「シアです!」
「アルテナ・ハイピストです」
「前回は僕とシアさん、アルテナさんとのデートだったね」
「まさか、あの人?とまた会うことになるとは思いませんでした……」
「私たちの所為であんな事になってしまったのはホントに申し訳ないですぅ……」
「アハハ……本人はあんまり気にしてないみたいだし大丈夫じゃない?」
「今回は……僕が父親に?どういう事?」
「「さ、さぁ?」」
「「「ハジメ、パパになるってよ!」」」
Side ハジメ
メアシュタット水族館を出て昼食も食べた後、僕達三人は、迷路花壇や大道芸通りを散策している。
「んぅ〜!美味しいですぅ!」
モキュモキュ「〜〜♪」
シアさんの腕には、露店で買った食べ物が入った包みが幾つも抱えられている。今は、バニラっぽいアイスクリームを美味しいに食べている。その隣でアルテナさんは焼き串を幸せそうな顔をしながら頬張っている。
「よく食べるね……そんなに美味しいの?」
「あむっ……はい!とっても美味しいですよ!」
「そんなに食べて大丈夫?太……ふくよかになっちゃうよ?」
「ハジメさん、オブラートに包みきれてないです……」
隣でシアさんが『後で運動しますし……』とか『明日からは制限しなければ……』とか色々と聞こえてくる。
「ん?」
「どうかしましたか?ハジメさん」
「気配感知に反応があったんだけど……」
「気配感知なんて使ってたんですか?」
「何時も発動はしてるんだけど」
「う~ん?でも、何が気になるんです?人の気配って言っても……」
シアさんは周囲を見渡して「人だらけですよ?」と首を傾げた。
「下水道に人の気配?しかも大きさからしたら子供、しかもかなり弱ってるみたいだけど……」
「ッ!?た、大変じゃないですか!もしかしたら、何処かの穴にでも落ちて流されているのかもしれませんよ!」
「あ!シアさん!ん、もぅ!ハジメさん!追いかけましょう、どっちですか!」
シアさんが慌てて走り出し、アルテナさんと一緒にその後を追っていく。気配感知の反応は下から、しかもかなり弱っている。僕は二人を追い抜いて、路地裏に入って行く。
「二人とも!こっち!」
僕の声を聞いて二人は急いで駆け寄ってくる。反応を追いながら街中を走る。
「……反応がちょっとだけ強くなってる?しかも下じゃなくて僕達と同じ位置に?」
少し違和感を感じながらも、それを無視して走る速度を上げる。反応のある建物まで付いた頃には、シアさんとアルテナさんの息が上がりかけていた。
二人の息が整うまで待ってから錬成で壁に穴を開ける。足を踏み入れようとした瞬間……
ドパァン!「!?」
乾いた破裂音が響いた。それが銃の発砲音と気づいたシアさんがドリュッケンで防いでくれた。そして、白いナニカが僕らの間を高速で抜けていった。
「クソ!逃げられ……ハジメ?」
「え?零斗?」
悪態を付きながら建物から出てきた零斗、それに呆然とする僕。でも、どうしてここに……
「あー……お前達も下水道にあった反応を追ってたのか?」
そう言いながら視線を泳がす零斗の後ろを見る。そこには気絶した女の子がいた。
「この子は……」
「海人族だ、恐らくだが奴隷として売られそうになっていたんだろうな……」
女の子は見た目三、四歳くらいだ。エメラルドグリーンの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをしている。
「ハジメ、この子の事しばらく頼んだ……俺は逃げたクソシラミ野郎をぶち殺してくる」
「え!?ちょ……行っちゃった……」
それだけ言うと、物凄い速さで飛び出してしまった。唖然とする僕達を置いて行ってしまった。
「えっと……先ずは身体を身体をキレイにしなきゃだよね、怪我もしてるみたいだしそれも治して上げないとだね」
「では、私はこの子の替えの服を買ってきますね」
アルテナさんが着替えを買いに行ってくれてる間に僕は錬成で簡易的な浴槽と桶を作る。宝物庫から綺麗な水を取り出してフラム鉱石を利用した温石を入れる。
ある程度温まったらタオルをお湯に浸して絞る。それを少女の頭に被せるようにして拭いてあげる。すると、意識を取り戻したようで目をパチクリとさせた。
「あ、起きた?大丈夫だよ、怖くないよ」
優しく話しかけると怯えていた表情が和らいでいった。
「あぁ、そうだお腹空いているだろうけど先にこのお薬と身体をキレイにしてから……ね?」
コクンと小さく首を動かしてくれたのを確認して、ゆっくりと薬を飲ませる。飲み終わったところで、アルテナさんが戻って来たので一緒に服を着せてあげて、シアさんが買ってきていた串焼きを食べさせてあげた。その間もずっと僕の手を握って離さなかった。
「君、名前は?言える?」
「……ミュウ」
「そっか、良い名前だね……じゃあ、ミュウちゃん、何があったか教えてくれる?」
優しく頭を撫でながら問いかける。震えながらもポツリポツリと話してくれた。
要約すると、ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間の男に捕まったらしい。そして何日かしてフューレンまで連れてこられて、薄暗い牢獄の様な場所に入れたのだと言う。
