「エトです」
「畑山 愛子です」
「前回は……俺がキレてたな、やっちまったなぁ……」
「あれはあの騎士が起こした事ですから貴方がそこまで気を負う必要は無いと思いますよ」
「そうですよ、零斗君!」
「……そうかい」
「今回はウィル坊の捜索だ。楽しんでくれ」
「「「捜索開始!」」」
Side 零斗
翌日の早朝。俺たちは北の山脈地帯へと向かうため、宿を出た。まだあたりにはうっすらと霧が立ち込め、朝焼けが顔を出したばかりだ。手には、移動しながら食べられるようにと握り飯が入った包みを持っている。極めて早い時間でありながら、嫌な顔一つせず、朝食にとフォスさんが用意してくれたものだ。
「さて、そろそろ行きますか……」
ここから北の山脈地帯までは馬で丸一日くらいだというから、魔力駆動二輪で飛ばせば三、四時間くらいで着くだろう。
ウィル・クデタ達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日。生存は絶望的だ。ま、万一ということもあるしな。生きて帰せば、イルワの俺たちに対する心象は限りなく良くなるだろうし、出来れば生きて帰したい所ではある。幸いな事に今日は快晴で、捜索するにはもってこいの気候だ。
「……見送りですか?」
待ち伏せしていた、愛ちゃんが正面から向き合い、ばらけて駄弁っていた生徒たちも近寄ってくるのだ。おまけに、愛ちゃんたちの後ろに馬が人数分用意されている。
「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」
「駄目です、貴方達と足並みを揃えていたら時間が無駄になります……それに、貴方達では足手まといにしかなりませんので」
俺の物言いにカチンと来たのか愛ちゃん大好き娘、親衛隊の実質的リーダー宮崎奈々が食ってかかる。どうやら、昨日の威圧感や負い目を一時的に忘れるくらい愛ちゃん愛が強いらしい。
「ちょっと、幾ら何でも言い方ないでしょ?湊莉が私達のことよく思ってないからって、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ」
「……馬でどうやってバイクに追いつくんです?」
「へ?」
ハジメが宝物庫からシュタイフを出す。あまりにも異世界には似つかわしくないバイクを見て、度肝を抜かれているのか、マジマジと見つめたまま答えない愛ちゃん達。そこへ、クラスの中でもバイク好きの相川が若干興奮したように尋ねてきた。
「こ、これ作ったのか?」
「えぇ、そうですが……では、私達は出発するので」
これ以上は時間の無駄だし、そろそろ出発しないとマズイ。バイクに跨りエンジンを入れる。
「零斗君、先生は先生として、そして貴方のその……こ、恋人としてどうしても話を聞かなければなりません……聞かせてくれないのなら『私とは遊びだったのね!』と言いつつ追っかけ回s「よーし、分かったからそれ以上は面倒事になりそうだからやめて欲しいかな!?」……なら連れて行ってください」
……誰だよこんな事教えた奴。後ろにいる、駄ウサギと同じ様な事言ってるし。選択肢1つしか無いじゃん……
「……はぁ、わーたよ。ハジメ、ブリーゼ出してくれ」
「口調そっちでいいの?」
「もうどうにでもなれてんだ」
素の口調に驚いている奴らを車内に放り込む。乗らなかった残りの奴らは荷台に押し込む。
「全員シートベルトしたな……んじゃ出発ー」
アクセルを思い切り踏み、ブリーゼを走らせる。
────────────────────────
山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、ブリーゼで走ること数時間。
「……ストレート」
「フルハウス!」
「フラッシュですぅ!」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「「「エトさん強すぎ!」」」
後ろの座席では、ポーカー大会が開かれていた……エトが現在5連勝中だ。
「それでぇ?南雲君とはどうなのさ!」
「えぇと……その……なんと言いますか……」
シアとアルテナが菅原と宮崎からハジメとの関係を根掘り葉掘り聞かれている。異世界での異種族間恋愛など花の女子高生としては聞き逃せない出来事なのだろうな。興味津々といった感じでシアとアルテナに質問を繰り返しており、二人はオロオロしながら頑張って質問に答えている。
「打ち解けた様でよかったよ……」
「そう……ですね」
「ん?眠いのか?」
「はい……ちょっとだけ……」
眠気が限界まで来ているのか返答がふわふわとしている。そんな中で、走行による揺れと柔らかいシートが眠りを誘い、愛ちゃんはいつの間にか夢の世界に旅立った。ズルズルと背もたれを滑りコテンと倒れ込んだ先は俺の膝の上である。
「フフ、こう見ると本当に子供みたいだな」
「へぇ、湊莉君てそんな風に笑うんだね」
「湊莉君と愛ちゃんてお似合いだよねぇ……刀華さんとはまた違った意味でね」
「あら、確かに珍しい顔ね、零斗」
「へいへい、そりゃどうも」
「うらやまけしからん……でも絵になるな」
「「それな」」
キャッキャと見つめる女性陣と、クスクスと面白そうに笑う鏡花に、嫉妬交じりではあるが害意の無い視線を向けて来る男性陣。
────────────────────────
ウルの街を出発してから約五時間。俺たちはついに北の山脈地帯へと到着した。 山の麓でブリーゼとバイクを停車する。そして、しばらく見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。女性陣の誰かが「ほぅ」と溜息を吐く。
「んー……気持ちいいな」
「マイナスイオンを感じる……」
