ウマ娘超光速戦記 -TACHYON Transmigration- 作:LN58
その日はメジロ家が主催する6月から始まる『
私も担当ウマ娘:アグネスタキオンの『
そして、マンハッタンカフェの担当トレーナーとしていよいよ前人未到の“春シニア三冠”に王手をかけた『宝塚記念』に向けて最終調整を始めている和田Tとしてはその功績でもって元担当ウマ娘:メジロマックイーンの婚約者に相応しいトレーナーになろうと意気込んでおり、その集中力を切らさないために敢えてメジロマックイーンとは距離を取っていた。
そのため、私もウマ娘レース業界を腐らせてきた下世話な連中とは関わり合いを持ちたくないため、存在感を影と同化させる護符と葉巻に擬装した魔除けの香木を持ち出していた。
会場に入る前の喫煙所で焚いた香木の魔除けの香りをしっかりと服に染み込ませ、護符をネクタイピンの裏に留め、和田Tと一緒に交流パーティーの会場に足を踏み入れると、立ち眩みがしてしまうほどのエゴが渦巻いていた。
感覚が鋭くなった和田Tも気分が悪くなるのを耐えながら、主催者であるメジロ家の面々に挨拶をしていくわけであり、その中には『宝塚記念』でマンハッタンカフェと対決することになるメジロライアンやメジロパーマーといった強豪ウマ娘やその担当トレーナーたちも当然いるわけで、和田Tとの間に静かに火花が散っていた。
ただ残酷なことを言わせてもらうと、和田Tとマンハッタンカフェが『宝塚記念』で勝って史上初の“春シニア三冠”を達成する確率が現時点で8割らしいので、慢心せずに挑めばメジロライアンもメジロパーマーも敵ではないのだ。
しかし、さすがは人面獣心のドス黒いエゴが渦巻く交流パーティーであり、下世話な連中の口汚い嫌味が容赦なく和田Tに襲いかかる。
――――――和田Tの担当ウマ娘であるメジロマックイーンとマンハッタンカフェ、どちらが強いウマ娘であるのか?
これには主催者側として招待客を饗していた元担当ウマ娘のメジロマックイーンも思わず耳を欹てざるを得なかった。
一心同体を誓い合って『トゥインクル・シリーズ』を支え合って時には心中を辞さない覚悟で駆け抜けた2人であったが、担当ウマ娘としては唯一の担当トレーナーであっても、担当トレーナーにとってはこれから重ねていく実績の中での数ある担当ウマ娘の一人に過ぎないのが現実であった。
そのため、自身が引退した後に新たに再契約を結んだ同期にして同世代の“摩天楼の幻影”マンハッタンカフェがメジロ家の使命である『天皇賞(春)』を圧勝して史上初の“春シニア三冠”に王手をかけたことに思うところがないわけではない。
実際、メジロ家最強のウマ娘の担当トレーナーであると同時にそれを上回る実力の“春シニア三冠ウマ娘”の担当トレーナーとしての名誉を得たとなると、世間の評価というのは非常に気まぐれで身勝手なものになるだろう。
そうなのだ。今までメジロマックイーンの後塵を拝してきた同世代の
もちろん、そんなデマは当人たちの耳に入らないように私が暗示を掛けているので知らぬは当人ばかりとなっているが、この場にいる下世話な連中にとっては聞き出すのに絶好の機会であったというわけだ。もちろん、直接的に噂が本当かどうかだなんては訊き出すことはないが。
しかし、あれから私の庇護の下に静養と修養を経た和田Tは見違えるぐらいに気力が漲っており、更にはソラシンボリ率いるアオハルチーム<エンデバー>の担当トレーナーにもなったこともあって一皮剥けていた。
そのため、和田Tはそうした悪意や好奇に屈することなく、メジロマックイーンとの一心同体あっての現在の自分であり、あの時の自分にとっての最強のウマ娘は今も昔もメジロマックイーンであることを言い切り、
そのメジロマックイーンとの一心同体で磨かれた自分が新たにトレーナーとしての職務を果たして自分なりの最強のウマ娘:マンハッタンカフェを再契約で世に送り出すことができることこそがメジロの誇りとしたのである。
言うなれば、これは『トレーナーなんだから次の担当ウマ娘を探してレースで勝たせるのは当然だろう!』という至極当然のことを 無理矢理 メジロに結びつけて毅然と返答したものであった。
この堂々たる回答に不満を持った下世話な連中は和田Tがベテラントレーナーたちを出し抜いて“メジロ家の至宝”メジロマックイーンと担当契約を結んだことでトレーナー組合に居場所がないことを思い出し、メジロの誇りと称したマンハッタンカフェの勝利についてもネチネチと嫌味を言ってくる。
――――――同世代のライバルだったマンハッタンカフェと再契約して“春シニア三冠”を獲るのは他人の褌で相撲を取るようなものではないか?
しかし、そんなのは再契約をする段階で最初に和田T自身が何日も思い悩んで答えを出していたことであり、『才能あるウマ娘の才能を拾い上げるのがトレーナーの使命である』と爛々と輝く眼差しと共に一言で言い返し、周囲はそのたった一言の前に二の句を継げなくなったのである。
というのも、平たく言えば『お前らだって『選抜レース』の時にマックイーンが不調で勝てなかっただけで勝手に過大評価だったと失望して見放していただろうが! お前らが捨てたものを俺が拾って何が悪い!』という怒気が言葉の奥に込められていたからだ。
これが交流パーティーということで穏やかな会話の中でなされたベテラントレーナーたちに対する積もり積もった鬱憤を晴らす痛烈な批判となり、和田Tというメジロマックイーン以前から先輩チームのサブトレーナーとして重賞レースを獲りまくっていた超有能トレーナーであったことを誰もが思い出すことになった。
和田Tの認識ではG2勝利を目標にする底辺チームであっても、しっかりと重賞勝利をチームのウマ娘に万遍なく与えられているのは成り立てのサブトレーナーとしては将来有望どころの話ではなかったのだ、本来ならば。
それなのに、“メジロ家の至宝”メジロマックイーンと担当契約できたことへの醜い嫉妬心からトレーナー組合に所属する多くの人間が和田Tを排除しようとし、和田Tはそのことに苦しみながらも底辺チームで培った忍耐力と雑用力と判断力で見事“メジロ家の至宝”を夢の舞台で輝かせたのだ。
そのため、和田Tを馬鹿にしようと寄ってたかって集まった下世話な連中には今の和田Tの存在がとてつもなく大きく見えた。それは思わず 背筋が張り 冷や汗が流れるぐらいの緊張感を伴っていた。
それから和田Tは何事もなかったかのように『メジロ家の当主に挨拶の際に言い忘れたことがある』と適当な理由をつけて足早にその場を去ることになった。嫌味を言いに集まった下世話な連中はしばらくその場に立ち尽くすばかり。
そして、私も和田Tの付き人に徹してメジロ家の面々への挨拶回りをしていたわけで、メジロ家の
――――――まさか、ゲームセンターの買収なんかで
スタスタ・・・
和田T「早く帰ろう。こんなところにいたら頭がおかしくなる」
斎藤T「そうですね。義理立ては済みましたので、6月の正念場を乗り切ることに集中しましょう」
和田T「ありがとうございます、斎藤T。何度も何度も根性を叩き直してもらったおかげで、まずは今日という日を乗り切れました」
斎藤T「どういたしまして」
タッタッタッタッタッタ!
