Side 零斗
大量の人型の影を倒し、英霊憑依を解除する。その時、突然視界が歪み始め、体に強い倦怠感が襲いかかってきた。
「っと……流石に連続使用には無理があったか……魔力がすっからかんだわ」
「大丈夫なのか?」
「なんとかな……」
そう言って校舎を見ると、既に魔術式は消えており、先程まで溢れ出ていた魔力も魔術式からは感じ取れなくなっていた。
「……間に合わなったみたいだな。全員戦闘態勢を整えろ、常に思考を回転させ続けろじゃないと……死ぬぞ」
そう警告しながら、血狂いを構える。それと同時に、足元から巨大な影が這い出てくる。その影は徐々に形を成していき、やがて巨大な触手の様な何かへと変わった。
「……おいおい、マジかよ」
「こいつ……校舎ごと俺たちを潰す気みたいだな……」
そう言いながら、南雲はドンナー&シュラークを構え、他の皆も各々の武器を手に取る。
「来るぞ……!死にたくなきゃ、全力で抗え!」
俺がそう叫んだ直後、影が動き始めた。迫りくる触手を紙一重で避け、すれ違いざまに血狂いでバラバラに切り刻む。
「チィッ!」
だが、血狂いで切った部分はすぐに再生を始め、元の形に戻ろうとする。
「これじゃ……キリがないな!」
舌打ちをしながら、再生を繰り返す触手を蹴り飛ばす。蹴られた部分が爆発を起こし、肉片が飛び散るが、すぐに新しいものが生えてくる。
『ォォォオオオ……』
声にならない叫びを上げながら、グラグラと揺らめく巨大触手……というか、ほぼ魔神柱だよな、あいつ。
「うーむ……どうしたものか」
正直なところ、あの巨体に物理攻撃は効きにくい。いや、全くと言っていいほど意味が無い。そもそも質量差がありすぎる。
『ァアアア!』
耳元に響く不快な音に眉をひそめつつ、魔神柱擬きを観察する。
(……南雲を集中的に狙っている節があるな……それに白崎に対する動きも拘束して、捕らえる事に重きを置いている……)
つまり、この化け物の目的は白崎の捕獲と南雲の排除ということだろう。そこまで考えて、ある疑問が浮かぶ。
何故、白崎の殺害ではなく捕縛に拘るのか?何故、 奴が南雲に対して執着している?考えれば考える程、謎が増えていく。答えが出ないまま、ただ時間だけが過ぎて行く。
「……今はそんな事を考えていても仕方ないか」
頭を切り替え、魔神柱擬いの観察を続ける。触手を振り回し、薙ぎ払い、叩きつけようとしてくるが、その全てを最小限の動きで避ける。
「さて、弱点とか無いかなっと!」
伸びてきた触手を切り刻み、それを足場に跳躍する。そして、空中で体を捻り、回転を加えながら血狂いを振るい、その勢いのまま本体に斬りかかる。
血狂いから伝わる感触に、手応えを感じられない。やはり、ダメージは無いようだ。着地と同時にバックステップし、距離を取る。
「まぁ、流石に一筋縄じゃ……行かないよな」
血狂いを一振し、刀身に纏わりついた粘液を払う。
「……って、何だあれ」
よく見ると、触手の先端が赤黒く染まっていた。そしてそれは次第に大きくなり、まるで口のような形に変わっていく。
「全員回避しろ!」
咄嵯の判断で、南雲達に向かって叫ぶ。そして、次の瞬間、凄まじい轟音を響かせて、赤黒いレーザーが発射された。
「ゲホッ……全員無事か?」
地面を強く踏みしめ、なんとか直撃は免れたが、完全には避けきれず、少し掠ってしまった。
「あぁ、大丈夫だ」
南雲の声を聞き、ほっとする。だが、安心したのも束の間だった。突如として目の前に現れた触手によって、俺は強く地面に打ち付けられてしまった。
「がっ!?」
一瞬息が出来なくなり、視界がチカつく。何とか起き上がろうとするが、触手がそれを許さない。
「ぐっ……」
何度も触手に打ち付けられる。その度に骨が軋み、激痛に襲われる。
「いい加減に……しやがれ!」
凝血で身体全体を覆う盾を創り出し、それを蹴り飛ばして触手を無理やり引き剥がす。
「使うしかねぇか……」
