ありふれた黒幕で世界最凶   作:96 reito

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「よいしょと、ヾ(・ω・`)ノハローお馴染みの零斗さんですよ」
「エトです」
「ユエ」

「さて、前回はウィルくん?って子の捜索依頼を受けたな」
「……貴方も大概面倒事を起こしてくれますね」
「ん、一番の戦犯」
「お前らがキャサリンに大渓谷を踏破した事に関して話したの知ってるかな……とりあえずそこで正座してろ説教はこれが終わったらする」
「「……はい」」

「今回は湖畔の町での再会とちょっとした会話だ、楽しんでくれ」

「「「湖畔の町での再会!」」」


湖畔の町での再会

 Side 零斗

 

 広大な平原に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられることで自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。この世界の馬車にはサスペンションなどという文明の利器は無い、きっとこの道を通る馬車の乗員は、目的地に着いた途端、自らの尻を慰めることになるのだろう。

 

 そんな、整備されていない道を有り得ない速度で爆走する。シアとミレディが乗るシュタイフと魔力駆動四輪"ブリーゼ"で凸凹の道を苦もせず突き進む。

 

 ブリーゼの車内は、運転席と助手席だけ分かれており、残りはベンチシートだ。運転手は俺で、助手席にはエトが座って寝ており、残りの奴らは後ろの席だ。

 

 シアとミレディはというと…………

 

「ヒャッハー! ですぅ!」

「シアちゃん! もっと飛ばせ―!」

 

 速度は優に100km/hを切っており、街道を猛スピードで突っ走っていく。まるで映画のワンシーンの様だ。

 

「おーい、飛ばすのはいいが事故るなよ〜」

「そこは未来視でどうにかしますぅ!」

「アホか!そいつは魔力使ってうごいてんだぞ!?魔力切れ起こして止まったらお前らシュタイフから射出されんぞ!」

 

 アイツら命知らず過ぎんだろ……君らはバイクとかに乗る時は法定速度を守って、ヘルメットもしっかりと被るようにな事故って死んじまうからな。

 

「まぁ、このペースなら後一日ってところだ。ノンストップで行くし、休める内に休ませておこう」

 

 俺達は、ウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い町まで後一日ほどの場所まで来ていた。このまま休憩を挟まず一気に進み、おそらく日が沈む頃に到着するだろうから、町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。急ぐ理由はもちろん、時間が経てば経つほど、ウィル一行の生存率が下がっていくからだ。

 

「随分と積極的ですね……何か理由が?」

「ああ、生きているに越したことはないからな。その方が、感じる恩はでかい。これから先、国やら教会やらとの面倒事は嫌ってくらい待ってそうだからな。盾は多いほうがいいだろう?後々の事にも影響しそうだしな」

「……なるほど」

 

 実際、イルワという盾が、どの程度機能するかはわからないし、どちらかといえば役に立たない可能性の方が大きいが保険は多いほうがいい。まして、ほんの少しの労力で獲得できるなら、その労力は惜しむべきではない。

 

「それに、大切な人間が消えちまう痛みはあまり良いもんじゃないしな……見ず知らずの人間でも見て見ぬふりは流石に出来んからな」

「れいちゃん……」

「クックッ……柄でもねぇ事言っちまったな」

 

 世間様からみたらこんなものは偽善だと指さされて笑われるだろうな……ま、『やらぬ善よりやる偽善』だしな。

 

「それに聞いたんだがな、これから行く町は湖畔の町で水源が豊かなんだと。そのせいか町の近郊は大陸一の稲作地帯なんだとさ」

「……まさか!」

「そう、米だ米。俺らの故郷、日本の主食だ。オルクス大迷宮を出てから一度も口にしてないからな、早く行って食いてぇな」

「私も食べたいです……その町の名前は?」

 

 遠い目をして米料理に思いを馳せるハジメに、微笑ましそうな眼差しを向けていたユエ。そんな二人の様子に苦笑いしながら町の名前を尋ねてくるアルテナ。

 

「湖畔の町ウルだ」

 

 ●○●

 

 Side 愛ちゃん

 

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか……清水君と恭弥君は一体どこに行ってしまったんですか……」

 

 肩を落とし、ウルの町の表通りをトボトボと歩く。普段は快活な姿を見せなければいけないのだろうけどが、今は、不安と心配に苛まれている。心なしか、表通りを彩る街灯の灯りすら、いつもより薄暗い気がする。

 

「愛子、あまり気を落とすな。まだ、何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君と恭弥さんの部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ? 悪い方にばかり考えないでください」

 

 元気のない私に、そう声をかけたのは専属護衛隊隊長のデビッドさんと生徒の園部優花さんだ。周りには他にも、毎度お馴染みに騎士達と生徒達がいる。彼等も口々に私を気遣うような言葉をかけた。

