ありふれた黒幕で世界最凶   作:96 reito

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「よっこいしょ、ハイハーイ( *ᐢ´꒳`ᐢ* )!悠花だよ!」
「八重樫雫です」
「白崎です」

「前回は……浩介からの事情聴取だったね」
「もう少しでハジメ君に会えるんだね!」
「いや、その前に幾つかツッコミ所があるでしょうが……」

「さて、今回は私達目線での話だよ!楽しんで行ってね!」

「「「絶望の淵へ」」」



絶望の淵へ

 Side 悠花

 

「だから!今動けば間違いなく魔人族に……下手したらラピスに遭遇しちゃうんだよ!?」

「今は多少のリスクを背負ってでも上層に向かうべきだ!」

「次接敵すれば命は無いって何度言えば理解するの?!」

 

 私は声を荒げてそう言い放つ。全く、こんな時なのになんでこうも頑固なのかなぁ……

 

「……俺だって死にたくはないさ。だがここで立ち止まっていては結局死ぬだけだ。なら少しでも可能性がある方にかけるべきだろう?」

「その可能性が低いから言ってるの!!」

 

 私の怒鳴り声が部屋中に響く。もう、これじゃあ話し合いにならないよ……

 

『お前は強い子だ……だから他の皆を守ってやれ』

「っ……」

 

 ……ごめん零斗。私やっぱり弱い子だよ。大切な仲間達を守ることが出来ないなんて…… それに、もしこのまま上に行ってもみんな生き残れる保証もない。それどころか、最悪全滅する可能性すらある。

 

「いい加減にしろよ!俺等死にかけたんだぜ?しかも、状況はなんも変わってない!喧嘩なんてしてる場合じゃないだろ!今はどうしたらいいか考えろよ!」

 

 檜山君の言葉にはっとする。そうだ、確かに彼の言う通りだ。喧嘩している場合ではない。少し熱くなりすぎていた。

 

「……遠藤君のペースだと、もう地上に着いている頃だから、動き始めるのは一時間後……いいね?」

「勝手に決めないでくれ!」

 

 天之河君は納得していないようだ。そりゃそうだよね…… だけど、これ以上議論しても平行線のままだし、この方が効率的だ。それに、これはただの時間稼ぎに過ぎない。本当なら今すぐにでも行きたいけど、それで失敗したら元も子も無いし……

 

「うっせぇよ!お前が、お前が負けるから!俺達は死にかけたんだぞ!クソが!何が勇者だ!」

 

 近藤君が激昂しながら天之河を責め立てる。その言葉に流石の光輝も顔をしかめた。しかし、近藤君の怒りは収まらないようで更に捲し立てていく。

 

「そもそも勝っていれば、逃げる必要もなかっただろうが!大体、明らかにヤバそうだったんだ。魔人族の提案呑むフリして、後で倒せば良かったんだ!勝手に戦い始めやがって!全部、お前のせいだろうが!責任取れよ!」

 

 それは違う!と龍太郎君が反論しようとするが、私が手で制す。

 

「……近藤、責任は取る。今度こそ負けはしない! もう、魔物の特性は把握しているし、不意打ちは通用しない。今度は絶対に勝てる!」

 

 そんな事を言い出した光輝に、私は心の中で溜息をつく。そして、遂に堪忍袋の緒が切れた。パァン!! 思いっきり頬を引っ叩く。私の突然の行動に全員が驚いているようだったが気にせず続ける。

 

「あんたが一人で突っ走ったせいで、どれだけの被害が出たと思ってんの?それに次は絶対勝つ?寝言は寝てから言いなよ」

「なっ!?」

 

 天之河が信じられないという表情を浮かべている。

 

「な、何を言っているんだ!俺は皆のために!」

「はぁ?皆のため?自分の行動に自分で責任持てない奴が何格好つけてるわけ?皆を守る?ならなんで後先考えずに……仲間の事も考えずに行動してんの?なにが勇者よ。笑わせないでくれる?」

「そ、それは……」

 

 痛いところを突かれたのか、黙り込む天之河。本当はこんなこと言わなくていいかもしれない。でも、きっといつか誰かが止めないといけないから。だから、たとえ嫌われても構わない。大切な仲間を守るために、私は悪役になる。