サトノダイヤモンド「あの! 少しよろしいでしょうか!?」
和田T「おや、きみはサトノダイヤモンドじゃないか。どうしたのかな?」
斎藤T「――――――」スチャ ――――――サングラスをつけて和田Tの付き人に徹する。
サトノダイヤモンド「あ、ちがうんです、和田T。実はそちらの方にお話があって……」
斎藤T「え?」ピタッ
和田T「……ご指名だってさ」
サトノダイヤモンド「前にお見かけした方ですよね? 模擬レースの時、私のことを見てくださっていましたよね? それでお聞きしたいことがあって――――――」
斎藤T「――――――『模擬レース』?」
和田T「……あれじゃないか? 最近あったサトノダイヤモンドの模擬レースって」
和田T「たしか、『春の選抜レース』1日目の後、サトノグループ主催のトレーナー
斎藤T「……ああ、そんなのが1日目と2日目の間にあったような気がしますねぇ」
サトノダイヤモンド「はい。トレーナー
和田T「――――――?」
斎藤T「……何の話です?」
サトノダイヤモンド「トレーナーさん、お聞かせください。あなたは私の走りに何を思ったのでしょう?」
サトノダイヤモンド「――――――あの訴えるような眼がどうしても気になって」
和田T「………………」
斎藤T「………………」
和田T「……これ、どう考えても人違いですよね?」ヒソヒソ
斎藤T「……私もそう思います。1日目のサトノダイヤモンドの『選抜レース』はしっかり見てましたけど、その後にあったという模擬レースは記憶にないですね。1週間、ソラシンボリの依頼で次の『選抜レース』でやることがあったので」ヒソヒソ
斎藤T「……どうしましょう?」ヒソヒソ
和田T「……『選抜レース』2日目に出ていた子に分析結果とトレーニングメニューを渡したように、『選抜レース』の時の反省点を言ってあげたらいいんじゃないかな?」ヒソヒソ
和田T「……本当は1日目に出ていた子にも渡してあげようとしていたからね、ソラって」ヒソヒソ
斎藤T「……そうですね。メイクデビューを果たす私の担当ウマ娘の同世代の競走ウマ娘になるかもしれませんけど、トウカイテイオーやシンボリルドルフの全盛期と比べたら大したことはないですからね」ヒソヒソ
和田T「……うん。ここは塩対応じゃなくて敵に塩を送りましょう」ヒソヒソ
斎藤T「……はい」ヒソヒソ
サトノダイヤモンド「あの、教えてください、トレーナーさん。お願いします」
斎藤T「……いや、『大切に育てられてきた箱入り娘なんだな』って。それが第一印象です」
サトノダイヤモンド「え」
和田T「あ、なるほど。マックイーンと同じだ。能力や素質があっても経験不足が足を引っ張ったんだ」
サトノダイヤモンド「え? それはどういう――――――?」
斎藤T「良く言えば 褒めて伸ばす教育方針、悪く言えば 甘やかされて育ってきたことで、自分に向けられた敵意や悪意に対する耐性がなく、それらを跳ね除ける胆力に欠けていますね」
斎藤T「――――――絶対に負けられない勝負というものを経験したことがないのではありませんか? そこまで必死になったことがないから、意志と意志のぶつかり合いになる真剣勝負でヘタれてしまうのです」
和田T「あ、それは思った。マックイーンを参考にした走りなのは一目でわかるのに安定感がない。ブレブレなんだ」
サトノダイヤモンド「そ、そうだったんですか?」
斎藤T「そして、こうして間近に接してみてわかるのは、あなたはサトノグループの令嬢として貞淑に振る舞っているつもりでも自分というものを必死に抑え込んでいるだけで、本当はもっとわがままに生きたいと思っているはずです」
斎藤T「だから、能力や素質の面においては入学前から正規のトレーニングを積んで他を圧倒しているはずなのに、真剣勝負の競り合いになると素の自分が抑えられなくなってあっさり掛かって自滅するわけですよ」
斎藤T「あなたはトレセン学園で夢を掴もうと必死になっているウマ娘たちの剥き出しの闘争心に触れておくべきだと思いますね」
斎藤T「あなたの走りには競走ウマ娘としての闘争本能がまるで感じられない」
斎藤T「そういう意味ではまさしくお淑やかで見目麗しきサトノの令嬢だと言わざるを得ません。重バ場で泥に塗れたこともないような綺麗な走りでしたよ、貞淑さの仮面を脱ぎ捨てようとするまではね」
サトノダイヤモンド「!!!!」
斎藤T「……ちょっと言い過ぎたかな?」ヒソヒソ
和田T「……いや、俺はあれでいいと思ます。俺から見てもサトノダイヤモンドの走りはどうにも固まりきっていない感じがする」ヒソヒソ
和田T「……たしか、サトノ一族からG1ウマ娘を輩出することで『名家』の仲間入りを目指しているって話だけど、なんか『G1レースならどれでもいい』みたいな感じがして、具体的な目標が定まっていないんじゃないかな?」ヒソヒソ
和田T「……そう考えると、入試のハロン走で優秀な成績を収めてもおかしくはないけど、公営競技の真剣勝負の舞台の雰囲気に呑まれることになる」ヒソヒソ
和田T「……そこがサトノ家とメジロ家の明確な差なんじゃないかと思う。メジロ家ははっきりと『天皇賞(春)』制覇による最強を目指しているから、その辺りの目的意識が軽薄に思えますね」ヒソヒソ
斎藤T「……なるほど。それならサトノ家はまだまだG1レースを制覇するにはお上品というわけですね」ヒソヒソ
サトノダイヤモンド「………………」
斎藤T「そういうわけですので、おそらく素質は十分ですが、あなたは本気で夢を掴み取ろうとする意志に劣っています。そこがサトノ家とメジロ家の決定的な差です」
和田T「あ、でも、そこまで深刻にならなくてもいいからね」
和田T「要は、どのG1レースで勝ちたいのか、目標がはっきりとしていないから方向性が定まっていないだけで、担当トレーナーと一緒にしっかり目標設定をしてトレーニングに励んでいるうちに意志が固まっていくもんだから」
サトノダイヤモンド「誰も……、誰もそんなことは言ってくださいませんでした。
和田T「それじゃあ、俺たちは先に帰ってるからね。『宝塚記念』で“女帝”エアグルーヴに、ウオッカ、エアシャカールといった強豪が待ち構えているのでね」
斎藤T「では、ごきげんよう」
サトノダイヤモンド「………………」
スタスタ・・・
和田T「少し道草を食っちゃったけど、これでようやく帰れるな」
斎藤T「………………」ズンズンズン・・・
和田T「あ、ちょっと! 早歩きするほど急ぐもんでもないんじゃ――――――」
サトノダイヤモンド「――――――」
――――――採用です!
