「今回は僕一人だよ……なんというか寂しいね」
「さて、気を取り直して……前回は魔人族の女性との会話と戦闘、そしてあのとち狂った女との接触だったね……あの人、僕さえ関わってなかったら割とマトモな感性だったんだけどな……」
「今回はラピスとの戦闘だよ、楽しんでね」
「抱えきれない絶望を……」
Side 柊人
斬撃と重々しい打撃音が響き渡る。ナイフが振るわれれば石壁がバラバラに崩れ、鞭が振るわれれば衝突した場所が砕け散る。
(……一撃一撃が重すぎる!たった一撃食らっただけで気力も体力も根こそぎ削ぎ落とされるみたいだ!)
内心で悪態をつく。次第に自身の身体に傷が増えていく。既に全身血塗れになっており、出血量も多い。しかし、それでも倒れるわけにはいかない。自分が倒れれば、逃がした悠花達に必ず被害が出てしまう。
「ほらほらぁ!!もっと頑張らないと死んじゃいますよぉ!?」
狂気じみた笑みを浮かべるラピスに対し、柊人の脳内では警鐘が鳴り響いていた。このままじゃ確実に殺される。それは確信に近いものだった。
どうすればこの状況を切り抜けられるのか、必死になって思考を巡らせる。しかし、その答えが出る前にまたもや重い衝撃に襲われる。今度は腹を殴られ、そのまま吹き飛ばされてしまった。
「かはっ……」
「あら?これで終わりですか?」
口の中に鉄の味が広がる。何とか立ち上がろうとするものの、力が入らない。視界も霞んできている。そんな状態にも関わらず、頭だけは妙に冴えていた。
「……僕が諦めが悪い事は知っているでしょう?」
そう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。それを見たラピスは満足そうな表情を見せた。
「ふふっ、良いですよ。貴方のそういう所、私大好きです♪」
「それは光栄ですね。だけど、僕はあなたの事なんて大嫌いですよ」
言い放つと同時にラピスの背後に回り込む。だが、それに反応して振り返りざまに鞭を振るう。
「グッ!!」
辛うじて回避したものの、左肩を掠めてしまい鮮血が舞う。痛みはあるが、まだ戦えるレベルだ。
「へぇ……今のを避けるんですね。流石です」
「これくらい余裕ですよ」
強がってみせるが、実際はギリギリだった。もし、少しでも反応が遅れていれば間違いなく致命傷を負っていただろう。
「いい加減……終わらせましょうか!」
言うなり、先程よりも速い速度で襲いかかってくる。それを間一髪で避けるが、体勢が崩れて膝を突いてしまう。
「もうお終いですか?ならさようなら!」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、止めを刺すべく、鞭を振り下ろす。
「まだまだァ!!」
地面を思い切り蹴る。それと同時に身体強化を発動させ、思いっきり横へと飛ぶ。その結果、直撃は免れたものの、完全に避けきる事は出来ずに左頬を掠める。一旦距離を取り、再び構えを取る。
「あれ?まだ動けたんですかぁ?」
「当たり前じゃないですか。こんな所で死ぬ訳にはいきませんよ」
「でも、その状態で何が出来るんですぅ?」
ラピスの言葉通り、かなり追い詰められている。既に立っているのがやっとの状態で、まともに動く事も出来ない。それでも……
「必ず貴様を殺す」
「あぁ~!素敵ぃ!!やっぱり私は貴方の事が好きです!!」
興奮した様子を見せると、今まで以上の速さで襲いかかってきた。
(右……死角からの横薙ぎ……打ち上げ……)
極限まで研ぎ澄まされた感覚により、攻撃の軌道を読み取る。そして、ラピスの攻撃に合わせるようにナイフを突き出す。甲高い金属音と共に互いの得物がぶつかり合う。
「……そろそろ、頃合ですね」
「何がですか?あ!もしかして私に殺されてくれるんですか!?」
「いいえ?そろそろ悠花達が僕が本気で暴れても被害が出ない位置まで撤退出来た様なので……」
言い終わると同時にラピスの腹部に蹴りを入れる。突然の事に反応出来なかったのか、モロに喰らい後方へと吹き飛ばされた。
「殺す気でお相手しましょう」
「あぁ……ようやく本気を出してくれますかぁ……♡」
先程のダメージなどまるで無かったかのように嬉々として起き上がると、すぐに襲い掛かってくる。
「『バケモノダンスフロア』」
イヤホンをつけ直し、スマホで音楽を掛ける。脳内でスイッチを切り替える。
「我は求めん、狂乱の証を……我は望まん、血の宴を──この身は狂気へ捧げん──『狂乱ノ宴』」
詠唱を終えると同時に、喰種化と身体能力強化のギアを上げる。すると、全身の血が沸騰するかのような錯覚に陥る。視界は赤一色に染まり、聴覚は鋭敏になり、嗅覚は更に鋭くなる。
「
