「オスカー・オルクスだ」
「アルテナです」
「前回はライセン大迷宮を発見したのよ零斗とはぐれたね」
「これで2度目の転移ですね」
「今回は迷宮の攻略に入っていくよ……楽しんでね!」
「「「攻略開始!」」」
Side ハジメ
目の前で零斗が転移される。手を伸ばしたが届かず空を切る。
「また、はぐれちゃった……どうしよ」
「攻略しか無いじゃないですか? 迷宮の何処かで会えるかもしれませんし!」
「そ、そうだね(押しが強いなぁ……)」
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ライセン大迷宮は想像以上になかなか厄介な場所だった。まず、魔法がまともに使えない。谷底より遥かに強力な分解作用が働いているため、魔法特化のユエにとっては相当負担のかかる場所で、上級以上の魔法は使用できず、中級以下でも射程が極端に短い。五メートルも効果を出せれば御の字という状況だ。何とか、瞬間的に魔力を高めれば実戦でも使えるレベルではあるが、今までのように強力な魔法で一撃とは行かなくなった。
魔晶石シリーズに蓄えた魔力の減りも馬鹿にできないので、考えて使わなければならない。それだけ消費が激しいのだ。魔法に関しては天才的なユエだからこそ中級魔法が放てるのであって、大抵の者は役立たずになってしまうだろう。
僕にとっても多大な影響が出ている。〝空力〟や〝風爪〟といった体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使用不可となっており、頼みの〝纏雷〟もその出力が大幅に下がってしまっていて、ドンナー・シュラークは、その威力が半分以下に落ちているし、シュラーゲンも通常のドンナー・シュラークの最大威力レベルしかない。
よって、この大迷宮では身体強化が何より重要になってくる。僕達の中では、まさにシアさんやエトさんの独壇場となる領域なのだ。
頼みの綱のシアさんは……
「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」
大槌ドリュッケンを担ぎ、据わった目で獲物を探すように周囲を見渡していた。明らかにキレている。それはもう深く深~くキレている。言葉のイントネーションも所々おかしいことになっている。その理由は、ミレディ・ライセンの意地の悪さを考えれば容易に想像がつく……僕もちょっとだけイラついてる。
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シアが最初のウザイ石板を破壊し尽くしたあと、僕達は道なりに通路を進み、とある広大な空間に出た。
そこは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所だった。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったり、本当にめちゃくちゃだった。
「ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だね」
「……ん、迷いそう」
「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」
「……気持ちは分かるから、そろそろ落ち着いてね?」
未だ怒り心頭のシア。宥めようと努力はしてるけどあまり効果が無い……どうやって進もうかな?
「……ハジメ。考えても仕方ない」
「そうだね、とりあえずはマッピングとマーキングしながら進んでみようか」
「……ん」
迷宮探索でのマッピングは基本だ。でもこんな複雑な迷宮をどれだけ正確にマッピング出来るが鬼門になるね……ん?
