「ハジメでーす」
「ミレディちゃんだよ!」
「さて、前回は浩介がひたすら逃亡してたな……つーかよく生き残れたな」
「めちゃくちゃ運の良い子なんだね」
「多分、それだけじゃ説明付かないと思うよ?」
「今回は俺ら目線での話だ……楽しんでくれ」
「「「久しぶりのホルアド!」」」
Side 零斗
「ヒャッハー!ですぅ!」
「し、シアさん!スピード落として!」
とある街道、太陽を背に右には草原、左にはライセン大峡谷という対局の景色の中、俺の運転するブリーゼは走っていた。そして、前方では某世紀末のモヒカンさながらな奇声を上げて爆走するシアとその背中に抱き着きながら悲鳴を上げるハジメの姿があった。
「いやぁ、この解放感……癖になりそうですよぉ」
そんなことを言いながらもスピードを落とす気配はない。
「ご機嫌だな……」
「むぅ、私も運転したい」
後部座席にいるミレディが羨ましそうに呟く。まあ、気持ちはわかる。シアとミレディは魔導二輪で風を切って走る感じがとても気に入ったらしく、大所帯になった今では、ブリーゼで移動する事が主になったせいか、少し不満に思っていたらしく、今回こうして乗れて嬉しかったようだ。しかし、それはそれとして……
「なんでジョ○ョ立ちしてんだよ……」
「……さぁ?」
「はぁ……これだから、駄ウサギは……」
今更だが、俺達は現在カルデアに向かっている最中である。何やら、ぐだぐだしそうな予感がするそうで、ダ・ヴィンチちゃんに呼ばれたので、消耗品の補給も兼ねて向かうことにしたのだ。
『パリンッ!』
「あ?……マジか」
内ポケットに入れていた、
「シア、一旦止まれ」
「はいぃ~♪」
ブレーキをかけ、停止させるとシアがグロッキー状態のハジメを抱きかかえながらバイクから降りた。
「大丈夫ですか?ハジメさん?」
「キュウ……」
「ダメみたいですね……」
ハジメが白目を剥いて倒れているのをアルテナが心配そうに声をかけるが、当人は返事ができない状態らしい。
「目的地の変更を伝えて置こうと思ってな」
「え?もう少しでカルデア?に着くんですよね?なんでこのタイミングで?」
シアが首を傾げつつ聞いてくる。確かにこのまま進めば、一時間もしないうちに到着するだろう。俺は、内ポケットに手を入れ、穢結晶を取り出す。
「おぉ!綺麗ですね!」
「わぁー!キラキラ光ってるー!」
「……きれい」
皆一様に穢結晶を見て感想を口にする中、エトだけは違った反応を見せる。
「もしかしてですが……救難信号を受けとる物ですか?」
「あぁ、そうだ」
俺は、説明しながら穢結晶を掲げる。すると、その中心部に小さな光の点が現れ、次第に大きくなっていく。そして、結晶の中で矢印のような形に変化する。
「これは?」
「位置情報だ」
「なるほど……」
光が指し示す方向は西南西。カルデアとは真反対の場所である。それが指し示す場所は……
「『オルクス大迷宮』……」
意識を取り戻したハジメがボソリと呟いた。
「一先ずはカルデアに向かうのは後回しだ……今は浩介達を助けに向かうぞ」
俺の言葉に全員が真剣な表情でうなずく。
「と、言うことでね……俺は先に行ってるから。ハジメ、ホルアドに着いたらギルドに行って、支部長にこいつを渡せ……いいな?」
「え?」
「エト、
「
「え?え?」
困惑するハジメにイルワさんから渡された手紙を持たせる。そして、エトと十メートルほどの距離を取る。エトが腰を落とし低く構える、そして両手を組み、レシーブの様な構えを取る。
「んじゃ、行くぞ」
「いつでもどうぞ……」
エトの声と同時に地面を思いっきり蹴る。助走を付けつつ、重力魔法で身体を軽くする。
「頼んだぞ」
「了解──ーですっ!」
エトの手に片足が触れた瞬間に、エトはレシーブの要領で俺を打ち上げ、空中に射出される。
「先行ってるから追いついて来いよー」
放心状態のハジメ達に声を掛けると、俺は空へと飛び出し、そのままオルクス大迷宮へと向かった。
●○●
Side 三人称
零斗が飛び去った直後、我に帰った一行は唖然としていた。それは当然である。目の前で人がロケットのように打ち上げられ、そのまま空の彼方へ消えていったのだから。
「あの人、本当に人間なんでしょうか……」
「……もう驚かない」
「相変わらず化け物ですぅ……」
それぞれがそれぞれの感想を述べる中、ミレディだけが無言で零斗の飛んで行った方をじっと見つめていた。
「ミレディさん?」