「あぁ……凄く良いです!!その顔も声も仕草も全て愛しい!!もっと見せてください!!」
まずは距離を詰める為、一気に加速する。ラピスまでの距離はおよそ10メートル。一瞬にしてその間合いを潰す。
「なっ……!?」
「……遅い」
驚愕の表情を浮かべるラピスの首元にナイフを突き立てる。しかし、その一撃は空を切る。
「危ない危ない……今のは本当に驚きましたよ」
言葉とは裏腹に、全く焦った様子が見られない。余裕の表れなのか、それとも何か狙いがあるのか……どちらにせよ油断は禁物だ。
「次はこちらの番です」
そう言って鞭を振るう。その速度は今までとは比べものにならないほど速い。だが、今の俺にはスローモーションのように見えていた。迫り来る鞭に対し、最小限の動きで回避しつつ懐に入り込む。そのまま鳩尾に拳を叩き込み、吹き飛ばす。
「ガハッ!!」
苦痛に顔を歪めながら数メートルほど転がった後、立ち上がってくる。
「まだまだこれからですよぉ!」
「……黙れ」
「ッ!?」
ラピスの顔スレスレを掠めるようにナイフを投げ付ける。それと同時に走り出し、追撃を仕掛ける。
「ふっ!」
「うぐぅ!!」
手にしたナイフを投擲し、間髪入れずに鳩尾に拳を叩き込む。ラピスは直前で後ろへ飛ぶことで直撃は避けたが、殴りによって生み出された衝撃までは防げずに吹き飛ぶ。空中で体勢を立て直すと、鞭をしならせながら振り下ろしてくる。
「無駄だ」
その攻撃を難なくかわすと、今度は逆にラピスに向かって駆け出す。
「何をしようと私の優位には変わりませんよ!」
ラピスの周囲に複数の魔法陣が展開され、そこから炎や氷、雷といった様々な属性の魔力弾が放たれる。
「シッ!」
ナイフを振るい、全ての攻撃を打ち落とす。そして、目の前まで接近し、思い切り腹を殴りつける。
「ゴホッ!……流石に効きますね……」
「まだ喋る元気があったか」
口の端から血を流しながらも不敵に笑みを浮かべている。その様子からは未だに諦めるという選択肢は無いようだ。俺はナイフを握り直し、切っ先をラピスに向け、構えを取る。殺意を込めて睨むと、ラピスは興奮した面持ちになる。
「あぁ……ゾクゾクしますねぇ……その視線だけでイッてしまいそうですぅ♡」
腰をくねらせるその姿はとても気持ち悪かった。生理的な嫌悪感を覚え、思わず眉間にシワを寄せてしまう。次の瞬間、地面が砕ける程の勢いで飛び出してきた。そして、俺に肉薄してくる。今まで以上の速さと力強さで振るわれた鞭を紙一重で避けると、カウンター気味に蹴りを放つ。
「ガッ……ハァ……」
ラピスはそのまま後方へと吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がり壁に激突する。
「これで終わりか?」
「いいえぇ……ここからが本番ですよぉ!!」
フラつきながら立ち上がると、再び鞭を構える。ラピスの攻撃は確かに速く、強く、鋭い。しかし、その攻撃は単調で、読みやすい。だから、対処するのは簡単だった。そして、ラピスは体力的にも精神的にもかなり消耗している。
「そろそろ終わらせよう」
「あぁ……もっと!もっと私を愛して下さい!!」
「お前を愛することは一生無い。俺が愛するのはただ一人だけだ」
「そんなこと言わないでくださいよぉ!だって私はこんなにも貴方のことを愛して──」
「黙れ」
ラピスの言葉を遮り、一気に間合いを詰める。
「なっ!?」
「終わりだ」
俺のナイフがラピスの首を捉える。そして、そのまま振り抜く。鮮血が飛び散る。ラピスはゆっくりと倒れる。ピクリとも動かない。完全に死んだようだ。
喰種化と『狂乱ノ宴』を解除し、いつもの自分に戻る。戦いが終わったことで、全身から力が抜けていくのを感じる。その場に座り込みそうになるのを堪え、フラつく足取りで歩き出す。ふと手に持っていたナイフを見る。そこには血濡れで、全身傷だらけの無様な姿が写っていた。
「……酷い顔だ」
鏡を見なくても分かる。今の俺は人に見せられないような顔をしていることだろう。
「……こんな顔、彼女には見せられませんね……」
苦笑いを浮かべながらそう呟く。その時、背後から何が高速で接近してくるのが分かり、咄嗟に喰種化をして、腰にある赫子で弾く。
「……ッ!?」
振り返ると、そこには傷一つ無いラピスがいた。
「しぶといですね……」
「……なんで」
先程までとは雰囲気がまるで違う。さっきまでのどこかふざけた感じは一切無く、代わりに威圧感を放っている。
「……なんで……なんで!私の愛を受け取ってくれないんですか!!」
ラピスはそう叫ぶと、再び鞭を振るってくる。俺はそれを弾きながら考える。
(……どういうことだ?さっきの一撃で確実に仕留めたはずだ。なのに、どうして生きてる?)
