Side 零斗
ニコニコと綺麗な笑顔をしているが、額にはビキビキと青筋を浮かべて仁王立ちをしている刀華。
「……何か弁明はあるかしら?」
「特にはないな」
「そう……なら、歯を食いしばりなさい!」
ドゴンッ!という音と共に、刀華の踵が俺の腹に抉り込む。肺の中の空気が強制的に押し出される。
「ッゲホ!?」
痛みに咳き込みながら腹を抑える。そんな俺の顔をを刀華は引っ掴み、強制的に顔を上げさせられる。
「なんで、貴方はカルデアに通信を送らなかったのかしら?なんで、活性アンプルをバカ打ちしたのかしら?」
笑顔の刀華が怖い。笑顔なのに、目が欠片も笑ってなくて超怖い。刀華の蹴りで痛む腹を抑えながら言葉を発する。
「こ、コラテラル・ダメージってやつだ……」
「は?」
「……何でもないです」
俺の返事を聞いて、刀華は掴んでいた顔を話す。俺は崩れ落ちるようにその場に倒れる。それから少しして、刀華が溜息まじりに言う。
「あの!そろそろ!こっちを手伝って貰えません!?抑えるので精一杯なんですけど!?」
シアが必死に檜山による触手攻撃を防ぎながら、こちらに叫ぶ。シアの近くでは南雲やユエ、ティオ達が全力を尽くして檜山の相手をしている。
「……刀華、援護してやれ」
「言われなくても分かってるわ」
刀華がシア達の方へと駆け出す。それを見送った後、俺はゆっくりと身体を起こす。手をプラプラと振り、身体の動きを確認する。
(……受けた傷は大方治ったが……右腕が動かないな、神経が焼き切れたか……)
チラリと檜山へ目を向ける。檜山は南雲達を嘲るように笑い、その触手を蠢かせている。
「あの……大丈夫ですか?」
「白崎か……まぁ、問題はない」
身体を起こした俺に白崎が心配そうに声をかけてくる。俺の右腕がダラりと力無く下がっているのを見て、少し辛そうな表情をしている。
「腕の事ならお前が心配する事は無い」
「で、でも……」
まだ不安そうな白崎に目を向け、小さく笑う。そして、視線を檜山へと戻す。檜山は触手の猛攻で少しづつ傷が増えていく南雲達を愉快そうに眺めている。
「白崎、少し手伝ってくれ」
「は、はい!」
俺はベルトを右腕に巻き付けて、固く締め付ける。血の巡りが鈍くなったのを確認して、血狂いで右腕を切り落とす。
「な、何をしてるんですか!?」
白崎が驚いたような声を上げる中、俺は落ちた右腕を拾い上げる。そして、拾い上げた右腕に魔力を流し込む。
「血統武器……作成……モデル『刀』」
魔力を流し込んだ右腕が歪に形を変え、やがて一振りの日本刀へと変わる。俺はその出来上がった刀を軽く振るい、具合を確かめる。
「……よし、珍しく成功だな」
刀の刀身は黒く、刃文は赤い。鍔や柄は無く、刀身の刃は剥き出しだ。呆然とこちらを眺めていた白崎は慌てた様子で問いかける。
「な、なんで自分の腕を……」
「ん?あぁ、腕くらいならそのうち生えるから大丈夫だ」
俺の回答に白崎は目を丸くして絶句する。
「まぁ、それは良い……傷塞いで貰えるか?」
白崎にそう声をかけると、ハッとしたように白崎が頷く。白崎は傷口に手を向けると、得意の回復魔法を発動する。徐々に傷が塞がれていき、完全に傷が消える。
「ありがとさん……戦闘の余波に巻き込まれないようにな」
俺はそう言って立ち上がると、檜山に目を向ける。ニヤニヤと楽しそうに南雲達を見下ろす檜山は、まるで俺達など敵として認識していないようだった。
(ん〜……やっぱり、片腕がないとバランスが取りにくいな……)
そんなことを思いながら、檜山に向かって歩き出す。流石に近づいてくる俺に檜山が気づき、ゆっくりと俺に視線を向ける。
「あ?まだ生きてたのか?まぁ、その身体じゃ動くのもやっとだろぉ?大人しくしてたら楽に死なせてやるぜぇ?」
そう言ってケタケタと嗤う。その檜山の様子にシア達が不快そうに表情を顰める。
