ありふれた黒幕で世界最凶   作:96 reito

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「よいしょと、ヾ(ω` )/ハイヨお馴染みの零斗さんでっせ」
「ハジメです」
「エトです」

「さて、前回は愛ちゃん達がメインだったな……あの神殿騎士達はぶっ飛ばす」
「……止めた方がいいのかな?」
「いいんじゃないですか?」

「今回は……まぁ日常パートかな?」
「なんで疑問形なんですか……楽しんでください」

「「「再び、ブルックの町より!」」」


三章
再び、ブルックの町より


 Side 三人称

 

「ふふっ、あなた達の痴態、今日こそじっくりねっとり見せてもらうわ!」

 

 上弦の月が時折雲に隠れながらも健気に夜の闇を照らす。今もまた、風にさらわれた雲の上から顔を覗かせその輝きを魅せていた。その光は、地上のとある建物を照らし出す。もっと具体的に言えば、その建物の屋根からロープを垂らし、それにしがみつきながら何処かの特殊部隊員のように華麗な下降を見せる一人の少女を照らし出していた。

 

 スルスルと三階にある角部屋の窓まで降りると、そこで反転し、逆さまになりながら窓の上部よりそっと顔を覗かせる。

 

「この日のためにクリスタベルさんに教わったクライミング技術その他! まさかこんな場所にいるとは思うまい、ククク。さぁ、どんなアブノーマルなプレイをしているのか、ばっちり確認してあげる!」

 

 ハァハァと興奮したような気持ちの悪い荒い呼吸をしながら室内に目を凝らすこの少女、何を隠そう、ブルックの町〝マサカの宿〟の看板娘ソーナちゃんである。明るく元気で、ハキハキしたしゃべりに、くるくると動き回る働き者、美人というわけではないが野に咲く一輪の花のように素朴な可愛さがある看板娘だ。町の中にも彼女を狙っている独身男は結構いる。

 

 そんな彼女は、現在、持てる技術の全てを駆使して、とある客室の〝覗き〟に全力を費やしていた。その表情は、彼女に惚れている男連中が見れば一瞬で幻滅するであろう……エロオヤジのそれだった。

 

「くっ、やはり暗い。よく見えないわ。もう少し角度をずらして……」

「それよりこちらの角度の方が良く見えますよ」

「え? あ、ホントだよく見える! ……それにしても静かね? もう少し嬌声が聞こえるかと思ったのに……」

「魔法使えば遮音くらいは出来ます」

「はっ!? その手があったか! くぅう、小賢しい! でも私は諦めない! その痴態だけでもこの眼に焼き付け………………」

「こんばんわ、お嬢さん」

 

 ソーナは一瞬で滝のような汗を流すと、ギギギという油を差し忘れた機械の様にぎこちない動きで振り返った。そこには……某蜘蛛男の様に逆さまにぶら下がる零斗がいた。

 

「ち、ちなうんですよ? お客様。これは、その、あの、そう! 宿の定期点検です!」

「それはそれは……ですがこんな夜遅くにですか?」

「そ、そうなんですよ~。ほら、夜中にちゃちゃっとやってしまえば、昼に補修しているところ見られずに済むじゃないですか。宿屋だからガタが来てると思われるのは、ね?」

「なるほど、評判は大事ですよね」

「そ、そうそう! 評判は大事です!」

「ところで、この宿ですが、どうやら覗き魔が出るみたいなんですよ。そこんとこどう思います?」

「そ、それは由々しき事態ですね! の、覗きだなんて、ゆ、許せません、よ?」

「ええ、その通りです。覗きは許せないですよね?」

「え、ええ、許せませんとも……」

 

 

 零斗とソーナは顔を見合わせると「ははは」「ふふふ」とお互いに笑い始めた。ソーナは小刻みに震えながら汗をポタポタ垂らしている、これから何が起こるかが分かっている様だ。

 

「お話死しましょか」

「ひぃ──、ごめんなざぁ~い」

 

 零斗はそのままの体制で、ソーナの顔面をアイアンクローする。メリメリという音を立ててめり込む零斗の指。空中でジタバタともがきながらソーナは悲鳴を上げ、必死に許しを請う。

 

