僕はもうそういった作品が随分と積もっております。
描き途中で保存された作品が少なくとも1,2,3……いっぱい!
さ、今日も3因子がこない攻略を始めましょう。の前に仕事です。
……あ、べつに今回も、長編だ~とか書いてあるからって壮大なストーリーがあったりとかはありませんので、男子高校生の日常を見るような気分でぬるっとお読みください。
06/リープは自分の能力。トラベルは機械などの力を借りること。スリップは事故等の偶発的要因。正しく使い分けよう、タイムなんちゃら。
とある、休憩中のトレーナー室にて。
スッ……とスマホでページをめくると、心がどしりと重くなった。OH、なんてこったい。
「あぁ……まただ……なんてこった……」
何故……何故こんなことに。もう買っちまったよどうすんだよこれ……と暗雲を背負ったような重苦しい気分でいると、ガーと開かれるトレーナー室の引き戸。そういや学校学園の入り口ってどうして引き戸なんだろうな。わからん。俺が行ってた大学とかは扉だったけど……その違いは?
「やっほー、トレーナー居るー? って、サブトレーナーだけ? ……どうかした?」
トウカイである。来訪者トウカイ。何故か海外のお方にはテイオーではなくトウカイで知られるテイオーだ。相変わらず行動が段階的というか、人の反応待つより一直線感がある。
「あぁ、テイオーか。ちょっと気になってた小説があったから電子で買って読んでたんだけどな? ヒロインがまーた半端病みしやがったんだよ……」
「はんぱやみ? なにそれ」
「最近よくヤンデレ~とか言って、意中の相手を束縛監禁、気に入らなきゃ殺すみたいなやつを見るんだけどなー……? それただの精神異常者であってヤンデレじゃねーよーって言いたくて言いたくて……」
「ヤンデレってなに?」
「相手が好きすぎて、その人のことばーっかり考えて行動するヤツのことだ。精神的にまともじゃないかもって思われがちだけど、こっちはちゃんと行動基準に“愛”があるんだ。ある、っていうか愛が全てって感じ」
「えっと? 好きだから監禁、束縛するってこと?」
「いや、それヤンデレ違う。好きすぎて、相手を中心に考えすぎるのが正しい。と、俺は思ってる。相手の意見をちっとも聞かずに自分の意思だけ押し付けるのはデレとは言わない」
「でもその人のことだけ考えてるんだよね?」
「相手のことを思うのと……っと、そうだな、“相手を思う”と“相手を想う”、こう書いてみるとだな……あー……分かるか? 一方的に思うのと想うのとじゃあ、感覚的な、こう……ああ、あれだ。最近のヤンデレって“相手に対する想い”がペット感覚や所有物感覚なんだよ。嫉妬じゃなくて、所有しているものへの独占欲。“あなたは私のものなのに、どうして”って、ほれ。これがデレって言えるか? 俺は無理だ」
「うわー……、……んぅ? じゃあサブトレーナーが思うヤンデレって?」
「言った通り、愛が重い方向。でも実際は本気で相手に尽くしてくれるし、それが重度すぎるだけって感じで、相手側にもハマれば大変幸せになれる関係。俺だけを愛してくれって愛が重い男子と、私だけを~って女子。まあ、案外居たりする。これがまた、幼馴染同士がくっつく確率よりも出会う確率がひどい有様らしいが」
サウイフ人ニ、僕ハ会イタイ。いや、互いに想い合っていける相手って意味でね?
