではどちらかの得意距離にのみ焦点を当てて一方的な優劣を決めるのだから、聞いていて気持ちのいい建設的な議論にはならないわけなのだ。

 

このように、ウマ娘レースの最強議論はまずはレース設定から有利・不利を判定して考えるべきであり、『そのレースなら、シンボリルドルフ/サイレンススズカが勝つ』といった具合にシミュレートすることができるようになれば、トレーナーと同じ視点でローテーションが組めるようになるわけなのだ。

 

そのため、これから『トゥインクル・シリーズ』に挑むことになる新入生たちに向けて、勝利を目指す上で自身の目標となる最強ウマ娘が何かを考えるのならば、一般観客のように自分に都合がいい物差しで最強を語るのではなく、自分と二人三脚で夢に向かうトレーナーと同じく勝利の条件に自分が当て嵌まるかどうかを考えられるようになることを諭した。

 

自分たちはトレセン学園の生徒として、もう夢の舞台を観客席から眺めて憧れるだけの一般人などではなく、夢の舞台に立って観客席にいる人たちに夢を見せる側に立っているのだという自覚を持って欲しい――――――。

 

そう解説した後、ウマ娘レースでまず第一に考えるべきレース設定がなされていない無意味な最強議論の質問に対して、シンボリルドルフはいたずらっぽくダート競走で大真面目にサイレンススズカとの勝敗を予想したのだった。

 

なぜなら、二人共 アメリカ滞在でアメリカのダートで練習経験があり、先程までサンタアニタ・ダート・9ハロン『サンタアニタダービー』を同時視聴していたのだから『自分ならこう走る』というシミュレートが互いにできあがっているのだ。

 

その結果、日本の砂とはまったく異なるアメリカの土のダートでかつ9ハロン(1810.52m)マイル(1600m)中距離(2000m)の中間の左回りのレースであるため、これは検証を進める前から大接戦になりそうな予感がしていた。

 

基本的に芝よりもパワーが必要となってくるダート競走のため、ダート競走そのものは未経験でも『菊花賞』『有馬記念』を制しているシンボリルドルフがパワーやスタミナの面で有利そうだが、

 

『2000メートルでは長く、1600メートルでは短く、ベストは1800メートル』という適性距離の的確な分析から3年目:シニア級のサイレンススズカの快進撃が始まったため、9ハロン(1810.52m)はまさしくサイレンススズカの得意距離だったのだ。更には左回りが得意というのも現役時代にアメリカへの海外遠征を検討されていた有力な根拠となっていた。

 

なので、以上の検証から『サンタアニタダービー』でシンボリルドルフとサイレンススズカが戦ったらどちらが勝つかを現場のトレーナーたちに予想させたら、私と岡田Tと和田Tと西崎Tの4人で予想が真っ二つに割れたので、

 

それならばと、サテライト会場の本会場に集まっている全員に勝敗の予想を投票することになり、投票後の抜き打ちの質問で明確な根拠でもって勝敗を分析できた新入生はほとんどいなかったことを踏まえて、

 

ここまで分析しても結局は自分が勝つと思った方に票を入れてしまうことから勝負はやってみないとわからないのがウマ娘レースの醍醐味として質問の回答としたのである。

 

そのため、今回のインタビューで出された最強議論の質問に対する回答はこれから夢の舞台で活躍することを信じて疑わない希望に満ちた新入生たちにとっては大変有意義な講義となっており、鍛え上げた能力と開花した素質を十全に発揮させるために出走するレースから考察をしていくというノウハウが伝授されたのである。

 

そうして『春のファン大感謝祭』の一般開放まで1時間といったところで開放準備のためにサンタアニタとの通信は終了となり、締めにシンボリルドルフとサイレンススズカという偉大なる先輩方の応援をもらって盛大な拍手でもって幕を閉じたのであった。

 

 

その翌日、当初の目的だった『サンタアニタダービー』観戦の後に追加された合宿遠征の肝である模擬レースが執り行われた。

 

 

これはサイレンススズカからの要望であり、アメリカの最新医療で長期に渡る治療で少しずつ走れる距離を回復していってドクターストップが解除された後のリハビリとして、同時期に『サンタアニタダービー』観戦に来ていた母校の後輩たちと一緒に走ろうとお願いしてきたのだ。

 

