ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-シークレットファイル 20XY/04/15- GAUMA SAIOH
新年度始まって日本国民にとって一番の楽しみと言えるクラシック三冠路線の第一戦『皐月賞』の翌日、その日がトレセン学園における『春のファン大感謝祭』最終日であり、体育祭と後夜祭が執り行われた。
参加自由の体育祭は『春のファン大感謝祭』期間中に新入生たちをチームに引き込んで参加登録を行い、体育祭運営委員が企画したレクリエーション競技に挑戦するわけであり、
それぞれの種目で入着することによってちょっとした景品がもらえ、更には体育祭全体で獲得した点数が上位のチームにとびっきりの特典が得られるということで、入学して早々の思い出作りに新入生たちの精が出た。
もちろん、“本格化”を迎えたウマ娘とそうでないウマ娘の実力差は歴然としているので純粋な力勝負では新入生たちがまったく歯が立たず、それでは新入生たちがおもしろくないので、
レクリエーション競技の内容は決して個人の能力に左右されない団体戦や運否天賦の勝負となっており、みんな そういう趣旨のものだと理解して怪我しない程度にチームの勝利を目指しながら、あわよくばトレーナーからのスカウトに繋がるように懸命にアピールを繰り返した。
それがいい塩梅に新入生も先輩方もトレーナーも気楽に楽しめる 適度に緩くて適度に締めている 体育祭の雰囲気を形成することになり、新入生大歓迎となるようなチーム制度も相まって、早速 多くの新入生たちが先輩方と打ち解けて涙あり笑いありのチームの勝利を喜び合う結果となった。
そして、この体育祭での活躍の中に将来のスターウマ娘の片鱗を見たトレーナーたちはスカウトの前段階として自分が見込んだウマ娘に声を掛けていくわけであり、それが体育祭の最大の成果であるかのようにトレーナーから声を掛けられたウマ娘たちは手応えを感じるのであった。
そんなわけで、新年度の始めから『皐月賞』とその振替休日となる月曜日までを期間とする『春のファン大感謝祭』も残すは後夜祭となり、昨日の一般開放日最終日の後に出し物は全て片付けられて後夜祭用の小さなセットだけのため、明日からは学生の本分たる学業に励む日々が始められるのだ。
その中で上映されるのが2週間続いた『春のファン大感謝祭』のハイライトであり、長かったようで短かった『春のファン大感謝祭』でいろんなことがあったのを時系列順に振り返ることになったのだが、
その中で一番に新入生たちの記憶に残っているのは、何を隠そう、新クラブ:ESPRITの出し物である『サンタアニタダービー』同時視聴プログラムであり、『桜花賞』のあった先週の日曜朝8時の一般開放前のエクリプス・フロントに所狭しと集まって、“永遠なる皇帝”シンボリルドルフと“異次元の逃亡者”サイレンススズカという超豪華ゲストを迎えることになったのだ。
そのため、これだけでESPRITは『春のファン大感謝祭』出し物人気投票で堂々の第1位を記録し、後夜祭の表彰式にて顧問の女代先生が秋川理事長から賞状を受け取ることになった。
ESPRITは私が創始者なのだが、トレセン学園の教職員ではないトレーナーはクラブの顧問になれないので、表向きは私が代表にはなれないのだ。
しかし、実態としてはESPRITを含めてエクリプス・フロントで働く人たちにとっての絶対者はこの“斎藤 展望”なので、ESPRIT顧問の女代先生が受け取った表彰状は実質的に私のものである。まあ、そこまでこだわるものでもないが。
そして、様々な部門での表彰が行われた後、最後に『春のファン大感謝祭』期間中のウマ娘レース:ティアラ路線の『桜花賞』とクラシック路線の『皐月賞』の優勝バであるダイワスカーレットとエアシャカールが改めて紹介されることになり、更にその担当トレーナーである甘粕Tと望月Tへの激励も行われた。
そう、『皐月賞』開催とその翌日の振替休日までを『春のファン大感謝祭』期間としているのは、2年目:クラシック級の新世代の中心にいる主役たちを後夜祭で改めて生徒たちに知らしめて一人一人がこの国民的スポーツ・エンターテイメントの夢の舞台:トレセン学園で栄光を掴み取るように発奮させるためでもあったのだ。
ただし、『春のファン大感謝祭』の最後を締め括る後夜祭だが、明日からは本格的な学校生活が始まるので壇上で長々とヒーローインタビューなんてすることはなく、トレセン学園公式チャンネルで収録したものを閲覧する案内を出すだけに止め、
そうして明日からは学生らしくまじめに勉学に励まなくちゃならないことを嘆いて『春のファン大感謝祭』期間がずっと続いて欲しいと願う生徒たちを出しながらも、それで『春のファン大感謝祭』は無事に幕を閉じるのであった。
そして、基本的に参加自由の『春のファン大感謝祭』なので、後夜祭に参加すること自体も任意なので、今までならば時間の無駄だとして期間中をずっと実験室に閉じこもって過ごしてきたアグネスタキオンにとっては目に映る全てが真新しかった――――――。
――――――百尋ノ滝の秘密基地
斎藤T「こう考えると、『春のファン大感謝祭』は入学してきた新入生と一生に一度しかない2年目:クラシック級の新世代を主役にした構成にしているわけですね」
ピースベルT「そうよ~♪ 『URAファイナルズ』がファン投票という体裁で4年目以上:スーパーシニア級の誰もが出走できる卒業レースとして確立されたから、これで『トゥインクル・シリーズ』の最初と最後のお祭り期間が完成したわけなの♪」ンフッ
斎藤T「じゃあ、来年はあの壇上で私と私の担当ウマ娘が世代の中心として表彰されるわけですね」
ピースベルT「ああ、もう勝った気でいるんだ♪ そういうのおもしろくないから、私が盛大に盛り上げちゃおっかな♪」フフッ
斎藤T「おお、怖い怖い。誰もが“皇帝”シンボリルドルフの一強になると思われた世代に“BNW”を世に送り出した“天上人”の
ピースベルT「だって、誓ったんだもん♪ “ヒトとウマ娘の統合の象徴”の一人として、最高のウマ娘と導き出した勝利の方程式の証明をこれからも続けていくんだから♪」フフン!
