ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XY年04月14日の航星日誌- GAUMA SAIOH
土日に開催されるウマ娘レースの興行の翌日となる月曜日が出走した生徒たちの振替休日になることから火曜日が週明けとなるトレセン学園は本日『春のファン大感謝祭』の最終日前日を迎えていた。翌日は『春のファン大感謝祭』最終日の体育祭本戦と後夜祭となる。
一方、世間的には今日が毎年恒例の新世代最強決定戦となるクラシック戦線の第一戦となる中山・芝・2000m『皐月賞』のため、昨日と比べて来場者数が
入学式から4月前半を丸々『春のファン大感謝祭』期間とし、その間も重賞レースが滞りなく開催されているわけなのだが、クラシック三冠路線の『皐月賞』の前週のティアラ三冠路線の『桜花賞』開催が阪神であったことであまりにも遠かったように、この日の来場者数がガクッと減る理由は明白であった。
なので、『春のファン大感謝祭』最終日前日の一般開放日最終日の賑わいは一番に落ち着いたものになっており、間もなく新年度の夢いっぱいのお祭り期間が終わることを誰もが実感することになった。
私はエクリプス・フロントにて今や人気爆発中の新クラブ活動:ESPRITで入部希望者やモニター応募者の前にトレーナーバッジを隠して提供会社である某重工のソリューションサービス部の開発室長代理として案内役をこなしていた。
そこで生徒たちが欲しいと思うものやこうあったらいいなと思うアイデアを集計すると同時に、生徒以外にも一般開放ということでESPRITに学園校舎から足を運んできた人たちと直に話す機会を得ることになり、私の人脈作りはこうしてますます深化していく。
もちろん、私は春休みの準備期間でエクリプス・フロントで働いている人たちとは仲良し小好しなのでエクリプス・フロントの王として闊歩することになり、食事時にスカイレストランで新発明を披露するのも私が声を掛けるだけでサプライズで執り行われた。
そのおかげで、エクリプス・フロントに訪れた人たちの心はガッチリと掴むことになり、学園内外の人たちにESPRITの存在を知らしめることに成功し、私がもたらした新発明が新入生たちを中心に徐々にトレセン学園に浸透し始めると同時に私の影響力も大きくなっていく。
事実、この“斎藤 展望”という存在は、去年の今頃、配属早々に強引なスカウトの数々によっていきなりクビを切られそうになるほどに評価がマイナスに振り切れており、学園の顔役である生徒会役員からも公然と睨まれるほどの“学園一の嫌われ者”であった。
しかし、今ではどうか、マイナスに振り切れた評価は一転して先代生徒会長:シンボリルドルフをはじめとする生徒会役員からもっとも信頼され、学園で影響力を持つ有名トレーナーたちとも親しくしている“学園一の切れ者”に成り上がったのだ。
だが、それも当然のことなのだ。私は23世紀の宇宙移民の一人なのだから、未知の居住可能惑星で地球文明の後継者として新国家を築き上げる使命を帯びた存在であったのだ。国家建設ができるのに組織運営や人心掌握ができないわけがない。
そんなわけで、『今日の『皐月賞』観戦はエクリプス・フロントで!』と昼過ぎまで宣伝と集客に勤しみ、ESPRIT顧問の女代先生にバトンタッチした後、昨日からホテルで泊まり掛けで『春のファン大感謝祭』の賑わいを満喫している斎藤 展望の最愛の妹:ヒノオマシと学園祭を見て回ることになった。
旧家の令嬢が通う由緒ある寄宿学校で今までの鬱屈ぶりが嘘のように容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能の完璧超人として瞬く間に人気者に返り咲いた自慢の妹を“斎藤 展望”がするように慈しむと、ヒノオマシは指と指が絡み合うように手を繋いで愛おしそうに兄の横顔を横目で見つめていた。
昨日とは打って変わって『皐月賞』開催で中山競バ場に人が流れて混み具合が比較的落ち着いている中で周りに見せつけるように動いたヒノオマシは非常に強かな
そう、去年の今頃、すなわち配属早々の『春のファン大感謝祭』期間から強引なスカウトで学園中から盛大な顰蹙を買うことになった最愛の兄:斎藤 展望のイメージ改善のために、ヒノオマシは最愛の家族との時間を過ごす兄の姿を学園中に見せつけていたのだ。
やはり、最愛の妹のためならばどんな悪名も厭わない兄としては“学園一の嫌われ者”になることをよしとしても、唯一の肉親である妹からすれば 自分のために今まで泥を被ってきた兄の名誉が取り戻されることを強く願わずにはいられなかったのだ。
――――――だからこそ、その足で生徒会室に乗り込んでいって新生徒会長:エアグルーヴと副会長:ナリタブライアンに圧力を掛けることも厭わなかったのだ。
いやはや、さすがにそれは反則技としか言いようがないやり方であったが、そのにこやかさと裏腹の徹底具合が実に“斎藤 展望”と血を分けた実の妹らしいものだと感心する他なかった。
なにしろ、新生徒会長:エアグルーヴ自身が敬愛して理想とした偉大なる母親:ダイナカールと副会長:ナリタブライアンにとって姉貴に負けず劣らずの愛を注いでくるおふくろ:パシフィカスをこの場に連れてきたのだから、これには生徒会室で一息ついていた“女帝”エアグルーヴと“怪物”ナリタブライアンも途端に人の子に早変わりであった。
実は、ヒノオマシは学園での最愛の兄の名誉回復のために新時代の学園の顔役となる新生徒会役員を懐柔させることを先代生徒会長:シンボリルドルフと会談することになった『秋のファン大感謝祭』の頃から考えつき、寄宿学校での厳しい外出制限の中で“女帝”エアグルーヴと“怪物”ナリタブライアンの母親に会っていたのだ。
エアグルーヴの母親:ダイナカールは“オークスウマ娘”として卒業後には名門スクールの講師として後進育成のために積極的にメディア露出していたこともあり、ヒノオマシの情熱的なアポ取りによって寄宿学校での講演会を実現させた経緯があった。
国民的スポーツ・エンターテイメント『トゥインクル・シリーズ』への出走を目指す競走ウマ娘たちの性質や最近の流行りなどをその道の第一人者に聞いて寄宿学校のお嬢様方の見聞を広める名目で取り付けてきたわけなのだが、名門スクールの講師という肩書きとは名ばかりの軽妙洒脱のトークと破天荒な姿に貞淑なお嬢様方は上品ではない笑いを堪えるのに必死だった。
しかし、その愛娘である“女帝”エアグルーヴは偉大なる母親とは打って変わって自他共に厳しい性格がこの母親の許で培われたことを考えると、たとえ説明が論理的ではなくても名門スクールの講師として 毎年 何人もの教え子たちを導くことができる何かがあることをヒノオマシは学び取ることになり、この母娘について徹底的に調べ上げることになったのだ。
また、ヒノオマシは姉共々顔馴染みである“怪物”ナリタブライアンの実家が歴史ある酒屋であることも調べ上げて訪ねており、ビワハヤヒデとナリタブライアンの最強姉妹が斎藤 展望のことを慈愛に満ちたおふくろ:パシフィカスに話しているだろうことに見当をつけ、トレセン学園の関係者としてWUMA襲撃事件が尾を引いていないかを訊いてみたのだ。
もちろん、WUMA事件の当事者だからこそ知り得る情報を言っていることもあってすぐに信用を得ることに成功し、家に上がらせてもらってウィスキーボンボンやトリュフチョコレートを手土産にして最強姉妹の生い立ちを聞くなど楽しいお話の時間を過ごし、着実に外堀を埋めていったのである。
そのため、トレセン学園のトレーナーを務めている斎藤 展望を通じて娘の学園生活をヒノオマシが母親に伝える繋がりができあがっており、私はヒノオマシからの何気ないSNSでのやりとりの中でこうやって自分の意志で要人とのパイプを繋いでいったことに驚かされることになった。
そう、“女帝”エアグルーヴの母親:ダイナカールや“怪物”ナリタブライアンのおふくろ:パシフィカスとまるで同格のように“学園一の嫌われ者”斎藤 展望の妹:ヒノオマシが肩を並べている構図が生徒会室に居合わせた全員の眼に焼き付いたぐらいだ。
昨日は今日以上の混雑と私の担当ウマ娘の誕生日会で普段着に近い地味目の服装だったのが一転して、高貴な生まれだと一目でわかる おめかしとブランド品で身を固めた 優雅な物腰の令嬢であることを演出して生徒会室の空気を支配したの見計らって、
頻りに“斎藤 展望”を『兄上』と愛おしそうに呼ぶ妹の姿を見せつけられたら、たしかに新生徒会やそれに親しい人たちからの“学園一の嫌われ者”の風評も掻き消えることだろう。
しかし、後から冷静になると“女帝”エアグルーヴと“怪物”ナリタブライアンも強気に出られない状況をそれぞれの母親を連れてきて作り出したことを周りがどう思うことか――――――、“斎藤 展望”がこんなにも兄想いの可愛い妹を使って生徒会役員の母親たちを丸め込んで新生徒会を威圧しに来たように思われはしないだろうか。
しかも、去年の『秋の大ファン感謝祭』で執事喫茶の衣装の先代生徒会長:シンボリルドルフにもてなされた思い出を語り出し、その話に乗っかったダイナカールとパシフィカスら母親たちが愛娘の執事喫茶に今から予約を入れようと大はしゃぎである。
――――――やめてくれ! 私はまったく知らないぞ! そんな眼で見られても私には如何ともし難い!
