暗い路地裏。
目を覚ます。
周りには、魔の飛び散った死体。
しかし、そんなことは今の私にはどうでもよかった。
「嘘...こんなの、全部嘘だよ.....。」
目の前には、私の大好きなお姉ちゃん。
でも、お姉ちゃんは私を見て微笑むことはない。
ただ無機質にこちらを眺めるだけ。
それもそのはず、首元はまるで野生動物にグチャグチャに噛まれたようになっており、既にこと切れているからだ。
そして...私は、そんなお姉ちゃんに馬乗りになっていた。
口元に手をやると、べったりと赤黒い液体。
そして、手はグチャグチャとお姉ちゃんの腸を引き裂かんと必死に爪を動かしたことで爪の隙間に血が詰まっている。
意識を失って、再度目覚めるとこの光景。
嫌だ....信じられない、信じたくない。
私が.....。
「お姉ちゃんを...ころ、した....?」
違う、...違う!
これも魔が....。
そう言い訳しようとするも、それは違うことは自分が一番知っている。
周りに散らばる魔の死体。
そして、確かに私はお姉ちゃんに馬乗りになって、目覚めた時にはお姉ちゃんの喉笛に食らいついていた。
認めたくない現実。
唯一の血縁を意識を失っていたとはいえ、自分で殺してしまった現実。
自分の足もとが崩れ去る様な感覚。
自分を理解し、守ろうとしてくれていた人を自分で殺した。
少女は、ただ頭を抱えて絶望のままに喉を震わせた。
「っ、あ”...ああぁああああああああぁあぁぁあああああ!!!!お、お姉ちゃん...お姉ちゃん!!あぁぁ,,あああぁ”あ”あああああああ!!!!」
血まみれの身体で姉に身を寄せる。
精神的なショックによる退行。
しかし、自身の姉の身体から感じる冷たさは彼女が確かに殺したと物語り、一人の幼い少女が逃げることすら許さなかった。
◇
「フゥゥゥウウゥウ...ウゥウウウゥウウ、ヴゥゥゥッ....!」
理解が追いつかない。
目の前にはなんかすげぇタコの触手みたいなのが撒き散っていて、目から血を流した女性に威嚇している獣みたいな少女。
そして、俺は今その少女に気づかれた。
あのさぁ...これどう見てもホラゲのシチュなんだよね?
あの、これってラブコメじゃなかったの?世界観壊れてるよ?
パンツの中はチビって湿っぽく、目の前の少女は今にも俺に飛び掛かってきそう。
どうしてこうなった?
僕はただ....ここに70%くらいの格率でメインキャラが居るってことで来たのに....。
もしかしてあの二人がメインキャラ?
なんか(世界観)間違ってるよぉ....。
戸惑っていると、目の前の景色から色がなくなっていく。
俺をここに連れて来た原因である確率。
それが俺の前の前に表示されようと言うのだ。
正直、俺は見なかったことにしてこの場を去りたいんだが.....どうなってるかな?
【目の前には今にも飛び掛かってきそうな少女。どうする?】
1.逃げる(15%)
2.何もせずに死を待つ(100%)
3.獣は居てものけものは居ない。可愛がる(58%)
なんだこのクソ数字たちは、たまげたなぁ。
どうやら戦うという選択肢がない以上、勝てない相手だということは分かった。
そもそも戦う気もないし、学園ラブコメにバトルシーンなんか必要ないのにね!おかしいねっ!!
ただ一つ確実に言えることは今の状況は確実に死ねるということである。
そりゃ何もせずに死を待つことの成功率は高いでしょうねって感じ。
そしてまともな行動択である逃げるのこの成功率よ。
一番下は....うん。
なんだろ、ふざけるのやめてもらっていいすか?
じゃあなんすか?目の前の女の子はフレンズってことっすか?
それにしてはあまりに剣呑な雰囲気なんですがそれは....。
いや、ここは自分の日頃の行いの良さを信じろ。
15%なんてTRPGとかでは割と出る数字じゃないか。
そもそもなんか死ぬっぽいし、他の可能性は論外。
つまりは賭けるしかないってことだ。
いいぜ...やってやるよ。
希望の未来に倍プッシュだ....!
