ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
-西暦20XY年05月26日の航星日誌- GAUMA SAIOH
さあ、日本全国のウマ娘レースファンはお待ちかね。『日本ダービー』の時間がやって参りました。
今年の『日本ダービー』と言えば、先週の『オークス』を制したダイワスカーレットの好敵手として知られるティアラ路線の強豪:ウオッカがクラシック三冠レースに殴り込みを掛けてきたことが世間の耳目を集めていた。
そして、春季のウマ娘レースの最高潮にして“クラシック三冠”の最高峰である『日本ダービー』のために、この日の東京競バ場:11レース目に日本中が釘付けになる中、
トレセン学園では『春の選抜レース』2日目が同時並行で行われており、午前中のレースに勝ってスカウトを掴み取ってみせたその足で、東京競バ場に直行して祝杯を上げるのがある種の季節の風物詩になっていた。
トレセン学園の『春の選抜レース』は意図的に『日本オークス』『日本ダービー』の日に重なるように設定されており、それで少なくとも『選抜レース』に出走するウマ娘がクラシック路線希望かそうでないかの選別に利用されていた。
そう、『日本ダービー』を控える『日本オークス』の日の『選抜レース』に出走するウマ娘は大半が1週間後の『日本ダービー』を現地観戦したいから『日本オークス』の日を選ぶわけであり、
日本中が注目する最高の舞台『日本ダービー』を観戦しないのはウマ娘レースファンとしてありえないわけなのだから、
『日本ダービー』の日に『選抜レース』に出るウマ娘も、観戦するトレーナーも、等しく己に自信がないことを表明しているようなものであり、それだけで『日本オークス』観戦を取ったティアラ路線のウマ娘がどれだけ低く見られているかがわかる。
実際、『選抜レース』2日目は先週の1日目と比べて明らかに出走表がガラガラになっており、年に4回しかなく一生を左右する機会とは言っても『春の選抜レース』に限って言うなら2日目に出走した方が確実に勝率が上がることだろう。
もっとも、『選抜レース』はあくまでもその走りを見てトレーナーがスカウトしたくなるように己の素質をアピールするための売り込みの機会に過ぎず、己の実力をアピールすべき観客も少ないのだ。
そして、勝てばスカウトされることが保証されているわけじゃないのだから、定員割れするから勝率が上がると言って『選抜レース』2日目に出走することを選ぶような小心者への評価は推して知るべし。
そのため、『日本ダービー』観戦に余裕で間に合う午前の部はそうではないが、午後の部になると極端に人影が少なくなり、
東京競バ場にウマ娘レースファンの情熱が吸い取られて閑散とする『春の選抜レース』2日目のトレセン学園は異様な静かさに包まれているように感じられたが、
その静寂さを破るように終盤の11レース目のダートレース――――――、まさに『日本ダービー』と時同じくして、“新時代の流星”ソラシンボリはチーム<コロンビア>のアグネスデジタルが先週やってのけた奇跡を再現してみせたのであった。
そして、同時に入線したウマ娘は等しく勝利したものとみなされる規定により、『日本ダービー』の結果はまさかのウオッカとエアシャカールの1着同着というG1史上初の出来事――――――、
そう、『日本ダービー』という日本ウマ娘レースの最高の舞台で起きた奇跡に日本中が沸き立つことになり、日本中がウオッカとエアシャカールの健闘を称えるお祭り騒ぎになったのであった。
そのため、『春の選抜レース』2日目にダートレースも制したソラシンボリの頑張りは虚しく忘れ去られることになったのであった。
というのも、ソラシンボリのまさかの二度目の出走に慌ててダートコースにやってきてスカウトしにきた熱心なトレーナーたちに対してさえ、あまりにもそっけない態度をとってしまったというのもあった。
しかし、トレセン学園におけるソラシンボリの影響力が更に増していくことになったのは、“皇帝”シンボリルドルフでさえも成し遂げられなかったことをやり遂げようとする不動の信念によるものであり、着実にソラシンボリはトレセン学園の伝説となっていくのであった。
――――――トレセン学園/トレーナー室
