絶賛ウマにドはまりして、一時期ツイッターで怪文書(らしきもの)を垂れ流していた者です。
ようやく重い腰を上げて我が愛バ・キングヘイローの話を書くに至りました。
え、ライアンはどうなんだって?そこでフクキタルと一緒にスタンバってます。
ではでは、どうぞ。
男が目にしたのはどこまでも気品のある姿だった。
[本能には抗えない。だから彼女達は走り続ける]。そう、彼は恩師から聞いていた。だから驚いた。
本能に抗えないとは得てして否定的に取らえられる言葉だったから。
けれど。
《キングヘイロー!見事選抜レースを一着で制しました!》
彼女の姿にはどこまでもどこまでも気品を感じた。
後ろめたさなどこれっぽっちも感じない程に。
「おーっほっほっほ!当然よ!だって私はキングヘイロー!一流のウマ娘なんだから!」
声高らかに。アナウンスの声すら掻き消すくらい自信に満ち溢れた声で、彼女は誇りを口にする。
結果を見れば一着だ。だがその内容は決して圧倒的とは言い難い。
良くて辛勝、頑張っても楽勝が限界の着差。
バ身差は2/3。やはり、高笑いできるほどの差ではない。レース展開も他のウマ娘とさほど違いはなく、言ってしまえば運が良かった、だろう。
「さぁみなさん!こぞって来て下さって良いわよ!この一流のウマ娘である私のスカウトにね!」
が、それでも彼女は口にした。
誰かにしてみれば陳腐に聞こえてもおかしくない誇りを、事実呆れだしているトレーナー達に向け、言い続けた。
『一流』だと。
そして。
「……あなた達、まるでなってないわね。いいわ。今日はこれでおしまい。なんで駄目だったのか分かるまで私はあなた達と話すことはないわ」
それでも、『共にトゥインクル・シリーズで一流になろう』とスカウトしに来たトレーナー達を軒並み断った。
ーーーーー
男が彼女の名を初めて知ったのは選抜レースがある数日ほど前の事。
未来のスターウマ娘がいるかもしれないこの場所・中央トレセン学園へ散歩ついでに訪れていた時だった。
『あっ!……いてて』
『だ、大丈夫!?』
目の前でこけてしまった桜色の髪色をしたウマ娘に駆け寄り、男は身体を支えようとする。
『ああ、ダイジョーブだよ!わたし、いつも転んじゃうから慣れてるんだ!』
えへへ、と爛漫に笑い、その娘は男の手を借りる事なくすっと立ち上がる。
そうする事で見えるようになった脚を見ると確かに絆創膏がいくつも貼られていた。
『あなたってもしかして、トレーナー?』
少女は両膝に付いた埃を何度か払いながら桜色の瞳を輝かせる。
トレセン学園の近く。頭頂部から生えた特徴的な両耳。恐らく彼女は学園在籍のウマ娘だろう。
『うん。まぁ、まだ誰も担当したことないから、一応って感じだけど』
男は頬を掻きながら自虐的に笑う。
トレーナーとしての実績が無い……それは、ウマ娘を担当するにあたって最も大きなハンデの一つだ。
志の高い娘は実績のあるトレーナーやチームを選ぶ事が殆どで、初めから期待されている娘を新人が担当するのは難しい。
だからこそ彼は一歩引き気味に質問に答えた。……しかし。
『なら明日の選抜レースにも来るんだよね!?』
『……?そうだね。そのつもりだよ』
『そっかぁ!』
このウマ娘は嬉しそうに両拳を固めて笑った。
『君も選抜レースに出るの?』
よく分からない彼女の反応に内心小首を傾げつつも、男は疑問の一つを尋ねてみる。
『ううん。私は去年出たんだ~!五着だったけど、楽しかったなぁー』
『そ、そうなんだ』
返答に困る答えに男は薄く苦笑いを浮かべる。
彼女の言葉に嘘はない。嘘は無いからこそ、男は尚のこと困った。
『五着だった』と嬉しそうに答えるウマ娘はまず存在しないから。皆、勝利に飢え、二着ですら涙を流す娘もいるから。
『あ、じゃなくて!あのね、あのね、あなたにお願いしたい事があるんだ!』
『お願い?』
本題から逸れた話題を引き戻し、彼女は男に対し一つのお願いを口にする。