 

「……正直、私からすれば白ちゃんやシズちゃん……他数名を除けばこの場に居る全員が死んでもどうでもいい」

 

 私の言葉に全員の顔色が変わる。まあ当然の反応だよね。だけど、ここで止める訳にはいかない。

 

「むしろ死んだほうがマシかもね。だって、あなた達が頑張っても世界は救えないもの。それどころか、もっと酷いことになる」

「……それは……どういう意味?」

 

 雫が恐る恐るという感じで尋ねてくる。他の皆も同じような顔だ。

 

「そのままの意味だよ。だって、考えてもみて?仮に君達が協力して魔人族を倒したとして、その後どうなると思う?『人類の希望』だの『救世主』だの祭り上げられた挙句、戦争の最前線に立たされるだけだよ」

 

 私の言葉に全員が押し黙ってしまう。

 

「別に私はそれでもいいよ?君達がどうなっても知ったこっちゃないし」

「じゃあなんで止めたんだよ!!」

 

 檜山君が叫ぶ。うん、まあそうだよね。普通はそう思うよ。

 

「……『目の前で死なれると面倒だから』……それだけの理由で止めたの。私にとってはそれくらいどうでもいい存在だったから。ただ、零斗と柊人に頼まれたから助けただけ」

「そんな理由で……」

 

 檜山君が絶句している。他の皆も似たような反応だ。

 

「あらあら、随分と酷い言い方するのね、ノイン」

「「「!?」」」

 

 突如聞こえてきた声に、慌てて振り返る。そこには、なんとも言えない表情をしたラピスがいた。

 

「どうしてここに……」

「あなた達を逃がさないためよ」

「くっ!」

 

 ラピスの言葉に歯噛みする。まさか、ここまで追ってくるとは…… 今ラピス相手に戦うのは無謀だ。どうにかして逃げなければ…… だが、その前にどうしても聞いておきたいことがあった。

 

「柊人は……ノクトはどうした……」

「ああ、あの子なら殺したわよ?」

「っ!?」

 

 あまりにもあっさりと告げられた言葉に頭が真っ白になる。

 

「最後の最後まで必死に……無様に抵抗して、足掻いてくれたわ……あら、『信じられない』って顔ね?」

 

 まるで私の心を読んだかのように、私の疑問に答えるラピス。信じたくない、嘘だと言って欲しい。

 

『フゥゥゥゥゥ』

 

 壁の向こうから深呼吸するような音が聞こえる。次の瞬間、凄まじい衝撃音と共に壁が破壊された。

 

 そこから現れたのは血塗れになりながらも、片腕を失ってはいるがしっかりと二本の足で立っている柊人の姿だった。その姿を見て思わず涙が溢れそうになる。生きていてくれて良かった。本当に良かった。しかし、その気持ちはすぐに吹き飛ぶ。

 

「……コロ……ス……コ……ロ……シテ」

 

 その目は虚ろで、とても正気とは思えない。そして、その瞳からは一筋の血が流れ落ちていた。

 

「ふふっ、まだ自我が残っているなんて大したものね。でももう限界みたい」

 

 ラピスの言葉通り、今にも倒れそうなほどフラついている。

 

「てめぇ、俺のダチに何してんだ!」

「うおぉおおおお!!!」

「待って!二人共!」

 

 激昂しながら突っ込んでいく龍太郎君と天之河。それを雫が引き留めるが、二人は止まらない。二人の攻撃はラピスには届かなかった。柊人が割って入り、攻撃を受け止めたのだ。

 

「……グ……アァァァァ!!」

「なっ!?」

 

 ノクト(柊人)が苦しそうに叫びながら、二人の攻撃を弾き飛ばす。そして、再びラピスを守るように立ち塞がった。

 

「……ハ……ャ……ク…………コ……ロ……シ……テ……」

 

 途切れ途切れで。その光景を見て、私の中で何かがキレた。

 

「ふざけるなぁぁぁぁ!!!!」

 

 私は全力で魔力を練り上げる。そして、練った魔力を込めて魔法を放つ。

 