ソラシンボリ「テン坊さ~ん、進捗どうですか~?」ガチャ
斎藤T「ここにあるフラッシュメモリに入っているのが『春の選抜レース』2日目の分だ」スッ
ソラシンボリ「どれどれ? 見せて見せて~!」
斎藤T「この通り、表計算ソフトを目次にして参加者全員分のレースの映像記録とトレーニング資料が紐づけされているから、依頼としては以上かな?」カチカチッ ――――――フラッシュメモリをPCに接続してデータの中身を見せる。
ソラシンボリ「わあ凄い! さすが~! 仕事が速ーい! これは『春の選抜レース』2日目で日の目を見なかった子たちへの最高の宝物になるね!」
スカーレットリボン「これを本当に配るわけなの、ソラ?」
ソラシンボリ「当然。大人が仕事をしないんだったら、やりたいと思ったボクがやるしかないじゃないか」
斎藤T「しかし、『日本ダービー』で起きた奇跡によって掻き消されたわけだが――――――」
――――――3年後もそんな感じでウマ娘をスカウトして トレーニングさせて レースに出走させられる身分であるといいですね。
斎藤T「いやはや、ウマ娘の未来を憂えるシンボリ家の令嬢が発する最高の脅し文句ですね」
スカーレットリボン「本当にこの子はなんてことを言うのでしょうかねぇ……」ハア・・・
ソラシンボリ「だって、大人が平然と嘘をつくんだから、大人のやることなんてボクには信じられないよ」
斎藤T「だからと言って、AIが自動生成したトレーニング資料がどこまであてになるか、信頼性の保証はできませんよ?」
ソラシンボリ「いいよいいよ。そのことはちゃんと説明した上で渡すからさ」
ソラシンボリ「重要なのは『選抜レース』の結果を受けて昨日までの元気が嘘のように消えた子たちへの気遣いだから」
ソラシンボリ「ほら、やっぱり、この子なんてAIから見ても素質は十分だって判定が出ているじゃない。あとは曲がる時のフォームや変な癖を解消すればいいってのはボクと同じ意見だし、そこそこ信頼できそうだね、これなら」カチカチ・・・
ソラシンボリ「本当に弱者救済を掲げるのなら、AIによる自動判定でも何だって利用して、明日を見失ってしまった子たちを立ち直らせて、自主退学や引きこもりになるのを阻止するべきだよ」
ソラシンボリ「子供のボクに思いつくことを大人がやらないなんてどうかしているよ、まったく」
スカーレットリボン「ソラ……、やっぱり、私がトレセン学園で受けた仕打ちに対して――――――」
ソラシンボリ「それもあるし、ボクとしては友達のことは大切にしたいと思っていることだし、何よりもそうしたら一生の恩としてこれからずっと扱き使えるよね!」ニッコリ
スカーレットリボン「もう、ソラったら! 相変わらず親の顔が見てみたい……!」※生みの親であっても育ての親ではない者の嘆き
スカーレットリボン「でも、本当に凄いですね。1日目と比べて2日目は出走者が少ないにしても、これだけの精度と速度で個人毎に最適化されたトレーニング資料を打ち出せるだなんて……」
斎藤T「いや、そんなに難しい話じゃないですよ、『選抜レース』に出ているウマ娘の
斎藤T「一番は、『皇帝G1七番勝負』でインプットしたG1レースに出走する名バたちの走りを再現したシミュレーションデータと、今回の『選抜レース』に出走する未出走バたちの走りを比較するだけですからね」
斎藤T「あとは比較するための『選抜レース』の分析可能な映像データが手に入るかどうかであって、巷にはバ券予想アプリなんてものがあるわけでしてね」
斎藤T「もっとも、これは映像データから起こしたシミュレーションデータで客観的に分析できる上っ面なものであって、『選抜レース』に出る未熟な未出走バ向けだからこそ通用するわけで、さすがにG1ウマ娘を輩出するような細部に渡るプロのトレーニング内容までは模倣できません」
ソラシンボリ「いや、それで十分だってば。外見だけでわかる明らかなフォームの乱れやG1ウマ娘とのちがいを比較分析で指摘されるだけでも自己トレーニングだけで『選抜レース』に臨んできた子たちの大きな励ましになるから」
ソラシンボリ「これ、いいね。トレーナー業までAIに取って代わられるのは倫理的に相当にマズいことだけど、トレーナーがつくことができない大勢の子たちに『選抜レース』という機会にAIが自動生成したトレーニング資料が渡されるようになったら、今以上に『選抜レース』に積極的になれる学園になると思わない?」