 これが初犯なら、まだもう少し手加減くらいしただろう。しかし、ライセン大迷宮から帰還した次の日に、再び宿に泊まった夜から毎晩、あの手この手で覗きをされればいい加減、手加減の配慮も薄くなるというものだ。ちなみに、それでもこの宿を利用しているのは、飯が美味いからである。

 

 既にビクンビクンしているソーナに溜息を吐きながら脇に抱え直す零斗。ソーナは、ようやく解放されたとホッと安堵の息を吐く。しかし、ふと見た下には……鬼がいた。満面の笑みだが、眼が笑っていない母親という鬼が。

 

「ひぃ!!」

 

 ソーナが気がついたことに気がついたのだろう。ゆっくり手を掲げると、おいでおいでをする母親。まるで地獄への誘いだった。

 

「今回は、尻叩き百発じゃあきかないかもですね」

「いやぁああ──ー!」

 

 零斗がポツリとこぼした言葉に、今までのお仕置きを思い出して悲鳴を上げるソーナ。きっと、翌の朝食時には、お尻をパンパンに腫らした涙目のソーナを見ることができるだろう。毎晩毎朝の出来事に溜息を吐く零斗であった。

 

 ──────────────────────

 

 音を立てて冒険者ギルド:ブルック支部の扉は開いた。入ってきたのは複数の人影、ここ数日ですっかり有名人となった零斗達である。ギルド内のカフェには、何時もの如く何組かの冒険者達が思い思いの時を過ごしており、零斗達の姿に気がつくと片手を上げて挨拶してくる者もいる。男は相変わらずエト達に見蕩れ、ついでハジメと零斗に羨望と嫉妬の視線を向けるが、そこに陰湿なものはない。

 

 ブルックに滞在して一週間、その間にユエ達を手に入れようと決闘騒ぎを起こした者は数知れず。ユエ達を直接口説け無いと分かったのか、外堀を埋めるようにハジメ達から攻略してやろうという輩がそれなりにいたのである。

 

 零斗は面倒と言いながら向かってくる相手を犬神家化させ、ハジメは目の笑っていない笑顔で『僕の大切な人に手を出したら……分かりますよね?』言っているので大体の奴は玉砕している。

 

「おや、今日は全員一緒かい?」

 

 零斗達がカウンターに近づくと、いつも通り、おばちゃ……キャサリンがおり、先に声をかけた。キャサリンの声音に意外さが含まれているのは、この一週間でギルドにやって来たのは大抵、一人か二人組だからだ。

 

「ええ、明日にでも町を出るつもりなので、貴方には色々のお世話になりましたから、挨拶をしておこう思いまして。それと、目的地関連で依頼があれば受けようと思いましてね」

 

 世話というのは依頼を斡旋して貰ったり、ギルドの一室を無償で借りていたことだ。重力魔法なので生成魔法と組み合わせを試行錯誤するのに、それなりに広い部屋が欲しかったのである。キャサリンに心当たりを聞いたところ、それならギルドの部屋を使っていいと無償で提供してくれたのだ。

 

「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~」

「勘弁してください。この町には変態しか居ないんですから……ユエさんやエトに踏まれたいとか言って町中で突然土下座してくる変態、〝お姉さま〟とか連呼しながら五人をストーキングする変態、決闘を申し込んでくる阿呆共……碌な方が居ないじゃないですか。出会った人の七割が変態で他二割が阿呆……どうなってるんです? この町」

 

 苦々しい表情の零斗が愚痴をこぼすように語った内容は全て事実だ。ソーナは言わずもがな、クリスタベルは会う度に零斗やハジメに肉食獣の如き視線を向け舌なめずりをしてくるので、何度寒気を感じたかわからない。

 

 また、ブルックの町には派閥が出来ており、日々しのぎを削っている。一つは「ユエちゃんに踏まれ隊」、もう一つは「シアちゃん、アルテナちゃんの奴隷になり隊」、「エト様に罵られ隊」とか、「ミレディちゃんにからかわれ隊」、最後が「お姉さまと姉妹になり隊」である。それぞれ、文字通りの願望を抱え、実現を果たした隊員数で優劣を競っているらしい。

 