斎藤T「なら、自らの理想を体現する担当ウマ娘を見つけなければなりませんね。手に汗握るウマ娘レースを演出してくれる物語の主役が」
ピースベルT「それなら何人か候補は見つけていてねぇ♪ 本当に生徒会長:シンボリルドルフの許で空前絶後の繁栄を遂げたトレセン学園にはおもしろい子が何人もいて昔よりも本当に素敵な場所になっているんだから♪」ウフフ!
ピースベルT「だから、帰ってこれてよかった♪」ニッコリ
斎藤T「そうですか。それは何よりです」
ピースベルT「それだけじゃないから♪」ンフッ
ピースベルT「あなたはこんなにも素敵な場所を無粋にも荒らそうとした怖い人たちから人知れず守ってくれているんだもの♪」フフン!
ピースベルT「もう大好き♪」ニコニコ
斎藤T「まあ、少なくともあなたの仇はとれたはずです。まだまだ油断できませんが」
ピースベルT「うん♪ でも、今はそれでいいの♪」ウィンク!
斎藤T「さて、明日からトレセン学園はトレーナー組合の『待て』がなくなってスカウト解禁日というわけですよ」
斎藤T「体育祭で見せた未来のスターウマ娘の片鱗だけでどれだけのトレーナーが動き出すか楽しみですね」
ピースベルT「うんうん♪ 腕が鳴るわねぇ♪ これでも“天上人”有馬一族の御曹司なんて言われていたわけだから、その“天上人”の目利きとどれだけ張り合えるトレーナーがいるかしら♪」フフフ・・・
さて、トレセン学園『春のファン大感謝祭』最終日は体育祭と後夜祭によって締め括られ、明日から学校らしく学業が本格化していくわけであったが、それは同時にトレーナー組合からのスカウト禁止のお達しが解除されることを意味していた。
そう、新年度を迎えて夢いっぱいの新入生たちが先輩方に誘われて体育祭で入学早々に思い出作りをする裏で、同じく大学入試よりも狭き門であるURAトレーナーライセンスの国家資格試験に合格を果たした英才たちもまた配属されているのだ。
しかし、合格者が出ない年さえもあると言われる最難関の国家資格を突破してきた新人トレーナーの数は決してトレセン学園入試合格者の定員枠に届くことがないのだから、配属されたばかりの新人トレーナーは来る者は少なく去る者が多い熾烈な競争社会においてはあらゆる意味で注目の的であり、新年度早々に生徒もトレーナーも等しく中央ウマ娘レース業界の洗礼を受けることになるのが習わしとなっていた。
要は、『春のファン大感謝祭』というスカウト禁止期間が中央トレセン学園に配属されたばかりの新人トレーナーのための研修期間となるわけであり、ここで将来のライバルに成り得るだろう新人トレーナーの才能を先輩トレーナーが新人歓迎会で取り囲んで見定めようとするわけである。
トレーナーの箔付けのために八百長レースが組まれていたのが忌み嫌われている暗黒期であり、そこでは誰の担当ウマ娘が重賞レースで優勝するかのローテーションがトレーナー組合の秘密会議で決定されており、順番を待ってさえいれば誰でもG1トレーナーの名声を得ることができた腐敗しきった時代――――――。
暗黒期での重賞レース優勝の誉れを手にするトレーナーになりたければ、トレーナーとしての実力よりもトレーナー組合での
しかし、その結果がウマ娘の夢を裏切り続ける“トレーナーのトレーナーによるトレーナーのためのウマ娘レース”として人気が完全に地方競バ『ローカル・シリーズ』に逆転された暗黒期の迷走であったわけであり、
その反省として腐敗しきったトレーナー組合を解散させて徹底的なウマ娘ファーストを標榜する組織改革によって再編されたトレーナー組合とトレセン学園生徒たちの二人三脚による“ウマ娘のウマ娘によるウマ娘のためのウマ娘レース”が過渡期から繋がる黄金期の繁栄に繋がったことは記憶に新しい。
そのため、トレーナー組合の方針やそこでの人付き合いがウマ娘を第一にすべきトレーナーの在り方を腐らせる絶対的なものにはならないように自由で開放的な風通しが良い組織作りが徹底されてきたわけだが、
それだけに馴れ合いを良しとしないどころかトレーナー組合の指示に従わない身の程知らずの新人トレーナーがやってきた時の対応はまだ子供でしかない個性豊かで才能あふれる生徒たちのように大目に見るわけにもいかない。トレーナーバッジを身に着けるに足る信頼をいきなり裏切っているのだから。
そう、去年の4月に配属されて早々に“学園一の嫌われ者”に“斎藤 展望”という“門外漢”がなってしまったのは『春のファン大感謝祭』期間中のトレーナー組合のスカウト禁止令をいの一番に破っていたことが大きく関係しており、
そもそも、『春のファン大感謝祭』期間中のスカウトはまだ入学して間もなくの右も左も分からないウマ娘をトレーナーの立場を利用して有無言わさず契約に持ち込むことは一生に一度しかない『トゥインクル・シリーズ』を目指して夢の舞台にやってきたウマ娘たちの選択の自由と尊厳を侵す悪質行為として問題視されてきたが故のスカウト禁止令だったのだから、
