ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration-   作:LN58

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第6話   アオハル杯の復活は新たな伝説の始まり

-西暦20XY年05月13日の航星日誌- GAUMA SAIOH

 

昨日:5月12日は東京・芝・1600m・シニア級G1レース『ヴィクトリアマイル』であり、トレセン学園生徒会長を務める“女帝”エアグルーヴが堂々と優勝を果たすこととなった。

 

そのため、その翌日の振替休日となる月曜日の今日は“女帝”エアグルーヴが筆頭となるチーム<デネブ>で祝勝会があり、私はその担当トレーナーである吾妻Tの誘いでその場に居合わせていた。

 

一方、状況としては5月のトレセン学園は『オークス』『日本ダービー』『春の選抜レース』に向けて春季の最高潮を迎えようとしており、それと並行して学園では『アオハル杯』参加で結成されたアオハルチームにて『選抜レース』での勝利を求めて切磋琢磨する生徒たちの様子が絶え間なく見られた。

 

なので、早くも打倒チーム<ファースト>の志など忘れて、ただひたすらにウマ娘レースにおける勝利の定義である一着バを目指して、打算目的でどんどんチームを組んでいく流れができ始めていたのだった。

 

あるいは、打倒チーム<ファースト>の志を持つ者同士の利害調整が時間の経過で完了したことや、向こう3年に渡る『アオハル杯』本戦までの戦略がそれぞれの陣営で組み立てられたことで、遅まきながら反チーム<ファースト>勢力の結成が進んだところもあった。

 

その結果、春季のトレセン学園の最高潮のテンションによって『アオハル杯』へのチーム参加は続々と決まっていくことになり、4月の樫本代理が着任した当初の混乱は収まりつつあった。

 

それどころか、アオハルチームに参加したチームメイト同士が協力し合うチームトレーニングをしたことで今まで消極的な雰囲気だったのがすっかりと晴れ渡り、心身共に充実した様子で『春の選抜レース』へのトレーニングに精を出す新入生たちの姿が多く見られたのだった。

 

そう、案ずるより産むが易し、頭で考えていてもわからないことは体を動かしているうちに理解できていくものがあり、集団の動きなんてものを完全に予測できていたら不況なんてものは来ないのだから。

 

そのため、トレセン学園は新時代に暗黒期の記憶を思い出させた樫本代理が掲げた徹底管理主義の衝撃から少しずつ立ち直っていき、『アオハル杯』復活に伴うアオハルチーム結成でむしろ勢いづくことになり、樫本代理が指摘していた管理の不徹底に互いに気をつけながら学園生活を誰もが送るようにもなっていったのだ。

 

なので、ここまでは完全に去年の春に“斎藤 展望”というわかりやすい悪徳トレーナーの悪行三昧が戒めとなって学園全体の意識向上が果たされていった流れと同じであり、新時代を迎えて新たな方向性を模索していたトレセン学園にとってはこれ以上にない新年度のスタートを切ることができたと言えた。

 

否、これこそが“斎藤 展望”がURAに与えた影響の最たるものであり、この現象に注目した黄金期の精神の後継者を自称する者たちが新時代において黄金期の精神を敷衍するためには文字通りに暗黒期から黄金期が成り立つ様を再現すればいいと結論付けていたのだ。

 

つまり、そういう意味では樫本代理は URAの思惑を知ってか知らずか しっかりと与えられた役割をこなしているわけであり、『アオハル杯』本戦まで その役割を貫き通せるように支えておく必要があった。

 

 

しかしながら、周囲の思惑とは裏腹に憎まれ役となるべき樫本代理は黄金期の次の新時代を担う新入生たちからは早くも親しまれるようになっていたのだ。

 

 

いや、大多数の生徒たちからは目の敵にされており、樫本代理は『アオハル杯』でURAが黄金期を繰り返すために用意した打倒すべき敵役の再現にはなっているが、黄金期を再現する過程において()()()()()()()()()()()()が微妙なズレを生み出していたのだ。

 

思い出して欲しい、それが何なのかを。黄金期がいつまでも続いて欲しいと願って黄金期を再現しようとする一方で、その黄金期の記念碑となるものを自分たちで打ち立ててしまっているではないか。

 

そうなのだ。樫本代理は秋川理事長の代理として当然ながら学園の運営も行っているため、今年度に竣工となったエクリプス・フロントに足繁く通うことになった新入生たちやそこに部室を構える新クラブ:ESPRITの様子も頻繁に見に来るのだ。

 

なので、学園校舎では理事長室に阻まれて見えてこなかった樫本代理の素顔の中に込められたウマ娘たちに向けられた愛情深さと面倒見の良さはエクリプス・フロントではそれとなく知れ渡ることになり、

 

なんだかんだですぐに『管理教育プログラム』施行と『アオハル杯』中止を年単位で延期したこともあって、トレセン学園の1年というものをまだまだ知らない新入生たちはそこまで根に持つことにはならなかったのだ。

 

逆に、黄金期に確立された自由で開放的な校風に誇りを持つ在学生ほど、『管理教育プログラム』施行と『アオハル杯』中止の事の重大さがわかっているために、樫本代理に対して心を許すことが非常に難しくなっていたのだ。

 

特に、生徒たちの代表機関であるトレセン学園生徒会としてもウマ娘の自主性を奪おうとする樫本代理には短期間に『管理教育プログラム』施行と『アオハル杯』中止の無期限中止を具申しては却下されることが繰り返されており、生徒会役員であるスターウマ娘を支持する生徒たちは憧れのスターウマ娘を足蹴にする樫本代理に対する敵愾心を強めていくこととなる。

 

そうして憎悪を募らせて実力行使に打って出ようとする生徒たちを必死になだめることさえも生徒会役員に求められるようになるため、とにかく再来年の年末にある『アオハル杯』本戦で勝つことができれば問題ないのだと説き伏せることになり、生徒会としても今の状況は非常に辛い試練の時であった。

 

そのため、新年度の始めの『春のファン大感謝祭』期間中にエクリプス・フロントに慣れ親しむことになった新時代の担い手である新入生たちと黄金期の輝きに照らされてきた在学生たちの間に生まれた認識のズレがトレセン学園が抱える矛盾を暴き出すことになるのも時間の問題であったのだ。

 

 


 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

斎藤T「――――――『ヴィクトリアマイル』優勝おめでとうございます」

 

吾妻T「そういう斎藤Tも『天皇賞(春)』でマンハッタンカフェを勝たせて、前人未到の“春シニア三冠”に王手をかけたじゃない」

 

斎藤T「いえ、マンハッタンカフェは和田Tの担当ウマ娘であって、私の担当ウマ娘というわけではないのですが……」

 

吾妻T「いやいや、斎藤Tが主宰のESPRITの一員として担当ウマ娘:アグネスタキオンと一緒にいるわけだし、和田Tも岡田Tと同じく斎藤Tが面倒を見てあげているんでしょう?」

 

吾妻T「だったら、それはもう斎藤Tのチームメンバーでしょう? あるいは、勇者:斎藤 展望のパーティーメンバーかもしれないけどねぇ」

 

