Side 零斗
「……何してんだよ、お前は……」
檜山を地獄にクーリングオフする事に成功し、喜んでいた俺に呆れ顔の南雲が話し掛けてきた。
『……勝鬨?』
「なんで疑問形なんだよ……」
俺が振り返りながらそう言うと、南雲は溜息を吐いた。そして、檜山の残骸に目を向ける……
「今度こそ死んだよな?」
『恐らくな……死亡確認くらいはするか』
俺はそう言って檜山の死体に近ずき、目の前でしゃがみこんで死体の首元に手を当てる。
(心臓の鼓動も魔力の循環が行われてる様子は無い……)
それを確認した俺は立ち上がり、檜山の頭部に銃弾を撃ち込む。銃弾を受けた檜山の頭部は原型を留めないほど吹き飛び、首の断面から血を吹き出させた。
「零斗、やり過ぎよ」
『ん?そうか?この位やらなきゃ駄目じゃないか?中途半端になって復活されたら面倒だろ?』
刀華が隣にやって来たので、そう返す。魔神柱擬きを殺った時の様に復活されても困るし、頭を潰しておけば復活する事も無いだろう。
「まあ、一理あるわね……」
少し考えた刀華は、諦めた様に溜息を吐いた。
「と言うか、元の姿に戻らないの?」
『そうだな、戦闘も終わったし……つと、やっぱり久しぶりの喰種化は堪えるねぇ……」
そう言いながら、俺はぐーっと背を伸ばす。そして、人の姿に戻る。戻ると、斬り落とした筈の右腕が生えていた、それと同時に全身に酷い疲労感が一気に押し寄せてくる、やっぱり喰種化の長時間維持は控えた方が良さそうだな……
「さて……あとは聖杯の回収だけだな」
俺はそう言って立ち上がり、再び檜山の死体の目の前に移動する。そして、死体の心臓のある辺りに手を当てる。
「んー、この辺りか?」
俺はそう言いながら、自身の右手をズブズブと檜山の体内に沈めて行く。右手の指先が心臓に触れた事を確認した俺は、右手に魔力を纏わせながら心臓の周囲を捜索する。
(やっぱ、この妙な感触は慣れないな……)
俺はそう思いながらも、檜山の体内に潜らせていた右手に何か硬いものに触れた感じを覚える。俺はそれを掴み取る。
「聖杯、発見」
右手を引き抜くと、俺の右手の中には黄金に輝く杯……『聖杯』があった。聖杯を抜き取られた檜山の身体はボロボロと崩れていき、やがて灰になって消滅した。
「これで目標は達成出来たわね」
「あぁ……そうだな」
俺はそう刀華とやり取りを交わし、南雲達の方に視線を向ける。
「あ、あはは……なんだか凄い光景だね……」
「何と言うか……『地獄絵図』だな」
白崎と南雲が若干引きつった表情で聖杯を回収する俺を見つめている。俺は聖杯を異空間収納にしまいつつ南雲達に近ずいていく。
「いや〜、助かったぜ南雲。お前達のお陰でかなり楽に聖杯の回収が出来たぜ」
俺はそう言って南雲の肩をバシバシと叩きながら笑みを浮かべる。南雲は笑みを浮かべているが若干頬が引きつっている。
「あの……右腕大丈夫……なんですか?」
白崎が恐る恐る俺の右腕を指差して尋ねてくる。他の皆も気になるのか、俺の方に視線を向けている。
「ん?あぁ、大丈夫大丈夫。それにさっき言ったろ?ほっときゃ生えてくるってよ」
「い、言ってましたけど……」
俺の言葉を聞いても、白崎は納得いかなそうな表情を浮かべている。まあ、普通の人間からすれば、普通じゃ無いからな。
「まぁ、そんなに気負い過ぎるなよ……大した事じゃねぇからさ」
俺はそう言って、右腕を軽く振るって正常に動く事を証明してみせる。それを見た白崎は、ホッと胸をなで下ろしていた。
「とりあえずはここを離れようぜ……そろそろ騒ぎを聞きつけた連中が来ちまう」
俺がそう言うと、南雲達は周りを見渡して頷く。この惨状の後のに警察や軍隊が来たら面倒だからな、さっさと離れるのが一番だ。
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全員で南雲宅に移動し、やって来た魔王課の服部に現場の対応を丸投げしてから南雲達と向き合う。
「さて……何から聞きたい?」
俺は向かい合う南雲達に尋ねる。最初に声を上げたのは白崎だった。
「あの……貴方は……人間じゃ無いの?」
白崎は恐る恐るといった様子で俺に尋ねる。それに対して南雲が訝しげな視線を向けている。
「人間だ。ある一点を除けば……な」
白崎の言葉に、俺はニヤリと笑みを浮かべながら答える。それに対し、白崎達は戸惑っている。
「そ、その『ある一点』ってどういう事なんです?」