 あまりにぶっ飛んだネーミングと思考の集団にドン引きのハジメ達。町中でいきなり土下座するとユエやエトに向かって「踏んで下さい!」とか絶叫するのだ。もはや恐怖である。シア達に至ってはどういう思考過程を経てそんな結論に至ったのか理解不能だ。亜人族は被差別種族じゃなかったのかとか、お前らが奴隷になってどうするとかツッコミどころは満載だが、深く考えるのが嫌だったので出会えば即刻排除している。

 

 最後は女性のみで結成された集団で、エト達に付き纏うか、ハジメや零斗の排除行動が主だ。一度は、「お姉さまに寄生する害虫が! 玉取ったらぁああ──!!」とか叫びながらナイフを片手に突っ込んで来た少女もいる。

 

 流石に町中で少女を殺害したとなると色々面倒そうなので、零斗が、その少女を裸にひん剥いた後、亀甲縛りと猿轡をして一番高い建物に吊るし上げた挙句、〝次は殺します〟と書かれた張り紙を貼って放置した。あまりの所業と淡々と書かれた張り紙の内容に、少女達の過激な行動がなりを潜めたのはいい事である。

 

「まぁまぁ、何だかんで活気があったのは事実さね」

「嫌な、活気ですね……」

「で、何処に行くんだい?」

「フューレンです……依頼はありますか?」

「ちょっと待ってな」

 

 そんな風に雑談しながらも、仕事はきっちりこなすキャサリン。早速、フューレン関連の依頼がないかを探し始める。

 

 フューレンとは、中立商業都市のことだ。ハジメ達の次の目的地は【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】である。その為、大陸の西に向かわなければならないのだが、その途中に【中立商業都市フューレン】があるので、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという話になったのである。なお、【グリューエン大火山】の次は、大砂漠を超えた更に西にある海底に沈む大迷宮【メルジーネ海底遺跡】が目的地だ。

 

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きが後二人分あるよ……どうだい? 受けるかい?」

 

 キャサリンにより差し出された依頼書を受け取り内容を確認するハジメ。確かに、依頼内容は、商隊の護衛依頼のようだ。中規模な商隊のようで、十五人程の護衛を求めているらしい。

 

「同伴は大丈夫なんですか?」

「ああ、問題ないよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、ユエちゃんもエトちゃん達も結構な実力者だ。二人分の料金で複数の優秀な冒険者を雇えるようなもんだ。断る理由もないさね」

「……どうしましょうか」

 

 零斗は少し逡巡し、意見を求めるようにハジメ達の方を振り返った。正直な話、配達系の任務でもあればと思っていたのだ。というのも、ハジメ達だけなら魔力駆動車があるので、馬車の何倍も早くフューレンに着くことができる。わざわざ、護衛任務で他の者と足並みを揃えるのは手間と言えた。

 

「急ぐ旅じゃないし、大丈夫じゃない?」

「そうですねぇ~、たまには他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」

「情報交換もしたいですね」

「……そうだな、急いても仕方ないしたまにはいいか」

 

 零斗は二人の意見に「ふむ」と頷くとキャサリンに依頼を受けることを伝える。ユエの言う通り、七大迷宮の攻略にはまだまだ時間がかかるだろう。急いて事を仕損じては元も子もないというし、シアとアルテナの言うように冒険者独自のノウハウや貴重か情報があれば今後の旅でも何か役に立つことがあるかもしれない。

 

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」

「了解した」

 

 零斗が依頼書を受け取るのを確認すると、キャサリンが零斗達のの後ろのユエ達に目を向けた。

 

「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ? この子に泣かされたら何時でも家においで。あたしがぶん殴ってやるからね」

「……ん、お世話になった。ありがとう」

「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難うございました!」

 

 キャサリンの人情味あふれる言葉にユエ達の頬も緩む。特にシアとアルテナは嬉しそうだ。この町に来てからというもの自分が亜人族であるということを忘れそうになる。もちろん全員が全員、シアやアルテナに対して友好的というわけではないが、それでもキャサリンを筆頭にソーナやクリスタベル、ちょっと引いてしまうがファンだという人達はシアを亜人族という点で差別的扱いをしない。

 

