Side 零斗
「帰還者達の情報はあらかた手に入ったが……これと言ってめぼしい物は無かったな」
こっちの世界の南雲から紹介された、帰還者対応課……通称魔王課の服部という人物から渡させた資料に一通り目を通したが、手掛かりになり得る物は無かった。
「新聞やテレビでもこれと言っておかしな事件が報道されている訳でも無い……サーヴァントの気配や聖杯独特の魔力反応も無い……どうなっているんだ?」
……少し考えても仕方が無いか……取り敢えず今は手に入れた情報を元に調査を進めるしかない。
「南雲と協力関係を結べたのは良かったが、進展が無さすぎる……」
一人では調べられる範囲には限度がある。それに今回の件に関しては俺一人の力で解決するのは無理だ。現地サーヴァントの協力もなければ、カルデアからのバックアップも現状では受けられず、聖杯やその所持者のしっぽすら掴めていない……
「そもそも、ここは特異点なのか?」
今更ながらだが、俺はここについて何も知らない。この世界が元いた場所と同じ並行世界だとしたら、同じ歴史を辿っていることになるのか?それとも全く別の世界で、時間軸すら違うという可能性もある。
「どちらにせよ、まずはこの世界の事を知らなければならないか……」
机の上に街の地図を広げ、エルガー用の銃弾を置いていく。
「魔力反応が高い地点は約三十箇所……その大半が帰還者達の家……だが、ここの魔力反応は異常だ……」
一つ一つの場所を確認していくと、一つの場所で目が止まる。俺達……まぁ、この世界だと南雲達が通っていた学校である。
「……ここに何かある可能性は高いな」
しかし、そうなると問題が出てくる。それは、どうやって潜入するかと言うことだ。
「……夜遅くにこっそりとやった方がいいな。そっちの方が邪魔も入らないだろうし」
そうと決まれば早速準備に取り掛からなくては……
『──ー♪』
突然携帯が鳴る。相手を確認するとそこには南雲の名前が書いてあった。通話ボタンを押すと同時に耳に当てる。
「もしもし?何か御用ですか?」
『……あ〜、すまん。今時間あるか?』
申し訳なさそうに言う南雲の声を聞いて察する。これは面倒事に巻き込まれた時の声色だ。電話越しでもわかる程だから相当厄介なんだろう。
「えぇ、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
『実はな──『貴方ですね!私たちのハジメさんに喧嘩を吹っかけたのは!!』おい、シア!』
電話口から聞こえてくる声と共にドタドタとした音が聞こえる。恐らく俺の知っていて、俺の知らない残念うさぎのシアが南雲から電話を奪ったのだろう。
「……まぁ、解釈によってはそうなりますね」
『やっぱり!!許せません!!』
電話口で騒ぐ彼女に溜息をつく。俺の知っているシアと変わらず元気いっぱいみたいで何よりだよ。
「それで?要件は何でしょうか?」
『……シア含めて何人かと手合わせてして欲しい』
予想通りの答えだった。こちらとしても都合が良い。こっちの世界の南雲達がどれほどの実力かを確かめる事が出来る、もしも彼らが裏切った場合は即座に対処出来るようにしておく必要があるからだ。
「わかりました。場所は何処にしましょうか?」
『俺の家に来てくれ。住所はメールで送る』
了承するとすぐに通話を切る。その後直ぐに住所が送られてきた。
「さっさと、行くとするか……」
軽く荷物をまとめて部屋を出る。
────────────────────
「着いたは良いが……中からとんでもないくらい殺気が漏れてんだけど……」
インターホンを押してから数分後、扉が開かれた。
「ようこそきやがりましたね!」
「ん、歓迎する」
「じゃが、とりあえずは……」
出迎えてくれたのは笑顔を浮かべたウサミミで青髪の少女に金髪の美少女、黒髪で妖艶な雰囲気を纏った大人びた女性だった。俺の姿を見るなり彼女達は笑みを深めながら、こう言った。
「死にされせぇ!ですぅ!!」
…………うん、相変わらず殺意高すぎない?いやまぁ、俺が悪いんだろうけどさ。ウサミミ少女渾身の一撃を避けながら思う。
