ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XY年05月19日の航星日誌- GAUMA SAIOH
この日は世間的に言えばティアラ路線の最高峰『日本オークス』の日であり、先月のティアラ路線の第一回戦『桜花賞』はもっともスピードのあるティアラウマ娘が勝つとされ、本競走『日本オークス』ではスピードとスタミナを兼ね備えたティアラウマ娘が勝つレースとされている。
一方、クラシック路線のようにティアラ路線の最終戦『秋華賞』にこれと言った格言がないのは、元々が『エリザベス女王杯』がティアラ路線の最終戦だったのがシニア級にも開放されたことによって新たに設けられた歴史の浅さに加えて、その『エリザベス女王杯』の前哨戦になってしまっている格落ち感にもあった。
そもそも、近代ウマ娘レースのクラシック競走は発祥地であるイギリス競バの重賞レースに範を取ったものであり、クラシック三冠レース『皐月賞』『日本ダービー』『菊花賞』がそれぞれ『2000ギニーステークス』『ダービーステークス』『セントレジャーステークス』に対応するわけである。
もちろん、ティアラ三冠レースに関しても『桜花賞』『オークス』はそのままイギリス競バの『1000ギニーステークス』『オークスステークス』に当て嵌まるわけだが、
では、ティアラ三冠レースの最終戦となる『秋華賞』あるいは『エリザベス女王杯』がイギリス競バでは何に当たるのかと言うと、答えは『英国ティアラ三冠レースの最終戦は『セントレジャーステークス』なので当て嵌まらない』となるのだ。
英国クラシック三冠と英国ティアラ三冠の最終戦は共通で世界最古のクラシック競走『セントレジャーステークス』であり、ここだけは近代ウマ娘レースの発祥地である英国競バに日本競バは倣わなかったというわけである。
そのため、ティアラ路線のクラシック級G1レースでは『オークス』制覇こそがティアラウマ娘の最高の誉れであり、“女帝”エアグルーヴのように栄光を掴んだ“オークスウマ娘”は別名“樫の女王”として崇められるのである。
しかし、ティアラ路線の最高峰『日本オークス』の地位はその優勝賞金や観客動員数にも現れているように、クラシック路線の最高峰『日本ダービー』の人気に並ぶことはなく、誰もがダービーウマ娘やダービートレーナーを目指してトレセン学園の門を叩くのだ。オークスウマ娘やオークストレーナーになりたいと思ってトレセン学園にやってくる者は極めて稀である。
そして、5月:春季のウマ娘レースの最高潮においては『オークス』は更なる踏み台となる扱いを夢の舞台:トレセン学園で受けることになっているのだ。
――――――なぜならトレセン学園における『春の選抜レース』はズバリ『日本オークス』と『日本ダービー』の日に執り行われるからである。
基本的に国民的スポーツ・エンターテインメント『トゥインクル・シリーズ』の登録競走ウマ娘になるためには『トゥインクル・シリーズ』を開催するURAの公認トレーナーからのスカウトを受ける必要があり、
年に4回あるトレセン学園における『選抜レース』は自身の競走ウマ娘としての才能を担当ウマ娘を求めて観戦しにくるトレーナーに最大限にアピールするまたとない機会であるため、トレセン学園の生徒全員にとっての共通の目標であった。
しかし、黄金期に総生徒数2000名弱を記録し 今なお総生徒数が増え続けているのに対し、ウマ娘の出走権を握るトレーナーの数があまりにも少なすぎるため、夢の舞台に憧れてやってきた数多くの才能あるウマ娘たちをデビューを飾ることのないままになっていることがトレセン学園の昔からの批判になっているように、
年々ますますトレーナーからのスカウトを受けられる生徒の割合が目減りしていく状況であっても、それを知ってか知らずか、最初から自分が優駿たちの頂点に立つことを信じずにトレセン学園に来る者など誰一人としていないのだから、この日を待ちわびていたウマ娘が颯爽とエントリーを済ませてゲートに乗り込んでいくのであった。
そして、果たして自分こそがウマ娘の頂点である未来のG1ウマ娘であるかどうかが お湯を注いでカップラーメンが出来上がるまでのたった3分以内の競走結果で 次々と決まっていき、出来上がったカップラーメンの麺を啜り、スープを飲み干し、美味しく召し上がった後も勝者と敗者の格付けが続々と決まっていくのである。
ここでおもしろいのは、あくまでも『選抜レース』はスカウトの優先権が与えられるものではなく、自身の将来性をアピールするものでしかないため、別に『選抜レース』で勝てばスカウトが勝ち取れるというものでもない点である。
そのため、『選抜レース』で勝ったにも関わらず『負けたあいつはトレーナーからのスカウトを受けて自分は誰からも声を掛けられない』という“試合に勝って勝負に負ける”という光景も稀に発生しており、
スカウトを受けることができなければ『トゥインクル・シリーズ』に参加することができず、競走ウマ娘としての後世の評価や良し悪しの戦績も公式記録につくことすらなく、そのまま名もなき群衆の一人に追いやれるのだから、ただ勝てばいいというものではなかった。憧れの夢の舞台に立つに相応しい振る舞いもまた暗に求められていた。
極論、スカウトを元から受けて担当契約を結べば『選抜レース』に出る必要もないわけであり、そういった『選抜レース』に最初から出る必要すらない新入生は“エリートの中のエリート”として高みの見物を決める『春の選抜レース』の段階では一際注目を集める存在となっていた。