 

 クラスメイトの一人、清水 幸利君と佐野 恭弥君が失踪してから既に二週間と少し。八方手を尽くして二人を探したが、その行方はようとして知れなかった。町中に目撃情報はなく、近隣の町や村にも使いを出して目撃情報を求めたが、全て空振りだった。

 

 最初は何か事件にでも巻き込まれたのではと思っていたのですが彼らは生徒の中でもトップクラスの戦闘力を持つ人達ですから、そうそうやられるとは思えず、今では自発的な失踪と考える者が多かった。

 

 ちなみに、王国と教会には報告済みであり、捜索隊を編成して応援に来るようだ。清水君は魔法の才能に関しては召喚された生徒達の中でも極めて優秀で、零斗君と南雲君の時のように、上層部は楽観視していない。捜索隊が到着するまで、あと二、三日だ。

 

 次々とかけられる気遣いの言葉に、私は自分を叱咤した。事件に巻き込まれようが、自発的な失踪であろうが心配であることに変わりはない。しかし、それを表に出して、今、傍にいる生徒達を不安にさせるどころか、気遣わせてどうするのだと。それでも、自分はこの子達の教師なのか!

 

 一度深呼吸するとペシッと両手で頬を叩き気持ちを立て直した。

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来ることをしましょう。取り敢えずは、本日の晩御飯です! お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

 無理しているのが丸分かりだ。しかし、気合の入った掛け声に生徒達も「は~い」と素直に返事をする。騎士達は、その様子を微笑ましげに眺めた

 

 カランッカランッ、と音を立てながら、宿泊している宿の扉を開いた。ウルの町で一番の高級宿だ。名を〝水妖精の宿〟という。昔、ウルディア湖から現れた妖精を一組の夫婦が泊めたことが由来だそうだ。ウルディア湖は、ウルの町の近郊にある大陸一の大きさを誇る湖だ。大きさは日本の琵琶湖の四倍程である。

 

 〝水妖精の宿〟は、一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。内装は、落ち着きがあって、目立ちはしないが細部までこだわりが見て取れる装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターがある。また、天井には派手すぎないシャンデリアがあり、落ち着いた空気に花を添えていた。〝老舗〟そんな言葉が自然と湧き上がる、歴史を感じさせる宿だった。

 

 当初は、高級すぎては落ち着かないと他の宿を希望したのだが、〝神の使徒〟あるいは〝豊穣の女神〟とまで呼ばれ始めている私や生徒達を普通の宿に止めるのはイメージ的に有り得ないので、デビットさん達の説得に折れて、ウルの町における滞在場所として目出度く確定した。

 

 元々、王宮の一室でで生活していたのもあり、私も生徒達も次第に慣れ、今では、すっかりリラックスできる場所になっていた。農地改善や生徒達の捜索に粉骨砕身して疲労した体で帰って来る愛子達にとって、この宿で摂る米料理は毎日の楽しみになっていた。

 

 全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

 

「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったけ?」

「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? ホカ弁の天丼と比べちゃだめだよ」

「いや、チャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」

 

 極めて地球の料理に近い米料理に毎晩生徒達のテンションは上がりっぱなしだ。見た目や微妙な味の違いはあるのだが、料理の発想自体はとても似通っている。素材が豊富というのも、ウルの町の料理の質を押し上げている理由の一つだろう。米は言うに及ばず、ウルディア湖で取れる魚、山脈地帯の山菜や香辛料などもある。

 

 美味しい料理で一時の幸せを噛み締めている愛子達のもとへ、六十代くらいの口ひげが見事な男性がにこやかに近寄ってきた。

 

「皆様、本日のお食事はいかがですか? 何かございましたら、どうぞ、遠慮なくお申し付けください」

「あ、オーナーさん」

 

 話しかけたのは、この〝水妖精の宿〟のオーナーであるフォス・セルオである。スっと伸びた背筋に、穏やかに細められた瞳、白髪交じりの髪をオールバックにしている。宿の落ち着いた雰囲気がよく似合う人だ。

 

「いえ、今日もとてもおいしいですよ。毎日、癒されてます」

 

 なるべく綺麗な笑顔で笑いながら答えると、フォスも嬉しそうに「それはようございました」と微笑んだ。しかし、次の瞬間には、その表情を申し訳なさそうに曇らせた。何時も穏やかに微笑んでいるフォスには似つかわしくない表情だ。何事かと、食事の手を止めて皆がフォスに注目した。

 

「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」

 

 カレーが大好物の園部さんがショックを受けたように問い返した。

 

「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして……いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが……ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏ということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

「あの……不穏っていうのは具体的には?」

「何でも魔物の群れを見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れを見たのだとか」

「それは、心配ですね……」

 