ラピスは何度も攻撃を繰り返してくるが、俺には掠りもしない。ラピスの攻撃を避けながら、思考を続ける。
(……あの時、確かに手応えはあった。それなのに死んでいないということは、恐らく何らかの方法で死を回避した。もしくは……)
ある一つの可能性を思い浮かべる。そして、それが正解だとしたら、ラピスを倒すのは容易ではなくなる。一旦距離を取り、ラピスを観察する。ラピスの身体には先程、付けたはずの傷が綺麗に消えていた。それだけではない。服装や髪型まで変わっていた。
髪の色は黒から濁ったような赤に変わり、目付きは鋭くなっている。そして、その瞳は青く染まっていた。ラピスはこちらを睨み付けながら、口を開く。
「なんで!あんな薄汚い小娘を愛して、美麗な私を愛してくれないの!?」
「……やはり、そういうことか」
「えぇ!そうよ!!貴方が愛してるのは、私が貴方を想う気持ちよりも、あの女が貴方に向ける愛の方が上なのよ!」
「……そんなわけ無いだろう」
ラピスが僕に向けてくれている気持ちは本物だ。それは間違いない。しかし、ラピスが向けているのは、僕では無く、僕の力の方だ。
「……ラピス、君が僕に向ける愛は、本当の意味で愛じゃない」
「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」
ラピスは頭を抱えながら叫び続ける。僕はラピスの気持ちが分からないわけではない。でも、それでも、彼女が求めているものはあげられない。だから、彼女の想いに応えることは出来ない。
ラピスが叫びを止め、顔を上げる。その表情は今まで見たことがないほど冷たいものだった。
「……もういいわ。お前のその面を見ていると虫酸が走る。ここで殺す」
「やってみろ」
お互いの視線が交差する。そして、同時に動き出す。ラピスの振るう鞭を弾き、懐に入り込む。そして、そのままナイフを振るう。
「『Deal with the devil』!!」
ラピスが叫ぶと空間に亀裂が入り、亀裂からスピーカーが射出された。スピーカーからは大音量で音楽が流れ始める。
「……ッ!?」
音楽に気を取られたせいか、ナイフはラピスに届くことは無かった。ラピスの姿が視界から消える。次の瞬間、背中に強い衝撃を受ける。
「ガハッ!?」
そのまま壁まで吹き飛ばされ、激突する。肺の中の空気が一気に吐き出される。
「……クソッ」
今の一撃で肋骨が何本か折れたようだ。痛みでまともに動けない。
「あら?どうしたの?さっきまでの勢いは?」
ラピスがこちらに向かって歩いてくる。なんとか立ち上がり、ラピスを迎え撃つ。ナイフで鞭を弾き、そのまま突貫し、ラピスの首を斬ろうとする。だが、ラピスは後ろに下がり、それを避ける。すかさず追撃を仕掛けるが、避けられる。
「……チッ」
「残念ね。今の私はもっと強いわよ」
ラピスがそう言うと、またもや姿が消える。そして、腹部に強烈な蹴りが入る。胃液が逆流し、吐きそうになる。
「……グゥッ」
「ほらほら、まだまだ行くわよ」
ラピスは次々と攻撃を繰り出してくる。俺はそれを必死になって捌く。
「……クッ」
「あぁ、良い顔ね。最高だわ。貴方のその苦しそうな顔、堪らないわ」
ラピスはそう言いながら、攻撃の手を一切緩めない。このままではジリ貧だ……一か八かで賭けに出るしかない。腰にある赫子をラピスの脇腹に突き刺し、投げ飛ばす。手応え、いや赫子応えはあったが……
「……なっ!?」
ラピスの身体には傷一つ付いていない。そして、ラピスは俺の方を向き、ニヤリと笑う。
そして、ラピスが腕を振るう。すると、空間が裂け、そこから大量の触手が飛び出してくる。それを必死に避ける。しかし、避けきれず、身体に触手が絡み付く。触手はそのまま俺を持ち上げ、壁に叩き付ける。