「ちょこまかとぉおおお!!!」
「緋槍!」
「螺炎!」
……これ避けなかったら死んでないか?彼女達の攻撃を避けつつ、南雲家へ足を踏み入れる。
「お邪魔します。あとお嬢さん、これお土産です」
「わぁ!ありがとうございますぅ!って騙されませんよ!?そんなもので私達の攻撃をかわした罪が許されると思ってるんですかねぇ!!!」
ダメか……どうしたものかな?取り敢えず猛攻を避け続ける。
「後ほど満足するまで相手しますから今は南雲君に会わせて貰ってもよろしいですか?」
「む?本当でしょうね?もし嘘なら承知しませんですよ?」
「はい」
「約束ですよ?破ったらミンチよりひでぇやにしてやりますからね?」
……物凄く信用されて無いんだが。まぁ、いい。俺は南雲に会いに来たんだし。
「昨日ぶりですね、南雲君」
「……なんか、すまんな家のバグウサギが……」
リビングに入るとそこには苦笑いをする南雲がいた。彼の隣ではシア達が不満げな顔をしながらお茶菓子を食べている。
「いえ、大丈夫ですよ」
「そう言ってくれるとありがたい」
「ところで、私と手合わせする方達は?」
「あぁ、今こっちに向かってる途中だ。もう少し待ってくれ」
それを聞くと安心してソファに腰掛ける。少し待つと玄関の方から誰かが来たようだ。
「おっす、南雲。こいつがお前に喧嘩売った奴なのか?」
「……悪い事は言わないから、今すぐ謝った方がいいと思うぞ」
入って来たのは、筋骨隆々で熊の体格をした青年……坂上龍太郎と、心配そうな表情でアドバイスしてるく絵に書いたようなイケメン(笑)、天之河 光輝……その後ろには八重樫に白崎、園部、遠藤の姿あった。
「……貴方、よく残念なイケメンって言われませんか?」
「初対面でそれは失礼じゃないか!?」
……こっちの世界の天之河はある程度まともになったんだな……俺の言葉にツッコミを入れる彼を見てしみじみと感じる。
「……まぁ、否定はしないな」
「南雲まで!?」
「ま、まあまあ。落ち着けって」
坂上に宥められて落ち着きを取り戻す。この場にいる全員の顔を見回す。俺の記憶にある顔と比べると皆、僅かに大人びている。
「……そろそろ始めましょうか、時間は有限ですし」
「あぁ、そうだな。ルールはどちらかが戦闘不能になるか降参したら終わりで良いか?」
南雲の提案に首肯する。南雲の後ろのシア達の目がより一層鋭いものになった。
「では、場所を移しましょうか」
「場所を移すって……どうやってだ?」
「まぁ、任せてください」
異空間収納から転送門を取り出して魔力を通しつつ、人気がなく、暴れても問題ない場所をイメージする。
「さ、行きましょうか」
門をくぐった先は見渡すかぎりの草原で所々に森がある。
「……ここなら問題なさそうですね。さて……」
南雲達から数歩離れた位置まで歩き、南雲達の方へ向き直る。
「最初に私と戦闘をするのは何方ですか?私は纏めて掛かってきてもらって大丈夫ですが……どうします?」
挑発的な言葉を投げかけると、シアを筆頭に全員が殺気立つ。
「上等ですぅ!!ぶっ殺してやるですぅ!!」
「……後悔させてあげる」
「ご主人様の敵は妾の敵じゃ……覚悟するんじゃな!」
やる気満々といった様子で、それぞれ戦闘態勢に入っている。後ろにいる天之河達が『あ、アイツ死んだな』みたいな顔をしている。
「……さぁ、何処からでも掛かって来なさい」
俺が言い終わると同時に、シア達が一斉に襲い掛かる。
「先手必勝ですぅ!!」
シアが大槌を振り下ろす。それをバックステップで避けるも、彼女は振り下ろした勢いを利用して飛び上がり、そのまま空中で回転しながら遠心力を加えた一撃を繰り出す。
「……そう来ますか……なら」
迫り来る戦鎚を受け流し、そのまま投げ飛ばす。シアの身体が宙を舞う。すかさず追撃を仕掛けようと一歩踏み出すが、横合いからの熱を感じ、咄嵯に身を屈める。
頭上で何かが通り過ぎる音が聞こえる。恐らく、あの金髪美女が放った魔法だろう。
「中々エグい連携ですね……」
