「ハジメでーす」
「ん、久しぶりのユエ」
「さて、前回はオルクス迷宮からの旅立ちだったな」
「零斗、擬態て使ったらどうなるの?」
「んー、そうだな……ウッドワスみたいになる」
「……カルデアにいる?」
「全身で展開して、さらに狼をモデルにしたらな」
「気を取り直して……今回から新章だ」
「ん、楽しんで」
「「「渓谷の残念ウサギ!」」」
渓谷の残念ウサギ
Side 零斗
魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に頬が緩む。
やがて光が収まり目を開け、視界に写ったものは……
洞窟だった。
「なんでやねん」
思わずハジメが関西弁でツッコミをする。
「秘密の通路なら隠すのは当たり前だろ」
「……隠すのが普通」
緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、ただ暗いだけなら問題としないので道なりに進むことにした。
途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。
「お、出口みたいだな」
「やっとですか……」
光の中へ飛び込んで──ついに、地上へと到達した。視界が開け、殺風景な峡谷が映り込む。地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。
【ライセン大峡谷】……と。
俺達はライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は
たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた。段々と顔がニヤけてるくる。無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。
「WRYYYYYYYY! 念願の外ダァァァ!」
「よっしゃぁああ──!! 戻ってきたぞ────!」
「んっ──!!」
「やっと陽の目を見れましたね……この太陽の暑ささえ懐かしいですね」
「そうですね……やはり日の元はいいですね」
小柄なユエを抱きしめたまま、ハジメはくるくると廻る。俺もエトを抱えて廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに
ようやく笑いが遅まる頃には、見渡す限り────魔物がいた。
「ハァ──ーもうちょい感動に浸られてくれよ……KYかよお前ら」
「ん、無粋なヤツら」
「そういや此処魔法使えない筈だよな?」
血狂いで寄ってきた魔物を細切れにし、試しにガンドを放つ。
「ほぉ……通常の10倍くらいか」
どうやら、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。
「じゃあ僕達がやるからユエは身を守る程度にしてね」
「うっ……でも」
「適材適所だよ。ここは魔法使いにとったら鬼門でしょ? 任せて」
「ん……わかった」
ユエが渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。少し矜持が傷ついたようだ。唇を尖らせて拗ねている。
そんなユエの様子に苦笑いしながらハジメはおもむろにドンナーを発砲した。相手の方を見もせずに、ごくごく自然な動作でスっと銃口を魔物の一体に向けると、これまた自然に引き金を引いたのだ。
「これならハジメ1人で大丈夫そうだな」
「そうみたいですね……ユエさん、此方へ服が少々着崩れていますよ」
「……どこ?」
「動かないでください」
魔物の殲滅をハジメに任せて、エトはユエの服を直す。オスカーはハジメの戦闘をじっと見ている。
「……」
「どうした?」
「いえ、あの動きとても人間業では無いなと思いまして」
「まぁ、2ヶ月間みっっっっちり鍛えたからな」
ハジメの蹂躙が始まった。頭や心臓部を吹き飛ばされて絶命した魔物、首を跳ね飛ばされて絶命した魔物などが辺り一面に転がりあらゆる場所に血が付着している。恐怖でそこから動けるものはおらず、一匹残らず殲滅された。
「……やっぱ迷宮の魔物と比べると弱いみたいだな」
「うん、大分ね」
奈落の魔物が強すぎたのだろう。今のハジメ多分軽く叩くだけで殺れそう。
「この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると場所だし。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか」
「……どうして、樹海側?」
「え? いきなり砂漠横断したいか?」
「「よし! 樹海側に行こう!」」
ハジメは、右手の中指にはまっている〝宝物庫〟に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪:シュタイフを取り出す。颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。
え? 俺のは無いのかって? あるに決まってるじゃないか。着ているローブの内ポケットからライターの様な物を取り出す。
「一服するつもりですか?」
「違ぇよ」
蓋を開き、ライターでいうヤスリ部分を回す。すると凄まじい機械音と共にバイクへと変化する。モデルはYAMAHA V-MAXだ。ゴーストライダーいいよな、かっこよくて。
「サイドカー付けるか」
「相変わらずのオーバーテクノロジーですね……」
ハジメとともに樹海の方向へ向けて発進する。絶壁に駆動音が反響した。やはりこう言うのはいいものだ。
ライセン大峡谷はシンプルな作りをしていて、東西に向かってまっすぐ道が伸びている。そのため特に脇道などもなく、ひたすら直進する。
「ん? 前の方何か居ないか?」
しばらく走っていると向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。
だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。
「……何だあれ?」
「……兎人族?」
「なんでこんなとこに? 兎人族って樹海が住処だったよな?」
「処刑?」
「あんなに弱そうなのに?」
「……やっぱり無しで」
首を傾げ、逃げ惑うウサミミ少女を見ながら少しお喋りを興じた。あのウサミミ少女が何をやっているのか考察していたが、よくわからなかった。
「どうする?」
「……助けよう」
「りょー」
そんな呑気な俺達をウサミミ少女の方が発見したらしい。双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のままハジメ達を凝視している。
そして、再び双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した。……俺達の方へ。
それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊し此方に届く。
「やっどみずげまじだー! だずげでぐだざ~い! ひっ──、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」
双頭ティラノが、ウサミミ少女に追いつき、片方の頭がガパッと顎門を開く。ウサミミ少女はその気配にチラリと後ろを見て目前に鋭い無数の牙が迫っているのを認識し、「ああ、ここで終わりなのかな……」とその瞳に絶望を写した。
「ハァ──めんど」ドパァン!
エルガーで双頭ティラノの頭を吹き飛ばす。運良く跳弾で両方の頭を潰せた。
「う、嘘! "ダイヘドア"が一撃で!?」
へぇ……そんな名前だったのかコイツ。驚いた様子のウサミミ少女。すぐさま此方へ振り向く。
「ありがとうございます!」
「気にしなくていいぞ……んじゃそう言う事で」
「ええ!? ちょっと待ってください!」
「あ、急いでるんで」
これ以上関わったらもっと面倒事になりそうだから、さっさと別れたい。
「いいんですか!? あなたにも善意の心はありますでしょう! いたいけな美少女を見捨てて良心は痛まないんですか!」
「え? 善意の心なんて無いよ?」
「え?」
進行の邪魔だったから殺っただけで俺は別に助けようとは思ってないんだけど?
「と、とりあえず! 話だけでも!」
「ハジメー行こうぜー」
バイクのエンジンを掛け直して、その場を去ろうとする。
「逃がすかァ!」
「HA☆NA☆SE! この駄ウサギ! 服が汚れる!」
「そんなに汚くないですー!」
「涙と鼻水でグシャグシャの顔で言われても説得力ゼロだ! つーか……いい加減離れろ!」
「ッイダダダダダダ!」
ウサミミ少女をアイアンクローで引き剥がす。再度バイクのエンジンを掛けてその場から逃げ出そうとする。
「に、逃すかぁ!」
「オイ、テメェ! 離しやがれ! 服が汚れるだろうが!」
再び腰にしがみつくウサミミ少女。やはり、なかなかの打たれ強さだ。
「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」
そして、なかなかに図太かった。
一難去ってまた一難……てか?
もうやだ!!! おうちかえる!!!!!
零斗くんのカルデアにはウッドワスさんがいます。なんならケルヌンノスとかアグラヴェインさんとか……色々います。本編に出す予定は無いです(無常)
感想お待ちしております。