そのため、アメリカを渡り歩いていろいろと顔が利く西崎Tの伝手で芝のコースを借りて模擬レースをすることになり、貴重な機会として相手が“皇帝”だろうが“逃亡者”だろうが“幻影”だろうがウマ娘としての持ち前の闘争心を発揮して“アグネス家の最高傑作”アグネスタキオンは敢然と立ち向かうことになった。

 

そして、ソラシンボリとスカーレットリボンの親子を観客にした模擬レースの結果はアグネスタキオンのボロ負けであり、あと一歩でサイレンススズカの背に届こうとした瞬間に更なる加速を遂げた逃げウマ娘にグングンと差を開けられることになり、その一瞬の隙にシンボリルドルフとマンハッタンカフェに追い抜かされてしまうのだった。

 

しかし、全体としては実力は拮抗しており、むしろ未デビューなのにそれだけの実力がすでにあることがある意味においては最強の証明であり、全員が得るものを掴んだ大変意義のある模擬レースとなったのであった。

 

一方で、シンボリ家との密約で斎藤Tに同行していたソラシンボリとスカーレットリボンの親子にとっても夢と現の『サンタアニタダービー』と翌日の新旧ウマ娘最強決定戦となっていた模擬レースを目の前にして、競走ウマ娘特有の闘争本能がスピードの世界への興奮と歓喜を呼び覚ましたのだ。

 

トレセン学園に入学したばかりのソラシンボリにしても、トレセン学園の卒業生にして一児の母親であるスカーレットリボンにしても、これが今のウマ娘レースなのだと体感することになったのだ。

 

そして、“皇帝”シンボリルドルフが秋川理事長と共に切り拓いた黄金期の先の新たな時代の幕開けが明るいものだと確信するに至ったのだ。

 

 

それから『サンタアニタダービー』の翌日には帰国する予定を延長して行われた模擬レースの後、日本に帰国するまでの間、じっくりと情報交換と交流の機会となった。

 

基本的に黄金期の始まりと終わりは秋川理事長とシンボリルドルフの6年間と認識されているわけだが、暗黒期の終焉から黄金期の開闢までの間の時代:過渡期の『トゥインクル・シリーズ』もまた人気回復のための大変重要な時期でもあった。

 

チーム<スピカ>の西崎Tもまたトレーナー組合がローテーションやトレーニングを操作して八百長試合を組んでいた暗黒期の末期に中央のライセンスを得た新人トレーナーであり、後に生徒の自主性を最大限に尊重した指導が当時のタブーに触れたために干されていたトレーナーであった。

 

もちろん、新人トレーナーとして最初の担当ウマ娘に対しては当時の暗黒期の特徴であったトレーナー優位の指導方法をしていたのだが、当然ながらトレーナーになりたての新人ではベテランの経験と知識に敵うわけもなく、なかなか勝たせてあげることができずにいた。

 

しかも、トレーナー自身がウマ娘の才能を見抜いてスカウトするはずが、授業でウマ娘全員に『トゥインクル・シリーズ』での走り方の基礎を叩き込む教官の目利きに頼ってスカウトするのが暗黒期のトレーナーの在り方でもあったので、入学当初は他を抜きんでていても“本格化”してから伸びるウマ娘かどうかを見抜けるトレーナーが希少になっていた時代でもあった。

 

当然、最初から実力のあるウマ娘を誰が担当するかまできっちり決まっており、割当制で重賞レース勝利の箔を付けてトレセン学園の顔役となる次期生徒会役員に相応しい実績までもがトレーナー組合の予定に組み込まれていたのだ。

 

幸いだったのは自身も暗黒期の甘い汁を吸って名声を得ていたチーム<スピカ>のチーフトレーナーにその将来性を見込まれてサブトレーナーとして徹底的な指導を受けられたことであり、その下で堅実に重賞レースでの勝利を勝ち取ることに成功。この時点ですでに一人のトレーナーとしての有能さを証明していた。

 

そして、一見するとトレーナー組合の決定を疑うことなく従う次代の暗黒期のトレーナーに育て上げられ、西崎Tが若くしてチーム<スピカ>を受け継ぐことで暗黒期の特権が次代に移譲されたかのように見えたのだが、

 

実際は今のトレセン学園の在り方は間違っていると後悔したチーフトレーナーが正しきウマ娘レースを求める純粋な若者に将来を託すための基盤としてチーム<スピカ>のトレーナーという地位と名声を用意してくれていたのだ。

