……いや待て、あっしはただひたすらに楽しく書きたくて指を動かしている筈だ。
輝かしい評価は要らない。その代わり頬が緩む感想も要らない。だからチラシの裏を選んだんじゃあないか。
よし、なにかが間違っててもいいじゃないか、楽しくいこう。
07/固有スキル
固有スキル、というものがある。走るウマ娘がある一定の条件を満たすと、ある種のトランス状態になり、秘めた能力を発揮する、というものだ。多くは勝負服を仕立ててもらった辺りから本格的に力を引き出せるようになるそうで、ゴールドシップ曰く───なんか以前はおりゃぁっつって殴りかかる気分でいると発動して、今は顔に陰を差させて目を赤く光らせて鎖付きの巨大な錨をブン回すとエクスプロージョンな気分になって発動するらしい。すまん、マジで意味が分からん。
「トランス状態か……一種の潜在能力、みたいなものなのか?」
「ボクの場合はテンションみたいなものかなぁ。こう、走ってる最中に“負けるもんかー!”って強く思った時とか、前なんかは“ステップ踏むみたいに簡単なことさー”ってテンションになったら、こう、ぴょんぴょんぴょーんって感じで」
「なるほど、バズーカチャンネルみたいなもんか」
「ばずーか?」
こてり、と首を傾げるテイオーに、身振り手振りで説明する。ちょっと熱が入るのはご愛敬。誰かに説明するの、ちょっぴり好きなのだ。トレセンって、トレーナーはもちろん、ウマ娘も優秀なの多すぎて、俺程度の知識じゃあさぁ……説明して“そーなのかー”って納得してくれる人、少ないのよ……。
「早い話、頭のネジをブッ飛ばして身体強化してシュートするような能力ってこと。よくあっただろ、昔。人間は普段、何%の力しか発揮出来ていない~って」
「あー、うんうん聞いたこと、っていうか見たことあるよ? 漫画で」
「あれな、発揮できてないっていうか、使い方を知らんだけだ」
「そうなの?」
「俺、300kgの重さを持ち上げられるように見えるか?」
「うわー! すっごい説得力!」
力こぶを作ってみるけど、ビルダーのようにはいかない。テイオーはその力こぶを触ってくるけど、興味というよりは……面白がっているだけのようだ。
「よくある火事場の馬鹿力は、まあ想像でしかないけど……危機的状況に陥った時に、現代の日本人が忘れちまった日本人の潜在能力を一時的に引き出せただけ、なんじゃないかと俺は思う。DNAっていうのか? 細胞が覚えていた姿勢への意識が、“この程度なら対処できる”って動いたとか」
「ウマ娘にもそういうのってあるのかな。ほら、ボクウマ娘だけど、きちんとヒノモトの血を継いでるよ?」
「……昔っからきちんと教え込まれてるんならまだしも、体が完全に現代のスポーツの動きに慣れてる今じゃあ引き出すのは相当難しいと思う。日ノ本因子って特に食事事情に左右されやすくてな? 主食が米や野菜っていう、日本人にとって消化吸収しやすいもので育ってきた身体じゃないと、馴染みづらいんだよ。その点で言うと、ネイチャの場合は商店街の皆々様方がいい方向に食事事情を運んでくれたんだろうな」
「あー……おじちゃんおばちゃんって野菜とか、体にいいもの勧めてくるもんねー」
「そういう意味で言えば、子供の頃から俺がテイオーを育てる~なんてことでもしない限りは、テイオーが日ノ本因子を駆使するっていうのは難しい。むしろネイチャの環境が特別すぎたってくらいだ。……と、いうかだ。実際、ネイチャはなんであそこまでその……卑屈って言っていいのか? 自分に厳しい構え方が出来るんだ……? 様々なレースで3着4着って、平凡なウマ娘に出せる記録じゃないんだが……?」
「だよねー……自己評価低すぎなんだよネイチャはさ。そのくせサブトレーナーとの練習で、急に才能を開花させた~みたいに急成長するしさー」
「カノープスはお祭り騒ぎだったよ。特に三冠の意味もよく分かってなかったっぽいターボなんか、“三冠はテイオーが獲ったんじゃないの?”とか首を傾げててさ。クラシック三冠との違いを教えたら、そりゃもう驚いてた」
