初の小説投稿になります。目を通してくださった方、読んでくださった方はありがとうございます。
これは自分が中学生の時に書いたものを書き直したものになります。いつまで続くかわかりませんが、よろしくお願いします。
1
土砂降りの中、全身を青紫の装束を身にまとった少年がいた。大きなフードを深く被っていて顔は見えないが、背丈からしてまだ十歳くらいの子供だろう。彼は崖を背に立ち、黒ずくめでベレー帽を被った男に追い詰められていた。追い詰めている側の男の胸には、青い刺繍のエンブレムが付いていて、それは少年の側にも付いていた。
「裏切者は、消えろ!」
男が手元から繰り出したのは、全身が刃物でできたような恰好をした人型のモンスター。モンスターは少年に飛び掛かる。少年はそれを回避しようと身をひねるが、ナイフのような爪が頬を捉え、
「っ‼」
少年は崖の下へ落ちていった。
真っ暗に染まる視界の中で、少年は見た。
自らのもとへ歩いてくる、もう一匹の小型のモンスターを。
2
ガタガタッ……!
車の大きな揺れで、俺は目を覚ました。夢を見ていたらしい。
俺がいるのは一般的な乗用車の座席ではなく、薄暗いコンテナだった。
つまりトラック。俺は、俺たち一家は、古都ジョウト地方から国の最南端の「ホウエン地方」に引っ越してきたのだ。向かっている場所は「ミシロタウン」。このホウエン地方で仕事をやっている父からは「田舎だが、静かでいいところ」と勧められたのだ。
「さすがに座ってばかりは体がしんどいな。ちょっとくらいなら運動してもいいだろう」
そう油断していた俺は、立ち上がった瞬間に車が停車して、その反動でコンテナの壁に頭を打ち付けた。
バックの扉が開かれると、久々の日光が差し込み、俺は思わず目を瞑った。
「シャモ、お疲れ様。トラックに揺られて大変だったでしょう? ほら! ここがミシロタウンよ」
母さんの声がしたので、ゆっくりと目を開いて光に慣らす。シャモ、というのは俺の名前だ。
降り立った新天地は、まさに大自然そのものだった。故郷のジョウト地方にも田舎町はあったが、ここまで草木が生い茂り、木材を自然に溶け込ませて利用した住宅を見たのは初めてだった。まるでキャンプにでも来たような気分だった。
「ちょっと古風な感じだけど住みやすそうでしょ? おまけに今度は、あなたの部屋もあるんだから!」
母さんはそう言って家の中に入っていった。俺もその後について行って中に入った。
家のリビングには、体格のいい引っ越し業者のおじさん…ではなく、格闘タイプのポケモン「ゴーリキー」が三体いた。それぞれ引っ越すときに詰めた段ボール箱を抱えていて、テキパキと片づけをしている。
「家の片づけは引っ越し屋さんのポケモンがやってくれるから楽チンね」
母さんはそうだ、と思い出したかのように区切り、
「この街には『オダマキ』っていうパパのお友達がいるの。お隣さんだから挨拶してくるといいわ!」
「わかったよ。俺の部屋を見てから行くよ」
二階の俺の部屋には、新品の状態からあまり変わっていない学習机、丸淵の時計、ホウエン地方とジョウト地方の地図、ベッド、大きなポケモンのソファがあった。ベッド以外のものは、あまり使っていなかったからか傷がほとんど見られず、自分の物だというのに迂闊に触ろうとは思えなかった。
俺は一応、時計の針を合わせてから、赤と黒のシャツを着て、ボール型の詩集が入った帽子を被ってから一階に降りた。
下に降りると、母さんはテレビを点けていた。
「シャモ! お父さんがテレビに出ているらしいのよ! こっちこっち!」
しかし、すでに取材は終わっていたようで、画面は父の職場からテレビスタジオに移っていた。母はがっかりしたようで、露骨に肩を落とす。