白崎の隣から、シアが不思議そうな表情を浮かべてそう尋ねてくる。俺は頰を掻きながら答える。
「なんと言うか……身体の外側だけが人間と変わりないだけで、内側は全く別物……って感じだ」
その俺の言葉に、シアだけでなく南雲達……いや、部屋にいる全員が理解できないと言った様子で首を傾げる。
「檜山を殺した時に見せた姿あるだろ?あれが関係してるんだよ」
南雲達は俺の言葉に頷く。それを見てから、俺は言葉を続ける。
「俺……まぁ、隣にいる刀華もそうなんだが……俺達の身体はかなり特殊でな、身体を構成する細胞が変異し、独自の進化を遂げている」
俺はそう説明しながら、右腕だけを喰種化させる。右腕全体は黒い外骨格に覆われ、指先は鋭く尖っている。
「俺のはこんな感じだが……刀華」
「はいはい……」
隣の刀華も同じ様に右腕だけを喰種化させる。刀華の右腕は透き通るような白色の外骨格に覆われ、指先から腕全体に掛けて青いラインの様な模様が出ている。
「どうよ、俺達の右腕は?」
「綺麗……ですね……」
俺が尋ねるのに対し、シアが興味深げに呟く。そんなシアの様子を見て、刀華はクスリと笑みをこぼしながら白崎達に視線を戻す。
「私達が今見せているのは喰種化……さっき言った変異、進化した細胞を活性化させて、体外に放出、それを全身に纏う……そうすると、今みたいな感じで姿が変わるのよ」
刀華はそう言いつつ、喰種化を解いて右腕を元に戻す。南雲達も納得したように頷いている。それに対して俺は言葉を続ける。
「実は他にもまだ特徴があってな……」
「まだ何かあるのか?」
南雲が疑いの視線を向けてくる、それに対し俺は苦笑して答える。
「一人一人で強化細胞の性質が全く別物になっててな……刀華が割と分かりやすくてな、自分の周囲5mの原子の操作だ」
俺はそこで言葉を切る、そして刀華に視線を向ける。俺の視線を受けた刀華は右手の掌を南雲の方に向ける。向けられた掌からは何の前触れも無く小さな火が現れる。
「こんな感じよ……なかなか面白いでしょ?」
刀華はそう言うと掌から炎を消して俺に視線を向けてくる。そして次にシアの方を向く。刀華と南雲の視線がシアのウサミミに向かう。その視線を受けたシアが困惑した表情を浮かべている。
「……えいっ」
南雲達が困惑する中、刀華がそう言いながら指パッチンをする。すると、シアのウサミミが爆発するみたいに毛が逆立った。
「きゅ、急になんですか!?」
シアは涙目になりながら、自分のウサミミを押さえる。指の隙間から覗いているが、確かに毛が逆立っているのが見える。
「……悪戯が過ぎるぞ、刀華」
「ごめんごめん、反応が可愛くて」
俺がジト目を向けると、刀華は舌を出して軽く謝罪する。まあ、シアの様子からして本気で怒っている様子はなさそうだった。
「まぁ、こんな感じだ。他にも自分の意識を電脳空間に移すことが出来る奴とか触れた対象の体組織を腐食させる奴とか……バリエーション豊かだろ?」
俺の言葉を聞いて、南雲を除いたメンバー達は引きつった表情を浮かべていた。
「それで?お前の能力は何なんだ?」
南雲が若干呆れた様な表情で俺に尋ねてくる。その問いに対し、俺は笑みを浮かべながら答える。
「俺の能力は『自己改造』と『分解と変換』だ」
俺の言葉に、白崎達の頭にはハテナマークが浮かんでいる。南雲は考える様な表情を浮かべている。
「……簡単に言えば、自分の身体を好きな様に弄って、より強い身体に出来るって事だ。例えば宇宙空間でも呼吸が出来る様になったりとかな」
それを聞いた白崎達は驚愕の表情を浮かべる。どうやら俺の話は理解出来たみたいだな。
「もう一つの能力は……触れたものを『分解』して、別の物質もしくは物体に『変換』する……さっき見たみたいに血肉から抜き身の刃に変えたりできる」
俺の説明を聞き終えた白崎達は微妙な表情を浮かべている。まあ、化け物二人が目の前にいるんだし……仕方ないと言えば仕方ない。
「詳しく説明するとクソ長くなるし、理解困難なレベルになるから、『便利な身体になれる』、『めっちゃ便利な錬成』くらいの認識で良い」
俺は苦笑いをしながら、白崎達に言う。南雲は何処か納得していないようだったが、適当に流しておく。
「んで?聞きたい事は終わりか?」
俺は少し軽い口調で尋ねる。南雲の背後で天之河が手を挙げて口を開く。
「えっと……そっちの……俺ってどんな感じ……ですか?」