和田T「は?」ピタッ
斎藤T「ダッシュで逃げますよ!」ドンッ!
和田T「うおおおおおっ!?」ダダッ
サトノダイヤモンド「待ってください、トレーナーさん!」ドドドドド!
――――――採用ッ! あなたが私のトレーナーさん! 私の探していたただひとりの人です! ですから採用ッ!
急に掛かりだしたウマ娘の猛追を躱すべく急いで角を曲がった瞬間、私たちは百尋ノ滝の秘密基地に時間跳躍しており、厄介事が増えたことに
それがサトノダイヤモンドという厄介なウマ娘との因縁の始まりであり、私としてはまったく記憶にない『選抜レース』後の模擬レースのことで絡まれることになってしまったのだ。
当然、トレセン学園の生徒とトレーナーなのだからこのまま顔を合わせないままでいられるはずもなく、百尋ノ滝の秘密基地にずっと引き籠もっている場合でもないので、早々に誤解を解くためにエクリプス・フロントで話し合いの場を持つことになったのだが――――――。
サトノダイヤモンド「普通なら相談すべきことかもしれませんけど、家の総意で決めるのもきっとジンクス――――――、なら、私の直感を信じてジンクスを破ります!」
サトノダイヤモンド「私のトレーナーは、誰がなんと言おうとあなた!」
サトノダイヤモンド「決まりです。決めました。受けてくれますよね、ね、ね?」
斎藤T「謹んでお断ります」
サトノダイヤモンド「どうしてですか!?」
アグネスタキオン「おいおい、『どうして?』も何も、トレーナーくんが私の担当トレーナーだからだよ」ムスッ
サトノダイヤモンド「どうしてですか!?」
アグネスタキオン「いや、私の担当トレーナーであるという確固たる事実に対して『どうして?』と返すのは理不尽じゃないかい?!」
サトノダイヤモンド「だって、ようやく見つけることができたんですよ、私だけの担当トレーナーさん!」
斎藤T「いえ、私はアグネスタキオンの担当トレーナーです。あなたの担当トレーナーではないです」
アグネスタキオン「うんうん。そうだろう。そのとおりだよ、トレーナーくん」
アグネスタキオン「ほら、さっさとあきらめたまえ。私もメイクデビューすることだし、私も彼もそんなに暇じゃないんだ」
サトノダイヤモンド「嫌です! この方がいいんです!」
サトノダイヤモンド「ですので、私のトレーナーになってください!」
斎藤T「お断ります」
サトノダイヤモンド「どうしてですか!?」
アグネスタキオン「このままじゃ埒が明かないねぇ!」
アグネスタキオン「じゃあ、逆に訊くけど、先月の『選抜レース』の後にトレーナー
アグネスタキオン「それでトレーナー
サトノダイヤモンド「……ちがうんです」
アグネスタキオン「何がだい?」
サトノダイヤモンド「
アグネスタキオン「……それが全員を落とす理由なのかい? 同意見だからと言ってもそれ以前に実績が異なるはずじゃないのかい? そこを踏まえて順位付けがあるもんだろう?」
斎藤T「なるほど。集団浅慮を避けるために全会一致の場合は議決を無効にして議論を振り出しに戻す制度みたいなのがサトノグループにはあって、
斎藤T「あ、わかった。それ以上にサトノグループの歴史が浅いせいでトレーナーという人種を知らなすぎたのかもしれませんね」
斎藤T「……ああ、なんか当たり前のようにトレーナーバッジをみんなつけているから勘違いしていたけど、
サトノダイヤモンド「え」
アグネスタキオン「どういうことだい、トレーナーくん?」
斎藤T「要するに、トレーナーたちの間では『名家』出身の令嬢たちには厳しい指導をしても大丈夫だという共通認識がある一方で、そうではない『良家』出身の令嬢たちには本当のことが言えなくなる壁があるわけですよ」
サトノダイヤモンド「それって、サトノ家とメジロ家の決定的な差のことですか?」
アグネスタキオン「ふぅン、言われてみれば そうかもしれないねぇ」
サトノダイヤモンド「????」
斎藤T「まず、第一にして『名家』のウマ娘はあんな大々的な入社試験みたいなトレーナー
サトノダイヤモンド「え」
斎藤T「当たり前でしょう。その他大勢の一般的なウマ娘たちと同じように学園内でこれから二人三脚で同じ道を歩むトレーナーたちと直に交渉を重ねて担当契約を結ぶのであって、」
斎藤T「学園とバ場を住処にしているようなトレーナーたちをサトノグループのでっかい社屋に連れ込んでお偉方の前で面接なんてさせようものなら、良識ある社会人としてサトノ家の御令嬢のことで悪いことなんて面と向かって言えないですよ、そんなの」
サトノダイヤモンド「あ!」
アグネスタキオン「それはそれは。本当のことを言ったら大変失礼になって大人の都合で落とされてしまうねぇ。本人との相性なんか無視してね」
斎藤T「これが『名家』だったらウマ娘の改善点をしっかりと言うことがトレーナーとしての義務であると双方の理解があるので忌憚のない充実した
斎藤T「サトノグループのお偉方は『名家』のようにサトノ家のご令嬢がトレーナーたちにいろんな欠点や改善点があるということを指摘されて顔を真赤にせずにいられますか? トレーナーとしての有能さをアピールしやすい環境作りを徹底していますか? 会社員じゃないんですよ、トレーナーは?」
――――――まったくもって不合理なトレーナー
こうして私は謎の因縁をつけて担当契約を迫ってくるサトノダイヤモンドを追い払うことに成功し、後日にあらためてサトノダイヤモンドのトレーナー
サトノグループのプライベートヘリが屋上のヘリポートに着陸し、今度はトレーナー候補とサトノ家がそれぞれ出向いてエクリプス・フロントの
すると、サトノグループのでっかい社屋に呼んだ時と比べて明らかにトレーナー候補たちの発言にそれぞれの個性や信条が現れるようになり、28人全員が同じようなことしか言わなかった以前とは様変わりしたのであった。
結果として双方が手応えを感じた実りあるトレーナー
そして、担当ウマ娘:アグネスタキオンもサトノ家とは知らない仲じゃないので、この機にサトノグループについて詳しく調べてみた。
サトノグループは新興グループながらもウマ娘のレース文化に深い愛情を抱き、その発展に貢献したいと考え、運営協力や慈善事業などの活動を行なってきた。
しかし、『名家』メジロ家と比べると歴史は浅く、加えて企業にとってのウマ娘レースへの“最大の貢献”と語る『一族からG1レースを勝利するような名ウマ娘を輩出すること』ができていないため、
そうした名ウマ娘を輩出することは何者にも代え難い“最大の貢献”であり、その期待を背負って生まれたのがサトノダイヤモンドという“サトノ一族の至宝”なのである。
――――――その説明をサトノ家と懇意のメジロマックイーンから聞き出した時、私は怒りのあまりにメンコを地面に叩きつけていた。イラつくだろうと思ってストレス発散にメンコを用意して正解だった。
