ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第4話   アオハル杯の復活は未来へのレールの上に

 

-西暦20XY年04月16日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

ついに『春のファン大感謝祭』期間が終了し、新年度初めのトレセン学園のお祭り騒ぎも幕を下ろし、今日からは平常運転の日々となる。しっかりと学生らしく生徒たちは勉学にも励むことになるのだ。

 

それは同時に生徒たちのトレセン学園の志望動機でもある『トゥインクル・シリーズ』への出走権を握るトレーナーからのスカウトが解禁されることも意味し、個々人が勉学と並行して年に4回の『選抜レース』で己の実力を示すために思い思いの猛練習に身を投じるようにもなる。

 

そのため、ようやく2週間ものお祭り騒ぎが終わったと思いきや、今度はクラシック路線の最高潮となる『日本ダービー』と同時期に開催の『春の選抜レース』までに新入生たちも加わって、放課後のグラウンドは生徒たちが所狭しとなって駆け回る姿が見られた。

 

当然、配属になったばかりの新人トレーナーやその道のプロであるベテラントレーナーたちもスカウト解禁に伴い、新しくスカウトする未来のスターウマ娘を見定めるために本腰を入れて練習の様子を見に来るのだった。

 

もちろん、今の担当ウマ娘に掛かり切りで新しい担当ウマ娘をスカウトする必要のないトレーナーは次なる目標のレースで勝つための算段を練っているわけであり、

 

担当トレーナーを得たウマ娘は担当トレーナーの権限によってレースでの勝利のために逸早く画一的な教官の指導を抜け出して専用のトレーニングや遠征合宿で充実した鍛錬を積むことができているため、ウマ娘たちは逸早くスカウトを受けたくてしかたがなかった。

 

それはウマ娘特有の“本格化”によって適切な指導の結果が一目瞭然に反映されるからでもあり、担当トレーナーがついてしばらくすれば実力がメキメキと上がっていく事例が広く知れ渡っているだけに、教官からの指導で充実感を得られないウマ娘たちはスカウトを求めて『選抜レース』への猛練習に臨むのであった。

 

 

さて、ここでおさらいとなるが、中高一貫校であるトレセン学園のカリキュラムは、午前は一般的な中学・高校と同等の一般教養の学習となっているが、

 

学校法人の私立校だからこそ、午後からはレース座学、ウイニングライブ、スポーツ栄養学、基礎トレーニングなど、ウマ娘レースの名門校らしい独自の授業:レース・スクーリングが組まれている。

 

ここで重要になるのは、このウマ娘レースの名門校における独自の授業というものは一般的な大学進学において何ら加点になるものがないため、担当トレーナーがついた生徒はこのレース・スクーリングへの授業出席免除が認められている点にある。

 

つまり、トレセン学園の『トゥインクル・シリーズ』の出走バたちにとって学生の本分たる学業の時間は午前中だけの話であり、午後の授業:レース・スクーリングはトレーナーの個人指導では足りないものを教官の集団指導で補うものという位置づけでもあるため、ますますトレーナーのスカウトを受けて退屈な午後の授業から逸早く抜け出したいと願うウマ娘が出てくるわけなのだ。

 

更に言えば、現役を引退したウマ娘も学ぶ意味がないということで午後の授業:レース・スクーリングに出る必要がなくなるため、丸々空いた午後の時間で進学のための猛勉強をするなり、校内活動に精を出すなり、思い思いの課外活動に尽力して、残された時間の使い方は生徒の自主性に委ねられていた。

 

そう、シンボリルドルフやエアグルーヴたちスターウマ娘による精力的な生徒会活動も午後の授業を受ける必要がないからできていたことであり、ある意味においては引退後の気楽な学園生活を送る喜びが功労バたちの特権でもあった。

 

しかしながら、そうしたスカウトによる午後の授業の出席免除の特権を享受したウマ娘とそうでないウマ娘の格差はスカウトを行うトレーナーの数が追いついていないことでますます広がることになり、口には出さずとも不満は積もり積もって膨れ上がっていき、それが爆発することで需要と供給の崩壊は時間の問題であった。

 

そのため、新設レース『URAファイナルズ』がファン投票という体裁で整えた卒業レースとして恒例化したことで、新年度初めの『春のファン大感謝祭』と合わせることで、トレセン学園での青春の始めと終わりを明確化することに成功した後、

 

入学を果たしたのに夢の舞台に立つことすらできずに夢の舞台を側で見上げるばかりの名ばかりのトレセン学園の生徒たち:大多数のヒマ娘たちの現状を好転させるための次なる一手が求められていたのだ。

 

つまり、秋川理事長とシンボリルドルフが追い求めた黄金期の理想は未だ完成に至っておらず、両者の全身全霊が込められた一世一代の新設レース『URAファイナルズ』の大成功でさえも、その過程に過ぎなかったことをこれから誰もが知ることとなるのだ。

 

 


 

 

――――――トレーナー室

 

斎藤T「おお、『春のファン大感謝祭』のお祭り期間が終わった途端に、午後の授業:レース・スクーリングを出席免除になった現役ウマ娘たちが続々と担当トレーナーと一緒にトレーニング場に現れたな」

 

アグネスタキオン「まあ、実際にレースに出ているウマ娘にはまったく必要のないものだからねぇ、午後の授業なんてものはね」

 

マンハッタンカフェ「事実、高等部からの編入生が中等部の新入生たちと一緒になってレース・スクーリングを受けるぐらいには、学年で内容が決まっているものでもありませんから」

 

斎藤T「つまり、大学のようにレース・スクーリングは資格勉強の単位制講義になるわけだ。その資格勉強の末に勝ち取る資格というのがウマ娘レースでの優勝レイか」

 

アグネスタキオン「だから、内心ではレース・スクーリングはみんな馬鹿らしいわけだよ。進学で有利になるわけでもない午後の授業で 万年 真面目に聞いてテストの点が良くても、それでトレーナーからスカウトを受けて重賞勝利を果たせたら誰だって苦労はしないさ」

 

マンハッタンカフェ「でも、今のような活気は『日本ダービー』と同時期の『春の選抜レース』までです。他の時期の『選抜レース』は春のような賑わいはありません」

 

斎藤T「……そうか。『春の選抜レース』で現実を思い知った新入生たちが次々と挫折してしまうからか」

 

アグネスタキオン「自分こそが優駿たちの頂点に立てる夢物語を信じているからこそ、トレセン学園の夢の舞台に上がろうとしてきたわけだから、眼の前の現実と挫折の経験を乗り越えられない子たちは早々に学園を去ることになるだろうねぇ」

 

マンハッタンカフェ「それこそ、タキオンさんのように何年も待ち続けることができる経済的余裕や精神的余裕のある子は稀ですからね」

 

斎藤T「走ることが大好きで勝負事に熱中しやすいウマ娘の闘争本能が燃え滾る“本格化”の時期を迎えている年頃のスポーツ女子にそこまでの辛抱強さと思慮深さはなかなか見られないわけだな……」

 

 

本当は自分の担当ウマ娘ではないマンハッタンカフェが自然とトレーナー室に足を運んでコーヒーを淹れ、紅茶派の私の担当ウマ娘:アグネスタキオンと一緒の時間を過ごすことが当たり前のようになってきた今日この頃、

 