アルテナが声をかけると、ハッとした様子で振り向くミレディ。
「ん、ごめん……ちょっと考え事してた」
「……何かあったんですか?」
「いや、なんでもないよ。さぁ、早く行こ!」
「……はい」
アルテナはどこか納得していないような顔をしていたが、渋々といった感じで返事をする。それから、ブリーゼに乗り込み、オルクス大迷宮に向かって出発した。
(れいちゃん、なんであんなに怒ってたんだろう……)
────────────────ー
「さて、ホルアドには着いたわけだけど……」
ハジメは、懐かしげに目を細めて町のメインストリートをホルアドのギルドを目指して歩いた。ハジメに肩車してもらっているミュウが、そんなハジメの様子に気がついたようで、不思議そうな表情をしながらハジメのおでこを紅葉のような小さな掌でペシペシと叩く。
「パパ、どうしたの?」
「え?あぁ……前に来た事があったんだけど……まだ半年くらいしか経ってないんだなって、もう何年も前みたいな気がしただけだよ……」
ハジメが苦笑いを浮かべながら答える。ミュウはよくわからないというように首をコテンッと傾げる。その様子を見て、ユエ達が微笑ましそうに見守る。
「……ご主人様はやり直したいとは思わぬのか?」
ティオがふと思いついたことをハジメに尋ねる。ハジメは少し考える素ぶりを見せた後、口を開く。
「……うん、考えなかったと言えば嘘になるかな……」
「なら、何故じゃ?」
「うーん……やり直すって事は、今の自分を否定しているって事になると思うんだよね……それだと、今までの選択を否定することになるんじゃないかと思って」
「……なるほどのう、難儀な性格じゃの」
「まぁ、結局は自己満足なんだよ……僕が後悔しない為にやってるだけだし」
ハジメはそう言うと、照れ隠しなのか、ミュウの頭をわしゃわしゃと撫で回す。
しばらく歩いていると、ギルドの看板が見えてきた。ハジメ達は中に入ると、冒険者風の格好をした集団が一斉にこちらを振り向いた。そして、次の瞬間には殺気だった目つきで睨みつけてくる。
「ひぅ!」
その視線に驚いたミュウが、慌ててハジメの頭にギュッとしがみつく。ハジメはその様子に苦笑しながら、受付嬢の元へ向かった。ハジメが近づいて来た事に気づいた受付嬢が営業スマイルで出迎える。しかし、その瞳は全く笑ってはいなかった。
「ギルド支部長は何処に?フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているんですが……本人に直接渡せと言われているんです」
ハジメはステータスプレートを受付嬢に差し出す。受付嬢は、緊張しながらもプロらしく居住まいを正してステータスプレートを受け取った。
「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」
普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどということはありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。だが、ハジメのステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。
「き、『金』ランク!?」
冒険者の中で『金』のランクを持つ者は全体の一割に満たない。そして、『金』のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然、この受付嬢も全ての『金』ランク冒険者を把握しており、ハジメ達のこと等知らなかったので思わず驚愕の声を漏らしてしまった。
(あの餓鬼、ほんとに『金』か?)コソコソ
(『金』にしちゃ、随分と女々しい野郎だな……)ヒソヒソ
受付嬢の声に、ギルド内の冒険者も職員も含めた全ての人が、受付嬢と同じように驚愕に目を見開いてハジメを凝視する。建物内が僅かに騒がしくなった。
「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」
受付嬢は、個人情報を大声で晒してしまったことに気がついてサッと表情を青ざめ、ものすごい勢いで頭を下げた。
「大丈夫ですよ……それより、支部長に取り次ぎしてくれます?」
「は、はい! 少々お待ちください!」
受付嬢は、大慌てで奥へと引っ込む。それを見ていた周りの者達は小馬鹿にしたような態度で笑い始めた。
