「ハジメです」
「アルテナ・ハイピストです」
「さて、前回はミュウちゃんが誘拐されたな……さぁて、犯人共は血祭りにしなきゃな」
「お、落ち着いてください、レイトさん……あぅ、殺気が凄い……」
「ここまでキレてる零斗は初めて見るかもしれない……」
「今回はミュウちゃんの奪還だ、楽しんでくれ」
「「「ハジメ、パパになるってよ2!」」」
Side 三人称
フューレンの何処かにある、裏オークション会場。
会場の客はおよそ百人ほど。その誰もが奇妙な仮面をつけており、物音一つ立てずに、ただ目当ての商品が出てくるたびに番号札を静かに上げるのだ。素性をバラしたくないがために、声を出すことも躊躇われるのだろう。
「五十二番の方、お買い上げありがとうございます。それでは皆さん、本日のメイン商品をご紹介しましょう!」
出てきたのは二メートル四方の水槽に入れられた海人族の幼女……ミュウだ。衣服は剥ぎ取られ裸で入れられており、水槽の隅で膝を抱えて縮こまっている。
「…………」ギュ
多くの視線に晒され怯えるミュウを尻目に競りは進んでいく。ものすごい勢いで値段が上がっていく。ざわつく会場に、ますます縮こまるミュウ。
「お兄ちゃん……お姉ちゃん……」
ミュウがそう呟いたとき、不意に大きな音と共に水槽に衝撃が走った。
「ひぅ!」
怯えたように眉を八の字にして周囲を見渡すミュウ。すると、すぐ近くにタキシードを着て仮面をつけた男が、しきりに何か怒鳴りつけながら水槽を蹴っているようだと気が付く。
どうやら更に値段を釣り上げるために泳ぐ姿でも客に見せたかったらしく、一向に動かないミュウに痺れを切らして水槽を蹴り飛ばしているらしい。
『もうしばらくの辛抱だ、お嬢ちゃん……すぐに助けが来るから』
「え?」
突然、脳内に男の声が響く。未体験の現象に恐怖の涙を浮かべながら、ミュウはキョロキョロと水槽の中を見回す。
『上だよ、お嬢ちゃん』
「上?」
声の言った方向を見ると、真っ黒な格好をした人間が逆さまの状態で天井にぶら下がっているのが見えた。その人物はヒラヒラと手を振っていた……あまりにも緊張感がない男だ。何かを言おうとするミュウに男は人差し指を唇に当てる。ミュウはパッと片手で自分の口を押さえた。
「全く、辛気臭いガキですね。人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ。半端者の能無しのごときが!」
司会の男の言葉で意識を無理やり引き起こされる。司会の男が脚立に登り上から棒をミュウ目掛けて突き降ろそうとした。その光景にミュウはギュウと目を瞑り、衝撃に備える。
「ドンタッチチャイルド!!!!」
怒声と衝撃音が会場に響き渡る。司会の男が脚立ごとミンチよりひでぇや状態になる。突然司会が死んだことに、客席からちらほらと悲鳴が上がった。
「……流石にやり過ぎたな」
服に付いた返り血を拭きながら、ミュウの入っている水槽に近ずいて行く黒ずくめの男。そのまま、水槽を殴る。破砕音と共に水槽が壊され中の水が流れ出す。
「ひゃう!」
流れの勢いで、ミュウも外へと放り出された。直後ふわりと温かいものに受け止められて、瞑っていた目を恐る恐る開ける。
「初めまして、可愛らしいお嬢さん」
「……誰?」
「俺はハジメ達の仲間だ。助けに来たんだ」
ハジメ達の名前を聞いて、顔を輝かせるミュウ。それを見た零斗はミュウの頭を優しく撫でる。
●○●
Side 零斗
ミュウの保護を完了し、後はこの場にいる全員の始末だけだな……
「ミュウ、これを耳に付けて。それと俺が大丈夫って言うまで目つぶっててくれるかい?」
「みゅ?」
ミュウの様なヒレ耳の人物でも付けれるヘッドホンを手渡して、装着したのを確認して、魔改造スマホで音楽をかける。
「!!──♪」
流した曲が気に入ったのか鼻歌交じりで目を閉じてくれた。うん、可愛い。
「さて……初めまして、他者を踏み躙ることでしか生を謳歌できぬ獣の諸君。今宵、披露いたしますは世にも珍しい、人間解体ショーになります、お代は演目に参加頂く、貴様らの薄汚れたゴミのような命と身体になります……では、心ゆくまでご堪能ください」
俺の異様な雰囲気に怯えたのか、悲鳴を上げ我先にと外に出ようとした。
「おやおや、主役が逃げてはつまらないでしょう?」
繰糸で足を縛り、その場から動けないようにする。先ほど以上の怒号が飛び交い、情けない悲鳴がそれを彩る。
「『召喚』……『上位アンデッド
『ヴァァァァァァ!!!』
召喚したアンデッド達は継ぎ接ぎだらけで、腕や足はもはや原型を留めているのがやっとの程に腐敗している。
「イ、イヤァァァ!!」
「か、金なら腐るほどある、好きなだけやる!だから助けてくれ!!」
「ふざけるな!何故、私の様な素晴らしい者をこの世から消す事など……許される筈がない!!」
口々に情けない悲鳴やら、命乞いの言葉を発するが聞き入れる必要も気も無いのでガン無視を決め込み、喰われていく様を眺める。
「さて、ゴミ掃除も終わった事だし、そろそろ行くか。ミュウ、もう良いよ」
「んみゅ、もういいの?」
「うん、いいよ」
ミュウの頭を撫でながら、オークション会場を出る。入口付近にはハジメが待機していた。ミュウの顔を見るとホッとした表情になり、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「ミュウ……よかった、無事でよかった……」
「お兄ちゃん!!」
ハジメの首元にギュッウ~と抱きついてひっぐひっぐと嗚咽を漏らし始めた。ハジメはミュウの背中をポンポンと叩く。