こんな事でピクニックでもしたいねぇ……と、今はウィル坊の捜索に集中と……
「ハジメ、オルニスで上空からの偵察頼む」
「分かったよ」
宝物庫から全長三十センチ程の鳥型の模型と小さな石が嵌め込まれた指輪を取り出して、指輪を自らの指に嵌めると、同型の模型を四機取り出し、空中へ放り投げた。そのまま、重力に引かれ地に落ちるかと思われた偽物の鳥達は、しかし、その場でふわりと浮く。
四機の鳥は、その場で少し旋回すると山の方へ滑るように飛んでいった。
「あの、あれは?」
「無人偵察機だ」
ミレディが使用していたゴーレム達の技術と感応石と重力魔法を鉱物に付与して生成した重力石を併用して、作成した新兵器だ。更に、遠透石を頭部に組み込んだのだ。遠透石とは、ゴーレム騎士達の目の部分に使われていた鉱物で、感応石と同じように、同質の魔力を注ぐと遠隔にあっても片割れの鉱物に映る景色をもう片方の鉱物に映すことができるというものだ。
これを魔改造スマホと連動させて、リアルタイムで上空からの情報を得る事が出来る。
確か魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、六合目から七号目の辺りだ。なら、ウィル坊達の冒険者パーティーも、その辺りを調査したはず。
おおよそ一時間と少しくらいで六合目に到着した、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる必要があったのと……
「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」
「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」
「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」
「……ひゅぅーひゅぅー」
「ゲホゲホ、湊莉達は化け物か……」
予想以上に愛ちゃんと園部以外の愛ちゃん護衛隊の体力がなく、休む必要があったからである。もちろん、本来、愛ちゃん達のステータスは、この世界の一般人の数倍を誇るので、六合目までの登山ごときでここまで疲弊することはない……筈だ。多分、俺らのペースが速すぎたのか、殆ど全力疾走しながらの登山となり、気がつけば体力を消耗しきってしまったのだろう……情けない事だ。
山道から逸れて山の中を進む。シャクシャクと落ち葉が立てる音を何げに楽しみつつ木々の間を歩いていると、やがて川のせせらぎが聞こえてきた。耳に心地良い音だ。シアの耳が嬉しそうにピッコピッコと跳ねている。
たどり着いた川は、小川と呼ぶには少し大きい規模のものだった。索敵能力が一番高いシアが周囲を探り、ハジメもオルニスで周囲を探るが魔物の気配はしない。取り敢えず休憩がてら、川岸の岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針を話し合っていた時……
「そぉれ!」
「ぶぇ」
「あ、ごめーん☆手が滑っちゃた♡」
ミレディが水を頭上から降らせてきた、重力魔法てこんか使い方も出来るんやな。
「えい」
「冷たっ!」
今度はハジメが水をかけてきた……よろしい、ならば
「そぉい!」
「「うわぁぁぁ!」」
ハジメとミレディの首根っこを掴み川に投げ飛ばす。ミレディは重力魔法を使って逃げようとしたから、頭上から同じ様に大量の水を降らせる。
「わぷッ……零斗さん?」
「おっと、こりゃ失敬 」
ハジメが落ち拍子に水が跳ねて、シア達に掛かったらしい。シア達は不敵な笑みを浮かべた。
「「「覚悟ォ!」」」
「ちょ、偵察しなきゃだろ!?」
「あらあら、楽しいそうね」
問答無用と言った様子でそれぞれの手段で水を掛けてくるシア達。シアはドリュッケンで水を打ち上げ、ユエとアルテナはミレディの様に重力魔法で巨大な水弾を作り、ぶつけて来る。
と、そこへようやく息を整えた愛ちゃん達がやって来た。置いていったことに思うところがあるのかジト目をしている。が、男子三人が、水に濡れた事で透けた服のシア達を見て歓声を上げると「ここは天国か」と目を輝かせ、女性陣の冷たい眼差しは矛先を彼等に変えた。身震いする男衆。玉井達の視線に気がつき、ユエ達も川から上がった。
愛子達が川岸で腰を下ろし水分補給に勤しむのを横目に、体と服を乾かしながら、魔改造スマホでオルニスから送られてくる映像を眺める。
「……川の上流に何かあるな。小盾に鞄……まだ新しいな……どうやら痕跡発見みたいだな」
「では、移動しましょうか」
「ん……」
「はいです!」
数十分ほど掛けて川の上流まで登ってきた。愛ちゃん達はまだ疲労が抜けきってない状態で何とか付いてきていた。
到着した場所には、ラウンドシールドや鞄などが散乱していた。ただし、ラウンドシールドは、なにかがぶつかったようにひしゃげて曲がっており、鞄の紐は牙か何かで半ばで引きちぎられた状態だ。
「……こっちに続いてるな」
警戒しながら奥へと進む、次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕もあった。
「ペンダント……いや、ロケットか」
汚れを落とし、留め具をして中を見ると、女性の写真が入っていた。大方、誰かの妻か恋人だろう。
「大分、日も落ちて来たな……今日はここで野営だな」
「……一度も動物以外の生物に遭遇しませんでたね」
位置的には八合目と九合目の間と言ったところ。山は越えていないとは言え、普通なら、弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくないはずで、逆に不気味さを感じる。
感想お待ちしております。