ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。


第2話秘録 Happy Birthday, My Dear ! Come Together !

 

-シークレットファイル 20XY/04/13- GAUMA SAIOH

 

トレセン学園は国民的スポーツ・エンターテイメント『トゥインクル・シリーズ』の夢の舞台である。

 

故に、年中休日に開催されているウマ娘レースへの出走が最優先される環境であるため、学校行事に出走日が重なった場合はもちろん学校行事への参加をあきらめることが義務付けられている。

 

しかし、それがトレセン学園の生徒のパブリックな面であるのなら、同じことがプライベートな面でも言えるわけなのだ。

 

そう、スターウマ娘ともなれば大勢のファンから盛大に誕生日を祝われるものなのだが、誕生日が出走日やその近日になってしまった場合は戦いに向けた集中力が削がれて有難迷惑となるのだ。

 

しかも、スターウマ娘のジンクスとして3月から5月頃に競走ウマ娘の誕生日が極端に集中しているため、トレセン学園宛てに日本全国から送りつけられてくる誕生日祝いの品の受け取りだけで学園の機能が麻痺することにもなる。

 

そのため、URA傘下にはそういったスターウマ娘のプライベートを守りながらファンとの間を適度に取り持つ専門業者としての物流センターとイベント会社が存在しており、毎月恒例の合同誕生日会という名の『ファン感謝デー』が開催されていた。

 

これがパブリックな学校行事である『春秋ファン大感謝祭』と対になるプライベートな個人行事というわけであり、『合同誕生日会ファン感謝デー』はこうしたウマ娘レースの興行や学校行事に重ならないように最大限の配慮がなされていたことで好評を博していた。

 

つまり、トレセン学園の生徒たちにとってはレースで勝つことが最優先となった結果、自分の誕生日に誕生日祝いをしてもらうことは稀となり、『合同誕生日会ファン感謝デー』の招待状が届くことで歳を重ねたことを実感するものとなっていた。

 

この辺りのトレセン学園での誕生日の祝われ方もトレセン学園が夢の舞台という印象を世間に与えているわけであり、人生で最高に輝いている時期に最高の誕生日会で祝われる経験はまさに至福の時間となることだろう。

 

もっとも、この『合同誕生日会ファン感謝デー』もトレセン学園の生徒ならば参加確認は必須ではあるものの強制ではないので、当然ながらこの盛大な誕生日会に参加しないことも許されているわけなのだ。物流センターで管理されているプレゼントの確認は絶対ではあるが。

 

そんなわけで、誕生日が『春のファン大感謝祭』期間に埋もれているし、『合同誕生日会』になどまったく見向きもせず、長年に渡って実験室に籠もり切りだったヒマ娘は入学して初めて誕生日祝いを受けることになったのだ。

 

 


 

 

――――――Happy Birthday To You.

 

 

アグネスタキオン「フー」――――――バースデーケーキのろうそくが消える。

 

アグネスタキオン’「フー」――――――バースデーケーキのろうそくが消える。

 

 

陽那「お誕生日、おめでとうございます!」パチパチ・・・

 

斎藤T「おめでとう!」パチパチ・・・

 

マンハッタンカフェ「おめでとうございます。“お友だち”も祝ってくれていますよ」パチパチ・・・

 

ソラシンボリ「おめでとうー!」パチパチ・・・

 

スカーレットリボン「おめでとうございます、タキオンさん、スターディオンさん!」パチパチ・・・

 

ピースベルT「おめでとう、タキオンちゃん、スターディオンちゃん!」ンフッ

 

 

アグネスタキオン「やれやれ、誕生日会なんて『合同誕生日会ファン感謝デー』で十分だろうに……」

 

アグネスタキオン’「そもそも、バケモノの私に誕生日なんてものはないのにねぇ……」

 

アグネスタキオン「まあ、悪くはないんじゃないかな、こういうのも」

 

アグネスタキオン’「しかし、トレセン学園にこんな隠れた穴場が存在しているとはねぇ……」

 

ピースベルT「そうねぇ♪ 部活棟にこんな本格的な珈琲店があるだなんて、雰囲気があっていいわねぇ♪」フフッ

 

ピースベルT「カフェちゃんが一人で準備したの? 片付け、大変そうねぇ? 片付け、手伝うわよ?」アハッ

 

マンハッタンカフェ「大丈夫ですよ。片付ける必要はまったくありませんから」フフッ

 

陽那「そうなんですか? もしかしてコーヒー愛好家たちの部室だった場所なんですか、ここは?」

 

 

マンハッタンカフェ「まあ、そんなところです。ここは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですから」

 

 

斎藤T「…………そういうことか。ここはそのための場所か」スクッ

 

ソラシンボリ「あれ、どうしたの、斎藤T?」

 

陽那「どうしたのですか、兄上?」

 

アグネスタキオン「どうしたんだい、トレーナーくん? 窓の外に何か珍しいものでもあったのかい?」

 

斎藤T「この中央トレセン学園があるのが府中市というわけだが、その『府中』とは『国府所在地』を意味する地名で、武蔵国の国府が置かれた地であることに由来する」

 

スカーレットリボン「それはそうですけど……?」

 

斎藤T「そして、府中市の辺りは古代の遺跡が多く、また645年の大化の改新後に武蔵国の国府が置かれるなど、古くから政治や経済と文化の中心地として栄えており、鎌倉時代には新田義貞と鎌倉幕府軍が争った分倍河原の戦い(1333年)もあり、江戸時代は甲州街道の宿場の中でも大きな『府中宿』があった」

 

斎藤T「更に、戦時中は府中基地や旧関東村の飛行場もあったわけで、府中/東京競バ場の目黒からの移築も1933年のことだ」

 

ソラシンボリ「それでそれで?」

 

 

斎藤T「とりわけ、ウマ娘の歴史の中で重要になってくるのは武蔵国の一之宮から六之宮までを合わせ祀る別名“六所宮”と称される東京五社の1つ;大國魂神社でゴールデンウィークの時期に行われる関東三大奇祭の一つ“くらやみ祭り”だ」

 

 

ピースベルT「ああ、“くらやみ祭り”ね♪ ベルちゃん、関東っ子だから、よく知ってるわ♪ というか、正月になったら トレセン学園のみんなが初詣に行く神社よね、大國魂神社♪」ウフッ

 

ピースベルT「武蔵国の国府;つまりさっきの斎藤Tの説明にあった大化の改新で設置された国府の近くに大國魂神社があってね、国府と神社が共同で開催していた国府祭が長い伝統と格式を誇る大國魂神社の例大祭になったわけなの♪」

 

ピースベルT「それで、ゴールデンウィークの時期に行われるから『五月会』って呼ばれるようになって、江戸中から見物人が多く訪れていたから、まず将軍の御膝元の江戸で知らぬ者はいないほどの知名度よね♪」