 

そこから先代の懺悔の告白を胸にウマ娘の自主性を最大限に尊重したやり方に方針を切り替えたところ、暗黒期のやり方に染まっていた教え子たちからは猛反発を受けてしまい、重賞バであった担当ウマ娘からも見放されて契約破棄を突きつけられてしまったのだ。

 

そのため、チーム<スピカ>のチームトレーナーになって早々にチームには誰もいないという開店休業状態となっており、自分のやり方やウマ娘レースに対する考え方が間違っているのかと思い悩むことになった。

 

そんな時、誰もいないトレーナー室で暇そうにしていた西崎Tの許にやってきた楽しいことが大好きで破天荒な芦毛のウマ娘がやってきて、そこからチーム<スピカ>のトレーナーとして再出発したわけなのである。

 

 

そして、“魔王”スーパークリークの担当トレーナーであった“ウサギ耳の淫獣”ムラクモTの活躍によって暗黒期が終焉を迎えて、黄金期に向けた準備期間となる暗黒期の残滓を消し去るための過渡期が始まる。

 

 

トレーナー組合が 一度 解散となったことで八百長ネットワークが組めなくなったことで、暗黒期で甘い汁を吸ってきたハリボテトレーナーたちは一気に没落し、そうした中でチーム<スピカ>のやり方に時代が追いついたことで躍進の時を迎えた。

 

そうして完全調和(パーフェクト・ハーモニー)を標榜する完璧超人である柳生Tをサブトレーナーに加えたチーム<スピカ>は後の“日本総大将”スペシャルウィークをスカウトしたことで最盛期を迎えることになる。

 

その裏で2年目:クラシック級ではサニーブライアン世代のG1未勝利のサイレンススズカの走る姿に感動を覚えていた西崎Tは翌年の3年目:シニア級でまさかの引き抜きを敢行しており、そこからサイレンススズカの年間無敗の重賞6連勝を達成――――――。

 

 

しかし、皮肉にも年間無敗の記録が破られることがなかった最大の理由は日本ウマ娘レース史に残る最大の悲劇『天皇賞(秋)』における『沈黙の日曜日』――――――。

 

 

このことがきっかけでその翌年の『ジャパンカップ』でスペシャルウィークが“凱旋門賞バ”モンジューを打ち破って“日本総大将”となったことを見届けた後、チーム<スピカ>を柳生Tに譲って中央のライセンスを手放すことになったのである。

 

そして、中央のライセンスを手放した後、西崎Tは療養中のサイレンススズカの許を訪ねてアメリカに渡り、アメリカ中のレースクラブを渡り歩く野良トレーナーとなって、アメリカウマ娘レース界隈で知られる“日本のサムライ”として巷で有名となっていた。

 

そのため、アメリカウマ娘レース界隈について一番の情報通としてアメリカ遠征を検討している陣営から一番に頼りにされる存在にまでなっており、こうしてシンボリ家とも交流を持っているのである。

 

 

シンボリルドルフ「そういうわけで、アメリカでの通称は最後の担当ウマ娘であったスペシャルウィークに因んで“日本のサムライ”となっているわけです」

 

西崎T「もう何年もアメリカ暮らしが続いているから、今の日本トレセン学園のことはまったくわからないけどな」

 

ソラシンボリ「でも、チーム<スピカ>を再建中の一番つらい時期に見たスズカ大先生の走りにトレーナー魂に火が点いたわけだよね」

 

ソラシンボリ「その恩返しとして、3年目:シニア級で引き抜きをして年間無敗の重賞6連勝だなんて、ボクの大好きなトウカイテイオーの復活劇と同じぐらいの感動物語だよねぇ」

 

スカーレットリボン「それで『天皇賞(秋)』であんなことがなかったら、次は『有馬記念』だったんでしょう? 本当に残念でしたね、あれは……」

 

西崎T「……まあな。『天皇賞(秋)』も完璧な調整だっただけに あんなことになったのは本当に悪夢でしかなかったよ」

 

サイレンススズカ「でも、こうして あきらめなければ また立ち上がって走り続けることはいくらでもできます」

 

サイレンススズカ「それこそ、さっき名前が挙がった去年の『有馬記念』のトウカイテイオーのラストランのように……」

 

岡田T「うん……。テイオーは頑張ったよ、走り抜いたよ……」

 

和田T「テイオーのせいでラストランの感動が薄れたけど、うちのマックイーンもだぞ……!」

 

斎藤T「………………」

 

アグネスタキオン「おや、どうしたんだい、トレーナーくん? 紅茶のおかわりかい?」

 

マンハッタンカフェ「タキオンさん。紅茶のおかわりぐらい自分で淹れてくださいよ」

 

 

斎藤T「つかぬことをお伺いしたいのですが、『ウマ娘レースの途中で息絶える』といったことはあるのですか?」

 

 

和田T「いっ!?」ドキッ

 

アグネスタキオン「!!

