ポケットモンスター ホウエン地方編   作:とーさかしゅん

15 / 31
半年以上開けて、再開です。
しかも最後のお話、前後編の前編ですねこれ。この後半戦がすごく大変だったのですよ…自分で作ったものですけどね!
これからは0がつく日に投稿していこうと思います。次回は20日ですね。ストックはあります。しばらくはダイジョブです。
それでは後半戦、どうぞ。


第15話 vsゴーリキー ルリリとヤスノブ

 

 1 9/29 109番水道

 

 時刻は正午を回ったくらい。9月ももう終わるというのに昼間の気温は未だに35度を超える。普段着ている服で活動していれば1時間も保たないため、俺は店主のカイバラさんから水着とラッシュガードを借りて着ていた。

 うみのいえは大いに繁盛していた。客層は家族連れだはなく、学生が中心だった。未だに夏休みの大学生とかだろうか。俺よりも年上の客がほとんどだから気圧されないように必死になる。

「兄ちゃん注文頼むよ!」

「おーいこっちにも来てくれ!」

「シャモくん、アツコ! これが5番、こっちの生は7番テーブルだ!」

 厨房はまさに火の車だった。中では店主とそのポケモン、サンドが目にも止まらぬ早さで焼きそばを混ぜてお好み焼きを返してビールを注いで皿を洗っていた。

『サンド、ねずみポケモン。タイプ:じめん。体は乾いている。しかし夜中気温が下がったときは皮膚に滴がつくという』

 昨日図鑑を登録して知ったことだが、サンドはこういう夏の暑さというか乾燥というか、とにかく砂漠に近い環境でも生きていけるらしい。まさに店主のポケモンにふさわしい。小さな体をせかせか動かして野菜を捌き、火の管理をしていた。

 アツコというのは昨日会わなかった店主の娘さんのことで年は…聞いたら16と言われたが多分25くらいだ。ヤスノブくんが恋する相手というくらいだから10才の女の子を想像していたが、まさかの成人だった。ビキニを来たアツコさんは両手一杯にビールを抱えて、いかにもイケイケな兄ちゃんたちがいるテーブルまで運んでいた。

 俺とヤスノブくんはというと、俺は経験的に、ヤスノブくんはサイズ的に活躍が見込まれないから仕事は少ない。

 ヤスノブくんはひたすらかき氷を擦ってる。俺はそれをテーブルに持っていき、注文を聞いて店主かサンドに伝える。飯台に置かれた品をアツコさんほどではないが少しずつ運んでいく。

「シャモくんこれも!」

「ひい…ひい…ちょっ、忙しいすぎる!」

「ぼくももう限界…!」

 ヤスノブがかき氷の注文が回らなくなってきている。パンク寸前だ。何か手はあるか?