「ぷっ、何が『金』だよ。あんな弱そうな奴初めて見たぜ?」
「どうせ、ギルドの連中に金でも積んで上げたんだろう?」
「あれなら、そこらの子供の方がよっぽど強そうだぞ?」
嘲笑を浮かべて好き勝手言っている冒険者を尻目に、ハジメはミュウとあやとりをして遊んでいた。
「ッ!!」
「シアさん、ダメだよ」
飛び出しそうになったシアの腕を掴み、引き止めるハジメ。
「離すですぅ~!! ぶっ飛ばしてやるのですぅ~!!」
「だから、ダメだってば……」
今にも暴れ出しそうなシアを必死に宥めるハジメ。
「あんな、真っ昼間から安酒呑んで、私達みたいな若造に文句言ってるだけの連中に構う必要無いんじゃない?」
ミレディが冒険者達を横目にしながら、小馬鹿にする様に言った。すると、今までゲラゲラ笑っていた冒険者の一人が立ち上がり近寄ってきた。
「はぁ……ミレディ、面倒事起こさないでよ……」
「ごめーん☆私のご尊顔に免じて許してちょーだい♪」
ハジメがため息混じりに注意するも、反省するどころか、ウィンクをしながらふざけたことを言い出す始末。ハジメは頭痛がしてきたのか、右手で額を押さえながら深々と溜息を吐く。
「おい、ガキ」
「……何か用ですか?」
ハジメが不機嫌さを隠そうともせず返事をする。その態度が気に入らなかったようで、男は舌打ちをしつつ、更に言葉を重ねる。
「お高く留まりやがって……そんなんじゃ、これから先やっていけねぇぞ? 俺らが優しいうちに生き方を変えた方がいいんじゃ──」
「そうですか……話はもう終わりでいいですか?」
男の言葉を遮り、話を切り上げるハジメ。これ以上話すことはないという意思を込めて受付嬢の向かった方に視線を向ける。しかし、その対応が気に入らなかったらしく、冒険者の男が遂にキレた。拳を振り上げ、殴りかかろうとする。
しかし、ハジメは微動だにしない。周りの冒険者達が、『死んだなあいつ』と思いつつ、ハジメの言動から目が離せないでいると……
「ハァァァジメェェェェェ!」
ギルドの奥から何者かが猛ダッシュしながらハジメの名前を呼ぶ声が聞こえだした。全員が、聞こえた声に困惑している中、ハジメは聞き覚えのある声に、『やっと来たか……』みないな表情でカウンターの方をじっと見つめていた。
「俺の親友に何晒しとんじゃ!ワレェ!」
そんな怒号が響き渡ると同時に、ハジメの頬ギリギリの位置で風切り音が鳴った。そして、そのままハジメの後ろにいた冒険者に直撃。冒険者は吹き飛ばされ、壁に激突した後、床に転げ落ちた。ギルド全体がシーンと静寂に包まれる。
「ちょ、ちょっとやりすぎじゃない?」
ハジメが若干引きながら言う。誰もが突然の事態に思考停止し、口をポカーンと開けて倒れた冒険者とハジメの間に現れた男を見やった。
「おう、どういうつもりだ?人様の親友に……年下の子供に暴力振るうってのは?てめぇの脳まで筋肉で出来てんのか?それとも糞尿の詰まった肉袋なのか?」
全身黒装束の少年まるで汚物でも見るかのような目で、倒れている冒険者を見下ろし、罵る。そして、腰の短刀を抜くと冒険者に近ずいていく。
「もうやめて浩介!とっくに筋肉ダルマのライフはゼロよ!」
ハジメが遠藤を羽交い締めにしながら、止めに入る。
「HA☆NA☆SE!」
遠藤はハジメの言葉に耳も貸さず、ハジメを引き摺るようにして歩き出した。
「一旦落ち「HA☆NA☆SE!」とりあえず「HA☆NA☆SE!」黙れ小僧!」
ハジメは、何とか説得しようとするが、聞く耳を持たない遠藤は、ハジメを引きずりながら、冒険者達に向かっていく。
「職員さん!早くそこの筋肉ダルマ退避させて!」
「退いて、ハジメ!そいつ殺せない!」
ハジメの声でようやく我を取り戻した受付嬢が、慌てて駆け寄り、気絶している冒険者を引きずりながら奥へと消えていった。
「フン!」
「ゴガバァ!」
ハジメは見事なジャーマンスープレックスを遠藤に決め、沈黙させる。すると、今まで唖然としていた周囲の冒険者が一斉に騒ぎ始めた。ごもっともな反応だろう。いきなり、子供に襲いかかろうとした冒険者が返り討ちにあい、挙げ句の果てには、蹴り飛ばされたのだ。騒がない方がおかしい。
「とりあえずは何があったのか話してくれる?」
床に沈んでいる遠藤は親指を立てて肯定した。
零斗とエトさんがやったあれは暗殺教室の体育祭の時の棒倒しのあれみたいな感じです。感想お待ちしております。