 

シンボリルドルフ「!!

 

サイレンススズカ「………………」

 

ソラシンボリ「まったく穏やかじゃない質問だね、それ」

 

スカーレットリボン「でも、この場の誰もが当事者として『沈黙の日曜日』のことをどう思っていたのかは知りたいと思っている……」

 

斎藤T「どうなんですか?」

 

 

西崎T「あり得る話だ。転倒した先行バが後続のバ群に踏みつけられたり跳ね飛ばされたりする危険性は常にある。そうなったら、同じウマ娘だ。巻き込み事故になったら まず助からない」

 

 

斎藤T「………………」

 

西崎T「ただ、『沈黙の日曜日』に関しては、スズカは死んでも前へ前へ走りきろうとするよりも後続を巻き込まないように最後の力を振り絞って自分からコースを外れてくれたんだ」

 

西崎T「だから、俺はスピードの世界を誰よりも追求しながらも他人を思いやれたスズカの最後の行動が…………」

 

サイレンススズカ「トレーナーさん……」

 

西崎T「いや、すまない。俺からはもう何も言えない……」

 

斎藤T「すみません。不躾なことを……」

 

西崎T「いや。ただ、日本の話じゃないが、アメリカでは出走ウマ娘の薬物投与が問題視されていてな」

 

西崎T「過剰なドーピングで寿命を縮めてレース中に突然死するといったことが年に何回かあるんだ、毎年」

 

シンボリルドルフ「……それは深刻な問題ですね」

 

西崎T「ああ。俺も実際に何回かコカを勧められたことがあるし、ウマ娘超大国でのアメリカン・ドリームはウマ娘天国のジャパニーズ・ドリームと比べたら幻覚の色が強いぞ」

 

西崎T「でも、そんなものを使わないウマ娘が堂々と重賞レースで勝っているんだ」

 

西崎T「だから、俺はそんなものに頼らなくて済むような環境を一人でも多くの子に与えようと思って、フリーランスのエージェントになって アメリカ中を歩き回って いつの間にかアメリカ横断の旅になっていたもんだ」

 

アグネスタキオン「それだからドーピングなんてものはくだらないんだ。ドーピングなんて弱いやつが苦し紛れにするものに過ぎない」プイッ

 

ソラシンボリ「そうだね。そんなものに手を出した時点で、ウマ娘レースからも、社会のルールからも、ウマ娘としての尊厳からも逃げたことになるからね」

 

西崎T「とは言え、スズカやルドルフも利用したアメリカでの最新医療っていうのも日本では認可されていないものに頼っているわけだから、グレーゾーンではあるんだがな」

 

西崎T「その地域差を利用して薬物投与がかえって堂々と行われているぐらいには、アメリカウマ娘レース界隈も変わっていかなくちゃならないんだ」

 

西崎T「……俺は世界中が自由の国と憧れている国に生まれながら貧困を苦にしてクスリに手を出して才能をダメにしていく子たちをごまんと見てきたからな」

 

 

――――――日本は世界一恵まれているよ。ウマ娘天国と言われるのも納得なぐらい。

 

 

私は西崎Tとサイレンススズカの関係性を尊いものに感じていた。さすがは乙女座を冠したチームを率いただけのことはあり、黄金期と暗黒期の間の過渡期を盛り上げた功労者たちであった。

 

実際、“革新世代”“黄金世代”“覇王世代”と続いた先で“皇帝世代”からの黄金期が始まるわけであり、過渡期の『トゥインクル・シリーズ』の中心にいた強豪の一角だったチーム<スピカ>の存在感は今でも色褪せることはない。

 

しかも、こうして『沈黙の日曜日』から何年も掛けて担当ウマ娘に寄り添って支え続ける人生もまたウマ娘とトレーナーの理想の関係性の1つとして持て囃されてもいるわけであり、

 

