「ハジメです」
「初めまして!シア・ハウリアと言います!よろしくお願いします!」
「前回はそこの駄ウサギが俺の服を汚したな」
「めっちゃ汚い」
「ぅぅぅぅ……酷いです!こんな幼気な少女を虐めるなんて!」
「お前が悪い」
「……君が悪い」
「酷いですぅ……」
「さて、駄ウサギはほっといて……今回はこいつの事情だ」
「「「シア・ハウリアの事情!」」」
Side 零斗
「私の家族も助けて下さい!」
峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。どうやら、このウサギ一人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ……だが
「断る!」
「どうしてですか!」
「面倒だからだ!」
「とりあえず話だけでも!」
あまりに必死に懇願するので、仕方なく……"纏雷"をしてやった。
「アババババババババババアバババ!?」
電圧と電流は調整してあるので死にはしないが、しばらく動けなくなるくらいの威力はある。シアのウサミミがピンッと立ちウサ毛がゾワッと逆だっている。"纏雷"を解除してやると、ビクンッビクンッと痙攣しながらズルズルと崩れ落ちた。
「よし行くぞ」
「……いいの?」
「これ以上の面倒事はゴメンなんでな」
バイクに跨りエンジン入れ直す。これ以上の面倒事は嫌なんでさっさとこの場を離れたい。
「に、にがじませんよ~」
ゾンビの如く起き上がり脚にしがみつく駄ウサギ。こいつ頑丈過ぎるだろ……
「お前、ゾンビみたいな奴だな。加減しているとはいえ、それなりに威力出したんだが……何で動けるんだよ? つーか、ちょっと怖ぇよ」
「ちょっと気味が悪いよ……」
「……不気味」
「うぅ~何ですか! その物言いは! さっきから、ゲンコツとか電撃とか、ちょっと酷すぎると思います! 断固抗議しますよ! お詫びに家族を助けて下さい!」
ぷんすかと怒りながら、さらりと要求を突きつける。案外余裕そうである。このまま引き摺っていこうかとも考えたのだが、何か執念で何処までもしがみついてきそうだと思い直す。血まみれで引きずられたまま決して離さないウサミミ少女……完全にホラーである。
「ったく……わーたよ、話ぐらいなら聞いてやる。ってさり気なく俺のローブで顔を拭くな!」
話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったシアは、これまたさり気なく俺のローブで汚れた顔を綺麗に拭った。本当にいい性格をしている。イラッと来たので力を軽く込めたデコピンを食らわせると「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲った。
「ま、また殴りましたね! 父様にも殴られたことないのに! よく私のような美少女を、そうポンポンと……もしや殿方同士の恋愛にご興味が……だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したんですね! そうでッあふんッ!?」
なにやら不穏当な発言が聞こえたので
「誰がホモだ、テメェふざけてんのか? っていうか何でそのネタ知ってんだよ。どっから仕入れてくるんだ? まぁ、それは取り敢えず置いておくとして、テメェの誘惑だがギャグだが知らんが、誘いに乗らないのは、テメェより遥かにレベルの高い美少女がすぐ隣にいるからだ」
「んな?!」
不意に美少女と言われ顔を真っ赤にするエト。そんな驚く事か? 髪質はやや硬質だがハリやツヤはしっかりとしていて、太陽の光に反射してキラキラと輝き、人形の様に整った容姿が今は照れ赤く染まっていて、見た者を例外なく虜にする魅力を放っている。
格好も、戦闘した時のローブとは違い。黒のロングコートにブラウス、紺のデニムパンツといった、装いになっている。
ちなみに俺とユエを除く全員の服装が変わっている。ハジメは黒に赤のラインが入ったコートと下に同じように黒と赤で構成された衣服を纏っている。オスカーはローブから黒スーツに変わっている。
そんな可憐なエトを見て、「うっ」と僅かに怯むシア。しかし、多少の身内補正が掛かっていることもあり、二人の容姿に関しては主観的要素が入り込んでいる。つまり、客観的に見ればシアも負けず劣らずの美少女ということだ。
少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。ケモナー達が見れば感動して思わず滂沱の涙を流すに違いない。
何より……エトにはないものがある。そう、シアは大変なブツの持ち主だった。ボロボロの布切れのような物を纏っているだけなので殊更強調されてしまっている
要するに、コイツが自分の容姿やスタイルに自信を持っていても何らおかしくはない。
「で、でも! 胸なら私が勝ってます! そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」
「……コイツ見事に地雷踏み抜きやがった」
そう、エトはひんぬーの事を気にしているのだ。峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊する。恥ずかしげに顔を真っ赤にして硬直していたエトが前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。
「俺しーらね」
「え?」
「シアさん……この世にはね言ってはいけない事が有るんです」
「え? え?」
「……ご愁傷様」
ちなみにエトは着痩せするのでそれなりにある。断じてライセン大峡谷の様な絶壁ではない。決して絶壁では無い。
──小便はすませたか?
