ありふれた黒幕で世界最凶   作:96 reito

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「よいしょと、ハイ_( ┐ノε:)ノお馴染みの零斗さんでーす」
「シアです!」
「アルテナです」

「さて、前回は長老達との飲みニケーションと2人の決意表明だったな」
「内心ドキドキでしたよぉ……断られたとしても無理やりにでも付いて行きますけどね」
「私も同じ心構えです」
「へぇへぇ、そうですか」

「今回は2人の訓練だ」
「「楽しんでいってください!」」

「「「2人の訓練!」」」


2人の訓練

 Side 零斗

 

「零斗殿! 私達を強くしてください!」

「は?」

 

 ハウリア族の処刑に関してだが俺の奴隷として扱う事になったので解決して、これからどうしようかと思案していた時にカムがそんな事を言い出した。

 

「いや、何故?」

「私達は弱くそれを理由に逃げていました。あと少しで大事な娘がいなくなるところでした。そんな思いはもうしたくないのです! お願いします! どうか私達を強くしていただけませんか!!」

 

 カムが地面に頭を擦り付けて懇願してくる。鍛えるのは別にいいんだが……アルテナとシアの方も見なきゃだからなぁ……ハジメとエトに任せるか。

 

「ハジメ、エト。カム達の訓練任せていいか?」

「私は構いませんが……ハジメ君、貴方は?」

「自信はないけどやってみるよ」

「ありがとうございます!」

 

 よし、話は纏まったな……シアとアルテナ用の訓練のメニュー考えないとな。

 

「本格的な訓練は明日「少し待ってくれ!」ん?」

「私達もその訓練に参加させてくれないか?」

「ジンか……大丈夫か?」

「大丈夫です」

 

 エトの了承も取り、熊の亜人達も訓練に参加する事になった。

 

 ─────────10日後──────────

 

 ハジメとエトにカム達の訓練を任せて、俺はアルテナとシアの訓練に取り掛かっている。一応ハジメ達とは離れた所で訓練をしている。今日で10日が経ったがいい仕上がりになってきた。今は2on1で訓練している。俺はハンデとして視界と聴覚を塞いでいる。

 

 ズガンッ! バキッバキッバキッ! ドッシャ! ヒュン! 

 

 樹海の中、凄まじい破壊音と風を切るような音が響く。野太い樹が幾本も半ばから折られ、地面には隕石でも落下したかのようなクレーターがあちこちに出来上がっており、矢もあちらこちらに刺さっている。更には炭化した丸太やズタズタになっている丸太が点在している。

 

 この多大な自然破壊はたった二人の女の子によってもたらされた。そして、その破壊活動は現在進行形で続いている。

 

「でぇやぁああ!!」

 

 裂帛の気合とともに撃ち出されたのは直径一メートル程の樹だ。半ばから折られたそれは豪速を以て目標へと飛翔する。確かな質量と速度が、唯の樹に凶悪な破壊力を与え、道中の障害を尽く破壊しながら目標を撃破せんと突き進む。

 

「温い!」バキィ! 

 

 真正面から投擲された丸太を両断し、シアを仕留める為に踏み込む。

 

「そこです!」ヒュパン! 

「!?」

 

 踏み込もうとした時にアルテナによる援護が入り、足を止めるハメになった。

 

「そこですぅ!」ドパァン! 

「チッ!」ガキィン! 

 

 シアに貸し出したショットガンによる追撃と霧を利用した撹乱でシアとアルテナを見失った。

 

「……先ずは1人!」バシッ! 

 ドサ……「な!?」

 

 アルテナは直ぐに見つける事が出来たので縛り上げたがシアの気配だけが掴めずにいた。

 

「もらいましたぁ!」

「ッ!」

 

 その時には既に影が背後に回り込んでいた。即席の散弾を放った後、見事な気配断ちにより再び霧に紛れ奇襲を仕掛けたのだ。大きく振りかぶられたその手には超重量級の大槌が握られており、刹那、豪風を伴って振り下ろされた。

 

「ま、読めてるけどな」ゴキン! 

「ぶっつぶれよ!」ギギギギ……

「グッ……ラァ!」

 

 大槌の一撃により激烈な衝撃が大地を襲い爆ぜさせる。砕かれた石が衝撃で散弾となり四方八方に飛び散った。

 

「とったァ!」

「ふぎぅ!?」

 

 シアを捕え、ジャーマンスープレックスを喰らわせる。ふぅースッとしたぜぇ。

 

 ズボッ「うぅ~、そんな~、って、それ! 零斗さんの服! 破れてます! 私の攻撃当たってますよ! あはは~、やりましたぁ! 私達の勝ちですぅ!」

「マジ? 当たってたか……て事は合格だな」

「「やったぁ──!」」

 

 運動用の服の一部が破けていた。おそらく最後の石の礫が一つが掠ったんだろうな。本当に僅かな傷ではあるが、一本は一本だ。シア達の勝利である。シアは俺が埋めたせいで泥だらけだが満面の笑みである。アルテナも大喜びし、シアに抱き着いている。

 

「んじゃ、ハジメ達の方に行くか」

「そういえば今日が期日でしたね」

 

 そろそろ、ハジメのハウリア族への訓練も終わる頃だろう。ハジメ達がいるであろう場所へ向かう。

 

 

 ────────────────────────

 