――――――トレセン学園附属高層施設:エクリプス・フロント(地上10階・地下1階建て)
斎藤T「………………」
陽那「兄上、申し訳ございませんでした」
斎藤T「なぜ謝る?」
陽那「私が兄上の名誉回復のために“女帝”エアグルーヴと“怪物”ナリタブライアンのお母様方を利用したことが癇に障ったのではないのですか?」
斎藤T「そこまで気に障ったわけじゃない。ただ、ヒノオマシが外堀を埋めるようにトレセン学園生徒の父兄と大きな繋がりを持っていたことに驚きが隠せなくてな」
陽那「そんなに不思議なことですか? 夢の舞台に入ることができない
斎藤T「――――――大きくなったな、ヒノオマシは」
陽那「私を育み、慈しみ、導いてくれたのはずっと兄上でした」
陽那「だから、私はこうやって大きくなれましたよ、兄上」
斎藤T「ああ。その在り方を見失わない限り、ヒノオマシならどんな道を歩んでも乗り越えていけるはずだ」
陽那「……またそうやってつれないことを言うんですね、兄上は」
斎藤T「……何を?」
陽那「本当に感謝しても感謝しきれないぐらい兄上には御恩があるのに、兄上は私の独立自尊のために礼を受け取る以上に褒めてくださるんですよ?」
陽那「こうやってダイナカールさんやパシフィカスさんとお付き合いさせてもらっていく中で、私は親から見た子供の姿というものを認識することができるようになりました」
陽那「だから、“女帝”エアグルーヴや“怪物”ナリタブライアンといった夢の舞台で燦然と輝くスターウマ娘が家庭ではどれだけ普通の人間で親にとっては宝物の良い子なのかも知ることができ、」
陽那「そのことを伝える親の誇らしい表情を見て確信しました。親は子のことをいつも誇りに思って自慢したい思いを内に秘めているものだと」
陽那「だから、私は より一層 兄上の良さをみんなに知ってもらいたいと思うようになっていました」
陽那「兄上にはもう父上も母上もいないんです」
陽那「――――――
斎藤T「よせ」
陽那「だって、こんなのってないじゃないですか……」ポタポタ・・・
――――――私にはもう伝えることができないんです。
斎藤T「………………」
陽那「もう当てはまらないんですよね、
陽那「なのに、兄上の良さを知ってもらたいという思いと今と昔とでは何もかもがちがうことに焦る気持ちが綯い交ぜになって、このような愚挙に出てしまいました……」
斎藤T「……そうか。それは辛いな」
陽那「――――――それですよ、それ」
斎藤T「なに?」
陽那「兄上は公明正大でした。己を厳しく律し、決して道を違えることはなく、私が道を誤った時は毅然とした態度で正してくださいました」
陽那「でも、今の兄上はこれまでの公明正大よりも私の独立自尊のために叱ってくれることがなくなりました」
陽那「私が道を誤ったばかりに兄上までも道を踏み外させてしまった罪はもう永久に償うことはできないのですね……」
斎藤T「そうか。もう自分の口からは“斎藤 展望”の良さを語ることができないから、他人の口を借りて“斎藤 展望”の名誉回復を果たそうと、接触を試みたわけなのか……」
斎藤T「それで、そんなに叱ってもらいたかったのか?」
陽那「……やっぱり、寂しいんです。ようやく止まっていた兄妹の時間が動き出したと思っていたら、時の流れは残酷にも兄妹を昔のままにしておいてくれていなかったのですから」
陽那「今の兄上はもう私にはその表情しか向けてくれないじゃないですか。これまでいっぱい掛けてくれたいろんな言葉があったじゃないですか……」
陽那「家族ならもっといろんな表情や感情を見せ合うものでしょう?」
陽那「だから、今の兄上が永い眠りから目覚めた時、私はもう二度と失いたくないと思った家族の絆を取り戻せるものだと信じていた――――――」
陽那「でも、今の兄上のことは私の方が知らないことの方が遥かに多いことに思い当たって、無性に新生徒会の皆さんに嫌がらせをしたくなったんです。方々には申し訳ないです、本当に……」
陽那「酷い話ですよね。こんなことで嫉妬するだなんて……」
斎藤T「その割には私の担当ウマ娘への当てつけはしないんだな……」
陽那「え、だって、年末年始を我が家で過ごしたぐらいにはタキオンさんは今の兄上の良いところも背負うことになった使命のことも誰よりも理解している人じゃないですか」
斎藤T「そ、そうか。それもそうか……」
陽那「そうですよ。兄上の生命を賭した影の苦労も知らずに夢の舞台で脚光を浴びるばかりの苦労知らずたちはもっと兄上の御恩に報いるべきなんです」
斎藤T「煩わしいのは嫌いだから、別に人前で讃えられるつもりはないんだがな……」
陽那「そうですよ。これは家族としての見栄であって、まだまだ大人になれない私のワガママを聞いて欲しいだけなんですから」
斎藤T「だから、昔のように公明正大に裁いて欲しかったから、生徒会室に圧力を掛けるように“女帝”と“怪物”の父兄を連れてきたと――――――?」
斎藤T「それ自体が『家族の絆を確かめるために昔のように叱られたい』という甘えなんじゃないのか?」
陽那「そうです。甘えです。甘えたいんです。それが当たり前だったから――――――」
陽那「でも、だからこそ、兄上はそんな甘えを許さない公明正大さを発揮しておられるんですよね。その矛盾に私は狂ってしまったのかもしれません」
斎藤T「――――――『陰極まりて陽生じ、陽極まりて陰生ず』だな。あるいは、単純に『過ぎたるは及ばざるがごとし』といったところか」
陽那「だから! 許してください! いえ、許さないでください! 私は今から兄上に対して罪深いことをいたしますから!」
斎藤T「はぁ!?」
陽那「逃げてください! 拒絶してください! 許さないでください! 受け入れてください!」
陽那「私を抱きしめてください!」
斎藤T「う、うわああああああああ!?」
陽那「兄上……」
もうすぐ『皐月賞』が始まる。中山競バ場に私の担当ウマ娘が観戦しに行ったのは自分とはちがった方向性で『クラシック三冠』を本気で勝ちに行く理論派のエアシャカールの研究成果を見届けるためであった。
それまで私とヒノオマシは生徒会室で楽しくお茶会をした後に学園の出し物を見て回り、エクリプス・フロントの屋上からトレセン学園を見下ろしながら、今こそ何もかもが変わってしまった兄妹の在り方について再定義することになった。
本来ならば“門外漢”である斎藤 展望にとっては最愛の妹:ヒノオマシの養育費の目処が立った時点でトレセン学園のトレーナーで居続ける理由はない。レースで担当ウマ娘を勝たせて賞金を得ることは目的ではなく手段に過ぎないのだから。
しかし、兄妹揃って並行宇宙からの侵略者の脅威を目の当たりにしてしまったことで、もはや地球の危機とは無関係でいられなくなってしまったのだ。
そのためにWUMAと唯一戦う術を持つ最愛の兄がトレセン学園の激務に縛られながらも人知れず人類の自由と平和のために人一倍傷つくことを残された唯一の肉親である妹が黙っていられるはずがなかった。
だからこそ、人知れずに人類の存続のために戦い続ける最愛の兄の良いところを別な局面から多くの人に知ってもらいたいと願った時、唯一の肉親として自分が一番に知っているはずの最愛の兄の昔と今が一致しなくなっている致命的な矛盾に気づいてしまった――――――。
そう、唯一の肉親との家族という特別な関係さえも3ヶ月の永い眠りと絶望の未来への見えざる脅威によって曖昧になってしまったのだ。