異空間収納から活性アンプルを取り出し、手の中で転がす。
「マシュ達に怒られるだろうな……」
心做しか、背中が寒い気がするが……気の所為だと思いたい。小さく息を吐き出してから覚悟を決める。
「ッ……あぁ、相変わらず嫌な感覚だな、やっぱ活性アンプルはバカ打ちするもんじゃねぇな……」
取り出したアンプルを首の静脈に打ち込む。全身の細胞が激しく活性化し、視界が大きく広がる様な錯覚に陥る。
「フゥー……」
『ォォォオ……』
魔神柱擬きが、触手をまとめてこちらに向け、一斉に刺突攻撃をしてきた。
「……『オリオン』」
魔神柱擬きの頭上に巨大な魔力で出来た矢が落ちてくる。触手はそれによって串刺しになり、俺まで届くことは無かった。
飛来してきた矢はアルテナ専用に創った魔弓『フラグメント』による物だ。英霊憑依の技能を武器に組み込めないかと思い作成した試験段階の武器だが、それでもかなりの高性能な代物になっている。
「ふむ……並行世界に居ても能力はしっかりと発動するみたいだが……魔力の消費は馬鹿にならないな」
フラグメントの機能として『オリオン』『アルテミス』『ロビンフット』『ケイローン』の能力が付与してある。
『アルテミス』では月の魔力を含んだ超高威力の矢を放つものであり、『オリオン』は『アルテミス』で放った矢を眼前の相手に再度放つものである。
『ロビンフット』は毒による相手の暗殺と妨害工作をメインとし、『ケイローン』は精密な射撃を複数同時に可能となる。
先程の一撃によって触手は全て破壊されてしまい、再生には時間がかかる筈だ。
『ぜ──に──────こ────』
脳内にノイズだらけの声が響く。それと同時に、体の中を虫が這いずるような不快感に襲われる。
「……なるほどねェ……南雲も随分と面倒な奴らの恨みを買ったみたいだな」
思わず苦笑する。白崎が狙われていた理由、白崎に固執している訳、白崎を狙う必要が有る理由は……これだったのか……
(南雲を殺そうとしたのも……全部白崎を手に入れるためか……)
……全く本当に愚かだよ……お前は……思考が怒りに染まっていくのを感じる。冷静さを欠いていると理解しているが、それを止めることが出来ない。
「こっちの世界のお前は改心する事も学ぶ事も……ましてや反省する事すら無いとはな」
白崎の為にここまで出来るのはある意味尊敬するが、同時にその醜さに反吐が出る。
「だから、南雲達に代わって地獄に送ってやるよ……
そう呟いた直後、魔神柱擬きの動きが僅かに鈍くなる。
「全員手を出すな……あれの相手は俺一人でやる」
南雲達の周囲に結界を貼り、魔神柱擬きに視線を戻す。触手を全て失った魔神柱擬きは、俺に対して威嚇するような声を上げながら、攻撃してくる。だが、その動きは明らかに遅くなっている。
「
魔神柱擬き……檜山に向けて、二対の銃が描かれ、ジョーカーと印字されたトランプを見せつけるようにして言う。
「
見せていたトランプをくるくると回す。すると、絵柄が変わり刀身が真っ赤な刀が描かれていた。
『お──もーな──ろーてーる!』
ノイズ混じりの叫びと共に、急速に再生した触手達が迫ってきた。その数、実に三十本以上。それを全て血狂いで斬り刻む。切断面から噴き出る血を浴びながら、刀身の血を払い、構え直す。
「さて、ここからが本番だ」
触手の先端に付いた口が大きく開き、レーザーを発射しようとしてくる。すぐさまその場から離れる。放たれたレーザーは俺が立っていた場所を正確に焼き焦がしていた。
間合いを詰めて触手を切り刻み続ける。切り落とした触手が新たな触手を生み出し、次々と襲い掛かってくる。
「流石に鬱陶しいな……」
背後から迫ってきた触覚を斬り裂いて、そのまま本体の目玉目掛けて血狂いを振り下ろす。
「内側から焼けて死ね」
血濡れた刀身を体内に押し込み、発火させる。耳をつんざくような絶叫が上がるが、構わず燃焼させていく。
