ポケットモンスター ホウエン地方編   作:とーさかしゅん

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投稿忘れていました。
タイトルは初めて「vs○○」から外れて幕間。第1章の終わりになります。
第2章はまだ執筆が進んでいないため、またしばらく期間が空いてしまいます。ごめんなさいッッッ!


第22話 幕間

 

 気がつくと、病院の受付のベンチに座っていた。

 ドククラゲは命を繋いだが、未だに予断を許さない状態だった。仮に回復したとして、バトルはもちろん、元のように海で泳ぐのは厳しいと告げられた。

 全ては昨日の夜、俺が真剣に考えずに話を終わらせてしまったことが原因で起きた。いいや、あるいはそれ以前から既に予兆はあったのかもしれない。

 俺はその全てに気づかなかった。

 9月から初めてポケモンリーグに行けるわけがない。俺には才能がない。アクア団の存在が。それらは全て言い訳だ。

「シャモ」

 暗い廊下からテッセンさんがやって来た。

「すまなかった。ジムリーダーとして、もっと早く、深刻な事態に気づくべきじゃった。あと一撃当てれば倒れて、執念深いドククラゲは止まると思い上がってた」

 最後の攻撃、あれはドククラゲを止めるための一撃だったのか。確かに、本気の一撃だったら返しのミラーコートの威力はもっと高かっただろう。

「いえ、悪いのは俺です」

 久々に出した声は酷く枯れていて、聞くに堪えないようなものだった。

「まだ心の傷が癒えていないのはわかっておる。だが、1つ訊きたいことがあるんじゃが」

「…なんですか?」

「お前さんはこれからどうする?」

 それは考えたくないことだった。

 ジム戦終盤、ラナを介して聞いたドククラゲの想いを、俺は受け止めていかなければならないと思っている。

 しかし同時に、ドククラゲを追い詰めて大ケガを負わせた俺に、ポケモンリーグを目指す資格はあるのだろうかと疑問に思う。

 ドククラゲは俺をリーグに連れていきたかったようだが、俺という神輿はそんなに良いものじゃない。

「ドククラゲのあの戦いっぷり。余程お前さんをポケモンリーグに連れていきたかったと見た。お前さんの旅の目的を聞いてもいいかの?」

「俺は、ポケモンリーグを目指してました。でも9月から旅に出た俺が、半年でホウエンのバッジを集められると思っていなくて、本気で目指すのは来年以降にしようかと」

「なんじゃそのハッキリせん答えは」

 呆れた声だった。

「まず、ホウエン地方は国内の別地方に比べて、地理的にも実力的にもはるかに規模が小さい。実力は近年上昇傾向にあるが、地理的に考えると半年もあれば余裕で回りきれるぞ?」

「えっ」

 初耳だ。いや、そもそもちゃんとポケモンリーグというか、ホウエン地方について調べたことがなかった。

 行き当たりばったりすぎる。そもそも、ホウエンを旅しようとしたきっかけが父さんの勧めで、特に準備をしていたわけでもない。

 は、恥ずかしい。

「一体どうして、そんな情報量でポケモンリーグに出ようとしていたのか…。話を戻すぞ。シャモ、お前さんは今年、ポケモンリーグに出るつもりはあるか?」

 熱くなった顔が一気に冷めた。

 本題はそこだった。

 ドククラゲの犠牲を踏み台にして、ポケモンリーグという高みに手を届かせる。それは、

「それは、許されることなんですか?」

「お前さんの気持ち次第ではある。だがもし、『ドククラゲを犠牲にリーグへ行くのは気が引ける』なら、ワシはお前さんに、リーグへ行けと言おう」

「どうして…!」

「ドククラゲが望んだからだ」

 それは知っている。実際に声を聞いた俺だからわかっている。

 だからこそ、俺は踏み切れない。

「ドククラゲは体を張って、お前さんを次のジムへ繋ごうと戦った。それを汲めずにここで腐るお前さんは、ポケモントレーナーである資格はない」

「…俺は」

 良いのか?

 この決断が、さらなる犠牲を作るかもしれないんだ。

 この願いが、俺のポケモンを傷つけるかもしれない。

「強くなりたい」

 俺の根幹。この願いが、俺がリーグへ行こうとする力になっている。

「強くなって、ポケモンリーグに行って。なんなら優勝して、四天王もチャンピオンも全部倒して、誰にも負けないトレーナーになりたい!」

 病院であることなんて忘れて、俺は力強く吠えてしまった。

 暗い受付で、テッセンさんは明るい笑みを浮かべる。

「よう言った! 先ほどドククラゲの状態が安定したとのことだ。朝になったら見に行くことだ」

「はい」

「ワシはお前さんを応援している。ワシに勝ったトレーナー全員に言うとるが、これは本心だ。がんばるんじゃぞ!」

「はい!」

 テッセンさんは高笑いをしながら病院の廊下を歩いていった。

 途中、見回りの看護士に怒られていた。

 

 

 

 そして、俺は病室にいた。ポケモンたちも全員一緒だ。ヌマクローは念のため車椅子に座っている。

「みんな、聞いてくれ。俺はポケモンリーグに行くことにした」

 俺は顔を伏せていた。全員と目を合わせるのを怖れているんだ。

 誰も声を上げない。人の言葉で伝えられるラナでさえ、何も言わない。

「ドククラゲに怪我させて、これからも誰かを傷つけることもあるかもしれない。でも、もう止まらない。3月に開かれるポケモンリーグに出るまで進み続ける」

 まもなく夜明けという時間。窓の外は少しずつ明るくなっていった。

「こんなダメなトレーナーな俺でも、着いてきてくれるか?」

 光が差し込む。長い沈黙の後、やがて、1匹のポケモンが俺の肩に手を置いた。

 ヌマクローだ。

 俺はようやく、全員の顔を見ることができた。ヌマクローは車椅子から降りていた。周りを見ると、みんなヌマクローと同じ目をしていた。

 それは信頼なのか。期待なのか。ヌマクローは握った拳をみんなの中心に突き出した。それを見て、オオスバメが羽を重ね、アゲハントとヤミラミ、ゴクリンまでが手を合わせた。