否、この業の深い兄妹がWUMA遭遇以前からそれぞれに抱いていた本当の願いは決して同じではなかった。そのことがはっきりと現実に反映されただけに過ぎない。
兄の方は世界最高峰の警察バの血統と素養を受け継ぐ妹の血統を絶やさないために自分の命さえも捧げる覚悟でいたからこそ、国立大学の受験よりも狭き門と言われているURAトレーナー資格試験に合格を果たし、学園一の嫌われ者になろうとも強引なスカウトを決行して、すぐに学外でウマ娘に撥ねられて意識不明の重体に陥った――――――。
一方、妹の方は両親の生命と引き換えに生き延びてしまった
この長年の療養生活を招いた無茶の原因は敬愛していた世界最高峰の皇宮警察の両親を最愛の娘の生命と引き換えに失ってしまったことへの罪悪感を抱えた妹に対して、唯一の肉親にして公明正大で最後に頼れる人物であるはずの兄が両親を死に追いやったことを決して責めることがなかった気遣いや優しさにあり、更に幼気な少女を使命感へと追い詰めてしまったことにあった。
そう、両親の死によって妹の親代わりになってしまった最愛の兄は妹が世界最高の警察バとしての栄誉を掴むことが 両親の願いであり 妹の人生の幸福であると考え、ヒト社会であるからこそヒトとして生まれた己の存在はウマ娘として生まれた妹よりも価値が劣ると見做し、世界最高の妹のために自身の全てを捧げるべきだと信じていたぐらいだ。
それがウマ娘のハーフとして生まれた者の責務として、そのために妹の命を救って命を落とした両親に成り代わって養育費を稼ぐために親の道を継がずに金稼ぎに奔走する最愛の兄の姿――――――。
両親を犠牲にして生き永らえてしまった妹にとっては公明正大でいつでも正しかったはずの最愛の兄の在り方を歪めてしまったように感じられ、一刻も早く親の道を継いで皇宮護衛官になって元の公明正大な兄に戻ってもらいたいという一心で無茶を重ねて故障してしまったのが真相である。
両親の死を冷静に受け止めたつもりのようでいて実際にはウマ娘レースで言えば兄妹で“掛かってしまった”末の共倒れであり、その傾向は 斎藤 展望の3ヶ月間の永い眠りによって ようやく振り解かれることになったのだ。
けれども、こうして“斎藤 展望”が永い眠りから目覚めた途端にもっとも考えなければならない養育費の問題も解決したことで妹:ヒノオマシも本来あるべき親の道を継ぐ人生に復帰できた裏で、
皇宮護衛官のお勤め以上に世界のために人知れずWUMA退治に取り組みながら『宇宙船を創って星の海を渡る』という今まで一度も聞かせてくれなかった壮大な夢に向かって邁進していく兄の様子に妹はあるべき日常の充実感以上に家族との絆が薄れていく寂しさを強く感じていたのだ。
だから、今回 他者を巻き込んで妹:ヒノオマシは兄に甘えてきたのだ。本当に望んでいたものは唯一の肉親である最愛の兄と日々の温もりであり、兄の名声やWUMA退治の武勇伝でもなく、ただただ家族の無事を願う幼気な少女の声なき声であったのだ。
両親の死に際して兄は己の全てを捧げて妹の栄達を望み、両親を犠牲にして生き延びてしまった妹はただただ唯一の肉親である兄の無事だけを願っていた――――――。
その方向性のちがいに親の道を継ぐための寄宿学校での充実した日々の中での満たされぬ想いを自覚したことでようやく気づいたヒノオマシの瞳は狂おしいまでに潤んでいた。
私は道義的責任からその想いを受け止めないことに躊躇はなかったが、“斎藤 展望”にとって唯一の肉親である妹:ヒノオマシとの距離感は常に狂わされてきた。
思えば私自身は世紀の天才として逸早く親許から離れてからは宇宙船開発に没頭し、更には冠婚葬祭の一切を取り仕切る祭司長として常に見送る立場にあり、色恋沙汰とも無縁で同衾も妻帯もいたさなかった。
そして、宇宙移民船の中での限られたコミュニティの面々こそが私にとっての絶対の家族と言えただけに、未知の惑星での血を分けた異種族の兄妹の関係性というのはまさしく未知の体験であったのだ。異常であった。
だから、巨大なHが描かれているヘリポートの中心でウマ娘に軽く押し倒されて尻餅をついた隙に私の胸元で顔を埋めて矛盾と葛藤から炙り出された感情の渦から止めどなく涙を流す妹を毅然と振り払うことができずにいた。
今までの人生経験でここまで情熱的な抱擁を交わした相手は斎藤 展望の妹:ヒノオマシ唯一人であり、それだけに信仰の道を歩んできた純潔の私にはこの蕩けるような甘美な状況にただただ流されたい欲求に駆られてしまうのを抑えるのに必死だった――――――。
――――――きっと、“斎藤 展望”ならば唯一の肉親である最愛の妹に対して理屈を抜きにして『愛している』ことを伝えることができるはずなのだ。
けれども、記憶喪失ということにして“斎藤 展望”に成り代わっている私には『愛している』という言葉をどれだけ心を込めて告げたとしても、きっと敏い妹は演技であることをたちまちのうちに感じ取ってしまうことだろう。
私には当然ながら“斎藤 展望”として成り代わる以前の当人の記憶や家族との思い出なんてないのだから、唯一の肉親である家族に向ける『愛している』の言葉がどれだけ薄っぺらなものになるかなど言うに及ばず。
何より、私には生まれながらの夢があった。しかし、それと引き換えに一人の人間として与えられたはずの家族の愛を振り払っていた。
そう、家族の愛よりも本能にも近い宇宙への憧れに突き動かされて10歳で宇宙工科大学に入学して、私は常に目まぐるしく進歩していく最新研究の場を自身の住処としてその道の第一人者たちとの交流を家族としていた。
だから、未知の居住可能惑星で人類国家を建設する宇宙移民の同胞たちを家族として接しながらも私自身は独身を貫いてきたことも相まって、“斎藤 展望”になってから得てしまった血を分けた妹とのふれあいに最適解がないことのもどかしさに息が詰まりそうになっていた。
割り切れそうで割り切れそうにない宇宙で一番に難しい対人関係の悩みに自他共に認める23世紀の宇宙時代を代表する大天才も匙を投げるしかないのか――――――。
――――――それが家族なのだと、私は“斎藤 展望”を通じて深く理解することになる。
斎藤T「………………」
陽那「兄上……」
斎藤T「私は……」
パシフィカス「あらあら、『皐月賞』観戦のためにみんながモニターの前に大集合している今だからこそ、ヘリポートの中心で兄妹で睦み合うだなんて、大胆ねぇ」
ダイナカール「まあ、警察ウマ娘じゃなくて競走ウマ娘の血筋だったら、兄妹の二人三脚で『トゥインクル・シリーズ』で活躍している年齢差だものねぇ」
斎藤T「……あ」
ダイナカール「どうも、斎藤T。少しお困りみたいねぇ」
パシフィカス「こんなところにいないで、少し話し合わない、ヒノオマシちゃんのお兄さん?」
陽那「あ、あの……、私…………、ごめんなさい………………」
パシフィカス「いいから、ヒノオマシちゃん。そういうのは」
ダイナカール「そうそう。ヒノオマシちゃんもお兄さんも立派にお勤めを果たしているのだから、そんなに卑下することなんてないから」
ウマ娘レースに関心がある者なら誰もが『皐月賞』観戦に意識が向く中、両親に先立たれたことで家族関係が完全に壊れてしまった兄妹を気遣ってエクリプス・フロントの屋上まで探しに来てくれたのは、ヒノオマシが連れてきた他ならぬ“女帝”エアグルーヴの母親:ダイナカールと“怪物”ナリタブライアンのおふくろ:パシフィカスであった。