ソラシンボリ「うんうん、いいよ。トレセン学園で引きこもりになる子の原因の大半は『選抜レース』での結果以上に自己トレーニングでの成長を見込めなくなって八方塞がりになっていることにあるわけだし」
斎藤T「――――――つまり、希望だね」
ソラシンボリ「そう、希望がなくちゃ 人間 生きていけないわけだから」
ソラシンボリ「斎藤T、将来的に未出走バ向けのトレーニングAIの提供ってできない?」
斎藤T「それは極めて難しい話です。このシミュレーション結果を出力しているのは『皇帝G1七番勝負』で使用した超高性能VRシミュレーターのリソースを流用しているからであり、それと切り離して業務用にリリースするためにはトレセン学園にシミュレーター専用のスーパーコンピュータルームを設置する必要があり、電力消費や保守管理の面から言って現実的ではないですね」
ソラシンボリ「そっか。しばらくは斎藤Tのところの超高性能シミュレーターのリソースを使わせてもらうしかないんだね……」
スカーレットリボン「あと、印刷代もバカにならないと思うわ、それ。全員に配るトレーニング資料っていったい何ページになっちゃうのかしらね……」
ソラシンボリ「あ、たしかに。物理的にも費用が嵩んじゃうか……」
斎藤T「そうですよ。今回の依頼の費用はそのフラッシュメモリ[128GB]分で済んでますけど、実際に印刷するとなると 全員が全員 大成するとも限らないから費用対効果はまったく望めません」
斎藤T「なので、私としてはデータ配布は公共の場に複合機とセットになったノードを設置して、必要に応じて自費で印刷させるのが経済的だと思いますね」
斎藤T「具体的にはゲームセンターに置いてあるライブモニターが参考になるんじゃありませんか?」
ソラシンボリ「ああ、わかるわかる! あれだね! ゲームセンターのICカードでプレイ状況を保存して、それを読み込ませるとライブモニターでリプレイできるってやつだよね! 他にもプレイ状況に応じていろいろな特典が得られるってやつでしょう?」
スカーレットリボン「つまり、事前にICカードに保存したウマ娘レースの映像データを読み込ませると、その映像データからシミュレーションデータを作成して、分析結果とそれに応じたトレーニングを自動生成した資料データとして渡してくれる感じですか?」
ソラシンボリ「いいねぇ! 段々と形になってきたよ! それ、学園に置いてもらおうよ! 無理だったらESPRITで持っておけばいいしさ!」
斎藤T「となると、中継サーバーと保守点検サービスが必要となってきますね。私一人で保守管理してもいいですけど、簡単な機材トラブルぐらいは自分たちで対応してもらいたいので、ライブモニターのノウハウを提供してもらうためにゲームセンターやゲーム会社に買収を掛けないといけませんね」
ソラシンボリ「じゃあ、どこか潰れそうなゲームセンターを買っちゃおうよ。そうすれば廃棄されるライブモニターを堂々と分解することができるよね」
斎藤T「――――――誰がその買収契約をするんですか?」
スカーレットリボン「そうよ、ソラ! いくら斎藤Tが何でもできるからと言っても限度というものがあるわ! さすがに話が飛躍しすぎよ! こんなの、一個人の手に負える話じゃないわ!」
ソラシンボリ「あ、たぶん、シリウスさんに言えば何とかなると思うから安心して欲しいな、その辺り」
スカーレットリボン「ええええええええええええええ!?」
斎藤T「あ、そうなんだ。それじゃ、そういうことでまずはライブモニターとICカードのノウハウをいただくためにゲームセンターの買収を進めておいてください。こちらは肝となるAIの育成と提供できるソフトの開発を進めておきますので」
ソラシンボリ「はーい!」
スカーレットリボン「…………話がどんどん大きくなっていくわねぇ」
新入生であるソラシンボリにしても、配属直後に3ヶ月の意識不明の重体に陥った“斎藤 展望”にしても、『春の選抜レース』は初めてであり、実際に目の当たりにした敗北者たちの絶望は見るに堪えないものであった。