 

ピースベルT「そしてね、かつて街の明かりを消した深夜の暗闇の中で祭りをやっていたから“くらやみ祭り”と呼ばれるようになっているんだけど、」

 

ピースベルT「どうしてかって言うと、『貴いものを見る事は許されない』という古来から存在する儀礼に起因し、『神聖な御霊が神社から神輿に移り御旅所に渡御するのは人目に触れる事のない暗闇でなければならない』という神事の伝統がそのまま現代まで引き継がれているためなんだって」

 

マンハッタンカフェ「――――――『見るなのタブー』ですか」

 

アグネスタキオン「実際のところはどうなんだい、そういった人類文化研究の専門家としては?」

 

斎藤T「おそらくは府中市の歴史を紐解くと厄祓いのために絶対に必要な神性だから『貴いものを見る事は許されない』という理由付けで祭りをやっているのは間違いない」

 

マンハッタンカフェ「どういうことですか?」

 

斎藤T「歴史を振り返れば、府中市は武蔵国の政治・経済・生産・流通・交通の要所であるだけじゃなく、旧帝国軍の軍事基地や鎌倉時代には古戦場にもなった場所であり、同時に日本ウマ娘レースの聖地となる東京競バ場と中央トレセン学園の立地にもなっているんだ」

 

アグネスタキオン’「なるほど。夜間人口と昼間人口がほぼ同一ということで、職住近接を実現した快適な生活環境であることで、市のアンケートでもほぼ全市民が『将来も住み続けたい街』として回答しており、『生活実感値』満足度都内第1位とされたこともあるのも、」

 

アグネスタキオン’「言うなれば、『府中市には全てが揃っている』というわけなんだね」

 

斎藤T「そうだ。特に軍事基地や古戦場にもなったような場所はそれだけ血気盛んで血生臭くなる因縁がある土地柄だからこそ、競争心が煽られて それが都市の形成や産業の発達に寄与することになる」

 

斎藤T「そのことを考えると、戦争とはやっぱりビジネスなんだよ。流通戦略の一環の商業の1形態なんだよ」

 

斎藤T「だから、発展的な気運が渦巻く土地柄であると同時に、ビジネスで人を傷つけることも人一倍多くなるわけだから、地域の御祭に現れる厄祓いの神の霊威も巨大なものになる」

 

アグネスタキオン’「で、それが私たちの誕生日祝いと何の関係があるんだい?」

 

 

斎藤T「鐘撞T、この“くらやみ祭り”と東京競バ場って何か関係があったんじゃありませんか? ウマ娘やウマ娘レースに関することで」

 

 

ピースベルT「御名答♪ うんうん、大いにあるわよ♪ そりゃあ、ご近所さんなんだものね♪」エヘッ

 

ピースベルT「たとえば、2002年の東京・芝・1600m『NHKマイルカップ』が異例の土曜日開催になったのって、他ならぬ“くらやみ祭り”がその年まで午後4時から渡御開始になっていたからなのよ♪」ウフッ

 

スカーレットリボン「なるほど。その日のウマ娘レースの興行の一番の目玉となる重賞レースはその日の11番目のレースで、だいたい午後4時前後のゲート・インだから――――――」

 

ソラシンボリ「ばっちり重賞レース『NHKマイルカップ』の時間と重なっちゃってたわけなんだ」

 

ピースベルT「そうよ♪ だから、かつては例大祭期間中における東京競バ場でのレースについて警察などの要望もあって、警備上の重複による混乱を避けてURAは開催を自粛していたわけなのよね♪」ウフッ

 

ソラシンボリ「あれ、でも、今は午後6時からみたいだよ?」

 

ピースベルT「そうなの♪ 『NHKマイルカップ』が土曜日開催になった翌年の2003年からね、“くらやみ祭り”の渡御開始が午後6時に変更になって重賞レースの時間と重ならなくなったから、“くらやみ祭り”と並行して『NHKマイルカップ』も開催できるようになったわけなの♪」フフッ

 

アグネスタキオン「ん、んんん……?」

 

マンハッタンカフェ「え? それって千年以上も続いた例大祭の伝統をURAが変えたことになるんですか?」

 

 

斎藤T「それじゃねえか、トレセン学園とウマ娘レース業界に暗黒期が到来したのって!?」*1

 

 

アグネスタキオン「な、なんだって!?」

 

マンハッタンカフェ「…………!」

 

ピースベルT「!!!?」

 

ソラシンボリ「へえ……」

 

陽那「え、なにそれ!? どういうことですか!?」

 

アグネスタキオン’「どうもこうも、2002年の『NHKマイルカップ』が異例の土曜日開催になったことへのウマ娘レースファンの恨み辛みから翌年の“くらやみ祭り”の日程が変わったことへの神罰が下りたんじゃないのかい?」

 

アグネスタキオン’「まあ、記録を見る限りだと、江戸時代に現在の様な神幸の形になったみたいだねぇ。神輿渡御は午後11時ごろ開始されて翌日の午前3時から4時頃の夜明け前に神社に戻ったという、まさに“くらやみ祭り”の様相だったけど、」

 

アグネスタキオン’「1959年に 午後4時 渡御開始になって、それから2003年に 午後6時 渡御開始になっているわけだから、千年以上前の伝統が厳密にはそのままにってわけじゃないようだねぇ」

 

アグネスタキオン’「――――――『時代背景に応じて柔軟に変化している』と評価してもいいんじゃないかい?」

 

斎藤T「問題にしているのは事柄じゃない。時代の変化によって御祭が存続できなくなる方が問題だから、御祭の日程を変えざるを得なくなった理由の妥当性が問題なんだ。要は気持ちの問題だ。誠実さがあるかどうかだ」

 

斎藤T「それが『NHKマイルカップ』の日程が“くらやみ祭り”と被ったことへの恨み辛みの意趣返し――――――、そんな程度の理由で伝統ある御祭の日程を変えられたら、神様だってご立腹になるだろうよ!?」

 

マンハッタンカフェ「………………!」

 

陽那「それは、そうですよね……」

 

スカーレットリボン「――――――2003年からトレセン学園の暗黒期が始まった」

 

ピースベルT「あ、そうだ! また思い出した!」

 

ピースベルT「“くらやみ祭り”には競バ式があって、元々が国府祭だったから武蔵国府周辺の良質のバ産地になっていたことで時の政権に忠誠心のあるウマ娘の軍団を献上するために良バを府中に集めてバ場で走らせていたんだよ!」

 

ピースベルT「それが“くらやみ祭り”の伝統行事である競バ式(駒くらべ)となって、千年以上続けられている古式にまでなっているんだよ!」

 