いよいよ『春のファン大感謝祭』期間が終了してトレセン学園のあるべき日常が取り戻されたと同時にスカウト解禁とトレーニング場の開放で『春のファン大感謝祭』期間に匹敵する熱量が再現されていた。

 

しかし、その熱量は決して長続きすることはなく、5月の『日本ダービー』と同時期の『春の選抜レース』で失われていくことを新入生以外の学園の多くの人間が理解しているため、無知なるが故にまだ失われていない熱量に在りし日の憧憬の念を募らせる者も少なくなかった。

 

シーズン後半から“斎藤 展望”として目覚めた私としてはトレセン学園の授業風景を呑気に観察している余裕がずっとなかったため、こうして書類上では2年目の春を迎えて ようやく『春の選抜レース』を実体験することになった。

 

『憎まれっ子、世に憚る』とは言うし、『いいやつから死んでいく』と言うのは、この夢の舞台でも同じことを考えると、大成できるかはさておき、トレセン学園を無事に卒業していけるのは 案外 新入生たちに混じって今年こそは『選抜レース』で勝ってスカウトをもぎ取ろうと前向きに頑張っている子だと思う。

 

事実、トレセン学園における“エリートウマ娘”とは中等部1年生の新入生の段階でメイクデビューを果たせるほどの突出した才能を入学当初から見せているウマ娘のことだが、ファン投票という形をとった卒業レース『URAファイナルズ』の新設が強く求められたように負け知らずの“エリートウマ娘”ほど大敗によって引退即退学で夢の舞台を去っていくのがほとんどであったのだ。

 

そのため、ウマ娘レースで勝てるかどうかは別として、ウマ娘レースを続けていけるかどうかは、まさしく精神的余裕がどれほどあるかに掛かっているため、私としては 負けを知って 己の弱さを受け容れて それでも顔を上げて前に進む選択を貫いた者こそ祝福したい。

 

なので、地方では負け知らずで天賦の才があると信じているからこそトレセン学園の門を潜ってきた新入生たちに早い段階で謙虚さと粘り強さと多様な価値観を教え込むことができたら、それがスカウト浪人生に年単位で差をつける“エリートウマ娘”の理想像であり、それが人生の先達としてのトレーナーの価値であると宇宙移民の私は思う。

 

大学進学や就職活動において何の価値もない午後の授業:レース・スクーリングの単位と言い、ウマ娘特有の“本格化”が重なる中高一貫校の6年間に人生の絶頂期をこの夢の舞台に憧れてやってきたウマ娘たちが夢破れて涙で枕を濡らすだけの無駄な時間で終わらせるのはとんだ人的損失ではないか。

 

しかし、それ以上に今の私が危惧しているのは黄金期の輝きによって順調に総生徒数を増やし続けているウマ娘たちのことなどではない。

 

否、ウマ娘ファーストに一応はトレーナーの心得として則っているわけなのだが、順調に増え続けている生徒たちのことなんかより、それ以上に公営競技を運営する上での深刻な問題に直面しているのを解決しなければ、トレセン学園の繁栄は どの道 終わるのだ。

 

そのことに対して、いかにトレセン学園やウマ娘レース業界の関係者たちが無力で無関心で無責任なのかを私は何度も何度も思い返す度に握り拳を解きながらマテ茶を飲み干すのだった。

 

 

斎藤T「さて、URA理事会としては新設レース『URAファイナルズ』が大成功し、それを毎年恒例にするところまで可決したのはいいが、『これ以上の秋川理事長の無茶振りにはもう耐えられない』という話だった――――――」

 

アグネスタキオン「ただ、それだけだとトレセン学園の大半を占める未出走バたちの救済が何も果たされていないわけだねぇ?」

 

マンハッタンカフェ「となると、URA理事会の本音とは裏腹に、秋川理事長がまた大掛かりな企画を立ち上げようとしているわけですね?」

 

斎藤T「ああ。何もしないはずがないんだ。そんな甘っちょろい考えで全てのウマ娘が幸福になる世界の理想が叶うわけもない」

 

斎藤T「だから、私の予想では『URAファイナルズ』の他にも別の腹案を最初から用意して『URAファイナルズ』の開催宣言がなされているはずなんだ」

 

アグネスタキオン「しかも、“皇帝”シンボリルドルフが卒業する年に合わせて『URAファイナルズ』を開催したわけだからねぇ」

 

アグネスタキオン「シンボリルドルフ卒業後の新時代のことを考えないで『URAファイナルズ』の成功だけで満足するような人じゃないだろう、シンボリルドルフというウマ娘は?」

 

マンハッタンカフェ「そうですね。自分が卒業した後のことはまったく知らん振りをするような方でしたら、偉大なる生徒会長として名を残すことにはならなかったはずです」

 

斎藤T「さて、私の予想が正しければ、次の動きが――――――」

 

 

ガチャ・・・

 

 

ナリタブライアン「おい、斎藤T。海外からあんた宛てにこの小包が来ているぞ」

 

マンハッタンカフェ「言った側から来ましたね」

 

アグネスタキオン「ああ。同志であるトレーナーくんに逸早く知らせない方がおかしいからねぇ」

 

斎藤T「――――――“皇帝”陛下からか?」

 

ナリタブライアン「ああ。アメリカからの小包が生徒会とあんた宛に届いてな」

 

斎藤T「そうか」スチャ

 

ナリタブライアン「何をやっているんだ?」

 

斎藤T「いや、毒物や爆発物、あるいは麻薬が入っていないかを検査しているんだ」

 

斎藤T「それは臭いで探知できる。こいつはその代表的なのを詰め込んだ簡易的な臭気センサーだ」

 

斎藤T「本当にシンボリルドルフが贈ったものなのか、あるいは途中で危険物が封入された可能性がないかを確認している」

 

アグネスタキオン「空港の税関で検疫探知犬や麻薬探知犬がやっていることだね」

 

マンハッタンカフェ「それだけじゃなく、何か呪文のようなものも唱えてませんか?」

 

斎藤T「――――――問題はなさそうだな。危険はないはずだ」

 

ナリタブライアン「そういうものを普通に用意しているあんたの方が恐ろしいよ」

 

斎藤T「さて、中身は――――――」パサッ

 

ナリタブライアン「これは?」

 

斎藤T「わざわざ携帯情報端末(PDA)を送りつけるということは、“皇帝”陛下は私との直通電話回線(ホットライン)をお望みのようだ」スチャ

 

斎藤T「どうやら、これを使えば 海外留学中のシンボリルドルフと 直接 国際電話ができるようだな」

 

ナリタブライアン「………………?」

 

ナリタブライアン「いや、アプリでビデオ通話だってできるじゃないか、今の時代」

 

斎藤T「独自の通信プロトコルが使われているみたいだ。盗聴されたくないことを話したい時に使って欲しいということだな」

 

斎藤T「うん。一般的なインターネット回線に接続できないようになっているし、試しに自分のPDAに電話を掛けることもできないな」

 

ナリタブライアン「………………」

 

斎藤T「そして、それだけじゃないな」

 

斎藤T「わざわざ目立つようにプロテクトを掛けたデータフォルダを容れているということは『見てはいけないものを見ろ』ということか」

 

斎藤T「――――――一緒に見ます?」

 

ナリタブライアン「なに?」

 

斎藤T「あなたはもうトレセン学園の生徒でありながら、トレセン学園の本義である『トゥインクル・シリーズ』の登録競走ウマ娘ではないのだから、トレセン学園の事に関しては基本的には部外者の扱いになりますからね」