「そりゃそうだよね、楽じゃないもん。昔は絶対獲るんだ~って、絶対にボクが獲るって疑ってなかったけど……本当に、難しいよね」
春の三冠を逃したことを言っているのか、少し自嘲というか……陰の差した笑みを浮かべるテイオー。
そんな彼女に、話を戻すけど、と言って、固有スキルの話へ。
「まあ結局のところ、“筋力+使い方=普段より上の力”になるんだ。つまり、俺も日本人に適した筋トレを極めれば、もっと上を目指せるってわけ。やろうと思えば俺も、固有スキルみたいなものは使えるかもしれない」
「……そうなの? ……そうなんだ……へー……! へー!! あっ、じゃあさじゃあさぁ、サブトレーナ~!」
「……なんか嫌な予感がするけど、なにかな? テイオー」
目をきらっきらさせたテイオーに、一応何事かと訊いてみる。ていうかあの? ここ俺の部屋なんだけど、なんで当然のように居るのキミ。
「サブトレーナーが本気で地面を蹴って走ったら、時速70kmとかも出せたりするの!? 併走トレーニングとかも出来るかなぁ! ……スタミナ強化のジョギングトレーニングなら、平気でついてきたのは覚えてるけどさ」
「? なんだって?」
「んーん、なんでも。で、どうかな。速く走れたりするの?」
「あー……リミッター解除云々の話も、もちろん知ってるよな? 自分の能力の3割以上の解放の代償~とかいうアレ」
「あ……うん。もしかして、足とか……壊れちゃうの?」
「その……な。そもそも足がな、70キロの速度で地面にぶつかっても平気な耐久度してないんだよ。一応速く走ることは出来るには出来る。けど、その場合いろいろと覚悟が必要だな」
翌日の筋肉&関節痛とかな。下手すりゃ老人以上に動けなくなる。
支えも半端な時にやってみて、腰痛で動けなくなった中学生の俺よ……無様!
「んー……でもさ、少し前に、すごい速さで道を走っていく男の人、ボク見たよ? てっきりサブトレーナーかと思ったんだけど……」
「なんだって? テイオーから見てすごい速さ、ということは……?」
「背中にウマ娘乗っけて笑いながら走ってたよ? 車追い越してた」
「……すまん、それ、たぶんドクターだ」
「ドクター? ドクターって……え? 保健室のセンセー!?」
「あの人、日ノ本の教えを伝えつつ、いろんなところから活かせるものを吸収しては実践出来るレベルまで昇華させる、正真正銘現代におけるバケモンだから。そっかー、だよなー……宗家の人じゃそりゃなー……」
「ボク、足の骨折治してもらったんだけど……え? そういうものなの?」
「テイオーはさ。中国とかで言う氣とかって知ってるか?」
「カメハメハー、とか?」
「いやうん、結論はそこなんだけどな。……あのドクター、氣を使って怪我とか治せたりするから」
「…………サブトレーナー、ボクのことバカにしてる?」
「いやマジだから。あの人、氣を使って走る際に生じる衝撃とか全部吸収させて、70キロ以上で走ったことあるから。前にお前が言ってたライス……だっけか? その娘の専属やってた筈だぞ。なんならその娘のために鳥を説得してみせたそうだから」
「なんで!?」
「なんだったかな……不幸体質って言って自分の評価をやたらと下げようとする娘らしくてな? だったらその不幸を、俺が吹き飛ばしてやるから~って……鳥に語り掛けてフンを落とすのやめさせた~とか、すごいもんだと拳から氣を放って雨雲吹き飛ばした~なんて噂話もあったなぁ、ははは」
「…………で、ほんとにやったの?」
「俺丁度その時その人の家の近くの知り合いに用があって、ドクターの家の近くを歩いてたんだ。そしたらたまたま、縁側に座る黒髪のウマ娘と、庭に集まった鳥と会話をするドクターの姿が……!」
あの人人間やめてる。中国武術から氣、というものを吸収、極めたらしいけど、それそんな簡単に吸収できるもんなの? 吸収出来たとして、鳥と会話できるもんなの?