ピースベルT「具体的にはその年の神メに選ばれたウマ娘が旧甲州街道を3度往復する儀式になっていたかな。本番である例大祭の前日だから、『2003年に 午後6時 渡御開始』云々とはちがう話だけど」

 

ソラシンボリ「ええ、なにそれ、絶対にそれじゃん! 府中市に東京競バ場が誘致される歴史的下地を作っているのって“くらやみ祭り”なんだから!」

 

スカーレットリボン「……だとするなら、私たちはウマ娘レースに熱狂するあまりにとんでもない過ちを犯して暗黒期を招いたことになるんですか? 私たちの自業自得ですか?」

 

アグネスタキオン’「そうだろうねぇ。善因善果・悪因悪果・因果応報がこの世の理ならね」

 

陽那「兄上……」

 

斎藤T「どこでもよかったんだ、このことを受け取る場所なんて。その事実を知るべき人間が集まれば」

 

斎藤T「ただ、今は『春のファン大感謝祭』期間中で落ち着ける場所がどこにもなかったから、両アメリカ大陸からジャパニーズ・ドリームを目指したコーヒー派の隠れ家に案内されたというわけだ」

 

 

ここは『春のファン大感謝祭』期間においてのみ出現するという普段は存在しないという居心地の良い珈琲店(コーヒーショップ)――――――。

 

私たちは部活棟の一室を利用した模擬店で公然とプライベートな誕生日会を開いて盛り上がっているわけなのだが、いくら部活棟が本校舎から離れている場所にあるからといって、私たち以外の誰も足を運ぶことがない異様な静けさに包まれていた。

 

正確に言えば、ここは霊的磁場の変動によって位相がズレた異界であり、本来あるべきではない禁忌の場所であった。すなわち、学園裏世界とは別種の現実世界と表裏一体の裏世界であり、決して生者の居るべき世界ではない。

 

しかし、ここで“守護天使”が表向きは双子の姉妹とされているアグネスタキオンとアグネスタキオン’(スターディオン)の誕生日会を行うように指示してきたのだから、悪霊祓いの資格を持つ私は細心の注意を払って先に来て結界を張ることにしたのだ。魔除けのミュージックやお香も目立たないように準備した。

 

そして、ハッピーバースデーを歌って双子の姉妹がバースデーケーキに刺さったロウソクの火を吹き消して部屋の中が真っ暗になった瞬間、トレセン学園の一室からズームアウトしていって府中市を見下ろした光景が見えてきたかと思うと、東京競バ場のすぐ近くにある大國魂神社にズームインとなったのだ。

 

すると、真っ暗闇の中を神輿を担ぐ行列が行き交うのを目撃することになり、その後に府中市の歴史が映画のフィルムのようにセピア色から段々と総天然色へとなって現代へと時代が移り変わっていくのが視えた。

 

なので、私は真っ先に東京の歴史に詳しそうな有馬一族の御曹司:鐘撞Tに大國魂神社とウマ娘レースの関係について訊ねてみたら、それでなぜトレセン学園やウマ娘レース業界に暗黒期が訪れてしまったのか、その霊的背景がついにわかってしまったのだ。

 

伊勢神宮でさえも外宮所在地:山田の原の地主の神である大土乃御祖神(おおつちのみおやのかみ)を土宮で祀っているのだから、東京競バ場の土地神である大國魂神社の御祭にケチをつけるウマ娘レース業界の驕り高ぶりを戒められたのが暗黒期の霊的原因と言えた。紛うことなき神罰である。

 

現象としては一部の人間の決定が決定権を持たないその他大勢の人間を巻き込んだことになり、それを理不尽に感じるだろうが、神罰がコミュニティ全体に及ぶのは不平等でも不公平なことでも何でもない。

 

その決定に至るものや決定を後押しするもの、その決定をよしとする雰囲気を形成してきたのは他ならぬコミュニティに所属するひとりひとりの人間が捧げていた心がけと犯してきた不実の結果でしかない。

 

つまり、現象として現れる因果まで含めて現実世界を超越した観点からの総合的な判断で『そんなことをすると罰当たりになる』という予感や良識から外れた行いを正当化する歪んだコミュニティが裁かれたに過ぎない。裁きであると同時に反省と進展を促す業祓いの救済でもあるのだ。

 

とは言え、暗黒期からこうして過渡期を経て黄金期を迎えられたということは赦されたと考えてもいいのかもしれないが、肝腎なのはそのことを私の担当ウマ娘の誕生日会に教えてきたことにある。

 

 

――――――初心忘るべからず。

 

 

斎藤T「そういうことじゃないのかな? きっと、これから新時代を迎えていろんな価値観が目まぐるしく変わることになるだろうけど、今も昔も変わらずに大切にするべきものを決して見失わないように」

 

斎藤T「要は、ウマ娘の皇祖皇霊たる三女神や“守護天使”の導きもそういうもので、ここにいる全員に向けての神示なのかもしれない」

 

斎藤T「それと、『だからと言って大國魂神社の御祭(くらやみ祭り)に行く必要はない』って。大國魂神社はあくまでも武蔵国の土地神に過ぎないのだから、天神地祇や三女神に直接仕えている私には『必要なものは必要な時に必要なだけ用意している』とも言っている」

 

斎藤T「それと、『“シラオキの愛し子”が暗黒期の闇を払ってくれている』そうだ。過渡期からずっと連綿と」

 

マンハッタンカフェ「……そうでしたか」

 

陽那「――――――“シラオキの愛し子”」

 

アグネスタキオン「つまりは、それだけの警告が必要になるぐらいにこれからの時代は物凄い勢いで新しいものや価値観が生まれてくるというわけじゃないか。そいつは非常に楽しみだねぇ」クククッ

 

ピースベルT「――――――『初心』か。“皇帝”シンボリルドルフと秋川理事長と肩を並べて黄金期の三巨頭だった某が忘れるわけにはいかないな」

 

ソラシンボリ「うんうん。そうだね。どんな結果になろうとも、ボクは“皇帝”シンボリルドルフと“帝王”トウカイテイオーの在り方を継いで“夢のヒーロー”になるんだ」

 

スカーレットリボン「うん、そうよ。ソラ。どんな結果になろうとも活かされる道は必ずあるのだから」

 

斎藤T「あ、降りてきた――――――」

 

 

アグネスタキオン「!!」ドクン!

 

マンハッタンカフェ「これは――――――!?」ドクン!

