俺は『なのちゃん』が好きなんだ! 作:思い出して懐かしめ
俺は海鳴市という場所に両親と一緒に住んでいる。
最初はなんで俺が幼児になっているのかわけがわからなかった。
わけがわからないまま何もできず過ごしていたんだが、ある日1人の女の子が家によく預けられるようになった。
その子の名前は高町なのはというんだ。
ここで俺は全てを察した。ここは人外魔境と言われる都市で、この子は戦闘民族の中で母親と一緒に常識人を貫く普通の女の子だということに…まぁ一般人なのはおもちゃ箱の前までだが。
両親から聞いた話だが「ご近所付き合いをしている高町さん家は旦那さんが大怪我をして入院しており、まだ小さいなのはちゃんを1人にしておくのは心配のため、同い年の俺がいるし家も近いから預かることにしたんで仲良くしてあげて」との事だった。
待て待て今重大な単語があったぞ?旦那さんってことは高町士郎だろ?あいつって入院どころかフィアッセを庇って爆死して帰らぬ人になるんじゃなかったか?
状況がよくわからないが大怪我してるとはいえ帰ってきたのか。まぁいい。ここが海鳴だとわかった以上、俺にはやってみたい事もあるし会ってみたい人もたくさんいる。
それになのちゃんと知り合いになれるのならば必然的に高町家とも関わりが出てくるだろう。
「なのちゃん、何して遊ぼっか?」
「なのは、公園行きたいな」
「わかった。じゃあ一緒に公園行こう」
「うん!」
なのちゃんは毎日のように俺の家にいるので、基本的にずっと一緒にいる感じだ。まだこの頃は晶もレンもいないのかもしれないし、急ぐようなものでもない。
なのちゃんと久遠は俺の癒やしだからな。早く久遠にも会いたいが、なのちゃん単品でも十分に可愛いから問題なしだ。
なのちゃんも寂しいからなのか人肌が恋しいのかわからないが、よく引っ付いてくる。俺も愛でるのはウェルカムなので嫌がることもなく受け入れている。
公園ではブランコだったり砂場だったりとその日の気分で遊んでいるのだが、遊んでいてもたまに入院している士郎の事を思い出すのか「みっくん、お父さん大丈夫だよね?」と確認するように聞いてきたりもしていた。
ちなみになのちゃんは俺の事を「みっくん」と呼んでいる。まぁこれはうちの両親がそう呼んでいるから同じように呼んだだけだろうけど。
なのちゃんはどうやら自分が家族の役に立っていないことを気に病んでいるようだった。俺からすれば何を気にすることがあるんだ?と思わなくもないが、母親と兄と姉が忙しい中で自分だけ何も手伝えないのが歯がゆいとかそういう気持ちということらしい。
確かにそうか。高町士郎が死んでいれば吹っ切ることはできなくても、そこからまた頑張らなくてはって気持ちになるかもしれない。だが、この世界では高町士郎は帰らぬ人ではなく意識不明の入院となっている。その分だけみんなの意識が散ってしまい、なのちゃんが察してしまったということだな。
「なのちゃん。なのちゃんはお父さんが元気になりますように…ってお願いするだけでいいんだよ」
「でもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんもみんな大変そうなのに、なのはだけお手伝いできてないの…」
「何かをするだけがお手伝いじゃないよ。なのちゃんはそこにいるだけでもうお手伝いになってるんだよ。俺なんてなのちゃんがいてくれるだけで嬉しいんだからね」
「ほんとう?」
本当さ。なのちゃんと久遠は俺の癒やしだったからな。きっと久遠がいればなのちゃんもこんな思いはしなくて済んだのかもしれないが、今は俺が励ますしかない。まさかと思うが俺が久遠枠ってことはないよな…俺は化け狐でもないし霊力もないぞ。
「それに俺が(久遠と出会うまでは)なのちゃんとずっと一緒にいるから寂しくないよ。だからさ、辛かったり寂しかったりしたら俺に教えて?俺もちゃんとなのちゃんに言うからさ。お互い隠し事はしないって約束しよ?」