「確かこの辺りに……お、いたいた。おーい、ハジメー」

「あ、零斗! 訓練はどうだった?」

「ハジメさん! ハジメさん! 聞いて下さい! 私、遂に零斗さんに勝ちましたよ! 大勝利ですよ! いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを! 負けたと知った時の零斗さんたらも(ゴチン!)へぶっ!?」

「調子に乗るなよ? 駄ウサギ……上々だ。視界と聴覚を塞いだ状態の俺の服の一部を裂いた」

「……え?」

 

 驚愕した様子でシアとアルテナを見る。

 

「そんなに驚く事ですか?」

「アルテナさん、僕でも一撃与えるのに2週間は掛かったんだよ? それを10日で……もう、バケモノの域だよ」

 

 ハイライトの消えた目で語るハジメ。しゃーないじゃん、強化細胞を慣らすのと能力制御を短期間で会得するにはハードトレーニングにしないと間に合わないんだもん。

 

「正直な所、シアの身体能力強化の度合いがヤバい」

「どのくらい?」

「素の状態のエトの1割で、強化なしのお前の3割くらい」

「……エッグ」

 

 強化細胞の適正も一応はあり、鏡花のL-Ⅱ型と相性が良いみたいだ。移植は本人の意思でやるつもりだ。

 

「アルテナは……強いて言うなら目が良いな。霧の中からでも確実に俺を認識して、矢を放ってくるし、気配の消し方もずば抜けてる。魔法は支援特化ではあるが上級魔法も使えるからそこそこの戦力になるだろうな」

 

 アルテナは魔法による支援とスナイパーライフルでの援護射撃がメインになるだろうが後衛が増えるのは大分嬉しいな。

 

「ハジメ、シアとアルテナが旅に同行する事に異議は無いか?」

「……無いけど、そこまでして付いて来たい理由が分からないだけど?」

 

 チラッとシア達の方に視線を向けるハジメ。シアとアルテナはもじもじとして、理由を言い淀んでいる。

 

「で、ですからぁ、それは、そのぉ……」

「な、なんと言いますか……」

「はよ、言えお転婆共」ドンッ

「「キャ!」」

 

 軽く背を押し、2人を前に立たせる。それでもまだ、モジモジしたまま中々答えないシア達にいい加減我慢の限界なので、ホルスターに手を掛ける。それを察したのかどうかは分からないが、シアが女は度胸! と言わんばかりに声を張り上げた。思いの丈を乗せて。

 

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ! しゅきなのでぇ!」

「貴方を心の底から慕っているからです!」

「……え?」

 

 噛んじゃった! と、あわあわしているシアと顔を真っ赤にして声にならない悲鳴を上げるアルテナ。うーん初々しいねぇ。ハジメは豆鉄砲を喰らったようなポカンとしている。

 

「えっと……どうして?」

「……私は正直、一目惚れでした。凛々しいお姿に、細やかな気遣いに、シアさん達を庇った時の行動力……挙げればキリがない程です。私は全てを捧げて貴方に尽くしたいと思ったのです!」

 

 アルテナは自分の心の内をされけ出して一世一代の告白をした。甘いねぇ、ブラックコーヒーが欲しい。

 

「状況が全く関係ないとは言いません。窮地を何度も救われて、同じ体質で……長老方に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし……ただ、状況が関係あろうとなかろうと、もうそういう気持ちを持ってしまったんだから仕方ないじゃないですか。ハジメさんの真っ直ぐな姿勢、ハッキリとした言動、私達一族を救ってくれた時の威勢……貴方の行動全てに恋をしました」

 

 ……ねぇ、俺此処に居ていいのかな? 一応は樹の陰に退避したけどさ? さっきから砂糖吐きそうなんだけど。

 

「……付いて来たとしても応えてあげられませんよ?」

「知らないんですか? 未来は絶対じゃあないんですよ?」

 

 それは、未来を垣間見れるシアだからこその言葉。未来は覚悟と行動で変えられると信じている。

 

 

「危険だらけの旅だ」

「それでも問題ありません。化け物と呼ばれて事があって良かったです。御蔭で貴方について行けます」

 

 影で言われた蔑称。しかし、今はむしろ誇りだ。化物でなければ為すことのできない事があると知ったから。

 

「僕達の望みは故郷に帰ることです。もう家族とは会えないかもしれないですよ?」

「話し合いました。〝それでも〟です。父様達もわかってくれました」

「私もフェアベルゲンに未練はありません。貴方のいる場所が私の居場所ですから」

 

 今まで、ずっと守ってくれた家族。感謝の念しかない。何処までも一緒に生きてくれた家族に、気持ちを打ち明けて微笑まれたときの感情はきっと一生言葉にできないだろう。

 

「僕の故郷は、君達には住み難いところです」

「「何度でも言います。"それでも"です。父様達もわかってくれました」」

 

 シアとアルテナの想いは既に示した。そんな〝言葉〟では止まらない。止められない。これはそういう類の気持ちなのだ。

 

「……」

「ふふ、終わりですか? なら、私の勝ちですね?」

「勝ちってなんだよ……」

「私達の気持ちが勝ったという事ですよ。……ハジメさん」

「……何だ」

 

 もう一度、はっきりと。シア・ハウリアの……アルテナ・ハイピストの望みを。

 

「「……私も連れて行って下さい」」

 

 見つめ合うハジメとシア。ハジメは真意を確認するように蒼穹の瞳を覗き込む。

 

 そして……

 

「………………お好きどうぞ。歓迎しますよLady(お嬢さん)?」

 

 




あけましておめでとうございます。本年度もよろしくお願い致します。

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