 

 

アグネスタキオン「………………」

 

マンハッタンカフェ「………………」

 

ソラシンボリ「え、何々!?」

 

陽那「どうしたんですか?」

 

斎藤T「――――――降りてきたんだ、2人の身体の中に玉が」

 

スカーレットリボン「え」

 

アグネスタキオン「……視たかい、カフェ?」

 

マンハッタンカフェ「……視えましたか、タキオンさん?」

 

アグネスタキオン「ああ。あれはサイレンススズカに、きみにそっくりな“お友だち”だろう?」

 

マンハッタンカフェ「ええ。サンタアニタで見ることができた“異次元の逃亡者”と“守護天使”の走りが私たちの中に入ってきました……」

 

アグネスタキオン「こいつはたまげたねぇ。とんだ誕生日プレゼントになったよ」

 

マンハッタンカフェ「私にもその御零れがあったことが驚きです」

 

陽那「すごいです! それが因子継承の瞬間だったんですね! 大きな御役目を任じられたこと、おめでとうございます!」

 

アグネスタキオン「ありがとう、ヒノオマシくん」

 

マンハッタンカフェ「ありがとうございます、ヒノオマシさん」

 

ソラシンボリ「へえ、サンタアニタで視ることになった“異次元の逃亡者”と“守護天使”の走りが2人に継承されたんだって?」

 

ソラシンボリ「そんなの、絶対に敵いっこないよねぇ。“エリートウマ娘”を目指さなくて正解だよね、これ」

 

スカーレットリボン「そうね……」

 

 

アグネスタキオン’「きっと、鏡合わせなんだろうねぇ、ウマ娘:アグネスタキオンとマンハッタンカフェの2人は」

 

 

アグネスタキオン「どうしたんだい、その顔? 随分とらしくないじゃないか?」

 

マンハッタンカフェ「どうしたんですか、スターディオンさん?」

 

アグネスタキオン’「なに、私には何も降りてこなかった。ただそれだけさ……」

 

陽那「え」

 

斎藤T「………………」

 

アグネスタキオン’「思えば、私が継承することができたのは同じバケモノであるヒッポリュテーとケイローンの因子だった……」

 

アグネスタキオン’「あらためて、私はウマ娘:アグネスタキオンの皮を被っただけのバケモノであることを思い知らされたよ……」

 

アグネスタキオン「そんなこと……」

 

アグネスタキオン’「まあ、因子継承をした瞬間から私はターフへの興味を完全に失ったヒマ娘なんだ。きみたちがサンタアニタで視た“異次元の逃亡者”と“お友だち”の走りなんてバケモノの私には何の価値もないんだから、何もないのは当然のことか」

 

マンハッタンカフェ「スターディオンさん……」

 

 

スカーレットリボン「そんなことはないと思いますよ、スターディオンさん」

 

 

スカーレットリボン「そんなに卑下しないでくださいよ。せっかくの誕生日なのに」

 

アグネスタキオン’「ふぅン?」

 

スカーレットリボン「最初はまったく同じ外見で本当に双子なんだってビックリしましたけれど、双子は競走ウマ娘としては大成できないジンクスから生まれてきた片方を亡き者にするという歴史が昔はあったことを考えると、」

 

スカーレットリボン「双子として生を受けたウマ娘であるのなら二人の進むべき道が分かれていることは自然なことのように私は思います」

 

スカーレットリボン「あまりこういうのはウマ娘として生まれた我が子を愛する家族に対する侮辱になるかもしれませんけれど、双子だからこそ優駿の頂点の座を相争って優勝劣敗で差をつけられる様を私は見たいとは思いません」

 

スカーレットリボン「それに、スターディオンさんはタキオンさんの夢を純粋に応援しているのでしょう? だったら、ウマ娘:タキオンさんはヒマ娘:スターディオンさんの夢の分まで先頭の景色を追い求めるべきです! それが双子の絆です!」

 

ソラシンボリ「…………お母さん」ボソッ

 

ピースベルT「そうだな。姉妹同士のレースをずっと純粋に楽しめたビワハヤヒデとナリタブライアンの最強姉妹が特別なのであって、普通は勝敗の結果ではっきりと優劣に差をつけられて血を分けた姉妹間で激しい劣等感や敵愾心を抱くようになるものだしねぇ……」

 

アグネスタキオン’「……そういうことじゃないんだけどねぇ」

 

マンハッタンカフェ「いえ、そう思うこと自体がちがうと思いますよ、スターディオンさん」

 

アグネスタキオン’「ん」

 

アグネスタキオン「ああ。きみという存在が“私”を理解するためにどれだけ役に立っているか伝え忘れていたのは私のミスだった。すまなかったよ、()()()()()()()……」

 

アグネスタキオン「だが、この場合の答えは非常に単純明快だ」

 

 

――――――『必要なものは必要な時に必要なだけ用意している』のがトレーナーくんを良いように振り回している皇国の神々の導きだろう?

 

 

アグネスタキオン’「あ」

 

陽那「そうですよ、スターディオンさん!」

 

斎藤T「つまり、今のままでも十分にアグネスタキオン’(スターディオン)は私や神様の役に立ってくれているというわけだ」

 

アグネスタキオン’「ヒノオマシくん、モルモットくん……」

 

アグネスタキオン「だいたいにして、()()()()()()()の方が私のトレーナーくんを独占しているんだから、それが普通だと思わないでくれたまえよ!」

 

アグネスタキオン「おかしいだろう、トレーナーくん!? きみは私の担当トレーナーなのに、担当ウマ娘である私を放って なんでこうも死地に赴くのさ!? 私の世話をするのはトレーナーであるきみの役目だろう!? 勝手に死にに行かないでおくれよ!」

 

斎藤T「その死地にウマ娘:アグネスタキオンは連れていけないからだ」

 

陽那「兄上……」

 

アグネスタキオン「だからと言って、()()()()()()()ばかりを連れ回すのはやっぱり不公平だ!」

 

アグネスタキオン「伊勢参りの時のプレゼントだって、()()()()()()()にはダイヤモンドのネックレスだったのに、私にはハンドクリームって、差がありすぎるだろう!? あとで私も買ってもらったけど!」プンスカ

 

アグネスタキオン’「………………」

 

ソラシンボリ「なんだ。結局、スターディオンさんも学外の協力者としては一番に斎藤Tに頼られているんだから、そんなに僻むことなんてないじゃん」

 

ソラシンボリ「要は、見方の問題だったわけだよね。特に何もないことが『一番の信頼の証だった』みたいな?」

 

アグネスタキオン’「そうか、それもそうか……」

 

アグネスタキオン’「私には何もないことが裏返せば三女神からの祝福の証になっていたのか……」

 

アグネスタキオン’「まったく、そんなのわからないじゃないか、言葉にしてもらえなくちゃ――――――」

 

アグネスタキオン’「だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、そういうことなのかい?」ハッ

 

陽那「きっと、そうですよ!」

 

 

スカーレットリボン「さあさあ! めでたい気分になったことですし、あらためて誕生日を祝いましょう!」

 

 

スカーレットリボン「緋色のリボンを贈り物をどうぞ!」

 

ソラシンボリ「うんうん、誕生日おめでとう!」

 

ピースベルT「おめでとう、タキオンちゃん、スターディオンちゃん! ついでにカフェちゃんも!」ウフッ

 

マンハッタンカフェ「ありがとうございます、みなさん」

 

アグネスタキオン「まあ、ありがたくもらっておくとしようか」

 

アグネスタキオン’「これが母親の手縫いのプレゼントというやつか……」

 

陽那「兄上!」

 

斎藤T「さあ、仕切り直しだ! どうしてウマ娘レースに暗黒期が到来したのか、その根源に在るものを知ることもできた!」

 

ソラシンボリ「これから新しい時代がやってきて いろんなことが変わっていく中で 変わることのない大事なものを見失わないように!」

 

スカーレットリボン「皇国の神々様や三女神様の祝福と導きに感謝を捧げて!」

 

 

――――――乾杯!