しかし、そこは走ることが何よりも大好きで勝負事にとにかく熱くなるウマ娘であり、『選抜レース』で華麗なる勝利を飾ってスカウトを受けることこそが揺るぎなき実力の証明であるため、臥薪嘗胆の決意で今年こそはスカウトを勝ち取ろうと意気込む先輩方の猛追を躱して鮮やかにゴール板を駆け抜けた“真のエリート”である圧倒的才能を誇る新入生の勝利にこそ喝采の声は上がる。
さて、ここで少し考えて欲しいが、あなたは『春の選抜レース』に参加するウマ娘でも『春の選抜レース』に参加するウマ娘を見定めるべく観戦しにきたトレーナーでもいい――――――。
『日本オークス』と『日本ダービー』の日に『春の選抜レース』が開催されると聞いて、あなたはどちらの日に『春の選抜レース』に向かう予定を立てるだろうか。それが残酷なまでの『日本オークス』ひいてはティアラ路線の現実である。
事実、トレセン学園に入学してきた目的を果たすための大事な一戦の日――――――、ターフの上で走るウマ娘自身もまた熱烈なウマ娘レースのファンであるなら、クラシック路線の最高峰である『日本ダービー』を現地観戦してきて あの感動と興奮をターフにもっとも近い観客席から味わい尽くしたいと思うものだ。
そのため、『日本ダービー』を来週に控える『日本オークス』当日の『春の選抜レース』1日目の方が圧倒的に出走ウマ娘も観戦者も多く、それは年度最初の『選抜レース』ということで入学してきたばかりでまだウマ娘レースの過酷さを知らない夢見心地の新入生たちやその関係者たちの存在も大きい。
かくして、トレセン学園で年4回は開催されている『選抜レース』であるが、未来のスターウマ娘の誕生を見届けようとわざわざ見に来る一般来場者数や場の盛り上がりようは常にこの『日本オークス』の日が最高であり、『日本ダービー』の日の『選抜レース』2日目は 東京競バ場に生気が吸い取られたかのように とても静かなものに感じられてしまうことだろう。
もちろん、『日本オークス』も『日本ダービー』と同じ東京競バ場での開催なのだから、2週連続で東京競バ場に通い詰めている熱心なウマ娘レースのファンならば、『日本オークス』と『日本ダービー』の間にある天と地ほどの差というものを声に出さなくても理解していることであろう。
それでも、“皇帝”の後を継ぎし“帝王”の次に来る そのウマ娘は全てを目に焼き付けようと『春の選抜レース』での圧倒的勝利も何処吹く風でエクリプス・フロントに駆け込んだのであった。
――――――エクリプス・フロント/会議室
マンハッタンカフェ「おつかれさまでした、ソラシンボリさん」
和田T「余裕の勝利だったな。中距離で8バ身差の勝利だなんて」
ソラシンボリ「別に。トレーナーからの適切な指導を受けていないウマ娘が束になったところで最初から実家で正規のトレーニングを積んでいるボクが負けるわけないじゃん」
ソラシンボリ「ほら、見てよ。樫本代理の指導を受けたチーム<ファースト>のビターグラッセも5バ身差で勝ってるよ。やっぱり、ボクの見立てた通りの強さだ」
ソラシンボリ「あ、ダメだったか、あの子は。素質はあっても自己トレーニングじゃ間に合わなかったか。誰かしらのアドバイスがあれば余裕でボク以外には勝っていただろうに……」
スカーレットリボン「ソラ……」
ソラシンボリ「実際に『選抜レース』に出てみてわかったよ」
ソラシンボリ「みんな、磨けば光るダイヤモンドの原石のはずなんだ。全国津々浦々からそういうものが集まってきているんだから」
ソラシンボリ「そう、みんな同じはずなんだ。それなのに、『選抜レース』で勝ち上がれるウマ娘に共通するのはコネの力なんだって――――――」
ソラシンボリ「ボクの力は最初からシンボリ家の屋敷に集まる優秀な引退トレーナーたちの指導のおかげであって、シンボリ家のウマ娘である恩恵を抜きにして独学と才能だけで走っていたらボクは“ソラシンボリ”じゃなかっただろうね……」
ソラシンボリ「うん、つまらない。全然 興奮しないし、胸の高鳴りも感じない。ボクは生まれながらにして他人より優れているから選ばれることには慣れているけど、ボクと同じように誰かを選ばれる人間にすることができないから……」
マンハッタンカフェ「ソラシンボリさん……」
ソラシンボリ「だから、ボクはタキオン大先輩のように中等部の3年間を『アオハル杯』に捧げて、チームトレーニングで生まれてくるウマ娘の可能性に賭けてみたくなったんだ」
和田T「そっか。自分と戦う好敵手を育て上げたいがために『アオハル杯』の3年間をやりたいように生きるわけか」
マンハッタンカフェ「大胆不敵ですね」
スカーレットリボン「そう言ってスカウトしに来た皆様のご厚意を足蹴にするような振る舞いをするのはよくないですよ、ソラ?」
ソラシンボリ「だって、
スカーレットリボン「だからと言って、【短距離】【中距離】【マイル】【長距離】【ダート】の全部門に加えて『オークス』の中継まで引っ張ってきて同時視聴だなんて……」
和田T「まあ、ここじゃないと6分割の大画面で同時視聴だなんてできないから、エクリプス・フロントの会議室を一日中借りるってのは正解だろうけど、6画面同時に見続けて頭が痛くならないか?」
ソラシンボリ「――――――6画面同時に見ているだけじゃなく聞いてもいるよ?」
和田T「え!? いや、ヘッドホンなんてつけてないし、音声は1画面分しか流れていない――――――」
ソラシンボリ「ほらほら、骨伝導だよ、骨伝導。これで6画面同時に音声も聞きながら、裸耳で外部音取り込みができているってわけ」
マンハッタンカフェ「そ、それは凄いですね。6画面同時に視聴しながら私たちの方を向きながら会話もしているとなると」
スカーレットリボン「本当に斎藤Tはとんでもない人ですよ。ソラのとんでもない要求もいとも容易くソリューションにして解決してしまうのですから」