斎藤T「それで、チーム<デネブ>としては再来年の年末の『アオハル杯』本戦の勝率はどの程度のものになりますか?」

 

吾妻T「確認だけど、5部門にそれぞれ3人ずつの選出が可能ってわけだけど、5部門中 3部門を制することができればチームの勝利だから、チームメンバーは5人だけでもいいわけだよねぇ?」

 

斎藤T「理屈としてはそうなりますね。結局は一着バを出したチームの勝ちですから」

 

斎藤T「ですが、3年に渡るチーム対抗戦で勝つのでしたら、3世代分のメンバーを確保して15人にすると、チーム総合力が非常に安定するわけですよ。『アオハル杯』本戦で頂点を決める戦いは最上位の6チームになるわけですから」

 

吾妻T「そうそう。だから、僕としては3つのトレーナーチームが合流して1つのアオハルチームを作るのが現実的だと思うわけでして、トレーナーチーム単体でアオハルチームを作るのは無理があるよねぇ」

 

吾妻T「そういう意味では樫本代理は4月の段階で3世代分のメンバーをだいたい確保していた手際の良さがあるわけだから、最初から準備万端の樫本代理のチーム<ファースト>のチーム総合力には絶対に届かないと思っているかなぁ」

 

吾妻T「まあ、“女帝”エアグルーヴの最後を飾る6年目の花道を横切ろうとするチーム<ファースト>に与するシニア級のウマ娘たちには絶対に負けないけどねぇ」

 

吾妻T「樫本代理も『アオハル杯』と並行してリトルココンとビターグラッセをメイクデビューさせるつもりでローテーションを組んでいるわけなんでしょう?」

 

吾妻T「だったら、非公式戦での勝利はくれてやるから公式戦の敗北を思う存分に味わえばいいと思うよ。『アオハル杯』で負けたところで悔しくなんかないよ」

 

 

吾妻T「――――――エアグルーヴが紹介してくれたブリュスクマンで叩きのめしてあげるからさ」ゴゴゴゴゴ・・・

 

 

斎藤T「相当 腹に据え兼ねているみたいですね、樫本代理に対して」

 

吾妻T「当たり前じゃないですか。僕にとってトレセン学園の黄金期は最初から“女帝”エアグルーヴが“皇帝”シンボリルドルフの同志となって一緒に築き上げてきたものなんですから、現在進行形で黄金期の輝きは今も“女帝”と共にあるのですよ?」

 

吾妻T「だから、斎藤Tにはいろいろと悪いんですけど、“摩天楼の幻影”マンハッタンカフェによる史上初の“春シニア三冠”達成は“女帝”エアグルーヴが『宝塚記念』で阻止しますからねぇ」

 

吾妻T「それとリトルココンとビターグラッセを叩き潰すついでに、“アグネス家の最高傑作”アグネスタキオンもエアグルーヴが見込んだブリュスクマンが討ち取りますので、お覚悟を」

 

斎藤T「勝率はいかほどのもので?」

 

吾妻T「――――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですよ、斎藤T」

 

斎藤T「その通りですね、先輩」

 

吾妻T「とりあえず、斎藤Tにはウマ娘のトレーナーとしての活躍よりもESPRITの主宰としての手腕に期待しているから、そっちの方を頑張ってね~」

 

 

エアグルーヴ「こっちだ、斎藤T」

 

斎藤T「もういいんですか、祝勝会の方は?」

 

エアグルーヴ「ああ。祝勝会はもうお開きだ。来月の『宝塚記念』のこともあるが、新入生のブリュスクマンの『選抜レース』に向けた調整に本腰を入れたい」

 

エアグルーヴ「それで、樫本代理の最近の様子はどんな感じだ?」

 

 

斎藤T「はっきり言って、樫本代理はひ弱な生き物です。あまりイジメないでやってください」

 

 

エアグルーヴ「は」

 

斎藤T「学園から歩いて数分の距離のエクリプス・フロントに歩いて来るだけでも疲労感を覚えるぐらいには虚弱体質で、エクリプス・フロントから校舎までの帰り道で息を切らしていた理事長代理に肩を貸して送ったことがあります」

 

斎藤T「それに加えて、外出しただけで疲労で睡魔に襲われるぐらいなんです。眠気覚ましにコーヒーを飲んだら、それはそれで夜に眠れなくなるぐらいなんだそうです」

 

斎藤T「しかし、あの若さで元G1トレーナーのURA幹部職員になり、理事長代理が務まるほどの学才に恵まれていたのは、偏にその虚弱体質に負けないように一心不乱に勉学に励んだ賜物なのです。松下幸之助を思わせますね」

 

斎藤T「ですので、樫本代理という人間は類稀な意志力を常に発揮している人物であり、それだけにその意志力を支えに生きている人物ですから、生半可なことでは説得ではできないですね。全身を意志力の鎧で覆っているわけですから」

 

エアグルーヴ「……そうか」

 

エアグルーヴ「意外にもエクリプス・フロントに通い詰める新入生たちからは好かれているという話を聞いてはいたが、これは後輩たちに苦労を掛けることになるな……」

 

斎藤T「大丈夫ですよ。再来年の年末の『アオハル杯』本戦で樫本代理が勝とうが負けようが、『管理教育プログラム』を()()()()()先んじて導入して主導権を握ってしまえばいいのですからね。その手助けをESPRITがいたします」

 

エアグルーヴ「ああ、そうだな。樫本代理が学園の運営を任せられるほどの敏腕トレーナーであったとしても、ESPRITの主宰者に勝る才覚の持ち主ではあるまい」

 

エアグルーヴ「頼むぞ」

 

エアグルーヴ「だが、それはそれとして、マンハッタンカフェが史上初の“春シニア三冠”達成に王手を掛けようとも、私は手加減はせんからな」

 

 

――――――私を信じてついてくる皆のため! 私を支えてくれているトレーナーのため! そして、何よりも私自身の理想のために!

 

 

エアグルーヴ・ナリタブライアン世代として駆け抜けた激闘の最初の3年間以来、『URAファイナルズ』開催のために引退はせずに“皇帝”シンボリルドルフの右腕として生徒会活動に全力を注ぎながら後輩たちの指導も精力的に行ってきた“女帝”エアグルーヴはブランクを感じさせない圧倒的な強さを『ヴィクトリアマイル』で見せつけた。

 

さすがは“怪物”ナリタブライアンや“女傑”ヒシアマゾンたちと互角の勝負を繰り広げた“女帝”の威光は伊達ではなく、“皇帝”シンボリルドルフの後を継いでトレセン学園の顔役になったことに異論を唱える者はもはやどこにもいない。

 

そして、新時代を迎えたトレセン学園を襲う時代の荒波に対しても決して目を背けることなく、勇ましく乗り越えていこうとする気概を漲らせるようになっていた。

 

しかし、“皇帝”シンボリルドルフが一人で全てを掌握して導いた時代とは異なり、すぐに権力交代を余儀なくされる時代に移り変わったため、世代を超えて想いを受け継がせていくためのバトンタッチの練習も欠かせなくなってきたわけなのだった。

