「ティオじゃ!」
「恭弥だ」
「前回は幸利の操ってた魔物達を肉塊にしていったな」
「お主らが大半を片付けておったのぅ……どうなっとるじゃ?」
「気にしない方が楽ですよ……色々とね」
「そ、そうか」
「今回は幸利の話だ……楽しんでくれ」
「「「裏切りの理由!」」」
Side 零斗
拘束した幸利を担いでハジメ達のいる場所まで歩く。さぁて、なんでこんなめんどくさい手法を取ったのか聞かないとな。
「あ!レイトさん!」
「お、シアか……怪我は無いか?」
「ハジメさんがクロスビットで援護してくれたので無傷です!」
「そうかいそうかい……」
途中でシアと合流して、ハジメとも合流した。愛ちゃん達も戦闘が終わった事を確認してこちらへ走ってきている。
「……レイト君、彼をどうするつもりですか?」
「話を聞いてから判断します」
チェイスが気絶している幸利を見ながら質問を投げかけてくる。
愛ちゃんが幸利を揺すり起こそうとしている。やがて、愛ちゃんの呼びかけに幸利が意識を取り戻した。ボーっとした目で周囲を見渡し、自分の置かれている状況を理解したのか、ハッとなって上体を起こす。
「さて、幸利君……全て話して貰いますからね」
「あぁ、分かったよ」
幸利がゆっくりと話始めた。
「……どいつもこいつも俺を『無能』だとか言って来るから見返してやろうと思って闇魔法を必死で鍛えてた……でも見返せなくて、王都の貴族共は勇者ばかり持て囃しやがってよ……俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」
「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」
「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」
「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」
反省どころか、周囲への罵倒と不満を口にする清水に、玉井や園部など生徒達が憤りをあらわにして次々と反論する。
「……そこで魔人族に存在価値を示そうとした……っと?」
「……そうだ」
俺の言葉に仄暗い笑みを浮かべる幸利と驚愕する面々。
「畑山先生……あんたを殺す事でな」
「……え?」
愛ちゃんは、一瞬何を言われたのかわからなかったようで思わず間抜けな声を漏らした。周囲の者達も同様で、一瞬ポカンとするものの、愛ちゃんよりは早く意味を理解し、激しい怒りを瞳に宿して幸利を睨みつけた。
「なるほど、兵量攻めと希望の対象となる愛ちゃんを殺せば人間側の戦闘意欲を削ぐ作戦ですか……随分と雑な攻め方ですね」
なんとも王道みたいな攻め方をするんだな。余り関心は出来ないがな……
「あぁ、そうだ……〝豊穣の女神〟……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ!何なんだよっ!何で、十万の軍勢が負けるんだよ!俺が必死こいて集めた魔物簡単に吹き飛ばしやがってよ!!見てるこっちとしても気持ちいいぐらいに!」
……正直、あの無双感はすげぇ楽しかった。
「ふざけるな!ふざけるな!バカヤロォォオォオ!!」
幸利の慟哭に似た叫びが木霊する。
「……幸利君、君の『特別』になりたいと言う気持ちは間違いではありません。人間として自然な思考です……ですが君は既に『特別』だ」
「え?」
「だって、そうでしょう?十万もの魔物を闇魔法で洗脳し従えた……それは勇者ですら成しえない偉業でしょう……でも、君は方法を間違えた」
実際、あの勇者(偽)でも精々二千が限界だろう。それを数日でこなすのは彼にしか出来ない事であろう。
「君は君自身が思うより『特別』です……それを認知できな──ーコフッ!」
背中に灼ける様な痛みが走る……ゆっくりと身体を見ると、胸を貫通する剣と脇腹に刺さっている毒針があった。
●○●
Side 三人称
「私は──私はやったんだああああああああ!!!ヒャハハハハハハァーッ!!!」
狂気を孕んだ声色の叫びが響き、ゆっくりと姿を現していく……そこには異形の腕を持ったデビッドだった。
「どうだ!その剣に塗られた毒は回復を阻害し、腹部に刺さっているものは数分も持たずに苦しんで死ぬ程の猛毒を持った物だ!」
零斗に向かい吐き捨てるように叫ぶデビット、ハジメ達は急展開に置いてけぼりにされ、呆然と零斗を見ていた。
「あぁ、これで愛子は私のモノだ!」
うっとりとした声で歓喜するデビットに状況をいち早く理解したエトが武器を構える。