 土地柄かそれともそう言う人達が自然と流れ着く町なのか、それはわからないが、いずれにしろシアにとっては故郷の樹海に近いくらい温かい場所であった。

 

「あんたも、こんないい子達泣かせんじゃないよ? 精一杯大事にしないと罰が当たるからね?」

「……フフフ、世話焼きな人ですね。言われなくとも承知していますよ」

 

 キャサリンの言葉に微笑みで返す零斗。そんな零斗に、キャサリンが一通の手紙を差し出す。疑問顔で、それを受け取る。

 

「これは?」

「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

 

 バッチリとウインクするキャサリン。手紙一つでお偉いさんに影響を及ぼせるアンタは一体何者だ?という疑問がありありと表情に浮かんでいる。

 

「おや、詮索はなしだよ? いい女に秘密はつきものさね」

A secret makes a woman woman(女は秘密を着飾って美しくなる)ですか……分かりました、これ以上の詮索はしません。これは有難く貰い受けます」

「素直でよろしい!色々あるだろうけど、死なないようにね」

 

 謎多き、片田舎の町のギルド職員キャサリン。ハジメ達は、そんな彼女の愛嬌のある魅力的な笑みと共に送り出された。

 

 その後、零斗達は、クリスタベルの場所にも寄った。ハジメは断固拒否したが、エト達がどうしてもというので仕方なく付き添った……だが、町を出ると聞いた瞬間、クリスタベルは最後のチャンスとばかりにハジメに襲いかかる巨漢の化物と化し、恐怖のあまりシュラーゲンを使って葬ろうとするハジメを、ユエと零斗が必死に止めるという衝撃的な出来事があったが……詳しい話は割愛だ。

 

 最後の晩と聞き、遂には堂々と風呂場に乱入、そして部屋に突撃を敢行したソーナちゃんが、ブチギレた母親に本物の亀甲縛りをされて一晩中、宿の正面に吊るされるという事件の話も割愛だ。なぜ、母親が亀甲縛りを知っていたのかという話も割愛である。

 

 ────────翌日早朝──────────

 

 そんな愉快なブルックの町民達を思い出にしながら、正面門にやって来たハジメ達を迎えたのは商隊のまとめ役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。どうやら零斗達が最後のようで、まとめ役らしき人物と十四人の冒険者が、やって来た零斗達を見て一斉にざわついた。

 

「お、おい、まさか残りの奴らって〝ノーフェイス〟と〝スマッシュ・ラバァーズ〟なのか!?」

「マジかよ! 嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

 

 ユエやエトの登場に喜びを顕にする者、股間を両手で隠し涙目になる者、手の震えを零斗達のせいにして仲間にツッコミを入れられる者など様々な反応だ。ちなみにノーフェイスと言うのは零斗とエトの2つ名の様な物で零斗は仮面の為顔は分からず、エトは表情がほぼ変わら無いためそう呼ばれている。スマッシュ・ラバァーズはハジメ達の2つ名で相手のメンタルと肉体を完膚なきまでに叩き潰しているために呼ばれている。零斗達が、嫌そうな表情をしながら近寄ると、商隊のまとめ役らしき人物が声をかけた。

 

「君達が最後の護衛かね?」

「はい、これが依頼書です」

 

 零斗は、懐から取り出した依頼書を見せる。それを確認して、まとめ役の男は納得したように頷き、自己紹介を始めた。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

「……もっとユンケル?……商隊のリーダーって大変なんですね」

 

 日本のとある栄養ドリンクを思い出させる名前に、零斗とハジメの眼が同情を帯びる。なぜ、そんな眼を向けられるのか分からないモットーは首を傾げながら、「まぁ、大変だが慣れたものだよ」と苦笑い気味に返した。

 

「期待は裏切らないと思います。私は零斗だ。こちらはハジメ、エト、ユエ、シア、アルテナ、ミレディです」

「それは頼もしいな……ところで、この兎人族の森人族……売るつもりはないかね? それなりの値段を付けさせてもらうが」

 

 モットーの視線が値踏みするようにシアを見た。兎人族で青みがかった白髪の超がつく美少女と流れるような金髪に万人を魅了する美貌を持つ少女だ。商人の性として、珍しい商品に口を出さずにはいられないということか。首輪から奴隷と判断し、即行で所有者たる零斗に売買交渉を持ちかけるあたり、きっと優秀な商人なのだろう。