「じゃあ母さん、俺は行ってくるよ」
「……そうね。そうね、行ってらっしゃい!」
お隣さんである「オダマキ」さんの家は本当にすぐお隣で、小道を挟んで自宅の北に位置していた。
インターホンを押すと、数秒を置いて女性が出てきた。
「えーと、どなたかしら?」
「隣に引っ越してきた者です。俺はシャモって言います」
「ああ! あなたがシャモ君ね! 娘が会いたがっていたわ。あなたと同じくらいの年だから、『友達ができる!』って楽しみにしていたのよ! 二階にいるから会いに行ってきてあげて」
おばさんはそう言って背中をぐいぐい押して階段を上らせようとしてきた。危ないので、ひとこと言ってから一人で上がった。
二階に上がると、俺の部屋と同じくらいの奥行がある空間が広がっていた。机の前に女の子が一人立っていて、机の上にあるメモのようなものに目を通していた。
「ポケモンの体力は満タン! 道具もこれで良し。リボン良し! ん?」
女の子は俺に気が付いた。わかりやすく驚いた表情になる。
「あなた、誰なの?」
「あ、驚かしてすみません。俺はシャモ。今日引っ越してきました」
初対面なので敬語で自己紹介をする。女の子はぱあっと花が咲いたように笑って、
「あなたが引っ越してきた! ああ~なるほど。いや、ごめんね。アタシてっきり女の子かと思っていたから驚いちゃった! アタシは『ハルカ』、よろしく」
「あ、どうも。よろし…」
手を差し伸べられたので俺も出そうとすると、勢いよく引っ込められた。ハルカは慌てたような顔になって、
「いっけない! お父さんのお手伝いがあったんだ! ごめんね、またあとで!」
と声を張って階段を飛び降りていった。
竜巻が通ったようだ。俺はそう思わずにはいられなかった。
挨拶、のようなものは済ませたので、俺はおばさんに別れを言ってから、家を出た。
その時、町の入り口から叫び声が聞こえてきた。俺は声がした方へ走ると、眼鏡をかけた幼い男の子がおろおろと慌てていた。
「どうかしたのか?」
一応目線を低くして話しかけると、
「男の人がポケモンに襲われているよお!」
と泣き出しそうな調子で訴えてきた。
「ポケモンを持っていないから僕、何もできないよお」
まだ学校にも通っていないような年齢でポケモンを持っていないのはよくあることだ。逆に、いくつになっても持たない人もいるくらいだ。
「わかった。俺が行く」
「でもお兄ちゃん、ポケモンがいないと…!」
男の子の悲痛な声に、俺はこう答える。
「大丈夫。心配する必要はないよ。俺は、そこそこ強いから」
街を出ると、一層草木が生い茂った、森のような場所になった。
被害者の外見はわかりやすいものだった。
白衣に短パンという、違和感の塊にしか思えない衣服に、そこそこ太って四角い顔をしかめて、全力疾走で走る中年の男だった。
それを追いかけるのは、黒い毛並みに覆われた子犬のようなポケモンだった。名前はわからないし、初めて見たということは、ホウエン地方原種のポケモンだろうか。
中年のおじさんは、俺に気が付いたのか、必死の形相で木によじ登りながら叫ぶ。
「きっ、キミいい! たっ助けてくれえええ!」
さてどうしようか。
俺はこの事態が発生した原因を見抜いた気がした。
子犬のようなポケモンの尻尾だけが泥に汚れているのだ。おそらく、何かしているうちにうっかり踏みつけてしまったのだろう。そりゃあ怒るわ。正直一回噛まれてお相子になってもらわないと、向こうがかわいそうな気がしなくもない。
だけど、だ。
ここは戦うべきな気がする。なんとなく、さっきのハルカの言葉が、頭をよぎったのだ。
『お父さんのお手伝いがあったんだ!』
似てない。あまりにも似ていない。だが、万が一のこともある。その場合、俺はいろいろ困った展開を迎えそうだ。