 

ナリタブライアン「………………」

 

斎藤T「どうします?」

 

ナリタブライアン「……見る必要がないものは私に見せるな。いいな?」

 

斎藤T「はい。わかりました。そのように」

 

アグネスタキオン「トレーナーくん、私たちもいいだろう? なあ、カフェ?」

 

マンハッタンカフェ「はい」

 

斎藤T「じゃあ、最初のプロテクトの解除が終わりました、っと」

 

ナリタブライアン「――――――早い!」

 

斎藤T「何だ、これ?」

 

斎藤T「文書ファイルがかなり古めかしい。いや、実際にスキャンした記事や資料の日付や保存状態からしてかなり昔だな」

 

斎藤T「これは何の記事だ? 何の内部資料なんだ?」

 

斎藤T「あ」

 

ナリタブライアン「わかったのか?」

 

斎藤T「ああ。とりあえず、この内容は見せても大丈夫だと思う」

 

アグネスタキオン「なら、トレーナーくん。ほら、画面を同期させて大画面で見せておくれよ」

 

マンハッタンカフェ「いったい何が入っていたのでしょうか?」

 

斎藤T「よし、接続完了。画面出力開始。さてさて、これはいったい何だ?」カチッ

 

 

――――――学園企画:チーム対抗戦レース『アオハル杯』。

 

 

トレセン学園を卒業して海外留学した“皇帝”シンボリルドルフから突如として送り届けられた携帯情報端末に入れられていた極秘資料にある『アオハル杯』の概要は以下の通り――――――。

 

かつて『トゥインクル・シリーズ』と並行して学園企画のURA非公式戦レースの1つとして行われていたチーム対抗戦レースが存在していた。それが『アオハル杯』である。

 

トレセン学園の暗黒期と呼ばれていた十年近く前の時期に開催されていたのを最後に現在では開催されていないが、過去に何度も復活と廃止を繰り返してきた歴史があり、

 

現在では恒例となっている学園企画のURA非公式戦レース『種目別競技大会』が自由で開放的な黄金期の校風に合わせて『アオハル杯』のシステムを 一部 引き継いでいるものと評されている。

 

そして、URA非公式戦の『アオハル杯』から『種目別競技大会』に受け継がれたバ場や距離を自由に選んで出走できる部門別レースの対戦システムをURA公式戦に昇華したのが『URAファイナルズ』ということらしい。

 

このため、シニア級:3年目まで走り抜いたウマ娘たちの卒業レースというのが主目的の『URAファイナルズ』に備えて――――――、

 

あるいは、それまで『選抜レース』以外で実力をアピールする機会や実戦形式でターフの上で走る機会に恵まれない未出走バの子たちにもチャンスを与えるために『アオハル杯』復活の準備を秋川理事長とシンボリルドルフは『URAファイナルズ』開催と同時並行で進めていたことが記録されていた。

 

 

つまり、『URAファイナルズ』開催が秋川理事長とシンボリルドルフの黄金期の理想の終着点ではなく、そこから先の『アオハル杯』復活が秋川理事長とシンボリルドルフの理想を受け継ぐ者たちの課題と言うことになるようだ。

 

 

付け加えて、『アオハル杯』は学園企画のURA非公式戦レースなので、公式戦である『トゥインクル・シリーズ』の成績には反映されず、いつまで経ってもデビューできないウマ娘たちの救済を目指していることが極秘資料には明記されている。

 

そう、昨年度の冬季に開催されて大成功を収めた『URAファイナルズ』によって、トレセン学園の競走ウマ娘として『トゥインクル・シリーズ』の最初の3年間をしっかり走り通す意義と卒業レースの場を与えることに成功し、

 

今度はメイクデビューできずに無為に学園生活を送ってしまう競走ウマ娘たちがレースで注目されるための非公式戦『アオハル杯』を復活させて、

 

同じ部門別レースの『URAファイナルズ』とセットで『アオハル杯』を恒例化させることが秋川理事長とシンボリルドルフの最終目標だったのだ。

 

なので、元からトレセン学園の狭き門を潜り抜けてトレーナーのスカウトを受けて夢の舞台に立って優駿たちの頂点に立てるだけの運と実力を持つ選ばれし者なら、『アオハル杯』『URAファイナルズ』にこだわる必要はまったくない。

 

でも、そうじゃなくて これまでまったく見向きもされずに報われなかった大勢のウマ娘たちのために黄金期を導いた為政者としてどうすべきかを考えた時、

 

同じトレセン学園の仲間たちの弱者救済のために『URAファイナルズ』新設と『アオハル杯』復活を黄金期最大の遺産として次代に託すことを究極の目標にしていたというわけなのだ。

 

よって、秋川理事長とシンボリルドルフが象徴となって繁栄に導いたトレセン学園の黄金期の次に来る時代は元から弱者救済システムである『URAファイナルズ』と『アオハル杯』によって更なる繁栄に繋がるレールが敷かれていたわけであり、

 

新生徒会長:エアグルーヴら新時代の生徒会はどちらかと言うと学園企画の『アオハル杯』の運営と監視に力を入れることで弱者救済の達成をして、更なる繁栄を導くことを義務付けられていたようである。

 

ただし、元々は学園企画の1つとして ある年の生徒会への提案がきっかけで開催されていたものが『アオハル杯』であり、

 

最低限の大人の同伴と監督が必要であったが、URA非公式戦であることから基本的には生徒の自主性にまかせて生徒会の予算内で運営されていたものであるため、

 

総生徒数2000名以上にもなった黄金期を経た現在のトレセン学園では監督者や指導者の不足による健全な運営や監視が難しいものがあることが考察された。

 

 

そのため、元々の『アオハル杯』では不文律となっていた参加資格の制限を盛り込んで、できるかぎり本来の目的である弱者救済と機会の公平さが達成できるように調整が加えられることになった。

 

 

その第一として、あくまでも競走ウマ娘たちは国民的スポーツ・エンターテイメント『トゥインクル・シリーズ』の主役になるためにトレセン学園に入学しているのだから、

 

非公式戦の『アオハル杯』にスターウマ娘が出しゃばるのは大人気ないとして、『URAファイナルズ』の参加資格を持つ最初の3年間を走り終えた4年目以降:スーパーシニア級の競走ウマ娘は出走不可になることが明文化されることになった。

 

要は、URA非公式戦『アオハル杯』とURA公式戦『URAファイナルズ』の参加資格は同時に持つことができないという特殊な出走条件が設けられることになった。

 

というのも、中高一貫校の6年間の半分以上を走ることができたウマ娘はそれだけで引退にならなかった運と実力を兼ね備えた圧倒的強者なので、弱者救済を目的にした『アオハル杯』に出走させる意味がないのだ。

 

ただし、レースに出走できないのであって、コーチになってチームの指導を行う分には生徒の自主性を重んじる方針に合致するし、

 

ただでさえ慢性的なトレーナー不足に悩まされているトレセン学園の現状では大変ありがたいことなので、コーチとして貢献した場合には内申点に加算されることが記されている。

 

要するに、『アオハル杯』に参加できるのは『URAファイナルズ』の参加資格を持たないトレセン学園の全生徒というわけなので、

 

中等部1年生の時にデビューできたエリートウマ娘を例に考えると、シニア級:3年目となる中等部3年生までが『アオハル杯』で出走できることになり、

 