「ん?クズ」
俺の即答に、天之河はグサッと効果音が出そうな程ダメージを受けていた。まあ、事実だし……それを見て、南雲や白崎達も苦笑いを浮かべている。
「独り善がりな正義を振りかざして、四歳児みたいに癇癪を起こしては周りに迷惑かけて、それを『正しい事』つって正当化しようとする様なカスだ」
俺の説明を聞いて、天之河は更にダメージを受けてグロッキー状態だ。
「……私の知ってる天之河とは違って真人間なのね……」
隣で見ていた刀華が口を開く。その様子は、信じられないものを見るような目をしている。まあ、俺らの知ってる天之河とは全くの別人レベルのまともな人間性してるしな……
「……一ついいか?」
俺が項垂れている天之河を見ながらケラケラと笑っていると南雲が真剣な面持ちで言葉を投げ掛けてきた。
「……なんで、檜山のやつは蘇ったんだ?それになんでお前がこっちの世界に?」
南雲はそう言うと俺を見つめてきた。白崎達も俺に視線を向ける。その視線には敵意と疑念が混ざっている。
「そうだな……トータスでお前が殺した連中の恨み、嫉妬、憤怒なんかが溜まりに溜まった結果、死霊になった。その中でも特に恨みの強かった檜山が矢面に立たんだろな」
俺の言葉に白崎達が息を吞んだ。それを横目に見ながら俺は話を続ける。
「俺がこっちに来たのは……多分だが、檜山に呼ばれたんだろうな。推測でしか無いが、あいつはお前を殺せるだけの力か存在を欲した……そして、何処からか入手した聖杯の力で俺が呼び出された……こんな感じなんじゃないか?」
俺の推測を、南雲は黙って聞いている。俺の話に周りのメンバーも納得した様な表情を浮かべている。俺は一呼吸置いてから言葉を続ける。
「まぁ、全部推測でしかないから正しいのかは分からんがな」
俺はそう言いながら、懐から煙草を取り出し、口に咥える。火をつけようとライターを手に取るが、南雲の背後にいるユエやシア、園部……複数名がすこし嫌そうな顔をしたので煙草をしまう。
「……吸わないのか?」
「煙草が嫌いな奴の前では吸わない様にしてるんでね」
南雲が意外そうな表情を浮かべながら尋ねて来たのでそう返す。それを聞いて南雲は呆れたように肩をすくめる。
「さてと、随分と長居しちまったな」
ちらりと右腕を見ると、薄っすらと消え始めており、感覚が徐々に無くなっていく。
「えぇ!?な?!えぇ??」
白崎達が慌てながら、俺の腕や俺の顔に視線を彷徨わせる。俺はそんな彼女達を見ながら小さく笑いながら口を開く。
「そんな驚く事じゃねぇよ、ただ元の世界に帰る時間が来たってだけだ」
俺はそう言って、自分の右腕に視線を向ける。その瞬間、俺の上半身が半透明になり始める。隣にいる刀華の身体も半透明になり始めている。
「短い間だったが、楽しかったぜ」
俺はそう言うと、刀華と一緒に南雲達に軽く手を振る。それと同時に、俺と刀華の体は霊子に変換され、意識が遠くなっていく。
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「……ん…………戻ってきたのか」
いつも通りのレムレムトリップが終わり、意識が戻るとマイルームのベッドの上だった。枕元には聖杯と右腕で製作した黒刀が転がっている。
「とりあえずはダ・ヴィンチちゃんに報告だな……」
俺はベッドから起き上がり、聖杯を持って工房へと向かう。
「ダ・ヴィンチちゃん、いるか?」
俺はノックをしてから工房の扉をゆっくりと開ける。部屋の中に入ると、コーヒーメーカーでコーヒーを淹れているダ・ヴィンチちゃんが目に入る。
「やぁ、お帰りマスター君……無事に聖杯を回収したみたいだね」
俺が工房に入って来ると、ダ・ヴィンチちゃんはコーヒーが注がれたカップを手渡してくれた。
「あぁ、何とかな……」
コーヒーを一口飲む。甘過ぎず苦過ぎず、程よい味のコーヒーが身体に染み渡る。聖杯をデスクの上に置いていた俺は、ダ・ヴィンチちゃんに今回の出来事を簡単に説明する。
「──ーと、まぁこんな感じだ。後でレポートにして纏めておく」
俺はそれだけ言い、カップに残ったコーヒーを一気に飲み干して、ダ・ヴィンチちゃんにコーヒーのお礼を言ってから工房を後にする。
「やる事は……ラピスの尋問とレポートの作成、後は……創った刀の精錬もしなかきゃ……」
やる事の多さに苦笑いしながら、俺はマイルームへと歩いて行く。
一応、これで幕間は最後になります。