重いくらいならいけるけど、重すぎるのは……いや、いけるか? 重すぎる、が勘違いで、ただの一方通行の所有欲じゃなければ。
「ふーん……? サブトレーナーは愛が重いのって受け止める派?」
「程度にも寄るだろうけど、まあ。ただ拉致監禁束縛系はなぁ……。思うに、束縛して監禁して、私だけを~って、無茶もいいとこだよな。自由が無いからそいつのためになにかをすることも出来ない。そいつのためにサプライズ企画を計画することだって、友人に相談して盛り上げるための準備をすることだって。ん~……わからん、そいつは拉致監禁して、それ以上の何を求めてるんだ? 強硬手段に出て束縛、なんて行動に出ちまった時点で、相手からの自分の評価なんて駄々下がりもいいところだ。ストレスだって溜まるし、言うことなんて聞きたくも守りたくもない筈だ。……わかる? テイオー」
「いやいやいやいやいや分かるわけないでしょー!? ボクは、親しくなった人には一番にボクのこと見てほしー! とかたまぁあああに思うことはあっても、相手の自由を奪ってまでーとか考えないってば! ……自由に動けない辛さ、知ってるしさ」
「……そか。あの生意気盛りだったテイオーが、こんなに相手を思いやれる娘に育って……!」
「なっ、ちょっ、なにそっ……なにその言い方ー! まるでボクが人の言葉なんて聞かないヤンチャボーズみたいな言い方じゃん!」
「ルドルフや沖野さんから聞いてるぞー? スピカに入るよりずっと前、選抜レースに初めて出たあたりからの、“トレーナーなんて誰でもいい事件”」
「ギャー!? あれっ、あれはちがっ……くないけど! あのあのあののあの頃のボクはえっと自分の勝利とかこれっぽっちも疑ってなくて、つまりそのチョーシに乗ってたっていうかー!」
「ははははは、大丈夫大丈夫、わかってるから」
「うー……あれ? でもその時、サブトレーナーももうトレーナーとして居たんだよね? ボクのことは勧誘しよう~とか思わなかったの?」
「俺はあの時、もうサブとして動いてたからなぁ。ルドルフが本格的に生徒会長の仕事に専念するようになって、スピカからはウマ娘が沖野さんと言い合って出て行って。と、まあ、俺自身が担当を得るなんてこれっぽっちも思わなかったから、見に行く必要もなかった」
「ぶー、それはそれでなんか冷たいって思うけど」
「ちゃんと自分で見極めてスピカに入ったんならそれでいーだろ。まあ、チームじゃなく専属になってた誰かが居たとしたら、それはもうハチャメチャに振り回されてぶっ倒れてただろうけど」
「失礼だなぁ。ボクがサブトレーナーにどんな無茶させたって───」
「合宿の時にウマ娘と同じトレーニングに散々付き合わされたな」
「サブトレーナー普通に付いてきてたでしょー!?」
「普通なら倒れるから。俺の家が普通じゃないからついていけただけだから」
ウマ娘のトレーニングに人間がついていく……自殺行為と存じます。
俺はちょっと特殊だからまだ兵器だけど、もとい平気だけど、普通はぶっ倒れてもおかしくない。
しかしその返答がなにやら不満なのか、テイオーは少々唇を尖らせていた。ヤンデレの話から何故こんなことになったのか。……俺が無駄に生意気盛り~とか言ったからか。猛省。
「むー……よく分かんないけど、うんわかった。……えっと? 話を戻して纏めると、ヤンデレ? は愛が重いけど、重いだけあってちゃ~んと愛してる人のことを言いたいんだね、サブトレーナーは」
「おっ、そうそう、愛もないのに所有欲だけ振りかざしてデレを語られてもなぁって」
「まあそうだよねー、お互いちゃーんと思い合っていかないと」
「そうそう、まさにまさに」
この気持ちをまさかトウカイが分かってくれるなんて……! ありがとうトウカイ、サンク・ユー・トウカイ。
そんな気持ちを言葉にすると、「なんでトウカイなの? テイオーって呼んでよ」とツッコまれた。