 

そのため、新たに生徒たちの日常生活にエクリプス・フロントが加わったことで、これまでの学園校舎を生徒会が縄張りとし 学生寮を自治会が受け持つ体制も変わらざるを得なくなり、新たな領域であるエクリプス・フロントとの連携を深めるためにエクリプス・フロントに君臨する“斎藤 展望”との連絡を密にせざるをえなくなったわけなのだ。

 

実際、それは理事長代理にしても同じことであるため、エクリプス・フロントの見回り番が組織されていない現状、エクリプス・フロントの多目的ホールの1つを部室にしているESPRITの部員がエクリプス・フロントの見回り番となっていることから、自然とESPRITの顧問:女代先生とも話し込むようにもなるわけなのだ。

 

なので、女代先生にはトレセン学園の教職員を代表して『管理教育プログラム』施行の問題点をバンバン言ってもらい、問題解決のソリューションを提供するためのESPRITらしく、『管理教育プログラム』施行の反発を抑えるために必要な技術や形態が何なのかを樫本代理と追究していくことになったのである。

 

こうして樫本代理としても生徒会長:エアグルーヴにしても『管理教育プログラム』施行の問題点や悪影響を抑えるためのソリューションをESPRITを介して互いの意見を交換し合うことになり、そうして洗い出された改善点を解決するためのソリューションをESPRITの主宰者の私が形にする日々が始まっていた。

 

もっとも、樫本代理が徹底管理主義を掲げた大元の原因は把握しているし、それはトレセン学園ではとてもよくありふれた事象でもあったため、樫本代理の件がなくてもESPRITの躍進のためにも前々から提供の準備を始めていたものでもあった。

 

そうしたわけで、私にとっては樫本代理の徹底管理主義はまったくもって学園の危機をもたらすものでもなんでもなく、その計画の積極的な協力者となることでソリューションを大々的に展開していく絶好の機会であったのだ。

 

積極的な改革の推進の裏には必ずこれまでの不可能を可能にする技術革新があるものなのだから、それが『宇宙船を創って星の海を渡る』という私の夢を後押しするものになっており、世界最先端のトレーニング環境を提供するトレセン学園の方針にも噛み合っていた。

 

なので、私にとっては樫本代理は敵でも何でもなく、私の夢を前進させてくれるきっかけとなるありがたい存在なわけであり、『管理教育プログラム』施行の障害になるものを取り除くソリューションを提示すれば、樫本代理は喜んで『管理教育プログラム』の露払いとなるソリューション導入のための予算の捻出に考えを巡らせてくれた。

 

そのため、良くも悪くも純粋で一本気な樫本代理は良識的で話しやすい相手であり、それでいて若くしてURA幹部職員になって理事長代理が務まるほどの優秀さを間近に見ることができ、私の中では非常に好印象であった。

 

 

――――――ただ、その虚弱体質の身体を類稀な意志力で鞭打って酷使しているだけに、三十代に重なる二度の厄年を無事に乗り越えられるかが非常に心配になってしまう。

 

 

斎藤T「――――――徹底管理主義か。その実、“管理”が必要なのはむしろトレーナーの側なんだけどな」

 

桐生院T「あ、あの……!」

 

斎藤T「桐生院先輩?」

 

桐生院T「斎藤T、どうか力を貸してください……!」

 

斎藤T「どうしました、先輩?」

 

桐生院T「やっぱり、樫本理事長代理のやり方は間違っています! 私たちトレーナーはウマ娘ファーストに基づいてウマ娘たちのために力を尽くすべきなんです!」

 

桐生院T「それなのに、樫本代理のやり方は罰則でウマ娘たちを縛る抑圧的なやり方で、そこにウマ娘たちへの愛情なんてありません!」

 

斎藤T「そう思っているトレーナーが大半でしょうね」

 

斎藤T「でも、それなら私に声を掛けるまでもなかったでしょう? 同じ想いの人たちはたくさんいたはずですからね」

 

桐生院T「……はい」

 

桐生院T「実は、『URAファイナルズ』成功記念パーティーで秋川理事長から才羽Tと飯守Tと一緒に顕彰してもらったわけなので、私たち3人が秋川理事長の理想を体現するトレーナーとして連名で樫本代理に直談判するはずだったんです」

 

桐生院T「なのに、才羽Tが――――――!」

 

 

――――――強きを助け、弱きを挫け。強い者だけが生き残ればいいんだ。

 

 

斎藤T「……才羽Tは学園の危機に対して全くの無視を決め込んで、担当ウマ娘:ミホノブルボンのトレーニングに専念しているわけですか」

 

桐生院T「それってあんまりなことじゃないですか!? 再来年の年末の『アオハル杯』本戦に樫本代理が勝てば徹底管理主義がトレセン学園に実施されるとは言っても、その翌春には担当ウマ娘:ミホノブルボンは卒業するから自分たちは無関係だって――――――!」

 

桐生院T「身勝手ですよ! 薄情ですよ! 見損ないましたよ! 尊敬していたのに……!」

 

斎藤T「おそらく、才羽Tはミホノブルボンの卒業と共にトレーナーを引退する気だから、脇目も振る気がないんでしょうね」

 

桐生院T「え?!」

 

斎藤T「才羽Tは生涯でたった一人の担当ウマ娘を最初で最後の最高傑作として全身全霊で育て上げることに心血を注いでいるはずです」

 

斎藤T「つまり、最初からトレセン学園という箱庭世界で起きている小さな事件は眼中にないというわけです」

 

斎藤T「才羽Tという人間は最初から 徹頭徹尾 大きなものを見据えて、そこに向かい続けているんです」

 

桐生院T「………………」

 

 

斎藤T「なので、真に試されているのは桐生院先輩をはじめとする()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですよ?」

 

 

桐生院T「え」

 

斎藤T「最初の担当ウマ娘との最初の3年間を終えたことで桐生院先輩は一人のトレーナーとして自分のトレーナー人生を決められるようになったんです」

 

斎藤T「才羽Tはそこを見ています。ひたすら担当ウマ娘と共に高みを目指して邁進していく道、自身が抱くトレーナーとしての理想を実現する道、トレセン学園という夢の舞台に尽くす道、いろいろです」

 

斎藤T「そのいろいろとある中でどれだけ道を極められるかを楽しみにしているのです」

 

斎藤T「だから、桐生院先輩には自分が極めて行きたいと思う道を進んで欲しいんです」

 

斎藤T「義憤に駆られ、一時の感情に身を任せて、打倒チーム<ファースト>のために団結したところで、『アオハル杯』本戦は再来年の年末でハッピーミークは翌春には卒業ですよ? それが先輩自身の成長の糧になると思いますか? 状況に流されているだけじゃありませんか?」

 

桐生院T「え」

 

斎藤T「……ダメですよ、先輩」

 

 

斎藤T「先輩! 先輩にとってはウマ娘ファーストと打倒チーム<ファースト>は同じかもしれないですけど、担当ウマ娘は打倒チーム<ファースト>のための道具じゃないですよ! 担当トレーナーが第一に考えるべきは担当ウマ娘のことでしょう!」

 

 

桐生院T「あ」

 

桐生院T「あ……!」

 

桐生院T「ああああああ!?」

 

斎藤T「………………」

 

桐生院T「わ、私はなんてことを……!」

 

斎藤T「……何が『団結』だ! 何が『チームの勝利』だ!」

 

 

――――――『アオハル杯』で勝つことに躍起になって、本質となる担当ウマ娘との絆を蔑ろにする担当トレーナーがウマ娘レースで勝てるはずがないだろうに!