この日、『春の選抜レース』1日目で最初に圧倒的な存在感を示したのはあのシンボリルドルフと同じ『名家』シンボリ家の令嬢であるソラシンボリであった。
『選抜レース』は通常の競バ番組と同じく1日に12レース開催され、フルゲート:18人になるようにできる限り詰め込まれるため、1部門に参加できる最大人数は216人となり、この時点で総生徒数2200名弱の1割に達する。
それが5部門同時に開催されるため、『選抜レース』に参加する1日の最大人数は1080人なり、全校生徒の半分に達し、それが2日開催されるということで倍の2160人の参加が可能となっていた。
そう、理論上は総生徒数2000名以上にもなったマンモス校の生徒全員が『選抜レース』に参加できるようにはなっているのだ。
もっとも、その2000名以上の生徒たちの全員が『選抜レース』参加を必要としているわけではなく、その中にすでにスカウトを受けて『トゥインクル・シリーズ』で活躍しているスターウマ娘やそもそも選手ではないアシスタントコースの生徒たちも含まれていた。
そのため、ウマ娘レースの王道であるクラシック路線やティアラ路線に憧れて、あるいは自身の距離適性が【マイル】か【中距離】かで悩んで参加状況を見て少しでも自信がある方を選ぶことで【マイル】と【中距離】に参加者が集中しているため、
実際には【ダート】【短距離】【長距離】は1部門の最大人数:216人に達することなく定員割れを起こしているのは当たり前の光景となっていた。
そんな中、ソラシンボリは王道である【中距離】部門の 12レース中 最初の1レース目で8バ身差の大勝をし、すぐにシンボリ家のウマ娘である彼女をスカウトしようとするトレーナーたちに取り囲まれることになった。
しかし、『トゥインクル・シリーズ』への出走権を握るトレーナーの側が絶対有利な買い手市場であっても、名目上は担当トレーナーと担当ウマ娘の力関係は同等であることから、スカウトを受けたウマ娘の側も交換条件を言う権利はあった。
そこでソラシンボリは最初に一言だけ宣うと、たちまちのうちに場は静まり返ることになった。
ソラシンボリ『ねえ、これから東京競バ場と合わせて全ての『選抜レース』を見るからさ、不勉強な輩は研究の邪魔だから帰ってくれないかな?』
それはあまりにも辛辣で傲慢無礼な一言であったが、少しでも冷静に状況を見渡せる大人であったのなら『選抜レース』最初のソラシンボリのレースだけで他のウマ娘の可能性を見落とすことがいかに『選抜レース』に臨むウマ娘たちに対して失礼なことであるかに気づけたはずだ。
その一言だけ告げると、ソラシンボリは自分をスカウトするために集まったトレーナーたちを尻目に人々の間を縫うようにトレセン学園を抜け出して、歩いて数分の距離にあるエクリプス・フロントに駆け込んだのである。
そして、事前に予約していた会議室の大画面モニターを6分割して こうして東京競バ場とトレセン学園で開催される全てのレースに目を通しているわけであり、シンボリ家の侍女:スカーレットリボンは画面に釘付けになっている主人のために身の回りの世話をするのだった。今日もひとっ走りした後にスカーレットリボンが淹れてくれたホットスポドリの一杯が美味い。
また、ソラシンボリのアオハルチーム<エンデバー>の担当トレーナーになった和田Tとマンハッタンカフェも足を運び、今年の『オークス』と『春の選抜レース』の様子を同時に見守ることになった。
今まさにエクリプス・フロントの一室に玉座の間が設けられ、その玉座に深々と座する者こそ、『春の選抜レース』第1レースでその存在を内外に知らしめたソラシンボリであった。
ソラシンボリ「ねえ、腐っても『
スカーレットリボン「え!? そ、ソラ……!?」
ソラシンボリ「まじめに見てよ。シンボリ家のウマ娘であるボクがやることにシンボリ家に仕える侍女が突っ立ったままでいないでよ」
スカーレットリボン「あ、ああ……、申し訳ありません、お嬢様!」
マンハッタンカフェ「………………」
ソラシンボリ「で、アオハルチーム<エンデバー>を率いる和田Tとしてはどう? 誰か面白そうなの、いた?」
和田T「あ、いや……、今日の『春の選抜レース』1日目の出走表を見て 言われた通りに予想してみたけど、ソラシンボリが予想したところしか中ってなくてさ……」ハハハ・・・
ソラシンボリ「……ええ? それで本当に数々の重賞勝利を数多のウマ娘と勝ち取ってきた敏腕トレーナーなの?」
和田T「正直に言って実感はありません。俺の戦績は後にも先にも“名優”メジロマックイーンによってもたらされたG1勝利しかないので」ハハハ・・・
マンハッタンカフェ「おそらく、初見で実力を見抜く洞察力よりも正しい情報と正しい分析に裏付けされた判断力に秀でているのが和田Tなのではないかと思いますよ、ソラシンボリさん」
マンハッタンカフェ「こうしてメジロマックイーンさんの後に担当ウマ娘になってわかったのが、和田Tは気配り上手なところでよく見てくれています。それでいて負けられない勝負で負けない運の強さもあるんです」
ソラシンボリ「あ、そうなんだ。それって『勝負師の勘に優れている』ってこと。侮れないもんだね――――――」
ソラシンボリ「!!!?」ガタッ
スカーレットリボン「どうしたのですか、お嬢様?」
ソラシンボリ「うわっ!? ボクが先にやろうと思ってたのに先を越された!? ボク以外にもバカっているもんだ!?」
和田T「え? どこ? 誰? どのレース? 何が起こった!?」
マンハッタンカフェ「ハッ」
マンハッタンカフェ「もしかして【ダート】部門――――――?」
スカーレットリボン「あ、あれはたしか、先月のアグネスタキオン姉妹の誕生日の時の――――――」
――――――おおっと! アグネスデジタル!