「さぁ、愛子!私ともに往こう!」
「れ、零斗君?う、うそですよね?」
膝から崩れ落ちる愛子、それを見て恍惚とした表情をするデビット。
「絶望した顔すら愛おしい……ですが大丈夫ですよ愛子、これからは私が付いて居ますから……」
ハジメ達も遅れて殺意を込めデビットに各々の武器を向ける。それでもなおデビットは愛子にしか意識を向けていない。
「貴方だけは……お前だけは!」
「愛ちゃん……?」
「お前だけは!絶対に許さない!!」
震える声で叫びを上げる愛子、その目には確かな怒りと殺意が宿っていた。
「私の!私の大切な人を傷付けて!それに『私が付いている』?巫山戯ないで!お前の様な低俗な男では、代わりにならいほど特別で優しくて……愛おしい人なんです!」
愛子はそう言うと、突然立ち上がると、今までの様子とは一変し、力強く大地を踏みしめ、デビットを睨みつける。
「ふざけるなァァアァァアア!」
突如としてデビットが絶叫する。そして、そのまま腕を振り上げながら突進してきた。しかし、次の瞬間には、いつの間にか現れた黒い影によって、吹き飛ばされていた。地面に叩きつけられたデビットは起き上がると、自分の身に何が起きたのか分からないという様にキョトンとしている。そんな様子のデビットを尻目に再び愛子の前に立つ人影が現れる。
それは、先程まで倒れ伏していたはずの零斗だった。その姿を見た途端、愛子の目からは涙が流れ出す。零斗は、いつもの様に優しい笑みを浮かべると、 まるで壊れやすい宝物を扱うように、慈しみを持って、愛子の頭を撫でた。すると愛子の顔には安堵の色が浮かぶ。
「ありがとうございます、零斗君……もう、怖くありません」
「怖い思いをさせてしまってすみません」
零斗の言葉を聞いた愛子は首を振ると、少し頬を染めながら微笑む。二人は見つめ合う……そこに流れる空気はとても甘く、見ている者達の心を暖かく包み込むような雰囲気であった。
「貴様……一体何をした?」
デビットは信じられないという目をしながら、掠れた声を出す。一方、ハジメ達は驚愕のあまり言葉を失っていた。それはそうだ、つい数十秒前まで瀕死の状態で血塗れで倒れていたというのに、今はピンピンしているのだ。
「あの程度の毒では私は殺せませんよ……それこそ神すら殺せる毒でないと……ね」
そう言ってクスリと笑う零斗。その目は、デビットを見据えながらも、どこか遠くを見るようで……それでいて、目の前にいるデビットなど全く眼中に無いようだった。
「きっさまああああああああああああ!!!」
激昂して叫ぶデビットに対し、零斗は淡々と言葉を紡ぐ。
「私は貴方に用はありません……大人しく消えなさい」
「黙れぇえ!この化け物がぁああ!」
デビットは再び突撃してくる。今度はその手に剣を携えてだ。だが、その攻撃が届く前に、デビットの動きが止まる。
「ゴブッ……」
「脆い」
零斗がただ一言そう呟いただけで、デビットは口から大量の血液を吐き出す。それは一瞬の出来事だった。ハジメ達が反応する間もなく、気が付いた時には既に終わっており、気が付けば、デビットの胸部には拳ほどの穴が空いていた。
「ごふぅ……なぜだぁあ!?何故、私がこんな奴にぃいい!!」
「……地獄でやってろ」
零斗の手には心臓が握られていた。それを握り潰すと、デビットは力無く倒れる。
「ラネア」
『……何かしら?』
零斗の影から下半身が蜘蛛、上半身は人間の女性が這い出てくる。俗に言うアラクネというやつだ。
「この人間、貴方の子供達の食料です」
『あら、ありがとう。
そう言うと女性は倒れたまま動かないデビットに近づくと、その身体から、ずるりと糸を引きながら出てきた。
「あ、あの零斗君……彼女は一体誰なんですか?」
「彼女は私の仲間ですよ、主に情報収集をして貰っているんですよ」
『私の子供達を使って……ね』
ラネアはパチリとウインクをして補足を行う。
『あ、玉井君だったかしら……ベットの下はもう少しだけ綺麗にした方がいいわよ?』
「ブッ!」
『それと、園部さん?レイトに夜這いするなら覚悟した方がいいわよ……彼かなりのSだから』
「ふぇ!?」
クラスメイト達をからかいながら死体を糸でぐるぐる巻きにする。そして、死体を掴むと、そのまま零斗の影の中へと沈んでいった。
「さて、幸利君……覚悟は出来てるんでしょうね?」
「ひっ……」
恐怖からか後ずさる幸利だったが、直ぐに壁にぶつかると逃げ場を失う。そんな様子を冷めた瞳で見ながら、ゆっくりと近づいていく。
「残念ですが……私は裏切り者を生かしておける程優しくは無いのですよ……では、さようなら」ドパァン!