『私の親友の、トレーナーさんになって欲しいの!』
それはあまりに突飛も無い願い事だった。
『だってお兄さん優しいし、なんとなーくキングちゃんに似てるんだよね~!だからあなたとなら目指せるんじゃないかなって!』
『ちょ、ちょっと』
『あ!私トレーニングの途中なんだった!それじゃまたね!!』
『まっ……』
話しに割り込む隙も無くウマ娘の彼女は駆け出してしまう。
トレーニングとはいえ相手は時速五十キロは楽に出せる存在だ。スタートダッシュをほんの少しでも遅れた人間である彼に追いつけるはずもない。
『行っちゃった……。どうすんだこれ』
独り取り残され呆然とするしかない男は数分ほどそこで立ち尽くした後、さきほどのウマ娘は戻ってこないのだと諦めて家路へと着く。
ーーキングチャン、か。
変わった名前の多いウマ娘だ。きっと名前に[ちゃん]が付いている娘もいるのだろう。
そう思い、帰宅した彼は現在在籍しているウマ娘達の名簿を改めて見直した。
しかし、カレンチャンや他の[チャン]が名前に入っている娘は居ても、キングチャンなる存在はいない。
ーー名簿漏れしてるのか?いや、あの会長様がそんなミスを見過ごすわけないか。……ミスだけに。
コーヒー片手に夜更けまで名簿を見通していた男だが、しかし結局、寝落ちするまでに見つかる事は無く。
「ヤバ、遅刻か、これ……」
気が付けば選抜レース開始三十分前だった。
………そして。
「キングヘイロー」
「あら、何かしら」
「僕を、君のトレーナーにしてほしい」
男は、約束の事も忘れて彼女に手を差し出した。
「……知ってるわ貴方。ここ数週間ずっと学園に見学に来ていた人ね。貴方、新人?」
「ああ、新人だよ。経験はゼロ。優秀な家系の出でもない、言っちゃえば一般人だね」
「……ふぅん。そう」
キングヘイローの問いに素直に答え、男は彼女の返答を待つ。
「なら聞いてあげる。貴方が私のトレーナーになるにふさわしいかどうか」
そうして返って来たのは、ついさっきまでの高飛車とした態度ではない。
「貴方はどういうトレーナーになるつもり?」
それは……そう。その気になれば人間など一ひねりに出来る強さを如実に物語ったかのような力強さを感じる言葉。
決して彼女を侮ってはいけない。嘘を吐いてはいけない。と、本能に訴えかけてくる恐怖を男は感じた。
「……僕は」
息を呑み、唾液の下る音が脳天を突く。
蛇に睨まれた蛙というのはきっとこうなのだろうと、彼は頭の隅で思う。
それでも一歩前に出て、彼は答えた。
「君に相応しい、一流のトレーナーに」
「なら聞くわ。その一流って?」
二つ目の問いに、だが今度は臆さない。
「その名を誰もが認め、敬意を込めて呼ぶ存在」
「……いいわ。なら最後の質問。それはいつ?」
そして来た最後の問いに男は一瞬口をつぐむ。
『いつ一流になる』か。そんなもの、新人である彼にはとても予想が付かない。
歴戦のトレーナーでもなければ後ろ盾のある家系でもない。ごく普通にトレーナーを志し、ごく普通にトレーナーとしての教育課程を終えただけの、今はまだ知識のある一般人でしかない。その手腕の良し悪しでさえ、真の意味で測れるのはこれからだ。
ーーいや?
そこまで考え、彼は一つの単語に引っかかる。
[測れる]……それは、今後も継続してトレーナー業を行う彼に向けられた単語だ。目の前のウマ娘・キングヘイローに向けて思った単語じゃない。
なら、彼女の事を想うのなら?
そう考えれば、答えは自然と口を吐いた。
「君は今も一流なんだよね。なら、僕も今から一流を名乗る」
トレーナー育成クラスで学んだ[クラシック三冠]。それはデビューしたウマ娘が一生に一度しか挑戦できない栄誉ある三レースの総称。
ならば、と。男は考える。
『いつかでは遅い。今なんだ』と。
いつか一流になる?それが、もし、彼女がどうしても勝ちたいレースの時までに達成できなかったら?
