バトルシーン以外にもたくさん書きたいですね。
ラストではさらに…っと、前書きですのでこの辺りで。
それでは、お楽しみくださいませ。
1 9/1 ミシロタウン
「母さん、旅に出てもいいかな」
「いいわよ」
「即答ッッッ‼️」
夕食の時であった。
俺は結構重大な決断をしたはずなのだが、母さんに即答されて思わず気が緩んでしまった。
母さんはニコニコと笑いながら、
「だって、パパの子なんですもの。ホウエンに来たら、旅に行きたいって絶対言うと思っていたわ」
父さんはそういう人らしい。同時に俺は記憶がなくてもちゃんと父さんの息子らしい。そこまで気にはしていなかったつもりだが、やっぱり安心する。
食事を終えてから母さんは、両手で抱えられるくらいの大きさをした箱を食卓に持ってきた。
促されるままに箱を開けると、中には一足のランニングシューズが入っていた。
「これって…!」
「新品よ。言ったでしょ? 旅に行きたいって言うの、わかってたもの」
母親とはすごい。俺が思っている以上に俺の考えていることなんかお見通しだ。
「でもね、シャモ、約束してほしいことがあるの」
母さんは笑顔から真剣な顔になった。俺はその目に見られて、ピクリとも動けなくなってしまった。
「一つ、当たり前だけど悪いことはしない。でもこれは法律とかそういうのじゃない。自分が正しいと思ったことに従って行動するのよ」
「うん」
「二つ、これから会うお友だちには優しく、ポケモンたちにはもっと優しくすること」
「うん」
「そして最後、危ないことはしない。怪我ならいくらでもしてくれて構わないけど、命に関わることはしちゃダメ。守れる?」
「うん、わかったよ母さん」
俺は三つの約束を守ると誓った。すると母さんはもう一つ、今度は一回り小さい箱を俺に渡した。
「ポケギア。ジョウト地方のトレーナー必需品だけど、ホウエンでもちゃんと役に立つわ。時計やマップもここに登録して使うのよ」
いくら旅に出るのを確信していたとはいえ、ここまで用意してくれているとは思わなかった。
「ありがとう、母さん」
風呂を出て、布団に入る。食事も、風呂も、布団で寝るのも、新居ではあるが次に我が家でするのはしばらく後になるだろう。次にここに帰るときは少しでも強くならないとな。
2
ポケモンリーグという施設、及びイベントがある。開催時期は毎年春、2月から3月にかけて催される。各地から集まった猛者たちが集まり、チャンピオンへの挑戦権を狙って互いにポケモンバトルをするのだ。
参加条件はいたってシンプル。各地にあるポケモンジムを守るジムリーダーを、合わせて8人倒し、あるいは実力を認められることでジムバッジを8つ集めるのだ。ホウエンで開催されるリーグにはホウエンのバッジを、という縛りは特に無く、世界中の、ポケモンリーグが公認したジムバッジを8つ集めれば良いのだ。つまり自分が突破しやすいと思ったジムを、高い旅費を払って挑んでもいいということだ。もっとも、それはポケモンリーグに参加できる資格を手に入れただけであって、勝てる訳ではない。バッジの数はトレーナーの強さでもあるが、真の実力を計れる訳でもない。
ホウエン地方には10のジムがある。俺はこの内から8つ選び突破し、ポケモンリーグに挑む。でも今はもう9月で、これから半年で8つ集めきるなんてとてもできないだろう。半分か、それプラス1、2がせいぜい。だけど真剣に挑めば来年への糧になる。今年の目標は、開催される2月までに何個集められるか、だな。
3 9/2 ミシロタウン
どうやらハルカちゃんも図鑑完成を目指して旅に出るようで、翌日、俺はハルカちゃんと二人でミシロタウンを経った。
「たまには戻ってくるんだぞ!」
「体には気を付けてね!」
と、オダマキ博士と母さんからの激励(心配?)を受けて、俺たちはまずコトキタウンの西から伸びる、102番道路へと入った。
「そこのキミたち!」
すぐに呼び止められた。振り替えると研究員のように白衣を身に纏った、痩せ細った一人の男がいた。俺とハルカちゃんの腰の辺りをジロジロと見つめて、洗い呼吸をしていた。一目で変質者だとわかった。
「なんですか? おじさん」
どうやらハルカちゃんはそうは思わなかったらしい。無警戒で白衣男の所へ寄る。
「ハルカちゃんストップ。この人がまだどんな人なのかわからないよ」
「えー、でも悪い人じゃなさそうだよ?」
ハルカちゃんの悪い人のハードルはかなり高そうだ。いや、良い人のハードルが低すぎるのか??