そう言うと、零斗は躊躇なく引き金を引いた。放たれた弾丸はそのまま幸利の額へと吸い込まれて赤い飛沫を上げる。その光景を見てもなお、愛子達は何も出来なかった。いや、正確には動けなかった。それほどまでに今の一撃は非現実的なもので、常人には理解出来ないものだったからだ。そして、その場にいる誰もが、今起きた出来事を現実として認識出来ずにいた。
「……!避けてぇ!」
そう叫びながら、シアは、一瞬で完了した全力の身体強化で縮地並みの高速移動をし、愛子に飛びかかった。シアの叫びに反応出来なかった園部の胸を蒼色の水流が貫通したのは、ついさっきまで愛子の頭があった場所をレーザーの如く通過したのはほぼ同時だった。
「クソ!」
零斗が水のレーザー、おそらく水系攻撃魔法〝破断〟を打ち払う。そして、シアの方は、愛子を抱きしめ突進の勢いそのままに肩から地面にダイブし地を滑った。もうもうと砂埃を上げながら、ようやく停止したシアは、「うぐっ」と苦しそうな呻き声を上げて横たわったままだ。
「シア!」
突然の事態に誰もが硬直する中、ハジメがシアの名を呼びながら全力で駆け寄る。そして、追撃に備えてシアと彼女が抱きしめる愛子を守るように陣取った。
恭弥はルトゥーナのスコープで〝破断〟の射線を辿る。すると、遠くで黒い服を来た耳の尖ったオールバックの男が、大型の鳥のような魔物に乗り込む姿が見えた。
「恭弥!撃ち落とせ!」
「了!」
恭弥は飛び立った魔物と人影にルトゥーナを連射する。オールバックの男は、攻撃されることを予期していたように、ハジメの方を確認しつつ鳥型の魔物をバレルロールさせながら必死に回避行動を行った。中々の機動力をもってかわしていた魔物だが、全ては回避しきれなかったようで、鳥型の魔物の片足が吹き飛び、オールバックの男の片腕も吹き飛んだようだ。それでも、落ちるどころか速度すら緩めず一目散に遁走を図る。攻撃してからの一連の引き際はいっそ見事という他ない。
おそらく、あれが清水の言っていた魔人族なのだろうと零斗は推測した。既に低空で町を迂回し、町そのものを盾にするようにして視界から消えている。ハジメ達の攻撃手段を知っていたような逃走方法だったことから、魔人族側に自分達の情報が渡るだろうと苦い表情をする零斗。
「シア、大丈夫か?」
「私は大丈夫です……それよりそっちの女の子の方を……」
幸いシアの反応が早かったため二人は無傷だった。もっともいきなり飛びついたためシアは顔面からタイブした為か泥まみれになっている。
「……っつあ…………うぅ……」
「園部さん、飲んでください」
「……コプ……」
傷が深いためか自分では上手く飲み込めないようだ。しまいには、気管に入ったようで激しくむせて吐き出してしまう。零斗は、愛子が自力で神水を飲み込むことは無理だと判断し、残りの神水を自分の口に含むと、何の躊躇いもなく園部に口付けして直接流し込んだ。
「ッ!???!」
園部が大きく目を見開く。次いでに、零斗の周囲で男女の悲鳴と怒声が上がった。しかし、零斗は、その一切を無視して、園部の口内に舌を侵入させるとその舌を絡めとり、無理やり神水を流し込んでいく。
「ぷッはぁ……大丈夫ですか?」
「……」
「園部さん?」
「……」
「園部さん!」
「ひゃい!?」
零斗が園部に容態を聞くために呼びかけるが、零斗を見ながらボーとして動かない園部。それに業を煮やした零斗が少し強めに呼び掛ける。
「身体に異常は?」
「な、ないでしゅ……違和感はないよ、むしろ気持ちいいくらいで……って、い、今のは違うから!決して、その、あ、ああれが気持ち良かったということではなく、薬の効果がry」
「……分かりましたから落ち着いてください」
ホッとしたのか僅かに微笑む零斗、その顔を見て更に顔を赤くする園部。零斗は園部をハジメ達に任せて、幸利の方へ歩いていく。
「……もう起きていいですよ」
「れ、零斗君……清水君はもう……「ん?もういいのか?」えぇ!?」
「流石に疲れた……んん!」
ムクリと起き上がり身体を伸ばす幸利に驚愕する愛子達。
「貴方はもう少し……作戦を練りなさい!」
「ブベラ!……痛ってぇぇ」
「私がティオさんの記憶を探らなければ貴方ホントに死んでいたんですよ!?」
「時間がなかったんだからしょうがないだろ!?」
零斗が幸利にゲンコツをいれて説教を始める。愛子達は当然置いてけぼりだ……
「あ、あの一体どういう事なんですか?」
「……闇魔法でティオさんの記憶を一部改竄したんですよ」
「記憶を改竄?」
愛子達が首を傾げると、零斗が説明を始めた。
「闇魔法は……まぁ、主に洗脳系の物は対象の脳に干渉して術者を保護対象として認識させる仕組みになっているんです」
「それと何が関係しているんですか?」
「脳に影響を与えられるなら、記憶を操作する事さえ可能になるんですよ……そこでティオさんの洗脳中に作戦の概要を話し、その記憶を書き換えた……こんな感じです」
「そんな事が……」
愛子が感心したように呟く。実際、清水の行った事は高度な技術と医療知識が必要なのだが、それをまるで当たり前のように説明する零斗に、全員が畏怖の念を抱く。
「……ふぅ、流石に疲れましたね」
そう言ってその場に座り込む零斗。
「ウィル君を帰すのは明日にしましょうか……」
その後、町では盛大な宴会が行われた。町の人達が総出で準備したのだ。そして夜通し騒ぎ続けた。誰もが笑顔で酒を酌み交わし、美味しい料理を食べ、歌い、踊り、語り合った。それは今まで経験したことのないほど楽しく幸せなひと時だった。