 

 

そう、私がエクリプス・フロントの支配者として生徒会や樫本代理と連絡を密にして絶好調な毎日を送っているのに対して、一見すると樫本代理によって引き起こされた当初の混乱から落ち着いたかのように見えたトレーナーたちの内面は川面のように定まるものではなかった。

 

いわゆる新設レース『URAファイナルズ』開催宣言の年に配属となり 3年目に『URAファイナルズ』開催を迎えたファイナルズ世代の代表的トレーナーの一人である桐生院Tをはじめとして多くの良識あるトレーナーたちが樫本代理との『アオハル杯』の対決に浮足立っていることが非常に嘆かわしく思えた。

 

桐生院先輩に関しては最初の担当ウマ娘との最初の3年間が終わった節目の年を迎えて、次の担当ウマ娘を探す時期に重なっていたこともあり、明確な目標が定まっていなかったところにちょうどよく学園の未来を賭けた『アオハル杯』が開催されるのだから、それについ乗っかってしまうのはしかたがないことだと私は思う。

 

けれども、『アオハル杯』本戦で徹底管理主義の樫本代理のチームに勝つことでこれまでのトレセン学園の在り方を守ろうと必死になればなるほど、過去に廃止と復活を繰り返した『アオハル杯』という異なるレースシステムの沼に面白いように最難関の国家資格に合格してきた国内有数の秀才であるはずのトレーナーたちがハマっていってしまっているのだ。

 

そうだ。樫本代理としては 理事長代理の任を引き受けるにあたって前もって秋川理事長の計画である『アオハル杯』復活を知らされて準備万端で臨んでいたからこそ スタートダッシュで差をつけられたわけなのだが、

 

それでも圧倒的大多数を敵に回して包囲網を作られる絶対的不利を理解しながら『アオハル杯』優勝によって徹底管理主義の『管理教育プログラム』の導入を認めさせるという大勝負に打って出られたのは、樫本代理自身が『アオハル杯』前大会の参加者の一人としてそこで起きた悲劇の数々を目の当たりにしていたからに他ならない。

 

つまり、担当ウマ娘と担当トレーナーの二人三脚をいかにして公式戦『トゥインクル・シリーズ』への出走と非公式戦『アオハル杯』への参加を両立させるかの難題に答えを出せずに中途半端になって自滅していくトレーナーとウマ娘の姿を嫌と言うほど見せつけられていたからこその入念な対策の数々と『アオハル杯』復活の中止の判断である。

 

樫本代理の現役時代や過去の『アオハル杯』で起きた出来事について少しでも調べようと思えば辿り着く事実を知ろうともせずに敵憎しの感情だけで『アオハル杯』参戦を決めたトレーナーたちは等しく、敵を知り己を知れば百戦殆うからず、自ら担当ウマ娘と共にどっちつかずの死地に赴こうとしているようにしか思えない。

 

とは言え、非公式戦『アオハル杯』に関する資料は生徒の持ち込み企画なのでトレセン学園やURAが公的に保管しているわけではないため、アメリカに渡った“皇帝”陛下から渡された『アオハル杯』の資料が保存状態の悪い文献ばかりだったように、廃止と復活の末に散逸していた。

 

なので、ESPRITの次の企画は過去の『アオハル杯』に関する資料の収集と展示を行い、それをエクリプス・フロント内の図書館や歴史資料館にでも寄贈する予定である。これが急務である。

 

さもなければ、実際に『アオハル杯』に参加して『トゥインクル・シリーズ』と両立させるノウハウを持っている稀代の英才トレーナー:樫本代理が自ら提示した好条件という名の餌に食らいついた阿呆共が次々と釣り上げられて俎板の上に載せられていき、多くのトレーナーやウマ娘たちが『アオハル杯』復活の犠牲になってしまうのだから。

 

つまり、それこそが樫本代理が好条件を提示する裏で実質的な『アオハル杯』優勝宣言を出せた真相であり、まず前大会参加者として『アオハル杯』を誰よりも知り尽くして事前に計画を練り上げて準備万端で現れた樫本代理としては自身のトレーナーとしての才覚も相まって『アオハル杯』本戦で負けるとは微塵も思っていないし、

 

何も考えずに敵憎しの感情で打倒チーム<ファースト>を掲げて参加した大半のアオハルチームのトレーナーとウマ娘たちが『トゥインクル・シリーズ』とは勝手が違いすぎる形態や進行に戸惑い、本来ならば頂点の座を争うトレーナーやウマ娘たちと一緒のチームを組むことによる腹の探り合いや利害調整で神経をすり減らし、チームトレーニングによる過負荷や同調圧力で軋ませる不協和音が声なき叫びと共に奏でられることになるのだ。

 

そうなのだ。樫本代理の予想としては『アオハル杯』本戦までに()()()()()()()()()()ように死屍累々が築き上げられているはずであり、そんな状況で仮に打倒チーム<ファースト>が果たされたとしても、樫本代理の掲げる徹底管理主義が必要であると自然に受け容れられるような悲惨な経過が待ち受けているはずなのだ。

 

これも言うなれば、黄金期の繰り返させる悪役としてURAが樫本代理をトレセン学園に送り込んだのと同じことであり、樫本代理もまた悲劇の温床である『アオハル杯』の永久消滅を実現するために次に『アオハル杯』を復活させた時にはその痛ましい記憶を今度こそトレセン学園に永久に刻みつけようとしているわけなのだ。

 

なので、自分の担当ウマ娘を『トゥインクル・シリーズ』で勝たせることしか知らないトレーナーやその指導の下にチームに参加するウマ娘たちが樫本代理から『管理教育プログラム』導入を中止する交換条件として提示された好条件である『アオハル杯』優勝を目指した段階で、樫本代理の計画は 八割方 達成されてしまったようなものなのだ。

 

よく考えて欲しい。『アオハル杯』は3年に渡る大掛かりなチーム対抗戦であり、各世代の出走ウマ娘がいることでチーム総合力が上がり 選手層が厚くなることから様々な世代のウマ娘をチームに入れるのが自然となるが、勝負所での団結力を発揮することはあるとしても、日常におけるチームの秩序や統率が保たれるかがこれから問題となるわけなのだ。

 

それはアオハルチームを結成した当初には顕になることがなくチームトレーニングに慣れてきた時に不意に表に現れる致命的な爆弾であり、ウマ娘レースの本質が『勝者は常に一人』という非情な現実を誰もが思い出すことになるはずだ。

 