白衣男は額の汗を吹きながら、俺のところへ近づいてきた。寄るな寄るな。
「ぼ、ボクはあしあと博士! き、キミたちは腰にモンスターボールを、つ、付けているね? ぽ、ポケモンの足跡を、ぜ、是非ともくれないか?」
顔を蹴ればいいのか…? とミズゴロウのボールに手を用意していると、あしあと博士(自称)は白い塊を取り出した。それは粘土で、木の枠に敷き詰めてこちらに差し出してきた。
どうやら本当に足跡を計測? 調査? したいだけらしい。
「こ、この粘土板に、ぽ、ポケモンの足跡を押してほしいんだ。あ、も、勿論、足の無い子はやらなくて大丈夫だよ。て、手だけなら、手を押してほしいんだ」
「わかった! おじさん、この子達でどう?」
ハルカちゃんは快諾して、ポポポン! と三匹のボールからそれぞれキモリ、ケムッソ、ジグザグマを繰り出した。
ハルカちゃんはジグザグマ捕まえられたんだな。
「俺はカラサリスが対象外かな? ミズゴロウとラナを」
俺も自分のポケモンの内、二匹を繰り出した。
「うわ、わぁ、いっぱいいる…。ら、ら、ラルトスなんて、珍しいポケモン持っているなんて、ハア、う、うれしい、な」
あしあと博士は呼吸を荒くして、ラナのもとへ粘土板を持ってきた。ラナは後退りしたが、悪意がないことをキャッチしたのか、おそるおそる足を差し出した。
と、草むらから一匹のポケモンが飛び出てきた。そう思ったのもつかの間、出てきたポケモン…ポチエナはラナを突き飛ばして、
「うわぁ⁉️」
粘土板に小さな四本足を同時に叩きつけた。足を揃えてラナをニタリと見てくる。どうやら「どうだ、俺の方が一枚上手だぞ?」と挑発しているようだ。なんなんだこいつ。
俺は呆れながらもボールを投げつけるが、尻尾で半分に叩き割られる。アイアンテールだ。
「うわあ! すっごいレアなポチエナだ! 私も!」
ハルカちゃんも張り切ってボールを投げつけるが、ポチエナは粘土板を蹴り飛ばしてガードした。
「ぼ、ぼ、ボクも!」
便乗したあしあと博士もボールを投げるが、その投球フォームはあまりにも残念なもので、真下にペシャリと打ち付けるのみだった。不敵な笑みを浮かべていたポチエナも流石に呆れたのか、やれやれといった表情で走り去っていった。本当になんだったんだ。
「はぁ…」
ポチエナを捕獲できなかったのが余程残念だったのか、あしあと博士は肩を落としていた。
その後、ラナ、キモリ、ミズゴロウ、ケムッソ、ジグザグマの順に粘土板に足跡を押しつけたが、その間にあしあと博士は聞いてもいないのに事情を話し始めた。
「ぼ、ボクはね。さ、さっき見てくれた通り、ポケモンを捕まえるのが、に、苦手なんだ。だ、だから、ポケモンが好きで、あ、足跡が好きなんだけど、でも、ポケモンが捕まえられなくて、あ、足跡が手に入れられないんだ」
「そうなんだ。かわいそう…」
ハルカちゃんはとても同情していた。俺はポチエナの件もあったせいでずっと「なんなんだ一体」と思っていた。
「も、もしよかったら、こ、これからも定期的に、ぽ、ポケモンの足跡を貰えないだろうか? い、一匹、一枚につき、500円で!」
500円! ポケモントレーナーにとっての500円とは、モンスターボールときずぐすりの両方が買える価格だ。それを、捕獲する度に、見せる度に貰えるなんて、すごいアルバイトじゃないか?
…ん? いや、よく考えると、捕獲するのにモンスターボールが一つ、そのバトルで傷ついたポケモンのためにきずぐすり。そう考えると、割に合わないのでは? 俺はポケモンを捕獲する代金を受け取って、代わりに捕まえてるだけに過ぎないのでは?