競走ウマ娘とは縁遠い警察ウマ娘の家系の出身の“門外漢”だったからこそ、“斎藤 展望”には競走ウマ娘の憧れの夢の舞台の常識や建前は通用せず、いとも簡単にトレセン学園のタブーに触れて即刻“学園一の嫌われ者”になってしまっているのだ。
そんなわけで、“斎藤 展望”は現在でもトレーナー組合からは最初のやらかしで社会的信用を失っていることから相当に睨まれており、ネット上での評判も最悪なのになぜか被害者代表であるはずの生徒会役員からの信頼が厚いという不可解な状況ができあがっていた。黄金期を代表する若い世代のG1トレーナーたちともそうであった。
そのため、ウマ娘ファーストを標榜するトレーナー組合としては3ヶ月間の意識不明の重体から目覚めて 名門トレーナー:桐生院Tのサブトレーナーとして更生した以上に 人が変わってしまった“斎藤 展望”の真意を測りかねており、
それはまるで暗黒期のアンチテーゼとして打ち出された黄金期の精神が時代遅れであるかのように、ウマ娘ファーストを墨守するトレーナー組合の重鎮たちは“斎藤 展望”を中心にして変わり始めていこうとするトレセン学園の行末を見守ることしかできなかった。
実際、黄金期の次の時代の最初の世代となるエアシャカール世代(仮称)の代表格となる昨日の『皐月賞』を制したエアシャカールの担当トレーナー:望月Tや、先週の『桜花賞』でウオッカに『チューリップ賞』での借りを返したダイワスカーレットの担当トレーナー:甘粕Tも、“斎藤 展望”ほどではないにしろ、新時代を象徴するかのように明らかに既存のトレーナー像から逸脱した存在であったのだ。
――――――同じ頃;府中市の居酒屋にて
望月T「――――――」パカッ ――――――オルゴール懐中時計が音色を奏でる。
甘粕T「……いつ聞いてもオルゴールの音色は心に響くなぁ」
望月T「ああ、音楽を聴いていると優しい気持ちになれるだろう?」
甘粕T「それで、『昨日は『皐月賞』勝利、おめでとう』と言ったところか?」
望月T「それを言うなら、『桜花賞』でウイニングライブを自分の持ちウマで独占する夢を叶えられてよかったな、甘粕Tも」
甘粕T「そうだな。できれば『トリプルティアラ』全てを俺のウマ娘たちで独占したかったが、こればかりは距離適性の壁やウマ娘自身の希望もあるから、これ以上はバチが当たるってもんだ……」
甘粕T「――――――研究の方はどうなんだ?」
望月T「残念ながら、あまり進展はない」
望月T「けれど、
甘粕T「ああ。『
望月T「
甘粕T「それを言うなら、望月Tも
望月T「それは当然。博士論文のための研究の時間をいくらでももらえているからね。研究者にとっては限りある資源である時間をもらえることは一番の報酬だからね」
望月T「まあ、それだけに愛バとの関係の
望月T「けれども、私の心を捕らえて放さない彼女の走りは繰り返し見ても美しい――――――。だから、また何度でもやり直すことができることが嬉しいんだ」
甘粕T「飽きることなく一途に思われて幸せなやつだな、エアシャカールも」
甘粕T「まあ、
望月T「そういうきみも、ついに担当ウマ娘全員を同時にメイクデビューさせてG1レースのウイニングライブを独占したんだから、大したものじゃないか」
甘粕T「ああ、トレセン学園を舞台にしたギャルゲーの主人公として、ついにハーレムルートに突入したぜ」
望月T「その割には最初の担当ウマ娘のカレンチャンとはそれっきりだね」
甘粕T「……おいおい、トレーナーライセンス試験に何度も落ちてようやく合格した年の新入生だったんだぞ?」
甘粕T「俺のような落ちこぼれのことを今でも“お兄ちゃん”と呼んで逆スカウトしてくれたことで俺のトレーナー人生は始まったわけだから、感謝してもしきれないさ」
甘粕T「ただ、
望月T「それでいて、そのライセンス試験に一発合格できるようになったのに、あの3人の世代を繰り返しスカウトしているのは、本命があの中にいるわけだよね?」
甘粕T「……俺は ウマ娘とエッチするためにトレーナーになった ただのスケベ野郎だよ」
甘粕T「俺には幼馴染のウマ娘がいてさ、そいつは物凄い才能の持ち主で、夢の舞台:トレセン学園に入学しちゃうぐらいだったんだ」
甘粕T「で、夢の舞台:トレセン学園でもなかなかのものだったらしくて、嬉々として『選抜レース』に出走するってことを知らせてきたから、友人たちで応援に行ったんだよ」
甘粕T「――――――そこで俺は見ちゃったんだ。幼馴染の俺に見せたことがないような女の表情」
甘粕T「その表情が後の担当トレーナーに向けているのに気づいた時が俺の性の目覚めでな。幼馴染への想いを自覚した時には俺はとっくの昔に失恋していた……」
甘粕T「しかも、その幼馴染と一緒にトレセン学園に入った女友達が夢破れて地元に帰ってきたのを俺の友人が慰めていたら、ウマ娘の美少女相手に童貞を捨てて非童貞になった瞬間に調子に乗って俺との付き合いが悪くなったどころか、そいつら、デキ婚なんかしやがってさ。本当にバカなやつだったよ……」