「…うん、なのはもみっくんとずっと一緒にいるね。だからみっくんも辛かったらちゃんとなのはに教えてね」
「うん、約束だよ」
ごめんなのちゃん…そんな約束しといて何だけどさ。俺の知ってる世界とはズレがあるみたいだけど、たぶん最後は高町士郎は死ぬと思うよ。そうじゃないと恭也が我武者羅に修行して膝を壊してフィリス先生に会うとかもなくなっちゃうしさ。
あと隠し事をしないっていうのは「辛いことがあっても隠さず言おうね」って意味じゃない。俺としては「久遠に出会ったらちゃんと教えてね」っていう意味だ。俺には特に辛い事なんてないだろうから。
だからせめて少しでも心配する時間が少なくなるように、俺はほとんどの時間をなのちゃんと過ごして元気付けて励ましていた。
なのちゃんは俺にとって、いやこの世界にとって「みんなの妹分」的な存在だ。リリちゃまでの間はなのちゃんを愛でていればたくさんの人物と出会えるし、俺にとって良い事しかないんだから。
基本的には俺の家になのちゃんが来ることが多いんだが、たまに俺がなのちゃんの家に誘われて遊んだりするようにもなり、高町家の面々とも顔合わせすることができた。
なのちゃんの兄と姉である高町恭也と高町美由希、いやここは不破恭也と御神美由希と言うべきか。
まだこの時の恭也は膝を壊してもいないし、師範代として美由希を鍛えるようなこともしていないのだろう。
いずれ過酷な戦いに身を投じることを知っている俺としては、今の時間を大切にしてほしいという気持ちと、早く御神流を極めていかないと来たるべき
なにせ同じ御神流の達人であり、美由希の母親でもある美沙斗さんと戦うことになるのだから…
なのちゃんと毎日を一緒に過ごしながら月日が過ぎていった時、俺はなのちゃんから朗報のような朗報じゃないような衝撃の出来事を聞かされることになる。
「みっくん!なのはのお父さんが目を覚ましたよ!」
「…え?そ、それは良かったね!」
「うん!」
俺はその時「なんで!?」とか「うそだろ!?」とかで頭がいっぱいになった。高町士郎が生きている…どういうことなんだ?
ここはとらハ世界じゃないのか?まさかその中でも『高町士郎が死なない』というおまけシナリオルートというか並行世界みたいなところだとでも言うのか…
だがそんな事をなのちゃんの前で言うわけにもいかない。なのちゃんはただ意識不明で入院している父親が目覚めたことを喜んでいるだけなんだから…
そこからも俺となのちゃんの状況は変わることなく一緒に過ごしていた。たまになのちゃんがお見舞いに行くからと高町桃子らと病院に行ったりすることはあるが、それ以外ではお互いの家で遊んだり公園に行ったりしている事が多かった。
だが俺にはわからない事がある。高町士郎が爆弾で死ななかったのはいい。問題はいつになっても晶とレンが現れないことだ。
ぜひともあの青と緑のコンビの喧嘩を眺めたり、それを止めてお説教するなのちゃんを見たり、絶品の和食と中華を食べたりしたい身としては勝手に少々寂しい気持ちになったりもした。
そして更にそんな気持ちに追い打ちをかけるかのように決定的なことがあった。フィアッセがいないのだ。
その日はいつもと違い、なのちゃんからのお誘いというかなのちゃんお母親である高町桃子から「いつもなのはと遊んでくれているお礼」みたいな感じで翠屋へと招待された。
俺は翠屋のシュークリームも楽しみだったが、何よりも楽しみだったのはあの歌姫なチーフウェイトレスと会えることだった。
触覚だなんだと言われてもいたが、やはり俺の中ではメインヒロインはフィアッセ・クリステラなのだ。
そんなルンルン気分な俺を「フィアッセがいない」という衝撃が見事に期待を粉砕してくれた…
どういうことだ?高町士郎が生きていたことで、フィアッセが日本にいないというバタフライエフェクトが発生したということなのか?