 

 

サンタアニタから続く祝福はアグネスタキオンの誕生日会に便乗して降りてきた。

 

ここは三次元世界と四次元空間の狭間の亜空間となっているために、以前の因子継承のように三女神像の前に立つ必要はなく、直接的にウマ娘レースを走り抜いてきた過去のウマ娘の想いが継承できるようであった。

 

だからこそ、誕生日会はこの場所で行うように“守護天使”が指示してきたわけであり、同時にトレセン学園の七不思議に数えられていそうな『春のファン大感謝祭』期間に出没する幻の珈琲店の存在もまた生徒たちの間で継承されていたようである。

 

なぜトレセン学園で珈琲店が幻になるのかと言うと、これもヨーロッパのウマ娘レースとアメリカのウマ娘レースの文化性のちがいを踏まえれば理解できるだろう。

 

そう、トレセン学園の生徒たちはバカ高い授業料を支払えるだけの良家の令嬢であることが多いため、上流階級の嗜みとして紅茶派の人間が多いわけなので、コーヒー派の人間はそれだけで庶民的だとバカにされて肩身の狭い思いをしてきたのかもしれない。

 

そもそも、近代ウマ娘レースがヨーロッパの王侯貴族の道楽が起源なのだから現代の競走ウマ娘のエリートたちが紅茶派になるのもそういった伝統的な背景があるわけであり、

 

ヨーロッパから独立して新天地を得て独自に発達したアメリカ競バのように誰もが楽しめるお祭りとしてホットドッグを片手に億万長者が庶民と一緒になって観戦するようなものとは程遠いわけなのだ。

 

なので、コーヒー愛好家のウマ娘たちが隠れた穴場として自分たちの珈琲店を築き上げてのんびりとした時間を過ごしたいという切実なる想いがこうした異界を築き上げていたのだろう。

 

この珈琲店の異界はイギリス競バの伝統に忠実だった日本競バが戦後にアメリカ競バの流入によって再出発した歴史があったことを物語っているらしく、同時に同じコーヒー文化圏である南アメリカの歴史にも触れられていた――――――。

 

そして、直感的に珈琲店の異界の他にもこうした亜空間がトレセン学園に点在しているような気がしてならず、その奥に潜む闇を光で照らす必要があるのではないかと思えた。

 

 

一方で、ソラシンボリの実の母親であるスカーレットリボンは一児の母親として家族という概念すら借りてこないと経験することのないアグネスタキオンの皮を被ったバケモノに対して実体験からくる慈しみを与えていた。

 

 

というより、怪人:ウマ女であるバケモノの中に流れ込んだ因子に刻まれているウマ娘:アグネスタキオンとウマ娘:シンボリルドルフの記憶と感覚には世間一般で想像されるような家族愛が存在しないだけに、

 

それは自身の名前である“緋色の装飾(スカーレットリボン)”に象徴されるように迷える子供を結ぶ絆のようになっており、表向きはシンボリ家に仕える侍女に過ぎず他所の『名家』の令嬢に親切にする義理もないはずのウマ娘:スカーレットリボンの包容力がバケモノであることに劣等感を抱いていたアグネスタキオン’(スターディオン)を優しく包み込んでいた。

 

残酷な現実として、走ることが何よりも大好きで勝負事になるとどこまでも熱くなってしまう闘争本能を持つウマ娘なのだから、必ずしも同じ母親から生まれた子供同士の仲がよくなることはない。

 

むしろ、レースでの戦績が冷酷なまでに明確な姉妹の差と優劣を生み出すわけであり、それによって血を分けた姉妹こそが他ならぬ身内として遠慮のない距離感によって激しい劣等感や敵愾心を抱くことになりかねず、闘争本能が高じて家族ですら敵と認識してしまう危険性もウマ娘は潜在的に抱えてしまっているのだ。

 

なので、ウマ娘の双子に限らずウマ娘の姉妹はこれはこれで身近な競争相手として互いを高め合う以上にどちらか片方が勝者となり 敗者となって家庭内で序列を付け合うことになるため、これではたしかに子だくさんになっても多くの不幸を生み出すだけで、ウマ娘の子供は自然と一人だけの家族構成になるのも不思議ではない。

 

その辺りがウマソウルの起源となる『穢土』に対する ウマ娘が生まれてくる『浄土』である この世界における摂理というわけであり、なまじ人としての知性を持ったばかりにかえってウマ娘は一人っ子で育てないと血を分けた肉親同士の啀み合いで人格が歪む可能性が大きいのは皮肉が利いていた。

 

そういう意味では“怪物”ナリタブライアンを妹に持つ“万能”ビワハヤヒデがいかによくできた姉だったかに気付かされるわけであり、ナリタブライアンと誰よりも愛情を持って向き合い続けてきたビワハヤヒデが弱いウマ娘のはずがなかった。

 

だからこそ、一児の母親である成人ウマ娘:スカーレットリボンのアグネスタキオン’(スターディオン)に向ける眼差しはウマ娘の双子という存在への驚きの後に努めて慈愛の念がこもることになり、

 

その正体が並行宇宙から侵略してきたWUMAであることはまったく知らずに母親がお腹を痛めて生み落とした双子だと信じ切っているからこそ、競走ウマ娘らしからぬ人格に思い悩んでいるように思えたアグネスタキオン’(スターディオン)に掛けてあげられた言葉が『双子の絆』というわけである。

 

そもそも、“アグネス家の最高傑作”であるウマ娘:アグネスタキオン自身も独自路線の開拓を得意分野とする奇矯な一族の生まれでありながら“アグネス家の異端児”として身内からも疎まれていたこともあり、孤独であることを当然のものとして受け容れてきた者にとっては“もうひとりの自分の存在”を蔑ろにするわけがないのだ。

 