 

 その視線を受けて、シアとアルテナが「うっ」と嫌そうに唸りハジメの背後にそそっと隠れる。ユエとエトのモットーを見る視線が厳しい。だが、一般的な認識として樹海の外にいる亜人族とは、すなわち奴隷であり、珍しい奴隷の売買交渉を申し出るのは商人として当たり前のことだ。モットーが責められるいわれはない。

 

「ほぉ、随分と懐かれていますな……中々、大事にされているようだ。ならば、私の方もそれなりに勉強させてもらいますが、いかがです?」

「貴方は相当の商人の様ですね……ですが彼女達を渡す気はありません」

 

 シアとアルテナの様子を興味深そうに見ていたモットーが更に零斗に交渉を持ちかけるが、零斗の対応はあっさりしたものである。モットーも、実は零斗が手放さないだろうとは感じていたが、それでもシアが生み出すであろう利益は魅力的だったので、何か交渉材料はないかと会話を引き伸ばそうとする。

 

 だが、そんな意図も零斗もハジメは読んでいたのだろう。ハジメがモットーの前に出て、揺るぎない意志を込めた言葉をモットーに告げる。

 

 

「例え、神が欲しても手放す気はありません……理解してもらえましたか?」

「…………えぇ、それはもう。仕方ありませんな。ここは引き下がりましょう。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

 

 ハジメの発言は相当危険なものだった。下手をすれば聖教教会から異端の烙印を押されかねない発言だ。一応、魔人族は違う神を信仰しているし、歴史的に最高神たる〝エヒト〟以外にも崇められた神は存在するので、直接、聖教教会にケンカを売る言葉ではない。だが、それでもギリギリの発言であることに変わりはなく、それ故に、モットーはハジメがシア達を手放すことはないと心底理解させられた。

 

 ハジメが、すごすごと商隊の方へ戻るモットーを見ていると、周囲が再びざわついている事に気がついた。

 

「すげぇ……女一人のために、あそこまで言うか……痺れるぜ!」

「流石、スマッシャーと言ったところか。自分の女に手を出すやつには容赦しない……ふっ、漢だぜ」

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ」

「いや、お前、男だろ? 誰が、そんなことッあ、すまん、謝るからっやめっアッ──!!」

 

 ハジメ達は、愉快?な護衛仲間の愉快な発言に頭痛を感じたように手で頭を抑えた。やっぱりブルックの町の奴らは阿呆ばっかりだと。そんな事を思っていると、背中に何やら〝むにゅう〟二つの柔らかい感触を感じ、更に腕が背後から回されハジメを抱きしめてくる。

 

 ハジメが肩越しに振り返ると、肩に顎を乗せたシアの顔と耳の先まで真っ赤にしたアルテナの顔が至近距離に見えた。その顔は真っ赤に染まっており、実に嬉しそうに緩んでいる。

 

「……いいか?特別な意味はないからね?ね??」

「うふふふ、わかってますよぉ~、うふふふ~」

「……ありがとうございまひゅ」

 

 あくまで身内を捨てるような真似はしないという意味であって、周りで騒いでいるヤツ等のように〝自分の女〟だからという意味ではないとはっきり告げるハジメだったが、シア達には、まるで伝わっていなかった。惚れた男から〝神にだって渡さない〟と宣言されたのだ。どのような意図で為された発言であれ、嬉しいものは嬉しいのだろう。

 

 手っ取り早く交渉を打ち切るための発言が、いろんな意味で〝やりすぎ〟だった事に、やっちまった感を出すハジメ。

 

「ククク……やっぱり女たらしですねぇ、ハジメは」

「うるさいぞ!零斗ォ!」

 

 からかわれたハジメは零斗を殴ろうとするがシアとアルテナがくっ付いているため動くにも動けない。

 

 そんなハジメ達を見て、商隊の女性陣は生暖かい眼差しで、男性陣は死んだ魚のような眼差しでその光景を見つめる。ハジメに突き刺さる煩わしい視線や言葉は、きっと自業自得である。

 

 




長くなってしもうた………

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