和田T「うおわあああああああ!? よく見たら【マイル】【ダート】の両方にアグネスデジタルの名前が載ってたあああああ!?」
ソラシンボリ「やるねぇ! さすがは“天上人”が選んだだけのことはある!」
和田T「なにぃ!? まさか、
マンハッタンカフェ「デジタルさんが芝とダートの両方のトレーニングコースで練習していることは知っていましたが、これほどとは……」
ソラシンボリ「嬉しいなぁ。初めてお会いした時からそんな気はしていましたよ、デジタル大先生」
ソラシンボリ「惜しむらくは、新入生のボクは『アオハル杯』の3年間を思う存分に楽しんでから『トゥインクル・シリーズ』の3年間も味わい尽くすつもりですけど、中3のデジタル大先生に残された時間はそうありませんからねぇ……」
スカーレットリボン「お嬢様、楽しそうですね」
ソラシンボリ「うん。楽しみだよ。正直に言って“天上人”に導かれた“勇者”が“悪”を討つ御伽噺ってみんなが好きそうだよね」
和田T「まあ、あの方がやることですから……。縁あって大分仲良くなれましたけど、基本的に『楽しいかどうか』『盛り上がるかどうか』だけでトレーナーをやっている“天上人”の気まぐれにはとてもとても……」
――――――なんだって、鐘撞T率いる勇者軍団の名前がチーム<コロンビア>なんだか。
――――――トレセン学園/ダートコース
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
アグネスタキオン「おお! やるじゃないか、デジタルくん! まさか、私にとってもっとも身近な存在の一人であるきみがこれほどの逸材だったとはねぇ! 実に興味深い!」クククッ
斎藤T「おめでとうございます、ピースベルT。あなたが選んだウマ娘はまさしく『アオハル杯』の3年間で愛と勇気の物語を演じてくれることでしょう」パチパチ・・・
斎藤T「本当は来週の『春の選抜レース』2日目にソラシンボリが【ダート】にも出走して話題を独占するはずが先を越されてしまいましたね」
ピースベルT「ありがとう♪」ウフッ
ピースベルT「でも、チーム<コロンビア>としてはまだ何も始まっていないよ♪ だから、あなたのところのチーム<エンデバー>に負けないぐらいの最高の仲間たちを集めておかないと♪」フフッ
斎藤T「別に、アオハルチーム<エンデバー>は私のチームではないんですけどね。担当ウマ娘の名前は貸していますが」
ピースベルT「同じことよ~ん♪ ソラシンボリの後見人であるあなたが背後にいるのなら、ね♪」アハッ
ピースベルT「それじゃ、私の可愛い可愛いウマ娘ちゃんのことを迎えに行ってあげなくちゃ♪」ウキウキ
ピースベルT「デジた~~~~~ん! 待っててね~~~! 今 行くわよ~~~~!」ルンルン!
一方、ソラシンボリが自分の出番が終わったらさっさとエクリプス・フロントに引っ込んだのに対し、私はアグネスデジタルを筆頭にしたアオハルチーム<コロンビア>の担当トレーナーとなった“天上人”鐘撞Tと一緒に『春の選抜レース』を観戦していた。
学生寮においてアグネスタキオンと同部屋のアグネスデジタルの潜在能力の高さは恐るべきものがあり、さすがは独自路線で名を轟かせてきた『名家』アグネス家に名を連ねるウマ娘の一人であったと誰もが思い出すことになった。
そんなアグネスデジタルを筆頭にするアオハルチーム<コロンビア>*1は担当トレーナーである“天上人”鐘撞Tの浮世離れした価値観も相まって“ウマ娘を愛するウマ娘のウマ娘ためのウマ娘によるチーム”となっており、自らを脇役と認める負け組ウマ娘によって固められることになった。
しかし、後世におけるアグネスデジタルの評価がそうであるように、アオハルチーム<コロンビア>に集まったウマ娘たちもまた主役を食う勢いの名脇役のイロモノ揃いとなり、別な意味で多くのウマ娘たちに希望を与えることになったのはまだ誰も知らない。私だけが知っている。
一方、なぜ“天上人”鐘撞Tが自身が率いるアオハルチームを<コロンビア>と名付けたかであるが、それはソラシンボリ率いるアオハルチーム<エンデバー>に倣ったものであった。
――――――<
更に遡ると、キャプテン・クックの南太平洋探検の第1回航海の帆船の名称でもあり、そこから毛利 衛、若田 光一、土井 隆雄といった日本人宇宙飛行士の搭乗率が高かったスペースシャトル・オービターの名称にもなっている。
つまり、公式戦『トゥインクル・シリーズ』で組むことになるトレーナーチームが基本的には星座を構成する恒星の名を冠し、そのほとんどが一等星になるわけなのだが、
非公式戦『アオハル杯』で組むことになるアオハルチームには差別化のためにトレーナーチームと同じ恒星に由来する名付けは許可されなかったため、それならば星の世界への架け橋となる宇宙船で何かおもしろいものはないかと、常日頃から『宇宙船を創って星の海を渡る』ことを明言していた私にソラシンボリが訊ねてきたのがきっかけであった。
そこで真っ先に思いついたのがアーサー・C・クラークのSF小説『宇宙のランデヴー』の主役宇宙船だったわけであり、その意味が“決然とした努力”と訳されることやその名を冠する歴史性を踏まえて、ソラシンボリが歩む前人未到の学園生活に相応しいとなったわけである。
そのことはソラシンボリ自身がアオハルチーム結成報告でチーム名の由来を公にしていたため、そこからアオハルチームはトレーナーチームの由来となる恒星を目指す意味合いで宇宙開発関係から名付けることが一部で受け容れられ、“天上人”鐘撞Tのアオハルチーム<コロンビア>もまた宇宙開発関係から由来していた。