まず、このサトノグループの“最大の貢献”に対する認識の違いが私にとっては甚だ不快であった。
たしかに、ただ単にG1勝利を求めているわけではなく、ウマ娘レース業界を盛り上げるようなスターウマ娘を輩出するのはウマ娘レース業界を支援している企業理念に合致するのでそこはいい。
ただ、その割には トレーナー
無理解ゆえの慎重を通り越した愚鈍な選考基準の原因を考えたら、もしかしたらサトノグループには今まで一人もトレーナーバッジを得た者がいなかったんじゃないかと疑ってしまう。よくよく考えたら、国立大学の入試よりも難しい最難関の国家資格なのだから、新興のサトノグループなら それも有り得そうではある。
なので、まずは合格者がゼロ人の年もある最難関国家資格の合格者を増やすための支援事業をやってもらうのが今一番に業界で必要とされる“最大の貢献”だと私は考えているわけである。わかるだろう、トレセン学園の入学者が増えてもスカウトできるトレーナーの供給が追いついていないのだぞ。
そして、『一族からG1レースを勝利するような名ウマ娘を輩出する』悲願というのも非常に曖昧なものであり、数字に厳格であるべき経済人がそんなあやふやな目標設定でいいのかと、逆にスカウトをかける側が心配になってしまう。
『全て良きに計らえ』とトレーナーに一任するつもりならまだしも、大々的なトレーナー
さて、サトノダイヤモンドのトレーナー
ソラシンボリがシリウスシンボリにノード構築の参考になるライブモニターとICカードを導入したアーケード筐体が稼働していたゲームセンターの買収をお願いし、以前にハロンカーペットを提案したこともあって、今度も企画書を見せれば すぐさまシンボリ家の財力で買収の話は進むことになった。
そして、それは意外にも京王線府中駅より徒歩5分の場所のゲームセンターであり、そこで店のオーナーと話をつけてノード構築に必要なノウハウの獲得に向かったのだった。
ソラシンボリ「うわーっ! こんなにも静かなゲームセンターは初めて!」
シリウスシンボリ「はしゃぐなよ、ソラ」
シリウスシンボリ「しかし、ここは昔馴染みのゲーセンだったのに、閉店することが決まっていたのは寂しいものがあるな」
シリウスシンボリ「で、ノード構築に必要なお目当てのアーケード筐体はちゃんとあったぞ。少しこいつで遊んでてもいいか? アンタがやることやらないことにはこっちも暇なんでね」
斎藤T「いいですよ。それで実際のデータの流れを見る必要があるので」
シリウスシンボリ「よし! 付き合え、ソラ! フリープレイだからいくらでも遊べるぞ!」
ソラシンボリ「うん! こういうの久々だな~!」
斎藤T「……さて、仕様書を読む限りだと、こういうデータの流れがあるわけか。ライブモニターにICカード。なるほど、そういう感じになっているんだな」ブツブツ
シリウスシンボリ「けど、潰れかけのゲーセンごと丸々買うんじゃなくて、このアーケード筐体を提供しているゲーム会社と直接交渉すればよかったんじゃないのか?」
斎藤T「それはできないです。ゲーム会社という新たな企業がウマ娘レース業界の利権に割り込むのは藪をつついて蛇を出すようなものですから」ピピッ
ソラシンボリ「うん。トレセン学園で自前で整備できるように基本的な構造だけ知りたいわけだから、雛形としてライブモニターが1つあれば十分だし」
ソラシンボリ「とにかく、そういう便利なものを1日でも早く置いてトレセン学園のみんなのために役立てたいんだ」
シリウスシンボリ「……そうかい。本当にソラはいい子だよ」
ピピッピピッピピッピピッ・・・
シリウスシンボリ「そういえばアンタ、サトノダイヤモンドのトレーナー
斎藤T「それが何です?」
シリウスシンボリ「いや、それでサトノダイヤモンドの親父さんのサトノグループCEOにえらく気に入られているっぽいんだよな」
シリウスシンボリ「このゲーセンの買収がここまですんなり進んだのもそれが関係していてな」
斎藤T「はあ? それまたどうして?」
シリウスシンボリ「そもそも、そのサトノグループってのは、これまでも数多くのウマ娘をトレセン学園に送り出しながらもG1未勝利のジンクスに悩まされていてな。私がトレセン学園の生徒だった時もそんな感じのうだつの上がらない『名家』の成り損ないだったわけさ」
シリウスシンボリ「そして、男児ばかりが生まれてウマ娘に恵まれなかった時期にはそれすらもジンクスのせいだと嘆いてばかり」
シリウスシンボリ「それで、サトノダイヤモンドはそんな中で生まれた数少ない素養のあるウマ娘ということで、一族から大きな期待を背負ってトレセン学園に入学しているわけなのさ」
斎藤T「なるほど。だから、あれほどまでに過保護になるわけで。しかも、男児に恵まれすぎて待望のウマ娘の姫君のことを徹底的に甘やかしたわけだ。親馬鹿もいいところですね」
斎藤T「いや、過去に何人もトレセン学園にウマ娘を送り出しておいて、ウマ娘の闘争本能を萎えさせるような教育を本命であるサトノダイヤモンドに施すだなんて、あんまり向いてないんじゃないんですか、そもそも?」
シリウスシンボリ「あんたの言う通りだよ。サトノダイヤモンドの親父さんはウマ娘レースの厳しさを我が子に教え込むことができない軟弱者さ。だから、『名家』の仲間入りを果たせないわけさ」
シリウスシンボリ「――――――つまり、
斎藤T「知らないですよ、
斎藤T「だったら、懇意にしているメジロ家へ修行に出せばいいじゃないですか」
シリウスシンボリ「なるほど、そいつも一つの手だな」
シリウスシンボリ「まあ、そういうお上品な家柄だからこそ、清濁併せ呑むウマ娘の『名家』には成り得ないし、これからもウマ娘レース業界発展の肥やしに成り続けるだろうな」
斎藤T「本人の気質としてはソラシンボリにかなり近いのに、かなり我慢させられていますよ、あれ」
シリウスシンボリ「だろうな。何でもかんでもジンクス、ジンクス、ジンクス――――――、そんなことを言われ続けていたら頭がおかしくなるさ」
シリウスシンボリ「まあ、シンボリ家も似たようなものさ。『全てのウマ娘が幸福になれる世界』だなんて御題目」
斎藤T「けど、前向きなものじゃないですか、その理想は。ジンクスを唱え続けて後ろ向きな気分で居続ける家庭よりは遥かにマシですよ」
シリウスシンボリ「そりゃどうも」
ソラシンボリ「ちょっと待ったああああああああああ! 勝手に入ってこないでよッ!」
斎藤T「ん?」
シリウスシンボリ「……ソラ?」
サトノダイヤモンド「ようやく見つけましたよ、トレーナーさん! 今日こそ私のトレーナーになってください!」ドンッ!