獣とかと対峙して、逃げる際には背中をけっして向けるなって言われてた。
ただ逃げるにしてもそこら辺を遵守することで少しでも成功率を上げることが出来れば....。
彼女の目をまっすぐに見ながら後ろに一歩踏み込んだ。
その瞬間、彼女は地面を蹴る。
わぁ...人って四つん這いの状態でもここまで高く跳べるんだぁ....。
ここまで現実離れした光景を目にすると、感想も小学生並みになる物だ。
まぁ小学生だもん、しょうがないね。
取り敢えず確かなことは、確率はクソということだった。
そして、跳び上がった彼女の身体は的確な軌跡を以て...俺の身体を押し倒していた。
押し倒されて地面に全身を強打する。
「フッー、フッーッ!!ヴウゥゥゥ.....、ガァッ!!!」
すっごい痛い。
痛みに顔を歪めると、彼女が唸り声をあげる。
そして、その目線は俺の首元へと向いている事が分かる。
おいおいおい、まさか.....。
彼女は口を開く。
覗く犬歯はまるで人の物とは思えない程に鋭利だ。
そして、顔を勢いよく寄せてくる。
多分、俺の首元に噛み付こうとしている。
やっぱコイツ人間じゃないでしょ...。
咄嗟に腕を首元と自分の間に構える。
それによって食らいつく先が俺の腕になる。
すると肉に彼女の犬歯が深々と食い込み、腕から嫌な音が鳴る。
マジでクッソ痛い。
これこのまま噛む力が強くなると、腕の骨折れるんじゃね?
マジで変な音が腕から鳴っているんだけど!
「ウヴゥゥゥ!フヴゥゥゥッ!!!」
息を荒げて、こちらに噛み付く力を強めて行く少女。
腕から更にメキメキと音が鳴る。
うん、これ冗談じゃなく折れるね。
そもそも路地裏とか危ないだろ!
だから行きたくなかったんだ!!
クソッ!確率に目がくらんだばっかりに!!
歯噛みして、自分の選択を後悔していると再び周りの風景が色を失っていく。
【腕を噛まれて、いずれ折れそうだ!どうしよう....?】
1.死んだんじゃないの~?(96%)
2.〇ツゴロウしてみる(83%)
3.しょうがねぇ、ちょっと獣になるか。(37%)
なにこの...なに?
いよいよなんの成功率だかも分かんなくなってきたんだけど。
とにかく一番上の可能性は論外。
多分死ぬと思いますコレ。
で、獣になるは....成功率低いな。
なんの可能性かよくわからないけど。
それでこの〇ツゴロウしてみるってのは....多分さっきの可愛がるとほぼ同じだよな?
えっ?なんでそこ推してくるの?
もう自分の特典がよく分からないんだけど。
なんなの?最近動物番組とか見たっけ?
もう良いよ、そんなに推してくるのならそっち選んでやるよ!!
だってなんの成功率を示しているのか、可能性自体がふざけ腐ってて分かんねぇし!
なんなんだよこれもう!!
やれば良いんだろやれば!!
「わ、わーしゃしゃしゃ、よーしよしよしよし、よーしよし。」
片方塞がった手でなんか覆いかぶさっている少女の身体を撫でてみる。
傍から見たらこんな状況でいきなり何やってんだって感じだろうが、これでも死に物狂いだ。
だってこれ以外死ぬか獣になるかだよ?
控え目に言っておかしいよ。
もっと別の可能性探したらあったと思うんだよねぇ!!
「ッグルゥゥゥゥ!!」
「あにゃぁあああああ↑↑腕がっ!腕がぁぁぁ!!」
必死に撫でるも、それが気に障ったのか無知からが強くなっていき、最早噛み砕いている段階にまでなっていた。
腕からはメキメキからグレードアップしてメキャメキャと音が鳴る。
もはや激痛で虐待おじさんみたいな声出ちゃったんだけど。
あぁ....俺これ死ぬんやな。
学園ラブコメの世界だと思ってたのに、こんな意味の分からない展開で死ぬのか....。
理不尽にも程がある。
せっかく2度目の生を受けて、誰かメインキャラであろう人物とフラグを立てようと毎日頑張ってたのに...。
そう悲観した瞬間、必死に動かしていた手が脇の下に当たった。
すると、殺気丸出しで腕に噛み付いていた彼女の身体が跳ねた。
「ッウヴぅ...ヴゥゥ...!!」
なんかちょっと噛む力弱くなった気がする。
もしかして....アレか?
なんか凄い暴れまわっている犬とかを撫でて落ち着かせる的な感じの奴か!?
だから可能性はこれをずっと推してたのか!!
すげぇよ特典!こんなこと中々出来ることじゃないよ!!