いや待て待て、それはおかしい。その理論で考えると俺はあしあと博士にポケモンを見せるために旅をしているようなものじゃないか。俺が旅をする中でポケモンが増えていき、それで定期的に見せて報酬を貰う。そう考えるべきだろう。
「おじさん。それ、私のパパのとこに行った方がいいと思うよ」
ハルカちゃんはあしあと博士にそう提案した。
「私のパパはミシロタウンでポケモン博士をしているの。ポケモンの分布調査をしているから、ポケモンに触れる機会も多いと思うよ」
あしあと博士の目に涙が浮かぶ。彼はやがておいおいと鳴き始め、ハルカちゃんの足元に跪いた。あしあと博士から見たら、ハルカちゃんの後ろからは光が差しているのかもしれない。
「おお、あ、ありがとう、ありがとう! このご恩は忘れないよ!」
「いいって、それに、パパがOK出すかまだ分からないよ。早速ミシロタウンに行こうよ!」
「は、はい! い、行こう!」
ハルカちゃんに連れてかれ、あしあと博士は歩き出した。なんだかなあ、迷子のおじいさんを道案内する優しい女の子の絵だな、こりゃ。
あしあと博士は最後に俺にも礼を言ってきた。
「し、シャモくんもありがとう! ラルトスの足跡、ま、また押させてね」
何回押してもいいものなのか…。子供が少し大きくなる度に背丈を計る親みたいな人だ。
俺はミシロタウンに戻る理由もないわけで、ハルカちゃんとは102番道路で別れ、その先のトウカシティ…父さんがジムをやっている街へと向かった。
4 9/2 トウカシティ
ジムはトウカシティの中央にあった。古き良き武家屋敷のような建物で、街のどの施設よりも存在感を放っていた。
入り口のプレートには『強さを追い求める男』とあった。母さんが、俺は旅に出ると確信していたいたのも納得がいく。
門をくぐり、玄関の扉を開くと父さんが待っていた。
「久しぶりだな、シャモ」
「父さん」
俺が父さんと再会するのは実に3年ぶりだった。見た目に大きな変化は無いが、所々白髪が見えることが年月の経過を感じさせる。
父さんは目線に気づいたのか、冗談めかして話題を持ちかける。
「背は伸びたのか?」
俺の背丈は11の時にはほとんど成長しきっていた。それを知りながら、大人げなく言ってきたのだ。
だから俺も仕返しをする。
「父さんこそ、おでこが広くなったんじゃないか?」
カチンときたのか、父さんは俺の頭を拳でぐりぐりとしてきた。
「こいつっ、気にしてること言いやがって!」
「いででででっ! 先に仕掛けたのは父さんの方だろ!」
玄関で騒いでいると、奥の扉が開かれて、ホウキを持った一人の青年が現れた。青い制服を着ているところを見るに、彼はジムトレーナーの一人のようだ。
「何をしているんですか、ミスターセンリ」
ジムトレーナーとは、ジムリーダーが抱える挑戦者を阻むトレーナー、あるいは次のジムリーダー試験を受けるトレーナーだ。各地のジムに1人あるいは複数人いたり、そもそもいなかったりもする。
「ああ、ナオキくんか。息子との久々の再会につい年甲斐もなくはしゃいでしまったんだよ」
彼の名前はナオキというらしい。父さんは改めて、
「こちらは私の元でジムトレーナーとして戦ってくれているナオキくんだ。ナオキくん、彼は私の息子、シャモだ」
「ナイストゥミーチュー、シャモ。ナオキだ」
「シャモです。父がお世話になってます」
「待て、世話をしているのは私の方だ」
「そうかなあ? ナオキさんに修行の一環と称して掃除させてたりしない?」
「……、」
父さんは口元を手で押さえて顔を背けた。
図星か。バトルしか頭に無いような人だからなあ。
ナオキさんはホウキを片付けてから、玄関に戻ってきた。
「あんまりダディをいじめてはいけないよ、シャモ。俺は好きでミスターの元でジムトレーナーをやっているのだから」
父さんは感動していた。完ぺきなフォローで感激してるよ、この父親は。
父さんは俺を家に上げると、俺をナオキさんが現れた扉の向こう側へ連れていった。同じ広さの部屋をいくつか通り抜けると、一際広い、畳のバトルコートが敷かれた部屋に辿り着いた。
父さんは俺を外側のラインで立ち止まらせた。
まさか、いきなりジム戦をすることになるのか。
そう思ったが、父さんはコートの中央端、つまり審判が立つべき場所で立ち止まった。
「シャモ、これからナオキくんと闘いなさい」
「えっ、ジム戦じゃないの?」
「まさか。今のお前が私に勝てると、本気で思っているのか?」
まさか。そんなわけない。
仮に父さんがジムリーダーセンリとして俺とバトルして、それがポケモントレーナーセンリの実力の半分に満たないものだとしても、俺は勝てないだろう。俺はまだホエルコ一匹に惨敗するようなトレーナーだ。
「ミスターセンリ、いいんですか? 俺は本気で闘いますよ」
「構わない。そしてシャモ、お前はナオキに勝てなかったら…」
父さんは俺の父さんだ。だからこの後に続く言葉を、何となく察することができた。性格から、そして、その目から。
「お前の旅を、認めない」
レポート
九月二日 トウカシティ
手持ち
LV8 ラルトス(あしあと博士のせいで精神的に)
LV9 ミズゴロウ(同上)
LV7 カラサリス
図鑑
8匹
中学版との違い
あしあと博士はトウカシティに行きたかった。このお話でのやりとりは全く無かった。あしあとを欲しがるどころかむしろ見せびらかしていた。
ナオキはまだ登場していなかった。