シリウスシンボリ「噂をすれば何とやら」ウワッ
斎藤T「……何の用ですか? こちらから話すことはないですよ。おとなしくトレーナー
斎藤T「そもそも、私がサトノダイヤモンドの担当トレーナーに相応しくない理由をしっかりとしたためて送っているはずですが?」
サトノダイヤモンド「はい。しっかりと読ませていただきました」
サトノダイヤモンド「ですので、私の担当トレーナーになってください!」
斎藤T「…………頭がおかしくなりそうだ」
ソラシンボリ「……なんでそうなるわけ?」
シリウスシンボリ「これがサトノグループ流の交渉術、ヘッドハンティングのやり方なんだろう」
サトノダイヤモンド「だって、そうでしょう?」
ソラシンボリ「……何が?」
サトノダイヤモンド「お父様から聞きました。このゲームセンターの買収を進めているのは斎藤Tなんですよね?」
斎藤T「ちがいます」
シリウスシンボリ「この物件の買収を進めているのはシンボリ家のこの私だ」
ソラシンボリ「ゲームセンターの買収を提案したのもボクだし」
サトノダイヤモンド「でも、こうして閉店を迎えるはずだったこの場所を買い取るのには深い理由があるんですよね!」
斎藤T「いや、別に。このアーケード筐体で使われているICカードとライブモニターが欲しかっただけですが――――――」
サトノダイヤモンド「?!!?!!!!?!!!!」ガビーーーン!
ソラシンボリ「……え、何?」ビクッ
サトノダイヤモンド「じょ、冗談ですよね、トレーナーさん!? トレーナーさんはサトノグループの理念に感銘を受けてトレセン学園の生徒たちも足を運ぶこのゲームセンターの新オーナーになってくれるんじゃなかったんですか!?」
サトノダイヤモンド「そんなことまでしてくださった方は私の眼の前にいるトレーナーさんだけなのに!」
斎藤T「……誰が言ったんですか、それ? 事実じゃないですよ、それ」
ソラシンボリ「……え、なんで怒ってるの? さっきまで何を言われても動じていなかったのに!?」
サトノダイヤモンド「……そうですか、ゲームセンターを買収した目的がよりにもよってサトノグループのゲームじゃないんですね? そうなんですね!?」クワッ!
シリウスシンボリ「ああ、そうか。このゲームセンターはサトノグループの経営だが、お目当てのライブモニターは同業他社のものだからか。それはたしかに許せないのもわかるな」
斎藤T「いやいやいやいや! なんでトレーナー
斎藤T「ハッ」
斎藤T「まさか、トレーナー
サトノダイヤモンド「はい! ここまでサトノグループのために尽くしてくれたトレーナーは初めてでしたので!」ニッコリ
斎藤T「――――――頭おかしいだろう!?」ガーーーン! ――――――脳天直撃!
斎藤T「謝れ! その才能と素質に惚れ込んでスカウトしに来た28人のトレーナーに謝れぇ!」
サトノダイヤモンド「でしたら、私のトレーナーになってください!」
斎藤T「断る!」
サトノダイヤモンド「強情ですね!」
斎藤T「どこに『うん』と肯くところがある!?」
ソラシンボリ「トレーナー! ネットワーク構成の分析と実機の稼働記録が済んで、あとは実機のライブモニターの分解だけなんでしょう?」
ソラシンボリ「だったら、あとはもう必要な筐体を運んでもらって、さっさと物件を売却して、それでサトノと縁を切ろう」
サトノダイヤモンド「ダメです! 許しません! そんなことは許されません、絶対!」
シリウスシンボリ「もう言っていることがメチャクチャだな、おい……」
シリウスシンボリ「というか、買収を進めているのは私だからな。こいつじゃないぞ。勘違いするな」
サトノダイヤモンド「だって! トレーナーは私たちのチームの名付け親じゃないですか! そんなの無責任ですよ!」
斎藤T「はあ?!」
シリウスシンボリ「さすがにこれは意味不明だぞ? なんでお前のアオハルチームの名付け親に斎藤Tがなれるんだよ?」
ソラシンボリ「……たしか、きみのチームって<エンタープライズ>だったよね?」
斎藤T「――――――<エンタープライズ>だって?」
サトノダイヤモンド「そうです! キタちゃんと一緒のチームの名前をどうしようかでずっと思い悩んでいたところに颯爽とトレーナーさんが答えを出してくれたんですよ! それまで<サターン>か<ジョイポリス>か<カオスエメラルド>か<J6>か<MARZ>か<AZEL>か<NiGHTS>かで意見が割れていたのを!」
シリウスシンボリ「おいおい、本当か、その話? また話がややこしくなってきたぞ?」
ソラシンボリ「あ、まさか――――――」
ソラシンボリ「ねえ、サトノダイヤモンド? <エンタープライズ>の由来って何? 斎藤Tから教えられたんだよね?」
斎藤T「あ、わかった。そういう繋がり――――――?」
サトノダイヤモンド「あ、思い出してくださいましたか!」
斎藤T「スペースシャトル・オービター:
サトノダイヤモンド「そうです! それと
ソラシンボリ「そうだよ! 最初にチーム名の候補として宇宙開発関係から『宇宙のランデヴー』で有名な宇宙船:エンデバー号を教えられた後、他の候補として『エンデバー』繋がりで歴代のスペースシャトル・オービターの名前を教えられたんだよね!」
シリウスシンボリ「なるほどな。一般的にEnterpriseは“企業”と訳されるが、元々は“大掛かりなこと”から転じて“企画”や“冒険”を意味するわけだから、サトノグループの令嬢にとってはピッタリじゃないか」
斎藤T「でも、サトノダイヤモンド。やっぱり、きみに教えた憶えはないんだけど……」
サトノダイヤモンド「そんなはずは――――――!?」
シリウスシンボリ「もういい! 解析は終わったんだから、このアーケード筐体ごと目当てのものをエクリプス・フロントに運べばいいんだろう?」
――――――さあ、今日のところはこれでお開きだ! 買収の話もこれで終わりだからな!