そこからヘリポートからお越しになった方々をもてなすための
結果はエアシャカールのクビ差で競り勝ちであり、トライアル競走の『弥生賞』ほどの安定感は見られなかったことを名物講師:ダイナカールが擬音混じりの独特な解説をするのを本職の私が翻訳するわけなのだが、ヒノオマシはなぜか酒屋の女将:パシフィカスの膝の上に乗せられた状態だった。
世間的にはそれぞれが“女帝”と“怪物”の母親として知る人ぞ知る大物であり、ウマ娘として生を受けた我が子が一生に一度しかない夢の舞台を駆け上がる年頃にもなれば、すでに“本格化”を終えてウマ娘特有の闘争本能を人間としての理性で抑えられた状態でトレセン学園の学費を満足に払い切れるだけの高収入を得ている立派な社会人として家庭を持つようになっていた。
そんな競走ウマ娘のトレセン学園卒業後の成功者と言える母親2人がなぜ見ず知らずの小娘:ヒノオマシに対してここまでしてくれているのかを訊いてみると、ヒノオマシに膝枕をして優しく撫でる人たちから告げられた意外な真実;それもまたウマ娘特有の悩みと葛藤がそうさせているのだと気付かされることになった。
陽那|スヤァ・・・ ――――――パシフィカスの膝枕で転寝している。
パシフィカス「――――――『どうしてヒノオマシちゃんのことを可愛がっているか?』ってねぇ?」ナデナデ
ダイナカール「愛する我が子を6年も世間から隔絶された夢の舞台に送り出してきたことへの寂しさがあったのかもねぇ?」
パシフィカス「でも、それはトレーナーを夢の舞台に送り出してきている家族にとっても同じことのはずだから」
ダイナカール「学生だった当時は『悪いトレーナーに騙されて身も心もズタズタにされて親許に泣きながら帰ってくる』んじゃないかって、親御さんが心配しているだなんて考えもしなかったけど、」
ダイナカール「こうして名門スクールの講師として愛娘を過酷なウマ娘レースの世界に送り出す親御さんの不安や焦燥を目の当たりにしてくると、私も一人の母親として他人事じゃなくなってきたわ……」
斎藤T「……その子を思う親の焦りや不安がトレセン学園で娘が心を通わせたトレーナーを婿に取るように家族が後押しする要因にもなっているわけですか」
ダイナカール「そうよ。ウマ娘にとっては一生に一度のトレセン学園での生活の中で誰よりもその子のことを一番に考えて二人三脚でレースの栄光を掴み取るパートナーなんて、夢の舞台を卒業した後の普通の社会人生活で見つけられるわけもないわけだし、何よりも卒業した後もターフの上を駆ける夢の続きを見ることができるからね」
ダイナカール「正直に言うと、今や私以上の実績を積み重ねたエアグルーヴが未だに私のことを一番の目標にして、トレセン学園での最後の1年間を ウマ娘らしく またターフの上を駆け抜けようとしている姿は親として込み上げてくるものがあるけれど、それはそれで嫁の貰い手に困るところがあるわよねぇ?」
パシフィカス「そうそう。レースの賞金だけで額面上は中高一貫校の6年間だけでサラリーマンの生涯年収を軽く超えるわけだし、」
パシフィカス「それで卒業してからも高嶺の花として周囲の人から愛でられはするけれど、そこから一歩踏み込んできてハートを射止めてくれる相手には恵まれない同窓生を何人も見てきたから……」
パシフィカス「社会に出て思うのは、結婚っていうのは本当に夫婦の支え合いだから、自分の支えが必要ないと相手に思わせるぐらいに隙のない女ってのは結果として一人寂しい人生を送ることになるのよ。人生のパートナーがいらないなんて強がれるウマ娘なんて本当はいやしないのにね……」
ダイナカール「だから、
パシフィカス「でも、望んでいないのなら無理強いはしないけどね。うちのブライアンがトレセン学園に入学して早々に『つまらないから退学したい』なんて言ってきたのを受け容れるつもりだったけど、引き留めたのは母親の私じゃなくてハヤヒデと新人トレーナーさんだったもの」
斎藤T「じゃあ、世間一般で言えば中高生で親許を離れる家庭が少ないのが社会に出てからわかっているからこそ、才能ある愛娘が夢のために家族の許から引き離されていることに思うところがあるわけですね」
ダイナカール「というより、学生の時は自分と同等の能力や才能を持つウマ娘同士が自然と集まって互いを磨き合っていたわけだけれど、結婚して母親になってからは娘の活躍次第でママ友付き合いで一喜一憂するぐらいに心労が絶えなくなってくるものなの……」
パシフィカス「まあ、母親となった今だと娘の活躍はそのまま家族の自慢になるわけだけど、逆に娘の挫折や痛みも家族の苦しみにもなるわけだから、娘が打ち負かした相手の親御さんたちとレースの話をするのが本当に気不味くてねぇ……」
斎藤T「まあ、徒競走というはっきりと順位がつけられる公営競技ともなると、嫌でも周りの目の色が変わることになることでしょう。大金も懸かっているわけですから……」
ダイナカール「だから、ウマ娘レースでの娘の活躍を人前で言わないことがエチケットになっていて、自分の実績と娘の実績は完全に切り分けて話さないといけないから――――――」
ダイナカール「本当はね、私だってエアグルーヴのことを自慢の娘だって一番に自慢したいのを抑えているぐらいよ!」
ダイナカール「
斎藤T「――――――『黄色いカーネーション』ですか? たしか、花言葉は『軽蔑』とかじゃありませんか、それ? 黄色い花はあまりいい花言葉を持たないのでは?」
ダイナカール「ああ……、たしかに斎藤Tが言うように黄色の花ってだいたいネガティブなものなんだけどね……」
パシフィカス「そっか。ヒノオマシちゃんは警察ウマ娘の家系で皇宮警察なんだから、競走ウマ娘の間で言われていることとは関係がないのよね」
パシフィカス「あのね、斎藤T? たしかに、黄色のカーネーションは世間一般には『軽蔑』って花言葉かもしれないけれど、競走ウマ娘の間だと『嫉妬』って意味で理解されていてね」
パシフィカス「そこから母の日に贈る黄色のカーネーションは『自分を生んでくれた母親のことを一人の競走ウマ娘として強く意識している』というライバル宣言になっているのよ」
斎藤T「そうだったんですか。それはなかなかにヒトを超えた身体能力と闘争本能を持つウマ娘の代表格たる競走ウマ娘らしい花言葉の意味づけですね」
斎藤T「じゃあ、ダイナカールさんとしてはいずれエアグルーヴも母の日に黄色のカーネーションを渡されることを強く願っているわけなんですね」
ダイナカール「有り体に言えば、そう。というより、母の日に黄色のカーネーションを贈ってくれる自慢の娘がちゃんと幸せになってくれればなんだっていいんだけどね」
パシフィカス「そうねぇ。実はこの母の日に黄色のカーネーションに象徴されるように、競走ウマ娘の親子関係は本当に世間からの毀誉褒貶が激しくて、そのことを苦にして離婚してしまう旦那さんも多いみたいね」
斎藤T「……なるほど。たしかに公営競技の世界なんだから賭け事に絡めた煩悩や恨み辛みを一方的にぶつけられる理不尽に苛まれるわけですね」
パシフィカス「そうそう、“クラシック三冠バ”ナリタブライアンの母親だからって、“女帝”エアグルーヴが心から尊敬している“オークスウマ娘”のダイナカールさんと同格扱いされているのって、競走ウマ娘時代では大した実績もなかった私としては有難迷惑で物凄く複雑な気分にさせられていて……」
パシフィカス「あんまりこんなことは言いたくはないけど、母親の素質が強く影響してくるのがウマ娘というわけだから、」