そこには、他にも人間族の幼子たちが多くいたのだとか。そこで何日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかったという。少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。
いよいよ、自分の番になったところで、その日たまたま下水施設の整備でもしていたのか、地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。三、四歳の幼女に何か出来るはずがないとタカをくくっていたのか、枷を付けられていなかったのは幸いだった。汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだミュウ。幼いとは言え、海人族の子だ。通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつくことは出来なかった。
だが、慣れない長旅に、誘拐されるという過度のストレス、慣れていない不味い食料しか与えられず、下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。そして、身体を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけば僕に身体を洗われていたらしい。
(零斗の言ってた通り、奴隷にされそうだったんだ……)
その話を聞いたシアさんは怒りに肩や拳を震わせ、アルテナさんも心底嫌悪しているようだ。
「……ハジメさん、どうしますか?」
アルテナさんがミュウを抱きしながら聞いてきた。亜人族は、捕らえて奴隷に落とされるのがこの世界の常識だ、その恐怖や辛さは、シアさんもアルテナさんも家族を奪われていることからも分かるのだろう。
「……保安署に預けよう」
「そんなっ……この子や他の子達を見捨てるんですか……」
シアさんの言葉には悔しさが滲み出ていた。確かに、このまま放っておくことは出来ない。でも、だからと言って、僕達がこの子を連れて行くことも出来ない。
ここで感情的になって行動すれば、この子を傷付けてひまう。それは絶対にダメだ。僕達は、正義の味方じゃないんだから。
「……今の僕達が出来ることは、保安所に任せることだけだよ」
「……わかりました」
「ミュウちゃん、これから君を守ってくれる人達の所へ連れて行く。時間は掛かるだろうけど、いつか西の海にも帰れる筈だよ」
「……お兄ちゃんとお姉ちゃん達は?」
僕の服の袖を掴みながら上目遣いでそう尋ねてくる。
「……ごめんね、そこでお別れだよ」
「やっ!」
「えっとね、僕達に付いてくると危ないんだよ?怖い人もいっぱいいるから、君のお母さんを探すどころじゃ無くなっちゃうかもだしさ」
「それでもいい!お兄ちゃん達と行く!」
思いのほか強い拒絶が返ってきてちょっとびっくりした。ミュウは、駄々っ子のようにシアの膝の上でジタバタと暴れ始めた。可笑しいな……さっきまでは警戒してた筈なんだけど、急に懐かれちゃった……
どっちにしろ公共機関への通報は必要だし、大迷宮の『大火山』の攻略もしないとだけど、ミュウを連れては無理だろうし……説得は無理だろうし、強引にでも保安署に預けよう。
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「す、すみません……」
「はい、なんで……は?」
僕の姿を見ると受付のお姉さんが固まってしまった。ミュウを預けに来ただけなのに…… シアさんとアルテナさんの二人も、苦笑いを浮かべている。
髪はボサボサだし、頬に引っかき傷が出来てるし、そんな姿で保安署に到着して、いきなりの応対がこれだもん仕方ないか……。
事情を聞いた保安員は、表情を険しくすると、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要との事で、ミュウを手厚く保護する事を約束しつつ署で預かる旨を申し出てくれた。
「お兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」
「うぐっ……」
涙を溜めながら訴えかけて来る瞳を見てしまえ平常心を保てる人はそうはいない、ましてや、それが幼女なら尚更だ。
僕は、ミュウに対してとても酷いことを言ってしまった自分を情けなく思った。それから、旅には連れて行けないこと、眼前の保安員の人に任せておけば家に帰れる事を根気よく説明するが、ミュウの悲しそうな表情は一向に晴れなかった。
見かねた保安員達が、ミュウを宥めつつ少し強引に僕達と引き離し、ミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれつつも、ようやく保安署を出た。当然、そのままデートという気分ではなくなり、シアさんは心配そうに眉を八の字にして、何度も保安署を振り返っていた。
「……お母さんにお会い出来るといいですね」
「……うん」
アルテナさんの言葉に短く返す。アルテナさんも思うところがあるのか、それ以上言葉を続ける事はしなかった。しばらく歩いて保安署からかなり離れた場所に来たころ、未だに沈んだ表情のシアさんに何か声をかけようとした。と、その瞬間……
ドォガァアアアン!!!!