家族間とかで決まった呼び名がある場合の小話になりますが、例えばタカヒロという子供が居たとして、家族にはタカー、タカーと呼ばれているヤツと友達だと、ヒロとか呼びたくなりませんか? 略された部分がなんというかそのー……可哀想じゃないですか。
「ところでさーサブトレーナー」
「ん? どした?」
「えっと。これはボクの友達の話なんだけどね?」
「同室のマヤノとかか?」
「んん、まあそんなとこで。濁してるんだから察してよぅ」
「スワンスワン。で?」
「うん。たとえばだよ? 誰かのことが気になって、その人に自分のことだけ見ててほしい、他の人を気にする暇があるならボ……自分のことだけ気にかけてーって思うのって、ヤンデレ?」
ほむ? いえ、ワイトは違うと思います。
「べつに、一般的な恋愛感情+嫉妬心だろ。独占欲にも近いと思うけど、強硬策に出てあなたを殺してわたしも死ぬーとかはアレほんとだめ。命をかけられるほどあなたが好き、なんて現実と向き合ってないにも程がある。好きなら生きて愛し合え。死ぬのは諦めだ。人生を諦めてる。あきらめが入る程度のものを始めて、相手を巻き込んで死ぬなんてダメだろ」
「なるほどなるほど……じゃあサブトレーナー」
「ん? どした?」
「……いっつも傍に居てくれてありがとね。骨が折れちゃった時も、筋肉を衰えにくくする方法とか考えてくれたよね。えいちえむびー? とかいっぱい持ってきた時はどうしようかと思ったなぁ。でも……お陰で間に合って。ボクは無敗の三冠ウマ娘になれて」
「素人考えが混ざった方法だったけど、なんとかなってよかったよ」
「でも、そのお陰でボクはこうしてる。有馬記念で無茶しちゃって足痛めちゃったけど……」
「……俺はトレーナー試験に合格しても、人の……ウマ娘の人生を背負うほどの実力がなかったからサブトレーナーになった。半端な気持ちで誰かを支えて壊すことほど、怖いことはないと思ったからだ」
「えへへー、知ってるよ? カイチョーの選抜レースの時の話」
「……マジか。今でもある意味黒歴史だから勘弁してくれ……」
今より前の、とあるウマ娘の選抜レース。
のちに知らぬ者は居ないとまで言われるウマ娘となったシンボリルドルフとの再会はその頃にあった。ちなみに、出会いならもっと前。あいつがまだ子供の頃の話にまで戻る。
「“誰も彼もが私の夢に沈黙し、目を逸らした。そんな中、迷うことなく手を挙げたのが彼だった”ってカイチョーが嬉しそうに言ってたよ? で、スカウトしてくれるのかって喜んだ矢先にノートを渡されたって」
「やめて、テイオーほんとやめて」
「トレーニングの方針とかが書かれたノートかと思って、ちょっぴりうきうきして見てみたら、なんと!」
『強いウマ娘を育てるための第一歩は、まずは何よりも“頑丈で逞しい精神”を作ること。
そう───
「暇な時間に書いたオヤジギャグ集を間違えて渡しちゃってたんだよねー?」
「ヤメロー!! ウオオオヤメロー!!」
「さすがにいっぱいのトレーナーたちの目があったから耐えたらしいけど、カイチョーその時大変だったらしーよー?」
「大変だったんならそこで読むのやめときゃよかったのに! なんで口角ぷるぷるさせながらキリっとした顔作って、続き読んでんだよあのカイチョーはー!!」
「それでそれで? 次はどんなオヤジギャグだったのさー?」
「……いっとくけど、まずルドルフかネイチャくらいにしか面白さがわからないからな?」
「あっははー……まあうん、分かってるよ? ボクだってこれでも分かろうとしたもん」
「……だよなぁ。疲れてる時に適当にモノとか書くもんじゃねーなぁって……」
『そのトラックを走ると、いつもトレーナー……師匠ばかりが褒められた。
私だって頑張っているのに、とウマ娘が愚痴をこぼすと、師は苦笑して違うよと言った。
あれはいい芝の手入れだね、って言ったのさ。