そう、レースの世界は非情であり、栄光を掴み取る勝者がいるのならば踏み台となる敗者がいるのは当然の話であり、入学したばかりの夢や希望に満ち溢れていた新入生たちの表情は一斉に曇ることになった。
実際、単純計算で1日に12レースあるので当日の『選抜レース』の勝者は一着同着を除けば1部門につき12人で、5部門あるので60人、2日間あるので120人にしかならないわけで、フルゲート:18人立てとするとトレセン学園の全生徒数:2200名弱に届きそうな参加可能枠の中でたった5%程度しか勝者に成り得ないのである。
しかも、その5%の勝者になっても勝てば必ずスカウトを受けられるわけでもないし、スカウトできるトレーナーが観戦していなければ意味がないので、1日目よりも閑散としている2日目で目撃することになった
こんなのが毎年のように繰り広げられていたわけなのだから、“門外漢”である私はもちろん、普通とはちがう感性の持ち主のソラシンボリもあまりの仕打ちに息苦しかったが、精一杯頑張って誰もスカウトに来ることがないレースをしたウマ娘たちが一番に悲しいに決まっている。
だからこそ、こうして『日本ダービー』で起きた一着同着の奇跡に日本中が沸き立つ裏で、どうにかして『選抜レース』で起きる残酷な光景がなくなることを願って、無い知恵を絞って悲劇的現状の改善案を必死に捻り出そうと躍起になっていた。
シンボリ家の令嬢:ソラシンボリとしては偉大なる先人:シンボリルドルフとはちがった観点で全てのウマ娘が幸福になる世界の理想を追求しているわけであり、それは己の良心の感じるままに疑問に思った現状への改善に関心を寄せていた。
私としてもああいった人間の心を弄ぶようなことが平然と繰り返されていることにゾッとしつつ、それによって裏世界でとんでもない妖怪が誕生し それを退治させられる羽目になるのが目に見えているからこそ、面倒に思っても妖怪退治が始まる前の妖怪誕生阻止のために『選抜レース』で繰り広げられていた残酷な光景を消し去ることに真剣になっていた。
そこでゲームセンターで見かけたライブモニターとICカードのシステムをヒントにしたノードを学園に設置して、必要に応じてウマ娘レースの映像データを収集してシミュレーションデータを作成してAIが自動生成した資料データを渡す仕組みをESPRITが提供するソリューションとして製作する試みが始まったわけである。
私がゲームセンターに足を運ぶことになったのもソラシンボリが率いるアオハルチーム<エンデバー>の交流会として、チームメンバーとなった2年目:クラシック級ウマ娘の最強議論に名を連ねるエアシャカール、ウオッカ、ダイワスカーレット、アストンマーチャンと一緒に休暇を楽しんだからだった。
その時に顔を合わせたのが彼女たちの担当トレーナーである脳科学者で博士論文を鋭意制作中の望月Tとロマンスグレーに憧れる甘粕Tであり、ウマ娘レースに興味がない“門外漢”の私がいうのもなんだが、黄金期の後の新時代を代表するに相応しい型破りな新人トレーナーたちであった。風貌に関して言えば、世界最高峰の皇宮警察のエリートの息子である私以上にパンクであった。
今日は『日本ダービー』で望月Tのエアシャカールと甘粕Tのウオッカが激闘の末に一着同着という奇跡を起こしたわけであり、一応はチームメイトではあるが なぜか私に感謝の電話が真っ先に来たのだが、私はソラシンボリと一緒に誰の興味を惹かなかったレースの空虚さに立ち竦んでいたところだった。
ちなみに、一着同着が起きた場合のウイニングライブは規定によると一着バ全員が勝者の扱いになるため、勝者の数だけウイニングライブをする決まりになっており、敗者はその数だけ勝者のために踊らなくてはならないそうなのだ。
ただし、勝者をセンターに迎えるウイニングライブを敗者に何度も強いるのは酷い仕打ちになるため、一度はレース直後にウイニングライブをするのは絶対であっても、二度目は勝者となる一着バの意向によって後日にウイニングライブを延期することは可能であるとのこと。
あるいは、海外遠征と同じくステージに玉座を置いて他の一着バを登場させることも可能だが、外国バが国内の重賞レースを制するよりも一着同着になる確率の方が低いため、それを想定したステージ構成になっていないので今回の場合は見栄えが非常に悪くなるとのこと。