体勢を立て直したシアとユエの攻撃を捌きながら呟く。すると今度は空気すら焼け付く様な黒いレーザーが迫ってくる。
「っ!?」
流石にこれは避けきれないと判断し、後ろへ飛ぶ。直後、先程までいた場所が一瞬で焦土となった。
「ほぉ?今のを避けるとはそこそこはやる様じゃな」
妖艶な雰囲気の女性……ティオが感心した様に言う。
「……次は外さない」
「私だって負けませんよ!」
再び襲いかかってくる三者の攻撃をいなしていく。
「……そろそろ、反撃開始と行こうか」
変化させていた身体を戻し、異空間収納から血狂いを取り出し、居合の構え取る。
「ッ!!止まった今がチャンスですぅ!一気に畳み掛けます!」
俺の動きが静止した隙に、3人が同時に仕掛けてきた。俺は彼女達に笑みを浮かべる。
「居合……閃狼『不知火』」
肉薄しようとしたシアが突然吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。続いて、シアの背後で魔法の行使しようとしていたユエとティオが見えない斬撃によって切り裂かれ、その場に崩れ落ちる。
「……は?」
三人が崩れ落ちた光景を見て、呆然とする南雲。
「何が起こったのかわからない、と言った感じですね」
「あ、あぁ……」
「安心してください。峰打ちなので死んではいませんよ」
そう言って、南雲に歩み寄る。懐から煙草を出し、火を付けて一服する。南雲は俺の事を訝しげに見ている。
「……この姿が気になるんですか?先に言っておくと今現在の容姿が本来の物ですよ」
南雲は納得していないようだ。まぁ、当然の反応だな。紫煙を吐き出し、天之河達に視線を向ける。
「貴方達はどうします?私と一局死合ってみますか?」
「……遠慮しておくよ」
天之河は苦笑いをしながら首を横に振る。他の面子も同じようだ。
「そうですか……それは残念です」
吸いかけの煙草の火を消し、倒れ付したシア達の方へ見る。未だに気絶から復帰せずに伸びている。
「……少し深めに入り過ぎましたかね?」
加減が難しいな……そんな事を考えつつ、南雲の方を見る。彼は俺の視線に気付いたようで、俺の目を見てくる。
「……お前、一体何者なんだ?」
「言った筈でしょう?しがない旅人だと……」
俺の答えに溜息をつく南雲。そして、俺に向かって手を差し出してくる。その行動の意図がわからず、思わず小首を傾げる。
「……取り敢えず、謝っておく。アイツらが迷惑かけたな」
南雲の言葉に目を丸くする。まさか謝罪をされるなんて思いもしなかったからだ。
「いえ、気にして無いので大丈夫です」
差し出された手を握り返し、握手を交わす。彼の手の感触から、彼が成長している事がわかる。
「一度、貴方の家に戻りましょうか……その方が落ち着いて話も出来るでしょうから」
南雲達の方を向き、提案すると全員首肯してくれた。気絶しているシア達を抱えながら、転送門を通る。南雲邸のリビングに戻った俺達はシア達をソファに寝かせ、軽く雑談する事にした。
「そういえば自己紹介がまだでしたね……私は湊莉 零斗 世界を旅しながら歴史の研究をしている旅人です」
「……さっきの姿といい、変わった奴だなお前」
「よく言われます」
南雲の率直な感想に笑顔で返す。すると、今まで黙っていた白崎が口を開く。
「あの……一つ聞いてもいいですか?」
「えぇ、構いませんよ」
彼女は俺の返事を聞いて、おずおずと質問を口にする。
「……なんで、そんな演技をしているんですか?」
「…………へぇ?よく分かったな」
口調と声色を変えて話す俺。それを見ていた南雲達が目を大きく見開いている。演技力には自信があったんだがなぁ……
「……何故、わかったか教えて貰っても良いか?」
「えっと……雰囲気とかかな?言葉では上手く言えないけど……あ、あとはその人の仕草や癖を変に隠している様に見えて……」
意外と観察眼があるみたいだ。感心しながら、彼女の言葉を聞く。言動が胡散臭いだの、笑顔がキザ過ぎるだの、割と散々な事を言われた。
白崎さんの第六感が発揮され、零斗くんの演技が速攻でバレれました。