だがそうなるとフィアッセを通じたCSS、クリステラソングスクールの面々と出会うことができないんじゃないのか。
ティオレさんにも会いたい俺としてはフィアッセがいないという事実は残念なんてレベルの話じゃないんだが…ちなみにシュークリームは美味しかった。
高町士郎が退院し、翠屋にも復帰したことで高町家にも大黒柱が戻ってきた。なのちゃんもそれが嬉しいのかニコニコしている事が多い。
なのちゃんが喜んでいること自体はとても良い事だと思うんだが、そろそろ久遠が登場してもいいんじゃないだろうか。
いや、久遠に会うためには美由希とクラスメイトである神咲那美とも出会わないといけないんだったか?
そんな俺の勝手な脳内シミュレーションをあざ笑うかのように、更に次々と理解が追いつかない情報が齎された。
なのちゃんは私立聖祥大附属小学校に入学し、俺とは違う学校に通うことになったため会うことが少なくなっていった。それでも結構な頻度で一緒に遊んだりはしていたんだが…
そこで聞かされたのが「友達ができた」ということなんだが、それだけならば「良かったね!」で終わる話だ。だが、その名前に問題があった。その子たちの名前はアリサ・バニングスと月村すずかという女の子たちらしいのだ。
だ れ だ そ れ は
アリサといえば当然アリサ・ローウェルを思い出すし、月村といえば月村忍を思い出す。
だがアリサ・ローウェルは幽霊であり、なのちゃんにとって悲しいが大切な出会いとなる人物のはずだ。
そして月村すずか…誰なのかまったくわからん。月村忍に妹などいないはずだし、夜の一族であり恭也と交流を持つまでは人付き合いを恐れていたような人物が義妹など作らないだろう。
もしかしたらノエルのような自動人形がもう1体ある設定の世界とでもいうのか?ノエルは綺堂さくらの屋敷に眠っていたものを掘り起こして修理しただけで1から作ったわけじゃないはずだ。
まさかイレインすらも手に入れて修理した?くそ、情報が足りなすぎて正解に辿り着けん。
なのちゃんは新しくできた友達とも遊ぶようになったので、俺と一緒にいることが少なくなってきた。なのちゃんから一緒に遊ぼうというお誘いはあるんだが、まず俺の知っている情報がどこまで正しいのか調べる必要があると思い断っている。
俺は空いた時間で学校の友達と遊ぶこともあれば、この世界の情報を少しでも集めようとしたりしていた。
だが調べれば調べるほど、俺は今いるこの場所がどこなのかわからなくなってくる。
さざなみが存在しない。CSSが存在しない。一体どうなってるんだ…
ここは間違いなく海鳴市だ。なのちゃんもいるし、高町士郎、桃子、恭也、美由希もいる。だがフィアッセも晶もレンもいない。さざなみ寮も存在しない。
俺の記憶にはこんなルートはなかったはずだ。というかヒロインの数が足りなすぎるだろ。今のところ義妹の美由希と、たぶん月村忍くらいか?士郎が生きているのに桃子がヒロインに数えられてるとは思えないし、なのちゃんは有り得ないだろう。いや二次創作では有りだったけどさ…
そんな事を考えながら過ごしていたら、なのちゃんからお呼び出しがかかった。
「ねぇみっくん。どうして最近は一緒に遊んでくれないの?」
「あれ?なのちゃん友達ができたから、友達と遊んでると思ってたんだけど違った?」
「そうじゃないの。なのははみっくんとも一緒に遊びたいの」
そうか…俺がこの世界はどうなっているのかとか勝手に考えている間に、なのちゃんに寂しい思いをさせてしまっていたのか。それは悪いことをしたな。
「ごめんね、なのちゃん。ちょっと色々と調べ物をしててね。もう大体終わったからいつでも遊べるよ」
「ほんと!?じゃあ今度アリサちゃんとすずかちゃんも呼んでもいい?みっくんあんまり会いたくなさそうかなって思ってたんだけど…」
「…うん、構わないよ。なのちゃんの友達だし、会ってみたいしね」
俺としてはなのちゃんの一番の友だちは久遠であってほしかったが、これは俺の勝手な希望でしかないんだろう。この世界のなのちゃんが久遠と出会わないかもしれないと思うと寂しい気持ちがあるが、だからといってなのちゃんに「友達を作るな」なんて言えないしな。
「アリサ・バニングスよ」「月村すずかです」
「初めまして、なのちゃんから2人の話はよく聞かせてもらってるよ」
どうやらなのちゃんは早く紹介したかったようで、あれからすぐに顔を合わせることになった。
俺は翠屋も避けていたつもりはないんだが、店に入ってから高町夫妻に「久しぶりだね。もっと遊びに来てくれてもいいんだよ」と言われてしまった。
まぁなのちゃんがいないのに翠屋に遊びに行く事なんてないし、俺はこれからどうしたらいいんだろうとか悩んでたから忘れてたってのもあるんだが…
別に恭也と一緒に戦うつもりとかもなかったからどうするとかもないんだけれど、せっかくこんな世界にいるんだから歴代のヒロインたちに会いたいと思ったって仕方ないはずだ。
そして目の前にいる2人…アリサ・バニングスと月村すずか。
アリサ・バニングスのほうはアリサ・ローウェルとは別人で間違いないだろう。よく似ているんだが、少々違うところが見受けられる。もしかしたらこの世界の幽霊じゃないアリサとかなのか?