 思わず顔をしかめる。他の皆も若干沈んだ様子で互いに顔を見合わせた。フォスさんは、「食事中にする話ではありませんでしたね」と申し訳なさそうな表情をすると、場の雰囲気を盛り返すように明るい口調で話を続けた。

 

「しかし、その異変ももしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」

「どういうことですか?」

「実は、今日のちょうど日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 

 私にはピンと来ないようだが、食事を共にしていたデビッドさん達護衛の騎士は一様に「ほぅ」と感心半分興味半分といった声を上げた。フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員である。その支部長に指名依頼されるというのは、相当どころではない実力者のはずだ、それこそ零斗君達のような……

 

 二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男性二人の声と少女五人の声だ。何やら少女の一人が男性に文句を言っているらしい。それに反応したのはフォスさんだった。

 

「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。〝金〟に、こんな若い者がいたか?」

 

 デビッド達騎士は、脳内でリストアップした有名な〝金〟クラスに、今聞こえているような若い声の持ち主がいないので、若干、困惑したように顔を見合わせた。そうこうしている内に、七人の男女は話ながら近づいてくる。

 

 私達のいる席は、三方を壁に囲まれた一番奥の席で、店全体を見渡せる場所でもある。一応、カーテンを引くことで個室にすることもできる席だ。唯でさえ目立つ私達は、私が〝豊穣の女神〟と呼ばれるようになって更に目立つようになったため、食事の時はカーテンを閉めることが多い。今日も、例に漏れずカーテンは閉めてある。

 

 そのカーテン越しに若い男女の騒がしめの会話の内容が聞こえてきた。

 

「久しぶりの米料理だな、〝ハジメ〟」

「そうだね〝レイト〟。ちょっとワクワクしてる」

「〝ハジメ〟さんと〝レイト〟さんの故郷の料理、楽しみです!」

「ま、完全に向こうと一緒て訳じゃ無いだろうけどな」

 

 その会話の内容に、そして少女の声が呼ぶ名前に、私の心臓が一瞬にして飛び跳ねる。彼女達は今何といった?少年を何と呼んだ?少年の声は、〝あの少年達〟の声に似てはいないか?私の脳内を一瞬で疑問が埋め尽くし、金縛りにあったように硬直しながら、カーテンを凝視する。

 

 それは、傍らの園部さんや他の生徒達も同じだった。彼らの脳裏に、およそ四ヶ月前に奈落の底へと消えていった、とある少年達が浮かび上がる。一部のクラスメイト達に〝異世界での死〟というものを強く認識させた少年、私を救ってくれた少年、身を呈して生徒を守ってくれた少年。

 

 尋常でない様子の愛子と生徒達に、フォスさんや騎士達が訝しげな視線と共に声をかけるが、誰一人として反応しない。騎士達が、一体何事だと顔を見合わせていると、私と園部さん同時にポツリとその名を零した。

 

「……南雲君に零斗君?」

「……零斗にハジメ?」

 

 無意識に出した自分の声で、有り得ない事態に硬直していた体が自由を取り戻す。私は、椅子を蹴倒しながら立ち上がり、転びそうになりながらカーテンを引きちぎる勢いで開け放った。

 

 シャァァァ!!

 

 存外に大きく響いたカーテンの引かれる音に、ギョッとして思わず立ち止まる女性陣。気にする事なく振り向く少年。

 

 私は、相手を確認する余裕もなく叫んだ。大切な教え子の名前を……

 

「南雲君!零斗君!」

「……………………先生?」

 

 目の前にいたのは、顔全体を覆う仮面をした黒ローブを着た零斗君と変わらずに白髪の南雲君、ビスクドールのような金髪の美少女に青みがかった銀髪のウサミミをした少女、まさにエルフといった姿の美少女、灰色の髪をした落ち着いた雰囲気の少女、絵に書いたかのような美少女がいた。

 

「元気そうで良かったです……他の方もいる様ですね、お久しぶりです」

「ええっと……一応?」

「おや?玉井くんも居るんですね、どうです?彼女には告白できましたか?」

「ままままま、まだに決まってんだろーが!」

「早くしないと取られてしまいますよ?」

 

 クツクツと笑いながら生徒の一人を揶揄う零斗君。口調は優等生モードではあるものの雰囲気は変わらず、とても優しく暖かい物だ。

 

 コツコツ「………………」

「?どうしたしか、園部さん」

 ダキッ!「………………………………」

「ットト……いきなりどうしたんですか!?」

「グス……よかった……」

 

 涙声になりながら零斗君に抱き着く園部さん。最近の高校生は大胆なんですね……てそうじゃない!

 

「こ、こうなったら私も!」バッ!

「ちょ!?」

「問答無用です!」

 

 若い子達には負けられません!私だって……私だって!

 

 




責められると弱い男の子……いいよな。
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