そういうスカーレットリボンも普通のウマ娘の母親の価値観から明らかに逸脱しているところがあり、ウマ娘の性である闘争本能を肯定して双子の姉妹で同じ道を歩めなかったことを残念に思うべきところを、双子の姉妹で別々の道を歩めることで優駿の頂点の座を競って啀み合うことがないことを肯定するところがバケモノにとっては励ましの言葉になったのだ。

 

それもそのはずで、重賞レースを一度でも勝っているだけでも十分に優秀な素質の競走ウマ娘ではあったものの、G1勝利の栄冠は掴めないまま、在学中に何者かに妊娠させられていたという驚愕の過去があり、

 

学園の不祥事を隠すためにシンボリ家に預けられて我が子を生み落とした後、何事もなかったかのようにトレセン学園を復帰して卒業して大学に進学して一般企業で社会人生活を送っていたわけなのだが、

 

シンボリ家で養育されることになった我が子のことがずっと気に掛かっていたからこそ、シンボリ家に仕える侍女となって、シンボリ家の令嬢に育て上げられていた我が子に仕える人生を歩んできたのだ。

 

なので、一般的にトレセン学園の生徒たちが憧れる将来;トレセン学園で自分を勝利に導いてくれたトレーナーと結婚するという乙女の憧れとは縁が完全に絶たれているだけに、血を分けたウマ娘の姉妹の間に生まれることになる複雑な感情への理解が深かった。

 

事実、『サンタアニタダービー』観戦で私の付き人であるソラシンボリの付き人(おまけ)として同行することになったシンボリ家の侍女:スカーレットリボンという成人ウマ娘の存在の影響力は意外なほど大きく、成人男性の私では与えることができないものを授けてくれる存在に深く感謝していた。

 

そう、タロットカードの大アルカナに『皇帝』『教皇』『女帝』『女教皇』が同時に存在するように、どれだけ性別を超えて技能を磨き抜こうとも生まれ持った性別や性質の壁を超えることはできないわけなのだから、

 

だからこそ、それぞれが各々に与えられた使命や天分を理解して役割分担や適材適所を果たすことで『青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光』となって、互いの尊厳を侵すことなく同じ世界に存在することが果たされるのだ。

 

 

 

 

チリンチリーン!

 

スペシャルウィーク「いい匂い! やっぱり、こんなところにカフェが!」

 

柳生T「まさか、これが噂に聞く『春のファン大感謝祭』限定で開かれるコーヒー愛好家たちの秘密の珈琲店か。中央を離れてようやく見つけることになるとはな」

 

マンハッタンカフェ「え」

 

ソラシンボリ「あれ、誰か入ってきたよ――――――?」

 

ピースベルT「まあ♪」ンフッ

 

スカーレットリボン「あれってまさか、チーム<スピカ>の“日本総大将”スペシャルウィーク!?」

 

斎藤T「そして、西崎Tからチーム<スピカ>を託された完全調和(パーフェクト・ハーモニー)の柳生Tか!?」

 

 

スペシャルウィーク「あ、はい! スペシャルウィークです! 美味しそうな匂いに誘われてやってきちゃいました!」

 

柳生T「ああ、懐かしいな、完全調和(パーフェクト・ハーモニー)か。スペシャルウィークを『ドリームトロフィーリーグ』に送り出したのを機にチーム<スピカ>を解散したからな。今の俺のモットーは完全作戦(パーフェクト・ミッション)だ」

 

 

スペシャルウィーク「あれ!? ねえ、あれってスズカ先輩のサインと写真ですよね、トレーナーさん!?」

 

柳生T「ホントだな。しかも、“皇帝”シンボリルドルフに西崎先輩と一緒の集合写真だなんて、いったいいつ――――――?」

 

アグネスタキオン「ああ、それかい? 先週の『桜花賞』の日に私たちでロサンゼルス近郊のサンタアニタパーク競バ場まで行ってきて、メインゲストに“皇帝”シンボリルドルフ、特別ゲストに“異次元の逃亡者”サイレンススズカを迎えて『サンタアニタダービー』同時視聴プログラムをやってきたのさ」

 

スペシャルウィーク「ええ!? 『春のファン大感謝祭』の裏でそんなことをやっていたんですか!? いいなぁ! 私も一緒に出たかったです!」

 

柳生T「その、西崎先輩は元気そうでしたか?」

 

斎藤T「ええ。アメリカ横断をしながらアメリカ中のウマ娘たちのコーチをして渡り歩く“サムライ”としてアメリカウマ娘レース業界でちょっとした有名人として活躍中です」

 

斎藤T「じゃあ、どうでしょう? せっかくですので、『サンタアニタダービー』同時視聴プログラムの様子をご覧になりますか? 映像データはありますし」

 

スペシャルウィーク「お願いします!」ドン!

 

アグネスタキオン「おお、食いつくねぇ……」

 

スペシャルウィーク「それとお腹が空いていますので、このクリームなまらデカ盛りコーヒーをください! ミルクマカロンもアップルカスタードも!」

 

柳生T「そうだな。店に入ったからには俺も何か頼まないとな」

 

ソラシンボリ「ほら、店主(マスター)! 接客しないと!」

 

マンハッタンカフェ「あ、はい」

 

スカーレットリボン「手伝います、カフェちゃん」

 

アグネスタキオン’「やれやれ、騒がしいのがやってきたもんだねぇ」

 

アグネスタキオン’「今日は私たちの誕生日だったから、ほら、バースデーケーキのお裾分けだよ。これで小腹を満たすといい」

 

スペシャルウィーク「え、そうだったんですか!? 誕生日おめでとうございます! 美味しくいただきます!」

 

柳生T「おめでとう。きみのことは知っているぞ。“学園一危険なウマ娘”アグネスタキオンと……」

 

アグネスタキオン’「――――――“スターディオン”と呼んでくれたまえ」

 

 

こうして数奇な縁が新たな出会いをもたらしていき、サンタアニタで“異次元の逃亡者”サイレンススズカと邂逅して1週間で今度は“日本総大将”スペシャルウィークと遭遇することとなった。

 

西崎Tからチーム<スピカ>を引き継いでスペシャルウィークを『ドリームトロフィーリーグ』へと送り出した柳生Tとも知り合うことになり、ここまで常識では考えられないような奇跡が連続する。

 

チーム<スピカ>の活躍は暗黒期と黄金期の間の過渡期だけで終わりを迎えることになったわけなのだが、西崎Tと方針を同じくする極めて優秀な若手トレーナーである柳生Tは完全調和(パーフェクト・ハーモニー)を信条としており、

 

『チームメイトの命を守ることはチームという1つの生き物の命を守ることと同じ』という考えから、常にチームに所属するウマ娘の安全衛生に気を配り、西崎Tと同じく自ら手料理を振る舞ってウマ娘たちに惜しみない愛情を注いでいた。