単純に考えれば学園企画のURA非公式戦のチーム対抗戦レース『アオハル杯』は中等部のウマ娘たちが主体となることが予想できる。

 

もちろん、トレセン学園は中高一貫校でかつデビュー時期は選べることから、『アオハル杯』に出るウマ娘の全てが中等部になるわけではなく、『URAファイナルズ』の参加資格をまだ持っていない高等部のウマ娘の出走はルール上は問題なく可能である。

 

ただし、高等部の場合だと留年でもしない限りは高等部1年生の段階でデビューしないと『URAファイナルズ』の参加資格すら得られずに卒業することになるので、やはり中等部でデビューを目指すのが普通ということになる。

 

なので、“皇帝”シンボリルドルフ卒業後の新たな時代のトレセン学園の生徒たちにはこれからは入学後には3つの選択肢が与えられることになったのだ。

 

 

最初の1つ目はURA非公式戦となるチーム対抗戦レース『アオハル杯』であり、未デビューであってもチームに参加できれば実際のレース場で走る機会を得られ、そこでの自主的な生徒同士のふれあいの中で才能を発掘するというものである。

 

次に2つ目はトレセン学園の本義である国民的スポーツ・エンターテイメント『トゥインクル・シリーズ』で夢を掴むという王道路線であり、一方で その栄光の影で零れ落ちていった夢のカケラを救済していくために『URAファイナルズ』新設と『アオハル杯』復活が求められた。

 

最後に3つ目は引退即退学という中高一貫校の教育現場としては大変よろしくない現状を変えるために、シニア級:3年目を走り終えた競走ウマ娘なら実質的に誰でも参加できる卒業レース『URAファイナルズ』で最後を飾るためにみっともなくともみんなの応援を背に受けて走り続ける道である。

 

 

以上の3つの選択肢がこれからのトレセン学園には用意されることになるのだから、昔と比べてどれだけ恵まれていることだろうか。これこそが黄金期最大の遺産である。

 

更に、この『アオハル杯』復活はURA非公式戦でありながら学園が大々的に開催することで、まだスカウトをしたことのない新人トレーナーや自信喪失した負け犬トレーナー、はたまた次の担当ウマ娘を探している様子見トレーナーが気軽に参加できるように腐心しており、

 

『アオハル杯』でのトレーナーの頑張りは雇用主であるURAからの評価の対象にはならないが、配属先であるトレセン学園からの勤務評価の対象にはなるので、トレセン学園にとって希少資源であるトレーナーたちの成長と憩いの場になるように配慮がなされていたのだ。

 

これなら実戦形式で新人トレーナーもたくさんの適性や個性を持つウマ娘に触れる機会が多く得られるわけなので、公営競技という非情な勝負の世界において働きやすい職場環境づくりに真剣に取り組んでいることが如実に伝わって素直に感心することができた。

 

ここまで完璧な道筋を立ててくれていたのだから、改めて“皇帝”シンボリルドルフの偉大さというものを実感することになり、“怪物”ナリタブライアンは感無量といった様子であった。

 

しかし、そうなると生徒会や学園側に求められるものが『アオハル杯』では多すぎることが気になり始めた。

 

というより、なぜ『アオハル杯』が廃止と復活を繰り返すことになったのかを考えれば、そうなるのも当たり前に思えるほどに運営上での問題が山積みになっていたのだ。

 

 

 

――――――エクリプス・フロント/会議室

 

斎藤T「これ、開催時期が毎年の6月と12月なんですけど、なんか微妙じゃありません?」

 

フジキセキ「う~ん、確かに。6月から新バ戦(メイクデビュー)が始まるから、その時はスカウトされなかった子たちが主体になって『アオハル杯』をやっているわけだよね……?」

 

アグネスタキオン「6月と言ったら『安田記念』と『宝塚記念』だから、『トゥインクル・シリーズ』で活躍している競走ウマ娘が非公式戦の『アオハル杯』に参加することなんてありえないだろうね」

 

斎藤T「そうだよ。“春秋グランプリ”の『宝塚記念』があるんだから、どうあってもクラシック級以上の競走ウマ娘が参加できるわけがないよ、これ」

 

ナリタブライアン「それなら、12月の年末と言ったら同じ“春秋グランプリ”の『有馬記念』だろう? この予定表を見ると仕事納めの年末でやることになっているしな……」

 

斎藤T「しかも、3年に一度の12月が『アオハル杯』本戦というわけだから、計5回の予選をこなさくちゃいけないのか? 中高一貫校の6年間の半分も使うだなんて随分と気が長いことで」

 

岡田T「あ、クラシック級からでも出走できる“春秋グランプリ”がある時に開催するから現役出走バが非公式戦に参加しづらくなって弱者救済の意味づけを濃くすることができているんじゃありませんか?」

 

ナリタブライアン「そうか、そういう見方もあるか。できるだけ『トゥインクル・シリーズ』に集中できるようにあえて『アオハル杯』は“春秋グランプリ”の時期に設定されているのか」

 

斎藤T「じゃあ、6月と12月での開催は目論見通りのことと見做して問題ないのか」

 

アグネスタキオン「――――――万年『アオハル杯』なんて学園企画の非公式戦の主力選手だなんて不名誉なだけじゃないかい?」

 

フジキセキ「まあ、あくまでもトレセン学園の生徒としては『トゥインクル・シリーズ』で頑張ることが一番なんだけど、『トゥインクル・シリーズ』にそもそも参戦できない子たちのための『アオハル杯』だからねぇ……」

 

ナリタブライアンT「それでも、実戦形式でターフの上で競い合える喜びはあるのか……」

 

トウカイテイオー「でも、総生徒数2000名以上もいるトレセン学園だから、出走メンバーに選出されるかどうかも怪しいよね?」

 

岡田T「そうだな、テイオー。これは言うなれば『選抜レース』の雪辱戦でもあるわけだから、『アオハル杯』での活躍で正式なスカウトを狙う子だって出てくるはずだな。そのために――――――」

 

フジキセキ「そこは心配ないよ。目的はあくまでも弱者救済;具体的には『トゥインクル・シリーズ』で夢を掴むための機会を増やすことであって、」

 

フジキセキ「本当に夢を追いかける気持ちが誰にも負けていないのなら、『アオハル杯』での下積みにだって耐えられると思うよ」

 

ナリタブライアン「そうだな。これだけチャンスを与えられて折れるようなら、そこまでの話だ」

 

ナリタブライアン「先代が『アオハル杯』で与えようとしているのは直接の栄誉ではなく、公平な機会なのだからな。それは今も変わらないトレセン学園の基本的な在り方だろう?」

 

トウカイテイオー「じゃあ、開催時期に関してはこのままで問題ないってことでいいかな?」

 

一同「異議なし」

 

マンハッタンカフェ「みなさん、コーヒーをどうぞ」コトッ

 

岡田T「お、ありがとう!」

 

フジキセキ「ありがとう、カフェ」

 

マンハッタンカフェ「はい、タキオンさんはこれです」ボン!