甘粕T「そして、カレンチャンのお兄ちゃん“マンサク”なんて可愛い妹を残して親友の俺の目の前で静かに息を引き取るなんてことが立て続けに起きてさ……」
甘粕T「――――――純情だった俺の少年心はどうやったって拗じくれるさ」
甘粕T「それなのに、ウマ娘とエッチしたい欲求だけを支えにトレーナー試験に何度も挑戦して、ようやく憧れのトレセン学園のウマ娘とエッチできると舞い上がった矢先に出会ってしまったのが、カレンチャンだったわけだから……」
望月T「だから、きみは大人の渋さとカッコよさを兼ね備えたダンディズムに目覚めたわけだね?」
甘粕T「まあ、年齢が一回り近くちがう教え子が大人になった時にはトレーナーって生き物は三十路を超えたオジサンオバサンになっているわけだろう? 過労と老化で青春の美しい思い出が色褪せないようにする配慮だよ」
甘粕T「
甘粕T「俺にとってカレンチャンは文句なしにカワイイけれど“フォロワー300万人の自撮りの天使”というよりは“マンサクの妹”だから、俺は常に学生時代の“マンサクの親友”として振る舞わなくちゃいけない気分にさせられてきたんだ」
甘粕T「しかもな、俺の幼馴染に乙女の表情をさせた恋敵の担当トレーナーはとっくの昔に別のウマ娘と籍を入れていたことだし、幼馴染は無事にトレセン学園に卒業した後に顔だけの三股野郎と結婚なんかして早くもバツイチ子持ちになって実家に帰ってきていたし、」
甘粕T「それで共通の友人だったデキ婚夫婦も3人も子供を作っておいて旦那の稼ぎが少ない生活苦から別居状態なんだぜ?」
甘粕T「こんなふうにトレセン学園のウマ娘にまつわる恋愛結婚の暗黒面ばかり見せられてきたら、エッチしたい執着心だけでしかトレセン学園のトレーナーを頑張れないだろう?」
望月T「それでいて、ウマ娘とエッチしたい願いを叶えてしまったら『こんなものか』と冷めてしまうことへの恐怖を抱えているね? 確たる目的もなく 歪んだ執着と性欲だけでトレーナーになったきみは?」
甘粕T「ああ、そうだよ! 俺はウマ娘とエッチがしたい! 早く童貞を捨てたい! 生物の義務である繁殖行為を遂行したい! ただそれだけだ! ほらほら、うまぴょい! うまぴょい!」
望月T「………………」
甘粕T「でも、ダメなんだ! 俺は今まで俺のムスコを満足させるために何年も浪人して超難関の国家資格試験まで合格したっていうのに――――――!」
甘粕T「“マンサクの妹”カレンチャンがあの時の俺と同じ年齢になってトレセン学園の夢の舞台を現れた時、俺が好きだった幼馴染は担当トレーナーじゃない三股野郎と結婚してバツイチ子持ちになっていて、俺が嫉妬した担当トレーナーも幼馴染のことなんかもう過去の女として別のウマ娘と結婚して年を食っていたんだ――――――」
甘粕T「残酷なまでの時間の流れを認識させられることになって、俺は――――――」
望月T「まあ、俗な表現で言うと『脳が破壊された』浪人トレーナーで自己評価の低いきみは恋愛観や結婚観もズタズタにされたトラウマから目を逸らすことが許されない泥濘に嵌まって未だに立ち直れずにいるわけだ」
望月T「それとは打って変わって、客観的に見ても優秀そのものの自己評価の高い私はエアシャカールに『脳を焼かれた』ことから研究人生が捗っているわけだね」
望月T「しかし、こうして何度もトレセン学園に配属される前までの時間が繰り返されてきたんだから、案ずるより産むが易し、一度くらいは勇気を出して吉原辺りに童貞を捨てに行ってきたらどうなんだい? 今更、愛のある交わりなんて期待していないんだろう?」
甘粕T「それはそうなんだが……」
望月T「そうしてくれたら、今度こそエアシャカールを“クラシック三冠バ”にしてやれるんだからさ?」フフフ・・・
望月T「いいかげんにしてね、この節操なしが」パカッ ――――――オルゴール懐中時計が音色を奏でる。
望月T「なんで、カレンチャンの次がアストンマーチャンで、その次がダイワスカーレットで、そこからウオッカなんだい?」ニコー
望月T「ティアラ路線の
甘粕T「……出来のいいあんたには何度も助けてもらった恩があるし、こうして秘密を共有し合える仲だけど、担当ウマ娘がそうしたいと言うのなら愚図の俺はそうするだけだ」
――――――俺は ウマ娘とエッチするためにトレーナーになった ただのスケベ野郎だからな。
府中市は 武蔵国の国府が置かれていた 東京都の中央に位置する場所であり、古くから政治や経済と文化の中心地として栄えた要衝であるため、現代でも24時間営業の店が軒を並べる眠らない街として活気に溢れていた。
そんな眠らない街の居酒屋にはトレセン学園の大人たちもよく顔を出しており、行きつけの店で将来の夢を語り合って談笑して飲み明かすことは大人の嗜みにもなっていた。