次に月村すずか。こっちはまったくわからない。髪の色や名字からして月村忍と何かしらの縁があるんだろうとは思うけど、確信を持てるようなものが何もない。
俺は自己紹介した後、なのちゃんも加わって3人が仲良く話しているところを見ているだけだ。
一応これでも前世的な知識持ちのため、女の子3人がキャッキャしてるところに入る気にもなれないしな。
ちなみに3人の仲良くなったきっかけを聞いたんだが、アリサがすずかにちょっかいをかけてたところをなのちゃんがビンタ一閃した上にお互い傷だらけのキャットファイトを演じたらしい。
おかしいな。俺の知るなのちゃんは「ケンカはダメ!」って言ってお説教するタイプのはずなんだが…間違っても手を出すような子じゃない。これはあれか?晶とレンがいないから、普段からケンカを仲裁するって事をしていない弊害か?
それからはちょこちょこ3人と一緒に遊ぶようになり、バニングス邸や月村邸にもお茶会というお呼ばれをすることになったりもした。
バニングス邸は別に問題ない。このアリサがこの世界のアリサ・ローウェル枠で、凄惨な目に遭わずに幸せに暮らしているのなら言うことなんて何もない。
だが月村邸が問題だった。やっぱりというか、行った先には月村忍がいたんだ。しかも聞くところによると高町恭也の恋人らしい。いや、それはいい。確か公式も最後は月村忍ルートになっていたはずだから。
気になったのはなんで月村忍がお嬢様みたいな感じなんだ?お前は自分の事を「忍ちゃん」と呼び「恭也の内縁の妻」とか言ってるキャラだっただろう。なんだその深窓の令嬢みたいな雰囲気は。喜々としてノエルを改造していた機械オタクはどこいったんだ。
そして妹ってなんだ…そんな人物はいなかったはずだろう。もしいたら俺が知らないはずはない。
隠しヒロイン?なのちゃんと同級生なのに?いやそれ以前に月村忍が恋人になってるのに、今更出てくるか?