そのため、人気順に従って3番人気のウオッカが1番人気のエアシャカールに順番を譲って、レース当日のウイニングライブはエアシャカールがセンターを飾り、翌日はウオッカが同じ場所でセンターを踊ることになったのだ。
なので、『日本オークス』『日本ダービー』の結果により、アオハルチーム<エンデバー>はクラシック三冠路線とティアラ三冠路線の最強ウマ娘を全て擁することになり、早速だが学校裏サイトでは『アオハル杯』が始まる前から樫本代理が率いるアオハルチーム<ファースト>に勝っているとすら評されることになった。
そもそも、主将であるソラシンボリが先週の『選抜レース』で中距離を8バ身差で圧勝したのに対し、チーム<ファースト>のビターグラッセが5バ身差で勝利していたこともあって、樫本代理が指導したビターグラッセも普通に凄いのだけれどチーム<エンデバー>との歴然とした実力差を物語るものとなっていた。
――――――が、そんなことはどうでもいい! そもそも樫本代理は敵じゃないし、私にしても、シンボリ家の令嬢にしても、樫本代理にしても、目の前で悲しみに暮れる大勢のウマ娘の不幸を取り去ることができないでいるのだから!
――――――トレセン学園学生寮/公会堂
フジキセキ「わぉ……、これだけある分析結果とトレーニングメニューの資料を配って欲しいわけなんだ……」
ヒシアマゾン「へえ、今日の『選抜レース』に出た子たちに明日への希望を見せるためかい」
ソラシンボリ「……ダメでしょうか? 私一人で今日の出走者全員に手渡しするのはとても難しいです」
ナリタブライアン「どうなんだ? 毎年のように寮のみんなにクリスマスプレゼントを配っている2人なら、これぐらいの量ならすぐに配り終えられると思うのだが?」
フジキセキ「そうだね。基本的に配達物は公会堂で着荷して各々が自分で回収するようにしているから、配達物として用意してくれれば自分たちで持っていってくれるよね」
ヒシアマゾン「けど、『選抜レース』に出た子たちに渡すんだろう? たしかに、塞ぎ込んで部屋に閉じこもりきりになる子もいるだろうから、早めに渡してやった方がいいだろうね」
ヒシアマゾン「よし、わかった! 後のことは任せておきな、ソラ! なに、これぐらいの量ならすぐに配り終えるさ!」
フジキセキ「うん! 『選抜レース』に出ている子なら出走表にはっきり書いてあるし、自治会の私たちなら部屋割りもバッチリ憶えているから、すぐに渡せるね!」
ソラシンボリ「ありがとうございます!」
ナリタブライアン「よかったな、ソラ」
ソラシンボリ「ブライアン先輩も御二方にお声掛けしていただいてありがとうございました。おかげで、一刻を争う事態を何とかできそうです」
ヒシアマゾン「でも、こんなのが『選抜レース』当日に配られる時代になったんだねぇ。こいつはたしかにそもそもスカウトを勝ち取らないとトレーナーからの指導を受けられなくて自己トレーニングじゃ伸び悩む大勢の子たちの希望になるね」
フジキセキ「うん。全てが全てAI任せとはならないと思うけど、これで『選抜レース』をまず勝ち抜けないたくさんの子たちの新たな指針ができて、前を向くことができるようになるね」
ソラシンボリ「そうですよ。中央トレセン学園に来ているウマ娘はみんなダイヤモンドの原石であるはずなんだから、磨かないと光らないのは当然なのに、誰もなんとかして輝かせようとしないのはおかしいと思います」
ナリタブライアン「……ソラ」
フジキセキ「……そうだね」
ヒシアマゾン「……ああ、そうだとも」
ヒシアマゾン「まったく、トレーナーからの評判を『選抜レース』で落としてでも成し遂げたいものがあるってのは素晴らしいことだよ、ソラ」
フジキセキ「うん。さすがはシンボリ家のウマ娘だね。しかも、シンボリルドルフの時代から更に進化したやり方で全てのウマ娘が幸福になる理想を実現しようとしているわけだしね」
ナリタブライアン「ああ。こいつと話していると、シンボリルドルフとトウカイテイオーを同時に相手にしているような感覚になるから、その2人の長所を受け継いだ“新時代の流星”というわけだな」
ソラシンボリ「それほどでもないです」
ヒシアマゾン「じゃあ、早速 手分けして配っていこうじゃないか」シュタタタ!