「黒髪って時点でライスとは同じ部分はあるけど……あ、髪の毛が長くて、片目が隠れてて、なんかこう……小さな帽子みたいなのと青いバラの飾りがついてたりした?」
「お? おー……おお、あったと思う。てか、ライスライスって言ってるけど、そのウマ娘、ライスシャワーって名前で間違い無いか? メイクデビューから今まで、無敗で勝ち続けてるらしいんだが」
「無敗で、って…………ねぇサブトレーナー。もう一度訊きたいんだけどさ。ウマ娘がその……日ノ本因子? を完全に扱えるようになったら……どうなるの?」
「やろうと思ったヤツが居ないわけじゃなかったんだけどな、どれも失敗に終わってるよ。そもそもがウマ娘のその……あー……気性って言っていいのかどうか。に、合ってないんだ。知っての通り日ノ本式の走りは地面を強く蹴るタイプのものじゃない」
ノーパソに文字を打ち込んでウマ娘の走法と古式走法の違いを上げていく。
それが適当に完成すると、ホレ、とテイオーに見せた。
「古式走法のひとつとして知られるのは、現在でいう“スロージョギング”の形に似ている。後ろに蹴る必要のない走法だ。“膝を上げる筋肉”しか使わないからスタミナが恐ろしいほど消費されない。前傾姿勢になって、膝を上げるだけだ。地面に足を着いて、その反動でまた持ち上げるを繰り返すだけ。蹴る必要はない。勢いさえついていて、リズムを覚えれば誰でも前に進める」
「うん、これが結構難しいんだよね。気づくと蹴っちゃっててさ」
「ウマ娘はどうしてもな。で───対して、ウマ娘の走りは地面を蹴って前へ前へと出る走り方だ。逃げ、先行、差し、追い込み……強く蹴って、けれどコンパクトにそれらを繰り返す。どのタイプの走り方をするウマ娘でも、ターフを抉るように走るのがその証拠だな」
「うん。長距離走ったりすると、二週目とかもうすごいもんね、地面えぐれちゃってさ。……それで?」
「足を溜めたい型のウマ娘にこそ合ってる走りではあるんだが、それでもその走り方を吸収出来なきゃまず馴染まない。なにより食事事情から変えなきゃいけない上、姿勢からして少し特殊ときたもんだ。速く走りたい、誰かに勝ちたいって意識が強い傾倒にあるウマ娘には、基本的に向かないんだ」
「それを身に付けることで勝てるなら、って気持ちは出てこないの?」
「地面を強く蹴る走り方じゃないってだけで、前に出られない歯がゆさがどうしても浮かんでくる。基本的に日ノ本の走法は、飛脚らが疲れず長距離を走るために“そうなっていったもの”だからな。3千ウンメートルを走るために体と精神を磨くウマ娘には絶望的に合わん」
そう。これが悲しいほどに合わない。日ノ本因子に合うウマ娘を探してみよう、っていうのがまず無理だって日ノ本を伝える家系がお手上げ状態で溜め息を吐くレベルで。
しかしである。もし子供の頃から、そんな教えをひたすら真面目に、教える者を疑ることなく、楽しく覚えていこうと思ってくれる純粋な子が居るのなら。食事事情なんかも受け入れてくれて、ひたすらに信じてついてきてくれる心優しい真っ直ぐなウマ娘が居てくれるのであれば。あるいは……もしくは……?
まあ、居るわけないよなー、なんてテイオーにそんな条件を語りつつ笑ってみると、テイオーは「うわぁ…………うぁあああ……」と物凄い絶望顔をして耳をへにょりとさせた。
「テイオー?」
「……サブトレーナー。ボクらの最大の敵、ライスかもしれない」
「?」
テイオーはそう呟くと、マックイーンに電話をすると言って寝室へと歩いていった。
……うん。待って? ここ俺の部屋だからね? 門限とか守らないとヒッシャムさん(ヒシアマゾン)が怖いぞー? おーい?