実は<コロンビア>の直接的な由来はキャプテン・クックの帆船に由来するスペースシャトル・オービター:エンデバーと同じく、アメリカで初めて地球一周を果たしたロバート・グレイの帆船に由来する 宇宙に到達した最初のスペースシャトル・オービター:コロンビアであり、実質的に姉妹関係であることを暗に仄めかしたものとなっていた。
そして、ここで言う“コロンビア”とは南アメリカに存在する
ただ、もちろん、ナチス残党の闇組織によってウマ娘へ性転換改造手術を受けた鐘撞TことピースベルTのことだから、ナチス残党の多くが渡った新天地:南米への因縁も込めて
今のところ、アグネスデジタルはまだ正式な契約は結んではいないが、アオハルチーム<コロンビア>を結成している時点で、鐘撞TことピースベルTの担当ウマ娘になることは確定であろう。
実際、アグネスデジタルにとってピースベルTはウマ娘が好きすぎて自分自身がウマ娘になった“自分以上にウマ娘ちゃんを愛する者”という大いなる勘違いから始まった師弟関係を結んでいるのだから。
それが改造人間:ピースベルTにとっては涙をこぼすくらいに嬉しいものがあり、かつて鐘撞Tとして最初の3年間を共に歩んだ最愛の人には絶対に敵わないが、アグネスデジタルの内面の素晴らしさを誰よりも知る者となっている。
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
アグネスタキオン「ふぅン、だいたいこんな感じか……」スタスタ・・・
斎藤T「今のところ、強敵になりそうなウマ娘は見つかったか?」スタスタ・・・
アグネスタキオン「どうだろうねぇ? 今のトレセン学園は『トゥインクル・シリーズ』と『アオハル杯』の間で揺れていて、黄金期の在り方を守ろうとする真面目な子たちが『アオハル杯』に全力を尽くそうと頑張っているのを、トレーナーたちがスカウトをチラつかせてチームの仲を引き裂こうとしているわけだろう?」
斎藤T「ああ。元からスカウト市場は買い手であるトレーナーの側が強かったわけだが、実質的に誰もが人気投票という体裁で最後を飾れる卒業レース『URAファイナルズ』の開催によって、売り手であるウマ娘の側に落ち着きが見られるようになり、スカウト市場は消極化しているわけだから」
斎藤T「そこから更に樫本代理が徹底管理主義の下に打ち立てる『管理教育プログラム』施行を賭けた『アオハル杯』がウマ娘とトレーナーの足並みを更に乱すことに繋がった」
アグネスタキオン「たとえ、重賞レースで勝つことが一度もできないまま みっともなくとも最初の3年間を頑張って走り抜いた先にあるのが、『管理教育プログラム』によって失われていくトレセン学園の自由で開放的な校風だと言うのなら、引退後の学園生活に魅力を感じなくなるわけだしね」
アグネスタキオン「つまり、ソラシンボリが考えたように 中高一貫校の6年間の半分を『アオハル杯』に充てて 残り半分を『トゥインクル・シリーズ』に充てようと考える新入生が現れるようになった――――――」
シンボリグレイス「そうです。入学してすぐに『選抜レース』で活躍をしてスカウトを勝ち取る“エリートウマ娘”の王道を目指す新入生が『URAファイナルズ』開催によって数を減らしたわけです」
アグネスタキオン「おやおや、これはこれは“一等星”シリウスシンボリと共に暗黒期を打破した“優等生”シンボリグレイス大先輩――――――」
斎藤T「それが選択の自由がもたらした新しい価値観の創成ですよ。それが認められないのであれば、多様性を謳うことは辞めるべきですよね」
シンボリグレイス「……こうしてトレセン学園の新しい世代の始まりを告げる『春の選抜レース』の会場にいざ足を運んでみると、今の現状を由々しく思ってしまう自分がいかに旧い人間なのかを思い知らされます」
シンボリグレイス「しかし、暗黒期の『アオハル杯』はまさにウマ娘の自由という理念に基づいたものであり、暗黒期のウマ娘レースの在り方に反発した多くの生徒たちの情熱によって過去最高の盛り上がりを見せていたものです」
アグネスタキオン「抑圧されるからこそ燃え上がるものがあるわけだねぇ。言いつけを破って禁断の果実を口にしたことでエデンの園から追放されたように、人間とはつくづくルールに従えない生き物さ」
シンボリグレイス「その時代の中で樫本Tは『アオハル杯』に参加していた数少ないG1トレーナーだったのです」
アグネスタキオン「……変な話だね? 暗黒期と呼ばれる時代は“トレーナーのトレーナーによるトレーナーのためのウマ娘レース”ということでトレーナー組合で八百長試合が組まれていたんだろう?」
アグネスタキオン「樫本代理が掲げる徹底管理主義に通じるものがあるからこそ、こうして樫本代理の『管理教育プログラム』施行に反対して、トレセン学園の多くの人間を敵に回すことになったんじゃないのかい?」
シンボリグレイス「たしかに八百長試合が組まれていて、トレーナー組合での秘密の指令に従っていれば、いずれは担当ウマ娘の重賞勝利、果てはG1勝利までを可能にするローテーションやトレーニングが下されるようになります」
シンボリグレイス「しかし、最近の追跡調査によると、そうした在り方に反発して当時の樫本Tのように抜きん出た才能を持つ若者に価値を譲ろうとするベテラントレーナーがいたおかげで、結果が全てのウマ娘レースの世界で樫本Tのような若輩者がG1勝利を掴んで暗黒期に黄金期の光が差し込むようになってきたことがわかってきています」
アグネスタキオン「……ふぅン、なるほどね」
シンボリグレイス「そして、樫本Tのやり方は今も昔も変わらない徹底管理主義で、今と少しだけちがうのは公私の使い分けだけですね」