そう思慮を深めれば深めるほど、男にはその答えしか思いつかなかった。
「大きく出たわね。いいのかしら?新人の貴方がそんな事言ってたら、他の人に笑われるわよ?」
彼女の疑問に、男は大きく首を振る。
「かも。けど一流の君と共にいるのならそのくらいの覚悟をして当然だ。……それに」
「それに?」
「最後に、本当の意味で笑うのは僕らだ。見下しでも嘲りでもなく、勝利を勝ち取って高らかに笑う。それこそがキングに相応しい。……そう、僕は思う」
「……そう。えぇ、そうなの。貴方の考え、よく分かったわ」
最後の問いに答え、男はもう一度手を指し伸ばす。
その手に在るのはほんの少し前の無為な掌ではない。
「いいわ。貴方に私のトレーナーになる権利をあげる。覚悟なさい。吐いた言葉は飲み込ませないわよ?」
「勿論。一流ウマ娘の君の手を握ったんだ。何が何でも、絶対に勝たせてみせる」
「えぇ!期待してるわ!!」
選抜レースが終わったレース場で、残る人とウマ娘はもう少ない。
その中で、二人は……一流ウマ娘であるキングヘイロー―と、その一流トレーナーである彼は、固い握手を交わす。
彼らの姿を見る他のトレーナー達の眼は些か冷ややかだ。
辛勝で在りながら反省することなく高笑いした彼女を、唯一素養を感じる末脚はあれどそれ以外はいかほどかも分からぬ彼女を、その口車に乗って大言を吐く見た事も無いトレーナーを、彼ら彼女らは遠巻きで見下す。
だが、しかし。
「さて、そういう事なら早速しなくちゃならないわね!!」
「「はい!!!」」
「ん?」
キングヘイローの二度鳴らされた拍手に合わせて登場した二人のウマ娘。
ねこ目とボブヘアの二人が彼女の両脇で片膝立ちになって座る。
「き、キング?この二人は……」
「はいそこ!黙って拝聴なさい!!」
「は、はい!!?」
有無を言わさぬキングヘイローの剣幕に口をつぐむトレーナー。
そうして沈黙が数秒程流れると、突然現れた二人のウマ娘がアイコンタクトを取って頷く。
瞬間。まるで息の合った熟練の餅つき士のようなコンビネーションで何かが始まった。
「私の名前は?」
「「キング!!」」
「誰よりも強い?」
「「勝者!!」」
「その未来は?」
「「輝かしく!誰もが憧れるウマ娘~!!」」
「そう!!!一流と言えばこの、私!!!」
「「キングヘイロー―!!!!」」
いっそBGMさえ聞こえてきそうな迫真の何か……恐らくは自己紹介に、目の前で見ていたトレーナーは当然の事、遠巻きで見ていた他のトレーナー達やウマ娘達も彼女達三人を呆然と見ている。
「……(ちょっと貴方。拍手はどうしたのよ。せっかく自己紹介を拝聴出来たのに、感謝の一つも無いのかしら??)」
囁き声で耳元に届いたキングヘイローの言葉でようやく何を見せられたのか分かったトレーナーは溢れんばかりの拍手を(若干戸惑いながらも)鳴らす。
それにつられ、呆然として立ち尽くすばかりだった他の人達もどうすればいいのかが分かり、結果として人気のない地方レースで起きた勝利後のような、異様な拍手の光景が出来上がった。
「えぇ、えぇ!それでいいのよ!さ、それじゃあ早速貴方のトレーナー室に行きましょうか。これからキングの城になるトレーナー室にね!」
「じゃあキング」
「必要になったらまた呼んでね~」
「「ばいば~い」」
「えぇさようなら!」
瞬く間に過ぎていく状況に理解の追い付かないトレーナー。
だが、その背を押す存在がいる。
「ほら何やってるの、このへっぽこ。さっさとこのキングを案内なさい!」
「あ、ああうん。分かった」
それは、キングヘイロー。
一流の血統を受け継ぎながらその上に胡坐をかく事も、栄光に縋る事もせず、己の求める一流だけを目指し、勝利にだけ瞳を向け続けるウマ娘。
唯一抜きん出て並ぶ者無き二人のトゥインクルシリーズが始まる。
そしてその先に待ち受けるのはーー
to be next story.
と、キングのゲームストーリーを読んだ皆さんはお気づきかもしれませんが、この物語では完全に別次元でのストーリー展開になっています。
ゲームでは二着でしたし、トレーナーは一発で権利を貰えてません。
桜色の瞳をしたウマ娘に関してはいつデビューしたのかもあってないと思います(と言うか、調べてもよく分からなかったので先にさせました)。
でもそこはそれ。
全三話を予定しているこの物語では私の想うキングヘイローの物語を綴っていこうかと思っています。
……まぁ、ゲームのストーリーが良すぎてそれに沿うなんて恐れ多いってのもあるんですが。
さてさて。それではまた次回お会いしましょう。
さよーならー