「……マーキングもマーキングも意味無さそうだね」
「え? どういう事ですか?」
「最初の部屋の位置がちょっとだけ変わったんだ……もしかしたら迷宮自体がランダムで動いてるかもしれない」
最初の部屋にアンカーを設置していたが、その場所がズレているから部屋自体が移動したのだろう……大変そうだなぁ。
「とりあえずは進もうか……何か攻略のヒントがあるかもだしね」
早速、一番近い場所にある右脇の通路に進んでみることにした。
通路は幅二メートル程で、レンガ造りの建築物のように無数のブロックが組み合わさって出来ていた。やはり壁そのものが薄ら発光しているので視界には困らない。緑光石とは異なる鉱物のようで薄青い光を放っている。
試しに〝鉱物系鑑定〟を使ってみると、〝リン鉱石〟と出た。どうやら空気と触れることで発光する性質をもっているようだ。最初の部屋は、おそらく何かの処置をすることで最初は発光しないようにしてあったのだろう。なんだろう……ラピュ〇感満載なんだけど……飛行〇の洞窟てこんな感じだったなぁ。
ガコンッ「え?」
音を響かせて僕の足が床のブロックの一つを踏み抜いた。そのブロックだけ僕の体重により沈んでいる。
次の瞬間、シャァアアア、と刃が滑るような音を響かせて、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する巨大な丸ノコみたいな刃が飛び出してきた。右の壁は首の高さ、左の壁は腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。
「回避してっ!」
エトさんの叫びに反応して、マトリッ○スの某主人公のように後ろに倒れ込みながら二本の凶悪な刃を回避する。ユエは元々背が小さいのでしゃがむだけで回避した。シアさんとアルテナさんも何とか回避したようだ。後ろから「はわわ、はわわわわ」と動揺に揺れる声が聞こえてくる。
二枚の殺意と悪意がたっぷりと乗った刃は通り過ぎると何事もなかったように再び壁の中に消えていった。しばらく警戒してみたけど何事も無くて、ホッと息を吐き後ろを振り返ろうと思ったら、猛烈な悪寒を感じた。
その場からユエとシアさんを抱えて飛び退く、すると頭上からギロチンの如く無数の刃が射出され、まるでバターの如く床にスっと食い込んだ。やはり、先程の刃と同じく高速振動している。
「……完全な物理トラップですね。探知にも掛からない訳です……厄介ですねぇ」
今まで魔力探知にかまけていたのが仇になっちゃったなぁ……これからは気配の探知とかも自力で出来る様にならないとなぁ……
「はぅ~、し、死ぬかと思いましたぁ~。ていうか、ハジメさん! あれくらい受け止めて下さいよぉ!」
「いや、無理だよ!? あれ相当な切れ味だよ!? ドンナーで防いだら切断まではされないだろうけど……破損はするよ?」
「き、傷って……武器と私、どっちが大事なんですかっ!」
「……武器かな?」
「ええぇ!?」
「だって……武器が無かったら守れないし…………」
僕の言葉に掴みかからんばかりの勢いで問い詰めようとするシアさんにアルテナさん。
「……お漏らしウサギ。死にかけたのは未熟なだけ」
「おもっ、おもらっ、撤回して下さい、ユエさん! いくらなんでも不名誉すぎますぅ!」
シアさんの「○○ウサギ」シリーズに新たに加わった称号の不名誉さに、シアさんが我慢できず猛抗議する。
「くだらない事で喧嘩しなでください……何時何が起こるか分からないんですから」
「く、くだらない事で……」
最近エトさんのシアさんに対する扱いが雑になって来ている。
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トラップに注意しながら更に奥へと進む。今のところ魔物は一切出てきていない。魔物のいない迷宮とも考えられるが、それは楽観が過ぎるというものだろう。それこそトラップという形で、いきなり現れてもおかしくない。
「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」
階段の中程まで進んだ頃、突然、シアさんがそんなことを言い出した。言葉通り、ウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いている。
「シアさん、それフラグなんだよ。そういうこと言うと、大抵、直後に何か『ガコン』……ほらやっぱり!」
「わ、私のせいじゃないすぅッ!?」
「!? ……フラグウサギッ!」