──ふぇ?
──神様にお祈りは?
──あの……えっと……
──渓谷の隅でガタガタふるえて命乞いする心の準備はOK?
──謝ったら許してくれたり?
──さあ行くぞ歌い踊れ駄ウサギ! 豚のような悲鳴を上げろ!
──死にたくなぁい! 死にたくなぁい!
「ふん!」
「アッ──────!」
見事なハンター投げフォームでシアを投げ飛ばすエト。相当ショックだったのだろう。
「おお〜よく飛ぶな」
「凄い綺麗なフォームだったね」
シアの悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ! という音と共に眼前に墜落した。
まるで犬神家のあの人のように頭部を地面に埋もれさせビクンッビクンッと痙攣している。完全にギャグだった。その神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念な少女である。ただでさえボロボロの衣服? が更にダメージを受けて、もはやただのゴミのようだ。
「……」ソッ
色々と見えてはいけない物が顕になってしまっていたので布を掛けて放置する。
エトはため息をつきながら頭を押さえる。トコトコと二輪に腰掛けるこちらをジッと見つめる。
「零斗……おっきい方が好きですか?」
……返答に困る質問だな、おい。「YES!」と答えれば恐らくそこの駄ウサギとお馴染み様に犬神家と化すだろうし、「NO!」と答えれば嘘に聞こえるだろうし……勘弁してくれよ。
「……大きさよりも相手が誰か、それが一番重要だな」
取り敢えずYESともNOとも答えず、ふわっとした回答を選択する。これなら傷つけずに済む……よな?
「そうですか……よかったです」
満足気に後席に腰掛けた。よかったー、最後に何か気になる事が聞こえたがきっと空耳だろう……そうであってくれ。
「フヌゥゥゥ!」
痙攣していたシアの両手がガッと地面を掴み、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしている姿を捉え、これ幸いにとシアに注意を向け話のタネにする。
「おいおい……まだ動けるのかよ」
「まるでゾンビみたいですね……頑丈とかそう言うレベルを超えている気がします……」
ズボッという音と共にシアが泥だらけの顔を抜き出した。
「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに……」
涙目で、しょぼしょぼとボロ布を直すシアは、意味不明なことを言いながらハジメの下へ這い寄って来た。既にホラーだった。
「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃねぇぞ……何者だ? お前」
ようやく本題に入れると居住まいを正すシア。バイクの座席に腰掛ける俺達の前で座り込み真面目な表情を作った。もう既に色々遅いが……
「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」
語り始めたシアの話を要約するとこうだ。
シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。
そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。
故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。
行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。
しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。
女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々平和な兎人族と訓練された帝国兵では比較もできない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕まっていた。
全滅を回避するため必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。どうしようか悩んでいた時、シアが逃げ道を一人で探し始めた。
「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、シアは、俺達と同じ、この世界の例外というヤツらしい。ユエと同じ、先祖返りだろうな。
「……報酬は?」
「え?」
「だから、報酬は? 君は一体何を対価として出せる?」
「ちょ! 零斗!?」
「……全て」
「シア……さん?」
「ほぅ?」
「私の渡せる全てです……体も心」
「ククク……アッハッハッハッハッ!」
「ちょっ……私これでも真面目に言いましたよ!?」
「気にしなくて結構ですよシアさん……この人試しただけですから」
そう、単に試したかっただけだ……家族、友人を本心から助けたいのかどうかを知りたかっただけだ。
「中々いい覚悟だった……そうだな、報酬は樹海の案内で頼む」
「えっと……分かりました」
「んじゃ、お前の言う家族の場所までの道案内頼むわ……ハジメ、お前の後ろに乗せてやれ」
「分かった……シアさん掴まっててね」
「は、はい」ギュ
零斗くんは基本は女性には優しいです。(身内と仲間に限る)それ以外で面倒事を運んでくる女性には基本雑です。
感想お待ちしております。