「おーい! そのかばんの中にいるポケモンを使って、何とかしてくれえ!」
おじさんの言葉通り、草むらの中にはカバンが落ちていた。その中には、三つのモンスターボールも。
でも俺にはその必要はない。
俺には俺の「ポケモン」がいる。
「行けっ、ラナ!」
ボフッという音とともに現れたのは、俺の膝元くらいしか背丈がない、人型の小さなポケモンだった。緑色の頭の中央から赤い突起が伸びていているのが最大の特徴か。
「ラルトス⁉ キミはポケモントレーナーだったのか!」
「いいえ、まだ違いますが!」
「そ、そうなのか。いや、とにかく頑張ってくれえー!」
応援が適当だなあ、まったく。でも、とりあえずあの子犬ポケモンには悪いけど、おじさんを助けることにしよう。
「ラナ、なきごえ攻撃」
「ハアッ!」
分類するとエスパータイプに当たるラナことラルトスは、人との距離が近い。サイコパワーなんていわゆる不思議な力で、人の言葉を覚えるのみならず、人の言葉を話す(実際は念話に近い)ことができるようになった。
ラナの言葉に気が付いたのか、黒い子犬は矛先を変えて走り出す。なんの捻りもない技「たいあたり」だ。
「ラナ、すれ違うタイミングで一歩退いてはたく攻撃だ!」
「はい!」
ラナはポチエナを引き付けて、闘牛士のようにひらりと身をひねって攻撃をかわすとともに、止まれずに真横を走り去ろうとする黒い子犬の頬を、思い切りはたいた。
吹っ飛ぶ、なんてことにはならなかったけれど、頭から地面にぶつかり転がった子犬のポケモンは、たまらず逃げていった。
「ああ、助かったよ! それでキミは?」
身の安全が確保されるなり、木からするすると降りてきたおじさんは、降りながらそう尋ねてきた。
「俺は今日引っ越してきた者で、シャモといいます。人違いだったら申し訳ないのですが、オダマキさんですか?」
俺がそう尋ねると、おじさんは驚いたような顔になった。
「キミがセンリの息子さんかあ! いやあ、大きくなったな! いやはやそりゃそうか、なんせ君に最後に会ったのは十年も前のことだからな! はっはっは!」
そうか、十年も昔なら忘れていても仕方がないな。
オダマキさんは、草むらに落ちているカバンを拾い上げて肩にかけてから、
「キミにお礼がしたいからね、ぜひとも僕の研究所に来てくれ!」
お礼、悪くない響きだった。これから旅に出る身としては、役に立つものは一つでも多くほしいからだ。
研究所は、我が家の東にある、大きな建物だった。このミシロタウンという街には、本当に何もない。静かで暮らしやすそうだが、何もない。
「さあ、早速だが、お礼だ。僕のカバンにはさっきも言った通りモンスターボールが三つある。中には初心者用のポケモンではあるが、草、炎、水の三種類のポケモンがいるぞ」
モンスターボールとは、普段はゴルフボールほどの小さな玉だが、この中には一匹だけだがポケモンを入れることができる。ポケモンを繰り出すときに開閉スイッチを一回押すと、ボールはソフトボールほどのサイズになる。これでポケモンを繰り出すことができるようになる。
ポケモンを繰り出していない状態、すなわちポケモンを中に入れるとき、ポケモンはどうなっているのか。ボールの中がワープホール状態になっていると思う人もいるが実はそうではない。
ポケモンはポケットモンスター。何故ポケットなモンスターなのかという理由がここにある。
ポケモンは体が極端に弱まると、どういう仕組みか、体そのものが小さくなって、その身を癒すのだ。その原理を応用したのがモンスターボール。つまり、ボールが小さくなっている間もポケモンは中で元気にしているのだ。
長くなったが、カバンの中の小さなボールにもポケモンはいるのだ。