なんか異世界とかで主人公持ち上げる周りの人みたいになったな。
特典を持ち主の俺が持ち上げるのもおかしな話だが。
「おっ、おーしおしおしおし!っつぅ...噛む力強くて凄いでちゅね~くっそいてぇんでちゅよ~?よしよしよし~。」
正直滅茶苦茶痛いし、その原因は目の前の少女なので可愛がりなんか出来る状態ではないが、一筋の希望が見えたのだ。
目の前の折れるんじゃないかってくらいに噛み付く少女に対して嫌味を滲ませながらも一生懸命に腋を撫でる。
もう絵面がラブコメですらないよ。
なんかそういうマニアックな嗜好の方になっちゃってるよ....。
「っグゥ...ングゥ!グルルッ、ヴゥ!!キュ~~....」
おっ、声の感じが変わってきた。
身体も俺の身体を押さえつける感じから、身体から力が抜けたのか持たれる形になる。
よしっ!このままヘロヘロにして、さっさと逃げて....。
「キュ~~~^、ガウッ!!!」
すると、力を緩めていた彼女が不意に強く噛む。
その瞬間、ペキッと乾いた音が身体を響いた。
あっ、折れた。
その瞬間、意識に間隙が出来る。
直後に燃えるように激痛が広がる。
「あっ、あぁあああああ!!痛ぇぇぇえええええ!!!!!」
あまりの痛さについさっきまでの可愛がりの体裁を崩して叫んでしまう。
すると、それが面白かったのかガジガジと執拗に腕を嚙み始める。
めちゃっ...くちゃ痛い!
「やめろオイ!このっ!撫でてたら調子に乗りやがって!!痛いでしょうが!!!折れてるんだよ!!?っがぁぁぁ!!これでも!?俺はアンタのおもちゃじゃないっつーの!!」
「フギュゥゥ、ガァッ♪ヴゥゥゥゥ!!!」
「腕が!!僕の腕がぁぁぁあ!!!王の力がぁぁああああ!!」
マジで腕取れるんじゃないかと錯覚するほどガジガジ齧られ、グイグイ引っ張られる。
グキッという音と共に、肩の方にも鋭い痛み。
肩まで外されたんですけど!
コイツ、人の腕プラモデルと勘違いしてるんじゃねぇの!?
そう思った瞬間、楽しそうに人の腕をおもちゃにしている少女の背後。
一人の女性の顔が見える。
この人って....。
「誰か知らないけど....有難う。こうして、私が起きるまでに時間を稼いでくれて。」
そこに立っているのはあの時壁にもたれて倒れていた目から血が出ていた女性。
俺に対して仏頂面でそう言うと、流れるような手つきで今俺を組み敷いている少女の口元に手を当てる。
そして何かを無理やり飲み込ませた。
「ふぐっ...むぐぅ....ヴゥゥ....」
何かを嚥下して、苦し気に表情を歪める彼女。
そして、段々と力なく瞼を閉じるとそのまま意識を失った。
....えーっと、これは....?
「...病院、行く?」
「えっ、...あぁ...はい。そうします。」
彼女はその少女を背負うと、手を差し出してくる。
えーと、その....なんだろう。
まず説明してくれませんかね?
あのっ、こちとら学園ラブコメのつもりでいたら明らかに目の前で世界観崩壊したんですけど。
滅茶苦茶しれっとしてるやん。
その手を取ると、彼女は俺を立ち上がらせてそのままこっちとか言って先を歩いて行く。
背後に背負われている少女は、寝息を立てているのか身体が動いている。
なんていうかこうして見ると、あの時の迫力なんか嘘のように普通の少女だった。
「....どうしたの?」
「...あの、説明して欲しいんですけど....。」
俺がそう言うと、その女性は少し考え込む。
そして、俺の腕を指さした。
「まずは病院行って処置を受けてからにしよう。それ放っておいたら明らかにダメな奴だろうし。」
腕を見ればかなりえげつない事になっていた。
ていうか動かせないし。
ただただ嫌になるくらい痛いしね。
「わ、分かりました。」
確かになんか不安になってきたわ。
ほら、こういう傷って早く処置受けないと壊死したりするんでしょ?
一刻も早く安心したいので、彼女の言う通りまず病院に行くことにした。
....これ、本当にラブコメの世界なのかな?
いや、でもエロゲって聞いてたしなぁ.....。
しかも沢山ヒロインが居るんでしょ?だったらそれ以外ない気がするけど....。
まぁ、そんなことよりも。
可能性を示して導く特典とか言ってる割に、まったく予想田にしてない事態になってるんですがそれは。
神様にまた会えるのであればクーリングオフしたい気分だった。
これ絶対表記間違いだろ。
渡すってレベルじゃねぇーぞ!!
神様に文句言いながらも、前を歩く彼女の後をついて行くのだった。
腕の代わりに、女の子の命と情緒が守られたからオッケーか!!