「寝言は寝てから言えよ、三下が……俺がこの程度で死ぬと本気で思ってんのか?」
「あぁ?」
俺の言葉に、檜山の表情が変わる。額には青筋が浮き、頬がヒクヒクと痙攣している。
「右腕もねぇ!魔力も残ってねぇ!身体は傷だらけのてめぇに何が出来るってンだぁ?!アァ!?」
声を荒げ、叫ぶ。檜山の叫びと同時に、無数の触手が俺に迫る。
俺に向かって伸びる触手、俺はそれを黒刀を軽く振るい斬り伏せる。斬り伏せられた触手が粘液を撒き散らしながら地面に転がる。
「……うーむ、片腕だと動きづらいな」
刀を握った感じがしっくり来ない。やはり、片腕で戦うのは難しいらしい。俺は刀を握り直し、軽くその場で振るう。腕を振る感覚の違いに、少し戸惑いを覚える。
「……うーむ、しょうがないか」
異空間収納から一本の注射器を取りだし、首筋に突き立てる。注射器の中の液体が体内に入り込むと同時に、全身に魔力が駆け巡る。
「さぁ、第二ラウンドだ……」
全身の強化細胞を魔力で強制的に活性化させ、喰種化する。全身は黒い外骨格で覆われ、無くなった筈の右腕もメキメキと音を立てて再生していく。
『むぅ……喰種化は久しぶりで些か勝手が分からんな……』
俺は首を左右に振り、身体の感覚を確かめる。腰からは触手のようなしっぽが生え、俺の背後でユラユラと揺れている。
「な、なんだよ……お前は!」
『私か?私は……化け物さ』
俺は嗤う。嗤いながら、ゆらりゆらりと歩いていく。迫り来る触手を斬り払いながら、歩みを止めない。
『南雲、援護は任せろ……あの下衆野郎に一発くれてやれ』
南雲に向かってそう声をかけると、南雲は一瞬目を見開くが、すぐにニヤリと笑う。刀華が全力で檜山の猛攻を防いでくれていたお陰で、余裕はある。
「あぁ……任せたぜ、化け物」
ニヤリと笑う南雲に、俺は頷きで返す。檜山は触手を斬り払われ、怒りで血走った目で俺を睨みつけている。
「クソがァ……調子に乗ってんじゃねェぞ……このゴミクズがァ!」
檜山はそう叫ぶと同時に、無数の触手を伸ばし始める。触手の先端は槍の穂先のように尖っている。
『遅い』
俺は左手に持った黒刀をクルリと回して逆手に構え、放置していた血狂いを拾い上げ、触手を迎え討つ姿勢を取る。
「死ねェ!!」
触手が殺到する。俺は黒刀と血狂いを巧みに使い、押し寄せる触手を斬り伏せていく。斬り伏せては斬り伏せ、また斬り伏せては斬り伏せる。
『スロー……スロー……クイック……クイック……スロー……』
血狂いを振り、触手を斬り払い、黒刀で受け流し、血狂いで斬る。血狂いを振り上げ、触手を斬り払い、黒刀で受け流す。
俺は淡々と同じ動作を繰り返す。まるで、機械のように、決められた動作を繰り返す。押し寄せる触手は徐々にその数を減らしていく。
『無様なステップだなぁ?』
俺は嘲笑うように檜山を見る。檜山もそれに気づいたのか、歯嚙みする。怒りに染まった表情で、触手の数を更に増やして襲いかかる。
「ガァァァァァァァァァァ!!」
『……単調な思考だな……全く、つまらん』
俺は黒刀を左手に持ち直し、触手に突っ込む。触手を潜り抜け、すれ違いざまに斬り伏せる。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!」
檜山は触手を急速で再生させ、四方八方から触手を放つ。触手が地面を抉り、のたうち回りながら迫ってくる。
『……些か短調するぎな』
向かってくる触手を切り落とそうと、血狂いと黒刀を振るおうとするが……
『……ほぉ?』
背後の地面から触手が出現し、両腕を締め付ける。腕を締め付けられ、動きが一瞬鈍る。その隙を逃すはずもなく、足元からも触手が飛び出し、俺の身体へと絡みつく。
四方八方から触手が俺に絡みつく。ギチギチと音を立てながら、俺の身体を締め上げる。