アグネスタキオン「――――――『公私の使い分け』?」
斎藤T「要するに、昔の樫本 理子は有能トレーナーの極みとも言える徹底管理主義を突き詰めながらも、ウマ娘の私事には完全に公としての自分の意志を介入させずに、プライベートではただ私人としてウマ娘たちと接していたわけですね」
斎藤T「だから、担当ウマ娘が非公式戦である『アオハル杯』へ参加することにもなっても、それは公式戦の『トゥインクル・シリーズ』とはまったく無関係の私事だったからこそ、普段は徹底管理主義の下に厳しくやらせているだけに非公式戦はウマ娘の意志を最大限に尊重する在り方だった――――――」
アグネスタキオン「なるほどね。だとすると、そういったプライベートな面への干渉となる徹底管理主義も全て公式戦である『トゥインクル・シリーズ』で勝つために今は許容されるべきものだと考えるようになったわけなんだ」
シンボリグレイス「そうです。『アオハル杯』における最大の報酬とも言えるトレーニングレベルの維持のためにG1クラスの担当ウマ娘がOPクラスのウマ娘ばかりの勝てないチームのための犠牲になった衝撃と悔しさは当人でなければ理解できるものではありません」
斎藤T「そして、その愛情の深さ故に樫本 理子もまた秋川理事長とシンボリルドルフの黄金期の精神に触発されて、全てのウマ娘が幸せとなれる世界の実現のために、徹底管理主義による『管理教育プログラム』の導入を求めている」
アグネスタキオン「……呆れたものだね。つまりは、全員が黄金期の精神とやらのためにこうして啀み合っているわけかい」
シンボリグレイス「はい。私が暗黒期脱却のために方針の違いからシリウスシンボリと対立するようになったのと同じです。願いは同じであるはずなのに、どうして私たちは手を取り合えなかったのでしょうか……」
斎藤T「そんなことはわかりきっていることです」
――――――それがウマ娘の皇祖皇霊たる三女神が望んだことだからです。
新時代最初の『選抜レース』の場には数多くの一般来場者たちが所狭しと集まっており、それは夢いっぱいに『選抜レース』で華麗なる勝利を掴む新入生たちの応援に来た現実を知らない家族友人親戚縁者が大半だった。
そんな中にかつて暗黒期にシリウスシンボリと共にシンボリ家のウマ娘として誉れ高いシンボリグレイス*2の姿があり、暗黒期からその先の黄金期の次に来る新時代に思いを馳せていた。
“皇帝”シンボリルドルフが君臨した6年間の黄金期の間にトレセン学園には新しい価値観や様式が生まれ、そこから更に新しいものが生まれようとしているのに、暗黒期を生きた者にとってはなかなか容認できないものも生まれつつあった。
そのことに異を唱えることは自分がもはや旧い人間であることを認めるように思えて、新時代を求めて暗黒期をシリウスシンボリと共に切り拓いたシンボリグレイスとしては複雑な胸中であった。
事実、シンボリグレイスにとっては理事長代理の地位にまで昇り詰めた樫本Tはまったく知らない他人ではなく、暗黒期に開催された最後の『アオハル杯』にも積極的で非常に好感の持てる数少ないG1トレーナーの一人だっただけに、秋川理事長に代理を任されるほどのその人間性が誤解されている状況に心を傷めずにはいられなかった。
しかし、私からすれば それこそが黄金期の精神を受け継ぐ者たちが求めた結果に過ぎず、黄金期の精神とやらは早くもジメジメとしてカビが生えて特有の臭いを放っているように感じられていた。
それはそうだろう。黄金期の精神というものが暗黒期の有り様を反面教師にして醸成されてきたものなのだから、少なからず毒親である暗黒期の在り方が最初にあって、どこまでいっても暗黒期との親子の縁を切れない“ポスト暗黒期”というのが黄金期の精神の本質なのだ。
そこから黄金期しか知らない新時代の人間たちがトレセン学園の中心になることで暗黒期の忌々しい記憶を綺麗さっぱり忘れ去って初めて“ポスト暗黒期”は完成されるわけであり、いつまでも暗黒期のことを忘れられない黄金期の精神の持ち主たちがいることが新時代の到来を阻む旧弊となりつつあるのであった。
そのため、シンボリグレイスはシリウスシンボリと一緒に私の許に連れてきたソラシンボリが早速『春の選抜レース』で勝ったのはいいが、スカウトしに集まったトレーナーたちを無視して東京競バ場とトレセン学園で行われる全てのレースを同時視聴していることをシンボリ家の侍女:スカーレットリボンからの報告を聞いて暗澹たる思いでいたわけなのだ。
そう、ここに来てトレセン学園のこれまでの在り方を賭けた『アオハル杯』が開催されたことにより、致命的にウマ娘とトレーナーの目線の違いが浮き彫りになり、トレーナーの立場はますます追い込まれることになってしまったのだ。
公式戦『トゥインクル・シリーズ』で担当ウマ娘を活躍させることでしか評価を得られないトレーナーとしては、非公式戦『アオハル杯』に才能あるウマ娘が乗り気になっていることは不都合なことでしかない。
雇用主であるURAから非公式戦『アオハル杯』での頑張りは評価されない一方で、配属先のトレセン学園からは評価の対象になるとは言うものの、それをすぐに受け容れられるほど人間とは賢い存在でもない。
そのため、せっかく『選抜レース』で素晴らしい走りを見せた新入生も『アオハル杯』を理由にスカウトしに来たトレーナーと契約交渉が難航することになり、今年の新入生に対するスカウトの成功率が明らかに落ち込むことになった。
皮肉にもその原因を作ったのが、一番は『トゥインクル・シリーズ』と並行開催されていた『アオハル杯』復活を宣言した秋川理事長、二番は