こうして欲しいのものは手に入り、ソラシンボリの提案で他にもウマ娘レースのために使えそうなアーケード筐体も根こそぎ百尋ノ滝の秘密基地にトラックごと時間跳躍で運び入れ、閉店となったゲームセンターはすぐに売却してサトノとの因縁を断ち切ることになった。
信じられない話だが、サトノグループの令嬢はそんなことでその場で泣き崩れることになり、酷く泣き腫らした顔で学園生活を送っていたことにより、学園中で噂になっていた。
しかし、サトノダイヤモンドにつけられた謎の因縁の正体がこんなしょうもない理由だとは思いもしなかったが、実際にはその奥にあるものが私にははっきり見えていたので、これにはホトホト困り果てた。
サトノグループの令嬢:サトノダイヤモンドはここまで見てきた通り、ウマ娘レースの『名家』の生まれではなく、経済界で名を連ねる『良家』の生まれであり、この両者は似ているようでまったく異なるのは十分に理解できたことだろう。
だからこそ、サトノダイヤモンドは私がウマ娘レースに関しては“門外漢”であっても本職が宇宙移民として国家建設を生業とする人間であることを直感で見抜き、ウマ娘レースの貢献に必要な人材である以上にサトノグループの発展に必要な人材であることを感じ取っているのだ。
そう、そこがサトノ家が本質的にウマ娘レースの『名家』に成り得ない
それがわかるだけに私は競走ウマ娘:サトノダイヤモンドのことを敬遠するわけなのだ。
腐っても私とてトレーナーバッジを身に着ける人間だ。だからこそ、ウマ娘レースに対して真摯なウマ娘こそ優先するわけであり、サトノグループが強調するトレーナー
あとは基本的にサトノダイヤモンドという箱入り娘とは波長が合わない。というより、私という存在が23世紀の宇宙時代においては世紀の大天才にして超一流の技術者だからこそ、ウマ娘の可能性の“果て”を追究するアグネスタキオンという一癖も二癖もある研究者の扱いになれているわけであり、それに対して箱入り娘とでは住んでいる世界がそもそもちがっている。
あるいは、皇宮警察の超エリートの息子である“斎藤 展望”の特質がサトノグループの令嬢に対する忌避感を引き立たせているのもある。
思い出せ。なぜ“学園一の嫌われ者”にして“門外漢”である“斎藤 展望”がトレセン学園にトレーナーバッジを身に着けてまでやってきたかと言えば、世界最高峰の警察バの血統と才能を持つ最愛の妹:ヒノオマシのためであり、“斎藤 展望”にとっての
なので、最愛の妹:ヒノオマシを一番にしない“斎藤 展望”などありえないので、トレーナーとの関係以上のものをおねだりする『良家』サトノ家の令嬢:サトノダイヤモンドのことは何が何でも拒絶する他ないのだ。
なにしろ、あんなトレーナー
それ以上に根本的に無理だ。もうひとりの担当ウマ娘にしてお茶を濁すには、私が“斎藤 展望”になった時点でトレーナーバッジを身に着けるに足る知識と記憶が抜け落ちているからこそ、実際にはサブトレーナーに据えたトウカイテイオーの岡田Tに私の担当ウマ娘の指導を任せているのだから。
私と基本的に相性がいいウマ娘を考えたら、トレーナーバッジにしか価値がない素人トレーナーにほとんど頼る必要がないほどに自身の走りが完成されているウマ娘に他ならず、そこまでいったらトレーナーの才能に関係なくG1勝利を掴み取れることだろう。
なので、いくつもの可能性の世界で“斎藤 展望”がビワハヤヒデやナリタブライアンと担当契約を結んでいるのもそういうことであり、その点で言えばトレーナーの指導を必要とするほどに己の走りを確立できていないサトノダイヤモンドが私の担当ウマ娘になるのは不適切というわけである。そもそもが力不足なのだ、私は。
サトノ家が抱えているジンクスに囚われた後ろ向きな精神性を叩き直す意味では地球文明の後継者として冠婚葬祭の一切を取り仕切れる祭司長たる私が適任であるが、『ウマ娘レースで活躍する名バの輩出』というサトノ家の悲願とはあまり噛み合わない。相手方はG1レースに勝たせるトレーナーを所望なのであって、ジンクスで後ろ向きな性根を叩き直すカウンセラーは募集していないのだから。
そう、何から何までサトノ家の令嬢に求められているものと噛み合わないのが“斎藤 展望”という無名の新人トレーナーであるのだ。もしも私が“斎藤 展望”ではなかったのなら、可能性はあったのかもしれないが、これが今の私そのものである“斎藤 展望”の現実なのだ。
だからこそ、サトノグループの思い違いと思い上がりを改めて28人も集まったトレーナー
しかし、さすがは財力を物言わせた親馬鹿である。早速、娘を泣かせた下郎に対してこっちの言い分を聞くこともなく容赦ない報復を開始した。
ウマ娘を子に持つ父親というものはヒトの男性の精子を受けて血筋を絶やすまいとするウマ娘から放たれる性的フェロモンに狂わされて親馬鹿を通り越したモンスターペアレントになるのは裏世界の実相でわかっているので、『サトノグループの御令嬢が泣いた』ということでこうなることが冷静に予感できていた自分が怖い。
結果、私自身が藪をつついて蛇を出すことを危惧していたことが現実のものになり――――――。
6月中にアーケード筐体のライブモニターをヒントにした トレセン学園で保守管理ができるように街中の家電量販店で購入した部品で大部分が構成された 自主トレ苦学生御用達となるソリューション『エクリプスビジョン』の試験運用を開始したことで、エクリプス・フロントに通う生徒たちが更にESPRITにも足を伸ばすようになっていた。