「どうだァ!抵抗できねぇだろぉ?!」
檜山が勝ちを確信したように叫ぶ。ニヤニヤと笑い、俺へのトドメの一撃のために腕を振り上げる。檜山の腕は血で真っ赤に染まり、筋肉が蠢いている。あの一撃を喰らえば無事では済まないだろう。
「『風刃』!」
「『嵐焔風塵』!」
「ぶっつぶれよ!ですぅ!」
ユエの魔法が迫り来る触手をバラバラに切り刻み、ティオの魔法により触手は灰となり、シアの重撃により俺を拘束していた触手はペシャンコになった。
『すまん、助かった』
「ん、問題なし」
ユエが無表情で首を横に振る。シアとティオがドヤ顔で胸を張っている。檜山は、自身の最大の一撃が邪魔されたことで更に怒りを込めた形相でこちらを睨み付けている。
「邪魔すんじゃねェよ……ゴミクズの分際で、俺を……誰だと思ってやがるゥ?!」
檜山の絶叫に呼応するように、触手達がユラユラと動き出す。檜山は発狂したように顔を歪ませ、叫ぶ。
「お前も!南雲の味方をする連中も!!俺の邪魔をする者は皆死ねばいい!!!」
檜山の叫びと同時に、大量の触手が生み出され、俺達に襲いかかる。だが、襲いかかってきた触手の大半が俺らに到達する前に細切れになった。
「……『断空』」
刀華が自身の刀を納刀しながら、ポツリと呟く。刀華を中心とし、斬撃が半円状に駆け抜ける。斬り飛ばされた触手の破片は地に落ち、グズグズと形を失っていく。
「零斗?わかっているんでしょうね?」
『……なんの事かさっぱりですね』
「カルデアに戻ったら説教半日コースね」
刀華がニッコリとイイ笑顔を浮かべる。その笑顔を見ただけで体が震える。俺がガタガタ震えている間にも、檜山は触手を生み出していく。あっという間に、大量の触手で埋め尽くされる。
「まだだ……全部ぶっ壊して壊して……全部、ぶち殺す!!」
檜山の絶叫と共に、触手が雪崩のように押し寄せる。大量の触手が波のようにうねり、迫り来る。ユエとティオが魔法を放ち、シアが戦鎚で応戦しようとするが、それよりも速く触手が押し寄せる。
『……ふぅー……そろそろ銘柄でも変えるか』
「あら、その銘柄の煙草飽きたの?」
異空間収納から煙草を取り出し、火をつける。檜山の触手が目前まで迫る中、俺は平然と煙草を蒸かす。突然呑気なことをし始めた俺に、ユエ達は訝しげに視線を向ける。檜山は俺が諦めたとでも思ったのか、狂ったように笑っている。
『俺が言った事をもう忘れたのか?』
触手が眼前まで迫る。俺は煙草を咥えたまま、左手で自分の背後を指さす。
『切り札ってのは一枚とは限らないってな!』
背後にはシュラーゲンを構え、纏雷による電磁加速を行おうとしているハジメがいた。
「ッ!?!?!?」
檜山が目を見開き、慌てて止めようと触手を伸ばす。だが、最早遅い。俺は檜山に向かって煙草を投げる。ゆっくりと放物線を描く煙草。ハジメと刀華以外の全ての人間が落下していく煙草に視線を向ける。
『……Jackpot!』
轟音。紅の閃光が檜山に向かっていく。弾丸が俺の真隣を通過する瞬間に、俺は魔術で弾丸を『起源弾』に酷似した物にして飛ばす。
檜山は咄嗟に触手を重ね合わせ、防壁を作る。が、放たれた弾丸は触手を易々と貫き、そのまま檜山の頭に着弾する。
「あっ……ぎ、が……」
着弾と同時に檜山は動かなくなる。ドサリと地面に倒れる檜山の身体は、あちこちが黒く炭化している。
『いぇーい、零斗さん大勝利〜』
両手でピースしながら、俺はユエ達に向けて言う。刀華とティオは呆れたようにため息を吐き、シアとユエ、白崎、八重樫は信じられないものを見たかのように呆然としていた。
「……何してんだよ、お前は……」
南雲が気疲れしたサラリーマンの様な表情でこちらを見ていた。その声色は疲れ切っており、若干の呆れが含まれていた。
ブルートゥのセリフが頭から離れなくてコーラルキメないと眠れんねぇんだ()