何よりも、今回の『アオハル杯』復活は秋川理事長によるものだが、本来の『アオハル杯』はトレーナーからのスカウトを勝ち取れずに時間を持て余すばかりの生徒たちが一念発起して自分たちで本格的なレース大会を企画運営するところから始まったものであるため、当初はトレーナーからのスカウトを受けたウマ娘だけが出走できる『トゥインクル・シリーズ』のローテーションと両立させるようなものではなかったのだ。

 

それが時が経つことによって『アオハル杯』での走りで注目を浴びたことでトレーナーのスカウトを勝ち取ったという実績から好評を得て、いつの間にか公式戦『トゥインクル・シリーズ』と並行して非公式戦『アオハル杯』にも全力を出すウマ娘が出てくるようになってしまったというのが悲劇の始まりであった。

 

つまり、有志たちの懸命の努力の末に多くの感動を生み出した非公式戦『アオハル杯』であったが、トレーナーからのスカウトを勝ち取ったウマ娘はその時点で『アオハル杯』から卒業して本当の戦いの舞台である公式戦『トゥインクル・シリーズ』へと巣立っていくべきはずが、

 

やがて、『アオハル杯』に愛着や誇りを持つようになったウマ娘たちがいつまで経ってもチームから巣立つことなく、本来の目的である『トゥインクル・シリーズ』出走に全力集中できなくなるという本末転倒な事態を招くことになり、

 

『トゥインクル・シリーズ』での成績のみを考えて冷静な判断を下すべきトレーナーたちでさえも、まったく無益な『アオハル杯』での勝利さえも求め出すようになってしまう始末であった。

 

ある意味においては、何事においても勝負事にのめり込んでしまう闘争心の塊であるウマ娘らしい若き日の青春の過ちでもあるわけだが、『アオハル杯』の当初の目的と主体を失って学園の伝統にまで高められてしまったことで正常な判断を下すことができないトレーナーがいかに多かったことか――――――。

 

これを一言で言うならば、トレセン学園のトレーナーもウマ娘もみな等しく『アオハル杯』というお薬の用法用量を守って正しくお使いできていない薬物乱用状態なのである。すっぱりと断ち切れない辺りがまさに中毒症状。

 

 

そのため、本質的には公式戦『トゥインクル・シリーズ』に出走することがない生徒たちが暇な時間を注ぎ込んで自主的に企画運営しているだけの本格的ながらも無益な非公式レース大会『アオハル杯』にトレーナーたちが本気になった時点でそれはもう負けなのだ。

 

 

つまり、まともなトレーナーほど無益な非公式戦『アオハル杯』での勝利は求めず、考えの足りないトレーナーほど無謀なまでに非公式戦『アオハル杯』での勝利を求めてしまうわけで、これだけで徹底管理主義を求める樫本代理とそれに従うチーム<ファースト>の独壇場が完成してしまうわけなのだ。

 

実際、『アオハル杯』のレース開催が“春秋グランプリ”の『宝塚記念』『有馬記念』の時期に重なることを考えれば、それらに参戦する強豪ウマ娘たちほど無益な非公式戦『アオハル杯』への出走を敬遠するわけであり、

 

ウマ娘レースの非情な現実を知り尽くしているベテラントレーナーとしても担当ウマ娘がいつまでも『アオハル杯』で結ばれたチームの絆なんかに縛られてしまうのは迷惑以外の何物でもない。

 

となると、ベテラントレーナーや強豪ウマ娘のほとんどが真剣に『トゥインクル・シリーズ』での勝利を目指すわけなのだから、『アオハル杯』に全力を注ぐようなのは周囲から勝利など求められていない無名のトレーナーやスカウトに値しない弱小ウマ娘ぐらいしかいなくなるわけなのだ。

 

――――――いや、それこそが本来の『アオハル杯』の原点なのだが。

 

その上で、5部門に3人ずつを出走させることができるとなれば最低でも15人のウマ娘を確保することになり、トレーニングレベルに関わってくるチーム総合力を考えるなら『アオハル杯』本戦まで点数稼ぎをしてくれる3世代分の出走ウマ娘も招聘することも必要になってくる。

 

――――――いや、本来ならばそんなルールは当初は存在せず、『トゥインクル・シリーズ』で活躍した元アオハルチーム出身のスターウマ娘が自分を育ててくれたチームへの恩返しとして要求したことが不公平であるとして公平性を保つためにチーム総合力が制度化された結果がこれである。

 

そうして集められた大所帯をまとめあげられる統率力を発揮できるトレーナーがいなければ、所詮は寄せ集めのかけっこクラブにしかならないわけであり、個人競技ならば個人の才能だけでなんとかできることが多いだろうが、個人の才能を数の論理で潰される可能性があるチーム対抗戦においては徹底管理主義によって培われた集団行動がチームの強さをどこよりも発揮することになるだろう。

 

――――――いや、実際にかけっこクラブでいいのだ。これは『トゥインクル・シリーズ』へのスカウトを掴むアピールの機会を作り出すためにウマ娘たちが自主的に寄り集まった『アオハル杯』という本気の勝負(公式戦)ならぬ本気の遊び(非公式戦)なのだから、本気の使い所を間違えるのは非常に困る。

 

 

だから、樫本代理は自身が理想とする徹底管理主義による『管理教育プログラム』を導入するために、あえて忌々しい記憶が蘇ってくる『アオハル杯』という3年間に渡る長丁場を利用したのだ。

 

 

そもそもが、『トゥインクル・シリーズ』での“最初の3年間”がトレセン学園においては基本単位になっているように、トレーナーからすれば『アオハル杯』の3年間もまたどうということのない時間間隔であり、向こう3年間の展望や戦略を考えることなど出来て当然。ましてや、秋川理事長に代わって学園の運営も任されている理事長代理なら、尚更である。

 

そして、秋川理事長が復活宣言した『アオハル杯』を中止すると見せかけることで、好条件と称して自身の独壇場となる『アオハル杯』を決行させるように状況を持っていくことで、自身の理想をトレセン学園で実現するための言質を大々的に取ることに樫本代理は成功したのだ。

 

考えの足りないトレーナーはそれで『トレセン学園の未来を守れる』と意気込んだわけだが、ここで冷静な判断が下せるトレーナーならばあらかじめ計画され尽くされた理事長代理の動きの迷いのなさにとてもじゃないが勝ち目がないことを早々に悟ることだろう。

 

何よりも『アオハル杯』は非公式戦に過ぎず、本来は『トゥインクル・シリーズ』の公式戦に出走できないウマ娘たちのものであるため、仮に『アオハル杯』本戦で樫本代理のチーム<ファースト>に勝てたところで得るものは何もないのだ。

 

『アオハル杯』復活は他ならぬ樫本代理の運営によって実施されるわけだし、『管理教育プログラム』施行の中止を阻止したところで、それはつまりは 昨日までの変わらない学園生活が続いていくというわけで、失うものもなければ得るものもないのだ。

 

しかし、その間にも時間はただただ過ぎ去っていることを忘れてはならず、そのために費やした中高一貫校の3年間の日々にどれだけの価値が与えられるのだろうか――――――。

 

 

――――――エクリプス・フロント/最上階:スカイレストラン

 