東大の入試よりも狭き門である中央トレーナーライセンス試験を合格をした逸材が早々に夢の舞台から去っていくのは業界にとっては痛手でしかないのだが、

 

現在のウマ娘たちがトレセン学園に入学して思い描くトレーナーとの甘い関係のイメージを強めることになった生きた見本として『沈黙の日曜日』が世間に与えた影響は計り知れなかった。

 

そうなのだ。ある小説家がスポーツ記者から聞いた渡米後の二人の話を聞いて執筆した 明らかに『沈黙の日曜日』をモデルにしているとわかる 一世を風靡した小説『栄光の日曜日』がトレセン学園を卒業した後の担当ウマ娘と担当トレーナーの知られざるその後を描いたことにより、

 

『沈黙の日曜日』によって世界から姿を消してしまった“異次元の逃亡者”がその後に掴んだ『栄光の日曜日』が世間に知れ渡ることになり、日本中が祝福ムードに包まれ 空前の大ヒットとなってドラマ化したことで、『トゥインクル・シリーズ』の人気が復活する大きなきっかけの1つとなっていたのだ。

 

要するに、現代に存在が確認された担当ウマ娘と担当トレーナーのラブロマンスであり、国民的スポーツ・エンターテイメント『トゥインクル・シリーズ』の裏で繰り広げられる恋のダービーでの伝説的な記録の達成である。

 

あくまでもロマン小説としてモデルからは脚色されてはいるものの、中央のライセンスを捨ててまで担当ウマ娘の後を追ってアメリカに渡り、その面倒を今も看続けているのは生きた伝説としかいいようがない。

 

この生きた伝説『栄光の日曜日』の熱狂的なブームの後押しによって総生徒数2000名以上のマンモス校へと成長する黄金期が到来することになるわけであり、『沈黙の日曜日』という日本ウマ娘レース史の悲劇が『栄光の日曜日』へと昇華されることで繁栄をもたらしたのだ。

 

 

そう、あの痛ましい悲劇であった『沈黙の日曜日』でさえも“皇帝”シンボリルドルフが導く黄金期の到来に必要なものであり、そのために選ばれたのが西崎Tとサイレンススズカであったそうなのだ。

 

 

もちろん、サイレンススズカをはじめとする“革新世代”の他の面々も暗黒期からの脱却を印象付けるためにいらない子は誰一人としていないぐらいに全員が個性豊かで才能があり、

 

それによって現在でも最強と名高い“黄金世代”や“覇王世代”へと続いていくわけだが、とりわけ西崎Tの愛情の深さとサイレンススズカの情熱の強さに三女神が応援して時代を前に進める大きな働きを担ったという。

 

そして、『穢土の我が子ら』であるウマ娘:アグネスタキオンとマンハッタンカフェには 同じ『我が子』であるサイレンススズカと同じく 勝ち負け以上の 社会に善なる働きをもたらす 大きな功績を築き上げる使命があるのだと“守護天使”は語った。

 

つまり、暗黒期と黄金期の間の過渡期を手本として、更なる繁栄の時代に繋がる礎を築き上げる役割が私たちに与えられているのだ。

 

そのために三女神も応援しているわけであり、その因子を結ぶためにサンタアニタに全てを結集させたという。

 

そして、“守護天使”はまるでこの悲劇そのものであるかのような自身の名を明かし、非常に前向きで幾通りにでも解釈できる意味の深い言葉を残して、得るものが多かったサンタアニタへの遠征は幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――我が名はサンデーサイレンス(沈黙の日曜日)

 

 

沈黙の日曜日(革新世代:サイレンススズカ)』とは、

 

沈黙せざる週日(黄金世代:スペシャルウィーク)』への(きざはし)にして、

 

覇道の布武(覇王世代:テイエムオペラオー)』の(いとぐち)なり。

 

そこから『王道の教化(皇帝世代:シンボリルドルフ)』が行き渡り、汝が『栄光の日曜日』へと至るなり。

 

故に、汝が時代の先頭の景色を掴み取らねばならない。これを知るべし。

 

 

要するに、過渡期の『トゥインクル・シリーズ』は最終的に武力でもって国を治める覇者を登場させることに意義があり、トレセン学園に絶対的な実力者が君臨することで布武がなされることを三女神は望んでおられたようだ。

 

布武とは文字通りに『武を布く』ということなのだが、正確には『七徳の武を布く』という解釈で問題ないだろう。

 

