「ハジメです」
「エトです」
「さて、前回は大樹の秘密だったな」
「攻略は当分先ですね……」
「地道にやるしか無いよねぇ……大変だなぁ」
「今回は町の探索だ……楽しんでくれ」
「「「ブルックの町にて!」」」
Side 零斗
この町の名前はブルックというらしい。町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。俺らが先ずやる事は……素材の売却からだな。
「ギルドは……こちらですね」
「あ、あの零斗さん」
「どうしましたか?」
「その……口調がいつもと違う様ですが?」
そういや、こっちの状態は初めてか。
「まぁ、演技みたいなものですよ」
「そ、そうですか。違和感が凄いですぅ」
「それともう1つ……その首輪ですが、念話石と特定石が組み込んであるので、必要なら使ってください。直接魔力を注いでやれば使えますから」
「念話石と特定石ですか?」
念話石とは、文字通り念話ができる鉱物のことだ。ハジメの生成魔法により"念話"を鉱石に付与しており、込めた魔力量に比例して遠方と念話が可能になる。もっとも、現段階では特定の念話石のみと通話ということはできないので、範囲内にいる所持者全員が受信してしまい内緒話には向かない。
特定石は、生成魔法により"気配感知[+特定感知]"を付与したものだ。特定感知を使うと、多くの気配の中から特定の気配だけ色濃く捉えて他の気配と識別しやすくなる。それを利用して、魔力を流し込むことでビーコンのような役割を果たすことが出来るようにしたのだ。ビーコンの強さは注ぎ込まれた魔力量に比例する。
「ちなみに、その首輪なんだけど、一定量の魔力を注ぐ事で外す事は出来るからね」
「なるほどぉ~、つまりこれは……いつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいというハジメさんの気持ちというわけですね? もうっ、そんなに私の事が好きなんですかぁ? 流石にぃ、ちょっと気持ちが重いっていうかぁ、あっ、でも別に嫌ってわけじゃなくッバベルンッ!?」
「……調子にのるな」
「ぐすっ、ずみまぜん」
調子に乗って話をするシアの頬に、ユエの右ストレートが突き刺さる。可愛げの欠片もない悲鳴を上げて倒れるシア。
「バカやってないで、ギルドに行きますよ」
「うぅ〜扱いが酷いですぅ……」
メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。ホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。
「ここみたいだね……」
「ハジメ、緊張しているんですか?」
「べ、別にぃ?」
声を上ずらせながら話すハジメ……説得力皆無なんだよなぁ。
ギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない6人組(オスカーは霊体化中)ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線が此方に向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られて吹き飛ぶ者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。
テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったが、意外に理性的で観察するに留めているようだ。
カウンターには大変魅力的な……笑顔を浮かべたオバチャンがいた。横幅がユエ二人分くらいはある。どうやら美人の受付というのは幻想のようだ。期待はしていなかったが……少々残念ではある。
「そっちの坊やは、両手に花を持っているのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」
「そんなこと思ってないですよ?」
平然を装って返答するハジメ……額には汗がうっすらと滲んでいる。このオバチャンは読心術の固有魔法を!? ……ハジメがわかり易すぎるだけだな。
「そっちの坊やは……妙な格好だね。大方顔には古傷でもあるんじゃないかい?」
「ええ……その通りです」
随分と観察力のあるオバチャンだな。周りの連中は「アイツら怒られてねぇ、珍し」と零している。俺らが珍しいんじゃないの……君らが馬鹿なだけさ。
「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」
「ああ、素材の買取をお願いします」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「どうぞ」
ステータスプレートを受け取ったオバチャンは少し驚いた様な表情をする。
「あんたら冒険者じゃなかったのかい?」
「えぇ、ただの旅人でしたからね」
「そうかい、そうかい……登録しとくかい? 登録には千ルタ必要だよ」
ルタとは、トータスの北大陸共通の通貨で、"ザガルタ鉱石"という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜる事で異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われる。貨幣価値は日本と同じなため、青が一円、赤が五円、黄が十円、紫が五十円、緑が百円、白が五百円、黒が千円、銀が五千円、金が一万円となっている。
「生憎、今は持ち合わせがないものでして……買い取った分から差し引いてください」
「アンタらねぇ……可愛い子4人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」
オバチャンがイケメンすぎる……有り難く厚意を受け取っておくことにした。
戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。
青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じである。冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのである。つまり、青色の冒険者とは『テメェにゃ1ルタの価値もねぇんだよ、ゴミ』て事らしい……この制度を作った初代ギルドマスターの性格は性格がひん曲がってる野郎に違ぇねぇ。
「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪いところ見せないようにね」
「ええ、そう成れるように善処しますよ。それと、買い取りはここでいいのですか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」
オバチャンは受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。予め亜空間収納から出してバックに入れ替えておいた素材を取り出す。品目は、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする。
「こ、これは!」
恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、ようやく顔を上げたオバチャンは、溜息を吐きおに視線を転じた。
「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」
「ええ、そうです……やはり珍しいですか?」
「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」
オバチャンはチラリとシアとアルテナを見る。おそらく、シア達の協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出しても、シア達のおかげで不審にまでは思われなかったようだ。
それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は九十六万八千ルタ。
「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね」
「いえ、この額で構いません」
これで暫くはお金で困る事は無いだろう……どっかの誰かさんが食材を無駄遣いしなければの話だがな! (シアとアルテナの訓練期間中に料理を任せたら、亜空間収納内の食材の3割が消えた)あの2人に食材の管理を任せてはいけない(使命感)
「っと、そうだ。門番から、ここなら町の簡易な地図を貰えると聞いたのですが……」
「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」
手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。
「こんなに立派な地図が無料なんて……この仕上がりなら普通に販売してもいいのでは?」
「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」
オバチャンの優秀さがやばかった。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの? とツッコミを入れたくなるレベルだ。きっと壮絶なドラマがあるに違いない。
「ありがとうございます」
「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」
「そうなったら……ね?」
オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。先程からエト達に無遠慮な視線を向けてくるバカ共を威圧で牽制する。視線を向けていた連中は顔を青くしながらそっぽを向く。それこら入口に向かって踵を返す。エト達も頭を下げて追従する。学びもしない冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までエト達を目で追っていた。
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俺達は……もうガイドブックでいいか。ガイドブックで〝マサカの宿〟という宿屋に向かっている。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。
どうやら宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をしていた。俺達が入ると、もはや約束のように視線が集まる。それらを無視して、カウンターに行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊です。こちらの地図を見て来たのですが、記載されている通りですね?」
オバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
……あのオバチャン、キャサリンて名前だったんや。
「1泊でお願いします。食事付きで、お風呂もお願いします」
「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」
女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして……
「二時間でお願いします」
「えっ、二時間も!?」
日本人たる俺としては譲れません!