08/続・固有スキル
固有スキル。それは一種のルーティーンから引き出すことの出来る、自己暗示にも似ているらしい。
練習の時にその域まで自分を持っていき、そうなれる自分へとある種の脳内暗示に似た行動で辿り着かせる。
勝負服があてがわれる前の、体操服やライブ衣装でのレースをするウマ娘は、自分が自分らしくあれる行動を取ることで意識のチャンネルを“そちら”へ傾けることが出来るそうで、勝負服を得たウマ娘はより明確に、自分の中のチャンネルを切り替えられるのだとか。
故に……そこへと持っていくためのルーティーン……即ち、脳内にイメージする自分、というのはとても重要なのだ。ゴルシが言うにはやはり顔に陰を差させて目を赤く光らせ、鎖付きの巨大な錨を振り回すというイメージが、自分をトランスさせやすい、というのだがすまんやっぱりよく分からん。
「サブトレーナー? なにやってんだ?」
「ん、お、ウオッカか。3Dシミュレーターっていうソフトをおハナさんに借りて、ちょっと固有スキルのイメージの作成をな? ちなみにテイオーはこんな感じのイメージらしい」
ほれ、とノートパソコンを見せると、画面の中では雲の上をぴょんぴょん跳ねる3Dテイオーの姿が。
「うおおおすっげー! こんなのあったんだな!」
「ウオッカとスカーレットももう勝負服貰ったんだよな? どうだ? ちょっとイメージする自分を組み立ててみないか?」
「やるやる! やるよ! えーっとこれどーすんだ? 好きに作れんだろ? よーっしいっちょバッチリカッコイイの作ってやるぜぇ!」
「えっとだな、バ体一覧から自分に近い体躯を選んで、勝負服も似たものを選ぶ。そしたら、“行動”の欄からどう動くかを決めて……っと、こうしてこうしてこうすると、ほら」
「……! これっ、オペラオー先輩のっ……! おおおおカッケー!!」
「おっ? オペラオーのルーティーン、知ってるんだな」
「あったりまえだろー!? なんなら練習してるとこ実際見たっつーの!」
「なるほど。で、どうする? ウオッカならどんな感じのがいいか……」
「こういうのは直感をぶつけて、伸びしろを探すのがいいってオペラオー先輩が言ってたぜ? だから、こうしてこうしてこだ!」
ウオッカがノーパソをいじくり、体躯の似た3Dウマ娘を動かす。
結果は……現れるウマ娘の“型”を、素早く最適な動きで抜いていく、というものだった。
「おお……滑り込むように抜き去るイメージか。カッコイイのが出来たな」
「んゅっ……! ~~……な、なんだ? 俺が、なんだって?」
「ん? や、カッコイイのが出来たな、って」
「……!!」
素直にかっこいい、と言うと、ウオッカはたまらなく緩む貌を無理矢理引き締めるみたいに目をぎゅ~っとつむり、ふるふる震え始めた。あらかわいい。でも口にすると跳び蹴られそうなのでやめておく。
「ところでウオッカ。ついさっきまでスカーレットもここに居てな? 教官に仕事頼まれたから~ってちょっと外してるんだ。ウオッカだったらスカーレットに、どんなイメージが似合うと思う?」
「……なんだよ。なんで俺にあいつのこと訊くんだよ」
と思ったら一気に不機嫌……とは違う、調子が狂うとその目で語るような表情に。
“俺が決めたってあいつは喜ばねーだろ”、と確信を持って言っているような口調だった。