 

アグネスタキオン「……お湯を入れた湯沸かしポットと紙コップをどうも」

 

アグネスタキオン「ほら、トレーナーくん! 紅茶を淹れておくれ!」

 

斎藤T「よし、春摘み(ファーストフラッシュ)のダージリンティーだぞ」

 

ナリタブライアン「あ、おい。コーヒーや紅茶なんかじゃなくて、もっと飲みやすいものを――――――」ムゥ・・・

 

斎藤T「なら、棒ラーメンだ。ここにある分は 全部 食べていい」

 

ナリタブライアン「いいぞ! あんたが用意してくれたものなんだ! ありがたくいただくとしよう!」パァ!

 

フジキセキ「すっかり胃袋を掴まれているね、ブライアン」クスッ

 

 

斎藤T「じゃあ、次にチームランキングと対戦形式の確認です」

 

岡田T「テイオー」

 

トウカイテイオー「はーい!」

 

トウカイテイオー「まず、現在 トレセン学園で恒例になっている年2回の『種目別競技大会』が自由で開放的な黄金期の校風に合わせて『アオハル杯』のシステムを 一部 引き継いでいるものと説明されているように、」

 

トウカイテイオー「『アオハル杯』は『URAファイナルズ』と同じように【短距離】【マイル】【中距離】【長距離】【ダート】の5部門でそれぞれ競い合い、それでチームが3勝すれば勝利となるチーム対抗戦です」

 

アグネスタキオン「これ、3年に一度の『アオハル杯』本戦だけは全国各地の競バ場を使えるようになっているんだよね?」

 

斎藤T「そうみたい。まあ、半年ごとに全国各地の競バ場を学園企画の非公式戦に使わせてもらおうだなんて、トレセン学園からすれば『URAファイナルズ』を毎年3回もやらされるようなものだから、全国各地の競バ番組が色んな意味でメチャクチャになる……」

 

アグネスタキオン「ふぅン、『アオハル杯』から『種目別競技大会』『URAファイナルズ』が成立したことを考えれば、学内のグラウンドで予選が行われることは妥当なところか。応援のためにバ場を移動するのが面倒だけど」

 

フジキセキ「もしかすると、全国各地の競バ場を非公式戦でも使わせてもらう根回しと実績作りのために3年に一度の『アオハル杯』本戦にしているのかもね」

 

岡田T「そうか。あくまでも『アオハル杯』は生徒の自主性で運営されるものだから、まずは3年で生徒たちの間に『アオハル杯』の制度と文化を根付かせようという考えだ、これは」

 

ナリタブライアン「何事も急にはできないわけだな」

 

アグネスタキオン「考えてみれば、全国各地の競バ場を興行収入のない学園企画のために貸し切りにするだなんて、どこから予算が出るのかと言えば『URAファイナルズ』からなんだろうね」

 

トウカイテイオー「じゃあ、今から3年後に『アオハル杯』本戦が全国各地の競バ場で開催できることがカイチョー…ルドルフさんの最終的なゴールだったってことになるの?」

 

マンハッタンカフェ「なるほど。更に3年の月日を積み重ねていくわけですね」

 

トウカイテイオー「え~!? それじゃあ、ボク、とっくに卒業してるから『アオハル杯』本戦を見届けられないよ~! ボクは“皇帝”の後を継いだ“帝王”なのに~!?」

 

岡田T「見つけるしかないよな、テイオー自身が後を継いでもらいたいと心から願える名バを」

 

斎藤T「だから、“皇帝”陛下は“女帝”と“帝王”に続く新たなトレセン学園の象徴が見つからないことを嘆いておいでだったのだ」

 

斎藤T「“皇帝”陛下も自身に比肩する英雄が現れることには期待していないから、“女帝”と“怪物”の2人で“共同皇帝”を目指す現在の在り方を肯定しておられる」

 

フジキセキ「そう考えると、たったひとりの“皇帝”による支配よりも『アオハル杯』でチームで力を合わせることにならって生徒会もワンチームで“共同皇帝”になる在り方こそが次の時代に相応しいと考えているんだろうね」

 

ナリタブライアン「…………ああ。“怪物”はただ“怪物”でしかないし、“女帝”は“女帝”でしかないからな」

 

 

――――――誰も“二代目(皇帝)”とは呼んでくれないからな。

 

 

ナリタブライアン「つまり、『アオハル杯』に参加するチームは全ての部門に1人ずつ出走バを用意しないといけないから、最低でも5人はいないとチームとして成り立たないわけだな」

 

アグネスタキオン「ちがうね。全体として過半数以上の勝利を収めればいいから、3人いればチームは成立するよ」

 

ナリタブライアン「なるほどな。それなら、最初から【ダート】を捨てた4人チームで挑むのもありというわけだな」

 

斎藤T「いや、それだと弱者救済として多くのウマ娘に機会を公平に与えることにならないから、必ず対戦する時は全ての部門に出走バを出すことが規定されているから最低5人だ」

 

斎藤T「けど、最初から得意な部門に注力して そこだけは絶対に勝てるようにするのも戦略だから、必ず勝てる3人を用意するという意味では間違ってはいない」

 

アグネスタキオン「うんうん、同じことだね、それは」

 

トウカイテイオー「それなんですけど、一度に出走できるのは同じチームから3人で、それが6チームのフルゲート:18人になるようにレースを組んでもいいってあるんですよ、これが」

 

岡田T「なに!? それはつまり、最大3人まで出せるチームが絶対的に有利じゃないか!?」

 

トウカイテイオー「そうすると、チームの最低人数は15人になるよね」

 

岡田T「――――――15人か。30人学級の半分だけれど、そこまで人数が膨らんだらマンツーマンは難しいな」

 

斎藤T「うん。ここまで来ると教官たちによる集団指導と大差がなくなってくるから、後はチーム全体の傾向で勝敗がもろに反映されるようになると思うな」

 

フジキセキ「それだけ多くの人数が必要だってわかれば、非公式戦であっても出走するチャンスが増えるから、その経験を活かせるかが大事だと私は思うな」

 

岡田T「それもそうだな。その実戦形式での経験が教官の指導との大きな差だもんな」

 

アグネスタキオン「いや、チームの人数は30人が上限になっているから、最終的には30人学級と同じになるだろうね。むしろ、無制限じゃなくてよかったね」

 

斎藤T「ただ、そうなるとチームランキングが固定化して将来的に停滞する恐れがあるから、あくまでも『アオハル杯』は『トゥインクル・シリーズ』デビューの橋渡しとしての役割を徹底させないといけないわけでして」

 

ナリタブライアン「そうか? トレセン学園のウマ娘は自分がターフの上で走りたいからこそ走るのであって、非公式戦の『アオハル杯』のチームランキングのためなんかに走るやつなんて誰もいないと思うけどな?」

 

斎藤T「あ」

 

フジキセキ「そうだね。スカウトに恵まれなくても自分の能力に自信があるのなら、むしろ弱小チームでこそ突出した活躍を見せて『選抜レース』の雪辱を果たそうとするはずだよ」

 

斎藤T「そっか。ウマ娘の闘争心の強さを忘れていたな……」

 

ナリタブライアン「それより、なんで1チームから3人なんだ? 『URAファイナルズ』と同じようにするなら18人になるように1チームから何人でも出せるようにすればいいじゃないか?」

 

フジキセキ「たぶん、数に任せた悪質な戦法がとれないようにしているんじゃないかな? 生徒の自主性には任せてはいるけれど、9人も味方がいたら掲示板入りできない4人を使って妨害し放題だよね?」

 