あとファリンって誰だ…?ノエルはわかる。ロケットパンチを撃つ戦うメイドさんの事はよく知っている。だがもう1人のメイドだと?すずかという妹とファリンというメイドについては結局よくわからないままだ。もしかして見た目は全然違うがメイドのほうがイレインの代わりだとでもいうつもりなのか。
謎が謎を呼び、結局何もわからないまま月村邸でのお茶会は終わった。わかった事は猫が好きで猫を多く飼っていることだけだった。あとアリサのところは犬を多く飼っていた。
本当は月村忍にすずかも夜の一族なのか聞いておきたかったんだが、そうなるとなぜ知っているのかを説明する必要が出てくる。
そして当然の事ながら魔眼によって「共に生きる」か「忘れる」かを選ぶことになるだろう。
俺は
なので今は何も聞かないことにして、いつか機会があれば話をしてみようという考えに至った。
今のところはHGSなどといった話題も聞かず、夜の一族もノータッチなので平和な生活を続けている。
まさかこの世界にはHGSがないのか?だからフィアッセもトライウィングスも存在しないとかなのか?だがその答えはすぐにやってきた。俺たちも3年生になったある日、早起きしたせいで寝るのも早かったんだが、まるで頭の中に響くように「助けて」という声が聞こえてきた。
これは幽霊の声かHGSのテレパシーだろう。俺に言っているのか周囲に言っているのかわからないが、つまり恭也の出番ということだ。
そして確信した。こんな声が頭に響くということは幽霊関係であれば退魔師である神咲の家は存在するということだ。つまり神咲薫や那美や久遠がいるかもしれない。
HGS関係であればフィアッセやリスティなどが存在するということになる。
恭也が月村忍ルートな以上彼女たちは身を引いている状況のはずだ。少々年の差はあるが、これは俺にワンチャンあるかもしれない。
ここで飛び出して行っても状況を悪化させるだけにしかならないだろうから、今は大人しくしておいて近い内に恭也から話を聞くことにしよう。
だがなぜか恭也は何も知らず、なのちゃんがフェレット(?)を拾ってきたらしい。
なるほど、つまりこいつがこの世界の久遠枠ということか。それならこいつも人間に化けることができるはずだ。だがこの子が久遠と同じようになのちゃんと仲良くなれるのかわからない。ここはきちんとどんな相手なのか話しておく必要があるだろう。
「なのちゃん、その子と話したいんだけどいいかな?」
「え!?みっくんもユーノくんと話せるの?」
「いや、この子人間の言葉話せるし人間の姿になれるはずだよ。違うのかい?」
「あ、そういえば喋ってたような…」
なのちゃんは俺が言ってる事を理解してくれたようだが、肝心のフェレットのほうが何も言わない。
だがしばらくなのちゃんと見つめ合っていたフェレットは観念したらしく、なのちゃんと出会った経緯を話しだした。
フェレットが言うには「自分で発掘した古代物をこの辺りにバラ撒いてしまい、それが危険な物だから1人で回収しようとした。ところが力及ばず助けを求めたらなのちゃんが来てくれた」ということだった。
そして少し休んだらまた1人で探そうとしているということも。もちろんなのちゃんがNOを叩きつけてた。
だがこれはどう考えても主人公案件だろ。なんでなのちゃんに助けを求めてるんだ。
「なのちゃん。このフェレットが言ってることはわかったよ。とりあえずなのちゃん家に行って事情を説明したほうがいいね」
「え…?みんなに言うの?」
「そりゃそうでしょ。そこのフェレットが1人で探すのはダメって言ってるなのちゃんなら、2人よりみんなのほうがいいってわかるでしょ?」
「……うん」
大丈夫だよ、君の出番はもう少し後になるだけだ。おもちゃ箱時空がやってくればなのちゃんの出番だよ。それまでの我慢さ。
それに君の家族は戦闘民族なんだよ?マシンガンすら掻い潜るような御神の剣士なんだから心配なんていらないよ?
もし霊関係だったとしたら退魔師の出番だし、そうなれば神咲の誰かが退治してくれるさ。
珍しく渋るなのちゃんの手を引いて高町家へと向かい、家族揃っているところで説明しやすいように俺から少しだけ話しやすい空気を作るようにする。
「突然すいません。ちょっと
「ふむ…それはなのはに関することなのかい?」
「いえ、なのちゃんは巻き込まれたというか…偶然出くわしてしまったというか、そんな感じです」
「…詳しく聞かせてもらえるかな?」