「貴方て何時そうですよね!」
「少しは言動に気をつけてください! 貴方自身の為にも!」
「うわ〜ん! みんなひどいですぅ!」
話している最中に、嫌な音が響いたかと思うと、いきなり階段から段差が消えた。かなり傾斜のキツイ下り階段だったのだが、その階段の段差が引っ込みスロープになったのだ。しかもご丁寧に地面に空いた小さな無数の穴からタールのようなよく滑る液体が一気に溢れ出してきた。
「うわっ!」
段差が引っ込んで転倒しかけたが咄嗟に、靴の底に仕込んだ鉱石を錬成してスパイクにして何とか耐えるエトさんは刺剣を床に突き刺して耐えている。ユエとアルテナさんは、咄嗟に僕に飛びついたので滑り落ちることはなかった。
「うきゃぁあ!?」
段差が消えた段階で悲鳴を上げながら転倒し後頭部を地面に強打。「ぬぅああ!」と身悶えている間に、液体まみれになり滑落。そのまま、M字開脚の状態で僕に衝突した。
「ちょうわ!」
シアさんが激突してきた衝撃でスパイクが外れてスロープを滑り落ちていく。
「し、シアさん!? 今すぐ退いて!」
「しゅみません~、でも身動きがぁ~」
滑り落ちる速度はドンドン増していく。足のスパイクやグローブのグリップで止まれないか試すが、既に速度が出過ぎているみたいで意味が無い。直接階段の錬成を試みるが、迷宮の強力な分解作用により上手く行かない。
シアさんが、もがきつつも何とか起き上がる……僕の上に馬乗りになっている状態だけど。
「ドリュッケンの杭を打ち付けて!」
シアさんに指示を出す。シアさんの持つドリュッケンには、幾つかのギミックが仕込まれており、その内の一つが槌の頭部分の平面から飛び出る杭である。一点突破の貫通力を上げる為の仕掛けだ。それを地面に突き立て滑落を止めようというわけだ。
「は、はい、任せッ!? ハジメさん! 道がっ!」
シアさんが背中の固定具からドリュッケンを外そうと手を回した。と、直後、前方を見たシアが焦燥に駆られた声をあげる。
「っ! みんなしっかり掴まって!」
スロープが終わりを迎え、僕達は空中へと投げ出された。一瞬の無重力。
パシュ! ……ガキン! 「よし!」
宝物庫からワイヤーを取り出して、射出する。ワイヤーは天井に刺さり、四人分の体重で僅かにワイヤーが軋んでいる。
カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ
「ヒェ……」
そんな音を立てながらおびただしい数のサソリが蠢いていたのだ。体長はどれも十センチくらいだろう。かつてのサソリモドキのような脅威は感じないのだが、生理的嫌悪感はこちらの方が圧倒的に上だ。抱きついていたアルテナさんが小さい悲鳴を上げて気を失ってしまった。
下を見たくなくて、天井に視線を転じる。すると、何やら発光する文字があることに気がついた。既に察しはついているけど、つい読んでしまう。
〝彼等に致死性の毒はありません〟
〝でも麻痺はします〟
〝存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!! 〟
わざわざリン鉱石の比重を高くしてあるのか、薄暗い空間でやたらと目立つその文字。ここに落ちた者はきっと、サソリに全身を這い回られながら、麻痺する体を必死に動かして、藁にもすがる思いで天に手を伸ばすだろう。
「……ハジメ、あそこ」
「あ、横穴みたいだね。どうしようか?」
「わ、私は、ハジメさんの決定に従います。ご迷惑をお掛けしたばかりですし……」
「……気にしなくてもいいよ? 迷宮を出た後に零斗にたっぷりと怒ってもらうから」
零斗に丸投げていいや……僕じゃ怒っても怖くないだろうし。
「シアさんの〝選択未来〟が何度も使えればいいんだけどなぁ」
「うっ、それはまだちょっと。練習してはいるのですが……」
〝選択未来〟はシアさんの固有魔法だ。仮定の先の未来を垣間見れる。但し、一日一回しか使用できない上、魔力も多大に消費するのであまり使えない固有魔法だ。
「ないものねだりしても仕方ないね……とりあえずは横穴に入ろうか」
『ハジメ君! 大丈夫ですか!?』
「エトさん……こっちは大丈夫だよ」
エトさんに状況を伝えて、横穴に入る為にもう一本アンカーを射出し、位置を調整しながらターザンの要領で移動して横穴へと無事にたどり着いた。
この先も嫌らしいトラップがあるんだろうなぁ……はぁ、とんでもないとこに来ちゃったなぁ。
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