「イメージだよ、イメージ。カッコイイやつにはライバルが付き物だ。相手の力を認めた上で、次に勝つのは自分だって自分を磨けるヤツにこそ、腕を組んでフッ……と笑うポーズは似合う。そう思わないか?」
「くっ……! ぐぅの音が出ねぇほど正論だ……!」
え? マジで? 適当言ってみただけだったんだけど。
「けどなぁ……アイツのイメージ? 一番にしか興味なくて、猫被りで前方突っ走んのが好きで……あ、バクシンオー先輩みたくイチバンイチバンイチバーンって叫ばせておけばいいんじゃねーの?」
「───」
脳内で、ネプチューンマスクをしたスカーレットがナンバーワーンとか叫んでいた。……“真顔”の状態で表情筋を固め、なんとか笑うのは耐えてみせた。
そして3Dシミュレーターでそれを作って見せたら、ウオッカは抱腹絶倒した。比喩ではなく本気で。
見せたのは謝る、すまん、だから笑わないでくれ、俺まで笑ってしまう。
「し、知ってる知ってる……! これたまぁにマックイーン先輩がトレーナーに仕掛ける技の、元のやつが出てくる漫画のキャラだよな……!」
「おっ、よく知ってたな」
「カッコイイ奴は知識欲も高くなきゃな」
そこで勉強云々を口にしないところはさすがだ。
「でもやっぱこれはちょっと違うな。アイツに似合うって言ったら……まあ、アイツがルーティーンにするってことは、華麗にとか優雅にとか、猫被った方向での行動だろ。だからこう……」
「ふむふむ……?」
「とりあえず赤っぽい花でも散らしながら、回転したあとにスパッとポーズキメる、みたいなのでいいんじゃねーの?」
「回転して、ポーズ…………おお、いい参考資料があるから取り込んでみよう」
「取り込む? へー? そんなこと出来るのか」
「ああ。ちょっと3Dに合わせて動きの参考にトレースすることが出来る。技術の進歩、おそるべしだ」
というわけで、ネットで拾ってきたそれをスカーレットっぽい3Dバ体に登録させて、いざ。
まず……ゲームとかで言うカットインみたいな演出のあとに、トレースした動作と、せっかくだから音声は元のもので流してみる。
元が格闘ゲームであるため、しかも声優が男性であるため、少々声がアレだが。
ピキュンッ♪
『天にまします主よ わたしを導いてください……』
3Dバ体のスカーレット? が、とある神父のように両腕を広げながらグルゥウウ~ッと静かに回転し、ビッタァアア~~~ッと停止するとともにポーズを取った。その前に居るC-MOONは、そう設定したわけでもないのに何故かタキオンだった。俺達、爆笑である。
「あはははははは! あははははははは! ちがっ……回転の意味が違うだろこれっへへははははははは!!」
「いやっははははでもなははははは!! 回転してポーズキメるっていったらウハハハハハ!! ブプフハハハハハハ!!」
さらに、そこまで読み込ませたつもりじゃなかったのに、スカーレットが窓枠っぽいのに掴まって、ピーン……という音とともに空に飛んでいくのを見たら、もう涙が弾けるほど笑うしかなかった。その間にもスカーレットが“感じたぞッ! 『位置』が来るッ!!”とかシヴい声で叫んで空に飛んでって、目とか口とかいろんなところから光りを出してしまえば、もう声も出ないほどの衝撃に苦しむ他なく。だっ……だめだっ! 重力じゃあない……! 笑撃がッ! この体を貫いて来るぅぅッ!!