パシフィカス「こうして現役時代は大した成績じゃない私が『ドリームトロフィーリーグ』に揃って昇格した最強姉妹を生んだ母親ってことになるとね、」
パシフィカス「現役時代に私の指導をした昔のトレーナーさんのことをまったく関係ない人たちが好き放題に言ったりとか、今まで見向きもしてこなかったのに急にお茶のお誘いが増えたりするものなのよ……」
斎藤T「それ、卒業してから逆の立場だったら とてつもなく惨めなことになりますよね……?」
パシフィカス「うん。そうなのよ。それだけだったらいいんだけど、それで私とは逆の立場の人から黄色のカーネーションを贈られてきた日にはねぇ……?」
パシフィカス「まあ、我が家は歴史ある酒屋ということで花輪を送る機会もあるから、黄色のカーネーションぐらいで目くじらを立てることはないのだけれどね」
ダイナカール「もちろん、母の日に黄色のカーネーションを贈るウマ娘は母親がウマ娘レースで活躍した“良血バ”であることが多いから、自分の血統を並だと考えているウマ娘なら普通に赤とか白で贈るからね」
斎藤T「この感じだと、競走ウマ娘の一生というのは母親の『
パシフィカス「え、何それ? 『ラヴィアンローズ・クラシック三冠』って? 詳しく聞かせて?」
ダイナカール「たしか、
斎藤T「つまり、『学生時代に良きトレーナーに出会えたか』『社会人になって良き伴侶と結ばれたか』『家庭人として良き娘に恵まれたか』です」
斎藤T「ほら、ウマ娘レースは1着でゴールすればいいから“もっとも速いウマ娘が勝つ”『皐月賞』でしょう?」
斎藤T「次は“もっとも運に恵まれたウマ娘が勝つ”『日本ダービー』、最後に“もっとも強いウマ娘が勝つ”『菊花賞』なわけですから、対応すると思いません? 期間もだいたいそれぐらいの比率でしょう?」
ダイナカール「うまいこと言うわねぇ! 流行らせていい?」
パシフィカス「本当ね! これは流行語大賞になるかも!」
斎藤T「ありがとうございます」
斎藤T「ところで、先程までの話から推測するに、“ラヴィアンローズ3冠バ”のダイナカールさんと“ラヴィアンローズ2冠バ”のパシフィカスさんは世代や距離適性もちがってあまり接点がないように思うのですが、どういった経緯でヒノオマシのために団結してくださっているのですか?」
ダイナカール「なるほど、そういうふうに使うのね、『ラヴィアンローズ・クラシック三冠』というのは。勉強になるわ」
パシフィカス「それねぇ、私の場合はトレセン学園のママ友付き合いは上の子のハヤヒデの良き友人でライバルの“BNW”で先にやっていたから、下の子のブライアンの世代とはあまりママ友付き合いはなかったのよ」
パシフィカス「それに、ブライアンの周りにはいつもたくさんの子が集まっているけど、それって“強敵”と書いて『友』と呼ぶような関係だから、子供を通じて親同士で仲良くなれるものでもなくてね」
斎藤T「あ、そっか。レースの勝敗で一喜一憂して傷つかないように娘が出ているウマ娘レースの話は人前でしないのがエチケットだから、レース以外で付き合っていける友人関係でもなかったら親同士からしても接点が生まれないのか……」
パシフィカス「でもね、こうやってダイナカールさんと娘のことで堂々とお話できるように縁を結んでくれたのはヒノオマシちゃんのおかげなのよ」
ダイナカール「ヒノオマシちゃんの場合は兄であるあなたがトレセン学園のトレーナーということで、講師になってトレーナーの真似事をしている今だと非常に共感がもてる立場だったから、思った以上に話が弾んでね!」
パシフィカス「それでダイナカールさんの子も私のところの子も共通の話題として斎藤Tのことを“学園一の嫌われ者”として去年の今頃に話していたわけだから、斎藤Tのことは本当に記憶に残っていてね、」
パシフィカス「あなたが3ヶ月間の意識不明の重体から目覚めた後、そういえばと思って娘の口から伝えられた嘘のような豹変ぶりと活躍ぶりは英才揃いの中央トレーナーの中でも群を抜いていたから、こうして会う日を 結構 楽しみにしていたのよ」
斎藤T「それは光栄ですね」
パシフィカス「でも、さすがにヒノオマシちゃんの養育費を稼ぐためだけに中央トレーナーになってここまで評価が一転する“門外漢”なんて初めてだから――――――」
陽那|スヤァ・・・ ――――――パシフィカスの膝枕で転寝している。
パシフィカス「実際に会ってみないことには親として安心できなかったから、ヒノオマシちゃんが『春のファン大感謝祭』に誘ってくれたのを好機と見て、あなたのことを見定めていたのよ」
ダイナカール「ヒノオマシちゃんがあなたのために私たちを利用していたのは知っていたけど、別に気にすることはないわ。こういうのを大人のお付き合いと言うのだし、そういう意味では担当トレーナーとしか大人のお付き合いを知らない娘よりずっと強かで大人だわ」
斎藤T「そうでしたか」
斎藤T「で、どうでしたか、見定めに来た結果は?」
ダイナカール「聞くまでもないじゃない。あなたが主宰となって先代生徒会長:シンボリルドルフに働きかけて このエクリプス・フロントに創部した ESPRITの出し物や宣伝活動を見てきたけど、レースでウマ娘を勝たせることが本業の一介のトレーナーには到底できないことをあれだけやり続けているんだもの」
ダイナカール「エアグルーヴが生徒会長になってからターフの上でまた走るようになったのも『URAファイナルズ』決勝トーナメント観戦プログラムで初のお披露目になった超高性能なVRシミュレーターでの『皇帝G1七番勝負』のおかげでしょう?」
ダイナカール「だったら、娘が選んだ
斎藤T「だったら、URAトレーナーライセンス資格試験の合格者数を増やすための取り組みに協力してください」
斎藤T「学校法人:トレセン学園としては定員枠を増やすのも減らすのも経営の裁量次第ですけど、国家資格試験の合否判定は一定の水準で動かしようがないのですから、」
斎藤T「もっと未来のトレーナー育成に力を入れないと、需要と供給の破綻で遠からずして『トゥインクル・シリーズ』はまた闇に閉ざされますよ」
ダイナカール「これまた、さすがね。ウマ娘レースでウマ娘を勝たせることしか知らないトレーナーとは大違いね、新人のあなたは」
斎藤T「――――――『後工程はお客様』ですよ? そうやってトレセン学園や業界が肥え太らせてきた末期症状の闇を私一人に丸投げされても困りますよ?」
ダイナカール「そうね。肝に銘じておくわ」
パシフィカス「うん。だって、ヒノオマシちゃんみたいにこんなにも可愛らしい家族がトレセン学園からの帰りを首を長くして待っているんだもの。その辛さをわかっている私たちが何もしないだなんて無責任なことはしないわ」
斎藤T「なら、私はESPRITの主宰として技術革新によって競走ウマ娘のトレーニング環境を変えていきますから、ダイナカールさんはトレセン学園に教え子を送り出す初等教育の現場の立場から働きかけてください」
ダイナカール「わかったわ」
パシフィカス「私は? 何か力になれることはないかしら?」
斎藤T「では、姉妹揃って上位リーグ『ドリームトロフィーリーグ』に昇格したわけですから、『トゥインクル・シリーズ』のその先にある『ドリームトロフィーリーグ』についての情報を集めてきてください」
斎藤T「そうすると、ほら、ダイナカールさんがトレセン学園入学前、パシフィカスさんが『トゥインクル・シリーズ』卒業後の競走ウマ娘の動向を見守ることになるじゃないですか」