ソラシンボリ「まあ、そんなわけだから、まともなトレーナーなら尻込みする非公式戦『アオハル杯』――――――、中止しようとしていた樫本代理自身が妥協案として自ら参加して優勝することを宣言することで、樫本代理アンチが口を揃えて言うウマ娘ファーストの大義名分を先に得ているわけだよね」

 

スカーレットリボン「そして、本筋である『トゥインクル・シリーズ』にも二足の草鞋で出走させるウマ娘を厳選することで、更に自身の徹底管理主義による指導の有効性を証明しようとしているわけですね」

 

ソラシンボリ「本当にウマ娘もトレーナーもレースで勝つことしか考えていない感じだよね、トレセン学園って」

 

和田T「まあ、そう言われると……」

 

ソラシンボリ「――――――少しは変だと思わなかったのかな?」

 

ソラシンボリ「秋川理事長の意に反して中止しようとしていた『アオハル杯』を結果として自分で運営した上で実質的な優勝宣言まで出しているわけだから、」

 

ソラシンボリ「最初から『管理教育プログラム』を認めさせるための手段として『アオハル杯』の準備を秋川理事長と一緒にしてきたことに気づかないんだからさ」

 

マンハッタンカフェ「……まんまと乗せられてしまったわけですね、みんな」

 

ソラシンボリ「だいたい、本気で勝ちに行くとなるとアオハルチームは最低でも15人は必要になって、チーム総合力を上げていくために各世代の現役ウマ娘も補充していかなくちゃならないんだから、誰がチームのまとめ役になって音頭を取るわけ? これ、非公式戦だからチームのために苦労したって実績がつかないんだよ?」

 

スカーレットリボン「最初の3年間を走りきったベテランのスーパーシニア級ウマ娘を頼ろうとしても、『URAファイナルズ』との差別化のために『アオハル杯』には3年目:シニア級までしか出走できないわけですからね」

 

マンハッタンカフェ「あくまでもトレーナーのスカウトを受けられなかった未出走バたちの才能発掘と意欲向上のための舞台として『アオハル杯』が準備されているわけですから、現役ウマ娘まで『アオハル杯』に本気を出して それで『トゥインクル・シリーズ』で体調を崩すのは本末転倒というわけですね……」

 

和田T「そして、メンバートレードは今年の年末の『アオハル杯』予選第1戦以降は次の予選までに1度ずつしか認められないわけか……」

 

 

ソラシンボリ「まあ、でも、ボクとしては『アオハル杯』の3年間を目一杯に楽しむつもりだけどね!」

 

 

マンハッタンカフェ「そうなんですか?」

 

和田T「え? どういうことかな?」

 

ソラシンボリ「つまりね、ボクは中等部の3年間を『アオハル杯』、高等部の3年間を『トゥインクル・シリーズ』で行こうってわけ」

 

マンハッタンカフェ「まあ、たしかに中高一貫校の6年間の半分をそれぞれ『アオハル杯』と『トゥインクル・シリーズ』に充てるというのも悪くないとは思いますが……」

 

和田T「余裕綽々だな。再来年の年末の『アオハル杯』本戦で樫本代理の掲げる徹底管理主義による『管理教育プログラム』が施行されるかどうかが懸かっているってのに」

 

ソラシンボリ「ええ? 何も心配することなんてないよね?」

 

 

スカーレットリボン「まあ、そうですね。私たちには“斎藤 展望”がついているのですからね」

 

 

和田T「それを言ったら元も子もないけどな……」ハハッ

 

和田T「まあ、斎藤Tの計画では『アオハル杯』本戦までにESPRITの活動を通じて『管理教育プログラム』を乗っ取って無害化するわけだからな。理事長代理の態度も軟化するはずだ」

 

和田T「そう考えると、ESPRITの活動って本当にトレセン学園にとって重要な働きをするようになってるんだなぁ」

 

マンハッタンカフェ「はい。ESPRITの次なる活動内容としましては散逸した過去の『アオハル杯』の資料集めと展示会の開催となってまして、廃止と復活を繰り返してきた『アオハル杯』の問題点を記録保存して後世に残す活動に入ります」

 

スカーレットリボン「そっか。そうですよね。今回の『アオハル杯』は秋川理事長が開催したわけですけど、元々は学生企画から始まった非公式戦ですから、学園やURAが資料を保管していないわけなんですよね」

 

和田T「そうだった。斎藤Tが先んじて『アオハル杯』復活を知ることができたのは、シンボリ家で保管されていた『アオハル杯』の資料を受け取っていたからだった」

 

 

マンハッタンカフェ「そして、重要なことは廃止と復活を繰り返してきた『アオハル杯』開催による不幸な出来事をゼロにすることです」

 

 

ソラシンボリ「そうだね。『アオハル杯』が未出走バの活躍の場を与えるための舞台であることを周知させて、『トゥインクル・シリーズ』『URAファイナルズ』との棲み分けができるようにして定着させていかないとだから、それをボクが中高一貫校の6年間でやるわけだよね」

 

和田T「あ、そういう考えで……」

 

マンハッタンカフェ「そうでしたか。なら、あなたに今後のトレセン学園の未来を託すしかないですね」

 

和田T「なんだかんだ言って、シンボリルドルフとはちがう在り方だけれども、同じシンボリ家のウマ娘として学園のために何ができるかをしっかりと考えているんだな。えらいぞ」

 

ソラシンボリ「うん、そうだよ。だからさ、ボクは和田Tにその面倒を見てもらいたいんだ」

 

和田T「え?」

 

 

ソラシンボリ「ボクのアオハルチームの担当トレーナーになってよ、和田T」ニッコリ

 

 

スカーレットリボン「お願いします」

 

マンハッタンカフェ「つまり、私とマックイーンさんが卒業した後の1年も担当するわけですね、和田T」

 

和田T「へ」

 

和田T「え、いや、待ってよ。俺、ただでさえトレーナー組合に居場所がないのに、マックイーンが卒業するまでだと決めていたから、マンハッタンカフェと再契約だってできたわけでして……」

 

和田T「第一、マックイーンとカフェが卒業した後、『トゥインクル・シリーズ』に出走するウマ娘と契約してなくちゃ、俺、普通にクビにされるんですけどぉ……?」

 

ソラシンボリ「――――――昔 お世話になっていた先輩トレーナーのチームに戻ればいいんじゃないの?」

 

和田T「ええええええええええええええええええ!? あいつらとぉおおおおおおお!?」

 

ソラシンボリ「ダメ?」

 

和田T「いや、マックイーンたちが卒業した後で契約してくれる可能性があるとしたら、あいつらぐらいしかいないとは思うけどさぁ……」

 

ソラシンボリ「じゃあ、決まりだね」

 

和田T「いや、『決まり』って――――――」

 

和田T「そもそも、5部門につき3人ずつ、かつ優勝を目指すならチーム総合力を高めるためにも現役ウマ娘を3世代はスカウトしなくちゃだぞ? 当てはあるのかい?」

 

ソラシンボリ「うん。『アオハル杯』予選で勝つかどうかは別として、名前を貸してくれる確約を取り付けた現役ウマ娘がもう何人もいるんだ」

 