「それは直接当事者に聞いてもらったほうがいいでしょう。さぁ、説明してあげてくれ」
俺にできるのは最初の場を整えることくらいだ。あとはこのフェレットに任せるしかない。もう俺にできる事は終わったし、話を聞いても仕方ないので桃子さんの手伝いでもしてこよう。
「桃子さん、お手伝いしますよ」
「あら、あっちで話してなくてもいいの?」
「俺ができることはありませんからね。後は
そこから少し手伝いをしたり、新作の味見という名のおやつを食べたりしていたら話し合いが終わったようだった。
これで退魔師やHGSの人たちと知り合えると思っていたら、どうやら御神の剣士だけで対応するらしい。更に驚いたのは、なのちゃんも一緒になって行動するということだった。
「え?なんでなのちゃんも危ない事をしようとしてるの?そういうのは大丈夫な人に任せないとケガじゃ済まなくなっちゃうよ?」
「ごめんなさい。でも、なのはもできることがあるなら頑張りたいの」
「まぁ1人で勝手に決めたことじゃなくて、家族で話し合ってその結果なんだったら別に文句は言わないよ」
なのちゃんってこんな危ない橋を渡ろうとする子だったっけ?まぁ御神の剣士が側にいるなら大丈夫だろう。なのちゃんが危ない目に遭いそうになったら奥義でも何でも使って守るだろうし。
そんな事を他人事のように考えていたんだが、決して俺にとっても他人事ではなかったんだ。
ある日、ウォークマンで音楽を聞きながら歩いていたら何かを蹴ってしまった。拾って見てみると、それは見たこともないひし形の石だった。
キレイな石だしなのちゃんにでも見せてあげようと思い、ポケットに入れて歩き出したところで突然雷に打たれたような痺れが体を襲い倒れてしまった。しかも倒れた時に頭を打ったらしく、血が流れているところが視界に入った。
一気に血の気が引いていき、朦朧とした意識の中で見えたのは金髪の女の子とオレンジ色の女が俺を見下ろしており何かを言っているところだった。
くそ、油断した…恐らくこいつはHGSなのだろう。リスティが使っていた技と同じようなものということか。そしてオレンジの女が犬耳や尻尾があることを見るに、こいつは夜の一族の可能性も高い。
HGSと夜の一族に関連はなかったはずだが、この世界では手を組んでいるということなのか…更にそいつらは俺のポケットを探ってさっき拾った石を奪った後、どこかへ行ったところで俺は気を失ってしまった。
「うぅ…ここは」
「みっくん!大丈夫!?痛いところとかない!?」
「なのちゃん?俺は…あいつらにやられたのか」
目を覚ましたら病院のベッドの上にいた。どうやら通行人が見つけて救急車を呼んでくれたらしい。
そこから連絡が入ってなのちゃんたちの耳にも入り来てくれたようだった。
両親と一緒になのちゃんはずっといてくれたらしい。何か俺が心配かけたら世話ないよな…あのHGSと夜の一族には絶対に復讐してやる。
俺の症状は頭をぶつけてケガをしているけど軽い切り傷だけということで、もう問題はないんだろうがその日は大事をとって一泊することになった。
翌日母親が迎えに来てくれたのでそのまま病院を後にし、道中「あんまり心配かけるな」というようなお言葉を頂いた。
いや全くもってその通りだ。この世界を理解している俺が油断してやられるとかバカみたいだもんな。せっかくの知識を無駄にするなんてもったいないことこの上ないわ。
これを利用しながらしっかり自衛できるようにして、次にあいつらに会ったらじゃなくて会わないようにしっかりと立ち回るようにしよう。
もしご都合主義の世界なら俺だって奥義の歩法とか薙旋とか色々と習うところだが、残念なことにこの世界では9歳の子供がそんなもん使えるわけもない。
俺のそんな警戒した生活の賜物なのか、そこからあの金髪HGSとオレンジの夜の一族に出会うことはなかった。
だからまた気が緩んでしまっていたんだ…まさか俺は最初だけで、あいつらはなのちゃんたちのほうに行っているとは思ってもいなかった。
それを知ったのはなのちゃんからの言葉が発端だった。
「ねぇみっくん。フェイトちゃんがみっくんに謝りたいって言ってるんだけど、会ってくれないかな?」
「聞いたことがない名前なんだけど、フェイトちゃんって誰?」
「その、みっくんを襲ったっていう金髪の女の子いたでしょ?その子なんだけど…」
それを聞いた瞬間に全てを理解した。
くそ!俺はバカか!考えればわかることだろうに!