そして、触手が身体に巻き付き、拘束してくる。身体を動かそうとするが、全く動かない。ラピスはこちらに近づいてきて、顔を覗き込んでくる。そして、ラピスは僕の頬を撫でる。
「ふふふ、捕まえたわよ。ねぇ、今どんな気持ち?悔しい?苦しい?それとも……」グリュ……
「ガアァァ!」
ラピスは僕の右目を抉った。あまりの激痛に叫び声を上げてしまう。ラピスは抉り取った眼球を投げ捨てると、今度は左腕を掴む。そして、力を込めて握ってくる。
ミシミシと骨が軋む音が聞こえてくる。
「……グッ」
「ふふ、いいわよ。その表情。ゾクゾクするわ」
ラピスは俺の左手を離すと、今度は右手を握る。そして、再び力を込めてくる。バキッと音を立て、右手の骨が砕ける。
「……ガッ」
「ふふ、これで両手は使えないわね」
ラピスはそう言うと、僕の首を掴み、持ち上げる。
「グッ、ガハッ!?」
「貴方のその苦痛に満ちた顔、とても素敵だわ。さて、次はどこを潰してあげようかしら?」
首の拘束が緩んだ瞬間、すかさずラピスの顔に頭突きを喰らわせる。ラピスは後ろによろめき、俺を放す。その隙に、床に落ちているナイフを蹴りあげ、口でキャッチする。
「あら?まだそんな力が残っていたのね。でも、もうおしまいよ……その満身創痍の状態で私に勝てるとでも?確率はどの程度あるのかしら?千に一つ?万に一つ?それとも億?兆?それても……京かしら?」
ケラケラと下卑た笑い声をあげるラピス。正直言ってかなりムカつく。
「おしまい?満身創痍?何を巫山戯た事を……まだ両腕が折れただけでしょう。能書き垂れてないでさっさと掛かって来い!Harry!Harry Harry!」
挑発すると、ラピスはピクリと眉を動かす。そして、ラピスは鞭を振りかざし、こちらに向かってくる。
「……ッ!!」
鞭を避け、ナイフでラピスを斬りつける。だが、ラピスはギリギリのところで後ろに下がり、回避する。そのまま、鞭を振るってくる。
「……ッ」
鞭を弾き、懐に入り込む。そして、ナイフでラピスの首を狙う。だが、ラピスは鞭を引き戻し、ナイフを弾く。
一旦距離を取り、呼吸を整える。そろそろ限界が近い。それに、出血も酷い。ラピスの方を見ると、彼女は笑みを浮かべていた。
「貴方のその必死な顔、最高よ。もっと見せなさい。貴方のその顔、私が壊してあげるわ」
ラピスはそう言うと、またもや姿を消す。そして、背後から気配を感じる。咄嵯に体を捻り回避しようとするが、脇腹に蹴りが入り、吹き飛ばされる。壁に打ち付けられ、肺の中の空気が全て吐き出される。
そしてすぐ様追撃を喰らう。そのまま頭を踏みつけられる。何とか逃れようとするが、抜け出せない。そして、ラピスは俺の頭に足を乗せ、体重を掛けてくる。ミシミシと頭蓋骨が軋む音が聞こえてくる。
「さぁ、トドメよ」
ラピスはそう言うと、僕の使用していたナイフを手に取る。
「そういえば、このナイフ……貴方の血とあの卑しい小娘の血を合わせて創られた物らしいわね?」
ラピスはそう言うと、俺の腹部にナイフを突き刺した。そして、傷口をえぐる。激痛に悶える。ラピスは僕の身体を蹴飛ばし、ナイフを抜き取る。
「さて、これで終わりよ」
ラピスはそう言うと、僕に近づき、首を掴んで持ち上げる。そして、首にナイフを当ててくる。
「じゃあね、楽しかったわよ。今までありがとう。私の玩具さん」
ラピスはそう言いながら、ナイフを横に引く。その瞬間がやけにスローに感じる。僕は目を瞑り、死を受け入れる。
(悠花……約束守れそうにないみたいです……ごめん……そして──────愛してる)
僕は心の中で呟く。意識が途絶える瞬間に思い浮かんだのは……向日葵の様な明るい笑顔の似合う少女の姿だった。
ラピスさんはガチキチサイコヤンデレメンヘラなのです。自分で作ってといてとんでもねぇキャラにしちまったなと反省してます()