ダイナカール「いいアイデアね、それ! うん、そうしよう!」
パシフィカス「なら、そういうことでよろしくね、斎藤T」
パシフィカス「でも、あまり無茶はしないでね。この子にはあなたしかいないのだから」
斎藤T「……私もその子の保護者として安心して任せられる嫁ぎ先を願うばかりですよ」
ダイナカール「記憶喪失とは言え、その物言いはあんまりじゃないかな……」
パシフィカス「でも、実の兄妹で愛し合うわけにもいかないし、親が子を残して死ぬことの罪深さを親じゃなくて子が背負うことになった結果だから……」
斎藤T「………………」
――――――本当にどうしたらいいんだろう?
その後もエクリプス・フロントの閉館時間まで深く突っ込んだ濃い内容のいろんなことをトレセン学園生徒の父兄代表であるダイナカールとパシフィカスと話し合うことができた。
その中で私はダイナカールのようにウマ娘レースで活躍したスターウマ娘を先祖に持つ血筋を“良血”と呼ぶ風習に対して、パシフィカスのように本人の実績はそうでなくても生まれてきた子供の偉業で讃えられるようになることのセクハラ同然の社会的矛盾についても問い質すことになった。
そうした中で第一次ウマ娘レースブームから始まるヒト社会におけるウマ娘の立場とその歪みについても深く知ることになった。
ダイナカールの愛娘:エアグルーヴが次に出走する東京・芝・1600mのG1レース『ヴィクトリアマイル』についても2006年に3年目:シニア級以降のかつてのティアラ路線の猛者たちによる春季のチャンピオン決定戦として新設されたわけだが、
日本における近代ウマ娘レースが戦後に再開されてから半世紀以上が経ってようやく『ヴィクトリアマイル』のようなレースが新設されたことが私の感覚からすると意味不明なものであった。
しかし、今のように自由で開放的な黄金期の在り方はそれこそがごく最近のもので、むしろ今までの常識を覆す革新的なものであったのだ。
これまではトレーナーとの基本的な契約期間“最初の3年間”の最後の1年間とある3年目:シニア級になったウマ娘は引退を考えることが普通であり、
そうでなければ3年目以降もターフの上に居座り続ける常勝不敗の存在はレースを退屈にさせるとして上位リーグ『ドリームトロフィーリーグ』への体の良い追放処分となるわけである。
そう、競走ウマ娘にとっては一生に一度の“最初の3年間”だけを活躍期間とし、その短い期間に実績を残した強豪ウマ娘は速やかに引退して“良血バ”として家庭に入って優秀な子孫を生むべきだと言う考えが根付いているわけであり、それがひいてはウマ娘の繁栄と幸福に繋がるのだと大真面目に信じられていた時代がほんの少し前のことだったのだ。
実際、優れた名バはトレセン学園卒業後には殿堂入りとなるわけだが、この殿堂入りリストに登録されたウマ娘には社会人になった直後に各方面から婚約やお見合いの申し入れが殺到することは珍しくないことである。勝利の栄光を重ねた名バは子供を生む義務があると信じられていた――――――。
だからこそ、その価値観が当然のものと受け入れられているからこそ、『トレセン学園は婚活会場』というジョークが成り立つわけであり、自分を夢の舞台で勝たせてくれる名トレーナーと結婚することもまたウマ娘たちの大きな夢となっていた。
しかし、問題なのは『トゥインクル・シリーズ』で夢を掴んでウマ娘がそうして家庭に入った後のことであった。
ウマ娘という生き物は 生来 走ることが大好きで 勝負事となったら何にでも熱くなりやすく ヒトよりも闘争心が旺盛であるが故に、自身がアスリートとして走れなくなった後に大多数と熱中してしまう勝負事があるとしたら――――――、
それは思春期の“本格化”の時期に合わせたアスリートとして自ら掴む栄光の他に、社会人になってからどんな素晴らしい伴侶と結ばれたのかという女としての自己顕示欲と、家庭に入ってからも自分の子供たちがどれだけレースで活躍するかの母親としての見栄の張り合いだ。
それはトレセン学園の中高一貫校の6年間より遥かに長い期間で一生ついて回る勝負事であり、母親の実績に対して娘の実績が伴わない場合の双方の精神的苦痛は悲惨さを通り越した醜悪なものがあった。
それだけにウマ娘をスカウトして出走権を握るトレーナーの立場が強くなりすぎたことでウマ娘とトレーナーの絆にヒビが入ったのが現在では完全に忌み嫌われている暗黒期であり、その反動から黄金期においてウマ娘の独立自尊と多様な価値観な受け容れられるようにもなってきたのだ。
なので、現在の黄金期やその前の過渡期に活躍したウマ娘の母親たちの社会経験が原動力となってウマ娘レース業界の新たな風潮や価値観を形成することになったわけなのだが、
伝統的価値観の崩壊で掴み取った更なる自由の拡大はトレセン学園の箱庭よりも遥かに広大な社会生活における新時代と旧時代の価値観の衝突や摺合せでもっとも苦労させられる世代をも生み出すことになった。
そういう意味では“皇帝”シンボリルドルフの競走ウマ娘としての活躍期間は実質的に“最初の3年間”だけだったのに対して、その後を継いだ“女帝”エアグルーヴと“怪物”ナリタブライアンが生徒会役員を続けながら“最初の3年間”以降もターフの上を走り続ける姿は旧時代の価値観を持つ人間からすれば相当にたわけた姿に見えていることだろう。
そのため、男勝りの“女帝”エアグルーヴにはトレセン学園で出会えた最大の理解者である担当トレーナー:吾妻Tとこのまま籍を入れて欲しいと願うのが母親であるダイナカールの切実な想いであり、ヒトと結ばれないと子孫を残すことができないウマ娘特有の種の保存本能が種族滅亡の危機を敏感に察知して予見しているようでもあった。
そうした思いが高じて愛娘:エアグルーヴに担当トレーナーと早いところくっつくことを何度も冗談交じりで言っていたら、それを真に受けてしまった娘が本当に在学中に担当トレーナーと
そう、斎藤 展望の最愛の妹:ヒノオマシが抱えている唯一の肉親である兄:斎藤 展望に向けられた感情の重さと事態の深刻さはそれと同じものだと人生経験豊富な成人ウマ娘:ダイナカールは語ったのだ。
ウマ娘はヒトから精子をもらわないと種の存続が果たせないからこそ種の保存本能がヒトよりも圧倒的に強く、それが高じての闘争本能である以上、なまじヒト社会における倫理観や知性に迎合してしまったばかりにヒノオマシという一人のウマ娘の種の保存本能が血を分けた兄に向けられるようになった精神的異常をきたしたのもしかたがないことでもあった。
実際、この種の保存本能の暴走によってか、『天皇賞(秋)』を死に場所にしてターフの上で心中してみせる芸当をやってのけた例を私は体感してきているだけに、ヒトよりも遥かに本能に忠実なウマ娘を追い詰めさせることはやってはいけないと改めて思った。
なので、ダイナカールにしても母親として決して自慢の娘のことを『育て方を誤った』などと言うつもりは微塵もないのだが、自分を尊敬するあまりに冗談を真に受けて相手に身体を許すような性格になってしまっていたことに負い目を持ちながらも、
二人三脚で“最初の3年間”を走り抜いてくれた担当トレーナーと結婚することが結果としては娘のためだとも思って2人の関係を歓迎してもいるため、娘の成長ぶりに対して良識ある社会人として極めて複雑な感情を抱いていたのだ。