「『蒼天』!!」

 

 今放てる最大火力の魔法。青白い巨大な火球がラピスを襲う。だが、柊人がラピスを庇うように前に出て、片手で受け止めてみせた。

 

「なっ!?」

「……シネ……!」

「くっ!」

 

 柊人がこちらに向かって駆け出してくる。

 

「させるかぁ!」

 

 そこに割り込んできたのは、龍太郎君だった。

 

「……ジャマ……ヲ……スルナ……」

「ぐあぁあ!」

 

 だが、柊人は龍太郎君を殴り飛ばし、さらに追撃を加えようとする。

 

「────『天絶』!」

 

 鈴ちゃんが咄嵯に結界魔法を発動し、柊人の拳を受け止める。

 

「……ジャ……マ……スルナァ!」

「きゃあ!」

 

 だが、柊人は鈴ちゃんの張った障壁を容易く破壊し、そのまま殴り飛ばした。

 

「『天恵』!大丈夫、鈴ちゃん!?」

「う、うん。なんとか」

 

 白ちゃんが咄嵯に回復魔法を使い、鈴ちゃんの傷を癒す。

 

「……シネ……!……コ……ロス……!!」

 

 柊人はまるで獣のように、暴れまわっている。その姿はとても痛々しく、見ていられない。

 

「やめて、鹿乃君!お願い、目を覚まして!!」

「シズちゃん、危ないから下がってて!」

 

 雫が必死になって呼びかけているが、柊人は聞く耳を持たない。

 

「……ジャ……マ……ダ……オマエ……モ……コ……ロス……」

「っ!?」

 

 柊人が雫ちゃんに向かって飛びかかった。雫ちゃんは咄嵯に回避しようとしたが、動き出す直前で殴り飛ばされてしまった。そして、倒れ込んだ雫に馬乗りになると、拳を振り上げた。

 

(もうこれ以上、仲間を失いたくない!)

 

 私は一瞬で距離を詰めると、柊人を蹴り飛ばした。そして、倒れている雫を抱え起こす。

 

「大丈夫、シズちゃん?」

「え、ええ。ありがとう、藤野さん」

 

 柊人は壁に叩きつけられ、床に転がっていた。だが、すぐに起き上がると、こちらを睨みつけてくる。その目は虚ろなのに、目だけはしっかりと私のことを捉えていた。

 

(まだ自我が残ってる?そうだとしたら、まだ希望がある……下手したら私も死んじゃうかもしれないけど……)

 

 それに、あの状態が長く続けば、柊人も死んでしまう。だから、私は賭けに出ることにした。

 

「……全員、今すぐ逃げて」

「なっ!?お前何言ってんだ!?」

 

 檜山君が驚愕の声を上げる。他の皆も同じだ。当然だろう。いきなり逃げろと言われても戸惑ってしまうのは仕方ない。

 

「いいから早く!私が時間を稼ぐから!」

「で、でも……」

「このままじゃ全滅しちゃうよ?」

 

 そう言うと、全員が押し黙ってしまった。悔しそうに顔を歪めながら、私を見つめてくる。

 

「……わかったわ」

「雫ちゃん?」

「ここは藤野さんの言う通り、逃げた方がいいわ」

「でも、それだと悠花ちゃんが!!」

 

 白ちゃんが悲鳴のような声を上げる。やっぱり優しい子だね、ハジメはこんなにいい子を惚れされたんだからすっごいよねぇ……っと、今はそんなことを言っている場合じゃないや。これからやるのは命懸けの大博打だ。失敗したら多分死ぬ、成功してたとしても五体満足では居られないだろうけど……でも、やるしかない。

 

「ムッフッフ……悠花お姉ちゃんに不可能は無い!心配する必要はないよ!」

 

 不安そうな顔を浮かべる皆に笑いかける。さて、そろそろ始めようかな。

 

「力を貸して……『精霊装術:ウェンディーネ』!」

 

 そう呟いた瞬間、私の身体を水の膜が包み込む。そして、その水が弾けると同時に、私の纏っている服が変化した。

 