そんな中、多忙を極める樫本代理もまた生徒たちの様子を見るためにエクリプス・フロントに足を運ぶため、ソラシンボリの提案で開発された『エクリプスビジョン』の試験運用に立ち会うことになり、慢性的なトレーナー不足のためにスカウトから漏れてしまっている大半の生徒たちに少しでも希望を与える試みとして感銘を受けることになった。
だからこそ、樫本代理はエクリプス・フロントの陰で声を押し殺して肩を震わせて涙を流すことになり、致命的身体能力の低さからくるいつもの疲労かと肩を貸したのは少しばかりデリカシーに欠けていたと反省せざるを得ない。
しかし、学校法人:トレセン学園の運営母体であるURAの幹部職員であるからこそ、トレセン学園の門戸を開け続ける努力をし続けて ついには総生徒数2000名を超える巨大な中高一貫校に成長した一方で、肝腎の夢の舞台への二人三脚のペアチケットを握るトレーナーの数がまったく追いつかないために才能あるウマ娘たちをスカウトしきれない矛盾に樫本代理も頭を抱えていたのだ。
そして、トレセン学園を秋川理事長と共に黄金期へと導いた“皇帝”シンボリルドルフを輩出したあの『名家』シンボリ家の新たな令嬢:ソラシンボリが『日本オークス』と『日本ダービー』の裏で開催された『春の選抜レース』で真っ先に感じていたもの、巨大な声なき声を聞き入れてESPRITに『エクリプスビジョン』の開発を提案したこと――――――、
なぜ今持って増え続けている トレーナーからのスカウトを心待ちにしている 数多くの将来有望な生徒たちのために真っ先にしてやれること、それを形にすることができなかったか、その不甲斐なさを樫本代理は誰よりも深く恥じ入っていたのだ。
だが、これは簡単な話である。多くの場合、人は形にして見せて貰うまで
その意識の壁を飛び越えた先に立つこの私は『こうあったらいいな』『これができたら素敵だな』というアイデアや願いを聞き届けて私が生涯で学び得た地球文明の叡智と生活の知恵を駆使して それをソリューションという人に理解できる形にして提供することに何十年も従事してきた世紀の天才なのだ。
――――――発明の天才とはその偉大さや良さ、便利さをわかりやすく人々の心に訴えるマーケティングの天才でもあり、新しい価値を創出することやそのための創意工夫の手間を厭わないぐらい造作もないのだ。
なので、私はソラシンボリの切なる願いを聞き入れて胸を痛める樫本代理のことをこれからも新発明の宣伝先のお得意様として大事に扱って、誤解を恐れずに愛ゆえに厳しさを与える道を選んだその小さな背中を支えようと思う。
それが“皇帝”陛下と共に黄金期を導いた秋川理事長が自身の代理として樫本 理子を選んだことへの義理立てであり、秋川理事長自身の後継者育成の一助になることを切に願う。
しかし、世間ではそれ以上にサトノグループがウマ娘レース業界に対する空前絶後の大貢献を果たすことを突如として宣言し、トレセン学園の近隣に近未来的なトレーニング環境を提供する『エクリプスポリス』建設を発表したことに話題が持ちきりとなっていた。
なるほど、どうやら『皇帝G1七番勝負』でお披露目になった世界のどこにも存在しない神域の超高性能VRシミュレーターに触発されて、サトノグループで難航していた高性能ウマ娘レースシミュレーターの開発計画が再発進となったようだ。
そこから更に現実世界でのトレーニング効果を還元するためにトレーニングエリアをVR化するARシミュレーターが展開された屋内環境であらゆる情報がデータ化されるサイバネティクスの極みと言えるトレーニング環境による超精密なトレーニング分析を可能にさせるというわけである。
なので、もしそんな電脳世界と表裏一体となったトレーニング環境『エクリプスポリス』が実現できたのなら、映像データから一々シミュレーションデータを作成して過去のシミュレーションデータとの比較分析しかくだせない『エクリプスビジョン』なんか不要になることだろう――――――。
だが、しかし、サトノグループの誇りにして最大のジンクスであるゲームハード事業がなぜ失敗に終わったのかを未だに学習できていないと見える。
やろうと思えば地球に侵略してきたWUMAの数だけ『皇帝G1七番勝負』で使ったシミュレーターを用意できたのに私が敢えてやらなかったことをやりだすサトノグループの軽率さよ。この辺りもサトノグループからG1ウマ娘が出ないジンクス以前にトレーナーバッジを掴んだ人間が組織にいないことが透けて見えてしまう。
人々がなぜ正確なトレーニング結果を知りたいのかを理解していないと見える。私が『エクリプスビジョン』で与えようとしたのは正確なトレーニング結果などではない。それが何かを理解しないとサイバー・トレーニング環境『エクリプスポリス』が人々の心に寄り添うことはないだろう。
少し考えてみればわかる。電脳世界と表裏一体となったことでトレーニング状況が逐一情報化され、集積されたビッグデータによって個人の資質や傾向が完全に分析され、完璧な将来予測が立つようになったとしよう。
――――――そこで『あなたにはG1ウマ娘になる可能性はない』という解析結果をマシーンがくだすようにまでなったら、あなたはどう思いますか? あなたのテンションは絶好調を保てますか? 未来に希望を抱けますか?