それに対して、“万能”ビワハヤヒデと“怪物”ナリタブライアンの母親であるパシフィカスもまた娘たちの将来を憂えており、姉であるビワハヤヒデは“天上人”と讃えられるほどの担当トレーナーと両想いになりながらも不治の病で離別してしまう憂き目に遭い、妹であるナリタブライアンは“天上人”と比べると何の才気も感じられず非常に気弱そうな女性の新人トレーナーに入れ揚げていたのだ。
付け加えると、ビワハヤヒデの元担当トレーナーである鐘撞Tは九死に一生を得て愛バの下に帰り着くことができたが、ナチス残党の秘密組織に改造されてウマ娘:ピースベルTとして生きる他なくなり、
ナリタブライアンの元担当トレーナーの三ケ木Tも才能に任せて“クラシック三冠バ”にまでなった最初のウマ娘よりも圧倒的に劣る 自分の才能に見合った 今のウマ娘を選んで正式に契約を解除してしまっているのだ。
これはたしかに母親としては愛娘たちが良縁に恵まれないことに気を揉むのは無理はない状況であり、ウマ娘の種の保存本能が母親になったパシフィカスに対して『このままだと自分の血が断絶するぞ』という危険信号を送り続けることになり、
『子供たちの好きなようにさせたい』という想いと『幸せな家庭を築いてもらいたい』という想いの間で母親の意識が鬩ぎ合うことになり、自己の種の保存本能を抑えて自分が安心したいがために愛娘たちに新しい相手を見つけて欲しいという衝動に耐えながら生きているのだという。
特に、あまりにも値段が釣り上げられたスターウマ娘がかえって売れ残りになって人一倍寂しい思いをしている実例を同窓会で嫌と言うほど見てきているだけに、子を想う親心や親としての見栄からどうしても娘の婚姻を急かしてしまいたくなる衝動が生まれてきてしまうのだ。
そういう意味では親の資質もまたトレセン学園の中高一貫校のアスリート生活を導くトレーナー以上にトレセン学園卒業後のウマ娘の一生を左右する重大な要素になっているわけであり、
いろんな意味でウマ娘はヒトよりも余裕のない人生を送っているわけであり、その焦りを掻き立てる圧力がヒトよりも駆け足気味にウマ娘の進化を促してきているものだと思うと、異種族共生社会の厳しい現実がより深く見えてくる。
そう、ウマ娘にとっては闘争本能に身を任せてターフの上で走りきった後は、今度は種の保存本能によって娘の幸せを願う母親の想いと血族繁栄の支配欲が暴れ出すのを必死に抑え込む辛い現実が待っているのだ。
夢の舞台『トゥインクル・シリーズ』で勝つことがどれだけ難しいことなのかを母親の立場になって考えるようになってしまうと、親にできることは愛娘の才能と夢いっぱいの希望を信じて送り出す他なくなるのだから、せめて卒業後に良縁を見つけてやらないと気が済まなくもなる。
なので、そこまで『トゥインクル・シリーズ』出走に気を張らずに掲示板入りを果たして賞金を稼ぐだけ稼いで悠々と卒業することを明らかにしている;ある意味においては勝負の世界の結果を極めてドライに考えている母娘の方が精神衛生上健全でいられるわけなのだ。
つまり、シンボリ家の看板や冠名に何の責任感を覚えずにレースで勝つことも決まっているから気楽な学園生活を送ることを受け容れているソラシンボリと書類上は親子関係ではないからこそ愛娘と一線を引いているスカーレットリボンの母娘関係は精神面では非常に頑丈であった。
むしろ、ソラシンボリとスカーレットリボンの母娘が普通ではないため、どちらもスターウマ娘の生みの親ではあるのだが、普通のウマ娘の母娘関係の実態というのを今日初めて知ったのだ。
だからこそ、ダイナカールとパシフィカスという正反対の経歴の偉大なる母親2人を通じて、“斎藤 展望”にとってはもっとも身近な他人である最愛の妹:ヒノオマシが抱え込んでいる想いと辛さをようやく理解することができたのだ。
――――――中山競バ場からの送り迎えにて
アグネスタキオン「……ふぅン。ヒノオマシくんとそんなことがあったんだねぇ」
アグネスタキオン「残念だが、放任主義の我が家では私のことをそんな風に心配してくれている人間はいないだろうから、共感できるところがなくて申し訳ないねぇ」
マンハッタンカフェ「……私も、家族からは放任とまではいかなかったですが、“お友だち”のことで壁があったのでヒノオマシさんの気持ちを完全に理解することはできないと思います」
アグネスタキオン「要するに、『類は友を呼ぶ』とでも言うのか、きみの周りに集まる人間は それこそ“ヒトとウマ娘の統合の象徴”として生きようとしたシンボリルドルフのような 一般庶民が求める幸せよりも高い次元の幸福を追求する人間ばかりなんだろうねぇ」
斎藤T「そうだろうな。ヒノオマシは自分のために両親を死なせてしまった負い目に加えて無茶を重ねてきた結果の故障による挫折で、親の道を継いで皇宮護衛官になる夢をあきらめて家族団欒の思い出に浸ることを自身に相応しい幸福だと定めてしまっていたわけだ」
マンハッタンカフェ「それから唯一の肉親であるあなたが3ヶ月間の意識不明の重体になってしまったことも相まって、尚更 家族との結びつきを願うようになっていたわけなんですよね」
斎藤T「私からすれば まったく記憶にないことだが、妹からすればまだほんの1年前の出来事なんだ。4月のカレンダーを何気なく見ていて、私がウマ娘に撥ねられて意識不明の重体に陥った時の感覚が鮮明に蘇ってきて、何とか自分の側に家族を繋ぎ留めようと必死にもなる――――――」
アグネスタキオン「……なるほどねぇ。なら、私もヒノオマシくんと似たような思いをさせられているわけか」フフッ
マンハッタンカフェ「……タキオンさん?」
アグネスタキオン「で、きみとしてはどうするつもりなんだい? ウマ娘はヒトの男子の精子をもらって種の保存を果たさなければならないからこそ種の保存本能も並外れていることがわかった以上、種の保存本能を満足させる相手を充てがう必要があるのだろう?」
斎藤T「いっそのこと、血の繋がりのない完全な他人だったら嘘でも結婚の約束をして時間稼ぎをすることができるんだけどな……」
マンハッタンカフェ「……小さい頃に兄妹で結婚の約束をするアレですか?」
アグネスタキオン「…………へえ?」
斎藤T「だが、それは妹の養育費を稼ぐためだけにトレーナーバッジを掴み取った“斎藤 展望”のやることではない」
アグネスタキオン「……ふぅン。そうかい」フフッ
マンハッタンカフェ「……難しい話ですね。ウマ娘のヒトよりも旺盛な本能と付き合いながらヒト社会を生きていくのは」
アグネスタキオン「そうだねぇ。ダイナカールとパシフィカスという社会的にも母親としても成功していると言える成人ウマ娘の生々しい悩みを知ってしまった以上はねぇ――――――」
斎藤T「唯一の肉親として『愛している』と言ってあげられないことが“斎藤 展望”の大きな咎だ」
アグネスタキオン「あ、もうそろそろでトレセン学園だねぇ」
マンハッタンカフェ「中山競バ場からあっという間でしたね」
斎藤T「そうだな、この通りまで来れば――――――」
斎藤T「あ」
斎藤T「………………」
アグネスタキオン「……ふぅン」
マンハッタンカフェ「……どうしたんですか、斎藤T?」
斎藤T「いや……」
アグネスタキオン「……きみがあの通りを見て何を思ったか言い当ててやろうかい?」
――――――――――――いったいどうして怪人:ウマ女の目にも留まらぬ動きについていける超人である斎藤 展望がウマ娘に撥ねられたぐらいで意識不明の重体に陥ったんだろうねぇ?