そう、師ばかりが褒められる……芝刈りが褒められたのさ!』
「すごかったぞ、“ばぼぉっしゅ!?”ってルドルフ盛大に噴き出して」
「耐えられなかったの!?」
「他のトレーナーが“シンボリルドルフ!?”って心配するくらいに盛大に噴いてたからな。で、返してって言っても未だに返ってこないのが俺のあのノートです」
「……どんとまいんど?」
「略さずありがとう」
でも実はドントマインドって日本のドンマイとはちょっと違うらしいぞ。
「でもさ、ほら。そうやって人に寄り添えるのがサブトレーナーのいいところだって。うちのトレーナーなんて方針とトレーニングメニューを決めたらあとは任せるーみたいな感じで、結構放任に近いんだよー?」
「それでもお前の骨折を直すために、連日徹夜でメニューを悩めるいい人だよ」
「まあ、分かってるんだけどね。ていうかさ、全てのトレーナーのサブに回る~とか目ぇ回らない? 他とかいいからスピカ来ちゃいなよスピカー」
「未熟すぎるからやめとくよ。ルドルフから聞いてるだろ? その後のこと」
「うん。聞いてる。ボクの大好きな言葉だ。カイチョーもすっごい嬉しそうな顔で教えてくれた」
「………」
買い被りが過ぎます、皇帝。そして帝王。
ただまあ、ほら、当たり前のこと言っただけなのよ? そのくせ、言った自分がこうしてサヴやってんだから、アホかって話なんだけど。
「カイチョーは聞いた言葉を忘れたりしないから、たぶんいちごんいっく? 間違いじゃないと思うけど……実際はなんて言ったの? サブトレーナー」
「……一般論っていうか。横で聞いてりゃなんだそりゃって思ったから言った、子供じみた理屈だよ」
懸命に走り、1着でゴール。
トレーナーに囲まれ、いざスカウトってところで彼女は自分の夢を語った。
大きすぎる夢は、聞く人に足踏みをさせるものだ。
全てのウマ娘の幸福を願い、その頂点に立ち続けることを望んだ彼女、シンボリルドルフ。
そんな彼女を前に、トレーナー達はひそひそと囁き戸惑うばかり。
だから俺は、若かったからこそ言える馬鹿をそこで言った。
実力あるウマ娘を勝たせてやれなかったらトレーナーが無能ってことになる。
そんなことを言って名乗り出ないやつらばっかりの中で、それはおかしいだろ、って。
じゃあなにか、あんたらは彼女より能力が明らかに下で、負けても仕方ないって思える相手なら安心してスカウトするのか。
自分のトレーナーとしての地位が危うくならないから、そんな選び方をするのか。
彼女たちは全員夢を持ってトレセン学園に来てる。間違っても、俺やあんたたちの地位を押し上げるために頑張ってここに入ったわけじゃない。
最初からあきらめることが目的ならスカウトになんか来るじゃねぇ、全力で幸せを掴もうとしてる娘や、楽しく走りたいって思ってる娘らを巻き込んで夢を潰されてたまるか、って。
「……うん。カイチョーと言ってること、ちょっと違ったけど……少し変えたでしょ?」
「~……昔のことは、忘れたっ! 聞いたならいーだろーがもー……!」
「そんなだからトレーナーとか東条トレーナーが味方についてくれなきゃケッコー危なかったんでしょ?」
「そりゃそーだろ……あの場に居たトレーナー全員に喧嘩売ったようなもんだぞ? もちろん、その通りだって賛同してくれた人も居たには居たけどさ」
沖野Tとおハナさんには頭が上がらん。南坂Tも頷いてくれた一人だし、ライスシャワーのトレーナーもそうだ。
なにより、空気が一気に死んだ時、ルドルフが感謝の言葉を投げてくれたからこそ、ヤんのかコラァ的な空気は消えてくれた。
「でもカイチョーのトレーナーにはならなかったんだ」
「俺はべつに自分の人生をたった一人のウマ娘に捧げるのは怖くない。ただ、それで担当ウマ娘が潰れることが怖くてたまらない。一緒に歩むって決めたからにはどこまでだって尽くせるさ、当たり前だ。相手の人生の中で一番の“頑張ろう”を応援しようってんだ、自分の人生捧げなくて、相手の人生支えられるかってんだ。でもな」