「けっほ……! こっ、これ絶対笑ってる最中にスカーレットが戻ってくるやつだろっ! さっさとそれ仕舞ってくれよぉ! ───ぶふっ! あはははははは!!」
「待て待て待て! これ履歴残るから、消しておかないとおハナさんにも激怒されるから! ───よ、よし! よしよしよし! 確認終了はい終わr───」
「戻ったわよー、って、なに騒いでんの?」
「いや悪いへんな虫が居てなっ!?(っっぶねぇええーーーっ!!)」
「そうそうそうなんだよ、サブトレーナーが大げさに騒ぎ出してさー!(ぁあああっぶねぇええーーーっ!!)」
咄嗟にとはいえいい言い訳が出来た───
「……怪しい。なに焦ってんのよ」
───わけがなかった。デスヨネ。
「ちょっと見せなさい」
「え? な、なにをだ?」
「そのノーパソよ。やましいことがないなら見せられるでしょ?」
「あるので無理です」
「え? …………えぇっ!? あるの!? ちょっ……逆になんなのよ! 見せなさいよね!」
「なっ! こっ……! これっ! やめれ! 男のパソコンには夢と希望がいっぱいなんだぞ!」
「なによそれ! いいから見せなさい! 見せっ……見っ……!! なんでビクともしないのよ!」
「
「おぉおおお! なんだそのフレーズかっけぇ!!」
「あんたちょっと黙ってなさいよっ! ~……!! うそっ! 本気出してるのに動かない!?」
「俺のデッドリフトはルドルフを越えるぞ。そしてそれ以上力出されたらノーパソ壊れて弁償になるのでお願いです離してください」
一応今のところは耐衝ケースが耐久力をメリメリ減らして頑張ってくれてるけど、これそろそろヤバいから。
「ふっ……くっ……! そ、そんなことっ……言って……! どーせアタシが力緩めるのを狙って───」
「おハナさんからの借り物がある」
「ひぃっ!?」
モノスンゲー速さで手放された。ありがとう心の姉さん、あなたは偉大だ。
「あっ……もう! なんなのよいったい!」
「いや……あー……スカーレット? おハナさんには内緒な? 出来るか?」
「内容に寄るわよ。最初っから説明しなかった疎外感とか、それが拭えるなら考えなくもないけど」
「ははっ、なんだよお前、仲間外れされて寂しかったんじゃねーか」
「そういうんじゃないからっ!!」
毎度のギャースカを始めた二人をよそに、カタカタとノーパソをいじる。……OK、確実に履歴もトレース状態も無い。しかし俺がスカーレットに見せるのはこれである。
「あー……ほれ、スカーレット」
「? ……なにこれ。漫画?」
「詳しくはゲームのキャラクターな。借りたものでゲームの動画見てたんだよウオッカと。ゲームの中にだってカッコイイのがあるんだぞーって。で、やいのやいのしてたらお前が来た」
「……うーわー……くっだらない……。そんなの隠す価値もないじゃない」
「ほれ、今のお前のその反応。好きなものに対してそんな反応をされるって分かってて、誰が見せたがる」
「っぐ! ……それは…………ごめんなさい」
「ん。ほんと、スカーレットは自分が悪いことをしたと思えたらちゃんと謝れる立派なウマ娘だな」
「え、なな、な、そんなの当たり前じゃないっ! なにいきなり褒めてきてんのよまったく!」
急に褒められて照れてそっぽ向くスカーレットをよそに、俺とウオッカはサムズアップし合った。
……で、何故かそんなウオッカの隣でサムズアップをしているゴルシ。
「………」
「………」
「………」
「酢こんぶ10個」
「うっし買われた」
買収は完了した。
平和は保たれたのだ───!!
09/愛。果てしなく───
どたたたたたた!!
「たたたたた大変大変ー! メジロマックイーンさんが倒れたってー!!」
「ぇえええええっ!? マックイーンさんが!? いったいどうして!」
「あっ、スペシャルウィークさん! えっと、なんでも珍味スイーツと称されて酢こんぶを食べてしまい、気絶したそうですー!」
「えぇえええええっ!? なんで酢こんぶを!? なんで酢こんぶで!?」
「もー! なにやってんのさマックイーン!! ああもうとりあえず行くよスペちゃん!」
「はい! ……何処にでしょう!」
「ゴールドシップのところ! 酢こんぶさえ知らないウマ娘に酢こんぶ食べさせるなんて、ゴールドシップ以外いるわけないじゃん!」
「はい! あ、教えてくれてありがとうございましたー!」
「え!? あ、はいー! ……スペシャルウィーク先輩って礼儀正しいウマ娘だなぁ……後輩のわたしに敬語でなんて……って、これ以上被害者を出さないために、酢こんぶ注意報、もっと広めなきゃ! みんなー! 聞いて聞いてー!」