そんな中、およそトレセン学園のトレーナーとは思えないほどの大人の知性の権化みたいなトレーナーと大人の色気を漂わせる渋いトレーナーが新年度早々の互いの健闘を称え合っていた。
何を隠そう、彼らこそが『皐月賞』優勝のエアシャカールの担当トレーナーと『桜花賞』優勝のダイワスカーレットの担当トレーナーの2人であったのだ。
更に、驚くなかれ、エアシャカールの担当トレーナー:望月Tは世界有数の遺伝子工学の権威である父親を持ち、彼自身も15歳で大学に飛び級入学してから脳科学の分野で学士号を取得しているほどの天才なのだが、
数年以上をかけて完成させる博士論文と研究資金のためにウマ娘のトレーナーになったと聞けば、まじめにウマ娘レースで担当ウマ娘を勝たせるために 日々 神経をすり減らしている一般トレーナーからすれば『ふざけるのも大概にしろ!』『遊びでやっているんじゃないんだぞ!』と言いたくなるのも無理はない。
しかし、自身の研究に打ち込むのを本業にする傍ら、学園でもトップクラスの気性難で知られている電算部部長:エアシャカールを担当ウマ娘にして『皐月賞』勝利に導いた手腕は本物であるため、誰も真似できない変人同士の強烈な個性の組み合わせの相乗効果に周囲はただただ舌を巻くしかなかった。
実際、トレーナー組合の重鎮たちも博士論文の研究と研究資金のためにトレーナーになって初めての担当ウマ娘で堂々とG1勝利を掴み取るような正真正銘の天才とは頭の出来がちがうことでまったく話が噛み合わないこともあり、脳科学者としての斬新な切り口からの質問や学会発表の容赦ないノリを嫌って敬遠されていた。
そして、『桜花賞』優勝を果たした アグネスタキオンの大のお気に入りである ダイワスカーレットの担当トレーナー:甘粕Tもまた奇天烈な脳科学者であるエアシャカールの担当トレーナー:望月Tに負けず劣らずの奇人ぶりを発揮していた。
なんと、そもそもダイワスカーレットのライバルである『チューリップ賞』優勝のウオッカも甘粕Tの担当ウマ娘であり、更には昨年の『阪神ジュベナイルフィリーズ』でウオッカの2着で今回の『桜花賞』でダイワスカーレットの3着のアストンマーチャンも担当ウマ娘だったのだ。
つまり、今年の『桜花賞』は甘粕Tのティアラ路線の持ちウマだけで上位独占を実現し、ウイニングライブを甘粕Tの色に完全に染め上げたということで、自分の担当ウマ娘同士で潰し合うことを避けるトレーナーのスカウトのセオリーが打ち崩されてしまったのだ。
その甘粕Tも初めての担当ウマ娘が3人という狂った状況でありながら、ウマ娘の自主性と三者三様の個性を最大限に尊重して全員をティアラ路線に送り出して好走を達成しており、ベテラントレーナーなら絶対にできないようなことを平然とやってのけているのだ。
また、担当ウマ娘3人を侍らせて両手に花どころか膝の上にも花を乗せている合成写真をエイプリルフールにネットに流すことで稀代の色男としても世間で認知された一方で、女遊びが好きそうで派手そうなイメージとは裏腹に普段はレディファーストの紳士でカッコよくて渋い男なのが3人もいる担当ウマ娘からの信頼の秘訣であった。
実際、URAトレーナーライセンス試験には一発合格できなかったので その分だけ新人トレーナーとしては齢を重ねているところがあるが、それでも二十代の若者にしては年不相応の落ち着いた雰囲気を醸し出しており、担当ウマ娘をレースで勝たせるために 日夜 神経をすり減らしてトレーニングやローテーションを組んで血色の悪い人間が多いトレーナーにはない色気が滲み出ていた。
そのため、自分が若くないことを自覚しているベテラントレーナーや自分に自信がない若手トレーナーたちからすれば、本来はトレーナーの能力には関係ない自身の男としての魅力のなさを炙り出されるような気分にさせられるわけであり、嫉妬と羨望が入り混じった眼差しを向けられ続けていた。
こんなトレーナーらしからぬ型破りな2人がシンボリルドルフ卒業後の新時代の最初の世代の中心であることに旧い時代の人間たちは溜め息をつくばかりである。
このように、昨年 配属されて早々に“学園一の嫌われ者”になって学外でウマ娘に撥ねられて意識不明の重体になった“門外漢”である“斎藤 展望”が皮切りになったかは定かではないが、新時代を迎えてトレーナー組合の重鎮たちの制御を受け付けない型破りなトレーナーたちが台頭し始めようとしていた。
――――――同じ頃;トレーナー寮
飯守T「和徳も明日からはウマ娘をスカウトできるようになるわけだからな。悔いのないようにな」
躑躅ヶ崎T「なら、兄さんとスカウトが被らないようにしないとね」
飯守T「いや、そこはウマ娘ファーストでウマ娘の側が担当トレーナーを選べばいいだけの話だから、気にするなって」
飯守T「でも、兄弟揃って甲子園球児がウマ娘のトレーナーになるだなんて、世の中わからないもんだよな」