『春秋左氏伝』宣公12年に『武有七徳(武は七徳を有す)』とあり、武を用いることは「暴を禁じ」「戦を止め」「大を保ち」「功を定め」「民を安んじ」「衆を和し」「財を豊にする」の七つの徳を実現するためにあると説く。

 

すなわち、暗黒期の柱となるものを失って混迷する過渡期において“覇王”テイエムオペラオーが年間無敗の圧倒的な強さによって諸人を魅せることでトレセン学園に一定の秩序を打ち立てたことが後に“皇帝”シンボリルドルフの強さだけじゃないからこそ続いた6年間の黄金期の特徴を際立たせることに繫がっていたのだ。

 

つまり、王道とは仁徳をもって政治を行なう王者の在り方であり、“皇帝”シンボリルドルフは歴代最長の生徒会長としてトレセン学園に君臨して黄金期を正しく導いたことで“覇王”テイエムオペラオーには果たせなかったことをやり遂げていたのだ。

 

そして、『沈黙の日曜日』から『栄光の日曜日』へと至ることからわかるように、『日曜日』とはキリスト教的解釈をすれば『安息日』なので、それが『楽園』や『理想郷』の隠喩(メタファー)となるわけである。

 

そこから言えることは、“皇帝”シンボリルドルフが導いた黄金期でさえも『栄光の日曜日』に至るための過程に過ぎず、更なる創造と発展による繁栄の時代が新設レース『URAファイナルズ』開催を皮切りにして訪れるというわけなのである。

 

そう、これは始まりに過ぎないのだと、マンハッタンカフェにそっくりな“守護天使”は『穢土の我が子ら』であるサイレンススズカ、アグネスタキオン、マンハッタンカフェに祝福を与えると、更なる飛躍と発展のために更なる厄介事を私に押し付けて気配を消したのだった。

 

求められているのは価値観の転換(パラダイムシフト)であり、“守護天使”サンデーサイレンスに加えて、暗黒期と黄金期の間の過渡期に活躍した“異次元の逃亡者”サイレンススズカ、“日本総大将”スペシャルウィーク、“世紀末覇王”テイエムオペラオーを超える影響力を次の時代のウマ娘に発揮させなければならないわけなのである。

 

逆に言えば、三女神は私の望みに応えてWUMA襲来の絶望の未来に繋がらなくするタイムパラドックスの大きなヒントとして『過渡期の『トゥインクル・シリーズ』を今こそ学べ』と告げているようであった。

 

その最初の第一歩として、過渡期の『トゥインクル・シリーズ』の中心にいたチーム<スピカ>のサイレンススズカと西崎Tとの出会いがあったわけであり、その縁を辿ってウマ娘レースの伝説たちに次々と会っていくのが今後の具体的な方針になっていきそうだ。

 

 

しかし、最後の『時代の先頭の景色を掴み取らねばならない』というのは強烈極まる。

 

 

これはつまり、私が必死こいて時代を変えないと他の誰かにこれからの時代の在り方を決められてしまうというわけであり、『タイムパラドックスを引き起こすことができなければWUMA襲来の絶望の未来は不可避である』という宣告に思える。

 

なので、私は“異次元の逃亡者”サイレンススズカのごとく時代の最先端を未来が変わるまで走り続けなければならないというわけなのだ。

 

しかも、これは“斎藤 展望”であること以上に“私”として未来を変えようと暴走した瞬間、『沈黙の日曜日』のような悲劇になるという警告でもあった。

 

そう、これからは逃げウマ娘のような人生となるのだ。そのことがどれだけ大変なのかは宇宙移民だからこそ理解できる。理解できてしまえる。

 

けれども、その闇は完全なる暗黒に抱かれた洞窟の中ではなかった。光すら脱出できないブラックホールの中というわけでもない。

 

その闇は見上げると満天の星々が進むべき道を示しており、羅針盤も方位磁針もなかった頃から人々が星光に導かれて新天地へと旅立ってきた歴史があることを私は学んでいる。

 

だからこそ、私は星座の神話に運命を引かれて気高く美しい彩の希望の未来を目指せるわけなのだ。

 

 

――――――我が星は<アルフェラッツ>。かつてアンドロメダ座とペガスス座の両方にまたがって所属していた2.06等星。愛と勇気と冒険の星。

 

 

*1
1バ身:2.5m

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