 とヤスノブはかき氷器から手を離し、下に潜った。俺がしばらく様子を見ていると、もう一台のかき氷器を出したではないか。

 人手はもうないはずだが…。

「ルリリ! 頑張るよ!」

「リルー!」

 ヤスノブくんはモンスターボールからポケモンを出した。トシマサが使ってたマリルに似たポケモンだな。

『ルリリ、みずたまポケモン。タイプ:ノーマル、フェアリー。投げ縄の要領で尻尾を振り回し投げたときの力で飛んでいく。最高10メートル飛んだ記録がある』

 カクカク折れた尻尾はかなり伸縮性が高いらしく、ルリリは尻尾を使って器用にかき氷器を回し始めた。

「シャモくーん!」

 店主の声が聞こえた。

 なるほど。

「お前たちも出てこい!」

 ボボボボボボム! と俺は一斉にポケモンたちを繰り出した。

「シャモくん、一体何を!?」

「ヌマクローとラナは俺と一緒に接客、アゲハントとスバメは交代でお客さんに風を送るサービスだ。ヤミラミは掃除」

 残りはメノクラゲだが、触手を活かして厨房に行かせると多分干からびるんだよな。

 ならば、同じみずポケモンに手伝ってもらうまでよ。

「メノクラゲはあのビールのジョッキを持ってくれ。ヌマクローはメノクラゲの背中にみずでっぽう!」

 指示通りメノクラゲがジョッキを持った瞬間、ヌマクローが水をぶつける。メノクラゲはまっすぐふっ飛んで、

「おお!」

 お客さんが驚いた声をあげる。何せいきなりメノクラゲがビールを持って現れたのだから。

 これならメノクラゲも仕事ができる。

 ジュース、ビール、ビール、ジュース、かき氷、ビール、ジュース、焼きそば、かき氷、かき氷、かき氷、かき氷、ジュース、ビール、焼きそば…。

 午後2時くらいに一度落ち着き、3時ころから再び賑わい、夜ご飯の時間に再度盛り上がり…。

「ぐっはぁぁぁぁぁぁぁあああああ!! 疲れたぁぁぁぁぁ…」

 夜の7時過ぎ。俺はテーブルの1つに突っ伏していた。

「おつかれーシャモくん」

 そんな俺のところにアツコさんがやってきた。思えば今日1日、仕事の話以外していなかった。

「シャモくん初めてだけど、よく頑張ったねー」

「ポケモンたちもいましたし。あいつらのおかげですよ」

「そう謙遜しなさるなー」

「アツコさんも大変でしたね。いつもは俺もポケモンもいないから」

「んもうほんっと大変!」

 そう言ってはいるが、俺と違ってアツコさんはやはり経験の差というか鍛え方が違うというか、まだまだ元気そうだった。逆に俺は明日に影響が出ないか心配だ。筋肉痛とか、日焼けとか。

「華の大学生が夏休みにビーチで親の手伝いて…。そりゃ出会いなんかないわ!」

「で、ですよね」

 俺が返事に困ったのはアツコさんの勢いに押されたからではない。

 大学生だったんだ! 25才とか言ってごめんなさいっっっ! 俺は心の中で土下座する。

「でもまあ父さんに頼まれちゃあ仕方ないのよね」

「おじさんはボクが面倒見るのに!」

 俺とアツコの会話にヤスノブくんが入ってきた。

「ヤスノブはまだ子供なんだから。そういうのはもっと大きくなってからね」

「ぐっ…」

 ヤスノブくんは何も言い返さなかった。いや、何も言い返せなかったのか。俺は今日初めてこの会話を聞いただけで、前からこんな会話を何度もしていたのかもしれない。

 アツコさんは席を立ち、

「じゃあおやすみ。明日もあるから早めに寝るんだよ」

 と言って裏へ入っていった。

 アツコさんがいなくなったフロアで、ヤスノブがぽつりと呟いた。

「ボクがもっと大人だったら…」

「ヤスノブくんはアツコさんを手助けしたいんだ」

「そう。でもボクもルリリもまだ小さいから力になれないんだ。本当はおじさんの面倒を見るなんてできないのに、見栄を張って言っただけ。ボクが大人になる頃にはみんなもっと上にいっちゃってる。不公平だよ」

 ヤスノブくんが10年成長しても、アツコさんもカイバラさんもそれだけ年を取る。ポケモンのレベルは個体によって上がりやすいものとそうでないものがいるが、人間はそんな風にはいかない。

 時は誰にでも平等に刻まれる。

 俺は?

 5年より前の記憶がない俺は、今の時間まで15年分生きていたと言えるのだろうか。

 そんな俺が、ヤスノブくんに何かを言えるのだろうか。

 いや、何も言えない。

「ボクはどう頑張ってもアツコさんに振り向いてもらえない。いつか離ればなれになるときがくる。それが怖いんだよ…」

 俺は隣で悩む小さな男の子にかける言葉がなかった。

 

 2 9/29 109番水道

 

 僕は彼の15年の人生のうち、約5年を共にした。

 いや、ヌマくんに言わせると「10年」が正確なのかな。記憶が無くなってからの5年も合わせて。

 あの男の子の悩みは、僕の悩みとは全く似ているものではないが、全く違うものとも言い切れない。

 僕は彼が知らない彼と過ごしてきた。

 僕は彼が知らない彼を慕っていた。

 でも彼は僕が彼のものだとは知らない。

 彼は僕が知っている彼ではなくなった。

 以前よりも優しい彼、人当たりの良くなった彼、起きる時間と寝る時間が変わった彼、好物が変わった彼、ボールの投げ方が変わった彼。

 僕を忘れた彼。

 どうして彼の時間だけ巻き戻してしまったんだろう。いっそ僕も全てを忘れていれば、苦しまずに済んだのに。

「お前、まだ起きてたのか」

 ヌマくんがむくりと体を起こす。

「明日もあるんだ、寝るぞ」

 どうすれば昔の彼に会えるのだろう。

 

 3 9/30 109番水道

 