「もしダメでしたら、大丈夫です」
流石に無理にとは言わないが、出来ればその位は欲しい……
「は、はい、問題ないです……そ、そのオプションもありますけどどうしますか? マットとかちょっと変わった形の椅子とか!」
「あ、結構です」
つーかなんであんの!? 普通に怖ぇよ! しかも隣にいるエトはちょっと残念そうにしてるしよ……使いたいたかったの?
「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 三人部屋と四人部屋が空いてますが……」
好奇心が含まれた目で見てくる女の子。そういうのが気になるお年頃なのだろう。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいね。
「三人部屋二つでお願いします」
ハジメの貞操を守るために主にユエから離さないといけない……まぁ、ハジメがいいのなら別に構わんがな。
部屋割り的には俺、ハジメ、エトで一部屋、ユエ、シア、アルテナで一部屋だ。
「……ダメ。二人部屋と四人部屋で」
コイツ!? やりやがった! しかももう部屋の料金払いやがった!
「私とハジメで一部屋、零斗とエト、シア、アルテナで一部屋」
「ちょっ、何でですか!」
「私達だけ仲間はずれとか嫌です! 四人部屋でいいじゃないですか!」
猛然と抗議するシアとアルテナに、ユエはさらりと言ってのけた。
「……シア達がいると気が散る」
「気が散るって……何かするつもりなんですか?」
「……何って……ナニ?」
「ぶっ!? 公衆の面前で何言ってるんですか?! お下品ですよ!」
ユエの言葉に、絶望の表情を浮かべた男連中が、次第にハジメに対して嫉妬の炎が宿った眼を向け始める。宿の女の子は既に顔を赤くしてチラチラとハジメとユエを交互に見ていた。ハジメが、これ以上羞恥心を刺激され顔を真っ赤にしている……初心だねぇ。そろそろ収拾がつかなくなって来そうなので止めようと前にでる。
「だ、だったら、ユエさんこそ別室に行って下さい! ハジメさんと私で一部屋です!」
「……ほぅ、それで?」
「ず、狡いですよ、シアさん!」
指先を突きつけてくるシアに、冷気を漂わせた眼光で睨みつけるユエ。あまりの迫力に、シアはプルプルと震えだすが、「ええい、女は度胸!」と言わんばかりにキッと睨み返すと大声で宣言した。
「そ、それで、ハジメさんに私の処女を貰ってもらいますぅ!」
「ブッ!? し、シアさん!?」
顔をりんごやさくらんぼもびっくりなくらい真っ赤させるハジメ……面白くなりそうだな。
「……今日がお前の命日」
「うっ、ま、負けません! 今日こそユエさんを倒して準ヒロインの座を奪ってみせますぅ!」
ユエから尋常でないプレッシャーが迸り、震えながらもシアが背中に背負った大槌に手をかける。
「いい加減にしなさい……これ以上騒ぐ様でしたら、貴方達だけ野宿させますからね?」
「「ハ、ハイ!」」
面白くなりそうとは思ったが、宿を破壊しそうな雰囲気になって来たので黙らせる。
「とりあえず私とハジメで一部屋、エト達が四人部屋と言うことにしましょうか」
「「「え?」」」
「何か文句でも?」
「「「あ、ありません!」」」
もう面倒なので俺とハジメで二人部屋を使う事にした。
「すみませんね、騒がせてしまって」
「……お風呂を二時間も使うのはそういうこと!? お互いの体で洗い合ったりするんだわ! それから……あ、あんなことやこんなことを……なんてアブノーマルなっ!」ブツブツ
……女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。
急な展開に呆然としている客達を尻目に、三階の部屋に逃げるように向かった。部屋に入り、武器のメンテを始める。
男2人……密室……何も起こらない筈も無く……(この後、めちゃくちゃゲームした)