それこそがパンドラの箱に残された
こういった個人の将来や進路にまつわる未来予測は多少は不便でわかりづらく、解釈次第でどうとでも希望が持てるように幅があるものでないといけないのだ。だからこそ、神託とは常に多くの解釈を生む曖昧さの中により多くを活かす真実を見つける者のためにある。
だいたい、私が読んできたそういった未来予測が関わってくる21世紀の創作物だと、人類の破滅がどうあっても変えられないということを知ってしまったために発狂の末に破滅思想に染まって自ら人類を粛清せんとする倒錯しきった悪役なんてものは珍しくもない。なので、知らないのは罪だが、知りすぎるのも罠なのだ。
――――――しかし、読んでいていつも思うのは『こいつらは阿呆か? 形あるものはいつかは滅びるのが世の習いであり、生と死は不可分にして表裏一体である自然の摂理に逆らうからこそ狭量で偏屈で独善に満ちた自意識によって破滅がもたらされることがなぜわからないのか?』と唯物主義に染まった人間に憐れみを覚えている。
そのことを踏まえて『人々がなぜ正確なトレーニング結果を知りたいと思うのか』を改めて考えると、それは『トレーニングが実を結ぶ』という人生の指針となる希望を目にしたいからなのであって、『お前は生まれついてのダメ人間である』と将来性皆無であることを吐き捨てられるような冷酷なトレーニング結果など誰だって目にしたいとは思わないだろう。意味がないことは誰だってしたくないのだから、価値を否定されることは避けたいものだろう。
私が危惧していることというのは『夢の舞台であるG1レースで勝てるウマ娘は一握りなのだから、当然 G1ウマ娘になれないと断言できる一般ウマ娘が大半なのに、その大半の人間のやる気や意欲を削ぐ容赦ない判決を言い渡す冷徹なトレーニングマシーンになっていないか?』ということである。
技術ばかりが先立って人々に対する思いやりが欠けているからこそ、“原爆の父”オッペンハイマーは『科学者は罪を知った』として 生涯 罪悪感に苦しめられる人生を送ることになったのだ。
私としては『名家』になろうとし続けて成り損ねて『良家』止まりのサトノ家とサトノグループにそこまでの人間理解があるようには思えず、果たして『エクリプスポリス』構想がどの程度の成果を残すのかを遠巻きに観察するしかなかった。成功しようと失敗しようとその実験データは有意義に使わせてもらうので、安心して成功も失敗もするがいい。
そして、マンハッタンカフェによる史上初の“春シニア三冠”達成を賭けた歴史を変える『宝塚記念』、その前日――――――。
スタスタ・・・
斎藤T「む」
サトノダイヤモンド「あ」
斎藤T「――――――」スタスタ・・・ ――――――目は合ったが、気にせず側を通り抜ける。
サトノダイヤモンド「う、うぅ……」
サトノダイヤモンド「ひどいです……」
サトノダイヤモンド「あんなにも訴えかけるような眼で私を見てくれていたのに……」
サトノダイヤモンド「本当の私に気づかせてくれた たったひとりのトレーナーなのに……」
サトノダイヤモンド「そうです。サトノ家の令嬢としてではなく、他の誰でもない私が“私”として初めて見つけたやりたいこと……」
――――――私は、絶対に、絶対に、絶対にッ! 泣いて謝るまで あなたのことを許しませんからねッ!
――――――チーム<エンタープライズ>! おおーーーーーーッ!
今回は『トレーナーにも担当するウマ娘を選ぶ権利がある』という当たり前の話をしたわけなのだが、
改めてこれこそが“斎藤 展望”の真骨頂であり、そのウマ娘が史実でどういった名馬かなど関係なく、『ウマ娘』という作品において最初から自分の走りを形にしてトレーナーの指導をあまり必要としない作中でも明確な強キャラとしか担当契約が上手くいかない超曲者ぶりが伝わったはずである。
そのくせ、トレーナーバッジを身に着けるに相応しい指導力がないために、G1ウマ娘を育成するには完全に力不足のトレーナーである一方、G1ウマ娘を育成なんかやっているのは役不足なトレーナーでもある。
その力不足と役不足の間の窮屈さによって自身が23世紀の世紀の天才にして波動エンジンも開発する宇宙船エンジニアであることを自重できているわけであり、
様々な重しや枷があって地球文明の後継者たる宇宙移民の能力がトレセン学園で過不足無く発揮されるため、そうでなかったら最愛の妹:ヒノオマシの養育費を稼ぐ算段がついた時点でトレセン学園を去っている。
それがそもそものトレーナーになった目的であり、最愛の妹:ヒノオマシの存在価値をトレセン学園のウマ娘より上に置いていることもあって、トレセン学園で偉そうにしている連中に恭しく接する義務もないのだ。
そして、ウマ娘:サトノダイヤモンドは“斎藤 展望”にとって相性最悪のウマ娘の一例であり、サトノダイヤモンドにとっては真っ当なトレーナーである以上に“おもしれーやつ”になるので好印象だが、
自分の走りだけでG1勝利を掴みに行けるだけの手のかからなさがすでにあったのなら、2人目の担当契約も考えなくもなかったが、そうではなかったので客観的な事実としてサトノダイヤモンドを指導するには力不足であると言い張るしかなくなっている。アグネスタキオンの実質的な指導をしているのはトウカイテイオーの岡田Tであるというのがポイントである。
あと、女の武器を理解している『良家』の御令嬢であるのも、最愛の妹:ヒノオマシのポジションを奪い取る脅威に成り得るので、“斎藤 展望”のアイデンティティのためにも 徹頭徹尾 拒絶の姿勢を崩さない。ヒノオマシを蔑ろにした瞬間にNINJAに命を狙われる立場にあるのもポイントだ。
さもなければ、斎藤Tというのは困っている人間を基本的には放っておけない人間であるため、『困った仕草をしてみせれば従わせられる』と学習してしまう危険性があるためだ。だから、目の届かない位置に遠ざける必要があった。
三女神から必要なものは必要な時に必要な分だけ与えられている“斎藤 展望”と関わり合うということはそれだけ強い縁があることの証でもあるからだ。
ただ、方や『宇宙船を創って星の海を渡る』壮大なロマンに生きる宇宙移民、方やサトノ家のジンクスを破るためにいろんなことに挑戦したがるチャレンジ精神旺盛の破天荒さのため、
すでに担当ウマ娘がいるトレーナーという立場でなければ、アグネスタキオンに並ぶとは言わないまでも共通点はかなりあるので、一致団結して二人三脚できる相性の良さはあった。
つまり、サトノ家の令嬢にはたしかに人を見る目はあった。自分の人生でもっとも必要な誰かを見つけ出すことができていたのだ。
けれども、『トレーナーという立場でなければ』ここまで拗れることはなかったが、出会うこともなかったので、この出会いは互いにとってただただ禍根を残すことになった。
無名の新人トレーナーのあなたは担当ウマ娘を決めた後に熱心に逆スカウトしてくれる子がいたら、どうしますか?
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担当ウマ娘にウマ娘ファースト!
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全てのウマ娘にウマ娘ファースト!
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自分を想うウマ娘にウマ娘ファースト!
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チームメンバーに加えて順番待ち!
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まずはお友達からお願いします!
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ぼくにはえらべないよ、そんなこと!