「あぁ、やっぱり外殻より中身の方が脆いよなァ!」
『ぎゃあああぁぁぁあ!!!』
魔神柱擬きの悲鳴が響き渡る。それと同時に、脳裏にまたあの不快な音が聞こえてくる。
『殺すゥ!てめぇも南雲も全員殺してやる!!』
憎悪に満ちた声で叫ぶ檜山に嘲笑を向ける。
「あぁ、やってみせてくれよ?まぁ、出来るもんならだけど……な?」
『シネエえェエ!!!』
魔神柱擬きの体表から無数の触手が伸びてくる。それを避けることは容易かったが、あえてそれを避けずに掴み取る。
「さぁ、楽しませてくれよ?」
血塗れの手で触手を掴み、力任せに引き千切る。
「ほら、早く再生しろよ……じゃねぇと殺しちまうぞ……?」
触手を次々に引きちぎり、切り裂き、燃やし尽くす。再生速度よりも速く攻撃し続け、破壊し続ける。
「なんだよ……もう終わりか?」
再生が追いつかなくなったのか、次第に触手の数が減っていき、遂には最後の一本になってしまった。
「結局お前は最後まで与えられた力に頼っているだけの雑魚でしかなかったな……本当に憐れだよ」
呆気なく最後となった触手を切り捨て、魔神柱擬きの眼前に立つ。俺はこいつに同情はしない。自分がしてきた事を棚に上げて、悲劇の主人公ぶっているコイツを許すことは出来ない。
「あばよ、檜山……精々苦しみながら死んでいけ」
懐からカードを取り出し、握り潰す。カードは粉々に砕け散り、そこから一振りの剣と大量の光弾が現れる。
「スペルカード……呪焰『愚者の迦具土』」
目の前で燃える炎の剣を手に取る。剣を頭上に掲げると光弾が魔神柱擬きに向かって行き、その身体を削り取ってゆく。
全ての光弾が着弾したのを確認し、頭上に構えた剣を大きく縦に振るう。その瞬間、周囲の空間に縦一線に歪みが広がる。
「爆ぜろッ……!」
そう呟いた直後、空間の歪みが左右にズレ始める。そして、その裂け目は瞬く間に広がるが、一瞬にして逆再生するかのように閉じる。それと同時に、凄まじい爆発が起きる。
「……ふぅー……」
完全に消し飛んだことを確認し、その場に座り込む。魔力が完全に底を尽き、活性化の効果も無くなっている。
「あー、マジできっついなこれ……」
活性アンプルを使った時の副作用である、全身を襲う倦怠感と痛みに耐えつつ、何とか立ち上がる。
「大丈夫ですか!?」
「おう、なんとか生きてるよ」
八重樫が駆け寄ってきてくれたので、軽く手を上げて無事を伝える。他の連中も、特に目立った怪我をしている様子は無いようだ。
「ったく……こんな面倒なことになるとは思ってなかったな……」
軋む身体に鞭を打ち立ち上がり、八重樫に支えられながら南雲達の所まで歩いていく。
(これでこの微小特異点も切除できたな……直ぐにカルデアに戻ってハジメ達と合流し────)
歩きながら今後の事を考えていた時だった。
「(ドズッ!)──コフッ」
脇腹、胸、左足、右肩に激痛が走る。反射的に自分の身体を見ると、黒く焦げた触手が突き刺さっていた。
「仕留め損ねたか……」
背後を見ると魔神柱擬きの焼け焦げた肉塊からモヤの様な物が溢れ出し、ゆっくりと人型になっていく。
『殺してやる……全員殺してやる!!』
怨念を煮詰めたような声が響く。その声色からは、狂気と殺意が感じ取れる。
「まだ、生きてんのかよ……」
思わず苦笑してしまう。ここまでしぶとい相手は久しぶりだ。
「だがまぁ……ゲームオーバーだ。残念だったな」
そう呟いた直後、俺の背後から大量の斬撃が飛んできて、モヤを切り刻む。
「あら、斬新なイメチェンをしたみたいね?零斗?」
「……前よりもイケメン度増したろ?」
軽口を叩きながら、振り返る。そこには、白銀の刀身をした刀を構え、優しげな表情をし……
「さて、説教をされる覚悟は出来てるわよね?」
「……お手柔らかに頼むよ」
額に青筋を立てた、俺の最愛の人の内の一人……刀華が立っていた。
番外編も終盤に差し掛かって来ました、もう少しだけお付き合いください。