「セイ!今、何時だと思ってるの!?昨日は早く起きれるって言ったから映画見たんでしょ!?起きなさい!!」
「ん....んむぅ.....。」
母親の怒りの声を聞いて、意識が覚醒する。
時計を見やれば既に7時45分。
学校は8時から8時20分までに登校しなければいけないので、かなりギリギリだ。
それを見て、俺は溜息を吐きながらぼやく。
「くそっ....あの数値の高さは飾りかよ....。」
するとズンズンと階段を踏みしめる音が聞こえてくる。
これは....母さんだな。
こんなこと考えている間にも時間は刻一刻と迫ってきている。
少なくとも、遅刻してしまえば帰ってお説教コースは避けられない。
なんとしても、学校に間に合わなければいけないだろう。
焦りと共に、いつも以上の速さで意識が覚醒する。
早急にベッドから出ると、部屋から出た。
部屋を出ると、怒りに顔を歪ませた母親の姿。
「か、顔を洗ってきます....。」
「...家で食べるの無理でしょうし、おにぎり持たせるからあっちで食べなさい!」
「うん。」
話半分に聞きながら、洗面台と向き合い顔を洗う。
速さ重視で適当に顔を洗い、自分の部屋に戻ると服を着替える。
そして、前の世界では懐かしさの対象であったランドセルを背負う。
そして、バタバタと階段から降りた。
その様はまるで逆天神。
子供に遅刻遅刻って言いたくないですよね?
玄関の前には母さん。
ケースのような物を渡してくる。
「はい、おにぎり。ちゃんと急いで行きなさいよ!」
「分かってるって!」
それを受け取ると、そのまま家を出る。
そして、駆け出そうとした瞬間目の前の光景がゆっくりと色を失っていき、周りの木々の揺らめきも制止し始める。
そして、目の前に現れるのはこの文言。
【学校へと向かう。貴方は....】
1.歩いて向かう(10%)
2.走って向かう(25%)
3.もう学校とか良くね?近くに公園あんじゃん(100%)
行動がパーセンテージと共に表示される。
これを見た瞬間、感覚的に理解した。
あっ.....これ、もう学校間に合わないんやなって。
それならもう走るのも馬鹿らしくなってくる....。
...いや!よく考えてみればCOCでは目星は大体25%だ。
そして目星は結構初期値でも成功する。
加えてこの状況、間に合うか間に合わないかの二択。
つまりは実質的な確率は誰が何と言おうと50%ということだなっ!!
だから走れば半分の確立で間に合う。
家でのこの後の空気を考えれば、半分なんてギャンブルで言えば分が良すぎる。
よってここは走り得な場面。
俺は走らせてもらうぜ!!
全力で走り、息を切らす中。
目の前には硬く閉ざされた表門。
俺は....確率の前に敗北した.....。
「くそっ...何が実質50%だよ....25%って文字読めねぇのか.....。」
項垂れながら先ほどの自分のとち狂った思考にブチ切れる。
最早間に合わなかったことに諦めの境地に浸りながらもおにぎりを取り出して食べ始めた。
このままゆっくりと裏門に向かってしまおう。
それにしたって、昨日の『3.夜更かしと早起き、両方やらないといけないのが学生の辛い所だな(65%)』だったり、この数字まったく当てにならないじゃないか!!
これ、神様訴訟しても良いんじゃない?話が違うんですがそれは....。
俺の名前は加納聖、転生者だ。
生涯の内、人が落雷に遭う確率は約1000万分の1。
宝くじの一等に当たるのと同じくらいの格率。
それを不幸にも俺は踏んだのだ。
そして、転生することになって与えられた特典は一つ。
それは、さっきも出て来た文字列。
特定の状況下に置いて、自分の可能性とその成功率を目の前に示し、自身を導く。
そういう能力らしい。
そして事前に聞いた話によると、なんでもこの世界は沢山個性豊かなヒロインが居て、なんかワチャワチャするADVエロゲの世界らしい。
現状、俺が過ごしていた現代日本の生活となんら変わりない。
要するに学園ラブコメ的世界であるってことだなっ!!
現状、俺は今小学生。
つまりは今、俺と登場人物が同年代であれば幼馴染としてフラグを積んでいる段階。
もしくは既にその年齢の場合は、おねしょたが成立するってわけですね!!
俺はこの導く力によって、生前果たせなかった彼女持ち及びにエロゲ特有のエロシーン回収による童貞卒業を目指す。
元からの主人公が居るのであれば、悪いのだが一人ヒロインもらうことになるかなーって。
まぁ、そもそもそういうゲームは攻略対象が一杯居るし、一人くらい...食べてもバレへんか。
だからこそ、数値が高いのに外れられると信頼性に陰りが見えて困るんだけどなぁ....。
そう思いながらもおにぎりを食べていると、遂には食べ終わってしまう。
目の前には裏門。
やれやれ....家に帰った後の言い訳でも考えながら先生に謝るか.....。
溜息を吐くと、俺は裏門をくぐって校内へと足を踏み入れた。
◇
学校が終わり、放課後。
周りの同年代が今日家に来遊ぼうぜとか色々話している中、俺は毎日の日課を行おうとしていた。
いつもは一度家に帰ってからだが、今回は朝にやらかしたせいで外出を許してもらえないかもしれないので下校時間に済ませておくのだ。
「さて、メインキャラに当たる人を探さないと.....」
まずはこの世界はADVエロゲの世界であるなら主人公やヒロインなどのメインキャラが居るはずである。
そもそもヒロインと結ばれるにはそういうメインキャラと何らかの関わりを持つ必要がある。
そいつらと関わりがなければ、ただのモブに過ぎないからだ。
幸せは歩いてこないので、自分から歩いて行く必要があるんですね。
だからこそ、俺はこの能力を使って探し出すのだ。
俺がそう呟いた瞬間、周囲の風景が色を失う。
来た来た....。
【メインキャラを探す。どこを探す?】
1.公園(5%)
2.商店街(14%)
3.路地裏(70%)
示された可能性を見て、溜息を吐く。
そうそう、いつもこうなのだ。
大体5~20%前後がデフォであるのだ。
やっぱモブが多くいるこの世界で、メインキャラ様に会える可能性はこの程度ってわけですか。
しかし、サイコロは何度も降ればいつかはゾロ目が出るもの。
だからこの程度の確率しかなくても、毎日探す利点が....って70ゥ!?