しかし、“皇帝”シンボリルドルフに“天上人”鐘撞Tと共に黄金期の三巨頭として今なお影響力を発揮し続ける秋川理事長にとっては『URAファイナルズ』新設が最終目標などではなく『アオハル杯』復活までが目標であるため、秋川理事長にとって黄金期とは シンボリルドルフがいた6年間のことなどではなく まだまだ途上であることを誰もが誤解していたのである。
だからこそ、その野心に気づいていながら秋川理事長は樫本代理にこそ『アオハル杯』復活を託し、彼女なりの黄金期の精神を実現する機会を与え、その勢いに乗じてウマ娘レースの新時代を築き上げようとしていたのだ。
そして、その思惑を知ってか知らずか、『春の選抜レース』開幕の第1レースで8バ身差で大勝して諸人を魅了したソラシンボリもまた 普段の学園生活でも圧倒的な存在感を放っており、すうーっと入り込んでくる透明感のある距離の取り方によってシンボリルドルフとはまったくちがう魅力で多くのウマ娘たちから慕われるようになっていた。
事実、『アオハル杯』に対する考え方についてもクラスの人気者としてクラスメイトに訊かれるわけだから、結果として多くの新入生たちがソラシンボリの考えに追従したことで、大半のトレーナーの予想を裏切って『トゥインクル・シリーズ』の出走チケットになるトレーナーからのスカウトよりも『アオハル杯』での友情を求めるように価値観が変わってきたのである。
もちろん、子供の頃からの憧れである夢の舞台『トゥインクル・シリーズ』での活躍を求めて素直にトレーナーからのスカウトに応じる新入生も大勢いるわけだが、全体として新入生にとってトレーナーからのスカウトの価値が明らかに落ちていることを誰もが肌で感じることになった。
何より、非公式戦『アオハル杯』への参加の自由を奪う権利はトレーナーの側にはなく、『アオハル杯』参加を取りやめるように迫ってくる強引なトレーナーがいようものなら、新入生たちはその時点で『トゥインクル・シリーズ』と『アオハル杯』を両立させるだけの手腕も気概もない腰抜けトレーナーだと見限るのだから、やりづらいこと この上ない。
そうなるのも、トレセン学園の今までを打ち壊そうとする悪の樫本代理が誰よりも率先して『トゥインクル・シリーズ』と『アオハル杯』を両立させて、自身の掲げる徹底管理主義の有用性を示そうと 人一倍 頑張っていることをエクリプス・フロントに通い詰める新入生たちにはそれとなく知られていたからである。
なぜなら、理事長代理としての普段の業務に加えて『トゥインクル・シリーズ』と『アオハル杯』の調整もやりこなす激務を見ていたら、いかに普通のトレーナーというのが怠惰な存在に見えてしまうことか、『選抜レース』が始まる前に最初に知ったトレーナーというのがエクリプス・フロントに通い詰める生徒たちの様子を見に来る樫本代理だったというのも非常に大きかったのだ。
なので、暗黒期から黄金期に移り変わった時と同じように、再び時代の荒波がトレーナーの立場に胡座をかく怠け者を洗い流し始めたのである。
しかし、そのように多大な影響力を発揮するソラシンボリの深謀遠慮の源にあるのが、この“斎藤 展望”にあるということを知っているのはごくわずかであり、アオハルチーム<エンデバー>の担当トレーナーが今をときめくマンハッタンカフェの担当トレーナー:和田Tであることから察する程度である。
更に、黄金期の精神に縋る者たちが“皇帝”シンボリルドルフの記念碑として建立したエクリプス・フロントという年中を通して学園関係者と一般来場者が交流できる場所ができたことで、全寮制の学園として外部との交流が一般開放日に限定されていた これまでのトレセン学園の在り方が変わってきていたことをまだ理解できていないようである。
そう、学園関係者と一般来場者がいつでも歩み寄れる公共施設:エクリプス・フロントこそが“門外漢”である私がもっとも力を発揮することができる境界線なのである。それこそが星の海という広大な境界線を渡る宇宙移民の特技であるのだから。
だから、そのことをもっと今のトレセン学園に所属しているトレーナーたちは知らなくてはいけない。エクリプス・フロントはただ単なる黄金期の記念碑でもなければ附属施設でもない。
今まで全寮制のトレセン学園は校舎と学生寮と様々なトレーニング施設とで完結されていたところに、外部交流を促進させるエクリプス・フロントという今までにない要素が加わったのだから、それが与える影響についてレースのことしか知らないトレーナーたちは謙虚に学ばなければならないのだ。
実際、全寮制ということで『選抜レース』のような一般開放日ぐらいにしか会うことが難しかったウマ娘たちの家族友人親戚縁者が年中を通して公共施設:エクリプス・フロントで気軽に待ち合わせして会えるようになったら、ウマ娘レースに出走する競走ウマ娘の精神に与える影響も随分と様変わりするはずなのだ。交番も近くにあるし、民間警備会社の詰め所もあるから、警備の面も万全である。
――――――そして、迎えた東京競バ場:11レース目
和田T「今年の『オークス』を制したのはダイワスカーレット! “ティアラ二冠”達成! “
ソラシンボリ「うん、そうだね。後でアオハルチーム<エンデバー>の一員として『おめでとう』を言わないとね」
アグネスタキオン「いや~! さすがはスカーレットくんだったねぇ!」
スカーレットリボン「はい! 同じスカーレット族だからか、一番の推しは“不滅の帝王”トウカイテイオーですけど、ティアラ路線なら 断然 ダイワスカーレットです!」
マンハッタンカフェ「早めに熱が引いて良かったですね、スカーレットさん」
斎藤T「来週は『日本ダービー』でウオッカとエアシャカールの一騎討ちといったところか」