斎藤T「それどころか、1位になることだけがウマ娘レースにおける勝利を意味するのだから、本命以外は全て捨て駒にすることができるから、戦術面としては3人がちょうど塩梅なんだろう」

 

マンハッタンカフェ「非公式戦だから反則をやったところで前科が戦績に残るわけでもないですからね。評判を気にしないなら、反則した者勝ちです」

 

トウカイテイオー「……ボクは嫌だな、そんなチーム対抗戦」

 

 

トウカイテイオー「じゃあ、対戦形式の確認は問題ないですね」

 

岡田T「あ、待った、テイオー。チームランキングについていろいろと考えなくちゃならないものがあるぞ、これ」

 

岡田T「このチームランキング、勝てば順位が上がるのはわかるけど、負けても順位の変動がしづらいというのはどういう仕組なんだ?」

 

斎藤T「ああ、それですか。ソースを見たところ、順位の差が大きいほど順位が変動しやすく、たとえば引き分けになった時も順位が低い方の順位が上がるロジックが組まれているみたいですよ」

 

斎藤T「つまり、挑戦する姿勢が高く評価されるみたいで、格上のチームとも積極的に競い合うことができるようになっているのかもしれません」

 

アグネスタキオン「なるほど。近い順位のチームとしかマッチングしないようになってはいるが、非公式戦だからこそ格上のチームに挑戦することに最大限の利点をもたせる工夫が凝らされているわけだね」

 

ナリタブライアン「それは私としては嬉しい仕様だな。マッチングできる中で一番強いやつと戦えるわけだからな」

 

フジキセキ「うん。私としても非公式戦でたくさんのライバルたちと競い合うことができるのは素晴らしいことだと思うよ。一緒に走ることができて光栄に思うこともあるし、そこでしかわかちあえない感動があるからね」

 

斎藤T「やっぱりウマ娘は走ることが大好きだし、競い合うことも大好きなんだな……」

 

トウカイテイオー「じゃあ、この件に関しては問題はなかったということで、今度こそ確認は終わりでいいですね?」

 

一同「異議なし」

 

 

トウカイテイオー「じゃあ、今日の会議は次の内容で最後になります」

 

マンハッタンカフェ「これが一番の問題点だと思いますね、このトレーニングレベルって制度」

 

フジキセキ「う~ん。『アオハル杯』での実質的な報酬はまさにこれだと私は思うな」

 

トウカイテイオー「うん。トレーニング器具にも限りがあるし、基本的に『トゥインクル・シリーズ』に出走している競走ウマ娘に優先的に貸し出されるから、スカウトを受けていない子じゃ触ることも許されないものがあるよね」

 

岡田T「そりゃあ、トレーニング器具を壊した時に責任を受け持つ大人がいないんじゃマズいしな。水泳のトレーニングで生徒が溺れた時なんて生きた心地がしないぞ」

 

アグネスタキオン「実質的に『アオハル杯』は限られたトレーニング器具をチーム総合力という指標で奪い合うものになるわけだね」

 

ナリタブライアン「そう言われると、夢もへったくれもないな」

 

岡田T「けど、それが事実だ。世界最先端のスポーツ科学に基づいたトレーニング器具を使うことができれば、それだけ効率のいいトレーニングができるわけだから」

 

アグネスタキオン「そのチーム総合力というのは、チームそれぞれの5部門ごとの2ヶ月ごとの3人同時並走のベストレコードで判定されるということで間違いないかね?」

 

斎藤T「実質的に『アオハル杯』関連は偶数月に行われるようになっているわけか」

 

フジキセキ「うん。それで合ってるよ。『アオハル杯』の実戦形式に近い判定方法でおもしろいよね」

 

ナリタブライアン「ここでも各部門で3人というのがキーポイントになっているわけか。よく練られているな」

 

フジキセキ「まあ、トレーニングレベルを高くするためだけのメンバートレードのシンジケートが組まれないように、チーム総合力の判定に挑戦したウマ娘はトレード後の別のチームでの挑戦がしばらくできないように釘を刺されているけどね」

 

アグネスタキオン「そして、多忙を極める出走バをチームに引き込むメリットとして、未出走バよりも出走バがいることで自然とチーム総合力が高くなるように調整がされているわけだ」

 

ナリタブライアン「なるほどな。未出走バ<ジュニア級<クラシック級<シニア級 の順に獲得できるチーム総合力が跳ね上がっていくわけだから、今からだと本戦に参加できないようなシニア級ウマ娘でもチームに参加するだけで貢献できるわけだな」

 

マンハッタンカフェ「チーム総合力が上がってチームランキングが高くなればトレーニングレベルも向上して最新のトレーニング器具の優先権も得やすくなりますから、」

 

マンハッタンカフェ「最低でも15人は集めないといけないのと、その倍の30名までの定員枠のおかげで、メンバー集めにみんなが積極的になりやすくなっているのもいいですね」

 

岡田T「ただ、あくまでもトレセン学園に入学したからには誰もが『トゥインクル・シリーズ』で栄光を掴みたいと願っているわけで、『アオハル杯』でどれだけがんばったところで『トゥインクル・シリーズ』の戦績には何も加算されるものがないわけだから、どこまで『アオハル杯』で勝ちに行くかでチーム内での利害調整がいろいろと大変になりそうだ……」

 

フジキセキ「これは何が飛び出るかわからなくなるね。特に『アオハル杯』は“春秋グランプリ”の時期に合わせて開催されるから、“春秋グランプリ”の人気投票から漏れたウマ娘が鬱憤晴らしに『アオハル杯』で鬼のような走りを見せつけるかもしれないし」

 

ナリタブライアン「結局は与えられた機会に所構わず食らい付くやつが『アオハル杯』でも『トゥインクル・シリーズ』でも自身の存在を刻みつけるだろうさ」

 

 

トウカイテイオー「じゃあ、チーム総合力という指標でトレーニングレベルが決められることに関しては問題ないってことでいいかな?」

 

斎藤T「まった」

 

斎藤T「これ、生徒の自主性に任せているから責任者不在の隙を突いてトレーニング器具の破壊工作に利用されたら、どうしよう?」

 

ナリタブライアン「なに!?」

 

マンハッタンカフェ「それはたしかに深刻な問題ですね……」

 

フジキセキ「でも、そんなことを考えるようなイケナイ子たちがトレセン学園にいるとは思いたくないな」

 

岡田T「地方だと有り得るんだよな……」

 

トウカイテイオー「え、どういうこと、トレーナー?」

 

斎藤T「そっか、岡田Tは地方トレセン学園のトレーナーだったな……」

 

岡田T「中央と比べたら地方はやる気も潔さも欠片もないからな」

 

岡田T「中央にはこの府中市にあるトレセン学園しかないけど、地方は複数のトレセン学園があるから、そこでライバル校への合宿遠征を利用して陰湿な嫌がらせをして勝とうとするような志の低いセコい輩もいるんだよな……」

 

ナリタブライアン「そうだったのか。いかに中央が夢の舞台なのかを思い出すことができたよ」

 

斎藤T「へえ、そういう意味では真摯にターフの上での勝利を目指すお行儀が良いウマ娘しか中央にはいないわけなのか。全国各地から集まった問題児だらけと言われてはいても」

 

フジキセキ「うん。みんな、いい子たちだよ」

 

フジキセキ「だから、斎藤Tが心配するようなことは起きないと思うな」

 

 