俺は
だが1回襲えばそれ以上何かする必要のないポジションでもあるわけだ。本命は俺じゃないんだからな。
つまり俺が襲われまいと警戒していたのなんて意味のない行動で、その頃にはなのちゃんや恭也のところにいたってことか…
そして俺の知らないところで事件は解決し、優しいなのちゃんはHGSのクローンとかそういうことに同情して許したんだろう。
だがなのちゃんが許そうとも、俺がどうするかは別の話だ。
悪いが俺はあのHGSと夜の一族が手を組んでいることを知っている。月村忍がどこまで把握しているのかはわからないが、場合によっては月村すずかも一枚噛んでおり信用できない可能性すらある。少なくとも今の段階で敵ではないと言えるのは月村忍のみというわけか…
真正面から御神の剣士と戦うのは分が悪いと見て、搦め手でなのちゃんを狙っているかもしれないのだから。
「なのちゃん、悪いけど俺は会う気はないよ。なのちゃんも危ないからもうあいつの事は忘れたほうがいいよ」
「みっくん、フェイトちゃんを悪く言わないで。フェイトちゃんも大変な事があったの」
「ダメだよなのちゃん。その考え方は優しさでも何でもない。まるで、それじゃあ言い訳があれば人を傷つけてもいいって言ってるようなものだよ。そんなのは『なのちゃん』らしくないよ」
「みっくん…」
まったく、なのちゃんの優しさに付け入ろうとするなんてひどいヤツらだな。まぁなのちゃんらしくないと言ったが、実際にはとてもなのちゃんらしい行動だとは思うけどさ。
あと御神の剣士たちは何をやってるんだ。一般人の女の子であるなのちゃんが思いっきり引っかかってるじゃないか。
あんたら御神宗家を爆弾で滅ぼされてるんだろう。ちゃんと搦め手にも警戒しろってんだ。
それともあのHGSたちの目的は復讐とかだったとかか?それで
そんな事を考えてから数日後、学校からの帰り道を1人で歩いていたらあの金髪HGSが目の前に現れた。
なのちゃんの話し方からして死んでないだろうとは思っていたが、こんな早々に向こうからやってくるとは思わなかったな。
「あの…ごめんなさい!」
なのちゃんの次は俺の懐柔か、舐められたものだ。いきなり襲いかかってきて病院送りにした挙げ句、謝っておけばいいだろうというのがこいつの製作者の考えということか。
そして俺となのちゃんの懐に入り込めれば、高町恭也に対する人質になるとでも考えているのだろう。
だが残念だったな。俺は見た目通りのただの子供じゃない。
この世界的に恐らくこいつは自分の製作者に命令されて何かをするために、その狼煙代わりとして俺が狙われたんだろう。
しかしそれだとわからない事がある。なぜこんな少女の姿をしているのかということだ。
もちろんフィリス矢沢のように見た目だけ少女って可能性も考えられるが…月村忍ルートなのに今更登場人物が増えるのがどうも気になる。
そして俺はそこで気づいてしまった…
原作主人公の妹、原作主人公の恋人の妹、アリサ・ローウェルの代わりに生きている女の子、更にここに来てHGSの女の子…そしてここはとらハの世界。
まさかこれは『
これが全部出会い編だとすれば納得のいく話だ。だがなのちゃんにはクロノ・ハーヴェイがいる。
なのちゃんは幼馴染の非攻略キャラということか?
とりあえず俺はどうするべきだろう。会わないって言ったにも関わらず現れて、しかもいきなり謝られてもなぁ…
本当ならこいつに「お前らの思惑もわかっているし、お前のような従うだけの人間もどきが何をしようと信じられるわけがないだろう。さっさと消えろ」とか「二度と俺の前にもなのちゃんの前にも現れるな」とか言ってやるつもりだったんだが、考えてみれば操られたりして襲ってくるクローンHGSもいたわけだからそれも違う気がする。
もし俺のとらハなんだとするならば俺は種を蒔くだけだ。
「頭を上げろ。君が何をしたかったのかは知らないが、突然襲いかかられてごめんなさいで済むとは思ってないだろう?」
「…はい」
「なんてね、今更責め立てても仕方のないことだ。だからそうだな…
「…え?」
「そして俺は君に、君の一番欲しがっているものをあげるよ」
「欲しがっているもの?」
「ああ、愛情…だろう?」