躑躅ヶ崎T「まあ、俺は“グランプリウマ娘”ライスシャワーの担当トレーナーということでトレセン学園屈指の知名度と人気を誇る兄さんの足を引っ張りたくないから、母さんの旧姓を使わせてもらうけどね」
躑躅ヶ崎T「兄さんも家族だからって俺なんかのことは気にせず、みんなの憧れとしてこれからも夢の舞台で輝いていてよ」
飯守T「そんなこと言うなって。また兄弟でキャッチボールをしようぜ。今度は多摩川でさ」
飯守T「それに、ライスに夏の甲子園で始球式をしないかって誘いがあったことだしさ」
躑躅ヶ崎T「そうなんだ。さすがは兄さんだね……」
飯守T「にしても、改めて見ると母さんの旧姓の“躑躅ヶ崎”って書くのも大変だよな」
躑躅ヶ崎T「まあ、だから、縦書きと横書きの
飯守T「ああ、そんな感じなんだ。なんか悪いな、俺のためにいつも損ばかりさせてるみたいで」
躑躅ヶ崎T「いや、そんなことないって。兄さんは本当に凄いよ。俺はいつも兄さんの真似ばかりして、野球をやって、トレーナーにもなったんだ」
躑躅ヶ崎T「俺はいつも兄さんの真似ばかりでいつも上手くいかなくて、野球で肩を痛めて
飯守T「そうだぞ。お前の鉄壁の守備が我が母校を甲子園の準々決勝まで導いたんだから、お前は俺よりも才能があるんだから、そんなに卑下するなって」
飯守T「まあ、少しばかり根を詰め過ぎて無理をし過ぎるところもあるけど、身体は大事にしろよ」
躑躅ヶ崎T「ありがとう、兄さん」
躑躅ヶ崎T「ねえ、俺も兄さんのようにウマ娘を勝たせてやれるトレーナーになれるかな?」
飯守T「……それは本当にどんなウマ娘をスカウトするか、どんな夢をウマ娘と目指すのか、どんなライバルが同世代にいるかの運次第だと思う」
飯守T「正直に言って、俺は本当に周りや状況に恵まれていただけで、ライスも自分が勝つことよりも自分の走る姿を見る人たちが勇気づけられることを願って走ってきたわけなんだ」
飯守T「普通に野球で考えてみればわけるけど、甲子園優勝を目指して主力としたい選手は経験と練習を積み重ねた3年生だよな? 1年生をいきなりレギュラーにしていたら層が薄いか、逆にその1年生の潜在能力が開花するのを見守れるほどの余力があるチームだってことになるもんな?」
躑躅ヶ崎T「だから、本気で勝ちたいと思うウマ娘は経験豊富なベテラントレーナーや実績多数のG1トレーナーからのスカウトを受けたがるってことだよね」
飯守T「そうそう、俺のように配属されて1年目の新人トレーナーからのスカウトを受けるウマ娘は新人トレーナーの未熟さなんか眼中にないぐらいに自分の走りによほどの自信があるのか、とにかく『トゥインクル・シリーズ』に出たいからスカウトに飢えているウマ娘しかいないはずなんだ」
飯守T「つまり、何の実績も経験もない1年目の新人トレーナーがいきなりG1レースで勝てるかどうかは完全にスカウトできたウマ娘のトレーナー要らずの才能に任せっきりになるところが大きい」
飯守T「そういう意味で俺はライスの
躑躅ヶ崎T「そんなことないって。兄さんはエースピッチャーだった俺が肩を壊して自暴自棄になっていたのを励まして最終的に俺を守備チームの司令官にまで成長させた実績があるんだから、“無敗の三冠バ”ミホノブルボンに負け続きの担当ウマ娘を“グランプリウマ娘”にまで導けて当然だよ」
飯守T「…………そうか。そう言ってもらえると俺も和徳のことを最後まで信じてきた甲斐があったよ」
飯守T「正直に言って、俺の同期に配属されて早々に注目の的になっていた天才トレーナー:才羽Tと名門トレーナー:桐生院Tがいたわけだから、大人しく先輩チームでサブトレーナーとして下積みをしているのがお似合いだと思っていたわけだけど、」
飯守T「俺がウマ娘:ライスシャワーの担当トレーナーになろうと決心した時に手本にしたのが天才トレーナーと名門トレーナーだったってわけだから、」
飯守T「たぶん、野球と同じでベテランのノウハウはあくまでも中央でトレーナーとしてやっていくための基礎として考えて、配属早々に頭角を現した同期のライバルトレーナーの特徴や傾向を見て真似するのが手っ取り早いと俺は思う」
飯守T「――――――“学ぶ”って言葉は『真似ぶ』から来ているわけだろう?」
飯守T「ライバルトレーナーから真似できそうなところをとことん真似してみて、そこから自分にできることとできないことの見極めをしていけば、『俺は俺なんだ』って思えるようになるからさ」
飯守T「だから、和徳も『自分は他の誰でもない躑躅ヶ崎 和徳なんだ』って本当の自分と言えるものを見つけられたら、俺は嬉しいよ」
躑躅ヶ崎T「うん、ありがとう、兄さん。やっぱり、兄さんはずっと兄さんのままだね」
飯守T「ああ、それが俺だからな。俺は才羽Tや桐生院Tのようにはなれないけど、そのおかげで一人の女の子を夢の舞台で輝かせることができたと思うと、少しは自分に誇りを持つこともできたよ」
躑躅ヶ崎T「……………うん」