アグネスタキオン「となると、『アオハル杯』とやらで想定される未出走バの弱者救済はダブルチャンスになる感じだね」

 

アグネスタキオン「まずは、真っ当に『選抜レース』で実力を示してスカウトを勝ち取って、6月からの新バ戦(メイクデビュー)を目指す王道路線だね」

 

トウカイテイオー「次に、『アオハル杯』での活躍から『選抜レース』での雪辱を果たしてスカウトを勝ち取る敗者復活戦だよね」

 

フジキセキ「けど、そこでチームランキングの低い弱小チームのエースとしてレースに出るチャンスを求めるのか、トレーニングレベルの高いチームに入って次回の『選抜レース』に望みを託すかに分かれる」

 

岡田T「もしかしたら、トレーニングレベルを維持するために無茶を重ねるチームが続出するかもしれないな。それだけが実績に残らない非公式戦における自分たちが得た確実なものになるだろうから」

 

ナリタブライアン「たしかに、最高のトレーニング環境を後に続く者のために遺していけるのは一種の達成感と優越感があるだろうが、」

 

ナリタブライアン「正直に言って、3年に一度の『アオハル杯』本戦までチームの一員としてやり通せる気がしないな」

 

アグネスタキオン「そうかい? 私は『アオハル杯』がなくとも待ち続けることを選べたがね」

 

マンハッタンカフェ「それはタキオンさんだけにできたことです」

 

斎藤T「まあ、それでも、弱者救済を掲げたところで完全に中途退学をなくすことなんてできないんだ。自分の能力の限界を知って早々に見切りをつける子もこれからも出続けるだろう」

 

斎藤T「そして、完璧であることを誰一人として完璧にこなすことはできないんだ」

 

斎藤T「なら、最善と思われたやり方を試してみて、状況がどのように変化していくのを確かめて、それから また最善を尽くせばいい」

 

斎藤T「大事なのは、どうしてそういうことになっているのかをその背景と理由を正しく理解して、目標通りの結果になるかどうかを正しく導き出すことにあるのだから」

 

フジキセキ「その通りだね」

 

トウカイテイオー「はい。じゃあ、これも問題なしってことでいいよね?」

 

一同「異議なし」

 

 

トウカイテイオー「というわけで、今回の会議は以上になります。おつかれさまでした」

 

マンハッタンカフェ「おつかれさまでした」

 

フジキセキ「ひとまずは、これでいいんじゃないかな。『アオハル杯』の概要と実態が具体的に理解できたことだし」

 

岡田T「いや~、なかなか充実した会議になったな~」

 

トウカイテイオー「それはそうなんだけど、生徒会としては大変になるのが目に見えているんですけど……」

 

ナリタブライアン「ああ。“女帝”と“怪物”による“共同皇帝”として、面倒だが、“皇帝”への報恩感謝で働かなくちゃならないか……」

 

フジキセキ「それを言うなら、学生寮自治会としても同じだよ。互いにがんばろう」

 

アグネスタキオン「まあ、最初から私には関係ない話だったけどね」

 

アグネスタキオン「そうだろう、トレーナーくん?」

 

 

斎藤T「いや、これは“皇帝”陛下からの私への勅命だな」

 

 

アグネスタキオン「……ふぅン?」

 

トウカイテイオー「え」

 

斎藤T「忙しくなるな。私の役目は技術革新によって人々の生活様式を向上させることにあるから、究極的にはトレーナーの法人化を目指さなくちゃならない」

 

ナリタブライアン「――――――『トレーナーの法人化』? 何だ、それは?」

 

斎藤T「つまり、慢性的なトレーナー(Trainer)不足を解消するために――――――、」

 

斎藤T「出走チケットであるトレーナーが不足しているからスカウトされないという、そもそもの状況の中で自身の価値を高めて自主的に救済するのが『アオハル杯』である一方で、」

 

斎藤T「教官(Instructor)による集団指導では不十分だし、個別に見て適切に指導できるプロが不足しているのを克服させることは技術的に可能か――――――、それを検討した時に思いついたのがトレーナーの法人化だ」

 

斎藤T「いや、出走チケットとしてのトレーナーの役割を持っていないから、この場合は個人個人に最適な管理プログラムを施す家庭教師(Tutor)と言えば誤解がないかもしれない」

 

岡田T「――――――家庭教師(Tutor)? それって、名家に属している専属教官や専属トレーナーとはちがう感じなのか?」

 

斎藤T「じゃあ、さっき言った家庭教師(Tutor)と、個別指導(Tutorial)って英単語を書いてみて」

 

岡田T「テイオー」

 

トウカイテイオー「わかった」カキカキ

 

ナリタブライアン「あ、なるほど。個別指導(Tutorial)を施す者が家庭教師(Tutor)ということなのか」

 

フジキセキ「つまり、トレセン学園のひとりひとりにこの家庭教師(Tutor)を宛てがうことが理想というわけだね」

 

斎藤T「それを技術的に可能にすれば、一人のトレーナーが複数の担当ウマ娘を抱えるコストとリスクを大幅に低減することができる」

 

斎藤T「具体的にはそれぞれのウマ娘に最適化された家庭教師(Tutor)の疑似人格プログラムをインストールした携帯情報端末をもたせることから始まる」

 

マンハッタンカフェ「つまり――――――、どういうことになるんですか?」

 

 

斎藤T「つまり、この私“斎藤 展望”という一介のトレーナーがトレセン学園を技術的に支配していいのかという企業倫理に行き着いてしまう」

 

 

マンハッタンカフェ「ええ?!」

 

ナリタブライアン「????」

 

トウカイテイオー「どういうこと、それ?」

 

アグネスタキオン「要するに、その家庭教師(Tutor)とやらを実現する方法は思いついてはいるけど、」

 

アグネスタキオン「それをやった場合、集められたトレセン学園生徒の個人情報の取扱や癒着による独占禁止法違反にならないかで問題視しているわけだろう?」

 

アグネスタキオン「それって全部、きみにしかわからないことだから、きみに全てを委ねた場合のリスク管理体制が確立できるかどうかが不安なんだろう?」

 

フジキセキ「……これはもう理事会の最重要案件になるかな? そもそも、理事会の手に負えるかな?」

 

岡田T「それって、そこまでできたらトレセン学園の生徒たちの管理以外の何にでも応用ができそうだけど、できるよな、今の感じだと?」

 

ナリタブライアン「よくわからないが、本当に家庭教師(Tutor)というやつを実現できるのか?」

 

斎藤T「残念ながら、今 思いついた。技術的にはもう実現できるけど、それをやった場合の“AIへの恐怖”がどう世間に悪影響を及ぼすかが予想がつかない」

 

斎藤T「トレセン学園の一トレーナーに過ぎない私が学園中のウマ娘の個人情報を管理する立場になることが一番の問題になってくるし、」

 

斎藤T「そして、個人個人に最適化された疑似人格プログラムへの依存性も考えられる――――――」

 

斎藤T「それはもうAIによる支配だよ。年頃の女の子であるトレセン学園のウマ娘にとっては最適であるからこそ――――――」

 

岡田T「なんかとんでもなく凄いことが起きようとしているんだな、シンボリルドルフ卒業後になって」

 

トウカイテイオー「う、うん……」

 