本作は私たちの世界の基準で『ウマ娘』の世界の現実で起きていることを描き出すことを趣旨にしており、
今回はトレセン学園卒業後のウマ娘たちのヒトを超えた闘争本能は鳴りを潜めるかどうかに焦点が当てられている。
それをウマ娘レースの王道:クラシック三冠路線に擬えて『ラヴィアンローズ・クラシック三冠』と呼称してみたが、
果たして、ここまで読み進めてくださった読者の方々はどう感じられただろうか?
もっとも速いウマ娘が勝つ『皐月賞』→ ウマ娘レースの1着バの栄光を掴む
もっと運に恵まれたウマ娘が勝つ『日本ダービー』→ 良縁に恵まれたウマ娘が勝つ
もっとも強いウマ娘が勝つ『菊花賞』→ 優れた子孫を産んで良血と讃えられる
私が憤りと矛盾を覚えるのは競馬に準じたウマ娘レースで平然と使われる“良血バ”の概念である。
競馬における“良血馬”とは文字通りに父系・母系共に優秀な血統の馬を掛け合わせて生まれた馬のことを言うが、
この場合の『優秀な血統』が意味するところがそのまま競走馬を擬人化した競走ウマ娘の文化に持ち込まれていることが、“斎藤 展望”が作中で『
――――――そもそも『競走ウマ娘における優秀な血統』が優秀である証明とは何か? それはウマ娘レースでの実績、ただそれのみである!
つまり、ウマ娘レースの結果によってのみ“良血バ”の判定がつくのなら、大半の女性にとって欠かせない関心事にしてマウントの取り合いの焦点となる結婚相手や生まれてきた子供の優劣や評価は別個に行うのが正当であるはずだ。
けれども、実際には世のママ友付き合いでの旦那自慢や子供自慢からのトラブルは耐えないわけであり、ゲルマンの英雄:ジークフリートの死の遠因もそれなのだからたちが悪い。『
そして、私たちは『誰々の子だからこうであるべき』『誰々家のウマ娘としてこうあるべき』という周りからの圧力や一方的な期待に対して人道的な怒りを覚えながら、そのようにレッテル貼りをする民衆の愚かさを止める術を持たない。
一方、ヒトよりも遥かに勝負事に熱中しやすい競走ウマ娘は得てして現役引退した後に自分の夫や子供のことを自慢することに熱を上げることになり、ママ友トラブルが尋常ではなくなっている可能性が高いように思える。
それを踏まえて、ここで矛盾になってくるのが、『“女帝”エアグルーヴの母親にして自身も“オークスウマ娘”であるダイナカールと、“万能”ビワハヤヒデと“怪物”ナリタブライアンのおふくろでありながら本人の成績に特筆すべきものがないパシフィカスのどちらが上か?』である。
競走ウマ娘としてはダイナカールが圧倒的にパシフィカスよりも上だが、娘となると“クラシック三冠バ”ナリタブライアンの母親であるパシフィカスの方がダイナカールよりも素質があったという評価にならないだろうか?
現実にサラブレッドの血統は母親の性質を大きく引き継ぐとされているからこそ、繁殖牝馬から始まる母系の血統が生まれてくるサラブレッドの
言い方は悪いが、繁殖牝馬とはまさしく生産者の狙い通りの競走能力を持ったサラブレッドを生み出すための生産装置なのだから、まず生産者の手元にある生産装置の評価が根本的に大事であり、種牡馬の因子はその時々のニーズに応じたものに過ぎない。
そして、ウマ娘という生き物の場合だと、交配したヒトの因子の影響が大きいのなら優秀な競走能力を持った子孫を世代を重ねて作り上げていくための緻密かつ厳格な婚姻統制が起こるはずだが、
それが見受けられないということは、生まれてくるウマ娘は母親の遺伝子の大半を受け継いで父親の因子は
それが生まれながらの競走ウマ娘の適性というものであり、並大抵の努力では変えることができない能力の壁を代々に渡って背負わされてきたわけである。
となると、現役時代は大したことのない母親であっても娘の偉大さによって評価はいくらでも覆されるのではないかという、競走ウマ娘の一生に付いて回る毀誉褒貶の激しさとママ友付き合いのやりづらさが卒業後に待ち構えているはずである。
“女帝”エアグルーヴは母親の日に母親に対して黄色のカーネーションを『
黄色のカーネーションは通常な『軽蔑』などのネガティブなものであり、斎藤 展望は『こんな能力や適性の身体に生み落とした母親への恨み』に通じているように思えてならなかったわけである。
そして、現実にも“良血馬”である方が勝率が高くなるのは統計的にも明白であるが、未だに“穴馬”に出し抜かれる事象を抑えることができないのを競馬の醍醐味として大歓声と共に楽しむか文句タラタラに次の馬券を買い続ける2つの光景を私たちは同時に見ることになるわけだが、
これを人権や人格を有する同じ人間であるウマ娘に対して『“良血バ”であるからこうであるべきだ』『母親はああだったのにダメなやつ』と言い放つのははたして品性のある行いなのかと思ってしまったのだ。
その場合、まさしく“良血バ”の血統であろう“女帝”エアグルーヴよりも歴史的快挙を成し遂げた“万能”ビワハヤヒデと“怪物”ナリタブライアンの最強姉妹の評価に連動してパシフィカスの評価がダイナカールを上回るという見方も十分にあり得るわけである。
なので、ママ友付き合いでの力関係が非常にスッキリしないことになるのはこれで伝わったのではないかと思う。
同時に『“世界最高峰の警察バの血統”つまりは“良血バ”というレッテル貼りを斎藤 展望の最愛の妹:ヒノオマシに対してもしてきたのではないか』という気づきと内省があったのがこの回である。
ウマ娘:ダイナカールとウマ娘:パシフィカスは競走ウマ娘の人生としてはどちらが上と世間は評価するだろうか?
-
普通にダイナカールが上だろう、常識的に!
-
いや、パシフィカスこそ人生の成功者だ!
-
はあ、どっちも人生レースの勝利者じゃん?
-
結婚は人生の墓場、すでにどちらも敗者さ!
-
母親の評価なんて子供には関係ないだろう!
-
他人の評価なんて気にして、人生 楽しい?