フジキセキ「うん。一刻を争うものだからね、これは」シュタタタ!
ソラシンボリ「――――――『選抜レース』1日目に出てた子たちには用意できなくて本当にごめんね」
ナリタブライアン「お前が気に病むことじゃないさ、ソラ」
ナリタブライアン「私も副会長になった所信表明で“怪物”に挑戦する者たちに胸を貸してきたわけだから、『選抜レース』に出走する新入生の相手をしてきたが、結果を出せずに落ち込んでいるウマ娘たちに掛ける言葉が相変わらず見つからない……」
ナリタブライアン「皮肉なものだな。こうしたトレセン学園の当たり前に対して問題提起して問題解決に向けて本気で取り組める人間というのが、学園一の嫌われ者であったはずの“門外漢”なのだからな……」
ナリタブライアン「私たちはトレセン学園という小さな世界で起きることを常識と捉え、時代の流れに乗ることができずにいるのかもしれないな……」
ソラシンボリ「もちろん、根本的な原因はトレーナー不足ですけれど、トレーナー不足をゼロにすることはできなくても それに代わる代替案を模索して 問題解決に乗り出したっていいじゃないですか……」
ソラシンボリ「困っている人が、悲しんでいる人が、落ち込んでいる人がこんなにもたくさんいるのに、何もしないだなんて人間としておかしなことじゃないですか……」
――――――それが“私”である以上に“ボク”が感じる世界の歪み。
ナリタブライアン「……お前は本当にそれでいいのか? 一人の競走ウマ娘として頂点を目指すのを後回しにしても?」
ソラシンボリ「ボクは、重賞ウマ娘になったからと言って その競走ウマ娘が幸せな人生に送れるとは限らないことや、その競走ウマ娘から生まれた子が幸せになれるとは限らないことを 人一倍 知っているからねぇ……」
ソラシンボリ「だいたい、前人未到の史上初の“無敗の三冠バ”にして“最強の七冠バ”である“永遠なる皇帝”シンボリルドルフであってもレースでの勝利で理想が叶えられなかったことを繰り返してもまったく意味がないと思っているから……」
ソラシンボリ「このボクに競走ウマ娘としての才能がどれだけあったとしても、ボクが叶えたい夢を実現する手段にウマ娘レースが成り得ないのなら、そこまで自分の人生を懸ける価値もないよ……」
ソラシンボリ「だったら、ボクはやりたいようにやるだけだよ、トレセン学園で。“永遠なる皇帝”シンボリルドルフのように、“不滅の帝王”トウカイテイオーのように」
ナリタブライアン「……そうか」
ソラシンボリ「でも、そこまで絶望的な話じゃないんだ」
ソラシンボリ「今回の『選抜レース』の反省点と改善点を綴った報告書を入れた封筒ってさ、普段から何百枚も用意しているだなんて普通はないじゃん」
ナリタブライアン「ああ、そうだな。だが、しっかりと封筒に入れてあったじゃないか、ひとりひとり」
ソラシンボリ「うん、だから、急いで東京中で売ってある封筒を買い占めてきて間に合わせてくれたんだ、斎藤Tってば。あと、インクや印刷紙もね」
ナリタブライアン「……なんだと? 本当か、それは? あの山のような数を?」
ソラシンボリ「そう。だから、しっかりと封筒に入れてあったでしょう、全部?」
ナリタブライアン「…………たしかにな」
ソラシンボリ「それが不可能を可能にする“学園一の切れ者”の所業というわけで」
――――――希望はあの満天の星々が放つ光のように瞬いているから。
新時代に現れたシンボリ家の新入生:ソラシンボリはシンボリ家の惣領娘:シンボリルドルフとはちがう。似ているようでまったくちがう。同じシンボリ家のウマ娘でもこうも見据えているものや目指しているものがちがうのかと周りは驚くばかりである。