斎藤T「完璧な管理を施す家庭教師(Tutor)という良き理解者(Sympathizer)は創っちゃいけないんだ。疑似人格プログラムの完璧な指示に服従することに恍惚を覚えるようになったら人間はロボットでしかなくなる」

 

斎藤T「ヘレン・ケラーにとってのサリバン先生は“奇跡の人(The Miracle Worker)”であるべきなんだ」

 

斎藤T「何のために反抗期が人間の成長の中に組み込まれているのかを考えなくちゃいけない」

 

 

――――――だから、『そのことを世間に問題提起しろ』というのが“皇帝”陛下からの勅命だ。

 

 

そう、何のために先頭に立って黄金期を“皇帝”シンボリルドルフが秋川理事長と共に切り拓いてきたかであり、切り拓いた道の先にある自身の黄金像を拝ませるためではないのだ、決して。

 

中高一貫校の6年間という限られた時間の中で少しでも理想に近づくように努力し続けた結果が今のシンボリルドルフ卒業後の新時代というわけであり、そのバトンが一人一人に託されたことを誰もが自覚しなければならないのだ。

 

そうでなければ、今の繁栄の瞬間は徐々に徐々に腐り始めて、いずれはとっくの昔に卒業したはずの“永遠なる皇帝”にトレセン学園の精神は支配されたままとなり、その停滞によって変革の波にトレセン学園は現実の崩壊を受け容れることに成り得る。

 

もうシンボリルドルフという絶対者に何もかもを求めるのはやめるのだ。神のごとき絶対者は去ったのだ。その現実を受け止めて 先人たちが切り拓いた道の先に歩みを進めていかなくてはならないのだ。

 

 

――――――未知なるものを求めて勇気の一歩を踏まねばならないのだ、我こそはシンボリルドルフの後継者を名乗る者ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――そして、

 

秋川理事長「――――――昼休憩中に失礼ッ!」ガガッ ――――――学内スピーカーに響き渡る秋川理事長の声!

 

秋川理事長「全生徒、全トレーナーに告ぐッ! 本日より『アオハル杯』を復活ッ!」

 

秋川理事長「『アオハル杯』とはッ! かつてトレセン学園にて導入されていたチームの強さを競い合うチーム対抗戦ッ!」

 

秋川理事長「すわなち、【短距離】【マイル】【中距離】【長距離】【ダート】! この5部門で競い、チームの頂点を決めるッ!」

 

秋川理事長「とは言え、このチーム、『トゥインクル・シリーズ』を走れる正式なチームではないッ!」

 

秋川理事長「諸君らの最優先目的は『トゥインクル・シリーズ』での活躍ッ! これは重々承知ッ!」

 

秋川理事長「だがっ! 個人では体験し得ない経験が可能ッ! ウマ娘として更なる成長を促進ッ! 集まったチームメンバーと一致団結ッ! 切磋琢磨ッ! そして、青春謳歌ッ!」

 

秋川理事長「諸君らの更なる成長を期待しッ! ここに『アオハル杯』の復活を決めたッ!」

 

秋川理事長「よって、トレーナーの面々はまずチームメンバーを集めよッ!」

 

秋川理事長「皆の活躍、期待しているッ! 以上!」ハハハッ!

 

 

秋川理事長「失念ッ! 私は数年間に渡るアメリカ出張が決まったのだったッ!」

 

秋川理事長「そのため、日本とアメリカを行ったり来たりで多忙ッ! きちんと見守ることができないッ!」

 

秋川理事長「しかし、心配は無用ッ! 私たっての願いにより、あるURA幹部職員に理事長代理を要請ッ! トレセン学園と『アオハル杯』の運営を委任済みッ!」

 

秋川理事長「トレーナーとして数々の実績を残し、心よりウマ娘を愛する彼女であれば必ずやトレセン学園を――――――」

 

秋川理事長「――――――くうっ! そろそろ時間かッ!」

 

秋川理事長「では、私はこれにて、テイクオフッ! あとは任せたッ! がんばれ、諸君ッ!」

 

 

バラララララ・・・!

 

 

翌日、突然の秋川理事長の学内放送の内容に学園中が浮き足立つ中、エクリプス・フロントから自家用ヘリが離陸し、地上にローター音を響かせて あっという間に大空へ飛び立っていった。

 

ついにシンボリルドルフと共に6年間の黄金期を導いた秋川理事長が失脚してアメリカに出張という体でURAから左遷させられたのかという声が上がる一方で、卒業していったシンボリルドルフと同じようにあの秋川理事長の存在も永遠ではなかったことを今更ながらに認識する者も続出した。

 

そのため、これがきっかけで1つの時代がはっきりと終わったことを認識したことで、シンボリルドルフの栄光と秋川理事長の人徳を胸に刻んで新時代に自分たちの存在を刻みつけてやろうと生徒もトレーナーも誰もが意気込む中、

 

あの秋川理事長から直々に理事長代理として指名された理事長代理とはいかなる人物なのか、果たしてこの一件で偉大さを認識させられた秋川理事長の期待に応えられるだけの大器なのか、はたまた秋川理事長の後釜としてURA理事会から送り込まれた刺客なのか、その登場に大いに期待と不安が募ることとなる。

 

それはさておき、突然の『アオハル杯』チーム対抗戦の復活宣言に生徒たち以上にトレーナーたちが困惑したのは言うまでもないし、またしても秋川理事長の思いつきで面倒事が増えることに対して後ろ向きに捉える者も少なくなかった。

 

ただでさえ、担当ウマ娘を複数持つことの辛さが身に沁みてわかっているだけじゃなく、『トゥインクル・シリーズ』の成績に反映されることのない非公式戦なのだ。そんなのよりは『トゥインクル・シリーズ』の重賞レースに集中するのがトレーナーの務めであるし、担当ウマ娘たちも目前のレースの勝利に集中して大部分を聞き流していたという。

 

 

しかし、まだ夢の舞台:トレセン学園の現実を知らない新入生たちはどうか;秋川理事長のアメリカ出張直前の置き土産として突如として投げ込まれた新年度早々の復活宣言が効果的にトレセン学園の混乱を後押しすることになったのだ。

 

 

まだ『アオハル杯』の運営形態やルールがよくわからないうちに、新入生たちを中心にして『春のファン大感謝祭』の体育祭で仲良くなったばかりの友人知人同輩先輩を積極的にチームに誘う光景が放送終了直後の昼休みに拡がったのだ。

 

そのため、仮に黄金期を主導した偉大な秋川理事長の後任とも言える理事長代理とやらが『アオハル杯』復活を非現実的として反故にしようとも、この熱気から生徒総会決議で『アオハル杯』開催を求める声が届けば、理事長代理としては決まりが悪くなるわけなのだ。

 

なので、いくら行動力の塊で豪放磊落のウマ娘第一主義の秋川理事長と言えども、こんなアメリカ出張直前という際どい時機を選んだ強引な『アオハル杯』復活宣言は明らかに穏やかな背景に根ざしたものではないことが推察でき、

 

『URAファイナルズ』の時のような堂々たる開催宣言ができず、こうして既成事実化しなければならないほどに、現在の秋川理事長が危うい立場にあるように思えてならないのだ。

 

だが、これで『URAファイナルズ』で一区切りがついて迎えた新時代に続くレールは秋川理事長がこうして身を挺したことで敷かれたのだ。

 

 

――――――今より始まるは黄金期の先にある新時代と黄金期という名の旧時代の激突の日々である!

 

 

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