「……うん。カイチョーがごめんなさいしたんだよね?」
「ああ。よくも悪くも、あの時のルドルフはてっぺん目指すためには手段を選んでいられないってヤツだった。要するに、俺では力不足だった。寄り添う気持ちはある。いくらでもだ。無能って呼ばれる覚悟だってあったんだ。でも、それは現実的じゃない。あいつの夢がなにがなんでも頂点に立つことなら、想いは同じでも力不足の男は切り捨てるべきだった」
「カイチョーは、そうしたんだよね?」
「もちろんだ。そうした上で、俺にお願いしてきた」
「え? ……それは初耳だね。なんてなんて? カイチョーなんて言ったの?」
「そりゃお前。“サブトレーナーになって、メンタル面で私を支えてくれ”って」
「えー!? カイチョーそんなこと言ったのー!?」
「笑っちまうだろー? お前力不足で切り捨てた相手に普通そんなこと言うかー? ってなったわ。けど、まあ。トレーナーとしての力が不足してたなら、メンタル面なら期待してるってことだって分かったから。俺はそれに頷いて、今は俺側についてくれたトレーナー間でサブやってるってわけ」
「そ、それで? それからカイチョーとは?」
「……ここに、黒の折り紙を張り付けられたギャグノート、というものがある……! ひとたび見てしまった、カノープスに所属しているナイスなネイチャさんが腹筋崩壊レベルで苦しんだノートだ……!」
「まさかサブ始めてからずっと、カイチョーと交換ギャグノートしてるの!?」
「おハナさんにはハチャメチャに感謝されてるぞ? なにせルドルフのやる気がこれだけで絶好調になるそうだから」
「…………ネイチャは?」
「カノープスの南坂Tからはネイチャさんの腹筋トレーニングにいいから、って時々貸してくださいって相談されてる」
「……待って。ねぇ、なんか感動話から一気にワケわかんないことになってる気がするんだけど、ボクがおかしいのかなぁこれ」
「んー……」
ハテ。
「そもそもヤンデレのこと聞いて、お前はどうしたかったんだ?」
「え? あ、うん。ねぇサブトレーナー」
「おうさ、トウカイテイオーくん」
「ボクがもし、まだどこにも所属してなくて、カイチョーみたいなことになってたら……サブトレーナーは同じことをボクの前でも言ってくれたかな」
「同じことは何度も言わんさ」
「……うん、そっか。そうだよね」
「代わりに、お前の夢を全力で守って支えることが出来ないで、なにがスカウトだー、とかそれっぽいことは言ったかも」
「あ……」
「ちっさい頃からの夢だったんだろ?」
「うん。叶えた途端、ぽっかり穴が空いちゃったみたいになったけどね。それからなにを目指せばいいのかも分からなくて。七冠を目指せばいいのかな、って思った時、サブトレーナーが言ってくれた。どうせなら七冠以上を目指せって。そこまで来たならカイチョーを越えてみればいいって。……考えもしなかった。思いもしなかった。カイチョーを越える、なんて」
「ルドルフと同じようにクラシック三冠目指した夢も大事だとは思うけどな。なにも全てをなぞる必要なんてないし、お前はお前として輝くべきだって思ったから」
そう言うと、テイオーは俺の顔をじーっと見たあと、えへへー、と笑った。
「あのさ、サブトレーナー? ボクさ、春天も秋天もマックイーンやライスに敗けちゃって、カイチョーを越えることは出来なかったけど……走るってことや勝つってことの楽しさ、思いっきり堪能したよ? もちろん、負けた時の悔しさもね」
「そっか。そりゃよかった」
「負けてよかったって。イヤミだなぁ」
「そうでもないよ。無敗で九冠、なんてきっと誰もがお前に期待しただろうけど……俺だって期待はしたけど、それが取れなかったからってお前に落胆したりなんかしなかった。むしろ、負けなきゃお前、こんな落ち着いた性格になってないだろ」