えっ、待って待ってこれ見間違いじゃない!?
ま、マジでこれ70か?故障したんじゃないのかこれ?
あ、あれだろ....どうせセブンティーン↑かセブンティ↓みたいな感じで実は17なんだろ俺は知ってるぞ。
特典にバグが発生してんよ~、神様修正はよ。
いや、でもこんな数字マジでこの命題においては見たことないよ...。
もし、これが本当だとしたら......。
ごくりと息を飲む。
正直、小学生であるのに路地裏の暗い場所を行くのは色々怖い所もある。
でも、それ以上にこの未だかつて見たことのない高さのエンカウント率に惹かれてしまう。
ここを逃してしまえば、もう二度とあんな可能性には出くわさないかもしれない。
たとえ外れるかもしれなくてもこの高い数値を見に行かない理由がない。
俺はゆっくりと路地裏にすることを決める。
それにしたって路地裏。
どんな子が居るのだろうか?
正直、普通の学園ラブコメで路地裏なんか不良キャラしか居ない気がするんですがそれは....。
あれかな?ヤンデレはヤンデレでも、ヤンキーデレの方な子が居るんだろうか?
昨今の時代では軽率にヒロインが病むので、それならそれで今の時代には斬新なのかもしれない。
気の強い女の子が、自分だけに弱い所を見せてくる。
叡智だぁ....こういうので良いんだよ、こういうので。
そう考えながらも俺の足は、人だかりを通過して商店街を抜けていく。
そして、建物の隙間。
そこから見える広い空間に目を向けた。
どこかに繋がっている裏路地。
暗く、湿っぽくてどこか不気味に感じる路地であった。
まだ路地に入ってすらいないのに、周りを見ても人がまばらである。
「なんだろう....ここら辺は寂れてるのかな....。」
いや、結構路地の奥の方だからかな。
まぁ、んなことはどうでもいい!!
ここまで足が動いたってことはあの先に、メインキャラが居るってことに他ならない。
...いや、確率が高くても外れる時は外れるんだけど.....。
なんだお前、葉隠の占いかてめぇ.....。
なんの意味もねぇじゃねぇか!!!
ゆっくりと路地裏に入ると、地面にネズミがちょろちょろと尻尾を巻くように逃げて行く。
うげぇ....ここ汚いなぁ....。
本当にこんな所にメインキャラが居るのかよ....。
つか、居たとしてもそれまともな奴かぁ?
路地裏住まいのマダオッティとか出て来たら俺チビるぞ。
そう思って、足を更に踏み入れて曲がり角を曲がる。
踏み込むのは袋小路。
足を止める。
足が止まったのは、進む先がなかったからじゃない。
辺りに撒き散っている紫色の液体のような物と共に落ちているなんかぶつ切りにされたタコの触手のようなもの。
目から血を流して壁に寄り掛かる栗色の髪の女性。
そして、その前でまるで獲物を前にした肉食獣のように四つん這いになっている栗色の髪を持った少女。
同年代くらいの少女であるがその姿を見て喉が引き攣った。
手や全身に紫色の液体を浴びている。
えっ....なにこれなにこれ?
あ、あの....メインキャラってのはどちらで.....?
と、とにかくなんか嫌な予感するし、か....帰ろう....。
そう思って後ずさった瞬間、何かがかかとに当たる。
瞬間、小さく響く音。
後ろを見ると、小石が転がっていた。
あっ....やべっ....。
確信はないけど、でもこれはヤバいってなんとなく分かった....。
ごくりと生唾を飲む。
目の前の少女が、人とは思えない速度でこちらに振り返った。
開かれた琥珀色の目。
整った顔立ちはその狂気とも呼べるような獰猛さから、却ってこちらの恐怖を煽るだけのものとなっている。
「フゥゥゥウウゥウ...ウゥウウウゥウウ、ヴゥゥゥッ....!」
唸り声は地の底に響くかのように辺りの空気を揺らし、俺を威圧している。
ギラギラとこちらを睨みつけて、俺の動向に目を光らせている。
その様はまるで野獣の眼光。
実際にそんな経験はないが、ライオンなどの獰猛な獣と相対した時のような緊張感が俺を包み込む。
怖いし漏れそう....いや、正直言うと実は少しちびった。
なにこれ、どういうこと?
僕はただメインキャラを探しに来ただけで、こんな一触即発っぽい空気に出くわすつもりなんかさらさらなかったんだけど...。
メインキャラどこ....ここ....?
そもそもなんか辺り一面紫色の体液まみれで、目から流血して壁に寄り掛かる女におよそ獣と見まごう程の所作と気迫で尋常ならざる少女。
その殺伐具合で学園ラブコメは無理でしょwww
あの....君達だけ、世界観間違ってますよ。
世界観間違っているのはお前の方なんだよなぁ.....。