 うみのいえ最終日。昨日ほどではないが、今日も昼頃にかけてどんどんお客さんが増えていった。

 厨房ではカイバラさんとサンドが、フロア内ではアツコさんとヤスノブくんとルリリ、そして俺とヌマクロー、ヤミラミが動いていた。

 忙しさがピークになる正午過ぎに、事件が起きた。

 俺が外から食べ終えた皿を回収していた時だった。突然ガシャン! と何かが割れたような音が店内から響いた。

「おい姉ちゃん、これどうしてくれるんだよ?」

「すみません、すぐに片付けますから…」

「あぁ? 服にソースが付いたっつってんだよ!」

 トラブル発生。どうやらアツコさんが料理を席に持っていく際に皿を落として割ってしまったようだ。それで、載っていたものがお客さんの服に付いて、といったところか。

 アツコさんは慌てておしぼりで客の服を拭き始めるが、焦りから生じる力の入れ方が気にくわなかったようで、客はさらに憤る。

「いてぇじゃねえか! 何しやがる!」

「なぁ、弁償してくれよ? 近くのホテルに泊まってるからよ、部屋で洗濯してくれや」

 向かいに座っていた別の男もクレームに加わる。どうやら仲間の一人のようだ。

「お客様!」

 カイバラさんが厨房から出てきて、帽子を脱いで頭を下げる。

「お代は結構ですので勘弁してください」

「てめぇの店のモンが食える値段で、俺の服が買えるとでも思ってんのか?」

 正直、そんなに高い服のようには見えない。

 俺はクレーマーには2種類の人間がいると思う。注意喚起だけで特に何も求めない、また詫びの品だけで許す者。そして、ただ怒りをぶつけたい者。前者はこちらの誠意を見せれば大体納得してもらえる。ただ後者は面倒だ。あらゆる謝罪も、誠意も、彼らの怒りの言葉が全て出きらないと受け付けられない。非常に厄介だ。

 仮に服の代金を支払っても、会計の代金を無しにしても、彼らは納得しない。

 その上この客はもっと厄介なタイプかもしれないな。

「おい姉ちゃん、車ぁ出すから部屋で洗濯して貰うからな?」

 厄介なタイプ確定。彼らは立場が悪いアツコさんに手を出すつもり満々だ。

 カイバラさんも客の狙いを察したらしく、とうとう頭の線が切れた。

「いくら客といっても、娘に手を出そうってなら許さないぞ!」

「うるせえ。ゴーリキー、グロウパンチ」

 服を汚された男がモンスターボールからポケモンを繰り出した。筋骨隆々なかくとうポケモンだ。ゴーリキーと呼ばれたポケモンはカイバラを殴り飛ばし、カウンターまで飛ばされたカイバラさんは気を失ってしまった。

『ゴーリキー、かいりきポケモン。タイプ:かくとう。鍛えあげた筋肉は鋼の硬さ。相撲取りの体も指1本で楽々持ちあげてしまう怪力のポケモンだ』

 無茶苦茶なパワーだ。

 他のお客さんは、暴れだしたポケモンを見てパニックになり、ある人は適当にお金を置いて逃げて、ある人は代金を支払うことなく店を飛び出して、店内はクレーマーたちと俺たちを残して誰もいなくなってしまった。

「お、おいヤクザ!」

「あ?」

 ヤスノブくんだ。

「ヤスノブくんダメだ!」

「きみは危ないから逃げて!」

 俺とアツコさんの声を聞かずに、ヤスノブくんは客の前に立って訴えた。

「そっちの男が足を出して、アツコさんを転ばせたんだ! アツコさんは悪くない、謝れ!」

「ヤスノブくん、私が悪いからやめて!」

「止めない!」

 客…もはや悪質クレーマーだな…も苛立ちが限界になったようで、ゴーリキー使いの仲間もポケモンを繰り出した。

 イシツブテの何倍もある球状のポケモンは、

『ゴローン、がんせきポケモン。タイプ:いわ、じめん。坂道を転がりながら移動。邪魔なものはどんどん押しつぶして進んでいく』

「ゴローン! そのガキを踏み潰せえ!」

 そんなことやったら、怪我じゃすまないだろうが!

 俺は慌ててモンスターボールをゴローンの下に投げつけた。

「バブルこうせん!」

 飛び出したのはメノクラゲ。弾力がある、割れにくい大量の泡をゴローンに吹き付けて、ヤスノブの身を守る。

「シャモさん!」

「シャモくん!」

「ああ!?」

 カイバラさんが倒れた時点で動くべきだった、と少し後悔する。もう怖い思いはさせない。

 俺はポケモンたちを集める。

「ヌマクロー、ヤミラミ、行くぞ!」

「ヌマー!」

「やみっ」

「なんだテメェはいきなり!」

 クレーマーの声に呼応するかのようにゴーリキーが拳を振るう。それをヤミラミが手のひらに持ったかたいいしで受け止める。ゴーリキーは悲鳴を上げて拳を押さえた。ヤミラミ、中々酷いことをするな。

「ちょっと入るのが遅くなったけれど、アルバイトシャモ、悪質クレーマーを撃退する!」

「ちょっとポケモン多く持ってるからって、舐めたこと言ってんじゃねえぞ! ゴローン!」

 ゴローンが腕を組んで転がろうとする。それをヌマクローが事前に両腕で押さえ込むことで技を封じる。

 ツツジさんのイシツブテの、足元にも及ばないな!