飯守T「でも、本当に良かったよ」
――――――2年間も音信不通になっていたのに、家族の元に顔を出したと思ったら、俺と同じトレーナーの道を進もうとしていたんだもんな。
時代の変化は時代に追いつける人間とそうでない人間を生み出し、新時代と旧時代の価値観の対立をもたらすのは世の常である。
しかしながら、元より“皇帝”シンボリルドルフが生徒会長として君臨した黄金期後半1年目のファイナルズ世代として『URAファイナルズ』【長距離部門】で揃って上位入賞したミホノブルボンの天才トレーナー:才羽T、ライスシャワーの熱血トレーナー:飯守T、ハッピーミークの名門トレーナー:桐生院Tの活躍が内外に与えた影響は大きく、
黄金期の到来によって個性と才能にあふれるウマ娘たちが数多くトレセン学園に入学してきたのに後れて、今までになかった新しい個性と才能を持ったトレーナーたちが中央に参入するようになっていたのだ。
それは“永遠なる皇帝”と讃えられても中高一貫校の6年間でシンボリルドルフが卒業していくしかなかったように世代交代を強要されていくウマ娘に対して、その道十年以上のベテラントレーナーたちがトレセン学園の古株として大きな顔をするようになっていくことへの反感が現象となって形になったかのようだ。
そう、自由で開放的な学園作りによって個性と才能にあふれるウマ娘は歓迎してある程度の素行の悪さも大目に見るようになったのに、ただでさえ毎年の合格者数が数え切れる程度の新人トレーナーたちの個性と才能を尊重せずに受け入れようとしないのはおかしいのではないかという論争がURA理事会で起こるようになってきたのだ。
ウマ娘レース人気が加熱してトレセン学園入学を目指そうとするウマ娘たちの需要が堅実に増えていっているのに、出走権を握るトレーナーの供給が追いついていない現状を憂えて、新人トレーナー保護政策の是非を巡ってウマ娘レースの伝統を守るか、ウマ娘レースの改革を断行するかで理事会は紛糾しているそうなのだ。
暗黒期ではウマ娘レースの人気低迷のために理事会が頭を悩ませ、黄金期ではウマ娘レースの人気絶頂のために理事会が頭を悩ませるのだから、どっちに転んでもこんなにもわかりきった需要と供給の問題に対する対策をいつまでも打てない辺り、URAという組織の風通しは非常に悪そうで大いに腐臭が立ち込めていそうである。
そこでの新人トレーナー保護政策の議論で慎重論や反対論を唱える面々から槍玉に挙げられるのが他ならぬ“斎藤 展望”というわけであり、トレセン学園からの要請でもあるトレーナー組合の指示に従わないような輩が幅を利かせるようになることを懸念するのは組織運営のリスク管理の面から言っても至極当然のことでもあった。
しかし、それに関しては学園の風紀や品位が乱れるのと引き換えにしてでも在学者数を増やして一人でも多くのウマ娘たちに夢の舞台に立つ機会を与えたことで到来した黄金期の繁栄に倣うべきだとして、新人トレーナー保護政策を推進する改革派は“斎藤 展望”の存在をモデルケースとして大いに参考にしていた。
なので、実に馬鹿馬鹿しい話だと私自身は思いながら、URA理事会にもついに影響を及ぼすことになった“斎藤 展望”の存在の大きさを改めて認識するのだった。
そして、マンハッタンカフェの“お友だち”である“守護天使”が告げた真実がどこまでのことを指しているのかを思案することになり、古来より皇族に仕えてきた皇宮護衛官の家系の出身である“斎藤 展望”に与えられた役割の大きさを噛み締めるのであった。
斎藤T「――――――『全部 私のため』!? それが『三女神の意志』だと!?」
――――――同じ頃;トレーナー組合
ベテラントレーナー「いよいよ、明日からスカウト解禁となりますが……」
重鎮トレーナー「誠に嘆かわしい! 黄金期を導いた偉大なるシンボリルドルフ卒業後の新時代の最初を飾るのが、あのような無頼の輩とはな……!」
重鎮トレーナー「特に甘粕Tという浪人トレーナーが気に食わん! ティアラ路線のウマ娘3人を同時にメイクデビューさせて同士討ちさせるとは!」
重鎮トレーナー「我々は誰よりもウマ娘の幸せを願っているというのに、なぜお前たちは厳しい現実を教え込まんのだ!?」
エリートトレーナー「力及ばず、申し訳ございません……」
重鎮トレーナー「しかも、その甘粕Tと同期の脳科学者の若造:望月Tにも『皐月賞』を獲らせたな!?」
重鎮トレーナー「忌々しいあの若造め! 神聖な勝負の世界をくだらない博士論文の研究対象にするために入ってきて早々にG1勝利をするとはどこまでも他人を苛立たせることに長けている!」
ベテラントレーナー「仰る通りです! ウマ娘の能力に頼り切りの新人トレーナーごときが国民的スポーツ・エンターテイメントの頂点であるG1レースを獲るなどあってはならないこと……!」
重鎮トレーナー「なら、なぜ勝たん、この大馬鹿者共が!」バンッ!