まさか言い当てられると思ってなかったんだろう。HGSの女の子は驚きで目を見開いているが、俺だからこそわかったことだ。何せかつてのリスティたちだって愛に飢えていたことを知っているんだからな。
この子はもしかしたらあの夜の一族の女に言いくるめられていたのかもしれない。ならばもうそんな事にならないように俺がこの子がして欲しいだろう事をしてあげよう。
「!?」
目の前で固まっている女の子を優しく抱きしめて頭を撫でてあげながら「大丈夫、俺は君を嫌いにはならないよ」とか「クローンだって1つの命だ。不安に思うこともあるだろうけど、俺が側にいるから心配ないよ」と優しい口調で言ってあげる。
俺は高町恭也のような朴念仁キャラじゃないし、別にハーレムエンドを目指してもいないけど好感度は上げておくに越したことはない。
この子は恐らく研究所でひどい事をされたりしたんだろう。確かHGSは姉妹で殺し合うとかそんな設定もあった気がするし、もしかしたらこの子も同じような事があったのかもしれない。
だからこそ何も聞かずに全てわかっているとばかりに受け入れてあげれば、そのうち心を開いてくれるはずだ。
俺の予想は的中していたようで、HGSの女の子はやはり思うところがあったみたいだ。抱きしめてるから顔は見えないが、震えながらぐすぐす言って俺の背中に手を回してる。
フフフ、これで俺の好感度は爆上がり間違いなしだ。やったぜ。もし今度俺が危ない目に遭っても、君のその超能力的な力で撃退してくれ。
ほんの少しの間だが俺のエロゲ式愛情パワーが注入されたのか、心なしか元気になったようにも見える。離してあげたら恥ずかしそうにはにかんでいたから間違いないはずだ。
というかこれ本当に俺のとらいあんぐるハートなんだろうな?違ったら恥ずかしさで悶えるぞ。
女の子は「しばらく遠くに行くから会えなくなる」とか言っていたが、これは成長してから再会ルートなんだろうか?小さい頃の約束を覚えていて大きくなって再開なら有り得るかもしれん。
確か恭也とレンってそんな感じじゃなかったっけ?
俺としては本編がいつなのかわからんけど、9歳でエロゲ時空に突入するのもマズイ事くらいは理解してるので納得しておくしかない。だが再開フラグくらいは立てておくべきだろうと思い別れる前に「大丈夫だよ。またすぐに会えるから」と指切りをしておいた。これで完璧な再開フラグのはずだ。
「みっくん、なのは聞きたいことがあるんだ」
「どうしたの?」
「フェイトちゃんに何したの?」
「うん?」
翌日、なのちゃんからお呼び出しがかかったと思ったら笑顔で何をしたのかと問いただされた。
別にやましいことは何もないし、ただ再会の約束をしただけだ。あの子は今頃はきっと今まで教えられてこなかった一般常識とか色々と教え込まれてるのだろう。
もう1人の夜の一族の女がどうなったのかわからないが、綺堂さくらに近い姿だったような気がするからできれば一族内で片をつけておいてもらいたいものだ。
なのちゃんには正直に再会の約束をしただけだと答えたんだが、なのちゃんは何か納得がいかないのかブツブツ言っていた。
「なのちゃん、あの時は会わないとか言ったけど後から考え直したんだ。ただ言われたままに行動してた子に冷たく当たるのは良くないことだと思ってさ」
「それは聞いて嬉しかったの。でもどうしてあんな事まで言ったの?」
「あんな事?」
「その、あの、愛情をあげるとか…」
ああ、それを聞いたのか。あの子の生まれとか知っていないとわからない事だもんな。
しかしそれを俺が言ったとして、なんで知ってるって聞かれても答えられないし誤魔化すしかない。
「なのちゃん、あの子にも(HGSのクローンだっっていう)複雑な事情があるんだ。だから少しだけ見守ってあげてくれないかな」
「みっくんは(フェイトちゃんやプレシアさんの事とかも)知ってるんだね」
あれ?なのちゃんも聞いたのかな。それならいいや。とにかくこれでヒロイン枠の初登場パートは終わったんだろう。
ここからは平和な時間が続くだろうし、いつも通りなのちゃんを愛でながらアリサ・バニングスや月村すずかとも交流を深めていくことにしよう。
だが俺はすっかり忘れていたんだ。ここがラブコメ時空ではなく、
そして俺の好きな『なのちゃん』だって例外ではなかったということに…
果たしてこれを読んで懐かしいと思う人はどれくらいいるんだろう?