 水色を基調としたワンピース型のドレスに変化し、背中には半透明の四枚の羽が生えている。そして、髪の色が水のように透き通った青色に変わっており、ショートボブから腰まであるロングヘアーになっている。そして、頭にティアラのようなものを付けており、胸元には青い宝石のネックレスが輝いている。

 

「私はみんなよりちょこっとだけお姉ちゃんだからね……守ってみせるよ」

 

 これが、今私が使える最強の切り札。これは精霊の力を借りることで一時的に自分の力を底上げするというものだ。ただし、この力は強力すぎるため、長くは保たないし、使った後は反動で動けなくなる諸刃の剣でもある。それでも、これなら柊人を止めることが出来るはずだ。

 

「……ジャマ……ヲ……スルナァ!」

 

 柊人はこちらに向かって駆け出してくる。それと同時に私も駆け出した。

 

「『流麗』!」

 

 私は魔力を込めた脚で床を蹴ると、一気に加速した。そのまま柊人に肉薄し、拳を振るう。だが、柊人はそれを容易く受け止めてみせた。

 

「『澎湃』!」

 

 私は拳を受け止めた柊人の腕を掴み、そのまま背負い投げをするようにして投げる。

 

「……グッ!?」

 

 柊人は咄嵯に受け身を取ったようだが、ダメージはあるようで苦しげな表情をしている。

 

(よし!狙い通り!)

「ウガァァァォァ!」

 

 柊人は立ち上がると、再びこちらに突っ込んできた。私は迎え撃つように構える。

 

「……シネェエ!」

 

 柊人が拳を振り上げる。だが、私はそれを見切り、紙一重で避けてカウンターの一撃を入れる。

 

「……グハッ!」

(行ける!このまま消耗させて────)

「そこまでだよ」

 

 突然、背後から聞こえてきた声に振り返る。

 

「ごめん……悠花ちゃん」

「こいつらの命が惜しいなら……分かってるだろう?」

 

 そこには、白ちゃんの首筋にナイフを突きつけている魔人族の女が立っていた。白ちゃんは、恐怖からか涙を流しながら震えている。

 

「……卑怯者」

「なんとでも言いな。だが、あんたも分かっているんだろう?このまま戦えば、こいつの命はないよ?」

(どうしよう……どうすれば……)

 

 思考を巡らせるが、何も思い浮かばない。

 

「さあ、大人しくするんだ」

「……分かった」

 

 私は拳を下ろすと、柊人がゆっくりと近づいてきた。そして、目の前に立つと拳を振り上げた。

 

「悠花ちゃん!!」

 

 白ちゃんの悲痛な叫び声を聞きながら、私は目を閉じた。

 

「……?」

 

 覚悟していた衝撃が来ないことに疑問を抱き、目を開ける。

 

「ゴフッ……」

 

 私の視界に飛び込んできたのは、口から血を吐いて倒れる柊人だった。柊人の身体は黒い霧のようなものが噴き出している。

 

「あら……時間切れみたいね」

 

 ラピスはそう呟くと、倒れた柊人を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた柊人は、まるで糸の切れた操り人形のように倒れ伏している。

 

「鹿乃君!?」

 

 辻ちゃんが慌てて駆け寄り、回復魔法をかける。しかし、柊人は反応しない。

 

「無駄よ。その男はもう死んでるわ」

「そんな……」

「安心しなさい。あなた達もすぐに同じ場所に送ってあげるから」

 

 ラピスは愉悦を含んだ笑みを浮かべながら、私たちを見つめてくる。私たちは絶望的な状況の中、為す術もなく立ち尽くすことしか出来なかった。

 

「さようなら……惨めに死んでいきなさい」

 

 そして、ラピスは右手を掲げる。すると、巨大な闇の渦が現れた。

 

(せめて……皆だけでも……!)

 

 私は皆を庇うようにして前に出ると、両手を広げて盾になる。そして、最後に皆の顔を見て微笑む。

 

「大丈夫……皆は必ず私が守るよ。だから……生きてね」

 

 そう言うと、私は闇の渦の中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 




あけましておめでとうございます(激遅)。本年度もよろしくお願いいたします。
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