「……ごめんね、怖い思いさせちゃって」
「ううん……ミュウ、へいきだったよ」
涙声で答えるミュウに微笑むハジメ。
「ハジメ、首尾は?」
「問題ないよ」
「なら、ここから離脱だな」
ミュウはハジメに任せて、ポケットからリモコンを取り出し、スイッチを押す。背後で爆発音と建物が倒壊する音が聞こえてくるが……キニシナイーキニシナイー
──────────────────────────
「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員九十八名、再起不能四十四名、重傷二十八名、行方不明者百十九名……で? 何か言い訳はあるかい?」
「……特にないな」
報告書片手にジト目で睨んでくるイルワさん。俺の回答を聞いた瞬間、ちょっとだけ老けた様に見える。
「ん〜♪」
「ンッ!!」(尊死)
「……可愛すぐる」
後ろの方でエト達ミュウの可愛いさにやられている。エトが胸を抑えながら尊死し、ユエがむぎゅ~と音がしそうなほどキツく抱きしめ、ミレディとティオが微笑ましいそうにしている。
「自由だねぇ……羨ましいよ」
「苦労してんねぇ」
「君達のおかげでね……」
イルワさんの片手が自然と胃の辺りを撫でさすり、傍らの秘書長ドットが、さり気なく胃薬を渡した。
「……まぁ、やり過ぎたとは思ってるよ」
「全くだよ……だが、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね……今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしている」
「それに、違法な現場を抑えても、トカゲの尻尾切りだったんだろ?アンタ達のやり方じゃ、あんな連中の根絶なんざ無理だ」
「……随分とバッサリ言ってくれるね」
「ま、安全かつ確実にやる分にゃ、問題は無いが……救えない命が増えるだけだ」
俺の言葉にイルワさんもドット秘書長も苦虫を噛み潰したよう表情になる。
「……別にアンタらが悪いどうこうの話じゃないさ、向こうが上手だったてだけだ」
「そう言ってくれると、ありがたいよ」
苦笑いを零しながら話すイルワさん。ま、俺のやり方じゃ、必要の無い犠牲まで出かねんからなぁ……一概にこれがいいとは言えないんだよな。
「それで、そのミュウ君についてだけど……」
「それについてはもう決まっています」
「みゅ?」
エトに髪をいじられてたミュウは、自分のことだと察したのかハジメの方を見る。ちょっぴり不安そうな顔だ。
「僕達が責任持って、この子を親元まで届けます」
「お兄ちゃん!」
満面の笑みで喜びを表にするミュウ。【海上の都市エリセン】に行く前に【大火山】の大迷宮を攻略しないいけないが……まぁ、何とかするか。
「後、ミュウちゃん、その呼び方なんだけど……お兄ちゃんじゃなくて別のにしない?」
「……? なんで?」
「気恥ずかしいというかなんというか。できれば変えて欲しいんだけど……」
ハジメの要求に、ミュウはしばらく首をかしげると、やがて何かに納得したように頷き……ハジメどころかその場の全員の予想を斜め上に行く答えを出した。
「……パパ」
「………………え?」
「ブフッ!」
「ごめん、ミュウ。よく聞こえなかったから、もう一回お願い」
「パパ」
アハー↑まさかパパ呼びなのかよ。ハジメがものすごい剣幕で睨んでくるが、この状況を笑わないのは無理だろ。
「クフ……良かったな、ハジメ。フフ……それだけ慕われてるって事だろ?」
「相変わらず堪えきれて無いぞ!零斗ォ!」
殴り掛かってくるハジメと取っ組み合いをしていると、シアがミュウに何故『パパ』なのか聞いていた。
「ミュウね、パパいないの……ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの……キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの……だからお兄ちゃんがパパなの」
「何となくわかったけど、色々とツッコミたい。ミュウ。お願いだからパパは勘弁して。僕は、まだ十七なんだよ?」
「やっ、パパなの!」
「わかった。もうお兄ちゃんでいい! 贅沢はいわないからパパは止めて!」
「やっ──!! パパはミュウのパパなのー!」
その後、あの手この手でミュウの〝パパ〟を撤回させようと試みるが、ミュウ的にお兄ちゃんよりしっくり来たようで意外なほどの強情さを見せて、結局、撤回には至らなかった。
ちなみにこの後は、誰がミュウに『ママ』と呼ばせるか争っていた(エト以外)が取り敢えず、ミュウに悪影響が出そうなティオだけは縛り付けて床に転がしておいた。当然、興奮していたが……
結局、『ママ』は本物のママしかダメらしく、ユエもシアもアルテナも一応ティオも『お姉ちゃん』で落ち着いた。
────────おまけ────────
「ミュウ、俺は?」
「ん〜……レイおじちゃん!」
「コフッ……」
まさかのおじちゃん……いや、まぁ、実年齢だとオッサンだけど……予想以上にダメージが大きい。
「せめて、兄さん……」
「おじちゃん!」ニコー
「……もう、おじちゃんでいいや」
この子、自分の可愛いさ、理解して行動してるよ……末恐ろしいよ、ホントに……
「よろしくお願いしますね?お義父さん?」
「おう、世話になるぞ……息子くん?」
「「……違和感しか無いな(ね)この呼び方」」
「何をしてるんですか、貴方達は……」
零斗君は子供好き……というか、子供の成長過程と笑顔がすき。決してロリコンでは無い。