「……むー」
「たぶんそれは、ルドルフだって同じことなんだ。多くの勝ちより数度の負けを語られる皇帝。そんなことが語られるくらい、あいつは強かったけど……負けたことが無ければ負けたウマ娘に寄り添った考え方は出来ないんだよ。勝ちしか知らない奴が、全てのウマ娘の幸福を願えるか? 俺は違うって思う。だから、負けて悔しい思いはしても、全てがダメだった、なんて思わないよ」
「っ……~……」
「頑張ったな、テイオー。ルドルフと同じ七冠ではあるけど、それはお前がルドルフをなぞったからじゃない。お前がお前として頑張ったからある結果だ。同じじゃなかったら憧れじゃない、なんてことはないんだよ。もっとお前の、お前自身の頑張りをお前が認めてやらないと、頑張ってきたお前が報われない」
「………」
「……テイオー?」
言ってやりたいなと思ってたことをこれ幸いと言ってみれば、テイオーはやさしい微笑みのままに俺をじいっと見ていた。
そして、一歩距離を詰めて俺の目を覗いてきた。
「やりたいこと、してみたいこと、自分の足で全部確かめてきた。足を使ってのやりたいことは、たぶんもう結構やれたんだと思う。だからさ、サブトレーナー。足を使わない楽しみ方、ボクに教えてくれないかな」
「足を使わない?」
「具体的に言うと、有馬記念で頑張ったボクに、なにかごほーびとかないのかなー? って。ほらほらぁ、帝王様はお褒めの所業をごしょもーであるぞー?」
「足を使わない、か。んじゃあれだ、お姫様抱っこでもしてデートにでも出てみるか?」
「ぴえっ!? お、おひ、おひめ……!? ていうかデート!?」
「ん? そういう意味での楽しみ方を知りたいんじゃなかったのか?」
「そっ! そ……、そ、そう、だけど……でも、ほら、ボボボクにお姫様だっことか、似合わないと思うし……」
「米俵みたいに担いだデートがお望みか」
「そーじゃなくてぇっ!! もー! なんでヤンデレの話からこんなことになるんだよー!」
「俺のこと嫌いか? テイオー」
「そ、そりゃ、ホント感謝してるし? 骨折なんてへっちゃらだーって思って、それでも心の中は不安でいっぱいだったボクを支えてくれたし、三冠を取った時も、敗けて落ち込んで目的を見失ってた時も、ボクに走る楽しさを思い出させてくれたキミだけどさ。でもさ、ほら。ボク、自分で言うのもなんだけど、たぶんケッコー重いと思うよ? さっきサブトレーナーが言ってた半端ヤンデレ? みたいな感じだと思うし、ボクと一緒に歩いてくれる人はボクのことを第一に考えてほしいって気持ちはやっぱりあって……だから今日だって、雑談に乗じていい加減トレーナーになってみないー? とか、ボクが専属担当になってあげるよーとか言おうと思ってたのに、サブトレーナーってば鈍感みたいにあーだこーだってさー」
「……お前は昔っから真っ直ぐだったな」
「え、え? いきなりなにっ? 急に真っ直ぐーとか言われると照れるからさ、そういうのはもっと……昔? 昔って───」
「公園で走り回って、速く走れなくてもどかしくて、足を叩いてたりしたな」
「なんで知ってるの!?」
「無敗でなきゃいけないって、小学のマラソン大会でも誰よりも速く走りたがって、コケて、泣いて」
「待って、待ってよ。あの時、あの公園に居たのなんて……」
「大きくなったなぁ、皇帝ごっこーなんて言ってピースサインを空に掲げてばっかな子供が」
「~……サブトレーナー……だったの? 上手く走れなくて、悔しくて泣いてたボクに……っ……は、走り方を教えてくれた、あの時のお兄さん……っ……!」
「いや違うけど」
「えぇえええええええっ!? ちちち違うのー!? じゃあなんなのさー! なんで知ってるんだよもー!」
「お兄さんじゃない、お兄ちゃんだ」
「ワケワカンナイヨー!!」
一言:長ぇよ!
返答:ですよね!
結論:分割しました。