「いわくだき」

 みしみしみしっ! と嫌な音をたててゴローンは戦闘不能になる。

「ちっ、ゴーリキー暴れろ!」

 ゴーリキーが近くの椅子や机を手当たり次第に投げつける。メノクラゲの触手でいくつかを掴んで下に落とすが、全てを対処することはできなかった。

「しまっ…!」

 机の1つがアツコさんの所へ降りかかる。

 ヌマクローはゴローン、ヤミラミとメノクラゲはゴーリキーに意識が向いていて間に合わない。

 どうすれば…!

「ルリリ、たたきつける!」

 ヤスノブくんの声に応じて、小さなポケモンが机を叩き割る。

 ルリリが、ヤスノブくんがアツコさんを守った。

 進化前でありながら机を叩き伏せたのは、ルリリの特性「ちからもち」によるものだろう。その小さな体に似合わない怪力で、アツコさんを守ったのだ。

 流石のクレーマーも今のルリリを見て少し怯み、パートナー共々動きが止まる。

「ヌマクロー、いわくだき!」

 渾身の右ストレートがゴーリキーに炸裂し、クレーマーは吹っ飛んだゴーリキーの下敷きになった。

 

 4 10/1 109番水道

 

 その後目を覚ましたカイバラさんは、俺たちが縛っておいたクレーマーたちに再度謝罪をして弁償の代金を支払った。クレーマーたちはそれで納得し(あるいは納得するしかなくなったため)、うみのいえを大人しく去っていった。

 波乱の2日目もそれ以降は特に問題なく終わり、閉店後に俺はバイト代をもらった。

 カイバラさんたちが翌日にはお店を出るとのことで、宿泊費を払う代わりに片付けも手伝った。

 トラブルの後は特に変わったことはなかったが、少し変わったことがあったとすれば、それはヤスノブくんだな。アツコさんへのアピールをしなくなった。諦めた、というより何か決めたようだった。結局、俺は何も言えなかったが、自分で何か解決できたのなら良かった。

「それじゃあシャモくん。忙しい上にトラブルもあったが、2日間ありがとう!」

「こちらこそ、バイト代弾んでもらっちゃって、ありがとうございます。トラブルはまぁ、そのためにいたようなものですが」

「来年も手伝ってね」

 アツコさんが冗談混じりに言うので、

「謹んでお断りします」

 丁重に断った。

 海水浴のシーズンが終わり、砂浜にいるトレーナーの数はかなり減ったように見える。人の声よりも波の音の方が大きく、寂しさも感じられる。

 109番水道の先にあるカイナシティに向かう。

 その途中で、俺は2人組の男に捕まった。

「おうおうおう兄ちゃん! ちょっとツラ貸してくれねえか?」

「俺たちそこのうみのいえで、テメエのポケモンに酷い目に遭ったんだけどよぉ!」

 うみのいえでトラブルを起こした、昨日のクレーマーたちだった。あまり気を配っていなかったから結構派手に撃退していたようだ。男たちの顔にはいくつか絆創膏が貼られていた。

「あの、何の用ですか? 俺この先のカイナシティに行きたいんですけど」

「兄ちゃんもカイナに用事かぁ。奇遇だな、俺たちもだ」

「だったら俺たちも付いていっても文句はねえよなぁ」

 大方、逆恨みでどうにかしてやりたいってところか。ここは昨日みたいにポケモンたちの力を借りて何とかするか。

「そこでよぉ兄ちゃん」

 男の1人が、ずいと顔を近づけてくる。圧がすごい。

 腰のボールに手をかけて、すぐにヤミラミを出せるようにする。

 そして男は頭を振りかぶり、俺に向かって、

「「俺たちを鍛えてくださァい!!」」

 頭を下げた。

 

 

 

 レポート

10月1日 109番水道

 

 

手持ち

 

LV23  キルリア オス

 

LV22  ヌマクロー オス

 

LV17  アゲハント メス

 

LV19  スバメ メス

 

LV27  メノクラゲ メス

 

LV19  ヤミラミ オス

 

図鑑

31匹(新:サンド、ルリリ、ゴーリキー、ゴローン)




中学版との違い
・全部
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。