 

また、ウマ娘ごとの適性やそれぞれの走る目的と心情も鑑みた上でウマ娘の自主性を最大限に尊重する 西崎T譲りの的確な判断を下すことができる 当時としては最高レベルの敏腕トレーナーの一人であったため、チーム<スピカ>は西崎Tを師匠とする弟子の柳生Tが有終の美を飾った功績でもって最終的な評価が決まったところがあった。

 

それだけに『トゥインクル・シリーズ』から『ドリームトロフィーリーグ』に昇格したスペシャルウィークの動向はよく知られているが、チーム<スピカ>の最後のトレーナーだった柳生Tが何をしているのかについてはあまり知られていなかった。

 

そのため、西崎Tがサイレンススズカの後を追ってアメリカに渡った後、西崎Tから引き継いだチーム<スピカ>を解散させた後に学園を去った後のことについて訊ねてみた。

 

その答えは――――――。

 

 

――――――警視庁トレセン警察校“府中校”。

 

 

柳生T「ああ。俺はそこの教官として赴任することになった。そのために国家公務員試験を受けることになってトレセン学園を一旦は離れることになったんだ」

 

ソラシンボリ「――――――『一旦は』?」

 

スカーレットリボン「中央のライセンスを捨てずに持っていらっしゃるんですか?」

 

柳生T「いや、取り直した。中央のトレーナーライセンス試験をまた受け直したわけだから、警視庁トレセンの教官 兼 中央トレーナーというのが今の正しい肩書だな」

 

ソラシンボリ「あれ、たしか警察官とか国家公務員って副業は許されてなかったんじゃないの?」

 

柳生T「いや、国家公務員の副業禁止は法律には直接は記載されていないぞ。国家公務員法第103条(私企業からの隔離)に書かれているのは『営利目的での私企業の経営と兼業』だから、営利目的でトレーナー業をしなければ副業は問題ないわけだ」

 

柳生T「だから、国家公務員法第104条(他の事業又は事務の関与制限)での『非営利の事業団体で事業に従事する場合は、内閣総理大臣およびその職員の所轄庁の長の許可が必要』という条件を満たすために、」

 

柳生T「中央トレセン学園のトレーナー組合に所属して担当ウマ娘を勝たせていた頃よりは 断然 収入が安くなる代わりに、最低限の給料と手厚い福利厚生を受けることはできるようにはなっている」

 

ソラシンボリ「そうなんだ。本来トレーナーがもらえる賞金の取り分は公務員だから国家に全部寄付されるわけなんだね」

 

柳生T「まあ、さすがにトレーナー業の激務で薄給にするわけにもいかないから、いろいろな名目で出される手当で埋め合わせはされているがな」

 

柳生T「実は、去年のトレセン学園学生寮不法侵入事件を受けて、巨大な住宅団地と化している学生寮での治安維持のために俺が以前からトレセン学園に導入を訴えていたことがようやく形になったんだ」

 

 

斎藤T「つまり、警視庁トレセン警察校の生徒をトレセン学園学生寮に編入させることで生徒以外立入禁止の住宅団地に交番を置くつもりなんですね」

 

 

柳生T「そういうことだ。ただ、通常の警察学校は大卒の場合は6か月間、それ以外の場合は10か月間の在籍期間なのを考えると、かなり扱いが特殊になってくる。幼年学校みたいなものだな」

 

柳生T「だから、国家公務員試験に合格した後、警視庁トレセン警察校に赴任する教官になる前に俺自身が警視庁警察学校に入校していたわけで、」

 

柳生T「中央トレセン学園と提携する上での課題点の洗い出しや対策を練りながら中央トレセン学園学生寮の一部を間借りさせて交番を設置させる案を実現させる運びになったんだ」

 

ソラシンボリ「へえ。じゃあ、警視庁警察学校のウマ娘が民間警備会社のERTと協力して学生寮内部の安全を守ってくれるようになるんだ」

 

柳生T「そう、学生寮の一部を警視庁トレセン警察校が間借りする形で学生寮内の見回りをするようになるから、これでかなりの安全性と即応性が確保されるようになるはずだ」

 

柳生T「それだけじゃなく、警視庁トレセン警察校“府中校”も中央競バ『トゥインクル・シリーズ』の登録団体になったから、学生寮の治安維持に駆り出されている警視庁トレセンの生徒にも『トゥインクル・シリーズ』に出走できるチャンスが与えられることになっている」

 

柳生T「言わば釣り餌だ。それぐらいの齧り付ける餌がなければ、『トゥインクル・シリーズ』に出走するウマ娘たちを間近に見続けて嫉妬してしまうからな、警視庁トレセンのウマ娘たちがな」

 

柳生T「それに、チーム<スピカ>のチームトレーナーだった俺に『またウマ娘の担当トレーナーとして活躍してもらいたい』というトレセン学園理事会からの要請もあってだな」

 

柳生T「言うなれば、“中央トレセン学園 高等部 警視庁コース”として限定50名ずつの席が新たに毎年用意されることになって、これからの中央トレセン学園には計150人の他校生徒が在籍しながら共生することになる」

 

柳生T「ただ、あくまでも中央トレセン学園のトレーニング設備は中央トレセン学園の生徒たちが使うべきものとして、警視庁トレセン警察校の生徒は警視庁トレセン警察校のトレーニング設備を使うように区別はされている」

 

斎藤T「悪くないんじゃありませんか。シンボリルドルフ卒業後のトレセン学園の風紀を引き締めることができます」

 

柳生T「ああ。ようやく俺がやりたかったことが実現できて、これからが楽しみだよ」

 

柳生T「そういう意味では()()()()()()()()()()()であったきみには感謝しないとかな、斎藤T? きみ、相当に『警視庁』で話題に上がっている有名人だからな、いろいろと注目されているぞ」

 

斎藤T「では、一民間人の私が身を挺して新しい時代に繋いだのですから、本職としての本分を全うしてくださいね。私はトレセン学園のトレーナーに過ぎないわけですから」

 

斎藤T「それはそれとして、今後ともよろしくお願いします。警視庁トレセンの生徒たちが学生寮から警視庁警察学校に登校する関係上、これから頻繁に顔を合わせることになりそうですし」

 

斎藤T「何より、私は皇宮警察の息子。柳生Tも警視庁の人間なのですから、立場は違えども同じ警察章(旭日章)の下に日本の自由と平和のために戦いましょう」*2

 

 

柳生T「任せておけ。学生時代に生徒が学ぶべきものは完全調和(パーフェクト・ハーモニー)だが、大人の世界で為すべきことは完全作戦(パーフェクト・ミッション)だ」

 