和田T「え、誰? いくらシンボリ家のウマ娘だからって、そう簡単にスカウトに頷いてくれるものかな? まだ『アオハル杯』に関する考察や研究も進んでいないだろうに?」

 

ソラシンボリ「うん。むしろ、向こうからボクに声を掛けてくれたよ」

 

マンハッタンカフェ「とりあえず、タキオンさんも名前だけは貸してはいますね。『ホープフルステークス』に出走するので今年の『アオハル杯』予選には出られませんが」

 

スカーレットリボン「では、ソラシンボリ率いるアオハルチーム:チーム<エンデバー>のメンバー候補を読み上げますね」

 

 

――――――2年目:クラシック級からエアシャカールに、ダイワスカーレット、ウオッカ、アストンマーチャンです。

 

 

和田T「はああああああああああああああああああああああああああ!? そいつら、記念すべき今の新時代最初の世代の主役たちじゃないかああああああ!?」

 

マンハッタンカフェ「クラシック路線の最有力ウマ娘筆頭に、ティアラ路線の最有力ウマ娘が揃い踏みですか……」

 

和田T「え、何それ!? どういった経緯でソラシンボリに声を掛けてきたわけなの!?」

 

ソラシンボリ「驚くのはまだ早いよ――――――」ニヤリ

 

スカーレットリボン「ダメですよ、お嬢様。さすがにこれ以上はキャパシティオーバーですから」

 

ソラシンボリ「ええ? 和田Tの最高に驚く顔が見たかったのに?」

 

和田T「え!? これ以上まだ何かあるの? やめてよ、脳が現実を拒絶するよ!?」

 

ソラシンボリ「まあ、簡単に言うと『今現在のクラシックレースに集中したいから、強豪同士で集まったチームを作れば、練習の邪魔になる追っかけ(ワナビー)たちを締め出せる』って理由からだよ」

 

ソラシンボリ「その旗頭に選ばれたのが 黄金期を導いた あのシンボリルドルフを輩出した『名家』シンボリ家のウマ娘であるボクだったわけ。実際、ゴールデンウィークが明けてからもボクのことをシンボリ家のウマ娘としてみんな恭しく遠巻きに接してくるわけだから『隠れ蓑にはちょうどいい』ってね」

 

和田T「なるほどな。たしかに『アオハル杯』優勝のためにはチーム総合力を上げる目的で現役ウマ娘が必要だし、世代の中心ともなれば最強戦力ということで引く手数多で、スカウト済みの現役ウマ娘なのに望んでもないスカウトの嵐に晒されて煩わしいわけだ」

 

マンハッタンカフェ「特に『トゥインクル・シリーズ』の現実をまだ体験していない新入生たちが中心になってアオハルチームを結成していますから、普通では考えられないぐらいに気安くアオハルチームへ勧誘してくるわけですしね」

 

ソラシンボリ「そうそう、現役ウマ娘としては『トゥインクル・シリーズ』で勝つのに忙しいから、せめて名前を貸すぐらいのつもりではいるんだけど、ローテーションの重要性がまだわかっていない新入生たちからは気軽に『アオハル杯』で走ってくれることを一方的に期待されてて」

 

和田T「……それはたしかに迷惑この上ない話だな。やはり『アオハル杯』は未出走バたちのトレーナーへのアピールチャンスを増やすためのものであるべきだな」

 

 

ソラシンボリ「だから、ボクには和田Tの力が必要なんだ! ボクのアオハルチームのトレーナーになってよ!」

 

 

和田T「だから、なんで俺なの……? なんで俺がシンボリ家の令嬢であらせられるソラシンボリ様のアオハルチームの担当トレーナーに選ばれるの?」

 

スカーレットリボン「簡単です。和田Tはかつて先輩チームのサブトレーナーとして何人ものウマ娘を指導して いくつもの重賞を獲得してきている その実績からです」

 

和田T「……いや、あいつらはG1勝利を捨ててG2勝利を目標に駄弁ってばかりの底辺チームですよ? そんなところのサブトレーナーとして積み重ねてきた重賞勝利の成績だなんて、何の価値もないんじゃないんですか?」

 

マンハッタンカフェ「……いえ、和田Tの志が立派なだけで、サブトレーナーとして何人ものウマ娘に重賞勝利を与えられているのなら、それはもう立派な才能だと思います」

 

ソラシンボリ「わかってないな、和田Tは。『アオハル杯』は本気の遊び(非公式戦)だからこそ、あれぐらいの緩さがちょうどいいんだってば。その空気に馴染みがあってそれ相応の重賞レースの優勝経験を何度もしている和田Tぐらいの緩さが『アオハル杯』にはちょうどいいんだって」

 

ソラシンボリ「だって、『トゥインクル・シリーズ』の本気の勝負(公式戦)と同じ本気を最低15人も必要なアオハルチームのウマ娘に出させたら、絶対に誰かしら怪我をしちゃうんだよ!? 自分が見込んだ最高のウマ娘とマン・ツー・マンの細心の注意を払った場合でもそうなんだからさ!?」

 

和田T「!!!!

 

和田T「………………」

 

和田T「…………そうか」ハハッ

 

ソラシンボリ「……和田T」

 

和田T「……ホント、人生ってやつは何が起こるかわからないもんだな」

 

マンハッタンカフェ「じゃあ?」

 

和田T「ああ、カフェも手伝ってくれるよね? たしか、元のトレーナーのチームで後輩の指導をしていたって聞いてたけど……」

 

マンハッタンカフェ「はい。トレーナーのように専門知識があるわけではないですが、後輩の指導の経験は十分にあります」

 

ソラシンボリ「なら、決まりだね」

 

和田T「いや、でも、面倒なんて見切れないよ、最低15人ってさ? そもそも、【ダート】【短距離】の指導なんて完全に専門外だし――――――、距離適性にバ場適性、それから脚質だって見極めないと戦力にならないだろう?」

 

ソラシンボリ「大丈夫だよ。その辺のことも斎藤Tがなんとかしてくれるだろうし。そのためのESPRITだよ」

 

ソラシンボリ「そうそう、ボクが率いるアオハルチーム<エンデバー>の役割は円滑な『アオハル杯』進行のために必要なデータ収集とソリューション提供の活動記録を永遠に残すことだからね」

 

 

――――――だから、ボクのアオハルチームの参加資格は『アオハル杯』終了までトレーナーからのスカウトを受けちゃダメってことにしているから。

 

 

これが“皇帝”シンボリルドルフの卒業と入れ違いにトレセン学園に入学した 新たなるシンボリ家のウマ娘:ソラシンボリが築き上げることになる伝説の始まりとなり、

 

結果として中高一貫校の6年間で黄金期を築き上げた“永遠なる皇帝”シンボリルドルフすらも完全に凌駕する前人未到の偉業を『トゥインクル・シリーズ』で成し遂げる前段階として秘めたる決意を胸に『アオハル杯』に名乗りを上げることになったのである。

 