シンボリグレイス「ティアラ路線からの転向で『日本ダービー』に挑戦とは前代未聞ですね」
斎藤T「誰だってウマ娘レースと言えば『日本ダービー』のことを思い浮かべるのだから、
シンボリグレイス「いいえ。素晴らしいことです」
シンボリグレイス「しかし、すっかりソラシンボリも斎藤Tの色に染まりましたね。元からシリウスシンボリの影響を強く受けていたわけですが、それに輪をかけて破天荒になりました」
シンボリグレイス「最初は“アグネス家の最高傑作”アグネスタキオンのメイクデビューに合わせて1年デビュー回避するつもりが、『アオハル杯』復活のために3年デビュー回避を選択するとは驚きです」
斎藤T「読み違えることになったのは好条件として出された樫本代理の賭けに乗ったせいですよね」
シンボリグレイス「ええ。忌々しいことです。これで『URAファイナルズ』で保証された最初の3年間を走り抜けた先にあるのが黄金期の精神を失った学園生活ともなれば、今年の新入生たちが『トゥインクル・シリーズ』の3年間よりも『アオハル杯』の3年間を優先するようになったわけですから」
斎藤T「それが『アオハル杯』と『トゥインクル・シリーズ』の両方を楽しみ抜く最善の方法ですからね」
シンボリグレイス「そういう意味では全員が純粋だったわけで、責めるに責められないですよ」
斎藤T「ええ。そういうところが血涙あり感動あり絶望ありの公営競技として成り立つウマ娘レースの魅力なのでしょう?」
シンボリグレイス「……誰の思い通りにならないわけですか」
斎藤T「いえ、ただ単なる市場の論理だと思いますけどね」
斎藤T「年々 トレセン学園の総生徒数が順調に増えていっているのに対して、それをスカウトするトレーナーの数が圧倒的に少ない状況が変わらないとなれば、いくら自分が一番になれると信じてトレセン学園にやってきた生徒たちであっても段々と慎重にならざるを得ないですよ」
斎藤T「実際に『アオハル杯』に参加するウマ娘たちに聞いたところ、『トゥインクル・シリーズ』にデビューするまでのモラトリアム期間として打倒チーム<ファースト>を大義名分が与えられたら、『アオハル杯』で得られる3年間の学園生活を楽しみ抜こうという保守的な姿勢にもなるわけですよ」
シンボリグレイス「……え?」
斎藤T「わかりませんか? 大半の生徒たちは『名家』の出身じゃないからこそ、誰だって本当は自分のトレーニングに自信がないわけで、最先端のトレーニング設備に触れる機会に恵まれることを望んでいたわけですよ?」
斎藤T「ポイントは非公式戦のチーム対抗戦という大枠で得られる参加のしやすさと気安さの手軽さが好まれているわけで、最初から元トレーナーから正規のトレーニングを受けて自信のある生徒ほど『トゥインクル・シリーズ』に意識が向かうわけですよ」
――――――だからこそ、『本当に変わるべきはウマ娘の側じゃなくトレーナーの側だ』というのがトレセン学園の新時代を具に見た私の結論です。
後から分析してみれば納得できる理由はいくらでも見つかるわけだが、それをあらかじめ予測できた人間ほどありえないことだと馬鹿にされるのが時代の最先端を行くことである。
どれだけ長くいても中高一貫校である以上は6年で卒業していかなければならないトレセン学園だが、そこに所属して長年に渡ってウマ娘を見続けるトレーナーはそうではない。
だからこそ、3年あるいは6年で代替わりをしていくウマ娘たちの傾向の変化に敏感でなければならないわけなのだが、暗黒期の大粛清の後の絶対的指導者に導かれた6年間の黄金期に馴染んだトレーナーたちには時代の流れを読む目はないに等しかった。
その旧い価値観に縛られたトレーナーたちは時代の流れに鈍感なばかりにいつの間にか時代が変わってしまったことを嘆くばかりの日々に追い込まれてしまうんじゃないかと心配になってしまう。
そして、その新しい時代の思想や価値観を生み出していく中心に位置するのがエクリプス・フロントであり、そのエクリプス・フロントを制するものこそが――――――!
ソラシンボリ「来週の『選抜レース』2日目が楽しみだよ!」
アグネスタキオン「ああ。『日本ダービー』でシャカールくんが“クラシック三冠”に王手をかけられるかもね」
斎藤T「――――――全ては三女神の導きのままに」
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『URAファイナルズ』シナリオ
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『アオハル杯』シナリオ
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『クライマックス』シナリオ
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『グランドライブ』シナリオ
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『メインストーリー』チーム<シリウス>
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『ウマ娘 プリティーダービー』アニメ版
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『ウマ娘 シンデレラグレイ』
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日本競馬史
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