 

スペシャルウィーク「今日はスズカ先輩や西崎Tがアメリカで元気にやっていることがわかったし、トレーナーさんの作るナポリタンも久しぶりに食べることができて大満足です!」

 

マンハッタンカフェ「ええ。さすがはチーム<スピカ>の西崎Tのお弟子さんなだけあって、手料理も抜群に素晴らしかったですね」

 

アグネスタキオン「ああ、サンタアニタでの西崎Tが振る舞ってくれたアメリカ料理もなかなかだったからねぇ。味付けや飾り付けだけでも強い繋がりを感じたもんだよ」

 

柳生T「なに、チームトレーナーたる者、チームメイトのことを自分の手足のように使う以上は自分の健康管理と同じようにチームメイトの管理にも贅を尽くすのも大切だからな」

 

柳生T「昔ながらの珈琲店で提供されるナポリタンのコツはカレーライスのようにご飯に合う味付けにすることだ。スパゲティサラダの一種と考えて作ると味の調和がとれるはずだ」

 

柳生T「更に、熱々の出来立ての味を提供したいのなら、保温性に優れたステーキ皿が一番だ。大阪のお好み焼きが鉄板から直にヘラで口に運ぶスタイルなのを考えればな」

 

ソラシンボリ「へえ、見た目の印象からすると西崎Tと柳生Tって正反対の感じがするけど、それこそ刑事ドラマの相棒(バディ)みたいな感じだったんだろうね!」

 

スカーレットリボン「芯となるものを同じくする同志としてチーム<スピカ>の使命を立派に果たしたわけですね」

 

 

スペシャルウィーク「私、西崎Tやスズカ先輩もいて、トレーナーさんもいたチーム<スピカ>が大好きです」

 

 

スペシャルウィーク「だから、西崎Tやトレーナーさんが完璧な調整を施して送り出して誰もがスズカ先輩の完勝を確信していた『沈黙の日曜日』のことが本当に今でも忘れられなかったわけなんですけど、今もアメリカで元気にやっていることがわかってようやく安心できました」

 

スペシャルウィーク「正直、今のトレセン学園のことはわからないですけど、きっと 私たちが頑張っていた時よりももっともっとみんなの夢が輝ける素敵な場所になっていると信じてます!」

 

柳生T「そうだな。エクリプス・フロントなんて高層ビルが建ったことだしな。それより前にこんな立派な部活棟も建てられて、いろいろと俺たちが在籍していた頃とは随分と様変わりしたもんだ」

 

柳生T「これからは一般開放の時以外はエクリプス・フロントで警視庁トレセンの子たちと打ち合わせすることにもなるだろうな」

 

ソラシンボリ「じゃあ、その時はまたいろいろと話を聴かせてもらってもいい?」

 

柳生T「ああ、いいぞ。中央の生徒たちと『警視庁』の人間が親しくしていることが去年の事件での失態に対する信頼回復に繋がることだし、ちゃんと中央のライセンスは持っているからな。トレーナーとしてアドバイスを送ることがちゃんとできる」

 

斎藤T「それはそれは、実に頼もしい限りで」

 

 

チリンチリーン!

 

 

アグネスタキオン’「おや」

 

陽那「カフェさん! お客さんですよ!」

 

ピースベルT「さあ、いらっしゃい、ポニーちゃん♪」ウフッ

 

アグネスデジタル「ままままさか、こ、こんなにもお美しいウマ娘ちゃんのトレーナーにホイホイ誘われて辿り着いた先が学園七不思議の珈琲店――――――」アワワワ・・・

 

マンハッタンカフェ「いらっしゃいませ」ニコッ

 

アグネスデジタル「おおおお! 先月の『大阪杯』を完勝したマンハッタンカフェさんが店主(マスター)だああああああ!」

 

アグネスデジタル「あ! あれはつい先週の『サンタアニタダービー』同時視聴プログラムの超豪華ゲストのサインに集合写真――――――!?」ウヒョー!

 

アグネスタキオン「ふぅン。誰かと思えば、デジタルくんじゃないか。そうかそうか」フフッ

 

アグネスタキオン’「なるほど、ここに入ってこれたということは、()()()()()()なのだろうねぇ」クククッ

 

アグネスデジタル「ええええええ!? タキオンさんが二人ぃいいいいいいいい!?」

 

柳生T「おい、せっかくなんだし、お前も“日本総大将”なんて御大層な肩書きがあるんだし、お前のサインをスズカのサインと並べていったらどうだ?」

 

スペシャルウィーク「そうですね! 美味しいお店には有名人のサインが飾られてますもんね! 私もたくさんのお店にサインを飾ってもらってました」

 

柳生T「まあ、あれはお前一人のために店中の食べ物を食い尽くされたことを忘れないためのものというか、ブラックリストの証というか、被害者の会という名のファンクラブの自慢の逸品というか、いろいろと複雑な感情が入り混じったものになっているがな……」

 

アグネスデジタル「うわあああああああああ! こっちにはチーム<スピカ>のスペシャルウィーク!? 本物ぉおおおおお!?」

 

斎藤T「色紙です。どうぞ」

 

柳生T「お、用意がいいな。最初からサインを強請る気だったのかな」

 

斎藤T「トレセン学園にいるのは誰もが未来のスターウマ娘ですからね。誰にだって価値がありますよ」

 

柳生T「……それもそうだな。それが国民的スポーツ・エンターテイメント『トゥインクル・シリーズ』の夢の舞台というものだ」

 

 

――――――シンボリルドルフという名の1つの時代が終わりを告げた。

 

 

同時に終わりはまた新たな時代の幕開けであり、新たな出会いや価値観をもたらすことになる。

 

“皇帝”シンボリルドルフ卒業後のトレセン学園は少しずつだが着実に様変わりしつつあり、そのことはトレセン学園から離れていった者たちから一目瞭然であるほどに良い方向へと変わっていた。

 

しかし、新たな時代にもたらされるものは同時にこれまでの常識や価値観との衝突を引き起こすことになり、戸惑いや誤解から変化を歓迎できず、時代に取り残される者も必ず現れる。

 

少なくとも、まだシンボリルドルフ卒業後の新学期が始まって2週間も経たない頃、これから新時代がどのようなうねりを見せるのかは未知数ではあるが、今はそのことが表面化することなく静かに爆発する時を今か今か待ち侘びているように思えた。

 

そして、時代の最先端を走り続けることと、目まぐるしく訪れる時代の変化の中で変わることのない大切なものを守り続けることを課されながら、一歩一歩 刻一刻と 進化と発展の日々を邁進していくのだ。

 

 

*1
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

*2
ただし、現在の皇宮警察本部は警視庁皇宮警察部を前身とするが警察庁の附属機関となっている。

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