背後で爆発が起き、黒煙が上がっているのが見えた。その場所は……
「ハ、ハジメさん。あそこって……」
「保安署!」
黒煙の上がっている場所は、間違いなく先程までいた保安署のあった場所だった。二人を置いて保安署に駆け戻る。
焦る気持ちを抑えつけて保安署にたどり着くと、表通りに署の窓ガラスや扉が吹き飛んで散らばっている光景が目に入った。建物自体はさほどダメージを受けていないようで、倒壊の心配はなさそうだった。中に踏み込むと、対応してくれた男の保安員がうつ伏せに倒れているのを発見する。
両腕が折れて、気を失っているようだ。他の職員も同じような感じだ。幸い、命に関わる怪我をしている者は見た感じではいなさそうである。
「ミュウ!!」
思わず叫んでしまったが、返事はない。
「ハジメさん! ミュウちゃんがいません! それにこんなものが!」
シアさんが手渡してきたのは、一枚の紙。そこにはこう書かれていた。
〝海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族と森人族を連れて○○に来い〟
「ハジメさん、これって……」
シアさんの不安げな視線に、僕も首を縦に振る事しかできなかった。
「ハジメさん!私!」
「うん、分かってるよ……ミュウを誘拐した連中は僕らの敵だ、容赦は必要無い。全員殺してでもミュウを取り返そう」
シアさんは僕が言うまでもないだろう。もう既に目つきが変わっていて、殺意に満ちている。アルテナさんも無言でコクリと首肯する。
ミュウを誘拐した奴らへの怒りもあるが、そもそもの発端は、僕の慢心が原因だ。ミュウを攫われる事も予想出来たはずだ。自分の迂闊さが許せない。どんな手を使ってでも必ず助け出す。
(……ォ…………ォ…………)
今、誰かの声のような物が聞こえた気がした。周りを見渡しても誰も居ない。
「ん?人の声?」
アルテナさんも不思議そうにしている事から、僕だけでなくシアさんとアルテナさんにも聞こえていたみたいだ。
「気のせいかな?」
「いえ、確かに聞こえましたけど……」
シアさんは耳が良いから僕よりはっきりと分かったのかもしれない。
「……ォ…………ァ…………ゅ……」
また、微かにだけど聞こえた。今度は聞き間違いじゃないと思う。アルテナさんも同じように認識しているのか、周囲を警戒するようにキョロキョロと見回していた。
ドゴォォォォォン!!
突然、建物が揺れるような大音響が鳴り響き、黒い物体が天井を破壊して落下してきた。落下地点を見ると……世界一有名な噛ませ犬キャラのやれ方と同じ体勢で地面に埋まっている何者かがいた。咄嵯に臨戦態勢を取る、けどすぐに緊張を解く事となった。
「あの野郎……痛てぇ……」
「れ、零斗?」
見慣れた顔の男が瓦礫を押し退けながら起き上がってきたのだ。
「な、なんで空から……」
「あのシラミ野郎を追ってたらいきなり二万フィートくらい上空に転送されてな……」
服に付いた汚れをはたきながら説明する零斗。というかよく、二万フィート(六〇〇〇メートル強)まで飛ばされたのに生き残ってるよね。その後は、そのまま地上へ自由落下し、現在に到るという訳らしい。
「擬態とか使って浮遊とかしなかったの?」
「転送と同時に毒か何かを打ち込まれたらしくてな……ちょいと能力の一部が使えなくてな」
零斗はそう言うと変化の時と同じように黒い霧が立ち上るがすぐ様霧散して消えてしまった。どうやら、本当に能力は使えない状態のようだ。
「それ大丈夫なの?」
「あぁ、問題ない。あと数分もすれば解毒できる……さて、次はそっちの番だ。一体、何があった」
おちゃらけた口調から一転して真剣な声色に変わった零斗。僕は、とりあえず事情を説明する事にした。僕達の話を黙って聞いていた零斗は、状況を理解してくれたようだ。
「……なるほど、確かここら辺で巨大な組織かつ、人身売買が主体だとすると……〝フリートホーフ〟だな」
「あ、知ってるんだ」
「まぁな、教授がこの世界の裏組織全般を把握してるし、八割がた支配してみたいだしな」
流石は犯罪界のナポレオンだね……というか、その言い方だと残りの二割の組織は壊滅状態に追い込まれているような……。
「とりあえずは指示された場所に行ってそこにいるであろう奴らを拷問してアジトの場所でも聞き出すか」
淡々と凄い事を言うなぁ……とにかく今はミュウを救出する事が最優先事項だ。
ダディなら裏組織を八割がた支配出来そう……なんなら全部してても違和感ないよ()