そのことは“皇帝”シンボリルドルフの黄金期を側で支えてきた誰もが思うことであり、ナリタブライアンの印象では“皇帝”シンボリルドルフと“帝王”トウカイテイオーの両者の特長を併せ持ちながらも両者の反省点を踏まえた立居振舞をしていることから、現在の日本ウマ娘レース界の実態に対する不満や諦観が大いにあるためか、それが自身の勝利や過度な期待を求めないことで得られるウマ娘としては異質な透明感に繋がっているように感じられた。
そう、ウマ娘特有の闘争本能に由来する執着心が抜け落ちているように感じられ、競走ウマ娘としてはあのアグネスタキオンをも上回る才能を秘めていながら世を儚むような見方が根底にはあったのだ。
それがなぜなのかは多くの人間の知るところではないが、とにかく多くのウマ娘にとっての当たり前が抜け落ちているからこそ、多くのウマ娘が見落としている何かを見出すことが得意であり、多くのウマ娘が熱中することに対して理解はするが共感はできないためにトレセン学園の顔役である生徒会長の器ではないとも最初から言い切ってもいた。
そのため、“皇帝”シンボリルドルフに親しいウマ娘ほど、その在り方があの“斎藤 展望”に非常に似通っていると思うわけであり、自然とソラシンボリの行動の裏には私の影響があるものだと信じて疑わないようになってさえいた。
だからこそ、G1レースで史上初の一着同着が起きた『日本ダービー』で沸き立ち 2日連続のウイニングライブに日本中が心を躍らせる中で『選抜レース』2日目に出走していた生徒たちに送り届けられた封筒がトレセン学園の命運を確実に変えることになり、その善意が新たな波乱を呼ぶことになるとはこの時は誰も想像していなかった。
――――――そう、事の発端が今回のソリューション提供のための
物語としては、伝説のクソローテーション『URAファイナルズ』の考察を序章に据えて、
それに続く伝説のクソチームバトル『アオハル杯』の考察を本編で行いながら、
今回は年に4回はあるという設定の『選抜レース』についての考察も行う回となっている。
アプリ版『ウマ娘』の育成モードでは全ウマ娘共通の第1目標『
育成モードの1ターンは半月という計算であるため、逆算すると育成モード開始はきれいにシーズン初めの1月前半ということになり、
キャラストーリーではウマ娘とトレーナーが様々な出会いから劇的な担当契約を結んでいても、実際には翌年を迎えてからURA登録競走ウマ娘としての二人三脚が始まっていることになるらしい。
そのため、アプリ版準拠を掲げる大半の二次創作で、入学してすぐに『選抜レース』で光るものを見せてトレーナーからのスカウトを勝ち取ったウマ娘が年を跨がないうちに『
それ以前から年に4回ある一生を左右する大事な『選抜レース』が具体的にいつ頃にあるのかを考察し、
入学してすぐの『選抜レース』でスカウトを受けて『
私の結論では春夏秋冬に1回ずつある設定となり、『春の選抜レース』は入学シーズンと6月後半から始まる『
そうすれば、重賞レースはその日の競バ番組の11レース目になるので、その時間まで東京競バ場の近場にある中央トレセン学園での『選抜レース』に立ち寄ることも容易になるため、そのために『選抜レース』を見にわざわざ一般来場者がたくさんやってくることにも説明がつくのだ。
しかし、そんな風に『春の選抜レース』の時期を結論づけると、いかに『春の選抜レース』でスカウトを勝ち取るという結果を掴めなかった惨めなウマ娘が『日本オークス』『日本ダービー』という最高の舞台の裏で大勢生まれているのかも具体的になり、極少数の勝ち組と大多数の負け組の線引も明瞭になってしまっている。
だからこそ、斎藤 展望とソラシンボリはそんな現状が救済されないことを変えるべく無い知恵を絞ってソリューション提供に乗り出していくのだが――――――。
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