友野T「おお、怖い怖い。これが暗黒期のトレーナー組合を解散して健全化が果たされた黄金期のトレーナー組合の実態ですか。まるで成長していない」
エリートトレーナー「だ、誰だ、お前は!?」
重鎮トレーナー「……たしか、友野Tとか言ったか、小僧?」
友野T「ええ、見ての通りの新人トレーナーの小僧ですよ?」
――――――ただし、
エリートトレーナー「は!? お前、ふざけているのか!? どこからどう見てもヒトの男子だろう!?」
ベテラントレーナー「そうだぞ! 冗談を言いに来たのなら帰れ! ここは真剣にウマ娘レースの将来を憂う者たちが集まる場だ!」
友野T「これだから、夢の舞台に巣食うモグラ共は何もわかっちゃいない……」ハア・・・
友野T「いいか、よく聞け! 私は『有馬記念』で選手生命を出し切って唯一の重賞勝利を果たして、これまでの評価が一転して“良血バ”として称えられて、お前たちの価値観に従って故障の回復を待たずに引退して家庭に入った“グランプリウマ娘”だ!」
重鎮トレーナー「――――――なに、『『有馬記念』で唯一の重賞勝利』だと?」
重鎮トレーナー「……お前はもしやリードフォーミーか? たしか、“友野”は旧姓ではなかったか?」
友野T「ああ、そうだ! 私は実績を残した“良血バ”と期待されてお見合い結婚をしたわけだ!」
重鎮トレーナー「なら、なぜお前はヒトの姿をしているのだ? ウマ娘の耳や尻尾はどうしたというのだ?」
友野T「ああっ?!」メギッ! ――――――怒りのあまりに床に大きな穴が開く!
エリートトレーナー「うおおっ!?」ビクッ
ベテラントレーナー「このパワーは明らかにヒト離れしている!? ほ、本当にウマ娘……!?」ビクビク
重鎮トレーナー「お、落ち着くのだ!」アセアセ
友野T「――――――『子供を産めないスターウマ娘に価値がない』って蔑まされて生きてきたトレセン学園卒業生の結婚生活での苦しみがヒト耳ごときにわかるか!?」ゴゴゴゴゴ・・・
友野T「いつまで経っても子供が生まれないことを姑にネチネチと嫌味を言われて! 不妊治療の努力の甲斐なく! 見合い結婚したボンボンに浮気されてぇ!」
友野T「不倫しているくせに居丈高にマウントをとってきた浮気相手のヒト耳をカッとなって半殺しにした後、重賞レースの賞金と比べたら雀の涙の慰謝料をボンボンから毟り取ったところで、私には何も残らなかった!」
友野T「だから、私は耳を削ぎ、尻尾を切り、ウマ娘であることを捨てたッ!」
友野T「これがお前たちが見ようとしてこなかった『ある“グランプリウマ娘”のその後』ってやつだ!」ドン!
友野T「なのに、お前たちのような夢の舞台の芝に巣食うモグラ共は何も変わらなかった! さすがは盲人共だ!」
友野T「人を見た目で判断してはいけないとは言うくせに、ウマ娘の能力や素養を自分の目で判断して偉そうに自信満々に選別して何人ものウマ娘たちを不幸に追いやって自分たちはのうのうと左団扇かよ!」ギロッ
友野T「ねえ、お前らの奥さん、子供が産めてよかったねぇ? 一心同体となった二人の愛の結晶としてトレセン学園にやってくる日が楽しみだよねぇ? 親子で重賞レースを勝つだなんて夢を見れていいよねぇ?」フフフ・・・
友野T「でもさ、実の娘よりも才能のあるウマ娘をスカウトして勝つのがトレーナーという生き物だよねぇ?」
友野T「家庭よりも仕事を選ぶのがトレーナーなんだからさ、そうじゃないと不公正だろう?」
重鎮トレーナー「………………」
エリートトレーナー「………………」
ベテラントレーナー「………………」
友野T「お前たちは何もわかっちゃいないんだ。シンボリルドルフが目指した全てのウマ娘が幸せになる世界の理想のことなんて何もね。そんな連中がウマ娘レースの将来を憂うだなんて戯れ言を宣うなよ」
友野T「ほら、本当のことを言えよ? 万年トレーナーをやり続けている世間一般で言う勝ち組のくせに、綺羅星のごとき無名のトレーナーたちの活躍の前に己の存在価値が示せなくなってきたことに、自分が無能に成り下がっていることにそろそろ危機感を覚えて必死に言い訳しているわけだろう?」
友野T「地面の下のモグラ共は気づいてないだろうけど、時代は刻一刻と変わっていっているんだよ!」
――――――私はかつてのグランプリウマ娘から性転換したトレーナーとなって、シンボリルドルフの在り方を受け継ぐ者だ!
そして、新時代の幕開けは常に来る時代への祝福の裏にある過去の時代の清算と共に始まるものである。
黄金期の輝きで正せなかった歪みがより複雑により過激により巨大に膨らんでいき、災厄となって時代を超越して受け継がれていく。
そう、私たちの世界に完成などない。人生の始まりは世界の始まりに非ず、人生の終わりは世界の終わりに非ず。全ては受け継がれてきた世界なのだ。
黄金期の輝きの真価が問われるのはそこからなのである。黄金期が生み出した喜劇が破滅の未来を導くのか、黄金期が生み落とした悲劇が理想の未来を導いていくのか――――――。