 最後にラナが全員の上に手を乗せて、俺を見た。

「どうやら、みなさん賛成のようですよ」

「見ればわかるさ。…ありがとう」

 俺はラナの手の上に自分の右手を置いた。

 俺たちの決意は固まった。

「出るぞ、そして勝つぞ。ポケモンリーグ!」

 全員の鳴き声が重なり、俺たちは1つのチームになった。

 

 

 

 それから俺たちは昼過ぎまで寝て、テッセンさんからの連絡で目が覚めた。

「もしもし?」

『元気そうだな。1つ、取引があるんじゃが、頼まれてくれんか?』

 俺はヌマクローを再度ポケモンセンターに預けると、ラナ含む他の仲間をボールに入れてジムへ向かった。

 テッセンさんにマコト、ジョージ、それにタロウとリョウタもいた。

「タロウ!」

「兄貴、お疲れ様っす! もう大丈夫ですか?」

「心配かけてごめん、俺は大丈夫。それにしてもみんな何で?」

「彼らはこれからジムチャレンジじゃよ。お前さんとは関係ない」

 とテッセンさん。マコトとジョージがいるってことは埋め合わせで10人揃ったのだろう。流石はキンセツシティ。10人の挑戦者くらいは短期間ですぐに集まるようだ。

「兄貴、俺、これからこいつと組んで勝ってくるっす」

「はぁ!? 誰がいつお前なんかと組んだって!」

 タロウとリョウタ、前回のジムチャレンジのときもそうだったが、いつの間にか仲良くなっていないか? 同じチームになってから何かあったのだろう。

「そうか、頑張れよ」

「うっす!」

 タロウはリョウタ、マコト、ジョージと共にジムへ入っていった。

「それで、お前さんへの話だがな」

 テッセンさんは1枚の紙を取り出した。手に取ると、それはドククラゲの治療費に関する書類だった。

「ま、感情論だけじゃポケモンリーグには行けないっちゅーわけじゃ」

「覚悟はしてました」

 桁の数を数えたくなかった。到底払える額でないことはすぐにわかった。

「今回はワシにも責任がある。だからこの治療費、さらにこれからの治療費も全てワシが支払おうと思うのじゃ」

「えぇ!?」

 いくらジムリーダーでもそこまで手軽に支払っていいのか?

「もちろんタダでとは言わん。ワシもそこまで富豪じゃないからの。そこで、アルバイトを頼みたい」

「アルバイト?」

「キンセツの南側、110ばんどうろの地下に、開発途中で凍結した計画の名残である『ニューキンセツ』という施設がある。今ではキンセツシティの電力供給の施設と化しているが、滅多に人が入らんから最近調子が悪くてな。点検を任せたい」

 そういうのって、普通専門家に頼むものでは。

「何しろ金がかかるからのぉ! それに、ポケモンも多く棲みついておるから、トレーナーに頼んだ方が安全なんじゃよ。なぁに、仕事自体は単純なもの。どうじゃ? 受けてくれるかの?」

 専門的なことをやるわけではなさそうだ。現実問題として、ドククラゲの治療費は子ども1人では払いきれない。

 受ける以外の返事がなかった。

「やらせてください」

「よし! 取引成立じゃな。早速明日、ニューキンセツに行ってきてくれるかの」

「はい!」

 テッセンさんから作業の内容が書かれたデータをポケギアで受け取り、俺はその日はポケモンセンターで泊まった。

 

 

 

 キンセツシティはホウエン地方最大の都市だ。人が多く集まる街には当然、危ない連中も集まってくるものだ。

 街の北側、111ばんどうろに通じるゲートの付近には、一様に同じ姿をした男女がわらわらと集まってきていた。異様な雰囲気から、トレーナーや町の人間は誰一人として近づかない。

 彼らは皆真っ赤な隊服を着こなし、フードを被っていた。フードに黒い角のような飾りが左右2本あるのが特徴的だった。

 そしてその服には全て、Mの刺繍が施されていた。

「ウヒョヒョヒョヒョ!」

 赤い服を着た、体の丸い男が高笑いした。

「キンセツからりゅうせいのたきに行くメンバーはこれで揃いましたねぇ! カガリさんの方も揃い次第進むそうですので、我々はこれより半日後出発しますよぉ!」

「半日後?」「ホムラさんそれってつまり、」「半日後まで暇になるんじゃね?」「やったー!」「私行きたいとこあったんだよねー」

 ホムラと呼ばれた丸い男は頭の上で手を叩いて、喋りだした団員を黙らせた。

「半日後まで自由行動! しかし時間に間に合わなかったものは粛清対象ですよぉ! みなさん、気をつけて休みなさいぃ!」

「うぉぉぉぉぉ!」

 団員たちは一斉に町中に散らばり、北側ゲートにはホムラ1人だけが残った。

 1人きりになったと思ったホムラは独り言を始める。

「ウヒョヒョ。人望も厚く作戦にもメリハリがある! これでボクが時期マグマ団のリーダーになるのは確定的なのではぁ!」

「ホムラさん、アイス食べます?」

「ウヒョウ!? い、いたのですねしたっぱガール。い、い、いただきましょう!」

 彼の名はホムラ。やがて『ホウエンの危機』を引き起こす2つの組織の1つ、マグマ団の幹部の1人である。

 そして、南側から出発しようとするシャモは、まだ彼らの存在を知らない。

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