そして、そのソラシンボリが築き上げることになる数々の伝説を現実のものにする働きを成すのが新クラブ:ESPRITであり、その主宰である 数々の新製品や新発明を次々と世に送り出す トレーナーであることが明らかに役不足である“門外漢”の存在が背後にあったのである。

 

しかし、ソラシンボリがシンボリルドルフが導いた黄金期に続く新時代の象徴の1つとなった一方で、その“門外漢”の功績の多くは世に知れ渡ることは決してなかった。

 

それでも、新時代よりもっと先の先の時代を見据えて、これから更なる過酷な運命に立ち向かっていくことになり、その献身の上に人は何を得たのだろうか――――――。

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

斎藤T「……あれはいったい何の集まりです?」

 

桐生院T「ああ、あれはもしかするとファインモーション姫殿下がトレーニングの見学にいらっしゃったのかもしれませんね」

 

斎藤T「え?」

 

桐生院T「あ、ほら、留学してきたアイルランド王族の方ですよ」

 

斎藤T「――――――『アイルランド王族』? そこからお姫様が留学に来ているんですか?」

 

桐生院T「え、知らなかったんですか、皇宮警察の家系の斎藤Tが? たしかに、入寮手続きはまだ済んでいませんが、トレセン学園にすでに通学していますよ? それもSPを同伴で」

 

斎藤T「………………『アイルランド王族』? そんなのがアイルランドにいるんだったら、世界に冠たる英国王室と肩を並べるものじゃないのか!?」スチャ ――――――PDAで検索。

 

斎藤T「あ、ホントだ! 『アイルランド共和国』じゃなくて、『アイルランド王国』になってる!? 国家元首が大統領じゃなくて国王に!?」

 

斎藤T「あ、そうか。儀礼的職務のみを行う象徴君主制か。スウェーデンと同じだ。だから、実質的に立憲君主制民主主義国家なのは変わらないか」

 

桐生院T「ほら、見てください。噂のファインモーション姫殿下ですよ」

 

 

ファインモーション「――――――」

 

SP隊長「――――――」

 

樫本代理「――――――」

 

黒川秘書「――――――」

 

エアグルーヴ「――――――」

 

 

斎藤T「あれがアイルランド王族の姫殿下……」

 

斎藤T「それに、樫本理事長代理に、代理付きの黒川秘書と生徒会長:エアグルーヴも……」

 

斎藤T「そうか。今日の『ヴィクトリアマイル』の祝勝会を早めに切り上げたのも姫殿下の案内のためか」

 

桐生院T「話によれば、今回の留学は5月1日に改元になったのを記念して次の正式な儀礼――――――」

 

斎藤T「天皇退位特例法で新天皇の国事行為たる即位の礼として指定された5つの儀式のうち、今月の初め:5月1日に行われたのが『剣璽等承継の儀』と『即位後朝見の儀』です」

 

斎藤T「そして、『即位礼正殿の儀』『饗宴の儀』は10月22日より、最後の『祝賀御列の儀』は11月10日です」

 

桐生院T「あ、凄いですね。さすがです」

 

桐生院T「そう、今回のファインモーション姫殿下の留学はその即位の礼に出席するために来日されたものでして、残りの儀式に出席するまでの御予定みたいです」

 

斎藤T「なるほど」

 

桐生院T「本当に大変な時期に大変な方がお見えになりましたね、斎藤T」

 

斎藤T「そうですね。ただ、諸外国の代表を招待することになるのは『即位礼正殿の儀』の時です」

 

斎藤T「となると、姫殿下には日本への留学に並々ならぬ情熱があったと見えますね」

 

桐生院T「あ、それはたぶんピルサドスキー姫殿下の影響だと思います。ファインモーション姫殿下の姉君にあたるピルサドスキー姫殿下の最後のレースがエアグルーヴが3年目:シニア級の時の『ジャパンカップ』でしたから」

 

斎藤T「……なるほど、現生徒会長が戦った相手の妹君が留学してくるとはね」

 

斎藤T「…………ピルサドスキーって明らかにスラブ系の名前なのに、それがアイルランド王族の名前でいいのか?」ボソッ

 

斎藤T「いや、そもそも――――――」

 

斎藤T「あの、桐生院先輩? たしか、近代ウマ娘レースの起源はヨーロッパの王侯貴族の娯楽としてバルコニーから見渡せる庭園で踊り子ウマ娘が走り回ったのが由来ですよね?」

 

斎藤T「なら、王族がウマ娘レースに出るって変じゃないですか? それこそ、ウマ娘レースの真剣勝負ともなると、いくらでも故障の危険がついて回るじゃないですか? それにレースで勝ったら踊るんですか、王族が?」

 

桐生院T「そうなんですよ。この場合はピルサドスキー姫殿下がお転婆過ぎたといいますか……」

 

桐生院T「もっとも、そのお転婆もあそこまでいけば立派なものでして、最終戦の『ジャパンカップ』までにイギリス、アイルランド、ドイツ、フランス、カナダ、日本を転戦して、最終的な戦績が22戦10勝でG1:6勝という歴史に残る名バになっていますので……」

 

斎藤T「なら、その妹君であらせられるファインモーション姫殿下もウマ娘レースに出たくてしかたがないと」

 

桐生院T「たぶん、そうなんだと思います。ただ、王位継承順位においてはファインモーション姫殿下が第1位:王太子ですから、それでピルサドスキー姫殿下は自由に世界中を走り回ることができていたんじゃないかと思います」

 

桐生院T「逆に言えば、ファインモーション姫殿下には絶対にターフの上で走るだなんてことはしてもらいたくないはずですよ……」

 

斎藤T「そうなんですね」

 

桐生院T「ああ、でも、ファインモーション姫殿下の警護を口実に徹底管理主義の導入が推し進められるかもしれませんよ、斎藤T?」

 

斎藤T「たしかに、そうなる可能性は十分にありますね――――――」

 

斎藤T「――――――!?」ドクン!

 

 

ファインモーション「…………ん?」クルッ

 

SP隊長「…………?」

 

樫本代理「どうかなさいましたか?」

 

ファインモーション「え、ううん。気の所為だったみたい」

 

ファインモーション「ねえ、それよりもね、私、いろいろと知りたいなっ! この国やレースの素敵なところ♪」

 

 

斎藤T「……え? ええ? えええ?」

 

桐生院T「どうしました、斎藤T?」

 

斎藤T「あ、いえ、何でも……」

 

桐生院T「さっき姫殿下が振り向いていましたよね? 何だったんでしょうね?」

 

斎藤T「さあ……」

 

桐生院T「ともかく、斎藤T。斎藤Tのおかげで冷静さを取り戻せたように思います。本当にありがとうございます」

 

桐生院T「ミークとの契約はこれからも続けていきますが、次の担当ウマ娘を見定めるためにも『春の選抜レース』が楽しみですね」

 

斎藤T「そうですね」

 

斎藤T「………………」

 

斎藤T「…………嘘だろう、三女神様?」

 

 

――――――ファインモーション姫殿下が()()()()()()()()()()でアイルランド王族の直系ウマ娘が断絶するだと!? そんなことを私に告げていったいどうしろと!?

 

 

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