「一つ目のボールには草タイプのキモリがいる。一回一回の攻撃は鍛えない限りは強くないが、その分を手数の多さで補っている。二つ目には炎タイプのアチャモ。こいつの一番の特徴は攻撃力にある。足が発達していて、一撃一撃が重たいんだ。最後の一つは水タイプのミズゴロウ。タフな奴で、攻撃素早さともに、他の二匹には勝てないが、体力勝負になると強い。長期戦に持ち込んで、相手を倒すんだ。ああ、でも、今のは僕なりの紹介だ。個体によって差はあるし、キモリなのに攻撃がやたら強かったり、アチャモのくせに体力が無尽蔵、ミズゴロウがとてつもなく速い、なんてのはよくある。仕事なんで全部ってわけにはいかないけど、一匹選んでくれよ」
オダマキさん改めオダマキ博士は、でたらめを言う人ではないのだろう。平均的に、科学的に見れば、この三匹はそう特徴づけられるというのだ。
であれば、だ。答えは決まった。
「ミズゴロウをお願いします」
ラルトスの系統は防御力が低い傾向にある。だから防御力の高い仲間は旅の中でほしいと思っていた。それがこのタイミングで加わるのは僥倖だった。
ボールを手に取ったタイミングで、研究所の入り口が勢いよく開けられた。
ハルカが帰ってきたのだ。
「お父さん! 森の方から戻ったんだけど見当たらなくて心配したよ! 帰ってたんなら教えてよ~」
息を切らせて、安堵した声を出しているところを見るに、ハルカは心配して飛んできたのだろう。オダマキ博士はバツが悪そうな顔になって頭を掻いた。
「いやあ、はは。ポチエナの尻尾を踏んでしまってね。襲われていたところをシャモ君が助けてくれたんだよ」
「わっ、そうなんだ! シャモ君ありがとう!」
「いいよ。お礼にポケモンももらっちゃったし」
「え、でもそのポケモンって元々お隣さんになるシャモ君にあげる予定だったんじゃあ……」
「えっ」
「……あ、あはははははあー」
オダマキ博士もといこのおっさん、せこい手を使いやがって。まあ別にいいんだけど。
「い、いやあごめんよシャモ君。そういうつもりじゃあなかったんだ。今度こそお詫びだ。いや、お礼か」
気を取り直してオダマキ博士は、一つの段ボール箱を取り出した。
「これは元々シャモ君にあげる予定だったポケモン図鑑と十個のモンスターボールだけど、ここに追加で、モンスターボール五個と秘伝マシン01『いあいぎり』をプレゼントしよう」
驚いた。技マシン、それも希少価値の高い秘伝マシンをくれるとは、かなりの太っ腹だ。いや、悪口ではなく。
「お、そういえばお父さん」
ハルカがオダマキ博士に尋ねる。
「シャモ君、ポケモン貰ったんだよね? じゃあさじゃあさ、バトルができるんだよね⁉」
「あ、ああ。それはそうなんだが。いいかな? シャモ君」
俺はポケモンバトルは嫌いではない。先ほど少し悩んだのも、博士の自業自得だったというのもあったからであり、野生のポケモンが現れれば真っ先に倒すだろう。
「いいよ、ハルカちゃん」
「よーし、シャモ君! 冒険の夜明けに一本勝負だ!」
さすがに研究所で戦うのはいけない。俺とハルカは次の街で戦うことにした。
八月三十一日。俺は新天地、ホウエン地方にやってきた。
レポート
八月三十一日 ミシロタウン
手持ち
ラルトス LV5
ミズゴロウ LV5
私、小学生の時のあだなでいじめられてたんですけど、慣れてから気に入ったんですね。だからオメガルビーの主人公の名前を、当時流行っていた非公式ゆるキャラと合わせて「もやっしー」にしたんですよ。ゲーム内ではまず母に「もやっしーもやっしー」の連呼。父との決戦でも「…もやっしー」としんみりできないという。感動が台無し。
では、生きていればまた次回。おやすみなさい。